置換の符号

同義語:sign of a permutation符号(置換)

概要

置換の符号(sign of a permutation)とは、有限集合の置換 $\sigma$ に $1$ または $-1$ を対応させる量で、$\{1,\dots,n\}$ の置換では転倒($i<j$ かつ $\sigma(i)>\sigma(j)$ となる組)の個数 $\operatorname{inv}(\sigma)$ を用いて $\operatorname{sgn}\sigma=(-1)^{\operatorname{inv}(\sigma)}$ と定める。符号は対称群 $S_n$ から $\{\pm1\}$ への群準同型で、互換の符号は $-1$ なので、置換を互換の積に書くときの個数の偶奇は書き方によらない。差積の比や軌道の個数による表示、置換行列の行列式とも一致する。符号 $1$ の偶置換全体が交代群をなし、$S_n$ からアーベル群への準同型はすべて符号を経由する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 置換, 対称群, 互換, 群準同型

定義

$n\ge1$ とし、集合 $\{1,\dots,n\}$ から自分自身への全単射(置換)全体が写像の合成についてなす群を $S_n$ と書く(対称群)。置換の積 $\sigma\tau$ は「$\tau$ を先に、$\sigma$ を後に」施す合成 $\sigma\circ\tau$ とし、恒等置換を $e$ と書く。相異なる $a,b$ を入れ替えて他を動かさない置換を互換 $(a\,b)$ と書き、とくに $s_k:=(k\ \ k+1)$($1\le k\le n-1$)を隣接互換という。置換 $\sigma$ を、値の並び $\sigma(1),\sigma(2),\dots,\sigma(n)$ で表すことがある。

転倒数と置換の符号

$\sigma\in S_n$ とする。$1\le i< j\le n$ で $\sigma(i)>\sigma(j)$ を満たす組 $(i,j)$ を $\sigma$ の転倒(inversion)といい、転倒の個数を $\sigma$ の転倒数 $\operatorname{inv}(\sigma)$ という。
$$ \operatorname{sgn}\sigma:=(-1)^{\operatorname{inv}(\sigma)}\in\{1,-1\} $$
を $\sigma$ の符号(sign of a permutation)という。$\operatorname{sgn}\sigma=1$ の置換を偶置換、$\operatorname{sgn}\sigma=-1$ の置換を奇置換という。

転倒数は、並び $\sigma(1),\dots,\sigma(n)$ の中で大小の順が逆になっている 2 項の組の個数である。$\operatorname{inv}(e)=0$ なので $\operatorname{sgn}e=1$ であり、$n=1$ では $S_1=\{e\}$ で符号はつねに $1$ である。$\operatorname{sgn}$ は $\operatorname{sign}$ や $\varepsilon$ とも書かれる。
置換の符号の定義には流儀がいくつかある。交代群 の記事の定義「置換の符号」は差積の比 $\prod_{i< j}(\sigma(j)-\sigma(i))/(j-i)$ で定め、互換 の記事の系「互換の個数の偶奇の不変性」は軌道の個数 $c(\sigma)$ を用いた $(-1)^{n-c(\sigma)}$ を与えている。互換の積に書いたときの個数の偶奇で定める流儀もある。これらはすべて同じ値を与える(prop-sign-of-permutation-formulas、thm-sign-of-permutation-homomorphism の 2)。本記事は転倒数を定義に用い、隣接互換を掛けたときの転倒数の変化から準同型性を導く。この筋は 交代群 の記事(差積による)とも 互換 の記事(軌道の個数による)とも異なる。

