Grothendieck群

同義語:グロタンディーク群Grothendieck groupK_0

概要

Grothendieck群(Grothendieck group)とは、可換モノイド $M$ の元の形式的な差から作る普遍的なアーベル群 $K(M)$、およびアーベル圏 $\mathcal{A}$ の対象の同型類を生成元とし、短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to 0$ ごとに $[A]=[A']+[A'']$ を関係とするアーベル群 $K_0(\mathcal{A})$ のことである。環の射影加群から $K_0(R)$、スキームの局所自由層から環 $K_0(X)$、連接層から $G_0(X)$ が得られ、Euler 標数のような完全列に加法的な量は $K_0$ 上の準同型になる。体や単項イデアル整域では $K_0=G_0=\mathbb{Z}$、非特異準射影多様体では $K_0(X)\cong G_0(X)$ であり、そこで Riemann–Roch が定式化される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換モノイド, アーベル群, アーベル圏, 短完全列, 加群, 連接層, 局所自由層

定義

Grothendieck 群には、段階の異なる 2 つの定義がある。1 つは可換モノイドから普遍的にアーベル群を作る構成(群化)であり、もう 1 つはアーベル圏(あるいは完全圏)の対象の同型類に短完全列から来る関係を課して作る群 $K_0$ である。後者は前者の特別な場合として得られる。いずれも 1957 年に Grothendieck が Riemann–Rochの定理を定式化するために導入したものである(BS58)。

可換モノイドの場合

可換モノイドのGrothendieck群

$(M,+,0)$ を可換モノイドとする。直積 $M\times M$ の上に関係 $\sim$ を
$$ (a,b)\sim(c,d)\iff \text{ある } e\in M \text{ が存在して } a+d+e=b+c+e $$
で定める。$\sim$ は $M\times M$ 上の同値関係であり、成分ごとの加法と両立する。商集合 $K(M):=(M\times M)/{\sim}$ に $[(a,b)]+[(c,d)]:=[(a+c,b+d)]$ で加法を入れたものを $M$ の Grothendieck 群(Grothendieck group)という。$[(a,b)]$ は形式的な差 $a-b$ を表し、写像
$$ \gamma_M\colon M\to K(M),\qquad a\mapsto[(a,0)] $$
を標準写像という。

$\sim$ が同値関係であることを確かめる。反射律と対称律は明らかである。$(a,b)\sim(c,d)$ を与える $e$ と $(c,d)\sim(p,q)$ を与える $e'$ をとると、2 つの等式を辺々加えて $a+q+(c+d+e+e')=b+p+(c+d+e+e')$ を得るので $(a,b)\sim(p,q)$ である(推移律)。加法との両立も同様に等式を加えればよい。$K(M)$ が群であることは、$[(a,b)]+[(b,a)]=[(a+b,a+b)]=[(0,0)]$ からわかる($(a+b,a+b)\sim(0,0)$ は $e=0$ でよい)。単位元は $[(0,0)]$、$[(a,b)]$ の逆元は $[(b,a)]$ である。とくに
$$ [(a,b)]=\gamma_M(a)-\gamma_M(b) $$
であり、$K(M)$ は $\gamma_M(M)$ で生成される。定義中の補正項 $e$ は、$M$ が消去律($a+e=b+e\Rightarrow a=b$)を満たさないときに必要になる。この構成のより詳しい性質(消去律と $\gamma_M$ の単射性、忘却関手との随伴)は 可換モノイドの群化 の記事にある。

Grothendieck群の普遍性

$M$ を可換モノイド、$G$ をアーベル群、$f\colon M\to G$ をモノイドの準同型($f(0)=0$、$f(a+b)=f(a)+f(b)$)とする。このとき、群準同型 $\bar f\colon K(M)\to G$ で $\bar f\circ\gamma_M=f$ を満たすものがただ 1 つ存在する。すなわち $\gamma_M$ は、$M$ からアーベル群への準同型のうちで始対象である。この性質は $(K(M),\gamma_M)$ を同型を除いて一意に定める。

