レゾルベント(resolvent)とは、複素 Banach 空間上の線形作用素 $A$ と複素数 $\lambda$ について、$\lambda-A$ が全単射で逆が有界になるときの逆作用素 $R(\lambda,A)=(\lambda-A)^{-1}$ のことである。そのような $\lambda$ の集合(レゾルベント集合)は開集合で、レゾルベントはその上で $\lambda$ の正則関数であり、レゾルベント恒等式 $R(\lambda,A)-R(\mu,A)=(\mu-\lambda)R(\lambda,A)R(\mu,A)$ をみたす。一つのレゾルベントのスペクトルから $A$ のスペクトルが読み取れ、レゾルベントがコンパクトならスペクトルは有限次元の固有空間をもつ孤立した固有値だけからなる。微分作用素など有界でない作用素を調べる基本の道具である。
レゾルベント(resolvent)とは、複素 Banach 空間 $X$ 上の線形作用素 $A$ と複素数 $\lambda$ について、$\lambda-A$ が有界な逆をもつときの逆作用素 $R(\lambda,A)=(\lambda-A)^{-1}$ のことである。行列 $A$ なら、$(\lambda I-A)^{-1}$ の成分は $\lambda$ の有理関数で、固有値のところにだけ極をもつ。無限次元の空間では、逆が存在しない $\lambda$ の集合(スペクトル)は固有値だけからなるとは限らない。それでも、逆が存在する $\lambda$ の集合は開集合で、その上でレゾルベントは $\lambda$ の正則関数になる。
微分作用素のように有界でない作用素 $A$ でも、レゾルベントは $X$ 全体で定義された有界作用素である。そのため $A$ を直接扱う代わりに、レゾルベントを調べることが多い。たとえば縮小半群の生成作用素のレゾルベントは、半群の Laplace 変換として表される(Hille–吉田の定理)。また、レゾルベントがコンパクトな作用素のスペクトルは、行列と同じように、離れて並ぶ固有値だけからなる。
この記事では、レゾルベント恒等式、Neumann 級数による展開と正則性を証明し、一つのレゾルベントのスペクトルから $A$ のスペクトルを読む対応を示す。その応用として、コンパクトなレゾルベントをもつ作用素のスペクトルを決める。
以下、$X\ne\{0\}$ は $\mathbb C$ 上の Banach空間、$L(X)$ は $X$ 上の有界線形作用素の全体に作用素ノルムを入れた Banach 空間、$I$ は恒等作用素とする。$X$ の部分空間 $D(A)$ を定義域とする線形写像 $A\colon D(A)\to X$ を、$X$ 上の 線形作用素 という。$\lambda\in\mathbb C$ について、$\lambda-A$ は $D(A)$ 上の写像 $x\mapsto\lambda x-Ax$ を表す。
$A$ を $X$ 上の線形作用素とする。
$R(\lambda,A)$ の像は $D(A)$ であり、
$$
(\lambda-A)R(\lambda,A)y=y\quad(y\in X),\qquad R(\lambda,A)(\lambda-A)x=x\quad(x\in D(A))
$$
が成り立つ。固有値 $\lambda$ では $\lambda-A$ が単射でないので、$\sigma_p(A)\subset\sigma(A)$ である。$X$ が有限次元で $D(A)=X$ なら、線形写像はすべて有界で、単射と全射は同値なので、$\sigma(A)=\sigma_p(A)$ は $A$ の固有値の全体である。$A$ が明らかなときは $R(\lambda,A)$ を $R(\lambda)$ と略す。
文献によっては $(A-\lambda)^{-1}=-R(\lambda,A)$ をレゾルベントと呼び、$R_A(\lambda)$ と書く(Tes09 (2.68)、p. 74)。符号が変わるだけなので、この記事の公式も符号を付け替えればそのまま成り立つ。
閉グラフ定理 の記事の定義「閉作用素」のとおり、$A$ のグラフ $\{(x,Ax)\mid x\in D(A)\}$ が $X\times X$ の閉集合であるとき、$A$ を閉作用素という。
$A$ を $X$ 上の線形作用素とする。
