Weil予想(Weil conjectures)とは、有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の滑らかな射影多様体の合同ゼータ関数 $Z(X,t)$ について A. Weil が1949年に述べた予想であり、有理性、関数等式、Riemann 予想の類似(Frobenius の $j$ 次コホモロジー上の固有値は絶対値 $q^{j/2}$ の代数的整数)、標数 0 の多様体の Betti 数との関係の4つからなる。Dwork の $p$ 進的方法、Grothendieck らの $\ell$ 進コホモロジーの理論、Deligne の1974年の証明により、現在はすべて定理である。
Weil予想は、有限体上の代数多様体の有理点の個数を数える母関数(合同ゼータ関数)について、A. Weil が1949年の論文 Wei49 で述べた一連の予想である。有理性、関数等式、Riemann 予想の類似、Betti 数との関係の4つからなる。
Weil は、曲線とアーベル多様体についてはこれらを証明しており、一般の場合の予想の背後に、有限体上の多様体にも位相空間のようなコホモロジー理論があって Lefschetz の不動点定理が成り立つはずだ、という見通しを置いた。この見通しは Grothendieck らの ℓ進コホモロジー として実現し、最後に残った Riemann 予想の類似は Deligne Del74 によって証明された。したがって今日では、Weil予想はすべて定理である。
「Weil予想」という語は、予想全体を指す場合と、そのうち Riemann 予想の類似(と特性多項式の整数性)だけを指す場合がある。本記事では予想全体を主題とし、後者は「Riemann 予想の部分」と呼んで区別する。
$\mathbb F_q$ を $q$ 元の有限体、$X$ を $\mathbb F_q$ 上の多様体(有限型の分離スキーム)とし、$N_m=\#X(\mathbb F_{q^m})$ とおく。
$$
Z(X,t)=\exp\Big(\sum_{m\ge1}\frac{N_m}{m}t^m\Big)\in\mathbb Q[\![t]\!]
$$
を $X$ の合同ゼータ関数という。$\zeta(X,s)=Z(X,q^{-s})$ とも書く。
$Z(X,t)$ は、$X$ の閉点 $x$ の剰余体の次数を $\deg x$ として
$$
Z(X,t)=\prod_{x}\big(1-t^{\deg x}\big)^{-1}
$$
とも書ける(対数微分をとると、$\deg x\mid m$ となる閉点 $x$ は $\mathbb F_{q^m}$ 点をちょうど $\deg x$ 個与えることから従う)。とくに $Z(X,t)$ の係数は非負整数である。この積表示は、Riemann ゼータ関数の素数にわたる Euler 積 $\prod_p(1-p^{-s})^{-1}$ の類似であり、閉点 $x$ が素数に、その剰余体の元の個数 $q^{\deg x}$ が $p$ に当たる。
$X$ を $\mathbb F_q$ 上の $d$ 次元の滑らかな射影多様体で、幾何的に連結なものとする。
この記事では定理の全体は証明しない。言明は Har77 Appendix C, §1 の (1.1)〜(1.4)(pp. 450–451)を 4 項目にまとめ直したものである($P_0$・$P_{2d}$ の形と $P_j$ の整数性は、同所では (1.3) に含まれる)。Weil が述べた時点ではこれらは予想であった。現在は、有理性は Dwork Dwo60(任意の多様体について)と Grothendieck、関数等式と Betti 数は Grothendieck らの $\ell$ 進コホモロジーの理論、Riemann 予想の類似は Deligne Del74 によって証明されている。4つの部分の証明の筋は後の節で述べる。記事の中で完全に証明するのは、射影空間での確認(prop-weil-conjectures-projective-space)と、曲線について Riemann 予想の部分を点の数の評価に言い換える命題(prop-weil-conjectures-curve-bound)である。
3 のうち絶対値の条件は、$\zeta(X,s)$ の零点・極が、$P_j$ から来るものについて $\operatorname{Re}s=j/2$ の上にあることと同値である。$X$ が曲線のときは、零点がすべて $\operatorname{Re}s=1/2$ の上にあることになり、Riemann ゼータ関数の Riemann 予想と同じ形になる。これが名前の由来である。
$X=\mathbb P^d$ では $N_m=1+q^m+q^{2m}+\dots+q^{dm}$ であり、合同ゼータ関数 の例「アフィン空間と射影空間」のとおり
$$
Z(\mathbb P^d,t)=\frac{1}{(1-t)(1-qt)\cdots(1-q^dt)}
$$
となる。奇数の $j$ では $P_j=1$、偶数の $j=2i$ では $P_{2i}=1-q^it$ とおけば、定理の 1 の形になる。