存在。$\bar f([(a,b)]):=f(a)-f(b)$ と定める。これが代表元の取り方によらないことを示す。$(a,b)\sim(c,d)$ とし、$a+d+e=b+c+e$ とする。$f$ を施すと $G$ で $f(a)+f(d)+f(e)=f(b)+f(c)+f(e)$ であり、$G$ は群なので $f(e)$ を消去して $f(a)-f(b)=f(c)-f(d)$ を得る。よって $\bar f$ は矛盾なく定まる。$\bar f([(a,b)]+[(c,d)])=f(a+c)-f(b+d)=\bar f([(a,b)])+\bar f([(c,d)])$ なので $\bar f$ は群準同型であり、$\bar f(\gamma_M(a))=f(a)-f(0)=f(a)$ である。
一意性。$g\colon K(M)\to G$ が群準同型で $g\circ\gamma_M=f$ を満たすとする。任意の元は $[(a,b)]=\gamma_M(a)-\gamma_M(b)$ と書けるので $g([(a,b)])=f(a)-f(b)=\bar f([(a,b)])$ である。
$(K',\gamma')$ が同じ性質をもてば、互いに逆向きの準同型が得られ、その合成は恒等写像の一意性により恒等写像である。$\square$

普遍性から、$K(M)$ は「$M$ の各元 $a$ を生成元 $[a]$ とし、$[a+b]=[a]+[b]$ を関係とするアーベル群の表示」とも書ける。実際その表示で定まる群は同じ普遍性をもつ。

アーベル圏と完全圏の場合

アーベル圏のGrothendieck群

$\mathcal{A}$ を、対象の同型類が集合をなすアーベル圏(本質的小圏)とする。$\mathcal{A}$ の対象の同型類 $[A]$ を生成元とする自由アーベル群 $F(\mathcal{A})$ を、$\mathcal{A}$ の各短完全列
$$ 0\to A'\to A\to A''\to0 $$
に対する元 $[A]-[A']-[A'']$ が生成する部分群 $R(\mathcal{A})$ で割った商群
$$ K_0(\mathcal{A}):=F(\mathcal{A})/R(\mathcal{A}) $$
を $\mathcal{A}$ の Grothendieck 群という。対象 $A$ の像を同じ記号 $[A]$ で書き、$A$ の類という。
より一般に、アーベル圏 $\mathcal{A}$(本質的小でなくてよい)の充満部分圏(充満部分圏)$\mathcal{C}$ が、対象の同型類が集合をなし、$0$ を含み、同型で閉じ、拡大で閉じている($\mathcal{A}$ の短完全列で両端が $\mathcal{C}$ に属せば中央も属する)とき、「$\mathcal{A}$ で完全な $\mathcal{C}$ の対象からなる短完全列」を関係として同じ構成を行ったものを $K_0(\mathcal{C})$ と書く。

短完全列 $0\to A\to A\oplus B\to B\to0$ から $[A\oplus B]=[A]+[B]$ が従い、$[0]=0$ である。したがって $K_0(\mathcal{A})$ は、同型類が直和 $\oplus$ でなす可換モノイドの Grothendieck 群を、分裂しない短完全列(分裂完全列)の分だけさらに割った商群である。

射影加群の圏では群化と一致する

$R$ を(単位元をもつ結合的な)環とし、$\mathcal{P}(R)$ を有限生成加群である射影加群の圏とする。$\mathcal{P}(R)$ は有限生成 $R$ 加群の圏の中で拡大で閉じており、$\mathcal{P}(R)$ の対象の同型類が $\oplus$ でなす可換モノイドを $M_R$ と書くと、標準写像は同型 $K(M_R)\cong K_0(\mathcal{P}(R))$ を誘導する。

短完全列 $0\to P'\to P\to P''\to0$ で $P''$ が射影的なら、$P\to P''$ の切断が存在して $P\cong P'\oplus P''$ である。よって $P',P''$ が有限生成射影的なら $P$ もそうであり(拡大で閉じている)、また $K_0(\mathcal{P}(R))$ を定める関係 $[P]=[P']+[P'']$ はすべて $[P'\oplus P'']=[P']+[P'']$ の形である。逆に $[P'\oplus P'']=[P']+[P'']$ の形の関係は分裂短完全列 $0\to P'\to P'\oplus P''\to P''\to0$ から来る。thm-grothendieck-group-universal の直後に述べたように $K(M_R)$ は生成元 $[P]$ と関係 $[P'\oplus P'']=[P']+[P'']$ で表示されるので、$K(M_R)$ と $K_0(\mathcal{P}(R))$ は同じ生成元と同じ関係で定義されており、両者は同型である。$\square$

