ネイピア数(Napier's constant)とは、級数 $\sum_{k\geq0}1/k!$ の和 $e=2.71828\ldots$ のことであり、指数関数 $e^x$ と自然対数の底である。$e=\exp1=\lim_{n\to\infty}(1+1/n)^n$ が成り立ち、$\int_1^e dt/t=1$、$a^x$ の $x=0$ での微分係数が $1$ となる底 $a$ としても特徴づけられる。すべての $n\geq1$ で $(1+1/n)^n<e<(1+1/n)^{n+1}$ であり、$2<e<3$ である。$(1+1/n)^n$ の誤差はおよそ $1/n$ に比例してしか減らないが、級数の部分和の誤差は $1/(n!\,n)$ 未満で速く減る。$e$ は無理数であり、さらに超越数である。
年利 100% の利息を 1 年に $n$ 回に分けて複利で付けると、1 年後の残高は元金の $\left(1+\frac1n\right)^n$ 倍になる。$n=1,10,100,1000$ ではそれぞれ
$$
2,\qquad2.59374\ldots,\qquad2.70481\ldots,\qquad2.71692\ldots
$$
倍であり、分ける回数を増やすほど残高は増えるが、限りなく増えるのではなく、ある数に近づいていく。一方、級数 $1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}+\cdots$ の $\frac1{10!}$ までの和は $2.7182818011\ldots$ である。2 つの近づき方は速さこそ大きく違うが、行き着く先は同じ数
$$
e=2.718281828459045\ldots
$$
である。この数をネイピア数という。$e$ は指数関数 $e^x$ と対数関数(自然対数 $\log$)の底であり、微分積分学で最も基本的な定数の 1 つである。
級数
$$
e:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac1{k!}=1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}+\cdots
$$
の和をネイピア数(Napier's constant)または自然対数の底という。
右辺の級数は収束する。項はすべて正で、$k\geq1$ なら $k!\geq2^{k-1}$ なので、部分和は $1+\sum_{k\geq1}2^{-(k-1)}=3$ で上から押さえられるからである(級数 の記事の命題「正項級数の収束と部分和の有界性」)。
指数関数は $\exp x:=\sum_{k\geq0}x^k/k!$ と定義されるので、$e=\exp1$ である。以下、$n$ 番目までの部分和を
$$
s_n:=\sum_{k=0}^{n}\frac1{k!},\qquad b_n:=\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n\quad(n\geq1)
$$
と書く。$e$ には次の 3 通りの定義が流通しているが、どれも同じ数を与える(thm-napier-three-definitions・prop-napier-characterization)。
$e$ は「連続的に複利を付けたときの 1 年後の倍率」である。年利 100% を 1 回で付けると 2 倍だが、途中でついた利息にも利息がつくように回数を増やすと倍率は増え、その上限が $e$ である。微分の言葉では、$e$ は「$x=0$ での接線の傾きがちょうど $1$ になる指数関数 $a^x$ の底」である(prop-napier-characterization)。$2^x$ の $0$ での傾きは $\log2=0.69\ldots$、$3^x$ の傾きは $\log3=1.09\ldots$ で、その間にちょうど $1$ となる底 $e$ がある。
$b_n=(1+1/n)^n$ と $s_n=\sum_{k\leq n}1/k!$ の値と誤差は次のとおりである($e=2.718281828\ldots$)。
| $n$ | $b_n$ | $e-b_n$ | $s_n$ | $e-s_n$ |
|---|---|---|---|---|
| $1$ | $2$ | $0.718\ldots$ | $2$ | $0.718\ldots$ |
| $5$ | $2.48832$ | $0.2299\ldots$ | $2.716666\ldots$ | $1.6\times10^{-3}$ |
| $10$ | $2.593742\ldots$ | $0.1245\ldots$ | $2.718281801\ldots$ | $2.7\times10^{-8}$ |
| $1000$ | $2.716923\ldots$ | $0.00135\ldots$ | — | — |
