直線化と非直線化(straightening and unstraightening)とは、単体的集合 $S$ 上の右ファイブレーションと、$S$ から作る単体的圏 $\mathfrak C[S]$ 上の単体的集合値の反変関手とを行き来する Lurie の随伴関手の組 $\mathrm{St}_S\dashv\mathrm{Un}_S$ である。直線化定理によりこの随伴は反変モデル構造と射影モデル構造の Quillen 同値を与え、$S$ 上の右ファイブレーションの∞圏は空間値前層の∞圏 $\mathrm{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)$ と同値になる。前層と元の圏が対応する Grothendieck 構成の∞圏版であり、標識付きの版は Cartesian ファイブレーションと∞圏値の関手を対応させる。
前提知識: 左ファイブレーションと右ファイブレーション, 前層(∞圏), ホモトピー整合的脈体, 空間の∞圏
通常の圏 $\mathcal B$ の上の集合値の前層 $P\colon\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ は、その元の圏 $\int P\to\mathcal B$ という「$\mathcal B$ の上に載った圏」と同じ情報をもつ。関手を値の族と整合性で与える代わりに、射影の持ち上げの性質で与えるのである。∞圏では関手の値が空間や∞圏になり、合成の整合性が無限に続くホモトピーの列になるので、関手を直接書き下すのは難しい。一方、ファイブレーションは単体的集合の写像という具体的な対象である。
直線化と非直線化(straightening and unstraightening)は、単体的集合 $S$ の上の 左ファイブレーションと右ファイブレーション の右ファイブレーションと、$S$ から作る単体的圏 $\mathfrak C[S]$ 上の単体的前層とを結ぶ Lurie の随伴関手の組 $\mathrm{St}_S\dashv\mathrm{Un}_S$ である。直線化定理によりこの随伴は Quillen 同値であり、$S$ 上の右ファイブレーションの∞圏は空間値の前層の∞圏 $\operatorname{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)$(前層(∞圏))と同値になる。こうして∞圏の関手はファイブレーションとして扱える。なお、ベクトル場の流れを座標で真っすぐにする整流定理(ベクトル場の流れ)とは別の概念である。
この記事では、通常の圏での対応と、左ファイブレーションがホモトピー圏の上の関手を定めることを証明し、構成と直線化定理を述べる。
小さい圏の間の関手 $F\colon\mathcal E\to\mathcal B$ が 離散ファイブレーション(discrete fibration)であるとは、$\mathcal E$ のすべての対象 $x$ と、$\mathcal B$ のすべての射 $g\colon b\to F(x)$ について、$F(f)=g$ となる $\mathcal E$ の射 $f\colon x'\to x$ がただ 1 つあることをいう。$\mathcal B$ 上の離散ファイブレーションと、その間の $\mathcal B$ 上の関手($F'\circ G=F$ となる $G$)のなす圏を $\mathbf{DFib}(\mathcal B)$ と書く。
$f$ を $g$ の $x$ への持ち上げという。$\mathcal B$ の恒等射の持ち上げは恒等射に限るので、各対象 $b$ の上のファイバー($b$ の上の対象と、$\mathrm{id}_b$ の上の射のなす部分圏)は離散的な圏、つまり集合である。左ファイブレーションと右ファイブレーション の定義「亜群でファイバー付けられた圏」と比べると、離散ファイブレーションとはファイバーが離散的な、亜群でファイバー付けられた圏である。
前層 $P\colon\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ の元の圏 $\int P$ は、対象を組 $(b,x)$($x\in P(b)$)、$(b',x')$ から $(b,x)$ への射を $P(g)(x)=x'$ を満たす $\mathcal B$ の射 $g\colon b'\to b$ とする圏であり、射影 $\pi_P\colon\int P\to\mathcal B$ をもつ(左ファイブレーションと右ファイブレーション の例「前層の元の圏」)。自然変換 $\alpha\colon P\to P'$ は $\mathcal B$ 上の関手 $\int\alpha\colon(b,x)\mapsto(b,\alpha_b(x))$ を定める。
小さい圏 $\mathcal B$ について、$P\mapsto(\pi_P\colon\int P\to\mathcal B)$ は圏同値
$$