環とスキームのK群

$R$ を環とする。有限生成射影 $R$ 加群の圏の Grothendieck 群を $K_0(R)$ と書く。$R$ がNoether環のとき、有限生成 $R$ 加群のアーベル圏の Grothendieck 群を $G_0(R)$(または $K'_0(R)$)と書く。
$X$ をスキームとする。有限階数の局所自由 $\mathcal{O}_X$ 加群(ベクトル束の層)の圏 $\mathrm{Vect}(X)$ は $\mathcal{O}_X$ 加群の圏の中で拡大で閉じており、その Grothendieck 群を $K_0(X)$ と書く。$X$ が Noether スキームのとき、連接層のアーベル圏 $\mathrm{Coh}(X)$ の Grothendieck 群を $G_0(X)$(または $K'_0(X)$)と書く。局所自由層は連接層なので、包含 $\mathrm{Vect}(X)\subset\mathrm{Coh}(X)$ は群準同型
$$ c\colon K_0(X)\to G_0(X),\qquad [E]\mapsto[E] $$
を誘導する。これを Cartan 写像という。$X=\operatorname{Spec}R$ のとき $K_0(X)=K_0(R)$、$G_0(X)=G_0(R)$ である。

$\mathrm{Vect}(X)$ が拡大で閉じていることは、局所自由層の短完全列が局所的に分裂することからわかる(prop-grothendieck-group-split の証明と同じ)。記号は文献により異なり、Har77 II Ex. 6.10 は連接層の群を $K(X)$、SGA6 は $K^\cdot(X)$ と $K_\cdot(X)$ と書く。$K_0(X)$ と $G_0(X)$ の区別は非正則なスキームで本質的になる(ex-grothendieck-group-cartan-not-surjective)。

環構造と加群構造

$X$ をスキームとする。

  1. $K_0(X)$ は $[E]\cdot[F]:=[E\otimes_{\mathcal{O}_X}F]$ を積とする可換環であり、単位元は $[\mathcal{O}_X]$ である。
  2. $X$ が Noether スキームのとき、$G_0(X)$ は $[E]\cdot[\mathcal{F}]:=[E\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{F}]$($E$ は局所自由、$\mathcal{F}$ は連接)によって $K_0(X)$ 加群になり、Cartan 写像 $c$ は $K_0(X)$ 加群の準同型である。
  3. スキームの射 $f\colon Y\to X$ は、引き戻し $[E]\mapsto[f^*E]$ によって環準同型 $f^*\colon K_0(X)\to K_0(Y)$ を誘導する。
  1. 局所自由層 $E$ を固定する。$X$ の各点のまわりで $E\cong\mathcal{O}_X^{\oplus r}$ なので、$\mathcal{O}_X$ 加群の短完全列 $0\to F'\to F\to F''\to0$ に $E\otimes-$ を施したものは局所的には元の列を $r$ 個直和したものであり、完全である。よって $[F]\mapsto[E\otimes F]$ は関係 $[F]-[F']-[F'']$ を保ち、$K_0(X)\to K_0(X)$ を定める。$E$ についても同様なので、テンソル積は双線型写像 $K_0(X)\times K_0(X)\to K_0(X)$ を誘導する。結合律・可換律・単位元は $E\otimes(F\otimes G)\cong(E\otimes F)\otimes G$、$E\otimes F\cong F\otimes E$、$\mathcal{O}_X\otimes E\cong E$ による。
  2. 同じ議論で、$E$ が局所自由なら $E\otimes-$ は連接層の短完全列を連接層の短完全列に送るので $G_0(X)$ 上の作用が定まる。$\mathcal{F}$ を固定して $E$ を動かすときの加法性も、局所的な分裂を用いて同様である。$c$ が作用と両立することは定義から明らかである。
  3. 局所自由層の短完全列は局所的に分裂するので、$f^*$ を施しても完全である(分裂完全列の引き戻しは分裂完全列であり、完全性は局所的な性質である)。よって $f^*$ は $K_0(X)\to K_0(Y)$ を定め、$f^*(E\otimes F)\cong f^*E\otimes f^*F$、$f^*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_Y$ から環準同型である。$\square$

