Eulerの多面体定理(高校数学)

同義語:Eulerの多面体公式(高校数学)Euler's polyhedron formula (high school mathematics)

概要

Eulerの多面体定理(高校数学)は、凸多面体の頂点の数 $V$、辺の数 $E$、面の数 $F$ について $V-E+F=2$ が成り立つという定理を、高校生が追えるように証明する記事である。1 枚の面を窓にして多面体を平面の網に広げ、閉じた道の上の辺を 1 本ずつ消す帰納法で、平面の網では $V-E$ に内側の領域の数を足すと $1$ になることを示す。辺の途中に点を加える・面に対角線を引くといった細分では $V-E+F$(Euler 標数)が変わらない。応用として、面が五角形と六角形だけで各頂点に 3 枚の面が集まる凸多面体の五角形はちょうど 12 枚である。額縁の形の多面体では $0$、穴のあいた面をもつ立体や頂点を共有する 2 つの四面体では $3$、中が空洞の立方体では $4$ になり、定義の見直しが必要になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多面体, グラフ, 数学的帰納法

高校での出発点:頂点・辺・面を数える

立方体には頂点が 8 個、辺が 12 本、面が 6 枚ある。頂点の数を $V$、辺の数を $E$、面の数を $F$ と書くと、$V-E+F=8-12+6=2$ である。ほかの立体でも同じ計算をしてみる。

身近な立体の頂点・辺・面
立体$V$$E$$F$$V-E+F$
三角錐(四面体)$4$$6$$4$$2$
四角錐$5$$8$$5$$2$
三角柱$6$$9$$5$$2$
立方体$8$$12$$6$$2$
五角柱$10$$15$$7$$2$
正八面体$6$$12$$8$$2$

たとえば五角柱では、頂点は上の五角形に 5 個と下に 5 個で $V=10$、辺は上の 5 本・下の 5 本・縦の 5 本で $E=15$、面は上下の 2 枚と側面の長方形 5 枚で $F=7$ である。$10-15+7=2$ となる。

面の数が多い立体では、1 つずつ数える代わりに、同じものを 2 通りに数えるとよい(数え上げの基本は 場合の数の数え方の体系 で扱う)。

サッカーボールの形

サッカーボールの形(切頂二十面体)は、正五角形 12 枚と正六角形 20 枚でできていて、どの頂点にも 3 枚の面が集まる。

  1. 面の数:$F=12+20=32$。
  2. 辺の数:面ごとに辺を数えると $5\cdot12+6\cdot20=60+120=180$ 本になる。どの辺もちょうど 2 枚の面に共有されるので、各辺を 2 回ずつ数えている。よって $E=\frac{180}2=90$。
  3. 頂点の数:面ごとに頂点を数えても $180$ 個になる。どの頂点も 3 枚の面に共有されるので、$V=\frac{180}3=60$。
    $V-E+F=60-90+32=2$ である。

どの例でも $V-E+F=2$ になった。ところが、次のような立体では $2$ にならない。

額縁の形の立体

正方形の板の中央を正方形にくり抜いた「額縁」の形の立体を考える(図3 の左)。上の面は穴のあいた形なので、そのままでは多角形ではない。そこで、外側の正方形と内側の正方形の対応する頂点を結んで、上の面を台形 4 枚に分ける。下の面も同じにする。

  1. 頂点:外側の正方形の頂点が上下で $8$ 個、内側が上下で $8$ 個、$V=16$。
  2. 面:上の台形 $4$ 枚、下の台形 $4$ 枚、外側の側面 $4$ 枚、内側(穴の壁)の側面 $4$ 枚で、$F=16$。
  3. 辺:上の面に外側の正方形の $4$ 本、内側の $4$ 本、結ぶ $4$ 本で $12$ 本。下も $12$ 本。縦の辺が外側 $4$ 本・内側 $4$ 本で $8$ 本。$E=32$。
    $V-E+F=16-32+16=0$ である。

