ノルム空間(normed space)とは、実数体または複素数体上のベクトル空間に、正値性・斉次性・三角不等式を満たす長さの関数であるノルム $\|\cdot\|$ を与えたものである。距離 $\|x-y\|$ によって収束・連続性・Cauchy 列などの解析の言葉がベクトル空間の上で使えるようになり、$\mathbb{R}^n$ や数列の空間 $\ell^p$、連続関数の空間 $C([0,1])$ を同じ枠組みで扱える。線形写像が連続であることと有界であることは同値である。有限次元ではすべてのノルムが同値で閉単位球はコンパクトだが、無限次元では同値でないノルムがあり、閉単位球はコンパクトでない。
平面のベクトル $x=(x_1,x_2)$ の長さは $\sqrt{x_1^2+x_2^2}$ で測るのが普通だが、区間 $[0,1]$ 上の連続関数 $f$ の「大きさ」には、値の絶対値の最大 $\max_t|f(t)|$ や、グラフと横軸の間の面積 $\int_0^1|f(t)|\,dt$ など、いくつもの測り方がある。どの測り方でも、零ベクトルだけが大きさ $0$ をもつこと、$2$ 倍すれば大きさも $2$ 倍になること、和の大きさは大きさの和を超えないこと、の 3 つは共通している。この 3 つを公理にしたものがノルムであり、ノルムを備えたベクトル空間がノルム空間である。
ノルムがあれば 2 つのベクトルの距離を $\|x-y\|$ で測れるので、収束・連続性・Cauchy 列・級数の和といった解析の言葉が、関数の空間のような無限次元のベクトル空間の上でも使えるようになる。ただし同じ空間でもノルムの選び方によって「収束する列」が変わることがある。有限次元ではどのノルムを選んでも収束の意味は変わらないが、無限次元では変わりうる。この違いを正確に述べることが、ノルム空間の基本的な性質の中心になる。
以下、$F$ は実数体 $\mathbb{R}$ または複素数体 $\mathbb{C}$ を表し、$a\in F$ の絶対値を $|a|$ と書く。
$V$ を $F$ 上のベクトル空間とする。関数 $\|\cdot\|\colon V\to\mathbb{R}$ が次の 3 条件を満たすとき、これを $V$ 上のノルム(norm)という。
(R1) (正値性)すべての $x\in V$ について $\|x\|\ge0$ であり、$\|x\|=0$ となるのは $x=0$ のときに限る。
(R2) (斉次性)すべての $a\in F$、$x\in V$ について $\|ax\|=|a|\,\|x\|$ である。
(R3) (三角不等式)すべての $x,y\in V$ について $\|x+y\|\le\|x\|+\|y\|$ である。
ベクトル空間 $V$ とその上のノルム $\|\cdot\|$ の組 $(V,\|\cdot\|)$ をノルム空間(normed space)またはノルム線形空間という。ノルムが文脈から明らかなときは、単に $V$ をノルム空間という。
条件 (i) のうち「$\|x\|=0$ なら $x=0$」だけを外し、$\|x\|\ge0$ と条件 (ii)・(iii) を満たす関数を半ノルム(seminorm)という。条件 (ii) で $a=0$ とすると $\|0\|=0$ が従うので、半ノルムでも $\|0\|=0$ である。
ノルム空間 $(V,\|\cdot\|)$ において
$$
d(x,y):=\|x-y\|\qquad(x,y\in V)
$$
と定める。$d$ は $V$ 上の距離空間の距離である(prop-normed-space-basic)。以後、ノルム空間の収束・開集合・閉集合・Cauchy列・連続性などは、すべてこの距離について考える。とくに $V$ の点列 $(x_n)$ が $x$ に収束するとは $\|x_n-x\|\to0$ となることであり、部分集合 $A\subset V$ が有界であるとは、ある $M\ge0$ について $A$ のすべての元 $x$ が $\|x\|\le M$ を満たすことである。
$\{x\in V\mid\|x\|\le1\}$ を $V$ の閉単位球、$\{x\in V\mid\|x\|=1\}$ を単位球面という。
同じベクトル空間に 2 つのノルムがあるとき、それらが同じ収束を与えるかどうかは次の条件で判定できる(prop-normed-space-equivalent)。
ベクトル空間 $V$ 上の 2 つのノルム $\|\cdot\|$ と $\|\cdot\|'$ が同値であるとは、定数 $c,C>0$ が存在して、すべての $x\in V$ について
$$
c\,\|x\|\le\|x\|'\le C\,\|x\|
$$
が成り立つことをいう。
この関係は同値関係である。反射律は $c=C=1$ でよく、対称律は不等式を $\frac1C\|x\|'\le\|x\|\le\frac1c\|x\|'$ と書き直せばよく、推移律は定数を掛け合わせればよい。
