Sierpinski空間

同義語:Sierpiński空間Sierpinski space

概要

Sierpinski空間(Sierpiński space)とは、二点集合 $\{0,1\}$ に開集合系 $\{\emptyset,\{1\},\{0,1\}\}$ を入れた位相空間 $S$ のことであり、二点集合上の位相のうち離散でも密着でもない、同相を除いて唯一のものである。$1$ は開点かつ一般点、$0$ は閉点で、$S$ は $T_0$ 空間であるが $T_1$ 空間ではない最も簡単な例である。位相空間 $X$ の部分集合 $U$ の指示関数 $X\to S$ が連続であることと $U$ が開集合であることは同値であり、$X$ の開集合全体は連続写像 $X\to S$ の全体と一対一に対応する。$T_0$ 空間はちょうど $S$ の直積の部分空間と同相な空間である。$S$ は二元鎖の Alexandrov 位相かつ Scott 位相であり、離散付値環のスペクトルとも同相である。

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前提知識: 位相空間, 開集合, 連続写像, 分離公理

定義

二点集合上の Sierpinski 位相

二点集合 $S:=\{0,1\}$ の上に、開集合系を
$$ \mathcal{O}_S:=\{\emptyset,\ \{1\},\ \{0,1\}\} $$
と定めた位相空間 $(S,\mathcal{O}_S)$ を Sierpinski 空間(Sierpiński space)という。$\mathcal{O}_S$ は $\emptyset$ と $S$ を含み、任意の和集合と有限個の共通部分で閉じているので、確かに位相である。閉集合は $\emptyset$、$\{0\}$、$\{0,1\}$ の三つである。

$S$ は二点集合上の位相のうち、離散位相(開集合が 4 個)でも密着位相(開集合が 2 個)でもない、同相を除いて唯一のものである。点 $1$ だけを含む開集合 $\{1\}$ があるので $1$ を開点、$\{0\}$ が閉集合なので $0$ を閉点と呼ぶ。この位相空間と同相写像で結ばれる位相空間(二点集合の上で $\{0\}$ の方を開集合にとったものを含む)も Sierpinski 空間と呼ぶ。以下、Sierpinski 空間を単に $S$ と書く。

流儀の違い

文献によっては開点を $0$、閉点を $1$ にとる(開集合系を $\{\emptyset,\{0\},\{0,1\}\}$ とする)。二つの流儀は $0\leftrightarrow1$ の入れ替えで同相であり、本記事では「$1$ が開点」の流儀を採る。この流儀では、部分集合の指示関数が開集合の指示関数のときちょうど連続になる(prop-sierpinski-open-sets)。

直感

Sierpinski 空間は「開集合とは何か」を一点で言い当てる最小の空間である。位相空間 $X$ の各点に「ある部分集合 $U$ に入っているか($1$)、いないか($0$)」を対応させる写像 $X\to S$ が連続になるのは $U$ が開集合のときに限る。したがって $X$ の開集合を調べることと、$X$ から $S$ への連続写像を調べることは同じであり、$S$ は位相空間の圏において開集合を「分類する」対象と見なせる。また $S$ は $T_0$ 空間(T0空間)であるが $T_1$ 空間(T1空間)ではなく、分離公理の入門で $T_0$ と $T_1$ の違いを見せる最も簡単な例として使われる。

例と反例

開集合の指示関数

$X=\mathbb{R}$(通常の位相、実数直線)とし、$U=(0,\infty)$ の指示関数 $\chi_U\colon\mathbb{R}\to S$($x>0$ なら $1$、$x\le0$ なら $0$)を考える。$S$ の開集合 $\{1\}$ の逆像は $\chi_U^{-1}(\{1\})=(0,\infty)$ で開集合、$\emptyset$ と $S$ の逆像は $\emptyset$ と $\mathbb{R}$ で開集合だから、$\chi_U$ は連続である。一方 $F=[0,\infty)$ の指示関数 $\chi_F$ は、$\chi_F^{-1}(\{1\})=[0,\infty)$ が $\mathbb{R}$ の開集合でないので連続でない。この違いが prop-sierpinski-open-sets の内容である。