この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. なぜ $V-E+F$ はいつも $2$ になるのか。どんな立体なら $2$ なのか。→ thm-eup-main
  2. 面に対角線を引くなど、数え方を細かくしても $V-E+F$ が変わらないのはなぜか。→ prop-eup-subdivision
  3. 額縁のような立体で $2$ にならないのはなぜか。→ 「例と反例」の節の表
  4. この等式で何が分かるか。→ cor-eup-pentagons
    高校の計算この記事での見方ボックス
    頂点・辺・面を数える$V-E+F$(Euler 標数)def-eup-euler-char
    面に対角線を引いても $V-E+F$ は同じ細分で変わらない量prop-eup-subdivision
    立体を平面に広げる平面の網と、辺を消す帰納法prop-eup-plane
    額縁では $0$ になる穴の数で決まる量(大学:位相不変量)ex-eup-frame

多面体と V − E + F

多面体

この記事では、多面体を次のように定める。

この記事での多面体

有限個の多角形(面)をはり合わせてできる立体の表面で、次を満たすものを 多面体 という。

  1. 面は、穴のない(周が 1 本の折れ線でできた)平らな多角形である。
  2. 2 枚の面は、1 本の辺全体を共有するか、1 つの頂点だけを共有するか、共有点をもたないかのどれかである。
  3. どの辺も、ちょうど 2 枚の面に共有される。
  4. どの頂点についても、その頂点を含む面は、頂点のまわりに 1 つの輪のように並ぶ(隣り合う面どうしは、その頂点から出る辺を共有する)。
  5. 表面はひとつながりである。つまり、どの 2 つの頂点も、辺をたどって行き来できる。
    面の辺を多面体の 辺、面の頂点を多面体の 頂点 という。多面体を囲まれた立体とみて、その中の 2 点を結ぶ線分がいつも立体に含まれるとき、凸多面体 という。

ex-eup-count の立体はすべて凸多面体である。額縁(ex-eup-frame-teaser)も、上下の面を台形に分ければこの定義を満たす多面体だが、凸ではない。

Euler 標数

多面体の頂点の数を $V$、辺の数を $E$、面の数を $F$ とするとき
$$ \chi:=V-E+F $$
をその多面体の Euler 標数 という($\chi$ はギリシャ文字「カイ」)。

Euler 標数の計算
  1. 正四面体:$4-6+4=2$。正十二面体(正五角形 12 枚、各頂点に 3 枚):$F=12$、$E=\frac{5\cdot12}2=30$、$V=\frac{5\cdot12}3=20$ で、$20-30+12=2$。
  2. 額縁(ex-eup-frame-teaser):$\chi=0$。

細かく分けても変わらない

同じ立体でも、面に線を引いて分けると $V$、$E$、$F$ は変わる。しかし $V-E+F$ は変わらない。

細分しても Euler 標数は変わらない

多面体に次のどちらかの操作をしても、$V-E+F$ は変わらない。

  1. 辺の途中に頂点を 1 つ加え、その辺を 2 本に分ける。
  2. 1 枚の面の、隣り合わない 2 つの頂点を面の中の線分(対角線)で結び、その面を 2 枚に分ける。
増える数を数える

方針:それぞれの操作で $V$、$E$、$F$ がいくつ増えるかを数え、増える分の $V-E+F$ が $0$ であることを確かめる。
段 1(操作 1)。頂点が 1 つ増える。辺は 1 本が 2 本に分かれるので 1 本増える。面の枚数は変わらない(その辺をもつ 2 枚の面は、辺の数が 1 つ多い多角形になるだけである)。増える分は $1-1+0=0$ である。
段 2(操作 2)。頂点は増えない。辺は対角線の 1 本が増える。面は 1 枚が 2 枚に分かれるので 1 枚増える。増える分は $0-1+1=0$ である。
どちらの場合も $V-E+F$ は変わらない。$\square$