直感

Grothendieck 群は、「足し算はできるが引き算ができない」対象たち(自然数、ベクトル空間、ベクトル束、連接層)を、形式的な差を許すことで群の中に置く装置である。可換モノイドの場合は $\mathbb{N}$ から $\mathbb{Z}$ を作る操作そのものであり、アーベル圏の場合はさらに「短完全列の中央の対象は両端の和である」という関係を課す。この関係のおかげで、Euler標数のように完全列に対して加法的な量は、すべて $K_0$ 上の準同型として一斉に扱える。ベクトル束の $K_0(X)$ は環であり、連接層の $G_0(X)$ はその上の加群である。非特異な多様体では両者は一致し、この共通の群の上で Chern指標と Riemann–Roch の定理が定式化される(BS58、SGA6)。$K_0$ は代数的K理論の出発点であり、高次の群 $K_1,K_2,\dots$ が続く(Mil71、Wei13)。

例と反例

自然数と冪等元をもつモノイド

$M=(\mathbb{N},+)$ のとき $K(\mathbb{N})=\mathbb{Z}$ であり、$\gamma$ は包含写像である。実際 $\bar f\colon K(\mathbb{N})\to\mathbb{Z}$、$[(a,b)]\mapsto a-b$ は全射で、$a-b=c-d$ なら $a+d=b+c$ なので単射である。他方、$M=\{0,\infty\}$($0$ が単位元、$\infty$ は $\infty+\infty=\infty$ を満たす冪等元)では、$\infty+\infty=\infty$ に $\gamma$ を施して $2\gamma(\infty)=\gamma(\infty)$、すなわち $\gamma(\infty)=0=\gamma(0)$ となり $K(M)=0$ である(直接には $(\infty,0)\sim(0,0)$ が $e=\infty$ で成り立つ)。消去律を満たさないモノイドでは $\gamma_M$ は単射でない(可換モノイドの群化)。

体の場合

$k$ を体とする。次元は同型 $\dim_k\colon K_0(k)\xrightarrow{\ \sim\ }\mathbb{Z}$ を誘導し、$[V]\mapsto\dim_k V$ である。$K_0(k)=G_0(k)$ であり、$[k]$ が生成元である。

体上の加群はベクトル空間であり、すべて射影的なので $K_0(k)=G_0(k)$ である。有限次元ベクトル空間の短完全列 $0\to V'\to V\to V''\to0$ に対し $\dim V=\dim V'+\dim V''$ なので、$\dim_k$ は関係を保ち群準同型 $K_0(k)\to\mathbb{Z}$ を定める。$[k]\mapsto1$ なので全射である。単射性を示す。$V\cong k^{\oplus n}$ なら短完全列 $0\to k^{\oplus(n-1)}\to k^{\oplus n}\to k\to0$ と $n$ に関する帰納法(数学的帰納法)で $[V]=n[k]$ である。よって $K_0(k)$ の任意の元 $[V]-[W]$ は $(\dim V-\dim W)[k]$ に等しく、$\dim_k$ で $0$ に写るならそれ自身 $0$ である。$\square$

単項イデアル整域の場合

$R$ を単項イデアル整域、$K$ をその商体とする。階数 $\operatorname{rk}(M):=\dim_K(M\otimes_RK)$ は同型
$$ \operatorname{rk}\colon K_0(R)\xrightarrow{\ \sim\ }\mathbb{Z},\qquad \operatorname{rk}\colon G_0(R)\xrightarrow{\ \sim\ }\mathbb{Z} $$
を誘導し、Cartan 写像 $K_0(R)\to G_0(R)$ は同型である。とくに $K_0(\mathbb{Z})=G_0(\mathbb{Z})=\mathbb{Z}$ であり、$\mathbb{Z}$ 上の有限生成加群(有限生成アーベル群)$A$ の類は $[A]=\operatorname{rk}(A)[\mathbb{Z}]$ である。

$K$ は $R$ の局所化なので $R$ 上平坦(平坦加群)であり、$-\otimes_RK$ は短完全列を保つ。よって $\operatorname{rk}$ は $G_0(R)\to\mathbb{Z}$ と $K_0(R)\to\mathbb{Z}$ を定め、$[R]\mapsto1$ なので全射である。
単射性。$M$ を有限生成 $R$ 加群とする。単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理(Lan02 III §7、単項イデアル整域)により
$$ M\cong R^{\oplus r}\oplus R/(a_1)\oplus\cdots\oplus R/(a_s),\qquad a_i\ne0 $$
である。$a\ne0$ に対し、$a$ 倍写像は $R$ が整域なので単射であり、短完全列 $0\to R\xrightarrow{a}R\to R/(a)\to0$ から $G_0(R)$ で $[R/(a)]=[R]-[R]=0$ である。したがって $[M]=r[R]$ であり、$r=\operatorname{rk}(M)$ である($R/(a)\otimes K=0$ による)。よって $G_0(R)$ の任意の元 $[M]-[N]$ は $(\operatorname{rk}M-\operatorname{rk}N)[R]$ に等しく、$\operatorname{rk}$ は単射である。$K_0(R)$ については、有限生成射影加群は自由加群の直和因子なので捩れをもたず、構造定理により自由 $R^{\oplus r}$ であるから、$[P]=r[R]$ となって同様である。Cartan 写像は $[R]\mapsto[R]$ なので両方の $\operatorname{rk}$ と両立し、したがって同型である。$\square$