離散付値環のスペクトル

$R$ を離散付値環(たとえば $\mathbb{Z}_{(p)}$ や体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$)とし、極大イデアル(極大イデアル、イデアル)を $\mathfrak{m}$ とする。$R$ の素イデアルは $(0)$ と $\mathfrak{m}$ の二つだけなので、Zariski位相を入れたスキームの底空間 $\operatorname{Spec}R$ は二点 $\{(0),\mathfrak{m}\}$ からなる。閉集合は $V(I)=\{\mathfrak{p}\mid I\subset\mathfrak{p}\}$ の形の集合であり、$V(R)=\emptyset$、$V(\mathfrak{m})=\{\mathfrak{m}\}$、$V((0))=\operatorname{Spec}R$ である。よって開集合は $\emptyset$、$\{(0)\}$、$\operatorname{Spec}R$ で、$(0)\mapsto1$、$\mathfrak{m}\mapsto0$ は $\operatorname{Spec}R$ から $S$ への同相写像である。$(0)$ は $\operatorname{Spec}R$ の一般点(閉包が全体になる点)、$\mathfrak{m}$ は閉点であり、Sierpinski 空間は「一般点と閉点が一つずつある空間」と見ることもできる。

反例:$T_0$ であるが $T_1$ でない

$S$ は、$T_0$ 空間ではあるが $T_1$ 空間ではない例である(証明は prop-sierpinski-separation)。したがって $S$ は含意「$T_0$ ⇒ $T_1$」を破り、特に $T_0$ 空間がHausdorff空間や距離空間とは限らないことを示す。満たす性質は $T_0$、満たさない性質は $T_1$ である。

反例:有限空間は離散とは限らない

有限集合上の位相は離散位相だけではない。$S$ は 2 点からなる有限位相空間で、$\{0\}$ は開集合でないので離散でない。これは含意「有限 ⇒ 離散」を破る。$T_1$ な有限空間は離散である(各点が閉集合なら有限集合の任意の部分集合が閉集合になる)ので、この含意が破れるのは $T_1$ でない空間に限られる。

性質

分離公理における位置

Sierpinski 空間 $S$ は $T_0$ 空間であるが、$T_1$ 空間ではない。したがって Hausdorff 空間でもない。

$T_0$ とは、相異なる二点の一方だけを含む開集合が存在することをいう。$S$ の相異なる二点は $0$ と $1$ だけであり、開集合 $\{1\}$ は $1$ を含み $0$ を含まない。よって $S$ は $T_0$ である。$T_1$ とは、相異なる二点 $x,y$ のそれぞれについて、$x$ を含み $y$ を含まない開集合が存在することをいい、これは各一点集合が閉集合であることと同値である。$\{1\}$ の補集合 $\{0\}$ は開集合でないので $\{1\}$ は閉集合でなく、$S$ は $T_1$ でない。Hausdorff 空間は $T_1$ なので、$S$ は Hausdorff でもない。$\square$

開集合と連続写像の対応

$X$ を位相空間とする。$X$ の部分集合 $U$ に対し、指示関数 $\chi_U\colon X\to S$ を、$x\in U$ なら $\chi_U(x)=1$、$x\notin U$ なら $\chi_U(x)=0$ で定める。このとき $\chi_U$ が連続であることと $U$ が $X$ の開集合であることは同値であり、対応 $U\mapsto\chi_U$ は、$X$ の開集合全体の集合 $\mathcal{O}(X)$ から連続写像全体の集合 $\operatorname{Hom}(X,S)$ への全単射である。逆写像は $f\mapsto f^{-1}(\{1\})$ で与えられる。

$S$ の開集合は $\emptyset$、$\{1\}$、$S$ であり、$\chi_U^{-1}(\emptyset)=\emptyset$、$\chi_U^{-1}(S)=X$ はつねに開集合である。よって $\chi_U$ が連続であることは $\chi_U^{-1}(\{1\})=U$ が開集合であることと同値である。任意の写像 $f\colon X\to S$ は $f=\chi_{f^{-1}(\{1\})}$ を満たし、$U\mapsto\chi_U$ は部分集合全体から写像全体への全単射(逆は $f\mapsto f^{-1}(\{1\})$)である。この全単射のもとで、いま示したことにより開集合と連続写像が対応する。$\square$

開集合関手の表現可能性

位相空間 $X$ にその開集合全体 $\mathcal{O}(X)$ を対応させ、連続写像 $g\colon Y\to X$ に逆像をとる写像 $\mathcal{O}(g)\colon\mathcal{O}(X)\to\mathcal{O}(Y)$、$U\mapsto g^{-1}(U)$ を対応させる反変関手 $\mathcal{O}\colon\mathsf{Top}^{\mathrm{op}}\to\mathsf{Set}$ は表現可能関手であり、Sierpinski 空間 $S$ によって表現される。すなわち prop-sierpinski-open-sets の全単射 $\mathcal{O}(X)\cong\operatorname{Hom}(X,S)$ は $X$ について自然である(自然変換をなす)。