立方体を細かく分ける
  1. 立方体の 6 枚の面すべてに対角線を 1 本ずつ引くと、$V=8$、$E=12+6=18$、$F=6\cdot2=12$ で、$8-18+12=2$。
  2. 立方体の 1 本の辺の中点を頂点に加えると、$V=9$、$E=13$、$F=6$ で、$9-13+6=2$。
  3. 立方体の 1 枚の面の中心に頂点を加え、その面の 4 つの頂点と結ぶ(面が三角形 4 枚になる)。これは、対角線を 1 本引き(操作 2)、その中点を頂点に加え(操作 1)、中点から残りの 2 頂点へ線を引く(操作 2 を 2 回)ことと同じで、$V$ が $1$、$E$ が $4$、$F$ が $3$ 増える。増える分は $1-4+3=0$ で、$9-16+9=2$ である。

$V-E+F$ は「どう細かく数えたか」によらず、立体の「形」だけで決まる数ではないか、という見通しが立つ。この見通しを大学の言葉で述べたのが、後の「大学数学で見ると」の節である。

平面の網で数える

立体のままでは数えにくいので、平面に広げた図で考える。ここでは平面の図についての定理を証明し、次の節で多面体に戻る。

平面の網と木

平面の網

平面上の有限個の点(頂点)と、2 つの頂点を結ぶ有限個の線分(辺)の組で、次を満たすものを 平面の網 という。

  1. 2 本の辺は、端の頂点以外で交わらない。辺の途中に頂点はない。
  2. ひとつながりである。つまり、どの 2 つの頂点も、辺をたどって行き来できる。
    平面から網(頂点と辺)を取り除くと、平面はいくつかの部分(領域)に分かれる。そのうち、網に囲まれて有界なもの(外へ無限に広がらないもの)を 内側の領域 と呼び、その個数を $F_{\mathrm{in}}$ と書く。

平面の網は、頂点と辺でできた グラフ を、辺が交わらないように平面にかいたもの(平面グラフ)である。1 周して出発点に戻る道も使う。相異なる頂点 $u_1,\dots,u_k$($k\ge3$)で、$u_1u_2,\ u_2u_3,\ \dots,\ u_{k-1}u_k,\ u_ku_1$ がすべて辺であるものを 閉じた道 という。閉じた道をもたない平面の網を 木 という。

平面の網の例
  1. 三角形 $ABC$ の内部に点 $P$ をとり、$P$ を $A,B,C$ と結ぶ。$V=4$、$E=3+3=6$、内側の領域は三角形 $PAB$、$PBC$、$PCA$ の $3$ 個である。$V-E+F_{\mathrm{in}}=4-6+3=1$。
  2. 4 つの頂点を一直線に並べ、隣どうしを結ぶ(木)。$V=4$、$E=3$、内側の領域はなく $F_{\mathrm{in}}=0$。$V-E+F_{\mathrm{in}}=4-3+0=1$。
  3. 立方体を平らに広げた図1 の右の網では、$V=8$、$E=12$、$F_{\mathrm{in}}=5$ で、$8-12+5=1$。

図1:立方体(左)と、上の面を外して平らに広げた網(右)。外した上の面が網の外側になり、残りの 5 枚の面が内側の領域になることを見る図。 図1:立方体(左)と、上の面を外して平らに広げた網(右)。外した上の面が網の外側になり、残りの 5 枚の面が内側の領域になることを見る図。
どの例でも $V-E+F_{\mathrm{in}}=1$ になっている。これを証明するために、まず木の辺の数を数える。

