圏同値(∞圏)(equivalence of ∞-categories)とは、関手 $F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$ で、準逆 $G$ と自然同値 $GF\simeq\mathrm{id}$、$FG\simeq\mathrm{id}$ を持つものである。対象の重複した表示の違いを許しながら、射とその高次の変形を保つ。全写像空間上の弱ホモトピー同値と本質的全射性によって判定でき、同値はホモトピー圏の同値を誘導するが、その逆は成り立たない。Kan複体の間では弱ホモトピー同値と一致する。
∞圏の同値は、対象を重複して表示する違いを許しながら、射とそのすべての高次の変形を保つ関手である。通常の圏同値を拡張するが、ホモトピー圏の同値だけでは十分でない。対象の対応に加えて、写像空間全体の対応が必要になる。
以下の∞-圏は準圏、すなわち標準単体のすべての内部ホーンを充填できる単体的集合とする。関手(関手(∞圏))$F\colon \mathcal C\to \mathcal D$ は単体的写像である。ホモトピー圏(∞圏のホモトピー圏)$h\mathcal C$ は対象をそのまま、射を $\pi_0\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)$ にした通常の圏であり、辺が 同値 であるとはその類が $h\mathcal C$ の同型であることをいう。
関手対象(関手圏(∞圏))$\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal D)=\mathcal D^{\mathcal C}$ の $n$ 単体は $\mathcal C\times\Delta^n\to \mathcal D$ である。自然変換(自然変換(∞圏))はその辺であり、自然同値はその中で同値になっている辺をいう。これは各 $x\in \mathcal C$ で成分が $\mathcal D$ の同値になることと同値である(RV22 Corollary D.4.19)。
関手 $F\colon \mathcal C\to \mathcal D$ が 圏同値 (equivalence of ∞-categories) であるとは、関手 $G\colon \mathcal D\to \mathcal C$ と自然同値
$$
G F\simeq\operatorname{id}_{\mathcal C},
\qquad F G\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}
$$
が存在することをいう。$G$ を準逆と呼び、$\mathcal C\simeq \mathcal D$ と書く。
ここで合成が厳密に恒等関手に等しいとは要求しない。また、各対象の対応だけで準逆を指定したことにはならず、射および高次の単体への作用も必要である。自然変換が可逆であることも省けない(下の反例の表)。
準圏の関手 $F\colon \mathcal C\to \mathcal D$ が同値であるための必要十分条件は、次の二条件である。
定理の十分性は、対象ごとの選択を整合的な準逆関手へ拡張する内容を含む。これは独立の基礎定理であり、本記事では証明しない。出典は RV22 Theorem 12.2.17 である。HTT09 §1.2.10(p. 43)も同じ判定を述べ、そこでの同値(単体的圏の同値として定義したもの)と準逆による定義との一致は同書 Proposition 2.2.5.8(p. 94)による。同じ判定を 充満忠実関手(∞圏) の記事から引くときも、この出典を用いる。必要性のうち本質的全射の部分は、下の命題「ホモトピー圏の同値を誘導する」から従う。
ここで弱ホモトピー同値とは、連結成分に全単射を誘導し、すべての基点と次数のホモトピー群に同型を誘導する写像である。Kan複体の間では、ホモトピー逆写像を持つこと(ホモトピー同値)と同じである(下の例「Kan複体間の同値」)。写像空間(写像空間(∞圏))の円柱モデルでは $n$ 単体が端を固定した $\Delta^n\times\Delta^1\to \mathcal C$ であり、上の写像は $F$ の後合成で定まる。右写像空間 $\operatorname{Hom}^R$・左写像空間 $\operatorname{Hom}^L$・円柱モデルは互いにホモトピー同値なので(HTT09 Corollary 4.2.1.8、p. 242)、条件1はどの表示で確かめてもよい。2つの空間に何らかの同値がある、というだけでは条件1を確認したことにならない。
この定理は、Hom集合の全単射を使う通常の 充満忠実関手 の判定を、全写像空間へ拡張したものである。
$F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が∞圏の同値なら、$hF\colon h\mathcal C\to h\mathcal D$ は通常の圏同値である。特に $F$ は本質的全射である。
準逆 $G$ と自然同値 $\alpha\colon GF\to\operatorname{id}_{\mathcal C}$ を取る。$\alpha$ は $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal C)$ の辺で、$h\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal C)$ で可逆である。
まず成分が可逆であることを見る。頂点 $x$ での評価 $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal C)\to\mathcal C$ は $\{x\}\to\mathcal C$ に沿う制限なので単体的写像であり、∞圏のホモトピー圏 の命題「関手性」により同値の辺を同値の辺へ送る。よって成分 $\alpha_x\colon GFx\to x$ は $\mathcal C$ の同値である。
次に、$\alpha\colon\mathcal C\times\Delta^1\to\mathcal C$ にホモトピー圏を取ると、∞圏のホモトピー圏 の命題「積との交換」と $h\Delta^1=[1]$ により、関手 $h\mathcal C\times[1]\to h\mathcal C$、すなわち自然変換 $h\alpha\colon hG\circ hF\Rightarrow\operatorname{id}$ を得る。その成分 $[\alpha_x]$ はすべて同型なので $h\alpha$ は自然同型である。ここで $h(GF)=hG\circ hF$ はホモトピー圏を取る操作の関手性による。$FG\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}$ についても同様なので、$hF$ は準逆 $hG$ を持つ圏同値である。
特に各 $d\in\mathcal D$ について $[\beta_d]\colon FGd\to d$($\beta\colon FG\to\operatorname{id}_{\mathcal D}$ の成分)は同型であり、$d$ は $F(Gd)$ と同値である。$\square$
逆は成り立たない。ホモトピー圏の同値は、写像空間の $\pi_0$ しか比べないからである(下の「反例:ホモトピー圏だけを比較する判定」)。
同値 $F\colon \mathcal C\to \mathcal D$, $H\colon \mathcal D\to \mathcal E$ の合成 $H F$ も同値である。
準逆をそれぞれ $G,J$ とする。$GJ$ を候補に取ると
$$
GJHF\simeq GF\simeq\operatorname{id}_{\mathcal C},
\qquad HFGJ\simeq HJ\simeq\operatorname{id}_{\mathcal E}.