Dedekind整域と非特異曲線

$R$ をDedekind整域とすると、階数と行列式(最高次外冪)は同型 $K_0(R)\cong\mathbb{Z}\oplus\operatorname{Pic}(R)$ を与える(Wei13 Chapter II §2、Picard群)。$\operatorname{Pic}(R)$ は $R$ のイデアル類群である。同様に、体上の非特異射影曲線 $X$ に対し $K_0(X)\cong\mathbb{Z}\oplus\operatorname{Pic}(X)$ である(Har77 II Ex. 6.11)。prop-grothendieck-group-pid の「$K_0=\mathbb{Z}$」は、単項イデアル整域でない Dedekind 整域では類群の分だけ破れる。

射影空間のK群

$k$ を体、$X=\mathbb{P}^n_k$ を $k$ 上の射影空間とする。$K_0(X)$ は階数 $n+1$ の自由アーベル群で、$[\mathcal{O}]$, $[\mathcal{O}(-1)]$, $\dots$, $[\mathcal{O}(-n)]$ を基底にもつ(Har77 III Ex. 5.4)。超平面 $H$ の構造層の類 $t:=[\mathcal{O}_H]=1-[\mathcal{O}(-1)]$(短完全列 $0\to\mathcal{O}(-1)\to\mathcal{O}\to\mathcal{O}_H\to0$ による)を用いると、環として
$$ K_0(\mathbb{P}^n_k)\cong\mathbb{Z}[t]/(t^{n+1}) $$
である(Wei13 Chapter II §8、BS58)。$t^{n+1}=0$ は $n+1$ 個の一般の超平面の共通部分が空であることを表す。$\mathbb{P}^n_k$ は非特異なので $G_0(\mathbb{P}^n_k)=K_0(\mathbb{P}^n_k)$ である(thm-grothendieck-group-regular)。

反例:Cartan写像が全射でない例

$k$ を体、$R:=k[x]/(x^2)$ とする。$R$ は局所環で、極大イデアルは $\mathfrak{m}=(x)$、剰余体は $k$ である。このとき
$$ K_0(R)=\mathbb{Z}[R],\qquad G_0(R)=\mathbb{Z}[k] $$
であり、Cartan 写像 $c\colon K_0(R)\to G_0(R)$ は $[R]\mapsto[R]=2[k]$、すなわち $\mathbb{Z}\xrightarrow{2}\mathbb{Z}$ である。$c$ は単射だが全射でない。したがって「$K_0=G_0$」は正則性を外すと破れ、また $[k]$ は有限な射影分解をもつ加群の類ではない。

$K_0(R)$ の計算。$P$ を有限生成射影 $R$ 加群とする。$R$ は局所環なので、Nakayamaの補題により $P/\mathfrak{m}P$ の $k$ 基底の持ち上げは $P$ の生成系を与え、射影性から得られる全射 $R^{\oplus r}\to P$ の分裂と再び Nakayama の補題により $P\cong R^{\oplus r}$ である(Mat89 Theorem 2.5)。$r=\dim_k(P\otimes_Rk)$ は $P$ で決まり、$-\otimes_Rk$ は分裂完全列を保つので $r$ は $K_0(R)\to\mathbb{Z}$ を定める。prop-grothendieck-group-field の証明と同じ議論で $K_0(R)=\mathbb{Z}[R]$ であり、$[R]\mapsto1$ である。
$G_0(R)$ の計算。$R$ は $k$ 上 2 次元のベクトル空間なので、有限生成 $R$ 加群 $M$ は $k$ 上有限次元であり、有限の長さ(長さ(加群))をもつ(組成列)。$R$ の単純加群は $R/\mathfrak{m}=k$ だけなので、$M$ の組成列の各商は $k$ に同型であり、組成列を短完全列に分けて $[M]=\ell(M)[k]$($\ell$ は長さ)を得る。長さは短完全列に対して加法的なので $\ell\colon G_0(R)\to\mathbb{Z}$ は準同型であり、$[k]\mapsto1$、したがって $G_0(R)=\mathbb{Z}[k]$ である。
$R$ 自身は短完全列 $0\to\mathfrak{m}\to R\to k\to0$ をもち、$\mathfrak{m}=xR\cong R/(x)=k$($x$ 倍写像の核が $(x)$ であることによる)なので $[R]=2[k]$ である。よって $c$ は $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$、$1\mapsto2$ であり、単射だが全射でない。$[k]$ が有限な射影(=自由)分解をもつなら、prop-grothendieck-group-euler により $[k]$ は $c$ の像に入るはずなので、$k$ は有限な自由分解をもたない。実際 $\cdots\to R\xrightarrow{x}R\xrightarrow{x}R\to k\to0$ は自由分解だが有限ではない。$\square$