{\textstyle\int}\colon\operatorname{Fun}(\mathcal B^{\mathrm{op}},\mathbf{Set})\xrightarrow{\ \simeq\ }\mathbf{DFib}(\mathcal B)
$$
を与える。準逆は、離散ファイブレーション $F\colon\mathcal E\to\mathcal B$ に、$b$ の上の対象の集合 $P_F(b)$ と、射 $g\colon b'\to b$ について「$x\in P_F(b)$ に $g$ の $x$ への持ち上げの始点を対応させる写像」$P_F(g)$ からなる前層を対応させる。
要点:持ち上げの一意性から、元の圏が離散ファイブレーションであること、関手 $\int$ が充満忠実であること、離散ファイブレーションが持ち上げの始点で前層 $P_F$ を定め $\int P_F$ と同型になることが順に従う。
$\int P$ は離散ファイブレーション。 $(b,x)$ と $g\colon b'\to b$ について、$g$ の上の $(b,x)$ への射の始点は $(b',P(g)(x))$ に限られ、射は $g$ そのものなので、持ち上げはただ 1 つである。$\int\alpha$ が射を射に送ることは、$\alpha$ の自然性 $P'(g)(\alpha_b(x))=\alpha_{b'}(P(g)(x))$ による。
充満忠実。 $\mathcal B$ 上の関手 $G\colon\int P\to\int P'$ は、対象を $G(b,x)=(b,\alpha_b(x))$ の形に送り、写像 $\alpha_b\colon P(b)\to P'(b)$ を定める。$g\colon(b',x')\to(b,x)$ は $\mathcal B$ の同じ射 $g$ の上の射 $(b',\alpha_{b'}(x'))\to(b,\alpha_b(x))$ に送られるので $P'(g)(\alpha_b(x))=\alpha_{b'}(x')=\alpha_{b'}(P(g)(x))$ であり、$\alpha$ は自然変換である。$\int P'$ の射は $\mathcal B$ の射とその両端で決まるので $G=\int\alpha$ であり、$\alpha$ は $G$ から一意に決まる。
本質的全射。 離散ファイブレーション $F$ について、$P_F$ が前層であることを確かめる。$\mathrm{id}_x$ は $\mathrm{id}_b$ の持ち上げなので $P_F(\mathrm{id}_b)=\mathrm{id}$ である。$g\colon b'\to b$、$h\colon b''\to b'$ と $x\in P_F(b)$ について、$g$ の $x$ への持ち上げ $f\colon x'\to x$ と $h$ の $x'$ への持ち上げ $f'$ の合成 $f\circ f'$ は $g\circ h$ の $x$ への持ち上げなので、一意性から $P_F(g\circ h)=P_F(h)\circ P_F(g)$ である。関手 $\Phi\colon\int P_F\to\mathcal E$ を、対象 $(b,x)\mapsto x$、射 $g\colon(b',x')\to(b,x)$ を $g$ の $x$ への持ち上げ(始点は $P_F(g)(x)=x'$)に送るものとして定める。合成は持ち上げの一意性で保たれ、$F\circ\Phi=\pi_{P_F}$ である。$\Phi$ は対象について全単射($x$ から $b=F(x)$ が決まる)であり、$\mathcal E$ の射 $f\colon x'\to x$ はちょうど $F(f)$ の $x$ への持ち上げなので、射についても全単射である。よって $\Phi$ は $\mathcal B$ 上の同型である。$\square$
$\mathcal B$ の対象が 1 つで射が群 $G$ のとき、前層は右 $G$ 集合 $Y$ であり、$\int Y$ はその作用亜群(対象 $Y$、$y\cdot g\to y$ を射とする圏)である。値を集合から圏に替えると、圏値の関手 $\mathcal B^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Cat}$ と Grothendieck のファイバー付き圏の対応になる(Grothendieck構成、Cartesianファイブレーション の例「関手の Grothendieck 構成」)。
∞圏では、ファイバーの間の写像は厳密には決まらず、ホモトピーを除いて決まる。この節では左ファイブレーションの場合にそれを確かめる。記号は 左ファイブレーションと右ファイブレーション の節「相対指数とホモトピー持ち上げ」に従い、$p\colon X\to S$ と頂点 $s$ について $X_s=X\times_S\{s\}$ をファイバーとする。
$p\colon X\to S$ を左ファイブレーション、$n\ge1$、$\sigma\colon\Delta^n\to S$ を $n$ 単体、$A$ を単体的集合、$g\colon A\to X_{\sigma(0)}$ を写像とする。$H|_{A\times\{0\}}=g$ かつ $p\circ H=\sigma\circ\mathrm{pr}_2$ となる写像 $H\colon A\times\Delta^n\to X$ を $(g,\sigma)$ の持ち上げという。
