変数変換公式(多変数積分)

同義語:重積分の変数変換公式多変数の変数変換公式change of variables formula in several variablesmultivariable change of variables

概要

変数変換公式(多変数積分)(change of variables formula)とは、$\mathbb R^n$ の開集合の間の $C^1$ 級微分同相写像 $\varphi\colon U\to V$ について、$V$ 上の積分を $U$ 上の積分 $\int_V f\,d\lambda=\int_U f(\varphi(x))\,\lvert\det D\varphi(x)\rvert\,dx$ に書き直す公式である。Lebesgue 積分の枠では、可測な $f\ge0$ と可積分な $f$ について成り立ち、とくに可測集合の像の体積は Jacobi 行列式の絶対値の積分に等しい。証明は、線形写像が体積を $\lvert\det\rvert$ 倍にすることと、小さな立方体の上での線形近似による。極座標・球座標での積分、楕円体の体積、確率密度の変換に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lebesgue測度, Lebesgue積分, Jacobi行列, 逆関数定理

何を表す公式か

1 変数の置換積分を多変数にしたものが 変数変換公式 である。座標を $y=\varphi(x)$ と取り替えると、$x$ の近くの小さな立方体は $\varphi$ によっておよそ平行六面体に写り、その体積はおよそ $\lvert\det D\varphi(x)\rvert$ 倍になる。そこで $y$ の空間での積分は、$x$ の空間で体積の拡大率 $\lvert\det D\varphi\rvert$ を掛けて積分したものに等しい:
$$ \int_Vf(y)\,dy=\int_Uf(\varphi(x))\,\lvert\det D\varphi(x)\rvert\,dx . $$
極座標・球座標での積分、楕円体の体積、確率密度の変換など、多変数の積分を計算するときの基本の道具である。
この記事では Lebesgue 測度と Lebesgue 積分の枠で、$C^1$ 級の微分同相写像についてこの公式を証明する。証明は 2 段からなる。線形写像は体積をちょうど $\lvert\det\rvert$ 倍にすること(prop-cov-linear)と、小さな立方体の上では $\varphi$ を線形写像で近似できること(lem-cov-cube)である。

設定と主定理

以下 $n\ge1$ とし、$\lambda$ を $\mathbb R^n$ の Lebesgue 測度、$\lambda^*$ をその外測度とする。$E\subset\mathbb R^n$ が Lebesgue 可測であることは、任意の $\varepsilon>0$ に対して $\lambda^*(G\setminus E)\le\varepsilon$ となる開集合 $G\supset E$ がとれることと同値である(Tao11 Definition 1.2.2、p. 20 はこれを定義とする。Carathéodory の条件で定めた可測集合と一致することは Lebesgue測度 の注意「$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度の性質」に挙げられ、$n=1$ では同記事の命題「Lebesgue可測集合の特徴づけ」で証明されている)。とくに、$\lambda^*(G_k\setminus E)\le1/k$ となる開集合 $G_k\supset E$ の共通部分を $B$ とすれば、可測集合 $E$ は Borel 集合 $B$ と零集合 $N:=B\setminus E$ によって
$$ E=B\setminus N $$
と書ける。

C1級微分同相写像とJacobi行列式

$U,V\subset\mathbb R^n$ を開集合とする。全単射 $\varphi\colon U\to V$ で、$\varphi$ と逆写像 $\varphi^{-1}$ がともに $C^1$ 級であるものを $C^1$ 級微分同相写像 という。$x\in U$ での Jacobi行列 を $D\varphi(x)$ と書き、$J_\varphi(x):=\lvert\det D\varphi(x)\rvert$ とおく。

連鎖律により $D\varphi^{-1}(\varphi(x))\,D\varphi(x)=I$ なので、$D\varphi(x)$ はつねに正則で $J_\varphi>0$ である。逆に、開集合 $U$ 上の単射な $C^1$ 級写像で $D\varphi$ がいたるところ正則なものは、像 $\varphi(U)$ への $C^1$ 級微分同相写像である(逆関数定理 の系「微分がいたるところ正則な写像」)。

