種数公式(平面曲線)(genus–degree formula)とは、代数閉体上の射影平面の既約な次数 $d$ の曲線 $C$ の幾何種数が、$(d-1)(d-2)/2$ から各特異点の寄与 $\delta_P$ の和を引いたものに等しいという定理である。とくに滑らかな次数 $d$ の平面曲線の種数は $(d-1)(d-2)/2$ であり、$r$ 本の相異なる接線をもつ $r$ 重点の寄与は $r(r-1)/2$ である。$\delta_P$ は、点の爆発を繰り返して現れる無限に近い点の重複度 $m$ についての $m(m-1)/2$ の和として計算できる。平面曲線の算術種数が次数だけで決まることと、正規化との比較から導かれる。
前提知識: 種数, 算術種数, 正規化, 点の重複度, 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理
種数公式(genus–degree formula)とは、代数閉体 $k$ 上の射影平面 $\mathbb{P}^2$ の既約な次数 $d$ の曲線 $C$ について、その幾何種数 $g(C)$ が
$$
g(C)=\frac{(d-1)(d-2)}{2}-\sum_{P\in C}\delta_P
$$
で与えられるという定理である。$\delta_P$ は点 $P$ での特異点の寄与を表す $0$ 以上の整数で、滑らかな点では $0$ である。とくに滑らかな次数 $d$ の平面曲線の種数は $(d-1)(d-2)/2$ である。$P$ が $r$ 本の相異なる接線をもつ $r$ 重点なら $\delta_P=r(r-1)/2$ となる。
種数は曲線そのものの不変量で、次数は平面への埋め込み方で決まる量である。この公式は、平面に入る仕方が種数を強く縛ることを示している。滑らかな平面曲線の種数は $0,0,1,3,6,10,\dots$ に限られ、種数 $2$ の曲線は滑らかな平面曲線にならない。特異点は種数を下げる。既約な平面曲線の特異点は高々 $(d-1)(d-2)/2$ 個しかない。
この記事では、まず平面曲線の算術種数が次数だけで決まることを $\mathbb{P}^2$ のコホモロジーから示す(prop-gdf-pa)。次に正規化との比較から種数公式を導く(thm-gdf-main)。続いて $\delta_P$ を点の爆発で再帰的に計算する公式を証明し(thm-gdf-delta)、通常多重点の場合を導く(cor-gdf-ordinary)。例として尖点 3 次曲線、$y^p=x^q$ の形の曲線、種数 $2$ の 5 次曲線を計算する。
この記事では $k$ は代数閉体とし、標数は任意とする。$F\in k[X,Y,Z]$ を次数 $d\ge1$ の斉次多項式とし、$F$ の零点の定める $\mathbb{P}^2$ の閉部分スキームを $C=V_+(F)$ と書く。その構造層は完全列
$$
0\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}(-d)\xrightarrow{\;F\;}\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}\to\mathcal{O}_C\to0
$$
で定まる。$C$ を次数 $d$ の平面曲線という。$F$ が既約なとき $C$ は整な射影曲線であり、既約な平面曲線という。
既約な平面曲線 $C$ の正規化 $\nu\colon\tilde C\to C$ は有限射であり(正規化 の命題「有限型の代数幾何での有限性」)、$\tilde C$ は滑らかで連結な射影曲線である。$\tilde C$ の種数を $C$ の幾何種数といい、$g(C)$ と書く。$k=\mathbb{C}$ なら、$g(C)$ は $\tilde C$ の複素点のなすコンパクトな Riemann 面の位相的な種数に等しい(種数 の節「代数曲線の種数」)。点 $P\in C$ について
$$
\delta_P(C):=\dim_k\bigl(\nu_*\mathcal{O}_{\tilde C}/\mathcal{O}_C\bigr)_P,\qquad \delta(C):=\sum_{P\in C}\delta_P(C)
$$