木の辺の数

頂点が $V$ 個の木の辺の数は $V-1$ である。

端の頂点を 1 つずつ取り除く

方針:$V$ についての数学的帰納法で示す。木には、辺が 1 本だけ出ている頂点(葉)があるので、それを取り除いて頂点の少ない木に帰着する。
段 1($V=1$)。頂点が 1 つだけなら辺はなく、$E=0=V-1$ である。
段 2(葉があること)。$V\ge2$ とする。ひとつながりなので辺が少なくとも 1 本ある。同じ頂点を 2 度通らない道 $u_0u_1\cdots u_m$($m\ge1$)のうち、辺の数 $m$ が最大のものをとる(頂点は有限個なので、そのような道は有限個しかなく、最大のものがある)。$u_0$ から $u_1$ 以外の頂点 $w$ へ辺が出ているとする。$w$ が道の上の頂点 $u_i$($i\ge2$)なら、$u_0u_1\cdots u_i$ は閉じた道になり、木であることに反する。$w$ が道の上にないなら、$wu_0u_1\cdots u_m$ は辺が $m+1$ 本の道になり、$m$ の最大性に反する。よって $u_0$ から出る辺は $u_0u_1$ だけで、$u_0$ は葉である。
段 3(葉を取り除く)。葉 $u_0$ と辺 $u_0u_1$ を取り除いた網を考える。閉じた道は増えないので、閉じた道はない。ひとつながりのままである。実際、残りの 2 頂点の間を辺をたどって行き来するとき、途中で $u_0$ を通るとする。$u_0$ から出る辺は $u_0u_1$ だけなので、$u_0$ の直前と直後はどちらも $u_1$ である。この $u_1\to u_0\to u_1$ という行って戻る遠回りの部分を除いても、たどり方はつながったままである。こうした部分をすべて除けば、$u_0$ を通らずに同じ 2 頂点を行き来できる。よって残りは頂点 $V-1$ 個の木である。
段 4(帰納法)。頂点 $V-1$ 個の木の辺が $V-2$ 本であると仮定すると、もとの木の辺は $(V-2)+1=V-1$ 本である。$\square$

辺を 1 本ずつ消す

平面の網の証明では、平面の図形についての次の 2 つの事実を使う。

平面の図形について使う事実

次の 2 つは直観的に納得しやすいが、きちんとした証明には、自分と交わらない折れ線が平面を内側と外側に分けること(多角形の Jordan 曲線定理、多角形のJordan曲線定理)が要るので、本記事では証明しない(Lev24 §2.3.2 の説明も、この 2 つを暗に使っている。たとえば、閉じた道をつくる辺を足すと面が 1 つ増える、とする部分である)。

  1. 閉じた道の上の辺 $e$ の両側は、閉じた道の内側と外側なので、別々の領域である。$e$ を取り除くと、その 2 つの領域が 1 つにつながり、ほかの領域は変わらない。
  2. 木は平面を分けない。つまり、木の内側の領域の数は $0$ である。
平面の網の数え方

平面の網の頂点の数を $V$、辺の数を $E$、内側の領域の数を $F_{\mathrm{in}}$ とすると
$$ V-E+F_{\mathrm{in}}=1 $$
である。

閉じた道の上の辺を消す帰納法

方針:辺の数 $E$ についての帰納法で示す。閉じた道があれば、その上の辺を 1 本消すと、辺と内側の領域が 1 つずつ減り、$V-E+F_{\mathrm{in}}$ は変わらない。閉じた道がなくなれば木なので、lem-eup-tree で計算できる。
段 1(閉じた道がない場合)。網は木である。lem-eup-tree により $E=V-1$、rem-eup-plane-facts の 2 により $F_{\mathrm{in}}=0$ なので、$V-E+F_{\mathrm{in}}=V-(V-1)+0=1$ である。辺が $0$ 本の網(頂点 1 つ)もこの場合に入る。
段 2(閉じた道がある場合、消した後もひとつながり)。閉じた道の上の辺 $e=uv$ を 1 本選び、取り除く。残りの網でも、閉じた道の残りの部分をたどれば $u$ から $v$ へ行ける。もとの網で $e$ を通っていた道は、$e$ の代わりにこの回り道を通ればよいので、残りの網もひとつながりである。頂点は変わらないので、残りは頂点 $V$ 個、辺 $E-1$ 本の平面の網である。
段 3(内側の領域は 1 つ減る)。rem-eup-plane-facts の 1 により、$e$ の両側の 2 つの領域が 1 つにつながり、ほかは変わらない。2 つのうち少なくとも一方は閉じた道の内側にあるので、内側の領域である。両方が内側の領域なら、つながった領域も内側の領域で、個数は $2$ から $1$ に減る。一方が外側(有界でない領域)なら、つながった領域は外側で、内側の領域が $1$ つ減る。どちらでも、内側の領域の数は $F_{\mathrm{in}}-1$ になる。
段 4(帰納法)。辺が $E-1$ 本の平面の網ではこの命題が成り立つと仮定する。段 2・段 3 から、残りの網について $V-(E-1)+(F_{\mathrm{in}}-1)=1$ である。左辺は $V-E+F_{\mathrm{in}}$ に等しいので、もとの網でも $V-E+F_{\mathrm{in}}=1$ である。
段 1 は $E=0$ を含み、段 2〜段 4 は辺の少ない網に帰着するので、すべての平面の網で成り立つ。$\square$

