数値的同値

同義語:numerical equivalence数値同値

概要

数値的同値(numerical equivalence)とは、射影スキーム $X$ の上の 2 つの可逆層(または因子)が $X$ のすべての曲線の上で同じ次数をもつことであり、数値的同値類の群 $N^1(X)$ は Picard 群の商として有限生成自由アーベル群になる。曲線との交叉数がすべて $0$ の可逆層はあらゆる交叉数に寄与しないので、交叉数・豊富性・nef 性は数値的同値類だけで決まり、非特異射影曲面ではすべての因子との交叉数が $0$ という定義と一致する。数値的同値は線型同値・代数的同値より粗く、曲線の上では次数が等しいことにあたり、Enriques 曲面の標準因子のように代数的同値でない例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 交叉数, 線型同値, Picard群, 代数的サイクル

射影多様体の上の 2 つの可逆層(あるいは因子)は、どの曲線の上でも同じ次数をもつとき数値的同値であるという。数値的同値は、因子に対する古典的な同値関係(線型同値・代数的同値・数値的同値)のうちで最も粗く、交叉数だけを見る同値関係である。粗い分だけ扱いやすく、数値的同値類の群 $N^1(X)$ は有限生成自由アーベル群になり、その実係数化 $N^1(X)_\mathbb{R}$ は有限次元の実ベクトル空間として、豊富な因子や nef 因子のなす錐の舞台になる。
この記事では、射影スキームの上の可逆層の数値的同値と、$1$ 次元サイクルの数値的同値を定義し、曲線との交叉数がすべて $0$ の可逆層はあらゆる交叉数に寄与しないこと、数値的同値が引き戻しで保たれること、曲面では「すべての因子との交叉数が $0$」という定義と一致することを証明する。曲線の上では数値的同値は次数が等しいことにほかならず、種数が正の曲線では線型同値よりも真に粗い。

定義

この記事を通して $k$ を体、$X$ を $k$ 上の射影スキームとする。$X$ の曲線とは、$1$ 次元の整な閉部分スキームのことをいう。曲線 $C$ の上の可逆層 $\mathcal{N}$ の次数を
$$ \deg_C\mathcal{N}:=\chi(C,\mathcal{N})-\chi(C,\mathcal{O}_C) $$
で定める($\chi$ は層コホモロジーの Euler 標数)。$X$ の可逆層 $\mathcal{L}$ については $\deg_C\mathcal{L}:=\deg_C(\mathcal{L}|_C)$ と書く。これは交叉数 $(\mathcal{L}\cdot C)$ に等しく(交叉数 の命題「1 次元の台をもつ層の交叉数」)、交叉数の多重線型性(同記事の定理「交叉数の対称性と多重線型性」)により $\mathcal{L}\mapsto\deg_C\mathcal{L}$ は群準同型 $\operatorname{Pic}(X)\to\mathbb{Z}$ である。

可逆層と因子の数値的同値

可逆層 $\mathcal{L}$ が数値的に自明(numerically trivial)であるとは、$X$ のすべての曲線 $C$ について $\deg_C\mathcal{L}=0$ となることをいう。2 つの可逆層 $\mathcal{L},\mathcal{L}'$ は、$\mathcal{L}\otimes\mathcal{L}'^\vee$ が数値的に自明であるとき数値的同値(numerically equivalent)であるといい、$\mathcal{L}\equiv\mathcal{L}'$ と書く。Cartier 因子 $D,D'$ は $\mathcal{O}_X(D)\equiv\mathcal{O}_X(D')$ のとき数値的同値であるという。数値的に自明な可逆層の類は $\operatorname{Pic}(X)$ の部分群をなし、その商を
$$ N^1(X):=\operatorname{Pic}(X)/\{\text{数値的に自明な可逆層}\} $$
と書く。$N^1(X)$ の階数を $X$ の Picard 数といい、$\rho(X)$ と書く。

1 次元サイクルの数値的同値

$X$ の曲線を基底とする自由アーベル群を $Z_1(X)$ とし、$\mathcal{L}\in\operatorname{Pic}(X)$ と $z=\sum a_iC_i\in Z_1(X)$ に対し $(\mathcal{L}\cdot z):=\sum a_i\deg_{C_i}\mathcal{L}$ とおく。$z$ が数値的同値で $0$ であるとは、すべての $\mathcal{L}$ について $(\mathcal{L}\cdot z)=0$ となることをいい、その商を $N_1(X)$ と書く。