性質

Euler標数の加法性

有限完全列の交代和

$\mathcal{A}$ をアーベル圏とし、$0\to A_0\to A_1\to\cdots\to A_n\to0$ を $\mathcal{A}$ の完全列とする。このとき $K_0(\mathcal{A})$ で
$$ \sum_{i=0}^n(-1)^i[A_i]=0 $$
である。同じことは、拡大で閉じた充満部分圏 $\mathcal{C}$ が「$\mathcal{C}$ の対象の間の全射の核はふたたび $\mathcal{C}$ の対象である」を満たすとき(有限生成射影加群の圏、有限階数局所自由層の圏はそうである)、$\mathcal{A}$ の中で完全な $\mathcal{C}$ の対象の列について $K_0(\mathcal{C})$ で成り立つ。とくに、有限生成射影加群または局所自由層による有限な分解 $0\to E_m\to\cdots\to E_0\to\mathcal{F}\to0$ をもつ連接層 $\mathcal{F}$ に対し、$G_0(X)$ で $[\mathcal{F}]=\sum_i(-1)^i[E_i]$ であり、$[\mathcal{F}]$ は Cartan 写像の像に属する。

$d_i\colon A_i\to A_{i+1}$ と書き、$0\le i\le n-1$ に対し $B_i:=\operatorname{im}d_i$ とおく。完全性から $d_0$ は単射なので $B_0\cong A_0$、$d_{n-1}$ は全射なので $B_{n-1}=A_n$ である。$1\le i\le n-1$ に対し、完全性 $\ker d_i=\operatorname{im}d_{i-1}=B_{i-1}$ により
$$ 0\to B_{i-1}\to A_i\to B_i\to0 $$
は短完全列である。よって $[A_i]=[B_{i-1}]+[B_i]$ であり、
$$ \sum_{i=0}^n(-1)^i[A_i]=[B_0]+\sum_{i=1}^{n-1}(-1)^i\bigl([B_{i-1}]+[B_i]\bigr)+(-1)^n[B_{n-1}] $$
である。右辺で $[B_j]$($0\le j\le n-1$)は $i=j$ の項から係数 $(-1)^j$、$i=j+1$ の項から係数 $(-1)^{j+1}$ で現れる($j=0$ の $(-1)^0$ は先頭の $[B_0]$、$j=n-1$ の $(-1)^n$ は末尾の項と読む)ので、すべて打ち消し合って $0$ になる。
部分圏 $\mathcal{C}$ の場合は、$B_{n-1}=A_n$ が $\mathcal{C}$ に属し、$B_{i-1}$ は $\mathcal{C}$ の対象の間の全射 $A_i\to B_i$ の核なので、$i$ の大きい方から順に仮定を用いて $B_i$ がすべて $\mathcal{C}$ に属することがわかり、同じ計算が $K_0(\mathcal{C})$ で通用する。局所自由層の有限分解については、$\mathcal{F}$ を含めた列を $\mathrm{Coh}(X)$ の完全列とみて $G_0(X)$ で交代和を取ればよい。$\square$

連接層のEuler標数

$k$ を体、$X$ を $k$ 上の射影スキームとする。連接層 $\mathcal{F}$ のEuler標数
$$ \chi(\mathcal{F}):=\sum_{i\ge0}(-1)^i\dim_kH^i(X,\mathcal{F}) $$
は群準同型 $\chi\colon G_0(X)\to\mathbb{Z}$ を定める。

