eはなぜ特別か

同義語:why e is special

概要

eはなぜ特別か(why e is special)とは、ネイピア数 $e=\lim_{n\to\infty}(1+\frac1n)^n=2.71828\ldots$ が数学のさまざまな場面に現れる理由を、4 本の記事に分けて案内する記事である。数列 $(1+\frac1n)^n$ が収束して $e$ が定まること、$a>0$ で $(a^x)'=(\log a)\,a^x$ なので微分しても変わらない指数関数の底は $e$ だけであること、$u_n\to0$ かつ $u_nv_n\to c$ なら $(1+u_n)^{v_n}\to e^c$ で連続複利の倍率が $e^r$ になること、$e=\sum_{k\ge0}\frac1{k!}$ でその誤差が小さすぎるために $e$ が無理数であることを、それぞれ証明する記事への読む順番を示す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 数列の極限, 指数関数, 対数関数, 微分係数と導関数の定義(高校数学)

e とは何か

高校の数学 III では、数 $e=2.71828\ldots$ に 2 つの場面で出会う。1 つは極限 $\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ の行き先として、もう 1 つは微分しても変わらない関数 $e^x$ の底としてである。本記事は、$e$ についての 4 本の記事への案内である。$e$ の定義と例をここで述べ、証明はそれぞれの記事に任せる。

e の定義

正の整数 $n$ について $a_n:=\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ とおく。数列 $(a_n)$ は収束し、その極限
$$ e:=\lim_{n\to\infty}\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n=2.71828\ldots $$
をネイピア数または自然対数の底という。$e$ を底とする対数 $\log x$ を自然対数という。

$(a_n)$ が収束すること自体が証明を要する事実であり、それを示すのが 1 本目の記事 (1+1/n)^nの極限 である。

手で計算できる近似値
  • $a_2=\bigl(\frac32\bigr)^2=\frac94=2.25$、$a_4=\bigl(\frac54\bigr)^4=\frac{625}{256}=2.4414\ldots$。$n$ を大きくすると $a_n$ は増えていく。
  • $1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}=\frac83=2.666\ldots$、さらに $\frac1{4!}$ を足すと $\frac{65}{24}=2.7083\ldots$。階乗の逆数を足していくと、$a_n$ よりずっと速く $e$ に近づく。
同じ数が 4 つの場面に現れる

次の値は数値計算による(以下切り捨て)。

場面式値
複利の極限$\bigl(1+\frac1{1000}\bigr)^{1000}$$2.71692\ldots$
階乗の逆数の和$\sum_{k=0}^{10}\frac1{k!}$$2.7182818011\ldots$
$0$ での接線の傾きが $1$$\frac{e^{0.001}-1}{0.001}$$1.0005\ldots$
連続複利(年利 5%)$\bigl(1+\frac{0.05}{365}\bigr)^{365}$ と $e^{0.05}$$1.0512674\ldots$ と $1.0512710\ldots$

1 行目と 2 行目は $e=2.718281828\ldots$ に近づく 2 つの数、3 行目は $e^x$ の $x=0$ での傾きが $1$ であること、4 行目は複利の極限が $e$ の冪になることを示している。

高校の計算と大学の概念

高校の計算大学の概念記事
$\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ の値を表にする単調で有界な数列の収束(単調収束定理)(1+1/n)^nの極限
$\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}h=1$、$(e^x)'=e^x$底 $e$ の特徴づけ、微分方程式 $f'=f$指数関数の微分
$(a^x)'=a^x\log a$、$(\log x)'=\frac1x$底の取り替えと合成関数の微分指数関数の微分
$\lim_{h\to0}(1+h)^{\frac1h}=e$、連続複利$1$ の $\infty$ 乗型の極限、関数の極限1の∞乗型の極限
$e=2.718\ldots$ を計算する級数 $\sum\frac1{k!}$ と誤差の評価eの級数表示と無理数性
$e$ は分数か無理数であることの証明eの級数表示と無理数性