要点:1 はグラフの収束列を有界な $R(\lambda,A)$ で引き戻して示し、2 は逆写像のグラフが閉じていることに閉グラフ定理を使う。
1:$\lambda\in\rho(A)$ とし、$R:=R(\lambda,A)$ とおく。$x_n\in D(A)$、$x_n\to x$、$Ax_n\to z$ とする。$y_n:=(\lambda-A)x_n$ は $\lambda x-z$ に収束し、$R$ は有界なので $x_n=Ry_n\to R(\lambda x-z)$ である。極限の一意性から $x=R(\lambda x-z)\in D(A)$ で、$(\lambda-A)x=\lambda x-z$、すなわち $Ax=z$ である。よって $A$ のグラフは閉じている。
2:$\lambda-A$ のグラフ $\{(x,\lambda x-Ax)\}$ は、$A$ のグラフを $X\times X$ の線形同相写像 $(x,y)\mapsto(x,\lambda x-y)$ で写したものなので閉じている。逆写像 $S\colon X\to X$ のグラフ $\{(y,Sy)\}$ は、$\lambda-A$ のグラフの二つの成分を入れ替えたものなので、やはり閉じている。$S$ は $X$ 全体で定義された線形写像だから、閉グラフ定理 の定理「閉グラフ定理」により有界である。$\square$
したがって、レゾルベントを考える意味があるのは閉作用素であり、閉作用素では「$\lambda-A$ が全単射であること」がそのまま $\lambda\in\rho(A)$ の判定になる(Tes09 §2.4、p. 73 も同じ注意を述べている)。有界作用素 $A\in L(X)$ は閉作用素である。
$A$ を $X$ 上の線形作用素、$\lambda,\mu\in\rho(A)$ とする。
要点:$x=R(\mu)y$ に $\lambda-A=(\mu-A)+(\lambda-\mu)$ を施してから $R(\lambda)$ を掛ける。
1:$y\in X$ をとり、$x:=R(\mu)y\in D(A)$ とおく。$(\lambda-A)x=(\mu-A)x+(\lambda-\mu)x=y+(\lambda-\mu)R(\mu)y$ である。両辺に $R(\lambda)$ を施すと$$R(\mu)y=x=R(\lambda)y+(\lambda-\mu)R(\lambda)R(\mu)y$$となり、1 を得る。
2:1 で $\lambda$ と $\mu$ を入れ替えると $R(\mu)-R(\lambda)=(\lambda-\mu)R(\mu)R(\lambda)$ である。1 の式と足すと $(\mu-\lambda)\bigl(R(\lambda)R(\mu)-R(\mu)R(\lambda)\bigr)=0$ なので、$\lambda\ne\mu$ なら $R(\lambda)R(\mu)=R(\mu)R(\lambda)$ である。$\lambda=\mu$ なら明らかである。
3:$y\in X$ について $x:=R(\lambda)y\in D(A)$ とおくと、$Bx\in D(A)$ かつ $(\lambda-A)Bx=B(\lambda-A)x=By$ なので、$Bx=R(\lambda)By$ である。$\square$
1 を レゾルベント恒等式(第一レゾルベント公式)という(Tes09 (2.81)、p. 75。そこでは $(A-z)^{-1}$ の形で書かれている)。以下の証明の多くはこの式から出る。
有界な摂動についても同じ形の式がある。$B\in L(X)$ なら $A+B$(定義域 $D(A)$)について、$\lambda\in\rho(A)\cap\rho(A+B)$ のとき
$$
R(\lambda,A+B)-R(\lambda,A)=R(\lambda,A+B)\,B\,R(\lambda,A)
$$
が成り立つ(第二レゾルベント公式)。実際、$y\in X$ と $x:=R(\lambda,A)y$ について $(\lambda-A-B)x=y-Bx$ なので、$x=R(\lambda,A+B)(y-BR(\lambda,A)y)$ である。
Banach代数 の記事の命題「Neumann 級数」を Banach 代数 $L(X)$ に使うと、$\|T\|<1$ をみたす $T\in L(X)$ について $I-T$ は可逆で、$(I-T)^{-1}=\sum_{n\ge0}T^n$(作用素ノルムで収束)である。