この帰納法は、「辺の数が最小の反例をとると、辺を 1 本消した網は反例でないので矛盾する」と言い換えることもできる。帰納法と「最小の反例」が同じことであるのは、数学的帰納法と整列性 で扱う。
図2:立方体の網から、閉じた道の上の辺(赤)を 1 本ずつ消していく様子。各段の見出しは、赤い辺を消す前の辺の数と内側の領域の数。辺と内側の領域が 1 つずつ減り、!FORMULA[204][-123321746][0] が保たれ、最後は木(閉じた道がない網)になることを見る図。 図2:立方体の網から、閉じた道の上の辺(赤)を 1 本ずつ消していく様子。各段の見出しは、赤い辺を消す前の辺の数と内側の領域の数。辺と内側の領域が 1 つずつ減り、$V-E+F_{\mathrm{in}}=1$ が保たれ、最後は木(閉じた道がない網)になることを見る図。

立方体の網で辺を消す

図1 の網($V=8$、$E=12$、$F_{\mathrm{in}}=5$)から、内側の正方形の 4 本の辺と、外側の正方形の 1 本の辺を、この順に消す(図2)。どの辺も、消す時点で閉じた道の上にある。$(E,F_{\mathrm{in}})$ は
$$ (12,5)\to(11,4)\to(10,3)\to(9,2)\to(8,1)\to(7,0) $$
と変わり、どの段でも $8-E+F_{\mathrm{in}}=1$ である。最後の網は辺 $7$ 本の木で、lem-eup-tree の $E=V-1=7$ と合う。

主定理:凸多面体では V − E + F = 2

凸多面体を平面の網に直すには、次の事実を使う。

凸多面体を平らに広げる

凸多面体の 1 枚の面 $f_0$ を選び、$f_0$ の中心のすぐ外側の点から多面体をのぞきこむ。$f_0$ を窓にして、ほかの頂点と辺を $f_0$ をふくむ平面に写す(のぞく点から見た影を描く)と、辺は交わらない線分として $f_0$ の中に写り、平面の網ができる。網の外周は $f_0$ の周で、$f_0$ 以外の $F-1$ 枚の面は、網の内側の領域 $F-1$ 個にそれぞれ写る(図1)。この図を Schlegel 図 という。凸多面体でこのような図が描けることは、本記事では証明しない(Lev24 §2.3.4 に、球面に写してから平面に広げる同じ考え方の説明がある)。

凸多面体の Euler の定理

凸多面体の頂点の数を $V$、辺の数を $E$、面の数を $F$ とすると
$$ V-E+F=2 $$
である。

1 枚の面を外して平面の網にする

方針:1 枚の面を窓にして平らに広げ、prop-eup-plane を使う。外した面の 1 枚が、$2$ と $1$ の差になる。
段 1(平面の網を作る)。rem-eup-schlegel により、頂点 $V$ 個、辺 $E$ 本、内側の領域 $F-1$ 個の平面の図ができる。
段 2(平面の網であること)。辺は端の頂点以外で交わらない(rem-eup-schlegel)。多面体の表面はひとつながりである(def-eup-polyhedron の 5)。多面体で辺をたどれる 2 頂点は、写した図でも同じ辺をたどれるので、図もひとつながりである。よって def-eup-net の平面の網である。
段 3(数える)。prop-eup-plane により $V-E+(F-1)=1$ である。両辺に $1$ を足して $V-E+F=2$ を得る。$\square$

prf-thm-eup-main で凸性を使ったのは段 1 だけである。つまり、平らに広げた網が描ける多面体なら、凸でなくても $V-E+F=2$ になる(ex-eup-nonconvex)。