$F^n$ の元 $x=(x_1,\dots,x_n)$ について
$$
\|x\|_1:=\sum_{k=1}^n|x_k|,\qquad \|x\|_2:=\Bigl(\sum_{k=1}^n|x_k|^2\Bigr)^{1/2},\qquad \|x\|_\infty:=\max_{1\le k\le n}|x_k|
$$
と定めると、3 つともノルムである。$\|\cdot\|_1$ と $\|\cdot\|_\infty$ の三角不等式は、各成分での $|x_k+y_k|\le|x_k|+|y_k|$(絶対値と三角不等式)を足し合わせるか最大をとれば得られる。$\|\cdot\|_2$ は標準内積 $\langle x,y\rangle=\sum_kx_k\overline{y_k}$ から定まるノルムであり、三角不等式は 内積空間 の記事の定理「三角不等式と平行四辺形の等式」による。
たとえば $x=(3,-4)\in\mathbb{R}^2$ では $\|x\|_1=7$、$\|x\|_2=5$、$\|x\|_\infty=4$ である。一般に
$$
\|x\|_\infty\le\|x\|_2\le\|x\|_1\le n\,\|x\|_\infty
$$
が成り立つ。したがって 3 つのノルムは互いに同値である。
最初の不等式は $\max_k|x_k|^2\le\sum_k|x_k|^2$ から、2 番目は $\sum_k|x_k|^2\le\bigl(\sum_k|x_k|\bigr)^2$(右辺を展開すると左辺に非負の交差項を足したものになる)から、3 番目は各 $|x_k|$ を $\max_j|x_j|$ で上から押さえて得られる。
$\mathbb{R}^2$ でこの 3 つのノルムの閉単位球を描くと、$\|\cdot\|_1$ では頂点が座標軸上にある菱形、$\|\cdot\|_2$ では円板、$\|\cdot\|_\infty$ では正方形になる(下の図の左)。上の不等式 $\|x\|_\infty\le\|x\|_2\le\|x\|_1$ は、これらの閉単位球が菱形 $\subset$ 円板 $\subset$ 正方形 の順に入れ子になっていることにあたる。3 つとも凸な図形であることは偶然ではなく、三角不等式の言い換えである(prop-normed-space-convex)。
3 つのノルムの閉単位球と、指数を 1/2 にした場合の凸でない集合
$1\le p<\infty$ とする。$F$ の数列 $x=(x_1,x_2,\dots)$ で $\sum_{k=1}^\infty|x_k|^p<\infty$ を満たすもの全体を $\ell^p$ と書き、
$$
\|x\|_p:=\Bigl(\sum_{k=1}^\infty|x_k|^p\Bigr)^{1/p}
$$
と定める。$\ell^p$ は成分ごとの和とスカラー倍でベクトル空間になり、$\|\cdot\|_p$ はノルムである。三角不等式は Minkowski の不等式 $\|x+y\|_p\le\|x\|_p+\|y\|_p$ であり、$p=1$ なら成分ごとの三角不等式を足せばよいが、$1< p<\infty$ では Hölder の不等式を経由する(Axl20 7.14、p. 199。同書は測度空間の $L^p$ で述べており、自然数の上の数え上げ測度の場合が $\ell^p$ である。同書 Example 7.2、p. 194)。
有界な数列全体 $\ell^\infty$ には $\|x\|_\infty:=\sup_k|x_k|$ を入れる。$\ell^\infty$ の中で、$0$ に収束する数列全体を $c_0$、有限個の項を除いて $0$ である数列全体を $c_{00}$ と書く。$c_{00}\subset c_0\subset\ell^\infty$ であり、どれも $\|\cdot\|_\infty$ でノルム空間になる。$c_{00}$ には $\|\cdot\|_p$($1\le p<\infty$)も入れられる。
$X$ を空でない集合とし、$X$ 上の有界な $F$ 値関数全体を $b(X)$ と書く。$b(X)$ には上限ノルム $\|f\|_\infty:=\sup_{t\in X}|f(t)|$ が入る。三角不等式は、各 $t$ で $|f(t)+g(t)|\le\|f\|_\infty+\|g\|_\infty$ が成り立つので上限をとればよい。$X=\{1,\dots,n\}$ なら $b(X)=F^n$ で、これは ex-normed-space-fn の $\|\cdot\|_\infty$ である。
閉区間 $[0,1]$ 上の連続な $F$ 値関数全体を $C([0,1])$ と書く。連続関数は $[0,1]$ 上で有界なので(コンパクト空間 の記事の定理「最大値・最小値の存在」)、$C([0,1])\subset b([0,1])$ であり、上限ノルムが入る。$C([0,1])$ にはもう 1 つ
$$
\|f\|_1:=\int_0^1|f(t)|\,dt