$X=\mathbb P^d$ について、定理の 1〜4 は $E=d+1$ で成り立つ。とくに関数等式は符号まで込めて
$$
Z\big(\mathbb P^d,q^{-d}t^{-1}\big)=(-1)^{d+1}q^{d(d+1)/2}\,t^{d+1}\,Z(\mathbb P^d,t)
$$
となる。
1 は上の例の式そのものであり、$P_0=1-t$、$P_{2d}=1-q^dt$ である。
2 を示す。$0\le i\le d$ について
$$
1-q^i\cdot q^{-d}t^{-1}=-q^{i-d}t^{-1}\big(1-q^{d-i}t\big)
$$
である。$i$ を $0$ から $d$ まで動かすと $d-i$ も $0$ から $d$ までを動くので、逆数をとって積をとれば
$$
Z\big(\mathbb P^d,q^{-d}t^{-1}\big)=\prod_{i=0}^d\frac{-q^{d-i}t}{1-q^{d-i}t}=(-1)^{d+1}q^{\sum_{i=0}^d(d-i)}\,t^{d+1}\prod_{i=0}^d\frac{1}{1-q^{i}t}
$$
となる。$\sum_{i=0}^d(d-i)=d(d+1)/2$ であり、$E=d+1$ とおけば $q^{dE/2}=q^{d(d+1)/2}$ だから、主張の式を得る。
3 は、$P_{2i}=1-q^it$ の根の逆数 $q^i$ の絶対値が $q^{2i/2}$ であることから従う(奇数次の $P_j=1$ には根がない)。
4 について、$\mathbb P^d$ は $\mathbb Z$ 上の射影空間の還元であり、複素射影空間 $\mathbb C\mathrm P^d$ の Betti 数は偶数次 $0,2,\dots,2d$ で 1、それ以外で 0 である。これは $\deg P_j$ に一致し、その交代和 $d+1$ は $E$ に等しい。
$d=1$ の場合は $Z(\mathbb P^1,1/(qt))=qt^2Z(\mathbb P^1,t)$ であり、Har77 Appendix C, §1(p. 451)でも確かめられている。関数等式に符号 $(-1)^{d+1}$ が現れることは、定理の 2 の「$\pm$」が本当に必要であることを示している。
$E$ を $\mathbb F_q$ 上の楕円曲線とし、$a=q+1-\#E(\mathbb F_q)$ とおく。このとき
$$
Z(E,t)=\frac{1-at+qt^2}{(1-t)(1-qt)}
$$
である。$1-at+qt^2=(1-\alpha t)(1-\beta t)$ とすると $N_m=q^m+1-\alpha^m-\beta^m$ であり、Riemann 予想の部分は $|\alpha|=|\beta|=\sqrt q$、すなわち Hasse の不等式 $|a|\le2\sqrt q$ に当たる。
具体的に、$\mathbb F_3$ 上の $E:y^2=x^3-x$ を考える。$x=0,1,2$ のいずれでも $x^3-x=0$ なので、アフィン点は $(0,0),(1,0),(2,0)$ の3個で、無限遠点を加えて $\#E(\mathbb F_3)=4$、$a=0$ である。よって
$$
Z(E,t)=\frac{1+3t^2}{(1-t)(1-3t)},\qquad \alpha,\beta=\pm\sqrt{-3}
$$
であり、$|\alpha|=\sqrt3$ となる。$\alpha^2+\beta^2=-6$ なので $\#E(\mathbb F_9)=9+1+6=16$ と予言され、実際に一致する。
$C$ を $\mathbb F_q$ 上の種数 $g$ の滑らかな射影曲線(幾何的に連結)とすると、
$$
Z(C,t)=\frac{P_1(t)}{(1-t)(1-qt)},\qquad \deg P_1=2g
$$
であり、$P_1(t)=\prod_{k=1}^{2g}(1-\alpha_kt)$ とすると $N_m=q^m+1-\sum_k\alpha_k^m$ である。Riemann 予想の部分 $|\alpha_k|=\sqrt q$ から
$$
\big|\#C(\mathbb F_{q^m})-(q^m+1)\big|\le2g\,q^{m/2}
$$
が従う。この不等式は Weil が曲線について証明した。
曲線については、Riemann 予想の部分は「点の数が $q^m+1$ から $q^{m/2}$ の定数倍しかずれない」という評価と同値である。この同値は有理性と関数等式だけを使って示せるので、Riemann 予想の部分を点の数え上げの問題に移すことができる。
以下、$C$ を $\mathbb F_q$ 上の種数 $g$ の滑らかな射影曲線で幾何的に連結なものとし、有理性と関数等式(定理の 1 と 2)、および $\deg P_1=2g$(Har77 Appendix C, Exercise 5.7 の設定、p. 458)を認めて