変数変換公式

$\varphi\colon U\to V$ を $C^1$ 級微分同相写像とする。

  1. $E\subset U$ が Lebesgue 可測なら、$\varphi(E)$ も Lebesgue 可測であり、$\lambda(\varphi(E))=\int_EJ_\varphi\,d\lambda$ である。
  2. $f\colon V\to[0,\infty]$ が Lebesgue 可測なら、$f\circ\varphi$ も Lebesgue 可測であり、
    $$ \int_Vf\,d\lambda=\int_U(f\circ\varphi)\,J_\varphi\,d\lambda $$
    が成り立つ(両辺は $\infty$ でもよい)。
  3. $f\colon V\to\mathbb C$ が Lebesgue 可測なら、$f$ が $V$ 上で可積分であることと、$(f\circ\varphi)J_\varphi$ が $U$ 上で可積分であることは同値であり、そのとき 2 と同じ等式が成り立つ。
証明の構成

証明は、線形写像の場合(prop-cov-linear)と小さな立方体の像の評価(lem-cov-cube)を準備したあと、節「主定理の証明」の prf-cov-main で与える。

Jordan 可測なコンパクト集合の上の Riemann 積分についての同じ形の公式は Jacobi行列 の定理「重積分の変数変換公式」である(証明は Leb26 Theorem 10.7.2)。この記事の公式は、有界でない関数や有界でない範囲もそのまま扱える。

線形写像の場合

線形写像による体積の変化

$A$ を $n$ 次の実正方行列、$E\subset\mathbb R^n$ を Lebesgue 可測集合とする。$AE:=\{Ax\mid x\in E\}$ は Lebesgue 可測であり、$\lambda(AE)=\lvert\det A\rvert\,\lambda(E)$ である。

要点:$A$ を基本行列の積に分け、基本行列ごとに半開直方体の像の体積を計算し、測度の一意性で Borel 集合へ、零集合の保存で可測集合へ広げる。
$\det A\ne0$ とする。$A$ は次の 3 種類の基本行列の積である(基本変形):(i) 1 つの座標を $c\ne0$ 倍する $D$、(ii) 2 つの座標を入れ替える $P$、(iii) $i\ne j$ について座標 $x_i$ を $x_i+cx_j$ に取り替える $S$。$\lvert\det\rvert$ は積を保ち(行列式)、$E\mapsto ME$ は行列の積と両立するので、基本行列 $M$ について示せばよい。
Borel 集合 $B$ について $\mu_M(B):=\lambda(MB)/\lvert\det M\rvert$ とおく。$M$ は同相写像なので $MB$ は Borel 集合であり、$\mu_M$ は Borel 集合の上の測度である。半開直方体 $R=\prod_k(a_k,b_k]$ について、$DR$ と $PR$ は直方体で体積はそれぞれ $\lvert c\rvert\lambda(R)$、$\lambda(R)$ なので、$\mu_D(R)=\mu_P(R)=\lambda(R)$ である。Dynkinのπ-λ定理 の系「区間の長さで決まる測度」により、Borel 集合の上で $\mu_D=\mu_P=\lambda$ である。とくに座標の入れ替えは Borel 集合の測度を変えないので、$S$ については $x_i$ を最後の座標としてよい。このとき $SR$ の、最後の座標以外を $\hat x$ に止めた切り口は、$\hat x\in\prod_{k\ne i}(a_k,b_k]$ なら区間 $(a_i+cx_j,b_i+cx_j]$、そうでなければ空集合である。Fubiniの定理 の命題「Euclid空間のLebesgue測度と積測度」と定理「Tonelliの定理」により $\lambda(SR)=\prod_k(b_k-a_k)=\lambda(R)$ であり、$\det S=1$ なので同じく $\mu_S=\lambda$ である。
可測集合 $E=B\setminus N$($B$ は Borel 集合、$N$ は零集合)について、$MN$ は零集合である(Sardの定理 の補題「$C^1$ 級写像は測度零集合を保つ」)。よって $ME=MB\setminus MN$ は可測で、$\lambda(ME)=\lambda(MB)=\lvert\det M\rvert\lambda(B)=\lvert\det M\rvert\lambda(E)$ である。
$\det A=0$ なら、$A\mathbb R^n$ は $n-1$ 次元以下の部分空間なので、正則行列 $T$ で $TA\mathbb R^n\subset\{x\mid x_n=0\}$ となるものがある。右辺の超平面は零集合である(Sardの定理 の補題「超平面と立方体」)。正則な場合に示したことを $T^{-1}$ に使うと $AE\subset T^{-1}\{x_n=0\}$ は零集合であり、可測で $\lambda(AE)=0$ である。$\square$