Serre の有限性定理(Har77 III 5.2)により各 $H^i(X,\mathcal{F})$ は有限次元であり、Grothendieck の消滅定理(Har77 III 2.7)により $i>\dim X$ で $H^i(X,\mathcal{F})=0$ なので $\chi(\mathcal{F})$ は有限和である。連接層の短完全列 $0\to\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''\to0$ は層コホモロジーの長完全列
$$ 0\to H^0(X,\mathcal{F}')\to H^0(X,\mathcal{F})\to H^0(X,\mathcal{F}'')\to H^1(X,\mathcal{F}')\to\cdots\to H^{d}(X,\mathcal{F}'')\to0 $$
($d=\dim X$)を与える。これは有限次元 $k$ ベクトル空間の有限完全列なので、prop-grothendieck-group-euler を $K_0(k)$ に適用し、prop-grothendieck-group-field の同型 $\dim_k$ で $\mathbb{Z}$ に送ると $\chi(\mathcal{F}')-\chi(\mathcal{F})+\chi(\mathcal{F}'')=0$ を得る。よって $\chi$ は $G_0(X)$ の関係を保つ。$\square$

同じ議論により、有限次元 Noether スキームの固有射 $f\colon X\to Y$ に対して $f_*[\mathcal{F}]:=\sum_{i\ge0}(-1)^i[R^if_*\mathcal{F}]$ は準同型 $f_*\colon G_0(X)\to G_0(Y)$ を定める($R^if_*\mathcal{F}$ の連接性は、射影射なら Har77 III 8.8、固有射一般は同 Remark 8.8.1 が引く EGA III 3.2.1)。$G_0$ は固有射に関して共変、$K_0$ は任意の射に関して反変であり、両者を結ぶ射影公式 $f_*(f^*(a)\cdot b)=a\cdot f_*(b)$ の証明は SGA6 IV に譲る。

正則スキームでの一致

正則スキームでのCartan写像

$X$ を、Noether 環上準射影的な正則スキーム(たとえば体上の非特異準射影多様体)とする。このとき Cartan 写像 $c\colon K_0(X)\to G_0(X)$ は同型である。逆写像は、連接層 $\mathcal{F}$ の有限階数局所自由層による有限な分解 $0\to E_m\to\cdots\to E_0\to\mathcal{F}\to0$ を用いて $[\mathcal{F}]\mapsto\sum_i(-1)^i[E_i]$ で与えられ、分解の取り方によらない。同様に、$R$ が正則 Noether 環なら $K_0(R)\to G_0(R)$ は同型である。

証明の筋と出典

証明は BS58 §4、SGA6 IV §2、Wei13 Chapter II §8 に譲る。筋は次のとおりである。準射影性から任意の連接層は局所自由層の商であり(Har77 II 5.18)、正則性から各局所環は有限な大域次元をもつ(Serre の定理、Mat89 Theorem 19.2)ので、局所自由層による分解を続けると、その核は各点の近傍で有限段目から局所自由になり、$X$ が準コンパクトなので有限階数局所自由層による有限な分解が存在する。2 つの分解が同じ類を与えることは、両者を支配する第 3 の分解を作って比較するか、写像錐を用いて示す。この逆写像が $c$ の両側逆であることは prop-grothendieck-group-euler による。準射影的でない正則スキームでは、「任意の連接層が局所自由層の商である」という性質(解消性)を仮定すれば同じ結論が得られる(SGA6 II)。非正則な場合に $c$ が同型でないことは ex-grothendieck-group-cartan-not-surjective で見た。

この定理により、非特異多様体では $G_0(X)$ にも環構造が入り、連接層の積は $[\mathcal{F}]\cdot[\mathcal{G}]=\sum_i(-1)^i[\mathcal{T}or_i^{\mathcal{O}_X}(\mathcal{F},\mathcal{G})]$ で表される(Tor関手、SGA6 IV)。

台の余次元によるフィルトレーション

台の余次元によるフィルトレーション

$X$ を有限次元の Noether スキームとする。整数 $i\ge0$ に対し、$G_0(X)$ の部分群 $F^iG_0(X)$ を、台(台(層))$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の余次元が $i$ 以上であるような連接層 $\mathcal{F}$ の類 $[\mathcal{F}]$ が生成する部分群として定める。
$$ G_0(X)=F^0G_0(X)\supset F^1G_0(X)\supset\cdots\supset F^{\dim X+1}G_0(X)=0 $$
は減少するフィルトレーションであり、位相的フィルトレーションまたは台の余次元によるフィルトレーションという。随伴次数付き群を $\operatorname{gr}^iG_0(X):=F^iG_0(X)/F^{i+1}G_0(X)$ と書く。