$$
Z(C,t)=\frac{P_1(t)}{(1-t)(1-qt)},\qquad P_1(t)=\prod_{k=1}^{2g}(1-\alpha_kt),\quad \alpha_k\ne0
$$
と書く。関数等式は、重複度を込めた多重集合 $\{\alpha_1,\dots,\alpha_{2g}\}$ が $\alpha\mapsto q/\alpha$ で保たれることと同値である(Har77 Appendix C, §4 の $H^1$ の Poincaré 双対性による)。
上の設定で $N_m=\#C(\mathbb F_{q^m})$ とおく。次の二つは同値である。
点の数と根の冪和。$S_m:=\sum_{k=1}^{2g}\alpha_k^m$ とおく。定義 $\log Z(C,t)=\sum_{m\ge1}N_mt^m/m$ と、右辺の対数
$$
\sum_{k=1}^{2g}\log(1-\alpha_kt)-\log(1-t)-\log(1-qt)=\sum_{m\ge1}\frac{1+q^m-S_m}{m}t^m
$$
の係数を比べて、$N_m=q^m+1-S_m$ を得る。したがって 2 は「すべての $m$ で $|S_m|\le c\,q^{m/2}$」と同じである。
1 ⇒ 2。三角不等式により $|S_m|\le\sum_k|\alpha_k|^m=2g\,q^{m/2}$ である。
2 ⇒ 1。複素埋め込みを一つ固定し、$\alpha_k$ を複素数とみる。$|S_m|\le c\,q^{m/2}$ なので、冪級数 $f(t)=\sum_{m\ge1}S_mt^m$ は円板 $D=\{|t|< q^{-1/2}\}$ で絶対収束し、$D$ 上の正則関数である。一方、$|t|$ が十分小さいとき
$$
f(t)=\sum_{k=1}^{2g}\sum_{m\ge1}(\alpha_kt)^m=\sum_{k=1}^{2g}\frac{\alpha_kt}{1-\alpha_kt}=:R(t)
$$
である。相異なる値 $\beta$ ごとに $\alpha_k=\beta$ となる $k$ の個数を $n_\beta\ge1$ とすると、$R(t)=\sum_\beta n_\beta\beta t/(1-\beta t)$ であり、各項は $t=1/\beta$ だけに極をもち、極の位置は $\beta$ ごとに異なるので打ち消し合わない。よって $R$ は $\mathbb C$ 上の有理型関数で、極はちょうど $1/\beta$ たちである。$D$ から有限個の極を除いた集合は連結であり、$f$ と $R$ は $0$ の近くで一致するから、一致の定理によりその上で $f=R$ となる。もし極 $1/\beta$ が $D$ に入っていれば、$R=f$ はその近くで有界になり矛盾する。よってすべての $k$ について $|1/\alpha_k|\ge q^{-1/2}$、すなわち $|\alpha_k|\le\sqrt q$ である。
最後に関数等式を使う。多重集合 $\{\alpha_k\}$ は $\alpha\mapsto q/\alpha$ で保たれるので、各 $k$ について $q/\alpha_k$ もある $\alpha_{k'}$ に等しく、$|q/\alpha_k|\le\sqrt q$、すなわち $|\alpha_k|\ge\sqrt q$ である。合わせて $|\alpha_k|=\sqrt q$ を得る。
この命題は Har77 Appendix C, Exercise 5.7(p. 458)の (a)〜(c) と同じ筋である。Weil は $|N_1-(q+1)|\le2g\sqrt q$ を、すべての $\mathbb F_{q^m}$ 上で同時に($C$ を $\mathbb F_{q^m}$ 上の曲線とみて)示すことで Riemann 予想の部分を得た。
上の設定で $q+1>2g\sqrt q$ なら、$C$ は $\mathbb F_q$ 有理点をもつ。とくに種数 $1$ の曲線はどの有限体の上でも有理点をもち、種数 $2$ の曲線は $q\ge14$ なら有理点をもつ。
Riemann 予想の部分(定理の 3)と prop-weil-conjectures-curve-bound により $N_1\ge q+1-2g\sqrt q>0$ である。$g=1$ では $q+1-2\sqrt q=(\sqrt q-1)^2>0$($q\ge2$)である。$g=2$ では条件は $q-4\sqrt q+1>0$、すなわち $\sqrt q>2+\sqrt3\approx3.73$ であり、これは $q\ge14$ と同値である($3.73^2\approx13.9$)。
以下、$\ell$ を $q$ と素な素数、$\bar k$ を $\mathbb F_q$ の代数閉包、$X_{\bar k}=X\otimes\bar k$ とする。