$\{n\}\subset\Delta^n$ は右アノダインであり(右アノダイン射 の系「錐点と最後の頂点」)、頂点の順序を反転すると $\{0\}\subset\Delta^n$ は左アノダインである。左ファイブレーションと右ファイブレーション の命題「相対指数」の 2 により、制限と $p$ との合成が定める
$$
r\colon X^{\Delta^n}\to X\times_SS^{\Delta^n}
$$
は自明 Kan ファイブレーションである。写像 $A\to X^{\Delta^n}$ は写像 $A\times\Delta^n\to X$ と同じであり、$(g,\sigma)$ の持ち上げは、$r$ との合成が $u=(g,c_\sigma)\colon A\to X\times_SS^{\Delta^n}$($c_\sigma$ は頂点 $\sigma\in S^{\Delta^n}$ への定値写像)になる写像 $A\to X^{\Delta^n}$ にほかならない。
1:自明 Kan ファイブレーションはすべての単射に対して右持ち上げ性質をもつ(Kan–Quillenモデル構造 の系「単射とアノダイン拡大の特徴づけ」の 1)ので、$\emptyset\subset A$ に対して $u$ が持ち上がる。
2:$H,H'$ は $A\times\partial\Delta^1\to X^{\Delta^n}$ を定め、これは $u\circ\mathrm{pr}_1\colon A\times\Delta^1\to X\times_SS^{\Delta^n}$ の上にある。単射 $A\times\partial\Delta^1\subset A\times\Delta^1$ に対する持ち上げで $\Theta\colon A\times\Delta^1\times\Delta^n\to X$ を得る。$p\circ\Theta=\sigma\circ\mathrm{pr}_3$ なので、$\Theta$ を $A\times\Delta^1\times\{n\}$ に制限すると $X_{\sigma(n)}$ に値をとる求めるホモトピーになる。$\square$
ファイバー $X_s\to\Delta^0$ は左ファイブレーションの引き戻しなので左ファイブレーションであり、左ファイブレーションと右ファイブレーション の定理「Kan 複体の上の右ファイブレーション」により Kan ファイブレーション、つまり $X_s$ は Kan複体 である。Kan 複体 $K$ への写像 $f,f'\colon A\to K$ について「$f$ から $f'$ へのホモトピー $A\times\Delta^1\to K$ がある」という関係は同値関係である。実際、同じ命題「相対指数」の 1 により $K^A\to\Delta^0$ は左ファイブレーション、したがって $K^A$ は Kan 複体であり、ホモトピーは $K^A$ の辺である。Kan 複体のホモトピー圏は亜群なので(∞圏のホモトピー圏 の例「Kan複体の基本亜群」)、辺で結ばれることは同値関係になる。ホモトピー類を $[A,K]$ と書き、Kan 複体を対象、$[A,K]$ を射とする圏を $\mathcal H$ とする。
$S$ の辺 $e\colon s\to s'$ について、$(\mathrm{id}_{X_s},e)$ の持ち上げ $h_e$ を 1 つ選び、$e_!=h_e|_{X_s\times\{1\}}\colon X_s\to X_{s'}$ とおく。これを $e$ に沿った輸送という。lem-st-lift の 2 により、類 $[e_!]$ は選び方によらない。さらに、任意の $g\colon A\to X_s$ について $h_e\circ(g\times\mathrm{id})$ は $(g,e)$ の持ち上げなので、
$$
(g,e)\text{ の任意の持ち上げ }H\text{ について}\quad H|_{A\times\{1\}}\simeq e_!\circ g
\qquad(\ast)
$$
が成り立つ。
恒等射。 頂点 $s$ の退化した辺 $\mathrm{id}_s$ について、包含と射影の合成 $X_s\times\Delta^1\to X_s\subset X$ は $(\mathrm{id}_{X_s},\mathrm{id}_s)$ の持ち上げなので、$(\mathrm{id}_s)_!\simeq\mathrm{id}_{X_s}$ である。
2 単体の関係。 $\sigma\colon\Delta^2\to S$ を $2$ 単体とし、辺を $e=\sigma|_{\{0,1\}}\colon s_0\to s_1$、$e'=\sigma|_{\{1,2\}}$、$e''=\sigma|_{\{0,2\}}$ とする。lem-st-lift の 1 により $(\mathrm{id}_{X_{s_0}},\sigma)$ の持ち上げ $H\colon X_{s_0}\times\Delta^2\to X$ がある。$H_i=H|_{X_{s_0}\times\{i\}}$ とおく。