読む順番

図1:4 本の記事を読む順番 図1:4 本の記事を読む順番
最初に ① を読む。② → ③ の流れと ④ は、①だけを前提にしているので、どちらを先に読んでもよい。

  1. (1+1/n)^nの極限:二項定理で $\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ を展開して係数を比べ、この数列が増加して $3$ を超えないことを示す。「単調で有界な数列は収束する」という実数の性質から $e$ が定まり、$\bigl(1+\frac1n\bigr)^n< e<\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n+1}$ で $e$ を挟む。
  2. 指数関数の微分:$e^{1/m}$ が $1+\frac1m$ にほぼ等しいことから $\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}h=1$ を証明する。$(a^x)'=(\log a)a^x$ なので、微分しても変わらない指数関数の底は $e$ だけであることがわかる。
  3. 1の∞乗型の極限:「底 $\to1$、指数 $\to\infty$」の形の極限は、「(底 $-1$)× 指数」の行き先 $c$ で決まり、$e^c$ になることを示す。連続複利 $e^r$ や、教科書の定義 $\lim_{h\to0}(1+h)^{\frac1h}=e$ との一致がここから出る。
  4. eの級数表示と無理数性:$e=1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}+\cdots$ を示し、その誤差が $\frac1{n!\,n}$ 未満であることから、$e$ が分数で書けないことを証明する。

どの疑問にどの記事が答えるか

疑問答える記事
表で値が近づいて見えるだけで、本当に収束するのか①(収束の証明)
$e$ は $2$ と $3$ の間にあるのか①($2< e<3$)
$2^x$ ではなく $e^x$ が微分で変わらないのはなぜか②
$(\log x)'=\frac1x$ に $e$ が隠れているのはなぜか②
$\lim_{h\to0}(1+h)^{\frac1h}$ と $\lim_{n\to\infty}\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ は同じ数か③
年利 5% の連続複利は何倍か③($e^{0.05}$ 倍)
$e$ を誤差 $10^{-10}$ 未満で計算するには、級数を何項足せばよいか④(14 項)
$e$ は分数で書けるか④(書けない)

なぜ e は特別か:4 本の答えのまとめ

  • 微分で係数が消える。 $2^x$ や $10^x$ を微分すると係数 $\log2$、$\log10$ が付くが、$e^x$ では付かない(②)。微分や積分の公式がいちばん簡単になる底が $e$ である。
  • 連続的な変化の極限に現れる。 増え方を細かく分けていく極限 $\bigl(1+\frac xn\bigr)^n$ は $e^x$ に近づく(③)。複利、人口の増加、放射性物質の崩壊など、「今の量に比例して変化する」現象に $e$ が現れるのはこのためである。
  • 速く計算でき、しかも分数ではない。 級数 $\sum\frac1{k!}$ は $e$ に速く近づき、その近づき方が速すぎることが $e$ の無理数性の証明になる(④)。
反例:底が 1 に近づき指数が大きくなっても e になるとは限らない

$\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ は $e$ に近づくが、形の似た $\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n^2}$ は $n=10$ で $1.1^{100}=13780.6\ldots$ と限りなく大きくなり、$\bigl(1+\frac1{n^2}\bigr)^n$ は $n=10$ で $1.01^{10}=1.1046\ldots$ と $1$ に近づく(数値計算)。どうなるかを決めるのは「(底 $-1$)× 指数」の行き先である。理由は 1の∞乗型の極限 で説明する。

さらに先へ

  • 超越数。 $e$ は無理数であるだけでなく、整数係数のどんな($0$ でない)多項式の根にもならない超越数であることが知られている(4 本の記事では証明しない)。
  • 複素数の指数関数。 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$(Eulerの公式)によって、指数関数と三角関数が 1 つになる。
  • 確率と階乗。 まれな出来事の回数の分布(Poisson分布)や、階乗の近似式(Stirlingの公式)にも $e$ が現れる。

関連項目

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