$A$ を $X$ 上の線形作用素、$\lambda_0\in\rho(A)$、$R_0:=R(\lambda_0,A)$ とする。
1:$\delta:=\lambda-\lambda_0$ とおく。$\|\delta R_0\|<1$ なので、$C:=I+\delta R_0$ は $L(X)$ で可逆で、$C^{-1}=\sum_{n\ge0}(-\delta)^nR_0^{\,n}$ である。$x\in D(A)$ について
$$
C(\lambda_0-A)x=(\lambda_0-A)x+\delta R_0(\lambda_0-A)x=(\lambda_0-A)x+\delta x=(\lambda-A)x
$$
なので、$D(A)$ の上で $\lambda-A=C(\lambda_0-A)$ である。$\lambda_0-A\colon D(A)\to X$ と $C\colon X\to X$ はどちらも全単射なので、$\lambda-A$ も全単射で、逆写像は $R_0C^{-1}$ である。これは有界作用素の積なので有界で、$\lambda\in\rho(A)$ となる。さらに
$$
R(\lambda,A)=R_0C^{-1}=\sum_{n\ge0}(-\delta)^nR_0^{\,n+1}=\sum_{n\ge0}(\lambda_0-\lambda)^nR_0^{\,n+1}
$$
で、各項のノルムは $\|R_0\|\,(|\delta|\,\|R_0\|)^n$ 以下だから絶対収束する。
2:$X\ne\{0\}$ なので $R_0\ne0$ である。1 により、$\lambda_0$ を中心とする半径 $1/\|R_0\|$ の開円板は $\rho(A)$ に含まれる。よって $\rho(A)$ は開集合で、$\operatorname{dist}(\lambda_0,\sigma(A))\ge1/\|R_0\|$、すなわち $\|R_0\|\ge1/\operatorname{dist}(\lambda_0,\sigma(A))$ である。
3:1 の級数から、$|\delta|\,\|R_0\|<1/2$ のとき
$$
\|R(\lambda)-R_0\|\le\sum_{n\ge1}|\delta|^n\|R_0\|^{n+1}\le2|\delta|\,\|R_0\|^2
$$
なので、$R$ は $\lambda_0$ で連続である。thm-res-identity の 1 により、$\lambda\ne\lambda_0$ なら
$$
\frac{R(\lambda)-R(\lambda_0)}{\lambda-\lambda_0}=-R(\lambda)R(\lambda_0)\ \longrightarrow\ -R(\lambda_0)^2\qquad(\lambda\to\lambda_0)
$$
である。よって $R$ は複素微分可能で、$R'=-R^2$ である。次に、$n\ge1$ について $R^{n}$ が微分可能で $(R^n)'=-nR^{n+1}$ であることを示す。
$$
R(\lambda)^{n}-R(\lambda_0)^{n}=\sum_{j=0}^{n-1}R(\lambda)^{j}\bigl(R(\lambda)-R(\lambda_0)\bigr)R(\lambda_0)^{n-1-j}
$$
であり、$\lambda-\lambda_0$ で割って $\lambda\to\lambda_0$ とすると、$R$ の連続性と $R'=-R^2$ から、右辺の各項は $R(\lambda_0)^j\bigl(-R(\lambda_0)^2\bigr)R(\lambda_0)^{n-1-j}=-R(\lambda_0)^{n+1}$ に収束し、和は $-nR(\lambda_0)^{n+1}$ に収束する。これを使って $n$ についての帰納法で $\frac{d^n}{d\lambda^n}R=(-1)^nn!R^{n+1}$ を得る($n$ のときの式をもう一度微分すると $(-1)^nn!\cdot(-(n+1))R^{n+2}$ になる)。最後に、$|f(Tx)|\le\|f\|\,\|T\|\,\|x\|$ だから、$\lambda\mapsto f(R(\lambda)x)$ も複素微分可能で、その導関数は $-f(R(\lambda)^2x)$ である。$\square$