定義により、交叉数は双線型写像 $N^1(X)\times N_1(X)\to\mathbb{Z}$ を誘導し、これは両側で非退化である(左の元がすべての右の元と $0$ を与えるなら左の元は $0$、逆も同様)。$X$ が代数閉体上の非特異射影多様体なら、余次元 $q$ の任意のサイクルについて Chow 環の交叉積を使った数値的同値が定義される(代数的サイクル の定義「代数的同値・ホモロジー同値・数値的同値」の 3)。因子と曲線の交叉積の次数は $\deg_C\mathcal{O}_X(D)$ に等しい($D$ を $C$ を含まない有効因子の差に取り替えれば、Har77 Appendix A の公理 A7(p. 427)による)ので、余次元 $1$ のサイクルと $1$ 次元のサイクルについては、そこでの定義はここでの定義と同じ同値関係を与える。

直感

可逆層の同型類(線型同値類)は、曲線の上では次数という整数と、$\operatorname{Pic}^0$ という連続的なパラメータの組で決まる。数値的同値は、この連続的なパラメータを忘れて、各曲線での次数という離散的な情報だけを残す。たとえば楕円曲線 $E$ の上の可逆層 $\mathcal{O}_E(P-O)$ は、$P$ を動かすと互いに線型同値でない可逆層の族を作るが、どれも次数 $0$ で数値的に自明である。こうして $\operatorname{Pic}(X)$ の大きな連続部分が消え、$N^1(X)$ は有限生成の格子になる。
もう 1 つの見方は双対性である。$N^1(X)$ は因子の、$N_1(X)$ は曲線の「交叉数で区別できる部分」であり、交叉数がちょうど 2 つを双対にする。位相幾何に例えれば、$N^1(X)_\mathbb{R}$ と $N_1(X)_\mathbb{R}$ はコホモロジー $H^2$ とホモロジー $H_2$ の中の代数的な部分にあたり($k=\mathbb{C}$ なら交叉数は第 1 Chern 類の値に一致する。交叉数 の「補足」)、豊富性や nef 性といった正値性は、この有限次元の空間の中の錐で記述される。

例と反例

射影空間の数値的同値類

$X=\mathbb{P}^n_k$ では $\operatorname{Pic}(X)\cong\mathbb{Z}$ で $\mathcal{O}(1)$ が生成元である(Picard群 の例「射影空間の場合」)。直線 $\ell$ の上で $\deg_\ell\mathcal{O}(d)=d$ だから、$\mathcal{O}(d)$ が数値的に自明なのは $d=0$ のときに限り、$N^1(\mathbb{P}^n)=\operatorname{Pic}(\mathbb{P}^n)\cong\mathbb{Z}$、$\rho=1$ である。

曲線では次数

$C$ を $k$ 上の整な射影曲線とすると、$C$ に含まれる曲線は $C$ 自身だけなので、可逆層 $\mathcal{L}$ が数値的に自明であることと $\deg_C\mathcal{L}=0$ は同値である。$k$ が代数閉体で $C$ が非特異なら、閉点 $P$ について $\deg_C\mathcal{O}_C(P)=\chi(\mathcal{O}_P)=1$ だから次数は全射で、$N^1(C)\cong\mathbb{Z}$ である。$C$ の種数が正なら、異なる 2 点 $P\ne Q$ について $\mathcal{O}_C(P-Q)$ は数値的に自明だが、$P$ と $Q$ は線型同値でない(線型同値 の定理「有理曲線の判定」)。したがって数値的同値は線型同値より真に粗い。

2次曲面

$k$ を代数閉体、$X=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ とし、2 つの直線族の代表を $\ell_1=\{a\}\times\mathbb{P}^1$、$\ell_2=\mathbb{P}^1\times\{b\}$ とする。$\operatorname{Pic}(X)\cong\mathbb{Z}^2$ は $\mathcal{O}(\ell_1),\mathcal{O}(\ell_2)$ で生成され、交叉数は $\ell_1^2=\ell_2^2=0$、$\ell_1\cdot\ell_2=1$ である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の例「$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$」)。$\mathcal{O}(a\ell_1+b\ell_2)$ の $\ell_2$、$\ell_1$ 上の次数は $a$、$b$ だから、数値的に自明なのは $a=b=0$ のときに限り、$N^1(X)=\operatorname{Pic}(X)\cong\mathbb{Z}^2$、$\rho=2$ である。交叉形式の行列は $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ であり、符号数 $(1,1)$ をもつ(Hodge指数定理)。