$x\mapsto x^q$ で与えられる $\operatorname{Gal}(\bar k/\mathbb F_q)$ の元を $\varphi$(算術的 Frobenius)とし、その逆元 $F=\varphi^{-1}$(幾何的 Frobenius)が $H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ に構造の輸送で及ぼす作用を、本記事では単に Frobenius と呼ぶ。この作用は、$X$ の Frobenius 自己準同型(座標を $q$ 乗する射)が $X_{\bar k}$ に誘導する作用と一致する(SGA4h Rapport sur la formule des traces, 1.8 の (1.8.1)。この記事では証明しない)。
この規約では $F$ は Tate捻り $\mathbb Q_\ell(1)$ に $q^{-1}$ 倍で作用し、$H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell(-n))$ 上の固有値は $H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ 上の固有値の $q^n$ 倍になる。算術的 Frobenius を使う文献では、固有値が逆数になり、捻りによる倍率も逆になる。
$X$ を $\mathbb F_q$ 上の分離的な有限型スキームとすると、すべての $m\ge1$ について
$$
\#X(\mathbb F_{q^m})=\sum_{j=0}^{2\dim X}(-1)^j\operatorname{Tr}\big(F^m\mid H^j_c(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\big)
$$
が成り立つ。ここで $H^j_c$ はコンパクト台の $\ell$ 進コホモロジーであり、$X$ が固有なら通常の $H^j$ に等しい(一般の場合は SGA4h Rapport sur la formule des traces, Théorème 3.2。滑らかな射影多様体の場合は Har77 Appendix C の (3.5)(p. 453)と §4(p. 454)。この記事では証明しない)。
同じ公式は Lefschetz跡公式 の定理「Grothendieck の跡公式」でも扱う。$X(\mathbb F_{q^m})$ は、Frobenius 自己準同型の $m$ 乗の $X(\bar k)$ 上の不動点の集合であり、この公式は位相空間の Lefschetz の不動点定理の類似である。
体 $K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ の自己準同型 $\phi$ について、$K[\![t]\!]$ の中で
$$
\exp\Big(\sum_{m\ge1}\frac{\operatorname{Tr}(\phi^m)}{m}t^m\Big)=\det(1-\phi t)^{-1}
$$
が成り立つ($K$ の標数は 0 とする)。
$K$ の代数閉包へ係数拡大して $\phi$ を上三角化し、対角成分を $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ とする。$\phi^m$ も上三角で対角成分は $\lambda_k^m$ なので、$\operatorname{Tr}(\phi^m)=\sum_k\lambda_k^m$ である。したがって左辺の指数の中身は
$$
\sum_k\sum_{m\ge1}\frac{(\lambda_kt)^m}{m}=-\sum_k\log(1-\lambda_kt)
$$
であり、左辺は $\prod_k(1-\lambda_kt)^{-1}=\det(1-\phi t)^{-1}$ に等しい。
跡公式とこの命題から、$X$ が滑らかな射影多様体なら
$$
Z(X,t)=\prod_{j=0}^{2d}\det\big(1-Ft\mid H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\big)^{(-1)^{j+1}}
$$
を得る。右辺は $\mathbb Q_\ell$ 係数の有理関数である。左辺の係数は整数であり、形式的冪級数が有理関数であることは Hankel 行列式の消滅で判定でき、この判定は係数体の拡大によらないので、$Z(X,t)\in\mathbb Q(t)$ となる。$P_j(t):=\det(1-Ft\mid H^j)$ とおけば 1 の形になる。$H^0$ と $H^{2d}$ はともに1次元で、$F$ は $H^0$ に自明に、$H^{2d}\cong\mathbb Q_\ell(-d)$ に $q^d$ 倍で作用するので、$P_0=1-t$、$P_{2d}=1-q^dt$ である。ただし、この段階では $P_j$ 自身が $\ell$ によらない整数係数の多項式であることはまだ分からない。それは Riemann 予想の部分を使って示される(Del74、Har77 Appendix C, Theorem 4.5、p. 457)。