$\mathcal{O}$ が関手であることは、$(g\circ h)^{-1}(U)=h^{-1}(g^{-1}(U))$ と $\mathrm{id}^{-1}(U)=U$ から従う。自然性を示す。$g\colon Y\to X$ を連続写像、$U\in\mathcal{O}(X)$ とすると、$\chi_U\circ g$ は $y\in Y$ に対し、$g(y)\in U$ なら $1$、そうでなければ $0$ をとるので $\chi_U\circ g=\chi_{g^{-1}(U)}$ である。これは、$\mathcal{O}(X)\to\operatorname{Hom}(X,S)$ で写してから $g$ との合成 $\operatorname{Hom}(X,S)\to\operatorname{Hom}(Y,S)$ をとることと、$\mathcal{O}(g)$ で写してから $\mathcal{O}(Y)\to\operatorname{Hom}(Y,S)$ で写すこととが一致することを意味する。$\square$

Sierpinski 空間の冪への埋め込み

$X$ を位相空間、$I:=\mathcal{O}(X)$ をその開集合全体とし、$S^I=\prod_{U\in I}S$ に直積位相を入れる。写像
$$ e\colon X\to S^I,\qquad e(x):=(\chi_U(x))_{U\in I} $$
は連続であり、$X$ が $T_0$ 空間であることと、$e$ が埋め込み(位相的埋め込み、すなわち像への同相写像)であることは同値である。さらに、位相空間 $X$ が $T_0$ であることと、ある集合 $J$ について $X$ が $S^J$ の部分空間と同相であることは同値である。

直積位相の性質により、$e$ が連続であることは各成分 $\pi_U\circ e=\chi_U$($\pi_U$ は $U$ 成分への射影)が連続であることと同値であり、$U$ は開集合なので prop-sierpinski-open-sets により連続である。
$X$ が $T_0$ ならば $e$ が埋め込みであることを示す。単射性:$x\neq y$ とすると、$T_0$ 性により一方だけを含む開集合 $U$ があり、$\chi_U(x)\neq\chi_U(y)$ なので $e(x)\neq e(y)$ である。像への同相性:$e$ は連続な単射なので、$X$ の任意の開集合 $U$ について $e(U)$ が $e(X)$ の(相対位相に関する)開集合であることを示せばよい。$x\in X$ に対し $e(x)\in\pi_U^{-1}(\{1\})$ は $\chi_U(x)=1$、すなわち $x\in U$ と同値だから、
$$ e(U)=e(X)\cap\pi_U^{-1}(\{1\}) $$
であり、$\pi_U^{-1}(\{1\})$ は $S^I$ の開集合なので $e(U)$ は $e(X)$ の開集合である。逆に $e$ が埋め込み(特に単射)なら、$x\neq y$ に対し $\chi_U(x)\neq\chi_U(y)$ となる $U\in I$ があり、$U$ は $x,y$ の一方だけを含むので $X$ は $T_0$ である。
最後の主張:$T_0$ なら上により $X$ は $S^{\mathcal{O}(X)}$ の部分空間 $e(X)$ と同相である。逆に、$T_0$ 空間の直積は $T_0$ であり(相異なる二点はある成分 $j$ で異なるので、$S$ の開集合 $\{1\}$ の射影による逆像 $\pi_j^{-1}(\{1\})$ が一方だけを含む)、$T_0$ 空間の部分空間は $T_0$ である(一方だけを含む開集合と部分空間の共通部分をとればよい)ので、$S^J$ の部分空間と同相な空間は $T_0$ である。$\square$

特殊化順序と位相的性質

Sierpinski 空間 $S$ について次が成り立つ。

  1. $\overline{\{1\}}=S$、$\overline{\{0\}}=\{0\}$。したがって $1$ は $S$ の一般点であり $0$ は閉点である。$x\le y\iff x\in\overline{\{y\}}$ で定まる特殊化順序は $0\le1$ の全順序である。
  2. $S$ はコンパクト空間であり、連結空間であり、弧状連結空間である。
  3. $S$ の開集合は、特殊化順序に関する上方集合($x\in U$ かつ $x\le y$ ならば $y\in U$ となる集合 $U$)とちょうど一致する。