各頂点に 3 本の辺が集まる多面体

どの頂点からも辺がちょうど 3 本出ている凸多面体では、辺の両端を数えると $3V=2E$ である(各辺は両端の 2 つの頂点で 1 回ずつ数えられる)。thm-eup-main から
$$ F=2-V+E=2-\frac{2E}3+E=2+\frac E3 $$
となる。立方体($E=12$)では $F=2+4=6$、三角柱($E=9$)では $F=2+3=5$、正十二面体($E=30$)では $F=2+10=12$ で、どれも正しい。

主定理から、面の形についての意外な制限が出てくる。

五角形は 12 枚

凸多面体の面がすべて五角形か六角形で、どの頂点にもちょうど 3 枚の面が集まるとする。このとき五角形の面はちょうど 12 枚である。六角形の枚数はこの条件だけでは決まらない。

2 通りに数えて Euler の定理に入れる

方針:面の数・辺の数・頂点の数を、五角形の枚数 $p$ と六角形の枚数 $h$ で表し、thm-eup-main に代入する。
段 1(面)。$F=p+h$ である。
段 2(辺)。面ごとに辺を数えると $5p+6h$ 本になる。各辺はちょうど 2 枚の面に共有されるので(def-eup-polyhedron の 3)、$2E=5p+6h$ である。
段 3(頂点)。面ごとに頂点を数えると $5p+6h$ 個になる。各頂点はちょうど 3 枚の面に共有されるので、$3V=5p+6h$ である。
段 4(代入)。$V-E+F=2$ の両辺を $6$ 倍すると $6V-6E+6F=12$ である。段 1〜段 3 を入れると
$$ 2(5p+6h)-3(5p+6h)+6(p+h)=12 $$
となる。左辺を展開すると $10p+12h-15p-18h+6p+6h=p$ なので、$p=12$ である。$h$ は左辺で打ち消し合って消えたので、この等式からは決まらない。$\square$

五角形 12 枚の多面体
  1. 正十二面体:五角形 12 枚、六角形 0 枚。
  2. サッカーボールの形(ex-eup-soccer-count):五角形 12 枚、六角形 20 枚。
    どちらも五角形は 12 枚である。炭素原子 60 個がこの形に並んだ分子(フラーレン)でも、五員環は 12 個である。

同じように Euler の定理と 2 通りの数え方を組み合わせると、正多面体が 5 種類しかないことも示せる。これは 正多面体の分類 で扱う(大学向けの 正多面体 にも証明がある)。

例と反例:定義を見直す

thm-eup-main は凸多面体についての定理である。凸でない立体や、def-eup-polyhedron の条件を満たさない立体では、$V-E+F$ は $2$ とは限らない。反例を 1 つずつ見ると、定義の各条件がなぜ必要かが分かる。

外した仮定崩れる主張ボックス
凸であること(穴があかないこと)$V-E+F=2$ex-eup-frame
定義の 1:面に穴がない(と、それに伴って定義の 5)$V-E+F=2$ex-eup-crest
定義の 4:頂点のまわりの面が 1 つの輪$V-E+F=2$ex-eup-twin
定義の 5:表面がひとつながり$V-E+F=2$ex-eup-hollow

凸でなくても $V-E+F=2$ になる例は ex-eup-nonconvex に置いた。

反例:額縁(穴のあいた多面体)

ex-eup-frame-teaser の額縁は、上下の面を台形に分けたので def-eup-polyhedron の 1〜5 をすべて満たす多面体である。しかし $V-E+F=16-32+16=0$ である。
証明のどこが使えないかを見る。額縁は凸でないので、rem-eup-schlegel の Schlegel 図が描けない。実際、額縁の表面で穴のまわりを 1 周する閉じた道(たとえば上の面の内側の正方形の 4 本の辺)は、表面を 2 つの部分に分けない。その「内側」にあたる穴の壁の面と「外側」にあたる上の台形は、額縁の下側を回ってつながっているからである。平面では閉じた道がいつも内側と外側を分けた(rem-eup-plane-facts の 1)が、額縁の表面ではそれが成り立たない。
満たす性質:def-eup-polyhedron の 1〜5。満たさない性質:凸であること(表面に穴があかないこと)。破る主張:$V-E+F=2$。