直感

$\sigma$ を「$n$ 枚のカードの並べ替え」と見ると、転倒数は、並べ替えた結果の中で順序が乱れている 2 枚の組の数である。隣り合う 2 枚を入れ替えると、その 2 枚の組の順序だけが逆転し、ほかの組の順序は変わらないので、転倒数はちょうど $1$ だけ増えるか減る。したがって、隣り合う 2 枚の入れ替えを何回行って並びを作っても、回数の偶奇は転倒数の偶奇と一致する。符号はこの偶奇である。
符号は置換を $\pm1$ に送る準同型であり(thm-sign-of-permutation-homomorphism)、$S_n$ からアーベル群への準同型はすべて符号を経由する(prop-sign-of-permutation-abelian)。行列式の Leibniz の公式で各項に付く $\pm$ はこの符号であり、行を入れ替えると行列式の符号が変わることも、互換の符号が $-1$ であることの表れである。符号 $1$ の置換全体が交代群 $A_n$ をなす。

例と反例

3 文字の置換の符号

$S_3$ の 6 個の元を値の並びで書き、転倒を数える。

  • $e=123$:転倒なし。$\operatorname{inv}=0$、偶置換。
  • $(1\,2)=213$:$(1,2)$。$\operatorname{inv}=1$、奇置換。$(2\,3)=132$ も $(2,3)$ の $1$ 個で奇置換。
  • $(1\,3)=321$:$(1,2)$、$(1,3)$、$(2,3)$。$\operatorname{inv}=3$、奇置換。
  • $(1\,2\,3)=231$($1\mapsto2\mapsto3\mapsto1$):$(1,3)$、$(2,3)$。$\operatorname{inv}=2$、偶置換。$(1\,3\,2)=312$ も $(1,2)$、$(1,3)$ の $2$ 個で偶置換。
    互換はすべて奇置換で、3 文字の巡回置換は偶置換である。偶置換と奇置換は $3$ 個ずつある。
逆順の置換

$w_0(i)=n+1-i$ で定まる置換 $w_0\in S_n$ は、並び $n,n-1,\dots,1$ に対応する。すべての組 $i< j$ で $w_0(i)>w_0(j)$ なので $\operatorname{inv}(w_0)=\binom n2=n(n-1)/2$ であり(二項係数)、
$$ \operatorname{sgn}w_0=(-1)^{n(n-1)/2} $$
である。$n\equiv0,1\pmod4$ なら偶置換、$n\equiv2,3\pmod 4$ なら奇置換である。たとえば $n=4$ で $\operatorname{inv}=6$、$w_0=(1\,4)(2\,3)$ は偶置換である。$\operatorname{inv}(w_0)$ は $S_n$ の転倒数の最大値である。

15 パズルの解けない配置

$4\times4$ の盤の 16 個のマスに、1 から 15 の番号の駒と 1 つの空きマスがある。1 回の操作では、空きマスに隣接する(辺を共有する)駒を空きマスへ滑らせる。駒が番号順に並び右下が空いている配置から始めて、14 と 15 の駒だけを入れ替え、右下が空いた配置には、どのように操作しても到達できない。
証明:マスの集合を $X$(16 元)、駒と空きマスをあわせた 16 個の札の集合を $Y$ とし、配置を全単射 $c\colon X\to Y$(各マスにある札)で表す。空きマスが $p$ にあり、隣接するマス $q$ の駒を滑らせると、新しい配置は $c\circ(p\,q)$ である($(p\,q)$ は $X$ の互換)。初めの配置 $c_0$ から $m$ 回の操作で得られる配置は $c_0\circ\tau_1\cdots\tau_m$($\tau_i$ は $X$ の互換)の形である。
マス $(r,s)$($r$ 行 $s$ 列)に $r+s$ の偶奇で色を塗ると、隣接するマスは色が異なるので、空きマスは 1 回の操作ごとに色を変える。空きマスが右下に戻るなら $m$ は偶数である。一方、目標の配置は $c_0\circ(a\,b)$($a,b$ は 14 と 15 の駒があるマス)である。$c_0\circ\tau_1\cdots\tau_m=c_0\circ(a\,b)$ なら、$c_0$ は全単射なので $\tau_1\cdots\tau_m=(a\,b)$ であり、両辺の符号(16 元集合 $X$ の置換の符号。prop-sign-of-permutation-conjugation)を thm-sign-of-permutation-homomorphism の 2 で比べると $(-1)^m=1$ と $-1$ が等しくなって矛盾する。$\square$