$hS$ の上で定まること。 ∞圏のホモトピー圏 の定義「2単体によるホモトピー」により、辺 $e,\tilde e\colon s\to s'$ が同じ射を表すのは、$d_2\sigma=e$、$d_0\sigma=\mathrm{id}_{s'}$、$d_1\sigma=\tilde e$ となる $2$ 単体 $\sigma$ があるときである。上の 2 つの段から $[\tilde e_!]=[(\mathrm{id}_{s'})_!]\circ[e_!]=[e_!]$ となり、$T_p$ は射の上で定まる。$hS$ の合成は $d_2\sigma=e$、$d_0\sigma=e'$ となる $2$ 単体の $d_1\sigma$ の類で与えられるので(同記事の命題「合成は代表と2単体の選び方によらない」)、2 単体の関係は $T_p$ が合成を保つことを意味する。右ファイブレーションについては、lem-st-lift の持ち上げを最後の頂点 $\{n\}$ で指定するものに替えれば、$\{n\}\subset\Delta^n$ が右アノダインであることと命題「相対指数」の右ファイブレーションの場合から同じ議論が通り、輸送の向きが逆になる。$\square$
$T_p$ は輸送をホモトピー類としてしか覚えていない。直線化は、この関手を、ホモトピーの間のホモトピーまで含めた∞圏の関手 $S\to\mathcal S$ として取り出す操作である。ホモトピー類だけでは情報が足りないことは ex-st-hopf で見る。
構成は右ファイブレーション(反変な関手)について述べる。単体的集合 $S$ に対し、$\mathfrak C[S]$ はホモトピー整合的脈体の左随伴が与える単体的圏である(ホモトピー整合的脈体 の定義「単体的集合から生成される単体的豊穣圏」)。$\mathcal C$ を単体的圏、$\varphi\colon\mathfrak C[S]\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ を単体的関手とし、単体的関手 $\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ の圏を $\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ と書く。
$S$ 上の単体的集合 $X\to S$ について、右錐 $X^{\triangleright}=X\star\Delta^0$ の錐点を $v$ とし、押し出しの単体的圏
$$
\mathcal M=\mathfrak C[X^{\triangleright}]\amalg_{\mathfrak C[X]}\mathcal C^{\mathrm{op}}
$$
を作る($\mathfrak C[X]\to\mathcal C^{\mathrm{op}}$ は $\mathfrak C[X]\to\mathfrak C[S]$ と $\varphi$ の合成)。単体的関手
$$
\mathrm{St}_\varphi X\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet},\qquad(\mathrm{St}_\varphi X)(C)=\operatorname{Map}_{\mathcal M}(C,v)
$$
を $X$ の 直線化(straightening)という。$X\mapsto\mathrm{St}_\varphi X$ は関手 $\mathrm{St}_\varphi\colon\mathbf{sSet}_{/S}\to\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ をなし、右随伴 $\mathrm{Un}_\varphi$ をもつ。$\mathrm{Un}_\varphi$ を 非直線化(unstraightening)という(HTT09 §2.2.1、pp. 73–74)。$\mathcal C=\mathfrak C[S]^{\mathrm{op}}$、$\varphi=\mathrm{id}$ のとき $\mathrm{St}_S$、$\mathrm{Un}_S$ と書く。
$X$ の頂点 $x$ が $s=p(x)$ の上にあれば、錐の辺 $x\to v$ が $(\mathrm{St}_\varphi X)(\varphi(s))$ の頂点を与える。$(\mathrm{St}_SX)(s)$ は「$s$ の上の $X$ の点」を、$S$ の射に沿って整合的に動かせる形にまとめたものである。