$$
というノルムも入る。条件 (ii)・(iii) は積分の線形性と単調性から従い、条件 (i) では連続性が効く。
$f(t_0)\ne0$ となる $t_0$ があれば、連続性から $t_0$ を含む長さ正の区間 $J\subset[0,1]$ の上で $|f(t)|\ge|f(t_0)|/2$ となり、$\|f\|_1\ge|J|\cdot|f(t_0)|/2>0$ である。よって $\|f\|_1=0$ なら $f=0$ である。
内積空間 $(V,\langle\cdot,\cdot\rangle)$ では $\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ がノルムであり(内積空間 の記事の定理「三角不等式と平行四辺形の等式」)、内積空間はノルム空間の例である。$F^n$ の $\|\cdot\|_2$ と $\ell^2$ の $\|\cdot\|_2$ はこの形をしている。$\ell^2$ の内積 $\sum_kx_k\overline{y_k}$ が収束することは、有限和の Cauchy–Schwarz の不等式で $\sum_{k\le m}|x_ky_k|$ を $\|x\|_2\|y\|_2$ で押さえ、$m\to\infty$ とすれば(絶対収束するので)わかる。
逆に、ノルムは内積から来るとは限らない。内積から来るノルムは平行四辺形の等式 $\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2$ を満たすが、$F^2$ の $\|\cdot\|_1$ では $x=(1,0)$、$y=(0,1)$ について左辺が $2^2+2^2=8$、右辺が $2+2=4$ であり、等式が成り立たない。
ノルムの 3 条件のどれか 1 つを外すと、ノルムにならない関数が現れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 三角不等式 | $F^2$ 上の $N(x)=(\lvert x_1\rvert^{1/2}+\lvert x_2\rvert^{1/2})^2$ | $N((1,0)+(0,1))\le N((1,0))+N((0,1))$ |
| 斉次性 | $F^2$ 上の $N(x)=\lvert x_1\rvert^{1/2}+\lvert x_2\rvert^{1/2}$ | $N(2x)=2N(x)$ |
| 正値性の「$0$ だけ」 | $C([0,1])$ 上の $p(f)=\lvert f(0)\rvert$ | $p(f)=0\Rightarrow f=0$、距離 $p(f-g)$ が点を区別すること |
$F^2$ 上の $N(x)=(|x_1|^{1/2}+|x_2|^{1/2})^2$ は条件 (i)・(ii) を満たす。実際 $N(ax)=(|a|^{1/2})^2(|x_1|^{1/2}+|x_2|^{1/2})^2=|a|N(x)$ である。しかし $N((1,0))=N((0,1))=1$ に対して $N((1,1))=(1+1)^2=4>2$ であり、三角不等式を満たさない。満たす性質は正値性と斉次性、満たさない性質は三角不等式である。
図の右は $\{x\in\mathbb{R}^2\mid N(x)\le1\}$ で、4 本の弧が内側にへこんだ形をしている。$(1,0)$ と $(0,1)$ はこの集合に属するが、その中点 $(1/2,1/2)$ は $N((1/2,1/2))=\bigl(2\cdot(1/2)^{1/2}\bigr)^2=2>1$ なので属さない。三角不等式が破れていることと「単位球」が凸でないことは、prop-normed-space-convex により同じことである。
$F^2$ 上の $N(x)=|x_1|^{1/2}+|x_2|^{1/2}$ は条件 (i) と三角不等式を満たすが、$N((2,0))=\sqrt2\ne2=2N((1,0))$ なので斉次性を満たさない。
三角不等式は成分ごとの $|s+t|^{1/2}\le|s|^{1/2}+|t|^{1/2}$ を足せばよく、この不等式は両辺を 2 乗すれば $|s+t|\le|s|+|t|+2|s|^{1/2}|t|^{1/2}$ となって成り立つ。
$(V,\|\cdot\|)$ をノルム空間とする。
要点:どの主張もノルムの 3 条件を書き直したものである。1 は条件 (i)〜(iii) がそのまま距離の公理になり、2 は $x=(x-y)+y$ に三角不等式を使い、3 は $a_nx_n-ax=a_n(x_n-x)+(a_n-a)x$ と分けて評価し、4 は 3 を閉包の点に近づく点列に使う。
1:$d(x,y)\ge0$ で、$d(x,y)=0$ は $x-y=0$ と同値である(条件 (i))。$d(y,x)=\|(-1)(x-y)\|=|-1|\,\|x-y\|=d(x,y)$(条件 (ii))。$d(x,z)=\|(x-y)+(y-z)\|\le d(x,y)+d(y,z)$(条件 (iii))。よって $d$ は距離である。平行移動不変性は $(x+z)-(y+z)=x-y$ から、斉次性は $ax-ay=a(x-y)$ と条件 (ii) から従う。