反例:転倒数は共役で変わる

$S_3$ で $(1\,2)$ と $(1\,3)$ は $(1\,3)=(2\,3)(1\,2)(2\,3)^{-1}$ と共役である(互換 の記事の命題「互換の基本的な性質」の 3)。しかし ex-sign-of-permutation-s3 のとおり $\operatorname{inv}(1\,2)=1$、$\operatorname{inv}(1\,3)=3$ である。この例は「共役な置換」を満たすが「転倒数が等しい」を満たさず、含意「転倒数は共役で不変」を破る。転倒数は $\{1,\dots,n\}$ の大小の順序に依存する量であり、文字の名前の付け替えで変わる。それでも偶奇は変わらない(prop-sign-of-permutation-conjugation)。符号は順序によらない量であり、そのため順序のない有限集合の置換にも定まる。

反例:無限集合のずらし

$\mathbb{Z}$ の置換 $\sigma(x)=x+1$ はすべての整数を動かす。有限個の互換の積は有限個の元しか動かさないので、$\sigma$ は互換の有限個の積でない(互換 の記事の例「反例:無限集合のずらし」)。無限集合 $X$ の置換で動かす元が有限個のものには、動かす元をすべて含む有限集合 $F$ への制限の符号として符号が定まる($F$ を大きくしても、増えた元はそれぞれ長さ $1$ の軌道なので prop-sign-of-permutation-formulas の 2 により符号は変わらない)。しかしこの $\sigma$ にはこの方法で符号を定められない。この例は「$X$ の置換である」を満たすが「$X$ が有限集合である」も「動かす元が有限個」も満たさない。本記事の定義は有限集合の置換だけを対象とするので、$\sigma$ には直接適用できず、有限集合への制限という上の方法も使えない。$\mathbb{Z}$ の通常の大小で $i< j$ かつ $\sigma(i)>\sigma(j)$ となる組を数えると $0$ 個になるが、この値は本記事の転倒数ではなく、有限集合の置換の符号の延長としての意味ももたない。

性質

隣接互換と転倒数

隣接互換を掛けたときの転倒数

$\sigma\in S_n$、$1\le k\le n-1$ とする。$\sigma(k)<\sigma(k+1)$ なら $\operatorname{inv}(\sigma s_k)=\operatorname{inv}(\sigma)+1$ であり、$\sigma(k)>\sigma(k+1)$ なら $\operatorname{inv}(\sigma s_k)=\operatorname{inv}(\sigma)-1$ である。

転倒の組の対応

$\pi:=\sigma s_k$ とおくと、$\pi(k)=\sigma(k+1)$、$\pi(k+1)=\sigma(k)$ であり、$i\neq k,k+1$ では $\pi(i)=\sigma(i)$ である。すなわち $\pi$ の値の並びは、$\sigma$ の並びの $k$ 番目と $k+1$ 番目を入れ替えたものである。
$1\le i< j\le n$ で $\{i,j\}\neq\{k,k+1\}$ の組を考える。このとき $s_k(i)< s_k(j)$ である。実際、$i,j$ がともに $k,k+1$ でなければ $s_k$ は両者を動かさない。一方だけが $k$ か $k+1$ の場合、他方は $k,k+1$ と異なるので、$s_k$ で $k$ と $k+1$ を入れ替えても他方との大小は変わらない。$\pi(i)=\sigma(s_k(i))$、$\pi(j)=\sigma(s_k(j))$ なので、$(i,j)$ が $\pi$ の転倒であることと、$(s_k(i),s_k(j))$ が $\sigma$ の転倒であることは同値である。写像 $\{i,j\}\mapsto\{s_k(i),s_k(j)\}$ は、$\{k,k+1\}$ 以外の 2 元部分集合全体の上の全単射(自分自身が逆写像)なので、$\{k,k+1\}$ 以外の組についての $\pi$ の転倒の個数と $\sigma$ の転倒の個数は等しい。
残る組 $(k,k+1)$ は、$\pi$ の転倒であることと $\sigma(k+1)>\sigma(k)$ が同値であり、$\sigma$ の転倒であることと $\sigma(k)>\sigma(k+1)$ が同値である。よって $\sigma(k)<\sigma(k+1)$ なら転倒が 1 つ増え、$\sigma(k)>\sigma(k+1)$ なら 1 つ減る。$\square$