$$
最初の自然同値は $JH\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}$ を $G,F$ と合成して得られる。関手との合成は自然同値を保つ。実際、$K\colon\mathcal C'\to\mathcal C$ による前合成 $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal D)\to\operatorname{Fun}(\mathcal C',\mathcal D)$ も、$L\colon\mathcal D\to\mathcal D'$ による後合成も単体的写像なので、同値の辺を同値の辺へ送る。自然同値の合成も自然同値であり、これは関手対象のホモトピー圏で同型が合成できることによる。これらが準逆の条件を与える。$\square$
関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$、$H\colon\mathcal D\to\mathcal E$ について、$F$、$H$、$HF$ のうち二つが同値なら、残りの一つも同値である。
$F,H$ が同値の場合は前の命題である。
$F$ と $HF$ が同値の場合:$F$ の準逆を $G$、$HF$ の準逆を $K$ とし、$H$ の準逆の候補を $FK$ とする。$H(FK)=(HF)K\simeq\operatorname{id}_{\mathcal E}$ である。また $FG\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}$ を使うと
$$
(FK)H\simeq(FK)H(FG)=F\bigl(K(HF)\bigr)G\simeq FG\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}
$$
となる。各段は、自然同値を関手と合成したものと、自然同値の合成である(前の証明と同じ理由)。
$H$ と $HF$ が同値の場合:$H$ の準逆を $J$、$HF$ の準逆を $K$ とし、$F$ の準逆の候補を $KH$ とする。$(KH)F=K(HF)\simeq\operatorname{id}_{\mathcal C}$ であり、$JH\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}$ を使うと
$$
F(KH)\simeq(JH)F(KH)=J\bigl((HF)K\bigr)H\simeq JH\simeq\operatorname{id}_{\mathcal D}
$$
となる。$\square$
通常の関手 $F_0\colon A\to B$ は、圏同値であるとき、かつそのときに限り脈体の写像 $N(F_0)$ が∞圏の同値になる。
通常の準逆 $G_0$ と自然同型 $G_0F_0\cong\operatorname{id}$ の脈体を取る。脈体は積を保ち(脈体 の命題「脈体は積を保つ」)$N([1])=\Delta^1$ なので、自然同型 $A\times[1]\to A$ の脈体は $N(A)\times\Delta^1\to N(A)$、すなわち自然変換である。その成分は $A$ の同型であり、$hN(A)=A$ なので $N(A)$ の同値の辺である。成分がすべて同値なので自然同値である(RV22 Corollary D.4.19)。$F_0G_0\cong\operatorname{id}$ も同様である。よって一方の含意を得る。逆に $N(F_0)$ が同値なら、前の命題「ホモトピー圏の同値を誘導する」と $hN(A)=A$, $hN(B)=B$ から、$F_0=hN(F_0)$ は圏同値である。$\square$
二対象 $0,1$ の間に各向き一つずつ射がある亜群を $E$ とする。$N(E)\to\Delta^0$ は同値であり、準逆としてどちらかの頂点を選べる。選んだ頂点への唯一の射の族が自然同型を与える。しかし $N(E)$ は二頂点を持つので、一点との単体的集合の同型ではない。
Kan複体 $X,Y$ を∞圏とみなすと、写像 $F\colon X\to Y$ について次は同値である。
1 と 2 の同値:$\operatorname{Fun}(X,X)$ の辺はホモトピー $X\times\Delta^1\to X$ そのものである。その成分は Kan 複体 $X$ の辺であり、Kan複体 の命題「Kan 複体のホモトピー圏は亜群である」によりすべて同値である。成分がすべて同値な辺は自然同値である(RV22 Corollary D.4.19)。よって $\operatorname{Fun}(X,X)$ のすべての辺は自然同値であり、$Y$ についても同じである。したがって 1 の自然同値は 2 のホモトピーと同じものである。
2 と 3 の同値は、Kan 複体の間の単体的ホモトピー同値と弱ホモトピー同値の比較であり、単体版の Whitehead の定理である。単体的集合のモデル構造でKan複体はファイブラント、すべての単体的集合はコファイブラントであり(GJ99 Theorem I.11.3、p. 62)、ファイブラントかつコファイブラントな対象の間の弱同値はホモトピー同値(同書 Theorem II.1.10、p. 73)、逆にホモトピー同値は弱同値である(同書 Proposition II.1.14 の証明、p. 76)。この部分はこの記事では証明しない。$\square$
