Hadamardの因数分解定理(Hadamard factorization theorem)とは、位数 $\lambda$ が有限の整関数 $f$ が、$0$ での零点の因子 $z^m$、次数 $\lfloor\lambda\rfloor$ 以下の多項式 $g$ による $e^{g}$、零点の列 $(a_n)$ の標準乗積 $\prod_nE_h(z/a_n)$($h\le\lambda$)の積に書けるという定理である。あわせて、$s>\lambda$ なら $\sum_n|a_n|^{-s}$ が収束し、$f$ の種数 $\mu$ は $\mu\le\lambda\le\mu+1$ を満たす。系として、位数が有限で整数でない整関数はすべての値を無限回とる。零点と位数から正弦関数などの乗積表示を決めるのに使われる。
前提知識: 整関数, Weierstrassの因数分解定理, Taylor展開(複素解析), Liouvilleの定理(複素解析)
Hadamardの因数分解定理 は、増大の速さ(位数)が有限の 整関数 について、零点の分布と因数分解の形を位数で押さえる定理である。Weierstrassの因数分解定理 によれば、零関数でない整関数 $f$ は $f(z)=z^me^{g(z)}\prod_nE_{p_n}(z/a_n)$ と書けるが、整関数 $g$ と次数 $p_n$ は一般には何の制約も受けない。Hadamard は、$f$ の位数 $\lambda$ が有限なら、次数 $p_n$ を $\lambda$ 以下の 1 つの整数にそろえられ、$g$ は次数 $\lambda$ 以下の多項式になることを示した。たとえば位数 $1$ の $\sin\pi z$ では、定理から乗積表示 $\sin\pi z=\pi z\prod_{n\geq1}(1-z^2/n^2)$ がほぼ自動的に従う。
この記事では位数と種数を定義し、定理を完全に証明する。証明の道具は、円板の中の零点を割り去った関数の対数の Taylor 係数を、円周上の実部の最大値で押さえる評価である。系として、位数が有限で整数でない整関数はすべての値を無限回とることを示す。
以下、整関数 $f$ について $M(r):=\max_{|z|=r}|f(z)|$($r>0$)とおく。開写像定理(複素解析) の系「正則関数の最大値原理」により、$M(r)$ は閉円板 $|z|\leq r$ での $|f|$ の最大値でもあり、$r$ について単調非減少である。$f$ が定数でなければ、Liouvilleの定理(複素解析) により $M(r)\to\infty$($r\to\infty$)である。
定数でない整関数 $f$ の 位数(order)を
$$\lambda:=\limsup_{r\to\infty}\frac{\log\log M(r)}{\log r}\in[0,\infty]$$
と定める。$\lambda<\infty$ のとき、$f$ は 有限の位数 をもつという。
定義から、$\lambda<\infty$ なら、どの $\varepsilon>0$ についても十分大きい $r$ で $\log M(r)\leq r^{\lambda+\varepsilon}$ が成り立つ。$f$ を $z^mf_1$($f_1(0)\neq0$)と書くと $M(r)=r^mM_{f_1}(r)$ なので、$f$ と $f_1$ の位数は等しい。多項式の位数は $0$、$e^{z}$ と $\sin z$ の位数は $1$、$e^{z^2}$ の位数は $2$、$e^{e^z}$ の位数は $\infty$ である。
$E_p$ を Weierstrass の基本因子とする:$E_0(u):=1-u$、$p\geq1$ では $E_p(u):=(1-u)\exp(u+u^2/2+\cdots+u^p/p)$。
$(a_n)$ を $0$ でない複素数の列とする。$\sum_n|a_n|^{-h-1}<\infty$ となる整数 $h\geq0$ があるとき、その最小のものを $(a_n)$ の 種数 といい、$P(z):=\prod_nE_h(z/a_n)$ を 標準乗積(canonical product)という(列が有限または空なら $h=0$)。零関数でない整関数 $f$ の $0$ 以外の零点を重複度の回数だけ並べた列 $(a_n)$ が標準乗積 $P$ をもち、$0$ での零点の位数を $m$ として
$$f(z)=z^me^{g(z)}P(z)$$
の $g$ が多項式にとれるとき、$f$ は 有限の種数 をもつといい、$\mu:=\max(h,\deg g)$ を $f$ の 種数(genus)という($g$ が定数なら $\deg g=0$)。