とおく。$(\nu_*\mathcal{O}_{\tilde C})_P$ は局所環 $\mathcal{O}_{C,P}$ の整閉包である。$\nu$ が有限なのでこれは $\mathcal{O}_{C,P}$ 上有限生成であり、$\delta_P$ は有限である。$\delta_P=0$ となるのは $\mathcal{O}_{C,P}$ が整閉なとき、すなわち離散付値環であるとき、つまり $P$ が $C$ の滑らかな点であるときに限る(1 次元の正規な Noether 局所環は離散付値環である)。よって $\delta(C)$ は有限個の特異点の寄与の和である。
点の重複度は 点の重複度 の定義「超曲面の点の重複度と接錐」に従う。射影座標を取り替えて $P=[0:0:1]$ とし、アフィン座標 $x=X/Z$、$y=Y/Z$ で$f(x,y):=F(x,y,1)$ を斉次成分に分けて $f=f_m+f_{m+1}+\dots$($f_m\ne0$)と書くとき、$m_P(C):=m$ を $P$ での重複度という。$m_P(C)=1$ となるのは $P$ が滑らかな点であるときに限る(同記事の定理「単純点と非特異点」)。$k$ は代数閉体なので、$f_m$ は $m$ 個の 1 次式の積に分解する。
平面曲線 $C$ の点 $P$ の重複度 $r=m_P(C)$ が $r\ge2$ で、上の記号で $f_r$ が互いに比例しない $r$ 個の 1 次式の積であるとき、$P$ を $C$ の通常 $r$ 重点という。$P$ での $r$ 本の接線が相異なる、と言っても同じである。通常 $2$ 重点を結節点(通常二重点)という。
平面曲線の算術種数 $p_a(C):=1-\chi(\mathcal{O}_C)$ は、$F$ の形によらず次数だけで決まる。
次数 $d\ge1$ の平面曲線 $C$(既約とは限らない)について
$$
H^0(C,\mathcal{O}_C)=k,\qquad \dim_kH^1(C,\mathcal{O}_C)=\frac{(d-1)(d-2)}{2}
$$
である。とくに $p_a(C)=\dfrac{(d-1)(d-2)}{2}$ である。
要点:完全列 $0\to\mathcal{O}(-d)\to\mathcal{O}\to\mathcal{O}_C\to0$ のコホモロジーの長完全列に、$\mathbb{P}^2$ の上の $\mathcal{O}(m)$ のコホモロジーを代入する。
$C\to\mathbb{P}^2$ は閉埋め込みなので、$\mathcal{O}_C$ のコホモロジーは $\mathbb{P}^2$ 上の層としてのコホモロジーと同じである。$\mathbb{P}^2$ の上では、$H^0(\mathcal{O}(m))$ は $m\ge0$ で $\binom{m+2}{2}$ 次元、$H^2(\mathcal{O}(m))$ は $m\le-3$ で $\binom{-m-1}{2}$ 次元であり、それ以外の $H^i(\mathcal{O}(m))$ は $0$ である(Vak25 Theorem 18.1.2, pp. 494–495。この記事では証明しない)。とくに $H^1(\mathcal{O})=H^2(\mathcal{O})=0$、$H^0(\mathcal{O}(-d))=H^1(\mathcal{O}(-d))=0$ であり、$\dim H^2(\mathcal{O}(-d))=\binom{d-1}{2}$ である($d=1,2$ では両辺とも $0$)。
構造層の完全列のコホモロジーの長完全列から、$$0=H^0(\mathcal{O}(-d))\to H^0(\mathcal{O})=k\to H^0(\mathcal{O}_C)\to H^1(\mathcal{O}(-d))=0$$により $H^0(\mathcal{O}_C)=k$ であり、$$0=H^1(\mathcal{O})\to H^1(\mathcal{O}_C)\to H^2(\mathcal{O}(-d))\to H^2(\mathcal{O})=0$$により $\dim H^1(\mathcal{O}_C)=\binom{d-1}{2}=\frac{(d-1)(d-2)}{2}$ である。$C$ は 1 次元なので $i\ge2$ で $H^i(\mathcal{O}_C)=0$ であり、$p_a(C)=1-(1-h^1(\mathcal{O}_C))=h^1(\mathcal{O}_C)$ となる。$\square$