隣接互換の積への分解

任意の $\sigma\in S_n$ は $\operatorname{inv}(\sigma)$ 個の隣接互換の積として書ける($e$ は $0$ 個の積とみなす)。また $\sigma$ を $m$ 個の隣接互換の積に書けば $m\ge\operatorname{inv}(\sigma)$ であり、$m\equiv\operatorname{inv}(\sigma)\pmod2$ である。

転倒のある隣り合う組を 1 つずつ直す

前半を $\operatorname{inv}(\sigma)$ についての数学的帰納法で示す。$\operatorname{inv}(\sigma)=0$ なら $\sigma(1)<\sigma(2)<\cdots<\sigma(n)$ であり、$\{1,\dots,n\}$ の全単射で狭義単調増加なのは恒等写像だけなので $\sigma=e$ である。$\operatorname{inv}(\sigma)>0$ なら、ある $k$ で $\sigma(k)>\sigma(k+1)$ である(そうでなければ並びは単調増加で転倒がない)。lem-sign-of-permutation-adjacent により $\operatorname{inv}(\sigma s_k)=\operatorname{inv}(\sigma)-1$ なので、帰納法の仮定により $\sigma s_k$ は $\operatorname{inv}(\sigma)-1$ 個の隣接互換の積である。$s_k^2=e$ なので $\sigma=(\sigma s_k)s_k$ は $\operatorname{inv}(\sigma)$ 個の隣接互換の積である。
後半:$\sigma=s_{k_1}s_{k_2}\cdots s_{k_m}$ とし、$\sigma_0:=e$、$\sigma_j:=\sigma_{j-1}s_{k_j}$ とおく。lem-sign-of-permutation-adjacent により $\operatorname{inv}(\sigma_j)=\operatorname{inv}(\sigma_{j-1})\pm1$ である。$\operatorname{inv}(\sigma_0)=0$ から $m$ 段で $\operatorname{inv}(\sigma_m)=\operatorname{inv}(\sigma)$ に達するので $\operatorname{inv}(\sigma)\le m$ であり、各段で偶奇が入れ替わるので $\operatorname{inv}(\sigma)\equiv m\pmod2$ である。$\square$

前半の証明は、隣り合う逆順の 2 項を入れ替える操作を繰り返して並びを整列する手順(バブルソート)であり、手順の回数はちょうど転倒数に等しい。後半により、転倒数は $\sigma$ を隣接互換の積に書くときの最小の個数である。これは 互換 の記事の定理「互換の個数の下限と偶奇」(互換を任意に使うときの最小個数は $n-c(\sigma)$)の、隣接互換に制限した版である。

準同型性

符号準同型

$n\ge1$ とする。

  1. $\operatorname{sgn}\colon S_n\to\{1,-1\}$ は群準同型である。すなわち $\operatorname{sgn}(\sigma\tau)=\operatorname{sgn}\sigma\cdot\operatorname{sgn}\tau$ であり、$\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=\operatorname{sgn}\sigma$ である。
  2. 互換の符号は $-1$ である。したがって $\sigma$ が $k$ 個の互換の積なら $\operatorname{sgn}\sigma=(-1)^k$ であり、$\sigma$ を互換の積に書くときの個数の偶奇は書き方によらない。
  3. $n\ge2$ なら $\operatorname{sgn}$ は全射であり、その核 $A_n=\{\sigma\mid\operatorname{sgn}\sigma=1\}$ は指数 $2$ の正規部分群である。偶置換と奇置換はそれぞれ $n!/2$ 個ある。
隣接互換の個数の偶奇による