これは Weierstrassの因数分解定理 の定義「標準乗積と種数」と同じである。$\sum_n|a_n|^{-h-1}<\infty$ のとき $P$ は整関数で、零点はちょうど $a_n$(重複度込み)である(同じ記事の定理「Weierstrass の因数分解定理」の 1)。
主定理(thm-hf-main)の証明には 2 つの補題を使う。1 つ目は基本因子の上からの評価である。
整数 $h\geq0$ と $u\neq1$ について $\log|E_h(u)|\leq3\cdot2^h|u|^{h+1}$ である。
要点:$|u|\leq\frac12$ では $E_h(u)=\exp(-\sum_{k>h}u^k/k)$ から、$|u|>\frac12$ では各項を $|u|^{h+1}$ と比べて評価する。
$|u|\leq\frac12$ のとき:$|u|<1$ では $-\log(1-u)=\sum_{k\geq1}u^k/k$ なので $E_h(u)=\exp(-\sum_{k>h}u^k/k)$ であり(Weierstrassの因数分解定理 の定義「基本因子」のあとの説明)、$\log|E_h(u)|=-\operatorname{Re}\sum_{k>h}u^k/k\leq\sum_{k>h}|u|^k=|u|^{h+1}/(1-|u|)\leq2|u|^{h+1}$ である。
$|u|>\frac12$ のとき:$\log|E_h(u)|=\log|1-u|+\operatorname{Re}(u+\cdots+u^h/h)\leq\log(1+|u|)+\sum_{k=1}^h|u|^k\leq|u|+\sum_{k=1}^h|u|^k$ である($\log(1+x)\leq x$)。$1\leq k\leq h+1$ なら $|u|^{k-h-1}\leq2^{h+1-k}$ なので $|u|^k\leq2^{h+1-k}|u|^{h+1}$ であり、右辺は $(2^h+\sum_{k=1}^h2^{h+1-k})|u|^{h+1}\leq(2^h+2^{h+1})|u|^{h+1}=3\cdot2^h|u|^{h+1}$ 以下である。$2\leq3\cdot2^h$ なので、どちらの場合も主張が成り立つ。$\square$
2 つ目は、円板の中の零点を割り去った関数の対数の Taylor 係数を、$\log M(\rho)$ で押さえる評価である。
$f$ を $f(0)\neq0$ を満たす整関数、$\rho>0$ を $f$ が円周 $|z|=\rho$ 上に零点をもたないような数とし、開円板 $|z|<\rho$ にある $f$ の零点を重複度の回数だけ並べたものを $b_1,\ldots,b_N$ とする。
$$B_\rho(z):=\prod_{i=1}^N\frac{\rho(z-b_i)}{\rho^2-\overline{b_i}z}$$
とおく。このとき、閉円板 $|z|\leq\rho$ を含む開円板の上の正則関数 $L_\rho(z)=\sum_{j\geq0}c_jz^j$ で、次を満たすものがある。
要点:$|B_\rho|=1$ が円周 $|z|=\rho$ 上で成り立つので、$\operatorname{Re}L_\rho$ は円周上で $\log|f|\leq\log M(\rho)$ である。Taylor 係数を円周上の $\operatorname{Re}L_\rho$ の Fourier 係数で表して評価する。
$|z|=\rho$ なら $|\rho^2-\overline{b}z|=|z\overline z-\overline bz|=\rho|z-b|$ なので $|B_\rho(z)|=1$ である。$F:=f/B_\rho$ とおく。$f$ の零点 $b_i$ は分子の因子 $z-b_i$ で割り切れて除去可能であり(整関数 の命題「零点の局所因数分解」)、$F$ の零点は $\rho^2/\overline{b_i}$(絶対値 $>\rho$)と $|z|>\rho$ にある $f$ の零点だけである。どの有界な範囲にも零点は有限個なので、$\rho_1>\rho$ を $F$ が $|z|<\rho_1$ で零点をもたないようにとれる。Koebeの1/4定理 の補題「零をとらない正則関数の対数と平方根」を $w\mapsto F(\rho_1w)/F(0)$ に当て、$F(0)=e^{\ell}$ となる $\ell$ を加えると、$|z|<\rho_1$ 上の正則関数 $L_\rho$ で $e^{L_\rho}=F$ となるものを得る。これが 1 である。