2:$\|x\|=\|(x-y)+y\|\le\|x-y\|+\|y\|$ より $\|x\|-\|y\|\le\|x-y\|$ であり、$x$ と $y$ を入れ替えると $\|y\|-\|x\|\le\|y-x\|=\|x-y\|$ である。
3:三角不等式から $\|(x_n+y_n)-(x+y)\|\le\|x_n-x\|+\|y_n-y\|\to0$ である。スカラー倍については $$\|a_nx_n-ax\|=\|a_n(x_n-x)+(a_n-a)x\|\le|a_n|\,\|x_n-x\|+|a_n-a|\,\|x\|$$ であり、収束する数列 $(a_n)$ は有界なので右辺は $0$ に収束する。
4:距離空間では、閉包の点は元の集合の点列の極限である。$x,y\in\overline U$、$a\in F$ とし、$U$ の点列 $x_n\to x$、$y_n\to y$ をとると、$x_n+ay_n\in U$ であり、3 により $x_n+ay_n\to x+ay$ なので $x+ay\in\overline U$ である。$0\in U\subset\overline U$ だから $\overline U$ は部分空間である(ベクトル空間 の記事の命題「部分空間の判定」)。$\square$
ノルムから定まる距離の開球 $B(x,r)=\{y\mid\|y-x\|< r\}$ は凸集合で、$B(x,r)=x+rB(0,1)$ と単位開球の平行移動と拡大で書け、その閉包は閉球 $\{y\mid\|y-x\|\le r\}$ に一致する。これらは 開球 の記事の命題「ノルム空間の開球」で示されている。単位球の凸性については、逆向きの主張も成り立つ。
$V$ を $F$ 上のベクトル空間とし、関数 $N\colon V\to\mathbb{R}$ はノルムの条件 (i)・(ii) を満たすとする。このとき、$N$ が三角不等式を満たすことと、$K:=\{x\in V\mid N(x)\le1\}$ が凸集合であることは同値である。
三角不等式を仮定し、$x,y\in K$、$0\le t\le1$ とすると、$N((1-t)x+ty)\le(1-t)N(x)+tN(y)\le1$ なので $K$ は凸である。
逆に $K$ が凸であるとし、$x,y\in V$ をとる。$x=0$ なら $N(x+y)=N(y)=N(x)+N(y)$ であり、$y=0$ のときも同様である。$x\ne0$、$y\ne0$ のとき $s:=N(x)>0$、$t:=N(y)>0$ とおくと、条件 (ii) より $x/s,\,y/t\in K$ であり、
$$
\frac{x+y}{s+t}=\frac{s}{s+t}\cdot\frac{x}{s}+\frac{t}{s+t}\cdot\frac{y}{t}
$$
は $K$ の 2 点を結ぶ線分上の点なので $K$ に属する。よって $N(x+y)/(s+t)\le1$、すなわち $N(x+y)\le N(x)+N(y)$ である。$\square$
2 つのノルムが同値であることは、位相の言葉でも Cauchy 列の言葉でも言い換えられる。
$\|\cdot\|$ と $\|\cdot\|'$ を $V$ 上の同値なノルムとする。このとき、次の対象は 2 つのノルムで一致する。
$c\|x\|\le\|x\|'\le C\|x\|$ とする。1 と 2 は、$\|x_n-x\|'\le C\|x_n-x\|$、$\|x_n-x_m\|'\le C\|x_n-x_m\|$ と、逆向きの $\|\cdot\|\le\frac1c\|\cdot\|'$ から従う。4 も同じ不等式から従う。3 を示す。$U$ が $\|\cdot\|$ で開集合で $x\in U$ とすると、ある $r>0$ で $\{y\mid\|y-x\|< r\}\subset U$ である。$\|y-x\|'< cr$ なら $\|y-x\|\le\frac1c\|y-x\|'< r$ なので、$\|\cdot\|'$ の開球 $\{y\mid\|y-x\|'< cr\}$ が $U$ に含まれる。よって $U$ は $\|\cdot\|'$ でも開集合であり、対称性から逆も成り立つ。$\square$
ノルム空間の間の写像で最も基本的なものは、ベクトルの演算を保つ線形写像である。有限次元では線形写像はつねに連続だが(cor-normed-space-finite-dim)、一般には連続とは限らない。連続性は次の量で測られる。
$V,W$ を $F$ 上のノルム空間とし、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。
$$
\|T\|:=\sup\{\|Tx\|\mid x\in V,\ \|x\|\le1\}\in[0,\infty]