減少列であることは定義から明らかであり、$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の余次元が $\dim X$ を超えるのは $\mathcal{F}=0$ のときだけなので $F^{\dim X+1}G_0(X)=0$ である。$F^iG_0(X)$ は余次元 $i$ 以上の整な閉部分スキーム(整スキーム、閉部分スキーム)$V$ の類 $[\mathcal{O}_V]$ だけで生成される(連接層は、整な閉部分スキーム $Z$ 上のイデアル層の順像を商にもつ有限のフィルトレーションをもち、$[\mathcal{O}_Z]$ との差は台の次元がより小さい層の類なので、台の次元に関する帰納法による)。$X$ が体上の非特異準射影多様体のとき、$V\mapsto[\mathcal{O}_V]$ はChow群からの全射
$$ CH^i(X)\to\operatorname{gr}^iG_0(X) $$
を誘導し、$\operatorname{gr}^\bullet G_0(X)\otimes\mathbb{Q}\cong CH^\bullet(X)\otimes\mathbb{Q}$ である(Ful98 Example 15.1.5、15.3.6、SGA6 X)。有理係数で見れば、$K_0(X)$ の位相的フィルトレーションは Chow環の次数付けを復元する。これは Grothendieck がChern類の理論を $K$ 群の言葉で書き直した際の基本的な道具である(BS58)。$F^i\cdot F^j\subset F^{i+j}$ が成り立つかどうかは自明でなく、非特異準射影多様体では移動補題を経て成り立つ(Ful98 Example 15.1.5)。コホモロジー側の対応物が 余次元フィルトレーション である。

補足

$K_0(X)$ には外冪 $\lambda^i[E]:=[\wedge^iE]$ による λ環 の構造が入り、Chern 類・Chern 指標・Todd類はこの構造から作られる。Grothendieck–Riemann–Rochの定理は固有射 $f$ に対する $\operatorname{ch}(f_*a)\cdot\operatorname{td}(Y)=f_*(\operatorname{ch}(a)\cdot\operatorname{td}(X))$ という $K_0$ から Chow 環への公式である(BS58、SGA6、Ful98 Chapter 15)。$K_0$ に続く $K_1$、Milnor の $K_2$、Quillen の高次 $K$ 群については Mil71、Wei13 を、体の Milnor $K$ 群については Milnor K群 を参照。

関連項目

参考文献

[1]
Armand Borel, Jean-Pierre Serre, Le théorème de Riemann–Roch, Bulletin de la Société Mathématique de France 86, 1958, pp. 97–136(§4 の $K(X)$ の定義と非特異多様体での一致、Riemann–Roch の定理)
[2]
Pierre Berthelot, Alexander Grothendieck, Luc Illusie, Théorie des intersections et théorème de Riemann–Roch (SGA 6), Springer, Lecture Notes in Mathematics 225, 1971, Exposé II(解消性)、IV($K^\cdot$ と $K_\cdot$、Cartan 写像、射影公式、Tor による積)、X(位相的フィルトレーションと Chow 群)
[3]
Charles A. Weibel, The K-book: An Introduction to Algebraic K-theory, American Mathematical Society, Graduate Studies in Mathematics 145, 2013, Chapter II §1(モノイドの群化)、§2(環の $K_0$、Dedekind 整域)、§6($G_0$)、§8(スキームの $K_0$、正則スキーム、射影空間)
[4]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, Graduate Texts in Mathematics 52, 1977, II Ex. 6.10–6.11(Grothendieck 群、非特異曲線)、II 5.18、III 2.7、III 5.2、III 8.8(消滅・有限性・連接性)、III Ex. 5.4(射影空間)
[5]
William Fulton, Intersection Theory, Springer, Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete (3. Folge) 2, 1998, Chapter 15(Example 15.1.5 位相的フィルトレーションと Chow 群、Example 15.3.6 有理係数での同型、Grothendieck–Riemann–Roch)
[6]
Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, 1989, Theorem 2.5(局所環上の有限生成射影加群は自由)、Theorem 19.2(正則局所環の大域次元)
[7]
Serge Lang, Algebra, Springer, Graduate Texts in Mathematics 211, 2002, Chapter III §7(単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する