小さな立方体の像

$x\in\mathbb R^n$ について $\lvert x\rvert_\infty:=\max_i\lvert x_i\rvert$ とし、$n$ 次正方行列 $B$ について $\|B\|:=\max_{\lvert v\rvert_\infty\le1}\lvert Bv\rvert_\infty$ とおく。$c\in\mathbb R^n$、$s>0$ について、中心 $c$、1 辺 $s$ の閉立方体を $Q(c,s):=\{x\mid\lvert x-c\rvert_\infty\le s/2\}$ と書く。

小さな立方体の像の体積

$\varphi\colon U\to V$ を $C^1$ 級微分同相写像、$Q=Q(c,s)\subset U$ を閉立方体とし、$\eta\ge0$ について、すべての $x\in Q$ で $\|D\varphi(c)^{-1}D\varphi(x)-I\|\le\eta$ が成り立つとする。このとき
$$ \lambda(\varphi(Q))\le(1+\eta)^n\,J_\varphi(c)\,\lambda(Q) $$
である。

$A:=D\varphi(c)$、$\psi:=A^{-1}\circ\varphi$ とおくと $D\psi(x)=A^{-1}D\varphi(x)$ である。$x\in Q$ とし、$g(t):=\psi(c+t(x-c))-t(x-c)$($0\le t\le1$)とおく。$Q$ は凸なので線分は $Q$ に含まれ、$g'(t)=\bigl(D\psi(c+t(x-c))-I\bigr)(x-c)$ である。各成分に微分積分学の基本定理を使うと
$$ \lvert\psi(x)-\psi(c)-(x-c)\rvert_\infty=\lvert g(1)-g(0)\rvert_\infty\le\max_{0\le t\le1}\lvert g'(t)\rvert_\infty\le\eta\,\lvert x-c\rvert_\infty\le\frac{\eta s}2 $$
である。よって $\lvert\psi(x)-\psi(c)\rvert_\infty\le(1+\eta)s/2$、すなわち $\psi(Q)\subset Q(\psi(c),(1+\eta)s)$ である。$\varphi(Q)=A\psi(Q)$ はコンパクトなので可測であり、prop-cov-linear により
$$ \lambda(\varphi(Q))\le\lvert\det A\rvert\,\lambda\bigl(Q(\psi(c),(1+\eta)s)\bigr)=(1+\eta)^nJ_\varphi(c)\,\lambda(Q) $$
である。$\square$

開集合は 2 進の立方体に分けられる。$l\in\mathbb Z$、$m\in\mathbb Z^n$ について $\prod_i[m_i2^{-l},(m_i+1)2^{-l})$ の形の集合を 2 進立方体(1 辺 $2^{-l}$)という。

開集合の2進立方体への分割

開集合 $W\subset\mathbb R^n$ と $k\in\mathbb N$ について、$W$ は 1 辺が $2^{-k}$ 以下の 2 進立方体の、互いに交わらない可算個の和である。

2 つの 2 進立方体は、一方が他方を含むか、交わらない。$W$ に含まれる 1 辺 $2^{-k}$ 以下の 2 進立方体のうち、同じ条件をみたす 2 進立方体に真に含まれないもの(極大なもの)を集める。$x\in W$ なら、$x$ を含む 1 辺 $2^{-l}$ の 2 進立方体は直径が $\sqrt n\,2^{-l}$ なので、$l$ が大きければ $W$ に入る。$x$ を含み条件をみたす 2 進立方体は 1 辺の大きさの順に並ぶ入れ子の列なので、そのうち最大のものが極大である。よって極大な 2 進立方体は $W$ を覆い、互いに交わらない。2 進立方体は可算個なので、可算個の和である。$\square$