$$
を $T$ の作用素ノルム(operator norm)という。$\|T\|<\infty$ のとき $T$ は有界(bounded)であるといい、$V$ から $W$ への有界線形写像全体を $B(V,W)$ と書く。$V=W$ のときは $B(V):=B(V,V)$ と書く。
ここでの「有界」は、写像の値域が有界という意味ではなく、有界集合を有界集合に写すという意味である($0$ でない線形写像の値域は、$Tx\neq0$ なら $T(tx)=tTx$ の大きさが $t$ とともにいくらでも大きくなるので有界にならない)。
$V,W$ をノルム空間、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。次は同値である。
1 ⇒ 2 は明らかである。
2 ⇒ 3:$T$ は $0$ で連続で $T0=0$ なので、$\varepsilon=1$ に対してある $\delta>0$ があり、$\|x\|<\delta$ なら $\|Tx\|<1$ である。$\|x\|\le1$ なら $\|\tfrac{\delta}{2}x\|<\delta$ なので $\|T(\tfrac\delta2x)\|<1$、線形性から $\|Tx\|<2/\delta$ である。よって $\|T\|\le2/\delta<\infty$ である。
3 ⇒ 4:$x=0$ なら両辺は $0$ である。$x\ne0$ なら $u:=x/\|x\|$ は $\|u\|=1$ なので $\|Tu\|\le\|T\|$ であり、線形性から $\|Tx\|=\|x\|\,\|Tu\|\le\|T\|\,\|x\|$ である。よって $C=\|T\|$ がとれる。逆に $C$ が 4 を満たせば、$\|x\|\le1$ のとき $\|Tx\|\le C$ なので $\|T\|\le C$ であり、$\|T\|$ は最小値である。
4 ⇒ 1:$\|Tx-Ty\|=\|T(x-y)\|\le C\|x-y\|$ なので $T$ は Lipschitz 連続であり、とくに連続である。$\square$
$U,V,W$ をノルム空間とする。
2 から示す。thm-normed-space-bounded の 4 を 2 回使うと $\|S(Tx)\|\le\|S\|\,\|Tx\|\le\|S\|\,\|T\|\,\|x\|$ であり、再び同定理により $\|S\circ T\|\le\|S\|\,\|T\|$ である。
1 の要点:$\|x\|\le1$ の上で $\|(S+T)x\|\le\|S\|+\|T\|$、$\|(aT)x\|=|a|\,\|Tx\|$ として上限をとる。
$S,T\in B(V,W)$、$a\in F$、$\|x\|\le1$ とすると $\|(S+T)x\|\le\|Sx\|+\|Tx\|\le\|S\|+\|T\|$、$\|(aT)x\|=|a|\,\|Tx\|\le|a|\,\|T\|$ である。上限をとって $\|S+T\|\le\|S\|+\|T\|$、$\|aT\|\le|a|\,\|T\|$ を得る。とくに $B(V,W)$ は和とスカラー倍で閉じており、零写像を含むので部分空間である。$a\ne0$ なら $T=a^{-1}(aT)$ に同じ不等式を使って $\|T\|\le|a|^{-1}\|aT\|$ となり、$\|aT\|=|a|\,\|T\|$ である($a=0$ では両辺が $0$)。$\|T\|=0$ なら thm-normed-space-bounded の 4 より $\|Tx\|\le0$ がすべての $x$ で成り立つので $T=0$ である。$\square$
$C([0,3])$ に上限ノルムを入れ、$(Tf)(t):=t^2f(t)$ と定める。$\|Tf\|_\infty\le9\|f\|_\infty$ であり、定数関数 $f=1$ では $\|Tf\|_\infty=9=9\|f\|_\infty$ なので $\|T\|=9$ である(Axl20 Example 6.44、p. 167)。
$C([0,1])$ 上の線形汎関数 $\varphi(f):=f(0)$ を考える。上限ノルムについては $|\varphi(f)|\le\|f\|_\infty$ で、定数関数 $1$ で等号が成り立つので、$\varphi$ は有界で $\|\varphi\|=1$ である。ところが $\|\cdot\|_1$ については有界でない。$n\ge1$ について $f_n(t):=\max(0,1-nt)$ とおくと、$f_n$ は $[0,1/n]$ で $1$ から $0$ へ直線的に下がり、それ以後は $0$ である連続関数で、$\|f_n\|_1=\frac1{2n}$、$\varphi(f_n)=1$ だから $|\varphi(f_n)|/\|f_n\|_1=2n$ は有界でない。同じ線形写像でも、定義域のノルムを替えると連続性が変わる。