$L_\rho$ の Taylor 級数は $|z|<\rho_1$ で収束する(Taylor展開(複素解析) の命題「収束半径と定義域の関係」)ので、円周 $|z|=\rho$ 上で一様に収束し、項別に積分できる。$u(\theta):=\operatorname{Re}L_\rho(\rho e^{i\theta})=\frac12\sum_{k\geq0}(c_k\rho^ke^{ik\theta}+\overline{c_k}\rho^ke^{-ik\theta})$ に $e^{-ij\theta}$ を掛けて積分すると、$\int_0^{2\pi}e^{il\theta}d\theta$ は $l=0$ のとき $2\pi$、それ以外で $0$ なので、$\int_0^{2\pi}u\,d\theta=2\pi\operatorname{Re}c_0$、$j\geq1$ では $\int_0^{2\pi}u(\theta)e^{-ij\theta}d\theta=\pi c_j\rho^j$ である。
円周上で $|B_\rho|=1$ なので $u(\theta)=\log|f(\rho e^{i\theta})|\leq\log M(\rho)$ であり、平均をとって $\operatorname{Re}c_0\leq\log M(\rho)$ を得る。また $\operatorname{Re}c_0=\log|F(0)|=\log|f(0)|-\log|B_\rho(0)|$ で、$|B_\rho(0)|=\prod_i\rho|b_i|/\rho^2=\prod_i|b_i|/\rho$ だから 2 が成り立つ。$j\geq1$ では $\int_0^{2\pi}e^{-ij\theta}d\theta=0$ なので、$C:=\log M(\rho)$ について $\pi c_j\rho^j=-\int_0^{2\pi}(C-u(\theta))e^{-ij\theta}d\theta$ であり、$C-u\geq0$ から $\pi|c_j|\rho^j\leq\int_0^{2\pi}(C-u)\,d\theta=2\pi(C-\operatorname{Re}c_0)$ である。2 より $\operatorname{Re}c_0\geq\log|f(0)|$ なので 3 を得る。$\square$
2 から零点の個数の評価が出る。$n(r)$ を $0<|a|\leq r$ にある $f$ の零点の個数(重複度込み)とする。
$f(0)\neq0$ の整関数について、すべての $r>0$ で $n(r)\log2\leq\log M(3r)-\log|f(0)|$ である。
$[2r,3r]$ には零点の絶対値が有限個しかないので、零点が円周 $|z|=\rho$ にない $\rho\in[2r,3r]$ がとれる。lem-hf-disk の 2 で、$|b_i|\leq r$ の項は $\log(\rho/|b_i|)\geq\log2$、それ以外の項は $0$ 以上なので、$n(r)\log2\leq\log M(\rho)-\log|f(0)|\leq\log M(3r)-\log|f(0)|$ である。$\square$
$f$ を定数でない整関数で、位数 $\lambda$ が有限であるものとする。$0$ での零点の位数を $m\geq0$、$0$ 以外の零点を重複度の回数だけ並べた列を $(a_n)$ とし、$q:=\lfloor\lambda\rfloor$($\lambda$ 以下の最大の整数)とおく。
$f_1(z):=f(z)/z^m$ は $f_1(0)\neq0$ の整関数で、零点の列は $(a_n)$、位数は $\lambda$ である。$(a_n)$ を $|a_1|\leq|a_2|\leq\cdots$ と並べておく。
1. まず、どの $\varepsilon>0$ についても、定数 $C$ があって十分大きい $r$ で $n(r)\leq Cr^{\lambda+\varepsilon}$ となることを示す。十分大きい $r$ で $\log M_{f_1}(3r)\leq(3r)^{\lambda+\varepsilon}$ なので、cor-hf-counting から $n(r)\leq((3r)^{\lambda+\varepsilon}+|\log|f_1(0)||)/\log2$ であり、$C:=2\cdot3^{\lambda+\varepsilon}/\log2$ ととればよい。次に $\varepsilon:=(s-\lambda)/2$ とする。零点が有限個なら和は有限和なので、無限個とする。$n\leq n(|a_n|)$ かつ $|a_n|\to\infty$ だから、十分大きい $n$ で $n\leq C|a_n|^{\lambda+\varepsilon}$、すなわち $|a_n|^{-s}\leq(C/n)^{s/(\lambda+\varepsilon)}$ である。指数 $s/(\lambda+\varepsilon)$ は $1$ より大きいので、$\sum_n|a_n|^{-s}$ は収束する。