図3:左は額縁(上下の面を台形 4 枚ずつに分けた多面体)で !FORMULA[268][-2080756756][0]。右はとさかのある立方体で、上面(橙)が穴のあいた面なので !FORMULA[269][-2080756663][0]。定義の条件を外すと 2 にならないことを見る図。 図3:左は額縁(上下の面を台形 4 枚ずつに分けた多面体)で $V-E+F=0$。右はとさかのある立方体で、上面(橙)が穴のあいた面なので $V-E+F=3$。定義の条件を外すと 2 にならないことを見る図。

反例:穴のあいた面をもつ立体(とさかのある立方体)

1 辺 $2$ の立方体の上面の中央に、1 辺 $1$ の小さな立方体をのせる(図3 の右)。大きな立方体の上面は、真ん中に小さな正方形の穴があいた面になる。これを 1 枚の面と数えると

  1. 頂点:大きな立方体 $8$ 個、小さな立方体 $8$ 個で、$V=16$。
  2. 辺:大きな立方体 $12$ 本、小さな立方体 $12$ 本(底の 4 辺は穴のあいた面と側面の境目)で、$E=24$。
  3. 面:大きな立方体の上面以外 $5$ 枚、穴のあいた上面 $1$ 枚、小さな立方体の底面以外 $5$ 枚で、$F=11$。
    $V-E+F=16-24+11=3$ である。穴のあいた面を、外側の正方形と内側の正方形の対応する頂点を結ぶ 4 本の線分で台形 4 枚に分けると、$E=28$、$F=14$ になり、$16-28+14=2$ に戻る。こう分けた立体は def-eup-polyhedron の 1〜5 を満たす多面体で、凸ではないが、表面は球面と同じ形である(ex-eup-nonconvex を参照)。
    表面が球面と同じ形のとき、1 枚の面に穴があると、その面の外側の境界と内側の境界は辺でつながらない(表面からその面を取り除くと、外側の境界の側と内側の境界の側の 2 つに分かれる)。実際この立体でも、大きな立方体の 8 頂点と小さな立方体の 8 頂点を結ぶ辺はない。
    満たす性質:def-eup-polyhedron の 2〜4。満たさない性質:定義の 1(面に穴がない)と定義の 5(穴のあいた面の外側の境界と内側の境界は辺で結ばれていないので、辺をたどって行き来できない)。破る主張:$V-E+F=2$。
反例:1 つの頂点を共有する 2 つの四面体

2 つの四面体を、1 つの頂点だけで接するように置く。$V=4+4-1=7$、$E=6+6=12$、$F=4+4=8$ で、$V-E+F=7-12+8=3$ である。共有した頂点のまわりでは、面が 2 つの別々の輪に分かれて並ぶ。
満たす性質:def-eup-polyhedron の 1・2・3・5。満たさない性質:定義の 4(頂点のまわりの面が 1 つの輪)。破る主張:$V-E+F=2$。

反例:中が空洞の立方体

1 辺 $3$ の立方体の中に、1 辺 $1$ の立方体の形の空洞がある立体を考える。表面は外側の立方体の表面と、空洞の壁(内側の立方体の表面)の 2 つからなる。$V=8+8=16$、$E=12+12=24$、$F=6+6=12$ で、$V-E+F=16-24+12=4$ である。2 つの表面は辺でつながっていない。
満たす性質:def-eup-polyhedron の 1〜4。満たさない性質:定義の 5(表面がひとつながり)。破る主張:$V-E+F=2$。表面ごとに数えれば、どちらも $8-12+6=2$ で、合計が $2+2=4$ になっている。