$b_n$ の誤差はおよそ $n$ に反比例してしか減らない(prop-napier-slow)ので、$b_{1000}$ でも小数第 3 位が違う。一方 $s_n$ の誤差は $1/(n!\,n)$ より小さく(prop-napier-series-error)、$s_{10}$ で小数第 7 位まで正しい。
「底 $1+1/n$ は $1$ に近づくので、何乗しても $1$ に近づくはずだ」という推論は誤りであり、$b_n\to e\neq1$ がその反例である。この形の冪の極限は、底と指数の近づき方の釣り合いで決まる。
$$
\Bigl(1+\frac1{n^2}\Bigr)^n\to1,\qquad\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n\to e,\qquad\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^{n^2}\to\infty
$$
である。1 つめは、prop-napier-bounds を $n^2$ に使うと $1<\bigl(1+\frac1{n^2}\bigr)^{n^2}< e$ なので、各辺の正の $n$ 乗根をとって $1<\bigl(1+\frac1{n^2}\bigr)^n< e^{1/n}$ となり($e^{1/n}$ は $e$ の正の $n$ 乗根である。指数関数 の記事の命題「有理数乗との一致」)、$e^{1/n}=\exp(1/n)\to\exp0=1$($\exp$ の連続性)による。3 つめは $\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n^2}=b_n^{\,n}\geq2^n$($b_n\geq b_1=2$。$(b_n)$ は単調増加である。数列の極限 の記事の例「(1+1/n)^n の収束」)による。$n=10$ では 3 つの値は $1.1046\ldots$、$2.5937\ldots$、$13780.6\ldots$ である。
3 つの数列は「底が $1$ に近づき、指数が $\infty$ に近づく」という性質を共通に満たすが、「極限が $1$ である」という性質は 1 つめしか満たさない。
$\lim_{n\to\infty}\Bigl(1+\dfrac1n\Bigr)^n=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\frac1{k!}=\exp1$ である。
2 つめの等号は 指数関数 の定義そのものである。1 つめの等号を示す。二項定理により
$$
b_n=\sum_{k=0}^{n}\binom nk\frac1{n^k}=\sum_{k=0}^{n}\frac1{k!}\prod_{j=0}^{k-1}\Bigl(1-\frac jn\Bigr)
$$
である(空の積は $1$)。数列の極限 の記事の例「(1+1/n)^n の収束」により $(b_n)$ は収束するので、その極限を $b$ とおく。
$b\leq e$:各積は $1$ 以下なので $b_n\leq s_n\leq e$ であり、数列の極限 の記事の命題「極限は大小関係を保つ」により $b\leq e$ である。
$b\geq e$:$m$ を固定し、$n\geq m$ とする。$b_n$ の和の $k\leq m$ の部分だけを残すと(残りの項は $0$ 以上)
$$
b_n\geq\sum_{k=0}^{m}\frac1{k!}\prod_{j=0}^{k-1}\Bigl(1-\frac jn\Bigr)
$$
である。右辺は $m+1$ 個の項の有限和で、各項は $n\to\infty$ で $\frac1{k!}$ に収束する(数列の極限 の記事の命題「極限の四則演算」)。よって $n\to\infty$ として $b\geq s_m$ である。$m$ は任意なので、$m\to\infty$ として $b\geq e$ である。
指数関数 の記事の命題「複利の極限」は、対数を使う別の方法で、一般の実数 $x$ について $(1+x/n)^n\to\exp x$ を示している。$x=1$ の場合が上の定理の 1 つめの等号である。
すべての整数 $n\geq1$ について
$$
\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n< e<\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^{n+1}
$$
である。
対数関数 の記事の命題「対数の基本不等式」を $x:=1+\frac1n\neq1$ に使うと、$1-\frac1x<\log x< x-1$ であり、$1-\frac1x=\frac1{n+1}$、$x-1=\frac1n$ なので
$$
\frac1{n+1}<\log\Bigl(1+\frac1n\Bigr)<\frac1n