2. $q+1>\lambda$ なので 1 により $\sum_n|a_n|^{-q-1}<\infty$ であり、種数の最小性から $h\leq q$ である。$\sum_n(r/|a_n|)^{h+1}<\infty$ なので、Weierstrassの因数分解定理 の定理「Weierstrass の因数分解定理」により $P:=\prod_nE_h(z/a_n)$ は整関数で、整関数 $g$ によって $f_1=e^gP$ と書ける。$g(z)=\sum_j\beta_jz^j$ とし、$j\geq q+1$ で $\beta_j=0$ を示す。
$\delta>0$ を $|a_1|/2$ とする(零点がなければ $\delta:=1$)。$E_h'(u)=-u^he^{u+\cdots+u^h/h}$(同じ記事の補題「基本因子の評価」の証明)から $E_h'/E_h=-u^h/(1-u)$ であり、$\frac{d}{dz}\log E_h(z/a)=\frac{(z/a)^h}{z-a}$ である。部分積 $P_N$ は $|z|\leq\delta$ で $P$ に一様収束し、$P$ はそこで零点をもたないので、Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」により $P_N'/P_N\to P'/P$(一様)であって
$$\frac{P'(z)}{P(z)}=\sum_n\frac{(z/a_n)^h}{z-a_n}=-\sum_n\sum_{i\geq0}\frac{z^{h+i}}{a_n^{h+i+1}}\qquad(|z|<\delta)$$
である。二重級数は $\sum_n2\delta^h|a_n|^{-h-1}<\infty$ で押さえられて絶対収束するので、並べ替えてよい。$j\geq h+1$ について、$z^{j-1}$ の係数は $-\sum_na_n^{-j}$ である。
$\rho>\delta$ を零点の絶対値でない数とし、lem-hf-disk を $f_1$ に当てる。$|z|<\delta$ で $f_1'/f_1=g'+P'/P=L_\rho'+B_\rho'/B_\rho$ であり、
$$\frac{B_\rho'(z)}{B_\rho(z)}=\sum_{|a_n|<\rho}\Bigl(\frac1{z-a_n}+\frac{\overline{a_n}}{\rho^2-\overline{a_n}z}\Bigr)$$
の $z^{j-1}$ の係数は $\sum_{|a_n|<\rho}(-a_n^{-j}+\overline{a_n}^{\,j}\rho^{-2j})$ である。$j\geq q+1$ として $z^{j-1}$ の係数を比べると
$$j\beta_j=jc_j+\sum_{|a_n|\geq\rho}a_n^{-j}+\rho^{-2j}\sum_{|a_n|<\rho}\overline{a_n}^{\,j}$$
を得る。$\varepsilon:=(q+1-\lambda)/2$ とすると $\lambda+\varepsilon< j$ であり、1 の前半の $C$ をこの $\varepsilon$ でとる。$\rho\to\infty$ とすると、lem-hf-disk の 3 から $|jc_j|\leq2j\rho^{-j}(\rho^{\lambda+\varepsilon}+|\log|f_1(0)||)\to0$、第 2 項は 1 により収束する級数の尾部なので $\to0$、第 3 項は絶対値が $\rho^{-j}n(\rho)\leq C\rho^{\lambda+\varepsilon-j}$ 以下で $\to0$ である。よって $\beta_j=0$ であり、$g$ は次数 $q$ 以下の多項式である。