1:$\sigma,\tau\in S_n$ をとる。prop-sign-of-permutation-bubble により $\tau=s_{k_1}\cdots s_{k_m}$ と書け、$m\equiv\operatorname{inv}(\tau)\pmod2$ である。$\sigma\tau=\sigma s_{k_1}\cdots s_{k_m}$ に右から隣接互換を 1 つずつ掛けていくと、lem-sign-of-permutation-adjacent により転倒数は毎回 $\pm1$ 変わるので、$\operatorname{inv}(\sigma\tau)\equiv\operatorname{inv}(\sigma)+m\equiv\operatorname{inv}(\sigma)+\operatorname{inv}(\tau)\pmod2$ である。よって $\operatorname{sgn}(\sigma\tau)=\operatorname{sgn}\sigma\cdot\operatorname{sgn}\tau$ である。$\sigma\sigma^{-1}=e$ から $\operatorname{sgn}\sigma\cdot\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=1$ となり、$\operatorname{sgn}\sigma=\pm1$ なので $\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=\operatorname{sgn}\sigma$ である。
2:$1\le a< b\le n$ とし、$\tau=(a\,b)$ の転倒を数える。$\tau(a)=b$、$\tau(b)=a$ で、他の $i$ では $\tau(i)=i$ である。組 $i< j$ を場合に分ける。

  • $i,j$ がともに $a,b$ でない:$\tau(i)=i< j=\tau(j)$ で転倒でない。
  • $(i,j)=(a,b)$:$\tau(a)=b>a=\tau(b)$ で転倒である($1$ 個)。
  • $i=a$、$j\neq b$:$\tau(i)=b$、$\tau(j)=j$ なので、転倒であることは $j< b$、すなわち $a< j< b$ と同値である($b-a-1$ 個)。
  • $j=b$、$i\neq a$:$\tau(i)=i$、$\tau(j)=a$ なので、転倒であることは $i>a$、すなわち $a< i< b$ と同値である($b-a-1$ 個)。
  • $i=b$(このとき $j>b$):$\tau(i)=a< j=\tau(j)$ で転倒でない。$j=a$(このとき $i< a$):$\tau(i)=i< b=\tau(j)$ で転倒でない。
    よって $\operatorname{inv}(a\,b)=1+2(b-a-1)=2(b-a)-1$ は奇数であり、$\operatorname{sgn}(a\,b)=-1$ である。$\sigma=\tau_1\cdots\tau_k$(各 $\tau_i$ は互換)なら 1 により $\operatorname{sgn}\sigma=(-1)^k$ である。$k$ 個と $k'$ 個の 2 通りに書ければ $(-1)^k=(-1)^{k'}$ なので、$k$ と $k'$ の偶奇は一致する。
    3:$n\ge2$ なら $\operatorname{sgn}(1\,2)=-1$ なので $\operatorname{sgn}$ は全射である。核は準同型の核なので正規部分群であり、群準同型 の記事の定理「群の第1同型定理」により $S_n/A_n\cong\{1,-1\}$、すなわち指数は $2$ である。$|S_n|=n!$ なので偶置換は $n!/2$ 個、奇置換も残りの $n!/2$ 個である。$\square$

置換はすべて互換の積に書ける(互換 の記事の定理「互換の積への分解」)ので、2 により、互換の個数の偶奇による定義と転倒数による定義は同じ符号を与える。核 $A_n$ を $n$ 次の交代群という。$A_n$ の性質(3 文字の巡回置換による生成、$n\ge5$ での単純性など)は 交代群 の記事にある。