反例:数値的同値だが代数的同値でない因子

複素数体上の Enriques 曲面 $S$ の標準因子 $K_S$ は $2K_S\sim0$ をみたすので、任意の曲線 $C$ について $2\deg_C\mathcal{O}(K_S)=0$、すなわち $K_S$ は数値的に自明である。しかし $K_S$ は代数的同値で $0$ でない(代数的同値 の例「反例:数値的同値だが代数的同値でない因子」)。数値的同値は代数的同値よりも真に粗い。

反例:可約な曲線では全体の次数では足りない

$k$ を代数閉体、$X=V_+(xy)\subset\mathbb{P}^2_k$ を 2 本の直線 $C_1=\{x=0\}$、$C_2=\{y=0\}$ の和とし、$C_1$ 上の点 $P$、$C_2$ 上の点 $Q$ を交点 $(0:0:1)$ と異なるようにとる。$X$ は $P,Q$ で非特異なので $P,Q$ は有効 Cartier 因子であり、$\mathcal{L}:=\mathcal{O}_X(P-Q)$ とおく。$\mathcal{L}|_{C_1}=\mathcal{O}_{C_1}(P)$、$\mathcal{L}|_{C_2}=\mathcal{O}_{C_2}(-Q)$ だから $\deg_{C_1}\mathcal{L}=1$、$\deg_{C_2}\mathcal{L}=-1$ で、$\mathcal{L}$ は数値的に自明でない。一方 $X$ 全体での $\chi(\mathcal{L})-\chi(\mathcal{O}_X)=(\mathcal{L}\cdot\mathcal{O}_X)$ は、交叉数 の命題「1 次元の台をもつ層の交叉数」により $\deg_{C_1}\mathcal{L}+\deg_{C_2}\mathcal{L}=0$ である。曲線が既約でないと、全体の次数が $0$ でも数値的に自明とは限らない。

特異な曲面と Weil 因子

$k$ を標数 $2$ でない体とし、$X=V_+(xy-z^2)\subset\mathbb{P}^3_k$(2 次錐、頂点 $(0:0:0:1)$)とする。頂点を通る直線 $\ell=\{x=z=0\}$ は Weil 因子であるが Cartier 因子ではない(Cartier因子 の例「反例:2次錐の上の直線」)。$\ell$ は曲線なので可逆層の次数 $\deg_\ell\mathcal{L}$ は定まるが、$\mathcal{O}_X(\ell)$ は可逆層でないので、「すべての因子 $E$ について $D\cdot E=0$」という条件の相手 $E$ に Weil 因子 $\ell$ を取ることはできない。prop-ne-surface が使う「曲線=因子」という同一視が崩れるのはこの点だけである。相手を Cartier 因子に限れば、この錐では $\operatorname{Pic}(X)=\mathbb{Z}\cdot\mathcal{O}_X(1)$ である。実際、$\operatorname{Cl}(X)=\mathbb{Z}\ell$ で、超平面切断 $H=X\cap\{x=0\}$ は $2\ell$ に線型同値である(Har77 II, Exercise 6.5 (c)(1), p. 147。$X\cap\{x=0\}$ は $\ell$ を重複度 $2$ で含み、$X\setminus\ell\cong\mathbb{A}^2$ である)。$X$ は正規なので $\operatorname{Pic}(X)\to\operatorname{Cl}(X)$ は単射であり(Cartier因子 の定理「CartierからWeilへ」の 2)、像は $\mathcal{O}_X(1)$ の像 $2\ell$ を含み $\ell$ を含まないから、$2\mathbb{Z}\ell$ に等しい(奇数倍 $(2m+1)\ell$ が Cartier なら $\ell=(2m+1)\ell-mH$ も Cartier になる)。したがって、Cartier 因子 $D$ について「すべての曲線で次数 $0$」と「すべての Cartier 因子 $E$ で $D\cdot E=0$」はどちらも $D$ の類が $0$ であることと同値であり、2 つの条件は一致する。

外す条件反例成り立たなくなること
曲線が既約(ex-ne-curve の「次数 $0$ なら数値的に自明」)交わる 2 直線 $xy=0$ 上の $\mathcal{O}(P-Q)$全体の次数は $0$ なのに数値的に自明でない

性質

交叉数は数値的同値類で決まる

曲線との交叉数がすべて $0$ という条件は、$1$ 次元の情報しか見ていないように見える。しかし実際には、高い次元の部分多様体との交叉数もすべて $0$ になる。