3. 2 により $f$ は有限の種数 $\mu=\max(h,\deg g)\leq q\leq\lambda$ をもつ。逆に、$S:=\sum_n|a_n|^{-h-1}$ とおくと、$P(z)\neq0$ の点では $\log|P(z)|=\lim_N\sum_{n\leq N}\log|E_h(z/a_n)|\leq3\cdot2^hS|z|^{h+1}$(lem-hf-elementary-upper)なので、$M_P(r)\leq\exp(3\cdot2^hSr^{h+1})$ である。$d:=\deg g$ とすると、ある定数 $A$ について $r\geq1$ で $|e^{g(z)}|\leq e^{|g(z)|}\leq e^{A r^d}$ である。よって $r\geq1$ で $\log M(r)\leq m\log r+Ar^d+3\cdot2^hSr^{h+1}$ であり、$d\leq\mu$、$h+1\leq\mu+1$ から右辺は十分大きい $r$ で $(A+3\cdot2^hS+1)r^{\mu+1}$ 以下である。したがって $\lambda\leq\mu+1$ である。$\square$
2 の $g$ の次数の評価は、Ahl66 Chapter 5 §3.2 の Theorem 8(pp. 207–210)では Poisson–Jensen の公式を $q$ 回微分して導かれている。上の証明はその代わりに lem-hf-disk の係数評価を使った。lem-hf-disk の 2 は、Nevanlinna理論 の定理「Jensen の公式」の不等式の側である。
$f$ を整関数とし、その位数 $\lambda$ は有限で整数でないとする。このときすべての $a\in\mathbb{C}$ について、方程式 $f(z)=a$ は無限個の解をもつ。
多項式の位数は $0$ なので $f$ は多項式でない。$|M_{f-a}(r)-M_f(r)|\leq|a|$ かつ $M_f(r)\to\infty$ なので、$f-a$ の位数も $\lambda$ である。$f-a$ の零点が有限個だと仮定すると、thm-hf-main の 2 で積は有限積になり、$f-a=Q\,e^{g}$($Q$ は多項式、$g$ は多項式)と書ける。$f-a$ は多項式でないので $d:=\deg g\geq1$ である。$g(z)=bz^d+\cdots$($b\neq0$)とし、$be^{id\theta_0}=|b|$ となる $\theta_0$ をとる。$z=re^{i\theta_0}$ では、定数 $A$ について $r\geq1$ で $\operatorname{Re}g(z)\geq|b|r^d-Ar^{d-1}$ であり、十分大きい $r$ で $|Q(z)|\geq|Q(z)/z^{\deg Q}|\geq c>0$($c$ は $Q$ の最高次係数の絶対値の半分)なので、$\log M_{f-a}(r)\geq|b|r^d-Ar^{d-1}+\log c$ である。上からは $\log M_{f-a}(r)\leq\deg Q\log r+A'r^d$ である。よって $f-a$ の位数は整数 $d$ に等しく、$\lambda$ が整数でないことに反する。$\square$
この系と証明は Ahl66 Chapter 5 §3.2 の Corollary(p. 210)による。定数でない整関数が除外できる値は高々 1 つであるという Picardの小定理 と比べると、位数が有限で整数でないという情報から、除外値がないだけでなく各値を無限回とることまで言える。
$f(z)=\sin\pi z$ とする。$|\sin w|\leq e^{|\operatorname{Im}w|}$ と $|\sin(\pi ir)|=\sinh\pi r$ から $\sinh\pi r\leq M(r)\leq e^{\pi r}$ なので、位数は $\lambda=1$、$q=1$ である。零点は整数全体で、すべて 1 位である。$0$ 以外の零点を $1,-1,2,-2,\ldots$ と並べると、$\sum1/n^2<\infty$、$\sum1/|n|=\infty$ なので種数は $h=1$ である。thm-hf-main の 2 により、定数 $\alpha,\beta$ で
$$\sin\pi z=z\,e^{\alpha+\beta z}\prod_{n}E_1\Bigl(\frac z{a_n}\Bigr)$$
と書ける。$z$ を $-z$ に替えると、積の因子は $1$ と $-1$、$2$ と $-2$、…の組ごとに入れ替わるだけで、偶数個までの部分積は変わらないので、積の値は変わらない。$\sin\pi z$ は奇関数なので $e^{\beta z}=e^{-\beta z}$ が零点以外の $z$ で成り立ち、$\beta=0$ である。$z=0$ での微分係数を比べると $\pi=e^{\alpha}$ である。$E_1(z/n)E_1(-z/n)=1-z^2/n^2$ なので、偶数個までの部分積をとって
$$\sin\pi z=\pi z\prod_{n\geq1}\Bigl(1-\frac{z^2}{n^2}\Bigr)$$