符号のほかの表し方

$\sigma\in S_n$ と $x\in\{1,\dots,n\}$ について、$\{\sigma^m(x)\mid m\in\mathbb{Z}\}$ を $x$ の $\sigma$ による軌道という。$\{1,\dots,n\}$ は軌道に分割され、長さ $\ell$ の軌道の上で $\sigma$ は $x\mapsto\sigma(x)\mapsto\cdots\mapsto\sigma^{\ell-1}(x)\mapsto x$ と巡回する(互換 の記事の「互換の個数とその偶奇」の節)。軌道の個数を $c(\sigma)$ と書く(動かない元もそれだけで 1 つの軌道と数える)。体 $K$ と $\sigma\in S_n$ に対し、第 $j$ 列が第 $\sigma(j)$ 標準基底ベクトルである $n$ 次正方行列を置換行列 $P_\sigma$ と書く。

符号の公式

$\sigma\in S_n$ とする。

  1. $\displaystyle\operatorname{sgn}\sigma=\prod_{1\le i< j\le n}\frac{\sigma(j)-\sigma(i)}{j-i}$ である。
  2. $\sigma$ の軌道の長さを $\ell_1,\dots,\ell_{c}$($c=c(\sigma)$)とすると、$\displaystyle\operatorname{sgn}\sigma=\prod_{t=1}^{c}(-1)^{\ell_t-1}=(-1)^{n-c(\sigma)}$ である。とくに $k$ 文字の巡回置換の符号は $(-1)^{k-1}$ である。
  3. 任意の体 $K$ について、$K$ の中で $\det P_\sigma=\operatorname{sgn}\sigma$ である(行列式)。
各表し方と転倒数の比較

1:右辺の因子 $(\sigma(j)-\sigma(i))/(j-i)$ は、$(i,j)$ が転倒のとき負、そうでないとき正である。$\sigma$ は全単射なので、$\{i,j\}\mapsto\{\sigma(i),\sigma(j)\}$ は 2 元部分集合全体の上の全単射であり、分子の絶対値の積 $\prod_{i< j}|\sigma(j)-\sigma(i)|$ は分母の積 $\prod_{i< j}(j-i)$ の因子の並べ替えである。よって右辺の絶対値は $1$ で、符号は $(-1)^{\operatorname{inv}(\sigma)}$ である。
2:軌道 $O$ ごとに、$O$ の上で $\sigma$ と一致し $O$ の外では恒等写像である置換 $\gamma_O$ を考える。長さ $\ell$ の軌道の $\gamma_O$ は $\ell$ 文字の巡回置換($\ell=1$ なら $e$)である。$x$ の属する軌道を $O$ とすると、$O'\neq O$ の $\gamma_{O'}$ は $x$ も $\sigma(x)\in O$ も動かさないので、$\gamma_O$ たちを任意の順に掛けた積は $x$ を $\sigma(x)$ に送る。よって $\sigma=\prod_O\gamma_O$ である。$\ell$ 文字の巡回置換は $\ell-1$ 個の互換の積である(互換 の記事の例「巡回置換の分解」)ので、thm-sign-of-permutation-homomorphism により $\operatorname{sgn}\gamma_O=(-1)^{\ell-1}$ であり、$\operatorname{sgn}\sigma=\prod_t(-1)^{\ell_t-1}=(-1)^{\sum_t\ell_t-c}=(-1)^{n-c(\sigma)}$ である($\sum_t\ell_t=n$)。$k$ 文字の巡回置換は長さ $k$ の軌道 1 つと長さ $1$ の軌道 $n-k$ 個をもつので、符号は $(-1)^{k-1}$ である。
3:行列式 の記事の定義「Leibnizの公式による定義」により $\det A=\sum_{\rho\in S_n}\operatorname{sgn}\rho\,a_{1\rho(1)}\cdots a_{n\rho(n)}$ である。$P_\sigma$ の $(i,j)$ 成分は $i=\sigma(j)$ のとき $1$、それ以外は $0$ なので、$\rho$ の項が $0$ でないのはすべての $i$ で $i=\sigma(\rho(i))$、すなわち $\rho=\sigma^{-1}$ のときだけであり、その項は $\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})$ である。thm-sign-of-permutation-homomorphism の 1 により $\det P_\sigma=\operatorname{sgn}(\sigma^{-1})=\operatorname{sgn}\sigma$ である。$\square$