主定理の証明

片側の評価と逆写像

1. 可測性。 $E\subset U$ を可測集合とし、$E=B\setminus N$($B$ は Borel 集合、$N$ は零集合)と書く。開集合 $G_k$ を $U$ との共通部分に取り替えて、$B\subset U$ としてよい。$\varphi(B)$ は連続写像 $\varphi^{-1}$ による Borel 集合 $B$ の逆像なので Borel 集合であり、$\varphi(N)$ は零集合である(Sardの定理 の補題「$C^1$ 級写像は測度零集合を保つ」)。$\varphi$ は単射なので $\varphi(E)=\varphi(B)\setminus\varphi(N)$ は可測である。$\varphi^{-1}$ についても同じことが言えるので、可測な $F\subset V$ について $\varphi^{-1}(F)$ は可測であり、可測関数 $f$ について $f\circ\varphi$ は可測である。
2. 相対コンパクトな開集合での上からの評価。 $W$ を開集合で、閉包 $K:=\overline W$ がコンパクトで $U$ に含まれるものとし、$\lambda(\varphi(W))\le\int_WJ_\varphi\,d\lambda$ を示す。逆行列の成分は余因子の式で与えられるので $x\mapsto D\varphi(x)^{-1}$ は連続であり、$M:=\max_{x\in K}\|D\varphi(x)^{-1}\|<\infty$ である。$\eta>0$ とする。$D\varphi$ と $J_\varphi$ は $K$ 上で一様連続なので、$k$ を大きくとると、$x,y\in K$、$\lvert x-y\rvert_\infty\le2^{-k}$ のとき $M\|D\varphi(x)-D\varphi(y)\|\le\eta$ かつ $\lvert J_\varphi(x)-J_\varphi(y)\rvert\le\eta$ となる。lem-cov-dyadic で $W=\bigsqcup_jQ_j$ と分け、$Q_j$ の中心を $c_j$ とする。$\overline{Q_j}\subset K$ であり、$x\in\overline{Q_j}$ について
$$ \|D\varphi(c_j)^{-1}D\varphi(x)-I\|\le\|D\varphi(c_j)^{-1}\|\,\|D\varphi(x)-D\varphi(c_j)\|\le\eta $$
である。lem-cov-cube と、$Q_j$ 上で $J_\varphi(c_j)\le J_\varphi+\eta$ であることから
$$ \lambda(\varphi(W))\le\sum_j\lambda\bigl(\varphi(\overline{Q_j})\bigr)\le(1+\eta)^n\sum_jJ_\varphi(c_j)\lambda(Q_j)\le(1+\eta)^n\Bigl(\int_WJ_\varphi\,d\lambda+\eta\,\lambda(W)\Bigr) $$
である。$\lambda(W)\le\lambda(K)<\infty$ なので、$\eta\to0$ として結論を得る。
3. 可測集合での上からの評価。 2 の $W$ と可測集合 $E\subset W$ をとる。$\varepsilon>0$ に対し、開集合 $G$ で $E\subset G\subset W$、$\lambda(G\setminus E)\le\varepsilon$ となるものがある。$\overline G\subset K$ なので 2 を $G$ に使えて、
$$ \lambda(\varphi(E))\le\lambda(\varphi(G))\le\int_GJ_\varphi\,d\lambda\le\int_EJ_\varphi\,d\lambda+\varepsilon\max_KJ_\varphi $$
である。$\varepsilon\to0$ として $\lambda(\varphi(E))\le\int_EJ_\varphi\,d\lambda$ を得る。一般の可測集合 $E\subset U$ については、$W_k:=\{x\in U\mid\lvert x\rvert< k,\ \operatorname{dist}(x,\mathbb R^n\setminus U)>1/k\}$($U=\mathbb R^n$ なら距離の条件は外す)が 2 の条件をみたし $U$ に増加して近づくので、$E\cap W_k$ に使って $k\to\infty$ とすると(左辺は測度の連続性、右辺は Lebesgue積分 の定理「単調収束定理」)、
$$ \lambda(\varphi(E))\le\int_EJ_\varphi\,d\lambda\qquad(\ast) $$
を得る。
4. 関数への拡張。 可測な $F\subset V$ について $(\ast)$ を $E=\varphi^{-1}(F)$ に使うと、$\chi_F\circ\varphi=\chi_{\varphi^{-1}(F)}$ なので $\int_V\chi_F\,d\lambda\le\int_U(\chi_F\circ\varphi)J_\varphi\,d\lambda$ である。両辺は $f$ について線形なので $0$ 以上の単関数についても成り立ち、可測な $f\ge0$ には単関数の増加列 $f_k\uparrow f$ をとって両辺に単調収束定理を使うと
$$ \int_Vf\,d\lambda\le\int_U(f\circ\varphi)\,J_\varphi\,d\lambda\qquad(\ast\ast) $$
を得る。
5. 逆向きの不等式。 $(\ast\ast)$ を、$\varphi^{-1}\colon V\to U$ と $U$ 上の可測関数 $g:=(f\circ\varphi)J_\varphi\ge0$ に使う。連鎖律から $D\varphi(\varphi^{-1}(y))\,D\varphi^{-1}(y)=I$ なので $J_\varphi(\varphi^{-1}(y))\,J_{\varphi^{-1}}(y)=1$ であり、
$$ \int_U(f\circ\varphi)J_\varphi\,d\lambda\le\int_Vf\cdot(J_\varphi\circ\varphi^{-1})\cdot J_{\varphi^{-1}}\,d\lambda=\int_Vf\,d\lambda $$
である。$(\ast\ast)$ と合わせて 2 を得る。1 は 2 を $f=\chi_{\varphi(E)}$ に使ったものである。3 は、2 を $\lvert f\rvert$ に使えば可積分性の同値を得て、$f$ の実部と虚部それぞれの正の部分と負の部分に 2 を使って足し引きすればよい。$\square$