Hilbert 空間の閉作用素について、この定理の 1 と 2 は Tes09 Theorem 2.15(p. 76)にある。2 の評価から、$\lambda$ がスペクトルに近づくとレゾルベントのノルムは必ず大きくなる。逆向きの不等式は一般には成り立たない(ex-res-matrix)。
$A\in L(X)$ とする。$|\lambda|>\|A\|$ なら $\lambda\in\rho(A)$ であり、
$$
R(\lambda,A)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{A^n}{\lambda^{n+1}},\qquad\|R(\lambda,A)\|\le\frac{1}{|\lambda|-\|A\|}
$$
である。とくに $\sigma(A)$ は円板 $\{\lambda\in\mathbb C\mid|\lambda|\le\|A\|\}$ に含まれるコンパクト集合である。
要点:$\lambda-A=\lambda(I-A/\lambda)$ に Neumann 級数を使う。
$\lambda-A=\lambda(I-A/\lambda)$ で $\|A/\lambda\|<1$ だから、Neumann 級数により $\lambda-A$ は $L(X)$ で可逆で、逆は $\lambda^{-1}\sum_{n\ge0}(A/\lambda)^n$ である。ノルムは $\sum_{n\ge0}\|A\|^n/|\lambda|^{n+1}=1/(|\lambda|-\|A\|)$ 以下である。$\sigma(A)$ は thm-res-analytic の 2 により閉集合で、いま示したことから有界なので、コンパクトである。$\square$
さらに、有界作用素 $A$ のスペクトルは空でない。これは Banach代数 の記事の定理「スペクトルは非空コンパクト」を Banach 代数 $L(X)$(同記事の例「連続関数と有界作用素」)に使ったものである。$L(X)$ で可逆であることは、全単射で逆が有界であることにほかならないので、二つのスペクトルは一致する。証明の筋は次のとおりである。$\sigma(A)=\emptyset$ と仮定すると、$L(X)$ 上の連続線形汎関数 $\varphi$ について $\varphi(R(\lambda,A))$ は thm-res-analytic の 3 と同じ理由で $\mathbb C$ 全体で正則になり、cor-res-bounded の評価から $|\lambda|\to\infty$ で $0$ に近づく。Liouvilleの定理 によりこれは恒等的に $0$ で、$\varphi$ は任意だから $R(\lambda,A)=0$ となり、$X\ne\{0\}$ に反する(Bre11 Proposition 11.30(p. 366)も主張を述べている)。有界でない作用素ではスペクトルが空になることも、$\mathbb C$ 全体になることもある(ex-res-derivative)。
有界でない $A$ を調べるとき、一つの $\lambda_0\in\rho(A)$ を固定して、有界作用素 $R(\lambda_0,A)$ のスペクトルに問題を移すことができる。
$A$ を $X$ 上の線形作用素、$\lambda_0\in\rho(A)$、$R_0:=R(\lambda_0,A)$ とする。$\lambda\ne\lambda_0$ について $\mu:=1/(\lambda_0-\lambda)$ とおく。
要点:$D(A)$ の上で $\lambda-A=\mu^{-1}(\mu-R_0)(\lambda_0-A)$ と分解し、全単射の合成として比べる。
$\lambda-\lambda_0=-1/\mu$ である。thm-res-analytic の証明と同じく、$x\in D(A)$ について$$(\lambda-A)x=(\lambda_0-A)x-\mu^{-1}x=\mu^{-1}(\mu-R_0)(\lambda_0-A)x$$が成り立つ($R_0(\lambda_0-A)x=x$ を使う)。