Poincaré 双対性により、杯積 $H^j\times H^{2d-j}\to H^{2d}\cong\mathbb Q_\ell(-d)$ は Frobenius と両立する完全な対である。したがって $H^j$ の固有値を $\alpha$ とすると、$H^{2d-j}$ の固有値は $q^d/\alpha$ で与えられ(重複度も込めて)、$E=\sum_j(-1)^j\dim H^j$ とおいてこれを $Z(X,t)$ の表示に代入すると、2 の関数等式が得られる。符号は $H^d$ 上の $F$ の作用で決まる。
$X$ が標数 0 の滑らかな射影多様体 $Y$ のよい還元なら、固有滑らかな底変換定理により $H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の次元は $Y$ の $\ell$ 進コホモロジーの次元に等しく、Artin の比較定理によりそれは複素多様体 $Y(\mathbb C)$ の Betti 数に等しい(Har77 Appendix C の (3.6)・(3.7)、p. 454。この記事では証明しない)。$\deg P_j=\dim H^j$ なので 4 が従う。
Riemann 予想の部分は Deligne Del74 により証明された。証明は、Lefschetz ペンシルによる次元の帰納法、消滅サイクルのモノドロミーの理論(Kazhdan–Margulis の定理によるモノドロミー群の大きさ)、および $L$ 関数のテンソル冪をとって評価を改良する論法(Rankin の方法の類似)を組み合わせる。概説として Kat76 がある。Deligne はのちに、この結果を一般の $\ell$ 進層の重みの理論へ拡張した(Del80)。
本記事では Riemann 予想の部分を証明しない。以下の節ではこれを Deligne の定理として引用する。
Riemann 予想の部分は、部分多様体から来るコホモロジー類の固有値についての情報を与える。これは Tate予想 の Grothendieck による一般化の出発点になった。
$X$ を $\mathbb F_q$ 上の滑らかな射影多様体、$j\ge0$、$p\ge0$ とする。$c\ge p$ ごとに、$\mathbb F_q$ 上の滑らかな射影多様体 $Z$ で $\dim Z=\dim X-c$ となるものと射 $f:Z\to X$ を有限個とり、それらの Gysin 写像
$$
f_*:H^{j-2c}(Z_{\bar k},\mathbb Q_\ell)(-c)\longrightarrow H^j(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)
$$
の像の和を $V$ とする。このとき、$V$ 上の $F$ の固有値はすべて、代数的整数 $\beta$ でどの複素埋め込みでも $|\beta|=q^{j/2-p}$ となるものを用いて $q^p\beta$ と書ける。
Gysin 写像は Frobenius と可換である(Gysin 写像の構成が基礎体上で定義されることによる。この記事では証明しない)。したがって $V$ の各項は $F$ 安定であり、$V$ は各項の源の直和の $F$ 同変な商である。$F$ 安定な部分空間による商の特性多項式は元の特性多項式を割るので、$V$ 上の固有値はいずれかの源の固有値である。
源 $H^{j-2c}(Z_{\bar k},\mathbb Q_\ell)(-c)$ の固有値は、捻り $(-c)$ により $q^c\alpha$ の形である。ここで $\alpha$ は $H^{j-2c}(Z_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ 上の固有値であり、Deligne の定理により代数的整数で、どの複素埋め込みでも $|\alpha|=q^{(j-2c)/2}$ である。$c\ge p$ なので $q^c\alpha=q^p\cdot q^{c-p}\alpha$ と書け、$\beta:=q^{c-p}\alpha$ は代数的整数で $|\beta|=q^{c-p}\cdot q^{j/2-c}=q^{j/2-p}$ である。
この命題は、Gysin 写像の像の和という具体的な部分空間について述べたものである。余次元 $p$ 以上の閉集合の外で消える類全体(余次元フィルトレーション $N^pH^j$)がこの形の像の和で尽くされるかどうかは別の問題であり、特異点解消などの入力を要する。
$P_j(t)$ が整数係数であっても、$H^j$ の $F$ 安定な部分空間の上の特性多項式が有理係数になるとは限らない。線形代数の例として、$\ell=7$ とすると $2\equiv3^2\pmod 7$ なので Hensel の補題により $\sqrt2\in\mathbb Q_7$ であり、$V=\mathbb Q_7^2$ 上の $\phi=\operatorname{diag}(\sqrt2,-\sqrt2)$ の特性多項式 $T^2-2$ は整数係数だが、$\phi$ 安定な直線 $\mathbb Q_7\cdot(1,0)$ の上の特性多項式 $T-\sqrt2$ は有理係数でない。