証明の 2 では、$\lambda(\varphi(\overline{Q_j}))$ の和で $\lambda(\varphi(W))$ を上から押さえるだけで、立方体の像どうしの重なりは気にしなくてよい。下からの評価は自分で作らず、逆写像に同じ上からの評価を当てて得ている(5)。この「片側の評価と逆写像」の組み合わせが証明の骨格である。

例

楕円体の体積

$a,b,c>0$ とし、$A=\operatorname{diag}(a,b,c)$ とする。楕円体 $\{(x,y,z)\mid x^2/a^2+y^2/b^2+z^2/c^2<1\}$ は単位球 $B$ の像 $AB$ なので、prop-cov-linear によりその体積は $abc\,\lambda(B)=\frac43\pi abc$ である($\lambda(B)=\frac43\pi$ は Gauss積分 の定理「単位球の体積」)。

平面の極座標とGauss積分

$U=(0,\infty)\times(0,2\pi)$、$V=\mathbb R^2\setminus\{(x,0)\mid x\ge0\}$、$\varphi(r,\theta)=(r\cos\theta,r\sin\theta)$ とする。$\varphi\colon U\to V$ は全単射で(極座標 の命題「極座標の存在と偏角の一意性」)、$J_\varphi(r,\theta)=r>0$ である(同記事の命題「極座標のJacobi行列式」)。逆関数定理 の系「微分がいたるところ正則な写像」により $\varphi$ は $C^1$ 級微分同相写像である。$\mathbb R^2\setminus V$ は半直線で零集合なので、可測な $f\ge0$ について、thm-cov-main と Tonelli の定理(Fubiniの定理)から
$$ \int_{\mathbb R^2}f\,d\lambda=\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^\infty f(r\cos\theta,r\sin\theta)\,r\,dr\,d\theta $$
である。$f(x,y)=e^{-x^2-y^2}$ とすると右辺は $2\pi\cdot\frac12=\pi$ であり、左辺は Tonelli の定理で $\bigl(\int_{\mathbb R}e^{-x^2}dx\bigr)^2$ なので、$\int_{\mathbb R}e^{-x^2}dx=\sqrt\pi$ を得る。空間の球座標 $(r\sin\theta\cos\phi,r\sin\theta\sin\phi,r\cos\theta)$ では $J=r^2\sin\theta$ である(Jacobi行列 の例「空間の球座標の場合」)。

確率密度の変換

$\mathbb R^n$ に値をとる確率変数 $X$ が密度 $p$ をもち、$P(X\in U)=1$ とする。$C^1$ 級微分同相写像 $\varphi\colon U\to V$ について、$Y:=\varphi(X)$ は密度
$$ q(y)=p\bigl(\varphi^{-1}(y)\bigr)\,J_{\varphi^{-1}}(y)\quad(y\in V),\qquad q=0\quad(V\text{ の外}) $$
をもつ。実際、可測な $F\subset\mathbb R^n$ について、thm-cov-main の 2 を $\varphi^{-1}\colon V\to U$ と $g:=\chi_{\varphi^{-1}(F\cap V)}\,p$ に使うと
$$ P(Y\in F)=\int_U\chi_{\varphi^{-1}(F\cap V)}\,p\,d\lambda=\int_V\chi_{F}\,(p\circ\varphi^{-1})\,J_{\varphi^{-1}}\,d\lambda=\int_Fq\,d\lambda $$
である。たとえば $X$ が $(0,1)$ 上の一様分布なら、$\varphi(x)=-\log x$ について $Y=-\log X$ の密度は $(0,\infty)$ 上で $1\cdot e^{-y}$ であり、$Y$ は指数分布にしたがう。1 変数の単調な変換の場合は 確率密度関数 の定理「単調な変換による密度」である。