1 は 交代群 の記事の定義であり、2 は 互換 の記事の系「互換の個数の偶奇の不変性」の式である。本記事の定義はこれらと同じ符号を与える。3 で $K$ の標数が $2$ なら $1=-1$ となり、行列式からは符号が読み取れない。

共役と有限集合の置換

符号の共役不変性
  1. $\sigma,\rho\in S_n$ について $\operatorname{sgn}(\rho\sigma\rho^{-1})=\operatorname{sgn}\sigma$ である。
  2. $X$ を $n$ 元の有限集合($n\ge1$)、$S_X$ を $X$ の置換全体の群とする。全単射 $\beta\colon X\to\{1,\dots,n\}$ を 1 つ選び、$\sigma\in S_X$ に対して $\operatorname{sgn}_X\sigma:=\operatorname{sgn}(\beta\sigma\beta^{-1})$ と定めると、$\operatorname{sgn}_X\sigma$ は $\beta$ の選び方によらない。$\operatorname{sgn}_X\colon S_X\to\{1,-1\}$ は群準同型で、$X$ の互換の符号は $-1$ である。

1:thm-sign-of-permutation-homomorphism の 1 と、$\{1,-1\}$ が可換であることから $\operatorname{sgn}(\rho\sigma\rho^{-1})=\operatorname{sgn}\rho\cdot\operatorname{sgn}\sigma\cdot(\operatorname{sgn}\rho)^{-1}=\operatorname{sgn}\sigma$ である。
2:別の全単射 $\beta'$ をとると $\rho:=\beta'\beta^{-1}\in S_n$ であり、$\beta'\sigma\beta'^{-1}=\rho(\beta\sigma\beta^{-1})\rho^{-1}$ なので、1 により両者の符号は等しい。$\sigma\mapsto\beta\sigma\beta^{-1}$ は群の同型 $S_X\to S_n$ なので、$\operatorname{sgn}_X$ は準同型である。$X$ の互換 $(a\,b)$ は $\beta$ で $S_n$ の互換 $(\beta(a)\,\beta(b))$ に移るので、符号は $-1$ である。$\square$

こうして、$\{1,\dots,n\}$ の大小の順序を使った転倒数の定義から、順序をもたない有限集合の置換の符号が得られる。ex-sign-of-permutation-fifteen では 16 個のマスの集合の置換の符号を用いた。$X=\emptyset$ なら $S_X$ は自明群で、符号は $1$ と定める。

アーベル群への準同型

アーベル群への準同型は符号を経由する

$n\ge2$ とし、$A$ をアーベル群(演算を乗法で書く)、$\varphi\colon S_n\to A$ を群準同型とする。このとき $\varphi=\chi\circ\operatorname{sgn}$ となる群準同型 $\chi\colon\{1,-1\}\to A$ がただ 1 つ存在する。とくに

  1. $S_n$ から $\{1,-1\}$ への全射な群準同型は $\operatorname{sgn}$ だけである。
  2. 体 $K$ について、群準同型 $S_n\to K^\times$ は、すべてを $1$ に送る自明な準同型と $\operatorname{sgn}$ の 2 つだけである($K$ の標数が $2$ なら両者は一致する)。
互換がすべて共役であることによる