を得る。Weierstrassの因数分解定理 の例「正弦関数」では、残る指数因子を決めるのに余接関数の部分分数展開が要った。ここでは位数の情報と奇関数であることで足りている。
$C(z):=\sum_{k\geq0}(-z)^k/(2k)!$ は整関数で、$C(w^2)=\cos w$ を満たす。Weierstrassの因数分解定理 の節「種数と位数」のとおり $M(r)=\cosh\sqrt r$ なので、位数は $\frac12$ である。cor-hf-values により、$C$ はすべての値を無限回とる。零点は $\cos w=0$ となる $w=(k+\frac12)\pi$ の 2 乗 $z_k:=(k+\frac12)^2\pi^2$($k\geq0$)で、$C'(w^2)=-\sin w/(2w)\neq0$ なのですべて 1 位である。$\sum_k z_k^{-1}<\infty$ なので種数は $h=0$、thm-hf-main の 2 で $q=0$ なので $g$ は定数で、$C(0)=1$ から
$$C(z)=\prod_{k\geq0}\Bigl(1-\frac{z}{(k+\frac12)^2\pi^2}\Bigr)$$
である。
$a_n:=n(\log n)^2$($n\geq2$)とし、$f(z):=\prod_{n\geq2}(1-z/a_n)$ とおく。積分 $\int_2^\infty dx/(x(\log x)^2)=1/\log2$ が有限なので $\sum_n1/a_n<\infty$ であり、$f$ は種数 $0$ の標準乗積で、$f$ の種数は $\mu=0$ である。lem-hf-elementary-upper を $h=0$ で使うと $\log M(r)\leq3r\sum_n1/a_n$ なので(thm-hf-main の 3 の証明と同じ評価)、$f$ の位数は有限で $\lambda\leq1$ である。$\lambda<1$ とすると、$s:=(\lambda+1)/2<1$ について 1 から $\sum_na_n^{-s}<\infty$ となるが、十分大きい $n$ で $n^{1-s}\geq(\log n)^{2s}$、すなわち $a_n^{-s}\geq1/n$ なので、級数は発散する。よって $\lambda=1=\mu+1$ である。一方 $e^z$ や $\sin\pi z$ では $\lambda=\mu=1$ である。3 の 2 つの不等式は、どちらも等号が起こりうる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 位数が有限(thm-hf-main の 2) | $e^{e^z}$(位数 $\infty$) | 零点がないので積は $1$ だが、$e^{e^z}=e^{g}$ となる整関数 $g$ は $e^z+2\pi ik$($k\in\mathbb{Z}$)だけで、多項式でない |
| 位数が整数でない(cor-hf-values) | $e^z$(位数 $1$) | 値 $0$ を一度もとらない |
| 1 の $s>\lambda$($s=\lambda$ とする) | $\sin\pi z$($\lambda=1$) | $\sum_{n\neq0}\lvert n\rvert^{-1}=\infty$ |
1 行目:$|e^{e^z}|=e^{\operatorname{Re}e^z}\leq e^{e^r}$ で、$z=r$ で等号が成り立つので $M(r)=e^{e^r}$、$\log\log M(r)=r$ であり、位数は $\infty$ である。$e^{g}=e^{e^z}$ なら $(g-e^z)/(2\pi i)$ は整数値の連続関数なので定数である。2 行目:$e^z$ の位数が $1$ であることは $M(r)=e^r$ による。$e^z=0$ となる $z$ はない。3 行目:位数は ex-hf-sine で求めた。
定理の使い方の型は ex-hf-sine と ex-hf-cos-sqrt に現れている。零点が分かっていて位数が評価できれば、指数因子 $e^{g}$ は次数 $\lfloor\lambda\rfloor$ 以下の多項式に限られ、残りの有限個の係数を対称性や特定の点での値で決めればよい。位数 $1$ の整関数では $g(z)=\alpha+\beta z$ の 2 つの定数を決めることになる。
位数と零点の分布をさらに詳しく結びつけるのが Nevanlinna理論 である。そこでは $\log M(r)$ の代わりに特性関数 $T_f(r)$ を使い、有理型関数にも同じ形の議論を広げる。
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