同じ値は、滑らかな場合は 算術種数 の定理「滑らかな平面曲線の双有理同値」の 2 からも、随伴公式からも(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の例「射影平面」)得られる。たとえば相異なる 3 本の直線の和 $XYZ=0$ も、滑らかな 3 次曲線と同じく算術種数 $1$ をもつ。
$C\subset\mathbb{P}^2$ を次数 $d$ の既約な平面曲線とする。
1:$\mathbb{P}^2$ は滑らかな射影曲面で、$C$ はその既約曲線($F$ の定める有効因子)である。曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の命題「算術種数と正規化の種数」により $p_a(C)=g(C)+\delta(C)$ である。これを prop-gdf-pa と合わせる。
2:$\delta(C)\ge0$ であり、$\delta(C)=0$ となるのはすべての点で $\delta_P=0$、すなわち $C$ が滑らかなときに限る(節「設定と記号」)。
3:特異点 $P$ では $\delta_P\ge1$ なので、特異点の個数は $\delta(C)$ 以下である。$g(C)\ge0$ なので 1 から $\delta(C)\le\frac{(d-1)(d-2)}{2}$ である。$\square$
滑らかな平面曲線の種数を次数ごとに並べると次の表になる。
| 次数 $d$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ | $7$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $(d-1)(d-2)/2$ | $0$ | $0$ | $1$ | $3$ | $6$ | $10$ | $15$ |
$2,4,5,7,8,9,\dots$ はこの表に現れないので、これらの種数の曲線は滑らかな平面曲線としては実現できない。ただし特異点を許せば、どの曲線も平面曲線と双有理同値になり、その正規化として得られる(標数 $0$ では Ful08 §6.6, Proposition 12 の系, p. 78。この記事では証明しない。ex-gdf-genus-two は種数 $2$ の例である)。3 の帰結として、既約な 3 次曲線の特異点は高々 1 個で、特異点があれば $g=0$ である。既約な 4 次曲線の特異点は高々 3 個である。
$k=\mathbb{C}$ で $C$ が滑らかなら、1 は位相的にも読める。$C$ 上にない一般の点から直線へ射影すると $C\to\mathbb{P}^1$ は次数 $d$ の写像になる。Riemann–Hurwitzの公式 で分岐を数えると同じ種数が得られる(同記事の例「Fermat 曲線の種数」は $x^n+y^n=z^n$ でこの計算を行っている)。
$\delta_P$ は局所環の整閉包から定義されるが、点の爆発を繰り返すと重複度だけから計算できる。この節では、$X$ を $k$ 上の滑らかで連結な射影曲面、$C\subset X$ を既約曲線とする(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の設定)。$\delta_P(C)$ と $m_P(C)$ は平面曲線のときと同じく、$C$ の正規化と $P$ での局所方程式から定める。$P\in C$ での爆発を $\pi\colon X'\to X$、例外曲線を $E=\pi^{-1}(P)$ とする。$C$ の固有変換 $C'$ は $E$ を成分に含まない曲線で($C\setminus\{P\}$ の逆像の閉包なので既約である)、$\pi^*C=C'+m_P(C)E$ をみたす(同記事の命題「固有変換の交点数と種数」)。$C'\cap E$ は有限集合である。その点を、$C$ の $P$ の上の 1 次の無限に近い点という。
$C'\cap E$ の各点でさらに爆発すると、2 次の無限に近い点が得られる。これを繰り返して得られる点の全体のうち、$C$ の固有変換の特異点であるものの集合を $S_P(C)$ と書く。$P$ が特異点なら $P$ 自身も $S_P(C)$ に入れる。
$C\subset X$ を既約曲線、$P\in C$、$m=m_P(C)$ とし、$C'$ を $P$ での爆発による固有変換とする。