合成による Lp ノルムの評価

$H\colon U\to V$ を $C^1$ 級微分同相写像で、$J_{H^{-1}}\le C$ が $V$ 上で成り立つものとし、$1\le p<\infty$ とする。可測な $v\colon V\to\mathbb R$ について、thm-cov-main の 2 を $H^{-1}\colon V\to U$ と $\lvert v\circ H\rvert^p$ に使うと
$$ \int_U\lvert v\circ H\rvert^p\,d\lambda=\int_V\lvert v\rvert^p\,J_{H^{-1}}\,d\lambda\le C\int_V\lvert v\rvert^p\,d\lambda $$
である。したがって $v\mapsto v\circ H$ は Lp空間 $L^p(V)$ から $L^p(U)$ への有界線形写像であり、$v_k\to v$ なら $v_k\circ H\to v\circ H$ である。Sobolev 関数を座標の取り替えで写すとき(Bre11 Proposition 9.6、pp. 270–271)、近似列の合成の $L^p$ 収束にはこの評価を使う。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$\varphi$ が単射$U=(0,1)\times(0,4\pi)$ 上の $\varphi(r,\theta)=(r\cos\theta,r\sin\theta)$$\lambda(\varphi(U))=\int_UJ_\varphi\,d\lambda$(左辺 $\pi$、右辺 $2\pi$)
$\varphi$ が $C^1$ 級(同相写像でほとんど至るところ微分可能なだけ)$(0,1)$ 上の $h(x)=\frac12(x+F(x))$($F$ は Cantor 関数)$\lambda(h(E))=\int_E\lvert h'\rvert\,d\lambda$($E=(0,1)$ で左辺 $1$、右辺 $\frac12$)
Jacobi 行列式に絶対値をつけること$(0,1)$ 上の $\varphi(x)=-x$、$f=1$$\int_Vf=\int_U(f\circ\varphi)\det D\varphi$(左辺 $1$、右辺 $-1$)
反例の確認を開く

1 行目:$\varphi$ は $C^1$ 級で $J_\varphi=r>0$ だが、正の $x$ 軸上の点を除く $\varphi(U)$ の各点を 2 回ずつ覆う。$\varphi(U)$ は原点を除いた単位円板で $\lambda(\varphi(U))=\pi$、一方 $\int_UJ_\varphi=\int_0^{4\pi}\int_0^1r\,dr\,d\theta=2\pi$ である。$\varphi$ を $(0,1)\times(0,2\pi)$ に制限すれば単射になり、等式が成り立つ。

2 行目:Cantor 関数 $F$ は $[0,1]$ 上の単調非減少な連続関数で、Cantor 集合 $C$ の補集合の各成分区間の上で定数である(Cantor集合 の命題「Cantor関数の構成」)。$h$ は狭義単調増加な連続関数で $h(0)=0$、$h(1)=1$ なので、$(0,1)$ から $(0,1)$ への同相写像である。補集合の成分区間 $I$ の上では $h'=\frac12$ で $h(I)$ は長さ $\frac12\lvert I\rvert$ の区間なので、$\lambda(h((0,1)\setminus C))=\frac12$、したがって $\lambda(h(C\cap(0,1)))=\frac12$ である。$C$ は零集合(同記事の命題「測度0のコンパクトな疎集合」)なので $h'=\frac12$ がほとんど至るところ成り立ち、$\int_{(0,1)}\lvert h'\rvert\,d\lambda=\frac12\ne1=\lambda(h((0,1)))$ である。零集合 $C$ が正の測度の集合に写ることが原因である。

3 行目:1 変数の置換積分 $\int_{\varphi(a)}^{\varphi(b)}f=\int_a^b(f\circ\varphi)\varphi'$ では向きの付いた積分なので符号がつくが、集合の上の積分では体積の拡大率として $\lvert\det D\varphi\rvert$ を使う。

補足

単射とは限らない Lipschitz 写像 $\varphi\colon\mathbb R^n\to\mathbb R^n$ と可測な $f\ge0$ については、像の点 $y$ を覆う回数を重みにした等式 $\int_{\mathbb R^n}(f\circ\varphi)J_\varphi\,d\lambda=\int_{\mathbb R^n}f(y)\,\#\varphi^{-1}(y)\,dy$ が成り立つ($J_\varphi$ はほとんど至るところ存在する微分で定める)。これは Hausdorff測度と面積・余面積公式 の定理「面積公式」の $m=n$ の場合で、同じ定理は次元の違う空間の間の写像も扱う。表の 1 行目は重みがほとんど至るところ $2$ になる場合にあたる。

関連項目

参考文献

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