したがって、部分空間の上の固有値が「$\mathbb Q$ 上の共役で閉じている」と主張するには、その部分空間が幾何的に定義されていることを使う別の論証が必要である。
定理は $X$ が滑らか・射影的・幾何的に連結であることを仮定している。これらを外すと、有理性は残っても(合同ゼータ関数 の定理「合同ゼータ関数の有理性」は任意の有限型スキームについて成り立つ)、ほかの主張は崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 射影的(固有) | アフィン直線 $\mathbb A^1$ | 関数等式(合同ゼータ関数 の例「反例:固有でない場合に破れる関数等式」) |
| 滑らか | 結節点をもつ 3 次曲線 $y^2z=x^2(x+z)$ | 関数等式、Riemann 予想の部分、$\deg P_1=2g$(合同ゼータ関数 の例「反例:特異な射影曲線」) |
| 幾何的に連結 | $X=\operatorname{Spec}\mathbb F_{q^2}$ | $P_0=1-t$(ex-weil-conjectures-counter-disconnected) |
| 関数等式(prop-weil-conjectures-curve-bound の 2 ⇒ 1) | 結節点をもつ 3 次曲線 | 点の数の評価から $\lvert\alpha\rvert=\sqrt q$ を導くこと(ex-weil-conjectures-counter-bound) |
$X=\operatorname{Spec}\mathbb F_{q^2}$ は $\mathbb F_q$ 上の滑らかな射影多様体(次元 $d=0$)だが、$X_{\bar k}$ は 2 点からなり幾何的に連結でない。合同ゼータ関数 の例「有限体のスペクトルと乗法群」により
$$
Z(X,t)=\frac{1}{1-t^2}=\frac{1}{(1-t)(1+t)}
$$
である。$d=0$ のとき定理の 1 は $Z(X,t)=1/P_0(t)$ かつ $P_0(t)=1-t$ を主張するが、実際には $P_0(t)=1-t^2$ であり、$t=-1$ にも極がある。コホモロジーで見れば、$H^0(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ は 2 次元で、$F$ は 2 点を入れ替えるので固有値は $\pm1$ である。この例が破る条件は「幾何的に連結」であり、成り立たなくなるのは $P_0=1-t$ である。固有値の絶対値 $1=q^{0/2}$ は保たれている。
$q$ を奇数とし、$C$ を結節点をもつ 3 次曲線 $y^2z=x^2(x+z)$ とする。合同ゼータ関数 の例「反例:特異な射影曲線」により、すべての $m$ で $N_m=q^m$ であり、$Z(C,t)=1/(1-qt)=P_1(t)/((1-t)(1-qt))$、$P_1(t)=1-t$ と書ける。このとき $S_m=1$ なので
$$
\big|N_m-(q^m+1)\big|=1\le q^{m/2}
$$
がすべての $m$ で成り立ち、prop-weil-conjectures-curve-bound の 2 は $c=1$ で満たされる。しかし根の逆数は $\alpha=1$ であり、$|\alpha|=1\ne\sqrt q$ である。命題の証明の前半($|\alpha|\le\sqrt q$ を導く部分)はこの例でも正しく、崩れるのは後半である:多重集合 $\{1\}$ は $\alpha\mapsto q/\alpha$ で保たれない。したがって 2 ⇒ 1 には関数等式(その背後にある滑らかさ)が欠かせない。
Grothendieck は「Le groupe de Brauer III」Gro68 の §10 で、Weil予想のうち Riemann 予想の部分を、当時まだ予想であったものとして仮定し、そこから prop-weil-conjectures-gysin-eigenvalues の型の帰結を引き出した。そのうえで、余次元 $p$ 以上の部分多様体から来る類の固有値は $q^p$ で「割り切れる」という性質を、特異点解消を仮定しない一般の場合にも予想し、その逆(固有値の可除性をもつ類はそのような部分多様体から来る)を Tate予想 の一般化として予想した。この段で使われるのは Weil予想の全体ではなく、Riemann 予想の部分と特性多項式の整数性だけである。
同じ箇所で Grothendieck は、有限体上の曲面の $H^2$ についてさえ、当時は Weil予想も Tate予想も証明されていないことを述べている。前者はのちに Deligne により解決された。
この節は2026年9月時点の状況であり、今後の研究で更新されうる。
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