$$
である。各辺に $n$ または $n+1$ を掛けると $n\log(1+\frac1n)<1<(n+1)\log(1+\frac1n)$ である。$\exp$ は狭義単調増加なので(指数関数 の記事の命題「正値性と単調性」)、$\exp$ をとると、$\exp\bigl(m\log(1+\frac1n)\bigr)=(1+\frac1n)^m$(指数関数 の記事の命題「有理数乗との一致」)と $\exp1=e$ から結論を得る。
$2< e<3$ である。
prop-napier-bounds で $n=1$ とすると $2< e$ である。$n=5$ とすると $e<(6/5)^6=\frac{46656}{15625}=2.985984<3$ である。
上からの評価の列 $c_n:=\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n+1}$ は、$b_n$ とは逆に単調に減少して $e$ に近づく。したがって $[b_n,c_n]$ は $e$ を含む区間の縮小列になる。
$c_n:=\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n+1}$ とおくと、すべての整数 $n\geq2$ について $c_{n-1}>c_n$ であり、$c_n\to e$ である。
$n\geq2$ とする。
$$
\frac{c_{n-1}}{c_n}=\frac{\bigl(\frac n{n-1}\bigr)^n}{\bigl(\frac{n+1}n\bigr)^{n+1}}=\Bigl(\frac{n^2}{n^2-1}\Bigr)^n\cdot\frac n{n+1}=\Bigl(1+\frac1{n^2-1}\Bigr)^n\cdot\frac n{n+1}
$$
である。Bernoulli の不等式 $(1+x)^n\geq1+nx$($x>-1$。$n$ についての帰納法で示せる)を $x=\frac1{n^2-1}$ に使い、$\frac n{n^2-1}>\frac n{n^2}=\frac1n$ を合わせると
$$
\frac{c_{n-1}}{c_n}\geq\Bigl(1+\frac n{n^2-1}\Bigr)\frac n{n+1}>\Bigl(1+\frac1n\Bigr)\frac n{n+1}=1
$$
である。よって $c_{n-1}>c_n$ である。また $c_n=b_n\bigl(1+\frac1n\bigr)$ で、$b_n\to e$(thm-napier-three-definitions)と $1+\frac1n\to1$ から $c_n\to e$ である。
たとえば $b_{10}=2.5937\ldots< e< c_{10}=2.8531\ldots$、$b_{100}=2.7048\ldots< e< c_{100}=2.7318\ldots$ である。区間の幅 $c_n-b_n=b_n/n$ は $1/n$ 程度でしか縮まない。
すべての整数 $n\geq1$ について
$$
0< e-s_n<\frac1{n!\,n}
$$
である。
$e-s_n=\sum_{k\geq n+1}\frac1{k!}$ は正の項の和なので正である。$k=n+1+j$($j\geq0$)の項について
$$
\frac1{k!}=\frac1{(n+1)!}\cdot\frac1{(n+2)(n+3)\cdots(n+1+j)}\leq\frac1{(n+1)!}\cdot\frac1{(n+2)^j}
$$
であり、$j\geq2$ では不等号は狭義である。よって
$$
e-s_n<\frac1{(n+1)!}\sum_{j=0}^{\infty}\frac1{(n+2)^j}=\frac1{(n+1)!}\cdot\frac{n+2}{n+1}
$$
である。$n(n+2)<(n+1)^2$ なので $\frac{n+2}{(n+1)(n+1)!}=\frac{n+2}{(n+1)^2\,n!}<\frac1{n\cdot n!}$ である。
$n=10$ では $\frac1{10!\cdot10}=2.755\ldots\times10^{-8}$ で、実際の誤差は $2.731\ldots\times10^{-8}$ である。この評価から $e$ が無理数であることが従う。$e=p/q$($p,q$ は正の整数)なら $q!\,(e-s_q)$ は整数だが、上の評価により $0$ と $1/q\leq1$ の間にあるからである。この証明は 無理数 の記事の定理「$e$ の無理性」に書かれている。さらに $e$ は超越数である(Hermite。無理数 の記事の注意「円周率の無理性と超越性の出典」)。
すべての整数 $n\geq1$ について
$$
\frac e{6n+1}< e-\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n<\frac en