単体的関手 $F\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ について、$\mathrm{Un}_\varphi F$ の $n$ 単体は、$S$ の $n$ 単体 $\sigma$ と、自然変換 $\eta\colon\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to F$ の組 $(\sigma,\eta)$ と、$[n]$ について自然に 1 対 1 に対応し、$S$ への射影は $(\sigma,\eta)\mapsto\sigma$ である。ここで $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)$ は $\sigma\colon\Delta^n\to S$ を $S$ 上の単体的集合とみたものの直線化である。とくに、値がすべて $\Delta^0$ の関手 $\ast$ について、射影 $\mathrm{Un}_\varphi(\ast)\to S$ は同型である。
米田の補題により、$\mathrm{Un}_\varphi F$ の $n$ 単体で $\sigma$ の上にあるものは、$S$ 上の写像 $(\Delta^n,\sigma)\to\mathrm{Un}_\varphi F$ と 1 対 1 に対応する。随伴により、これは自然変換 $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to F$ と 1 対 1 に対応し、対応は $\Delta^n$ についての随伴の自然性により面・退化と両立する。$F=\ast$ なら自然変換 $\mathrm{St}_\varphi(\sigma)\to\ast$ はただ 1 つなので、各 $\sigma$ の上の $n$ 単体はただ 1 つである。$\square$
底が一点 $S=\Delta^0$ のときは、直線化は余単体的単体的集合 $Q^\bullet$ による実現 $K\mapsto\lvert K\rvert_{Q^\bullet}$ になり、各 $Q^n$ は弱可縮で、自然な写像 $\lvert K\rvert_{Q^\bullet}\to K$ は弱ホモトピー同値である(HTT09 §2.2.2 と Proposition 2.2.2.7、pp. 76–77)。その右随伴を $\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}$ と書くと、$S$ の頂点 $s$ の上のファイバーについて同型 $(\mathrm{Un}_\varphi F)\times_S\{s\}\cong\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}F(\varphi(s))$ があり、$F(\varphi(s))$ が Kan 複体なら標準的な写像 $F(\varphi(s))\to(\mathrm{Un}_\varphi F)_s$ はホモトピー同値である(同 Remark 2.2.2.11、p. 77)。つまり非直線化のファイバーは、関手の値そのものである。
Kan 複体 $K$ について、値がすべて $K$ の定値関手 $\underline K\colon\mathcal C\to\mathbf{sSet}$ の非直線化は、$S$ 上で積 $S\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K\to S$ と同型であり、そのファイバーはすべて $K$ とホモトピー同値である。定値関手には、自明なファイブレーションが対応する。
単体的圏の組と関手の外部積について $\mathrm{Un}_{\varphi\boxtimes\varphi'}(F\boxtimes F')\cong\mathrm{Un}_\varphi(F)\times\mathrm{Un}_{\varphi'}(F')$ が成り立ち、$\varphi'$ を $\mathfrak C[\Delta^0]$ の恒等写像とすると $\mathrm{Un}_\varphi(F\boxtimes K)\cong\mathrm{Un}_\varphi(F)\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ となる(HTT09 Remark 2.2.2.12、p. 78)。ここで $F\boxtimes K$ は $C\mapsto F(C)\times K$ である。$F=\ast$ とすると $\ast\boxtimes K=\underline K$ なので、prop-st-un-simplices の $\mathrm{Un}_\varphi(\ast)\cong S$ から主張の同型を得る。ファイバーについては上の Remark 2.2.2.11 による。$\square$
$\mathbf{sSet}_{/S}$ の反変モデル構造は、コファイブレーションが単射で、ファイブラントな対象がちょうど右ファイブレーション $X\to S$ であるモデル構造である(HTT09 §2.1.4 と Corollary 2.2.3.12、p. 85)。$\mathbf{sSet}^{\mathcal C}$ の射影モデル構造は、弱同値とファイブレーションを対象ごとに Kan–Quillen の意味で定めるモデル構造である(同 §A.3.3。Kan–Quillenモデル構造)。