1:$\pi|_{C'}\colon C'\to C$ は射影的で、ファイバーは有限($P$ の外では同型で、$P$ の上は $C'\cap E$)なので有限射であり(Vak25 Theorem 18.1.6, p. 497)、$P$ の外で同型だから双有理である。$C'$ の正規化 $\tilde C'\to C'$ と合成すると、正規な曲線からの有限な双有理射 $\tilde C'\to C$ が得られる。$C$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で、これは $A\subset B\subset\operatorname{Frac}(A)$ をみたす $A$ 上有限な整閉整域 $B$ の $\operatorname{Spec}B$ である。$B$ は $A$ 上整なので、$B$ は $A$ の整閉包に等しい。よって $\tilde C'\to C$ は $C$ の正規化であり(正規化 の定義「整スキームの正規化」)、$g(C')=g(C)$ である。
曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の命題「算術種数と正規化の種数」を $C\subset X$ と $C'\subset X'$ に使うと、$p_a(C)=g(C)+\delta(C)$、$p_a(C')=g(C)+\delta(C')$ である。同記事の命題「固有変換の交点数と種数」により $p_a(C)-p_a(C')=\frac{m(m-1)}{2}$ なので、$\delta(C)-\delta(C')=\frac{m(m-1)}{2}$ である。
$P$ と異なる点 $R\in C$ のまわりでは $\pi$ は同型であり、$R$ の上の $C'$ の点 $R'$ の局所環とその整閉包は、$R$ でのものと同一視される。よって $\delta_{R'}(C')=\delta_R(C)$ である。$C'$ の点は、このような $R'$ か $C'\cap E$ の点かのどちらかなので、
$$
\delta(C)-\delta(C')=\delta_P(C)-\sum_{Q\in C'\cap E}\delta_Q(C')
$$
となる。前の段落の等式と合わせて 1 を得る。
2:$\delta_P(C)$ についての帰納法で示す。主張は、すべての滑らかな射影曲面とその既約曲線と点について考える。$\delta_P(C)=0$ なら $P$ は滑らかな点で $m=1$ である。1 から $C'\cap E$ のどの点でも $\delta_Q(C')=0$ であり、その点も滑らかになる。これを繰り返すと、$P$ の上の無限に近い点はすべて滑らかで、$S_P(C)=\emptyset$ となり、両辺は $0$ である。$\delta_P(C)>0$ なら $P$ は特異点で $m\ge2$ であり、$\frac{m(m-1)}{2}\ge1$ である。1 から各 $Q\in C'\cap E$ で $\delta_Q(C')\le\delta_P(C)-1$ となる。帰納法の仮定により $S_Q(C')$ は有限で、$\delta_Q(C')$ はその上の和に等しい。$S_P(C)=\{P\}\cup\bigcup_{Q}S_Q(C')$ は有限集合で、1 に代入すると主張の式になる。$\square$
1 は Har77 V, Corollary 3.7(p. 389)の算術種数の式を点ごとに言い換えたものであり、2 は同書 V, Example 3.9.3(p. 393)にある。証明の 2 の帰納法から、既約曲線の特異点は有限回の爆発で解消される(同書 V, Proposition 3.8, p. 390)。
次数 $d$ の既約な平面曲線 $C$ について
$$
g(C)=\frac{(d-1)(d-2)}{2}-\sum_{P}\sum_{Q\in S_P(C)}\frac{m_Q(m_Q-1)}{2}
$$
である。外側の和は $C$ の特異点にわたる。とくに各点で $\delta_P(C)\ge\dfrac{m_P(C)\bigl(m_P(C)-1\bigr)}{2}$ である。等号は、$P$ の上の 1 次の無限に近い点がすべて $C'$ の滑らかな点であるときに限る。