1:$\mu\in\rho(R_0)$ なら、$\lambda-A$ は全単射 $\lambda_0-A\colon D(A)\to X$ と全単射 $\mu^{-1}(\mu-R_0)\colon X\to X$ の合成なので全単射で、逆写像 $\mu R_0R(\mu,R_0)$ は有界である。逆に $\lambda\in\rho(A)$ とする。上の式を $x=R_0y$($y\in X$)に使うと $\mu-R_0=\mu(\lambda-A)R_0$ を得る。右辺は全単射 $R_0\colon X\to D(A)$ と全単射 $\lambda-A$ の合成なので、$\mu-R_0$ は全単射である。その逆写像は $\mu^{-1}(\lambda_0-A)R(\lambda,A)$ であり、$(\lambda_0-A)R(\lambda,A)=I+(\lambda_0-\lambda)R(\lambda,A)$ は有界だから、$\mu\in\rho(R_0)$ である。
2:上の式から、$x\in D(A)$ が $(\lambda-A)x=0$ をみたすことと、$y:=(\lambda_0-A)x$ が $(\mu-R_0)y=0$ をみたすことは同値である。$\lambda_0-A\colon D(A)\to X$ は全単射で逆は $R_0$ なので、主張を得る。
3:$\mu\ne0$ と $\lambda\ne\lambda_0$ は $\mu=1/(\lambda_0-\lambda)$ で一対一に対応し、$\lambda_0\notin\sigma(A)$ だから、1 から従う。$\square$
$\mu=0$ は $\lambda=\infty$ に当たる。$D(A)\ne X$ なら $R_0$ は全射でないので $0\in\sigma(R_0)$ である。同じ形の対応は、$A$ と $A^{-1}$ の間のものとして Tes09 Lemma 2.17(pp. 76–77)にもある。
$X$ 上の線形作用素 $A$ が コンパクトなレゾルベント をもつとは、$\rho(A)\ne\emptyset$ で、ある $\lambda_0\in\rho(A)$ について $R(\lambda_0,A)$ が コンパクト作用素 であることをいう。
$A$ がコンパクトなレゾルベントをもつとする。
$R_0:=R(\lambda_0,A)$ をコンパクトとする。
1:thm-res-identity の 1 により $R(\lambda)=R_0+(\lambda_0-\lambda)R(\lambda)R_0$ である。コンパクト作用素 の記事の定理「コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル」により、有界作用素とコンパクト作用素の積はコンパクトで、コンパクト作用素の和もコンパクトなので、$R(\lambda)$ はコンパクトである。
2:$\lambda\in\sigma(A)$ なら $\lambda\ne\lambda_0$ で、$\mu:=1/(\lambda_0-\lambda)$ は thm-res-spectral-map の 1 により $\sigma(R_0)\setminus\{0\}$ に属する。コンパクト作用素 の記事の定理「コンパクト作用素のスペクトル」の 1 により、$\mu$ は $R_0$ の固有値で、固有空間は有限次元である。thm-res-spectral-map の 2 により、$\lambda$ は $A$ の固有値で、$\dim\ker(\lambda-A)=\dim\ker(\mu-R_0)<\infty$ である。
3:$|\lambda|\le r$ なら $|\lambda_0-\lambda|\le r+|\lambda_0|$ なので、対応する $\mu$ は $|\mu|\ge1/(r+|\lambda_0|)$ をみたす。同じ定理の 2 により、そのような $R_0$ の固有値は有限個しかないので、$|\lambda|\le r$ の範囲にある $A$ の固有値も有限個である。$\square$
1 の議論は、コンパクト作用素を弱コンパクト作用素(閉単位球の像の弱閉包が弱コンパクトな有界作用素)に替えても通る。有界作用素は弱位相についても連続なので、弱コンパクト作用素と有界作用素の積や、二つの弱コンパクト作用素の和も弱コンパクトだからである(和については、二つの弱コンパクト集合の和が、直積の加法による像として弱コンパクトになることを使う)。⊙-回帰的 の記事の定理「レゾルベントによる特徴づけ」で、一つの $\lambda$ での弱コンパクト性がすべての $\lambda\in\rho(A)$ に移るのはこの理由による。