凸でなくても 2 になる例(L 字の柱)

底面が L 字形の六角形(1 辺 $2$ の正方形から 1 辺 $1$ の正方形を切り取った形)の柱を考える。凸ではない。上下の六角形に頂点 $6+6=12$ 個、辺は上 $6$ 本・下 $6$ 本・縦 $6$ 本で $18$ 本、面は上下 $2$ 枚と側面 $6$ 枚で $8$ 枚である。$V-E+F=12-18+8=2$ となる。この柱は、上の面を窓にして平らに広げた網が描けるので、prf-thm-eup-main と同じ議論が使える。$V-E+F=2$ に本当に要るのは凸性ではなく、「表面が球面と同じ形である(穴があかない)」ことである。

定義に合わない立体が見つかるたびに、定理を捨てるのではなく、「多面体とは何か」「どんな多面体についての定理か」を見直していく。この過程は、Euler の定理を題材にした I. Lakatos の本 Lak76 で、対話の形で描かれている。

大学数学で見ると

prop-eup-subdivision では、細かく分けても $V-E+F$ が変わらないことを見た。大学では、この考え方を曲面に広げる。

  • 曲面を多角形に分けたとき、$V-E+F$ を曲面の Euler 標数 という。Euler 標数は分け方によらず、さらに曲面を切ったりはり合わせたりせずに連続的に変形しても(位相同型)変わらない量(位相不変量)である(本記事では証明しない。Hit18 Definition 7.5.22 で $V-E+F$ が定義され、分け方によらないこと・位相不変量であることは、その直後の本文で証明なしに述べられている)。凸多面体の表面は球面と同じ形なので、thm-eup-main は「球面の Euler 標数は $2$」と言い換えられる。額縁(ex-eup-frame)の表面は浮き輪の表面(トーラス)と同じ形で、Euler 標数は $0$ である。
  • 向きのある閉じた曲面で、穴の数(種数)が $g$ のものの Euler 標数は $2-2g$ である(本記事では証明しない。Hit18 Theorem 7.5.23)。$g=0,1,2$ で $2,0,-2$ となる。
  • 多面体の頂点での「角の不足」($2\pi$ から、その頂点に集まる面の角の和を引いたもの)を合計すると、立方体では $8\times\bigl(2\pi-3\cdot\frac\pi2\bigr)=8\cdot\frac\pi2=4\pi$、正四面体では $4\times\bigl(2\pi-3\cdot\frac\pi3\bigr)=4\pi$ で、どちらも $2\pi\times2$ に等しい。この一致が偶然でないことは Descartesの角欠損定理 で扱い、大学では曲面の曲がり具合(曲率)の総和と Euler 標数を結ぶ Gauss–Bonnetの定理 につながる。
曲面の Euler 標数の計算
  1. 球面:正四面体・立方体・正八面体・正十二面体・正二十面体の表面はどれも球面と同じ形で、$V-E+F$ はどれも $2$ である(ex-eup-count、ex-eup-chi)。
  2. トーラス:額縁の表面で $16-32+16=0$(ex-eup-frame)。$2-2g$ で $g=1$ としたものと一致する。
  3. 表面が 2 つに分かれた立体(ex-eup-hollow)は、球面 2 つ分で $2+2=4$ である。

さらに先へ

  • 平面グラフの Euler の公式(外側の領域も 1 つの面と数えて $V-E+F=2$)から、5 頂点の完全グラフが辺を交えずに平面にかけないことが示せる。これは 平面グラフ で扱う。
  • すべての辺をちょうど 1 回ずつ通る一筆書き(Euler閉路)は、同じ Euler の名前がつくが別の話題である。頂点と辺の図(グラフ)の基本は 一筆書きとグラフ で扱う。
  • 平面の多角形の外角の和が $2\pi$ であることは、角の不足の合計が $4\pi$ になること(Descartesの角欠損定理)の平面版と見ることができ、多角形の内角の和と外角の和 で扱う。同じ外角の和は、等周不等式(高校数学) で凸多角形を太らせるときにも使う。

関連項目

参考文献

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