thm-gdf-main の 1 に thm-gdf-delta の 2 を代入する。不等式と等号の条件は thm-gdf-delta の 1 から従う($\delta_Q(C')=0$ は $Q$ が滑らかな点であることと同値)。$\square$
この式は Har77 V, Example 3.9.2(p. 393)にある。通常多重点では、1 回の爆発で固有変換が滑らかになる。
$P$ を平面曲線 $C$ の通常 $r$ 重点とすると、$P$ での爆発による固有変換 $C'$ は $E$ と相異なる $r$ 点で交わり、そのどの点でも滑らかである。とくに $C$ が既約なら $\delta_P(C)=\dfrac{r(r-1)}{2}$ である。したがって、通常多重点だけをもつ次数 $d$ の既約な平面曲線の種数は
$$
g(C)=\frac{(d-1)(d-2)}{2}-\sum_{P}\frac{r_P(r_P-1)}{2}\qquad(r_P=m_P(C))
$$
である。
要点:爆発の座標 $y=xt$ で固有変換の方程式は $f_r(1,t)+x\,h(x,t)$ となり、接線が相異なることから $f_r(1,t)$ の根は単根なので、固有変換は例外曲線との交点で $t$ について 1 次の項をもつ。
$P$ をアフィン座標の原点にとる。$\mathbb{A}^2$ の原点での爆発は、座標 $(x,t)$ で $y=xt$ とするアフィン平面と、座標 $(s,y)$ で $x=sy$ とするアフィン平面で覆われる(ブローアップ の命題「アフィン空間の原点のブローアップ」)。第 1 の平面では $E=\{x=0\}$ である。$f=f_r+f_{r+1}+\dots$ について$$f(x,xt)=x^r g(x,t),\qquad g(x,t)=f_r(1,t)+x\,h(x,t)\quad(h\in k[x,t])$$となり、$g$ がこの平面での $C'$ の方程式である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の命題「固有変換の交点数と種数」の証明と同じ計算)。
$f_r=\prod_{j=1}^r(a_jy-b_jx)$ と書くと、$f_r(1,t)=\prod_j(a_jt-b_j)$ である。$a_j\ne0$ である $j$ について、根 $t_j=b_j/a_j$ は互いに相異なる(1 次式が比例しないため)。よって $C'\cap E$ の第 1 の平面にある点は $(0,t_j)$ であり、$t_j$ は $f_r(1,t)$ の単根である。したがって $\frac{\partial g}{\partial t}(0,t_j)=\frac{d}{dt}f_r(1,t)\big|_{t=t_j}\ne0$ となり、$g\notin(x,t-t_j)^2$ である。すなわち $C'$ は $(0,t_j)$ で重複度 $1$ で、滑らかである。第 1 の平面に入らない $E$ の点は第 2 の平面の $(s,y)=(0,0)$ だけである。それが $C'$ に乗るのは、ある $j$ で $a_j=0$、すなわち $x$ が $f_r$ を割るときで、そのような $j$ はただ 1 つである。$x$ と $y$ の役を入れ替えた同じ計算により、その点でも $C'$ は滑らかである。点の個数は合わせて $r$ である。
$C$ が既約なら、thm-gdf-delta の 1 で $\delta_Q(C')=0$($Q\in C'\cap E$)となり、$\delta_P(C)=\frac{r(r-1)}{2}$ である。最後の式は thm-gdf-main の 1 に代入したものである。$\square$
最後の式は Ful08 §8.3, Proposition 5(p. 102)で、そこでは随伴曲線の次元を数える別の方法で証明されている。同書は、既約な射影平面曲線が有限回の 2 次変換で通常多重点だけをもつ平面曲線に移ることも示しており(§7.4, Theorem 2, p. 91。正標数の場合は同書の付録。この記事では証明しない)、この式だけで任意の既約な平面曲線の幾何種数を計算する道筋になっている。