$$
である。
上からの評価:prop-napier-bounds により $e< b_n(1+\frac1n)$ なので、$e-b_n<\frac{b_n}n<\frac en$ である。
下からの評価:$x:=\frac1n\in(0,1]$ とすると、対数関数 の記事の定理「log(1+x) の級数」により $\log(1+x)=x-\frac{x^2}2+\frac{x^3}3-\cdots$ であり、項の絶対値 $\frac{x^k}k$ は $k$ について単調減少して $0$ に近づく。級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」の評価 $|S-S_2|\leq a_3=\frac{x^3}3$ により $\log(1+\frac1n)\leq\frac1n-\frac1{2n^2}+\frac1{3n^3}$ である。$n$ を掛け、$\frac1{3n^2}\leq\frac1{3n}$ を使うと
$$
n\log\Bigl(1+\frac1n\Bigr)\leq1-\frac1{2n}+\frac1{3n}=1-\frac1{6n}
$$
である。$\exp$ は単調増加なので $b_n\leq e\cdot e^{-1/(6n)}$ である。$u:=\frac1{6n}\ne0$ について $e^u>1+u$(指数関数 の記事の命題「正値性と単調性」の 3)なので $e^{-u}<\frac1{1+u}$ であり、
$$
e-b_n>e\Bigl(1-\frac1{1+\frac1{6n}}\Bigr)=\frac e{6n+1}
$$
である。
この評価から、$b_n$ で $e$ の誤差を $10^{-7}$ 未満にするには $\frac e{6n+1}<10^{-7}$、すなわち $n>4.5\times10^6$ 程度が必要である。実際 $b_{10^6}=2.7182804\ldots$ の誤差は $1.36\times10^{-6}$ である。ex-napier-table の $s_{10}$ と比べると、級数のほうがはるかに速い。
$a>0$ について、次の 3 条件は同値である。
条件 3 は、双曲線 $y=1/t$ の下の $t=1$ から $t=a$ までの面積が $1$ になる $a$ として $e$ を特徴づける。
$e$ を定める極限や特徴づけは、どれも条件の釣り合いの上に成り立っている。条件を 1 つ変えると、次のように結論が崩れる。
| 変える条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 底 $1+\frac1n$ と指数 $n$ の釣り合い | $\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n^2}$ | 極限が $e$(実際は $\infty$ に発散) |
| 底 $1+\frac1n$ と指数 $n$ の釣り合い | $\bigl(1+\frac1{n^2}\bigr)^{n}$ | 極限が $e$(実際は $1$) |
| 有限個の項の和であること(無限個の和にする) | $\sum_{k\geq0}1/k!$(部分和 $s_n\in\mathbb{Q}$) | 有理数の和が有理数であること(和 $e$ は無理数) |
| 底が $e$ であること | $2^x$ | $x=0$ での微分係数が $1$(実際は $\log2=0.693\ldots$) |
1・2 行目は ex-napier-one-to-infinity で示した。3 行目:$s_n=\sum_{k\leq n}1/k!$ は有限個の有理数の和なので有理数であり、$s_n\to e$ だが、$e$ は無理数である(prop-napier-series-error のあとの議論)。有理数全体は極限をとる操作で閉じていない。4 行目:prop-napier-characterization の証明のとおり、$a^x$ の $x=0$ での微分係数は $\log a$ であり、$\log2<\log e=1$ である($\log$ は狭義単調増加)。条件 2 を満たす底は $e$ ただ一つである。
$e:=\exp(1)$ の定義と「Euler's number」「the base of the natural logarithm」の呼び名は Leb p. 211 にある。$(1+x/n)^n\to e^x$ は同書 Exercise 5.4.5(p. 212)で演習として挙げられている。thm-napier-three-definitions・prop-napier-bounds・prop-napier-series-error・prop-napier-slow は本記事で証明を与えた。
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