有限次元では、ノルムの選び方は位相にも Cauchy 列にも影響しない。証明の鍵は、単位球面がコンパクトであることである。
$V$ を $F$ 上の有限次元ベクトル空間とする。$V$ 上の任意の 2 つのノルムは同値である。
$V=\{0\}$ なら主張は自明なので、$n:=\dim V\ge1$ とし、基底と次元 の意味の基底 $e_1,\dots,e_n$ を 1 つ固定する。$x=\sum_ka_ke_k$ の座標 $a=(a_1,\dots,a_n)\in F^n$ を使って $\|x\|_*:=\max_k|a_k|$ と定めると、座標をとる写像 $V\to F^n$ が線形な全単射であることから $\|\cdot\|_*$ は $V$ 上のノルムである。同値関係の推移律により、任意のノルム $\|\cdot\|$ が $\|\cdot\|_*$ と同値であることを示せば十分である。
上からの評価:三角不等式と斉次性から
$$
\|x\|=\Bigl\|\sum_ka_ke_k\Bigr\|\le\sum_k|a_k|\,\|e_k\|\le M\,\|x\|_*,\qquad M:=\sum_{k=1}^n\|e_k\|
$$
である。
下からの評価:$N(a):=\|\sum_ka_ke_k\|$ を $F^n$ 上の関数とみる。$F=\mathbb{R}$ なら $F^n=\mathbb{R}^n$、$F=\mathbb{C}$ なら実部と虚部に分けて $F^n=\mathbb{R}^{2n}$ と同一視すると、$F^n$ の Euclid の長さは $\|a\|_2=(\sum_k|a_k|^2)^{1/2}$ であり、$\max_k|a_k|^2\le\sum_k|a_k|^2\le n\max_k|a_k|^2$ から $\|a\|_\infty\le\|a\|_2\le\sqrt n\,\|a\|_\infty$ である。
下からの評価 $m>0$ では単位球面のコンパクト性が効いている。同じ議論を無限次元で行おうとすると単位球面がコンパクトでなくなり(thm-normed-space-riesz-compact)、下からの評価が破れる例が現れる(ex-normed-space-inequivalent)。
$V$ を有限次元のノルム空間とする。
要点:thm-normed-space-finite-dim-equivalent により、$V$ のノルムを座標の最大値のノルム $\|x\|_*=\max_k|a_k|$ に替えてよい。すると 1〜3 は $F^n$ の座標ごとの性質($F$ の完備性、有限和の評価、Heine–Borel の定理)に帰着し、4 は 1 から従う。
$V\ne\{0\}$ とし、定理の証明と同じ基底・座標・ノルム $\|\cdot\|_*$ と定数 $m,M>0$ を使う。
1:$(x_j)$ を $V$ の Cauchy 列とすると、prop-normed-space-equivalent により $\|\cdot\|_*$ でも Cauchy 列である。$|a^{(j)}_k-a^{(l)}_k|\le\|x_j-x_l\|_*$ なので、座標の列 $(a^{(j)}_k)_j$ は各 $k$ で $F$ の Cauchy 列であり、$F$ の完備性($\mathbb{R}$ の完備性。$\mathbb{C}$ は実部と虚部に分ける。完備距離空間 の例「実数全体とEuclid空間」)から $a_k:=\lim_ja^{(j)}_k$ が存在する。$x:=\sum_ka_ke_k$ とおけば $\|x_j-x\|_*=\max_k|a^{(j)}_k-a_k|\to0$ なので、$x_j\to x$ である。
2:$T\colon V\to W$ を線形写像とすると $\|Tx\|\le\sum_k|a_k|\,\|Te_k\|\le\bigl(\sum_k\|Te_k\|\bigr)\|x\|_*\le\frac1m\bigl(\sum_k\|Te_k\|\bigr)\|x\|$ である。
3:座標をとる写像 $\kappa\colon V\to F^n$ と逆写像 $\kappa^{-1}$ は、2 と $F^n$ の場合の 2 により有界、したがって連続である($F^n$ には $\|\cdot\|_\infty$ を入れる。これは Euclid の長さと同値なので同じ位相を与える)。$K\subset V$ が有界閉なら、$\kappa(K)=(\kappa^{-1})^{-1}(K)$ は $F^n$ の閉集合で、$\|\kappa(x)\|_\infty=\|x\|_*\le\frac1m\|x\|$ より有界である。$F^n$ を $\mathbb{R}^n$ か $\mathbb{R}^{2n}$ と同一視して コンパクト空間 の記事の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」を使うと $\kappa(K)$ はコンパクトであり、$K=\kappa^{-1}(\kappa(K))$ はコンパクト集合の連続像なのでコンパクトである。