$S$ 上の右ファイブレーションの間の写像が反変モデル構造の弱同値であることは、各頂点の上のファイバーの間でホモトピー同値であることと同値である(HTT09 Corollary 2.2.3.13、p. 86)。$\varphi=\mathrm{id}$ に定理を当て、両ファイブラントな対象の単体的圏の脈体をとると、∞圏の同値
$$
\operatorname{Fun}(S^{\mathrm{op}},\mathcal S)\simeq\bigl(S\text{ 上の右ファイブレーションの∞圏}\bigr)
$$
を得る(同 Proposition 5.1.1.1、pp. 316–317)。左ファイブレーションは反対単体的集合に移して関手 $S\to\mathcal S$ と対応する。すべての左ファイブレーション $X\to S$($X$ と $S$ は小さい)は、ある写像 $S\to\mathcal S$ に沿った、一点を始点とする余スライス $\mathcal S_{\ast/}\to\mathcal S$ の引き戻しと同値である(同 Corollary 3.3.2.8、p. 213)。このとき $X$ の $s$ の上のファイバーは、$s$ の像の空間 $K$ からなる $\operatorname{Map}_{\mathcal S}(\ast,K)$ と同値であり、これは $K$ と同値である(左ファイブレーションと右ファイブレーション の例「スライスのファイバーと写像空間」を反対に移したものと、空間の∞圏 の命題「一点からの写像空間とホモトピー圏」)。
同じ構成を標識付き単体的集合で行うと、Cartesianファイブレーション と∞圏値の関手の対応が得られる。
直線化は∞圏論の多くの基本定理の土台である。表現可能な前層 $\operatorname{Map}_{\mathcal C}(-,c)$ に対応するのはスライス $\mathcal C_{/c}\to\mathcal C$ であり、一般に右ファイブレーションの全空間が終対象をもつことと、それを分類する前層が表現可能であることは同値である(HTT09 Proposition 4.4.4.5、p. 300。米田の補題(∞圏))。随伴の存在をファイブレーションの引き戻しで判定する基準(同 Proposition 5.2.4.2、pp. 350–351)もこの対応を通して前層の表現可能性に言い換えられ、表示可能∞圏 の随伴関手定理に使われる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-st-discrete の「持ち上げがただ 1 つ」 | 2 対象が同型で結ばれた亜群 $I$ から一点の圏への関手 | 集合値の前層の元の圏と同型であること |
| thm-st-transport の「左ファイブレーション」 | 包含 $\{0\}\subset\Delta^1$ | 辺 $0\to1$ に沿った輸送 $X_0\to X_1$ があること |
| thm-st-main の 2 の「$\varphi$ が同値」 | $S=\Delta^1$、$\mathcal C$ は一点の単体的圏、$\varphi$ は唯一の関手 | $(\mathrm{St}_\varphi,\mathrm{Un}_\varphi)$ が Quillen 同値であること |
1 行目:$I$ の対象を $x,y$ とし、射は恒等射と互いに逆な同型 $x\to y$、$y\to x$ とする。$x$ への $\mathrm{id}$ の持ち上げとして $\mathrm{id}_x$ と $y\to x$ の 2 つがあるので、離散ファイブレーションでない。元の圏 $\int P\to[0]$ のファイバーには恒等射しかないので、ファイバー $I$ をもつ関手はそれと同型にならない。一方 $N(I)$ は Kan 複体で、$N(I)\to\Delta^0$ は右ファイブレーションである(左ファイブレーションと右ファイブレーション の定理「脈体が右ファイブレーションになる条件」)。ファイバーが集合でない対象には、空間に値をとる前層が要る。
2 行目:$p\colon\{0\}\subset\Delta^1$ は右ファイブレーションだが左ファイブレーションでない(左ファイブレーションと右ファイブレーション の反例の表の 2 行目)。ファイバーは $X_0=\Delta^0$、$X_1=\emptyset$ であり、写像 $\Delta^0\to\emptyset$ はない。