$C\colon Y^2Z=X^3$ とする(標数は任意)。$C$ の特異点は $P=[0:0:1]$ だけである。$P$ での局所方程式は $f=y^2-x^3$ で、$m_P(C)=2$、$f_2=y^2$ は同じ 1 次式の 2 乗なので、$P$ は通常 2 重点でない。爆発の第 1 の平面では $f(x,xt)=x^2(t^2-x)$ で、$C'$ の方程式 $t^2-x$ は $E=\{x=0\}$ と点 $(0,0)$ だけで交わり、$x$ の 1 次の項をもつのでそこで滑らかである。第 2 の平面では $f(sy,y)=y^2(1-s^3y)$ で、$C'$ は $E=\{y=0\}$ と交わらない。thm-gdf-delta の 1 から $\delta_P=1$ であり、thm-gdf-main から $g(C)=1-1=0$ である。実際 $t\mapsto[t^2:t^3:1]$ は $\mathbb{P}^1$ からの双有理な写像を与える。
$C'$ は $E$ と 1 点で交わるが $C'\cdot E=2$ なので、そこで $E$ に接している。この例では $P$ は通常多重点でないのに $\delta_P=m(m-1)/2$ が成り立つ。cor-gdf-infinitely-near の等号の条件は、1 次の無限に近い点が滑らかであることで、接線が相異なることより弱い。
特異点が $P$ だけであることを確かめる。
アフィン部分 $z=1$ では、$f=y^2-x^3$ の偏微分は $f_x=-3x^2$、$f_y=2y$ である。標数が $2$ でなければ $f_y=0$ から $y=0$、$f=0$ から $x=0$ である。標数 $2$ なら $f_x=x^2$ なので $x=0$、$f=0$ から $y=0$ である。無限遠では $Z=0$ から $X=0$ で、点は $[0:1:0]$ だけである。そこでの局所方程式 $z-x^3$($Y=1$)は 1 次の項 $z$ をもつので、その点は滑らかである。
$1\le p< q$ を互いに素な整数とし、アフィン曲線 $C_0\colon y^p=x^q$ を考える。
要点:単項式に重み $pa+qb$ を付けて核を求め、$k[t]$ が $k[t^p,t^q]$ の整閉包であることから $\delta$ を数値半群の隙間の個数に帰着させる。
1:単項式 $x^ay^b$ の重みを $pa+qb$ とすると、写像は重み $w$ の単項式を $t^w$ に送る。よって $h=\sum c_{ab}x^ay^b$ が核に入るのは、各 $w$ で $\sum_{pa+qb=w}c_{ab}=0$ となるときである。したがって核は、同じ重みの 2 つの単項式の差で張られる。$pa+qb=pa'+qb'$、$a>a'$ なら、$\gcd(p,q)=1$ から $a-a'=jq$、$b'-b=jp$($j\ge1$)と書ける。差は $x^{a'}y^b\bigl((x^q)^j-(y^p)^j\bigr)$ で、$y^p-x^q$ で割り切れる。よって核は $(y^p-x^q)$ に含まれ、逆の包含は明らかである。$A$ は整域なので核は素イデアルで、$y^p-x^q$ は既約である。
2:$up+vq=1$ となる整数 $u,v$ をとると $t=(t^p)^u(t^q)^v$ なので、$A$ の商体は $k(t)$ である。$t$ は $T^p-t^p\in A[T]$ の根なので $k[t]$ は $A$ 上整であり、$k[t]$ は整閉である。よって $k[t]$ は $A$ の整閉包である。原点以外の $C_0$ の点では $t^p$ と $t^q$ がともに $0$ でない($b^p=a^q$ で一方が $0$ なら他方も $0$)。そこでの局所環で両方が単元なので $t$ も局所環に入り、局所環は $k[t]$ を含んで整閉になる。よってそこでの $\delta$ は $0$ で、点は滑らかである。$k[t]/A$ は原点に台をもち、その次元は $t^n$($n\in\mathbb{N}\setminus\langle p,q\rangle$)の個数である。$p\ge2$ なら 数値半群環 の系「2 つの数で生成される場合」によりこれは $\frac{(p-1)(q-1)}{2}$ であり、$p=1$ なら両辺とも $0$ である。
3:$Y^pZ^{q-p}-X^q$ は $Z$ で割り切れず、$Z=1$ とおいた式は 1 から既約なので、既約である。$Z=0$ から $X=0$ となり、無限遠の点は $[0:1:0]$ だけである。$Y=1$ とおいた局所方程式 $z^{q-p}=x^q$ は、互いに素な指数 $(q-p,q)$($\gcd(q-p,q)=\gcd(p,q)=1$)について 2 の形をしているので、そこでの $\delta$ は $\frac{(q-p-1)(q-1)}{2}$ である。$\square$