数値的に自明な可逆層の交叉数

$\mathcal{L}$ を $X$ の数値的に自明な可逆層とする。$n\ge1$、$\dim\operatorname{Supp}\mathcal{F}\le n$ の任意の連接層 $\mathcal{F}$ と任意の可逆層 $\mathcal{L}_2,\dots,\mathcal{L}_n$ について
$$ (\mathcal{L}\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_n\cdot\mathcal{F})=0 $$
である。したがって交叉数 $(\mathcal{L}_1\cdots\mathcal{L}_n\cdot\mathcal{F})$ は各 $\mathcal{L}_i$ の数値的同値類だけで決まり、多重線型写像 $N^1(X)^n\to\mathbb{Z}$ を定める。

交叉数の次元についての帰納法

$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ のとき、$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の $1$ 次元の既約成分を $C_1,\dots,C_t$、その生成点での $\mathcal{F}$ の茎の長さを $\ell_j$ とすると、交叉数 の命題「1 次元の台をもつ層の交叉数」により
$$ (\mathcal{L}\cdot\mathcal{F})=\sum_{j=1}^t\ell_j\,\deg_{C_j}\mathcal{L}=0 $$
である。
$n\ge2$ とし、$n-1$ では主張が成り立つとする。$S$ を $\mathcal{F}$ の随伴点の集合とする。交叉数 の補題「随伴点を避ける切断」を $\mathcal{L}_n$ と $\mathcal{O}_X$ に当てはめ、十分大きい $N$ をとると、$\mathcal{A}:=\mathcal{L}_n(N)$ と $\mathcal{B}:=\mathcal{O}_X(N)$ は $S$ のどの点でも消えない切断 $s_\mathcal{A}$、$s_\mathcal{B}$ をもち、$\mathcal{L}_n\cong\mathcal{A}\otimes\mathcal{B}^\vee$ である。交叉数の多重線型性(交叉数 の定理「交叉数の対称性と多重線型性」)により
$$ (\mathcal{L}\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_n\cdot\mathcal{F})=(\mathcal{L}\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_{n-1}\cdot\mathcal{A}\cdot\mathcal{F})-(\mathcal{L}\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_{n-1}\cdot\mathcal{B}\cdot\mathcal{F}) $$
である。交叉数 の補題「制限の公式」により、右辺の第 1 項は $(\mathcal{L}\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_{n-1}\cdot\mathcal{F}/s_\mathcal{A}\mathcal{F})$ に等しく、$\dim\operatorname{Supp}(\mathcal{F}/s_\mathcal{A}\mathcal{F})\le n-1$ だから、帰納法の仮定によりこれは $0$ である。第 2 項も同様に $0$ である。
後半:$\mathcal{L}_1\equiv\mathcal{L}_1'$ なら、多重線型性により 2 つの交叉数の差は $(\mathcal{L}_1\otimes\mathcal{L}_1'^\vee\cdot\mathcal{L}_2\cdots\mathcal{L}_n\cdot\mathcal{F})$ であり、前半により $0$ である。対称性により他の変数でも同じである。$\square$

この定理とその証明は Vak25 Proposition 20.1.6(p. 578)にあり、同書は $X$ が固有な場合の文献も挙げている。帰結として、$n$ 次元の閉部分多様体 $V$ に対する $(\mathcal{L}^n\cdot V)$ は $\mathcal{L}$ の数値的同値類だけで決まる。Nakai–Moishezon の判定法は「すべての閉部分多様体 $V$ について $(\mathcal{L}^{\dim V}\cdot V)>0$ なら $\mathcal{L}$ は豊富」という形をしている(Vak25 Theorem 20.4.1, p. 589)ので、豊富な可逆層であることは数値的同値類だけで決まる性質である(同 Remarks 20.4.2)。すべての曲線 $C$ で $\deg_C\mathcal{L}\ge0$ となる可逆層を nef(numerically effective)といい(Vak25 Definition 18.4.13, p. 513)、nef であることも定義から数値的同値類だけで決まる。