$M=N(\mathbb Z)$ を整数群の一対象亜群の脈体とする。二対象 $0,1$ の単体的豊穣圏 $A_M$ を、$A_M(0,1)=M$、各自己 Hom は一点、逆向き Hom は空とし、単位だけで合成を定める。すべての Hom はKan複体なので $\mathcal C=N_{\mathrm{hc}}(A_M)$ は準圏である。
$M\to\Delta^0$ は関手 $F\colon \mathcal C\to N([1])$ を誘導する。$M$ は連結なので $hF$ は同型だが、$0,1$ 間の写像空間には $M\to\Delta^0$ が現れる。$\pi_1(M)=\mathbb Z$ であるためこれは弱ホモトピー同値でなく、$F$ は充満忠実でない。対象と射のホモトピー類を完全に対応させても、高次の自己変形は失われうる。
二点の離散単体的集合 $\Delta^0\sqcup\Delta^0$(頂点 $0,1$)への包含 $F\colon\Delta^0\to\Delta^0\sqcup\Delta^0$(頂点 $0$ を選ぶ)を考える。$\operatorname{Map}(0,0)$ はどちらでも一点なので $F$ は充満忠実である。しかし $\Delta^0\sqcup\Delta^0$ には $0$ と $1$ を結ぶ辺がなく、$1$ はどの $F(x)=0$ とも同値でない。命題「ホモトピー圏の同値を誘導する」により同値な関手は本質的全射なので、$F$ は同値ではない。判定定理の条件 2 は省けない。
$F\colon\Delta^0\to\Delta^1$ を頂点 $0$ を選ぶ関手、$G\colon\Delta^1\to\Delta^0$ を唯一の関手とする。$GF=\operatorname{id}_{\Delta^0}$ である。さらに $\Delta^1\times\Delta^1\to\Delta^1$、$(s,t)\mapsto\min(s,t)$ は $FG$(定値 $0$)から $\operatorname{id}_{\Delta^1}$ への自然変換である。しかしその成分 $0\to1$ は $h\Delta^1=[1]$ の同型でないので、自然同値ではない。実際 $F$ は同値でない。$1$ はどの $F(x)=0$ とも同値でなく、本質的全射でないからである。この組 $F,G$ は同値ではなく、随伴関手(∞圏)($F$ が $G$ の左随伴で、上の自然変換がその余単位)の例になる。
$G\colon\Delta^1\to\Delta^0$ を考える。$\Delta^1$ の幾何学的実現は区間で可縮なので、$G$ は弱ホモトピー同値である。しかし $h\Delta^1=[1]$ は二つの同型でない対象を持ち、一点圏 $h\Delta^0$ と圏同値でない。命題「ホモトピー圏の同値を誘導する」により、$G$ は∞圏の同値ではない。例「Kan複体間の同値」で 1 と 3 が一致したのは、両辺が Kan 複体だったからである。$\Delta^1$ は準圏だが Kan 複体でない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 写像空間の弱ホモトピー同値($\pi_0$ の全単射だけにする) | $N_{\mathrm{hc}}(A_M)\to N([1])$ | $F$ が同値になる |
| 本質的全射 | $\Delta^0\to\Delta^0\sqcup\Delta^0$ | 充満忠実な $F$ が同値になる |
| 自然変換の可逆性 | $\Delta^0\to\Delta^1$ と $\Delta^1\to\Delta^0$ | 自然変換の組から同値が得られる |
| 両辺が Kan 複体であること | $\Delta^1\to\Delta^0$ | 弱ホモトピー同値が∞圏の同値になる |
単体的豊穣圏 $A,B$ が局所Kan、つまり全 Hom 単体的集合がKan複体であるとする。豊穣関手 $T\colon A\to B$ が、すべての $A(x,y)\to B(Tx,Ty)$ に弱ホモトピー同値を誘導し、$\pi_0$ で作った通常の圏で本質的全射なら、$N_{\mathrm{hc}}(T)$ は∞圏の同値である。こうした $T$ を DK同値(Dwyer–Kan 同値、DK同値)という。
理由は、HTT09 §1.1.5 Proposition 1.1.5.10(p. 23)と §2.2 Theorem 2.2.0.1(p. 72)が、局所Kanな豊穣圏の整合的脈体を準圏にし、誘導された Hom 比較を準圏の写像空間比較へ移すためである。上の判定定理を適用して結論を得る。局所Kanでない豊穣圏やモデル圏の全対象を、この仮定の確認なしに代入することはできない。モデル圏から作る場合には、たとえば必要な cofibrant・fibrant 条件を備えた対象の部分圏を選ぶ。
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