3 の 2 つの $\delta$ の和は $\frac{q-1}{2}\bigl((p-1)+(q-p-1)\bigr)=\frac{(q-1)(q-2)}{2}$ で、thm-gdf-main は $g(\bar C)=0$ を与える。これは $\bar C$ が $t\mapsto[t^p:t^q:1]$ で $\mathbb{P}^1$ と双有理であることと合っている。
$(p,q)=(2,5)$ では、原点での $\delta=2$ を thm-gdf-delta でも計算できる。$y^2=x^5$ に $y=xt$ を代入すると $x^2(t^2-x^3)$ となり、固有変換 $t^2=x^3$ は再び重複度 $2$ の点をもつ。もう 1 回 $t=xu$ とすると $u^2=x$ で滑らかになる(ほかの座標平面には固有変換と例外曲線の交点がない)。重複度は $2,2$ なので $\delta=1+1=2$ で、数値半群の隙間 $1,3$ の個数と一致する。
標数を $2$ でないとし、$h\in k[x]$ を相異なる 5 個の根をもつ 5 次多項式、$H(X,Z):=Z^5h(X/Z)$ とする。平面 5 次曲線 $\bar C\colon Y^2Z^3=H(X,Z)$ は既約で、特異点は無限遠の点 $P=[0:1:0]$ だけであり、$\delta_P=4$ である。したがって $g(\bar C)=6-4=2$ である。
要点:無限遠の点で 2 回爆発すると、重複度 $3$、$2$ の点を経て固有変換が滑らかになる。
$y^2-h(x)$ が分解すれば $(y-a(x))(y+a(x))$ の形で $a^2=h$ となるが、$h$ の次数は奇数なので起こらない。$Y^2Z^3-H$ は $X^5$ の項をもつので $Z$ で割り切れず、既約である。アフィン部分の特異点では $2y=0$、$h'(x)=0$、$y^2=h(x)$ なので $h(x)=h'(x)=0$ となるが、$h$ は重根をもたないので、そのような点はない。$Z=0$ から $X=0$ なので無限遠の点は $P$ だけである。
$h$ の最高次の係数を $c\ne0$ とすると、$Y=1$ とおいた $P$ での局所方程式は$$f=z^3-cx^5-a_1x^4z-a_2x^3z^2-a_3x^2z^3-a_4xz^4-a_5z^5$$の形($a_i\in k$)で、最低次の成分は $z^3$ である。よって $m_P=3$ である。爆発の座標 $z=xw$ では $f=x^3\bigl(w^3-x^2u(w)\bigr)$、$u(w)=c+a_1w+\dots+a_5w^5$ となる。$u(0)=c\ne0$ なので、固有変換 $w^3-x^2u(w)$ は $E=\{x=0\}$ と点 $Q=(0,0)$ だけで交わり、$Q$ での重複度は $2$ である。もう一方の座標 $x=zs$ では $f=z^3\bigl(1-z^2(\cdots)\bigr)$ となり、固有変換は $E=\{z=0\}$ と交わらない。$Q$ で座標 $x=wv$ により爆発すると $w^2\bigl(w-v^2u(w)\bigr)$ となる。固有変換 $w-v^2u(w)$ は 1 次の項 $w$ をもつので滑らかである。座標 $w=xr$ では $x^2\bigl(xr^3-u(xr)\bigr)$ となり、$u(0)\ne0$ なので固有変換は例外曲線と交わらない。thm-gdf-delta の 2 により $\delta_P=\frac{3\cdot2}{2}+\frac{2\cdot1}{2}=4$ である。$\square$
$\bar C$ の正規化は、$x$ の値への 2 対 1 の写像で $\mathbb{P}^1$ の 6 点($h$ の 5 根と $\infty$)で分岐する。Riemann–Hurwitzの公式 でも $2g-2=2\cdot(-2)+6$ から $g=2$ となり、上の計算と合う。
上の例と、滑らかな曲線・結節 3 次曲線(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の例「結節のある 3 次曲線」)をまとめると次のようになる。