3 行目:$\mathcal C=\mathfrak C[\Delta^0]$ とすると $\mathbf{sSet}^{\mathcal C}=\mathbf{sSet}$ である。$\pi\colon\mathfrak C[\Delta^1]^{\mathrm{op}}\to\mathcal C$ を唯一の関手とすると $\varphi=\pi^{\mathrm{op}}$ であり、直線化の関手性 $\mathrm{St}_{\pi^{\mathrm{op}}}\cong\pi_!\circ\mathrm{St}_{\Delta^1}$(HTT09 Proposition 2.2.1.1 の (2)、p. 74)の右随伴をとると $\mathrm{Un}_\varphi(K)\cong\mathrm{Un}_{\Delta^1}(\underline K)$ である。ex-st-constant によりこれは $\Delta^1\times\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ と同型で、頂点 $0$ と $1$ の上のファイバーはどちらも $\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K$ である。Quillen 同値なら、右ファイブレーション $Y=(\{0\}\subset\Delta^1)$(両ファイブラント)はある Kan 複体 $K$ について $\mathrm{Un}_\varphi(K)$ とホモトピー圏で同型であり、両ファイブラントな対象の間の同型は弱同値な写像 $Y\to\mathrm{Un}_\varphi(K)$ で実現される。HTT09 Corollary 2.2.3.13 によりこれはファイバーごとのホモトピー同値なので、$\Delta^0\simeq\operatorname{Sing}_{Q^\bullet}K\simeq\emptyset$ となり矛盾する。$\varphi$ は 2 対象の $\mathfrak C[\Delta^1]$ を 1 対象の圏に送り、ホモトピー圏 $[1]$ と $[0]$ が同値でないので、単体的圏の同値でない。$\square$
Hopfファイブレーション $h\colon S^3\to S^2$ と射影 $q\colon S^2\times S^1\to S^2$ の特異単体的集合をとり、$p=\operatorname{Sing}h$、$p'=\operatorname{Sing}q$ を $S=\operatorname{Sing}S^2$ の上の写像とする。$p,p'$ は左ファイブレーションで、thm-st-transport の輸送関手は $T_p\cong T_{p'}$ を満たすが、$p$ と $p'$ を結ぶ $S$ 上の弱同値はない。
要点:ファイバー束なので Kan ファイブレーションになり、$S^2$ が単連結なので輸送関手はファイバーだけで決まる。一方、全空間の $\pi_2$ が $0$ と $\mathbb Z$ で異なる。
$h$ は Hopfファイブレーション の定理「Hopf ファイブレーションは円周束」によりファイバー束であり、$q$ も自明なファイバー束なので、どちらも Serre ファイブレーションである(Serreファイブレーション の定理「ファイバー束は Serre ファイブレーション」)。Kanファイブレーション の定理「Serre ファイブレーションの特異単体的集合」により $p,p'$ は Kan ファイブレーションであり、したがって左ファイブレーションである(左ファイブレーションと右ファイブレーション の命題「基本性質」の 2)。$S$ は Kan 複体なので∞圏である。
$S^2$ は単連結なので、$hS$(基本亜群)では任意の 2 対象の間の射がただ 1 つである。どちらのファイバーも $\operatorname{Sing}S^1$ と同型なので、頂点 $s_0$ を固定して $\mathcal H$ での同型 $a\colon T_p(s_0)\to T_{p'}(s_0)$ を選び、各 $s$ について $s_0$ から $s$ へのただ 1 つの射 $\gamma$ を使って $a_s=T_{p'}(\gamma)\circ a\circ T_p(\gamma)^{-1}$ とおくと、射がただ 1 つであることから $a_s$ は自然であり、$T_p\cong T_{p'}$ である。
一方、$S$ 上の写像 $f\colon\operatorname{Sing}S^3\to\operatorname{Sing}(S^2\times S^1)$ が左ファイブレーションの間の弱同値(共変モデル構造の弱同値)なら、HTT09 Corollary 2.2.3.13 を反対単体的集合に移したものによりファイバーごとのホモトピー同値であり、2 つの Kan ファイブレーションのホモトピー群の長完全列を $f$ で比べると、5 項補題により $f$ は $\pi_2$ の同型を導く。ところが 球面のホモトピー群 の命題「消滅域と対角線」により $\pi_2(S^3)=0$、$\pi_2(S^2\times S^1)\cong\pi_2(S^2)\times\pi_2(S^1)\cong\mathbb Z$ なので、そのような $f$ はない。逆向きの $S$ 上の写像についても、同じ議論で弱同値でないことが分かる。$T_p$ は輸送をホモトピー類としてしか見ないので、ファイバーを $S^2$ の上で回す高次の情報(Hopf 束のねじれ)を失っている。$\square$
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