4:$U\subset X$ を有限次元部分空間とし、$U$ の点列 $u_j$ が $x\in X$ に収束するとする。$(u_j)$ は Cauchy 列であり、$U$ に $X$ のノルムを制限したノルム空間は 1 により完備なので、$u_j$ はある $u\in U$ に収束する。距離空間の極限は一意なので $x=u\in U$ であり、$U$ は閉集合である。$\square$
無限次元では、閉単位球はコンパクトにならない。これを示すのが次の補題である。
$V$ をノルム空間、$U\subsetneq V$ を閉集合である真の部分空間とし、$0<\theta<1$ とする。このとき、$\|x\|=1$ であって、すべての $u\in U$ について $\|x-u\|\ge\theta$ を満たす $x\in V$ が存在する。
要点:$U$ の外の点 $v$ と、$v$ に「ほぼ最も近い」$U$ の点 $u_0$ をとり、差 $v-u_0$ を長さ $1$ に正規化したものを $x$ とする。
$v\in V\setminus U$ を 1 つとり、$\delta:=\inf_{u\in U}\|v-u\|$ とおく。$\delta=0$ なら $U$ の点列で $v$ に収束するものがとれ、$U$ が閉であることから $v\in U$ となって矛盾するので、$\delta>0$ である。$\delta/\theta>\delta$ なので、下限の定義から $\|v-u_0\|\le\delta/\theta$ となる $u_0\in U$ がとれる。$x:=(v-u_0)/\|v-u_0\|$ とおくと $\|x\|=1$ であり、任意の $u\in U$ について $u_0+\|v-u_0\|u\in U$ だから $$\|x-u\|=\frac{\bigl\|v-\bigl(u_0+\|v-u_0\|\,u\bigr)\bigr\|}{\|v-u_0\|}\ge\frac{\delta}{\|v-u_0\|}\ge\frac{\delta}{\delta/\theta}=\theta$$ である。$\square$
$V$ が内積空間で $U$ が有限次元なら、$v$ から $U$ への直交射影を引いて正規化すると $\theta=1$ にできる(内積空間 の記事の定理「直交分解と最良近似」)。一般のノルム空間の補題では $\theta<1$ としておく。
ノルム空間 $V$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2 は cor-normed-space-finite-dim の 3 である。
2 ⇒ 1 の対偶を示す。$V$ が無限次元であるとする。$x_1\in V$ を $\|x_1\|=1$ となるようにとる。$\|x_j\|=1$ を満たす $x_1,\dots,x_n$ まで選んだとき、$U_n:=\operatorname{span}\{x_1,\dots,x_n\}$ は有限次元なので cor-normed-space-finite-dim の 4 により閉集合であり、$V$ が無限次元なので $U_n\ne V$ である。lem-normed-space-riesz を $\theta=1/2$ で使うと、$\|x_{n+1}\|=1$ かつ $U_n$ のすべての元から距離 $1/2$ 以上離れた $x_{n+1}$ がとれる。こうして得た列は、$j< k$ なら $x_j\in U_{k-1}$ なので $\|x_k-x_j\|\ge1/2$ を満たす。
閉単位球 $D$ を、中心が $D$ の点で半径 $1/4$ の開球の族で覆う。1 つの開球に属する 2 点の距離は $1/2$ 未満なので、各開球は $x_1,x_2,\dots$ のうち高々 1 つしか含まない。したがって有限個の開球では無限個の $x_j$ を覆えず、$D$ はコンパクトでない。$\square$
有限次元で成り立った thm-normed-space-finite-dim-equivalent と cor-normed-space-finite-dim の各主張は、無限次元ではどれも成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限次元 | $C([0,1])$ の $\Vert\cdot\Vert_\infty$ と $\Vert\cdot\Vert_1$ | すべてのノルムが同値 |
| 有限次元 | $c_{00}$($\Vert\cdot\Vert_\infty$)上の $\varphi(x)=\sum_kkx_k$ | 線形写像が自動的に連続 |
| 有限次元 | $C([0,1])$ に $\Vert\cdot\Vert_1$ を入れた空間 | 完備性 |
| 有限次元 | $c_0$ の部分空間 $c_{00}$ | 部分空間が閉集合 |