引き戻し

数値的に自明な可逆層の引き戻し

$\pi\colon Y\to X$ を $k$ 上の射影スキームの間の射、$\mathcal{L}$ を $X$ の可逆層とする。$Y$ の曲線 $C'$ の像 $\pi(C')$ が曲線 $C$ なら $\pi|_{C'}\colon C'\to C$ は有限全射で
$$ \deg_{C'}\pi^*\mathcal{L}=[K(C'):K(C)]\,\deg_C\mathcal{L} $$
であり、$\pi(C')$ が 1 点なら $\deg_{C'}\pi^*\mathcal{L}=0$ である。とくに $\mathcal{L}$ が数値的に自明なら $\pi^*\mathcal{L}$ も数値的に自明であり、$\pi^*$ は準同型 $N^1(X)\to N^1(Y)$ を誘導する。

有限射の押し出しと次数

$C'$ は $k$ 上射影的で $X$ は分離的だから、$\pi|_{C'}\colon C'\to X$ は射影射であり(Har77 II, Exercise 4.9, p. 107)、像 $\pi(C')$ は既約な閉集合で次元は $1$ 以下である。
像が 1 点 $x$ のとき:$C'$ は被約だから $\pi|_{C'}$ は $\operatorname{Spec}\kappa(x)$ を経由し(Har77 II, Exercise 3.11 (d), p. 92)、$\pi^*\mathcal{L}|_{C'}$ は $\operatorname{Spec}\kappa(x)$ 上の可逆層、すなわち自明な層の引き戻しなので $\mathcal{O}_{C'}$ と同型であり、次数は $0$ である。
像が曲線 $C$(被約な構造をもつ整な閉部分スキーム)のとき:$C'$ は被約なので、同じ理由で $\pi|_{C'}$ は $C$ を経由し、$f\colon C'\to C$ は射影的で全射である。$C$ の閉点の上のファイバーは $C'$ の真の閉集合(全体なら像が 1 点)なので有限集合である。$C'$ の閉点は閉点に移るので、$C$ の生成点の上のファイバーは $C'$ の生成点だけである。よって $f$ のファイバーはすべて有限であり、射影的でファイバーが有限な射は有限射である(Har77 III, Exercise 11.2, p. 280)。有限射はアフィン射なので $H^i(C',\mathcal{G})=H^i(C,f_*\mathcal{G})$(Har77 III, Exercise 4.1, p. 222)であり、射影公式 $f_*(f^*\mathcal{N})\cong f_*\mathcal{O}_{C'}\otimes\mathcal{N}$(Har77 II, Exercise 5.1 (d), p. 124)から、$\mathcal{N}:=\mathcal{L}|_C$ について
$$ \deg_{C'}f^*\mathcal{N}=\chi(C,f_*\mathcal{O}_{C'}\otimes\mathcal{N})-\chi(C,f_*\mathcal{O}_{C'})=-(\mathcal{N}^\vee\cdot f_*\mathcal{O}_{C'})=(\mathcal{N}\cdot f_*\mathcal{O}_{C'}) $$
である(交叉数は $C$ の上でとり、最後の等号は多重線型性による)。$f_*\mathcal{O}_{C'}$ は台が $C$ の連接層で、生成点での茎は $K(C)$ 上 $[K(C'):K(C)]$ 次元のベクトル空間 $K(C')$ である。交叉数 の命題「1 次元の台をもつ層の交叉数」により右辺は $[K(C'):K(C)](\mathcal{N}\cdot C)=[K(C'):K(C)]\deg_C\mathcal{L}$ である。
最後の主張は、$Y$ のどの曲線 $C'$ についても上の 2 つの場合のどちらかで $\deg_{C'}\pi^*\mathcal{L}=0$ となることによる。$\square$

$\pi^*$ と押し出し $\pi_*\colon Z_1(Y)\to Z_1(X)$($C'\mapsto[K(C'):K(C)]\,C$、像が点なら $0$)について、上の式は $(\pi^*\mathcal{L}\cdot z)=(\mathcal{L}\cdot\pi_*z)$($z\in Z_1(Y)$)という射影公式の形をしている。したがって $\pi_*$ も $N_1(Y)\to N_1(X)$ を誘導し、$\pi^*$ と $\pi_*$ は交叉数の対について互いに双対である。

曲面の場合

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異射影曲面とする。交叉理論 の定理「交叉形式の符号」の前の説明や Har77 V §1(p. 364)では、因子 $D$ が数値的同値で $0$ であることを「すべての因子 $E$ について $D\cdot E=0$」で定義する。曲面の交点数 $D\cdot E$ は、交叉数 で $n=2$、$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ とした $(\mathcal{O}_X(D)\cdot\mathcal{O}_X(E))$ と同じ式で定義される(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定義「交点数」)。