| 曲線 | 次数 | 特異点と $\delta$ | 幾何種数 |
|---|---|---|---|
| $X^n+Y^n=Z^n$(標数が $n$ を割らない) | $n$ | なし | $\frac{(n-1)(n-2)}{2}$ |
| $Y^2Z=X^2(X+Z)$(標数 $\ne2$) | $3$ | 結節点、$\delta=1$ | $0$ |
| $Y^2Z=X^3$ | $3$ | 尖点、$\delta=1$ | $0$ |
| $Y^2Z^3=X^5$ | $5$ | 原点 $\delta=2$、無限遠 $\delta=4$ | $0$ |
| $Y^2Z^3=H(X,Z)$(ex-gdf-genus-two) | $5$ | 無限遠 $\delta=4$ | $2$ |
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $C$ が滑らか(thm-gdf-main の 2 の等式) | 結節 3 次曲線 $Y^2Z=X^2(X+Z)$ | 種数が $(d-1)(d-2)/2=1$ に等しいこと(幾何種数は $0$) |
| $C$ が既約(thm-gdf-main の 1) | 2 直線 $XY=0$ | 右辺 $0-\delta=-1$ が正規化の種数を与えること |
| $C$ が平面に入っている | $\mathbb{P}^3$ の捩れ 3 次曲線 | 次数 $3$ の滑らかな曲線の種数が $1$ であること(実際は $0$) |
| 接線が相異なる(cor-gdf-ordinary) | $y^2=x^5$ の原点 | $\delta_P=r(r-1)/2$($r=2$ だが $\delta_P=2$) |
各行を確かめる。
1 行目:$p_a=1$ は prop-gdf-pa による。原点は $f_2=y^2-x^2=(y-x)(y+x)$ の結節点で、cor-gdf-ordinary から $\delta=1$、したがって幾何種数は $0$ である。式 $(d-1)(d-2)/2$ が与えるのは算術種数である。
2 行目:$C=V_+(XY)$ は 2 本の直線の和で、prop-gdf-pa から $p_a=0$ である。交点 $[0:0:1]$ の局所環 $k[x,y]_{(x,y)}/(xy)$ の整閉包は 2 本の直線の局所環の積で、商は $1$ 次元なので $\delta=1$ である。右辺は $-1$ になるが、正規化は 2 本の射影直線の非交和で連結でなく、種数 $-1$ の曲線はない。値 $-1$ は $1-\chi(\mathcal{O}_{\tilde C})=1-2$ に当たる。
3 行目:$[s:t]\mapsto[s^3:s^2t:st^2:t^3]$ の像は $\mathbb{P}^1$ と同型で種数 $0$ である。一般の平面 $\sum c_iX_i=0$ との交わりは 3 次式 $c_0s^3+c_1s^2t+c_2st^2+c_3t^3$ の 3 根なので次数は $3$ である。像はどの平面にも含まれない(4 つの単項式が 1 次独立)ので、平面曲線ではない。
4 行目:$f_2=y^2$ なので接線は重なり、通常 2 重点でない。ex-gdf-monomial から $\delta=2\ne1$ である。
prop-gdf-pa の算術種数の式は、ほかの曲面の上の曲線にも随伴公式の形で広がる。$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の上で双次数 $(a,b)$ の曲線の算術種数は $(a-1)(b-1)$ である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の例「$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$」)。そこでも thm-gdf-delta がそのまま使えるので、正規化の種数は $(a-1)(b-1)$ から特異点の寄与を引いたものになる。平面曲線の次数・類(双対曲線の次数)・結節点と尖点の個数・複接線と変曲点の個数の間の関係は Plücker の公式が与える。種数公式はそれらと並ぶ古典的な関係式である。
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