| 有限次元 | $\ell^\infty$ の閉単位球 | 有界閉集合のコンパクト性 |
$C([0,1])$ の上限ノルムと $\|\cdot\|_1$ は同値でない。ex-normed-space-operators の $f_n(t)=\max(0,1-nt)$ について $\|f_n\|_\infty=1$、$\|f_n\|_1=\frac1{2n}$ なので、$\|f\|_\infty\le C\|f\|_1$ となる定数 $C$ は存在しない。実際、$f_n$ は $\|\cdot\|_1$ では $0$ に収束するが、$\|\cdot\|_\infty$ では $\|f_n-0\|_\infty=1$ なので $0$ に収束しない。満たす性質は「どちらもノルム」、破る含意は「同じベクトル空間上のノルムは同値」である(有限次元では thm-normed-space-finite-dim-equivalent により正しい)。
$c_{00}$ に $\|\cdot\|_\infty$ を入れ、$\varphi(x):=\sum_{k}kx_k$ と定める(有限和なので意味がある)。$\varphi$ は線形だが、第 $k$ 成分だけが $1$ の数列 $e_k$ について $\|e_k\|_\infty=1$、$\varphi(e_k)=k$ なので $\|\varphi\|=\infty$ であり、thm-normed-space-bounded により $\varphi$ は連続でない。具体的には $e_k/k\to0$ だが $\varphi(e_k/k)=1$ である。
$c_0$ の中で $x^{(n)}:=(1,\tfrac12,\dots,\tfrac1n,0,0,\dots)\in c_{00}$ を考えると、$y:=(1,\tfrac12,\tfrac13,\dots)\in c_0$ について $\|x^{(n)}-y\|_\infty=\frac1{n+1}\to0$ である。$y\notin c_{00}$ なので $c_{00}$ は $c_0$ の閉集合でない。とくに $(x^{(n)})$ は $c_{00}$ の Cauchy 列で $c_{00}$ の中に極限をもたないので、$(c_{00},\|\cdot\|_\infty)$ は完備でない。$C([0,1])$ に $\|\cdot\|_1$ を入れた空間も完備でない(Axl20 Example 6.39、p. 165)。
閉単位球については、$\ell^\infty$ の $e_1,e_2,\dots$ が閉単位球に属し、$j\ne k$ なら $\|e_j-e_k\|_\infty=1$ なので、thm-normed-space-riesz-compact の証明と同じ議論でコンパクトでないことが直接わかる。
$p$ をベクトル空間 $V$ 上の半ノルムとし、$N:=\{x\in V\mid p(x)=0\}$ とおくと、$N$ は部分空間であり、商空間 $V/N$ 上に $\|x+N\|:=p(x)$ が矛盾なく定まって、これはノルムである。
$x,y\in N$、$a\in F$ なら $0\le p(x+ay)\le p(x)+|a|p(y)=0$ なので $N$ は部分空間である。$n\in N$ なら $p(x+n)\le p(x)+p(n)=p(x)$、同様に $p(x)=p((x+n)-n)\le p(x+n)$ なので、$p$ は $N$ の剰余類の上で一定である。条件 (ii)・(iii) は $p$ から受け継がれ、$\|x+N\|=0$ なら $x\in N$、すなわち $x+N$ は $V/N$ の零元である。
ex-normed-space-incomplete のように、ノルム空間は完備とは限らない。完備なノルム空間を Banach空間という。有限次元のノルム空間はつねに完備である(cor-normed-space-finite-dim の 1)。完備でないノルム空間も、距離空間の完備化(完備距離空間 の記事の定理「完備化の存在と一意性」)に和・スカラー倍・ノルムを連続性で延長することで、ある完備なノルム空間の稠密な部分空間とみなせる(Axl20 Exercises 6C の 13、p. 170)。
ノルムとノルム空間の定義、ノルムの例と「ノルムでない」例は Axl20 Definition 6.33・Example 6.34・Example 6.35(pp. 163–164)、ノルムから距離が定まることは 6.36(p. 164)、有界線形写像と作用素ノルムは Definition 6.43(p. 167)、作用素ノルムがノルムであることは 6.46(p. 168)、連続性と有界性の同値は 6.48(p. 169)にある。有限次元でのノルムの同値、Riesz の補題、閉単位球のコンパクト性と次元の関係は、本記事の中で証明した。
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