曲面での 2 つの定義の一致

$X$ を代数閉体上の非特異射影曲面、$D$ を因子とする。$D$ が def-ne-numerical-equivalence の意味で数値的に自明であることと、すべての因子 $E$ について $D\cdot E=0$ であることは同値である。

曲線の因子への制限から

$X$ は非特異なので、曲線 $C\subset X$ は素因子であり、有効 Cartier 因子で、その閉部分スキームは被約な $C$ である(Cartier因子 の定理「CartierからWeilへ」と系「正規スキーム上の有効性とイデアル層」)。$X$ は整なので $\mathcal{O}_X$ の随伴点は生成点だけであり、$C$ の標準切断はそこで消えない。交叉数 の補題「制限の公式」により
$$ D\cdot C=(\mathcal{O}_X(D)\cdot C\cdot\mathcal{O}_X)=(\mathcal{O}_X(D)\cdot\mathcal{O}_C)=\deg_C\mathcal{O}_X(D) $$
である。したがって、すべての $E$ で $D\cdot E=0$ なら、とくに $E=C$ として $D$ は数値的に自明である。逆に $D$ が数値的に自明なら、任意の因子 $E=\sum n_iC_i$($C_i$ は曲線)について、交点数の双線型性から $D\cdot E=\sum n_i\deg_{C_i}\mathcal{O}_X(D)=0$ である。$\square$

したがって曲面では $N^1(X)$ は Har77 V, Remark 1.9.1 の $\operatorname{Num}X$ と同じものであり、交叉形式は $N^1(X)$ の上の非退化な対称双線型形式を与える。その符号数が $(1,\rho-1)$ であることが Hodge の指数定理である(交叉理論 の定理「交叉形式の符号」、Hodge指数定理)。

$N^1(X)$ の構造

数値的同値類の群は捩れをもたない

$N^1(X)$ は捩れをもたないアーベル群である。

次数の整数性から

$m\ge1$ と可逆層 $\mathcal{L}$ について $\mathcal{L}^{\otimes m}$ が数値的に自明なら、すべての曲線 $C$ で $m\deg_C\mathcal{L}=\deg_C\mathcal{L}^{\otimes m}=0$ であり、$\deg_C\mathcal{L}$ は整数だから $0$ である。よって $\mathcal{L}$ は数値的に自明である。$\square$

さらに $N^1(X)$ は有限生成である。これは、代数的同値類の群 $\operatorname{NS}(X)$(Néron–Severi群)が有限生成であるという Néron–Severi の定理(基底の定理)と、代数的同値ならば数値的同値であること(後述)から従い、$N^1(X)$ は $\operatorname{NS}(X)$ の商として有限生成であり、捩れをもたないので階数 $\rho(X)$ の自由アーベル群になる(Vak25 §18.4.12, p. 513、Har77 V, Exercise 1.7, p. 367)。

ほかの同値関係との比較

因子に対する同値関係は、細かい順に
$$ \text{線型同値}\ \Longrightarrow\ \text{代数的同値}\ \Longrightarrow\ \text{数値的同値} $$
と並ぶ。最初の含意は 代数的同値 の命題「有理同値ならば代数的同値」にある(Har77 V, Exercise 1.7 (b))。2 番目の含意は、平坦な曲線の族の上で可逆層の次数が一定であることによる(Vak25 Corollary 24.7.3, p. 719、曲面の場合は 代数的同値 の命題「曲面上の交叉数の不変性」と Har77 V, Exercise 1.7 (c))。どちらの逆も成り立たない(ex-ne-curve、ex-ne-enriques)。非特異射影多様体では、数値的同値と代数的同値の差は $\operatorname{NS}(X)$ の捩れ部分群にちょうど一致する(Matsusaka の定理。代数的同値 の定理「同値関係の階層」の 2)。
高い余次元のサイクルについては、数値的同値はホモロジー同値より粗く、両者が一致するかどうかは Grothendieck の標準予想 D の内容である(代数的同値 の注意「階層の出典」)。

関連項目

参考文献

[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, II, Exercise 3.11 (d)(p. 92)、Exercise 6.5 (c)(1)(p. 147)、Exercise 4.9(p. 107)、Exercise 5.1 (d)(p. 124)、III, Exercise 4.1(p. 222)、Exercise 11.2(p. 280)、V §1 の数値的同値の定義と Remark 1.9.1(p. 364)、Exercise 1.7(p. 367)、Appendix A の公理 A7(p. 427)

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