1:$1$ を含む閉集合は $S$ だけなので $\overline{\{1\}}=S$、$\{0\}$ は閉集合なので $\overline{\{0\}}=\{0\}$ である。$0\in\overline{\{1\}}$ かつ $1\notin\overline{\{0\}}$ だから $0\le1$ であり、$1\le0$ でない。
2:有限集合上の位相空間は任意の開被覆が有限部分被覆を持つ(被覆の成員を各点につき一つ選べばよい)のでコンパクトである。$S$ の開かつ閉集合は $\emptyset$ と $S$ だけなので連結である。閉区間 $[0,1]$ から $S$ への写像 $\gamma$ を、$t<1$ なら $\gamma(t)=1$、$\gamma(1)=0$ で定めると、$\gamma^{-1}(\{1\})=[0,1)$ は $[0,1]$ の開集合なので $\gamma$ は連続であり、$\gamma(0)=1$ と $\gamma(1)=0$ を結ぶ道である。
3:上方集合は $\emptyset$、$\{1\}$、$\{0,1\}$ の三つであり($0$ を含む上方集合は $1$ も含む)、これは $\mathcal{O}_S$ に一致する。$\square$

性質の一覧

性質$S$理由
有限、第2可算公理、可分空間○2 点からなる
$T_0$○prop-sierpinski-separation
$T_1$、Hausdorff、距離化可能(距離化可能空間)×prop-sierpinski-separation。距離化可能空間は Hausdorff
正則空間($T_1$ を課さない意味)×点 $1$ と閉集合 $\{0\}$ を分ける交わらない開集合がない($0$ を含む開集合は $S$ のみ)
離散、密着×開集合は 3 個
コンパクト、連結、弧状連結○prop-sierpinski-basic

補足

有限位相空間・Alexandrov 位相・Scott 位相との関係

前順序集合 $(P,\le)$ に対し、上方集合の全体を開集合系とする位相をAlexandrov位相という(上方集合の族は任意の和集合と任意の共通部分で閉じているので位相である)。prop-sierpinski-basic の 3 は、$S$ が二元鎖 $0<1$ の Alexandrov 位相であることを述べている。一般に、有限位相空間の位相はその特殊化順序の Alexandrov 位相に一致する(有限個の開集合の共通部分は開集合なので、各点 $x$ を含む最小の開集合 $U_x$ があり、開集合は $U_x$ たちの和集合、$U_x$ は $x$ の上方集合になる)。この意味で、有限位相空間は有限前順序集合と同じものであり、$S$ はその最小の非自明な例である。
順序集合 $P$ において、上方集合 $U$ が Scott 開であるとは、$P$ の有向部分集合(有向集合)$D$ が上限 $\sup D\in U$ を持つならば $D\cap U\neq\emptyset$ となることをいい、Scott 開集合全体のなす位相をScott位相という(Gie03 §II-1)。有限順序集合では有向部分集合は最大元を持つので、すべての上方集合が Scott 開であり、Scott 位相は Alexandrov 位相に一致する。したがって $S$ は二元鎖 $\{0<1\}$ の Scott 位相でもある。領域理論では $S$ を $\Sigma$ とも書き、$T_0$ 空間 $X$ の開集合を連続写像 $X\to S$ と同一視する prop-sierpinski-open-sets の見方が基本的な道具になる。$S$ は $T_0$ 空間の圏における入射的対象の最も簡単な非自明な例でもあり、入射的 $T_0$ 空間が連続束の Scott 位相にほかならないという Scott の定理については Gie03 §II-3 を参照されたい。

名称と参考文献

名称は W. Sierpiński にちなむ(SS78)。$S$ の基本性質の一覧は SS78 Part II, Example 11 にあり、分離公理 $T_0$・$T_1$ の定義は同書 Part I §2、$T_1$・Hausdorff 性と直積位相・部分空間の基本事項は Mun00 §16・§17・§19 に従う。

関連項目

参考文献

[1]
Lynn Arthur Steen and J. Arthur Seebach, Jr., Counterexamples in Topology, Springer-Verlag, 1978, Part I §2(分離公理)、Part II Example 11(Sierpinski space)
[2]
James R. Munkres, Topology, Prentice Hall, 2000, §16(部分空間位相)、§17(閉集合・$T_1$ 公理・Hausdorff 空間)、§19(直積位相)

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