互換 の記事の命題「互換の基本的な性質」の 3 により、$S_n$ の互換はすべて互いに共役である。$A$ は可換なので $\varphi(\rho\tau\rho^{-1})=\varphi(\rho)\varphi(\tau)\varphi(\rho)^{-1}=\varphi(\tau)$ であり、$\varphi$ はすべての互換で同じ値 $a$ をとる。互換 $\tau$ について $\tau^2=e$ なので $a^2=\varphi(\tau^2)=1$ である。
$\sigma\in S_n$ を $k$ 個の互換の積に書くと $\varphi(\sigma)=a^k$ であり、thm-sign-of-permutation-homomorphism の 2 により $(-1)^k=\operatorname{sgn}\sigma$ である。$a^2=1$ なので $a^k$ は $k$ の偶奇だけで決まり、$\chi(1):=1$、$\chi(-1):=a$ と定めると $\chi$ は群準同型で $\varphi(\sigma)=\chi(\operatorname{sgn}\sigma)$ である。$\operatorname{sgn}$ は全射なので $\chi$ は $\varphi$ から一意に決まる。
1:$A=\{1,-1\}$ で $\varphi$ が全射なら $a=-1$ なので $\chi$ は恒等写像で、$\varphi=\operatorname{sgn}$ である。2:$A=K^\times$ とすると $a^2=1$ から $(a-1)(a+1)=0$、すなわち $a=\pm1$ であり、$a=1$ なら $\varphi$ は自明、$a=-1$ なら $\varphi=\operatorname{sgn}$ である。$\square$

この命題は、$S_n$ のアーベル化が $S_n/A_n\cong\{1,-1\}$ であること(交換子部分群 の記事の命題「対称群の交換子部分群」で示されている $[S_n,S_n]=A_n$)と同じ内容である。1 は 交代群 の記事の命題「対称群の指数 2 の部分群」でも、指数 $2$ の部分群が 3 文字の巡回置換をすべて含むことから示されている。上の証明はどちらとも異なり、互換の共役性だけを使う。

補足

交代式と行列式

$R$ を可換環、$R[x_1,\dots,x_n]$ を多項式環とし、$\sigma\in S_n$ と多項式 $f$ に対して $(\sigma f)(x_1,\dots,x_n):=f(x_{\sigma(1)},\dots,x_{\sigma(n)})$ とおく。差積 $\Delta:=\prod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)$ について
$$ \sigma\Delta=\prod_{i< j}(x_{\sigma(j)}-x_{\sigma(i)})=\operatorname{sgn}\sigma\cdot\Delta $$
が成り立つ。$(i,j)$ が転倒であるときの因子 $x_{\sigma(j)}-x_{\sigma(i)}$ は $-(x_{\sigma(i)}-x_{\sigma(j)})$ で、$\sigma(j)<\sigma(i)$ の順の因子に $-1$ を掛けたものであり、$\{i,j\}\mapsto\{\sigma(i),\sigma(j)\}$ は 2 元部分集合の全単射だからである。$\sigma f=\operatorname{sgn}\sigma\cdot f$ をすべての $\sigma$ で満たす多項式を交代多項式といい、$\Delta$ はその基本的な例である。$\Delta$ は Vandermondeの行列式に等しく、$\Delta^2$ は対称多項式で、多項式の判別式の源になっている。
行列式の Leibniz の公式 $\det A=\sum_{\sigma}\operatorname{sgn}\sigma\,a_{1\sigma(1)}\cdots a_{n\sigma(n)}$ は、各項に符号を付けることで、行を入れ替えると値が $-1$ 倍になる交代性をもつ(互換の符号が $-1$ であることによる)。$\mathbb{R}^n$ の順序付き基底を置換 $\sigma$ で並べ替えると、prop-sign-of-permutation-formulas の 3 により基底の変換行列の行列式は $\operatorname{sgn}\sigma$ であり、偶置換は向きを保ち、奇置換は向きを反転させる。

出典

符号準同型と偶置換・奇置換は DF04 §3.5 にあり、そこでは差積による証明が与えられている(交代群 の記事と同じ筋)。本記事の転倒数と隣接互換による証明は記事内で完結しており、外部の結果には依存しない。

関連項目

参考文献

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