$X=\mathbb C^2$、$A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ とする。$\lambda\ne0$ なら
$$
R(\lambda,A)=\begin{pmatrix}\lambda&-1\\0&\lambda\end{pmatrix}^{-1}=\begin{pmatrix}\lambda^{-1}&\lambda^{-2}\\0&\lambda^{-1}\end{pmatrix}=\frac{I}{\lambda}+\frac{A}{\lambda^2}
$$
で、$\sigma(A)=\{0\}$ である。これは cor-res-bounded の級数で $A^2=0$ としたものである。$0<|\lambda|<1$ なら、$(1,2)$ 成分を見て $\|R(\lambda,A)\|\ge|\lambda|^{-2}$ であり、これは thm-res-analytic の 2 の下界 $1/\operatorname{dist}(\lambda,\sigma(A))=|\lambda|^{-1}$ より真に大きい。一般の行列でも、$R(\lambda,A)$ の成分は分母が固有多項式 $\det(\lambda I-A)$ の有理関数で、極は固有値に限られる(余因子行列による逆行列の公式から)。
$X=\ell^2$(複素数列で 2 乗和が有限なもの)、$D(A):=\{x\in\ell^2\mid\sum_nn^2|x_n|^2<\infty\}$、$(Ax)_n:=nx_n$ とする。$\lambda\notin\{1,2,3,\dots\}$ なら、$y\in\ell^2$ について $x_n:=y_n/(\lambda-n)$ とおくと、$n/|\lambda-n|$ は有界なので $x\in D(A)$ で、$(\lambda-A)x=y$ である。単射性は明らかなので、
$$
R(\lambda,A)y=\Bigl(\frac{y_n}{\lambda-n}\Bigr)_{n\ge1},\qquad\|R(\lambda,A)\|=\sup_n\frac1{|\lambda-n|}=\frac1{\operatorname{dist}(\lambda,\{1,2,\dots\})}
$$
である。各 $n$ は固有値(固有ベクトルは第 $n$ 単位ベクトル)なので $\sigma(A)=\{1,2,3,\dots\}$ である。$1/(\lambda-n)\to0$ だから、コンパクト作用素 の記事の例「対角作用素」により $R(\lambda,A)$ はコンパクトで、thm-res-compact のとおり固有値は $\infty$ にだけ集積する。この例では thm-res-analytic の 2 の不等式が等号になる。
$X=C([0,1])$(複素数値連続関数、上限ノルム)とする。
$X$ が $\mathbb R$ 上の Banach 空間のときは、$\lambda$ を実数に限ってレゾルベント集合とスペクトルを定義する(Bre11 §6.3、pp. 162–163)。prop-res-closed、thm-res-identity、thm-res-analytic の 1・2($\mathbb C$ を $\mathbb R$ に替えたもの)、cor-res-bounded は、同じ証明でそのまま成り立つ。成り立たなくなるのはスペクトルの非空性である。$X=\mathbb R^2$ の $90^\circ$ 回転 $J=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ では $J^2=-I$ なので、すべての実数 $\lambda$ について
$$
(\lambda-J)(\lambda+J)=(\lambda^2+1)I,\qquad R(\lambda,J)=\frac{\lambda+J}{\lambda^2+1}
$$
となり、実スペクトルは空である(Bre11 Remark 6(p. 163)も同じ例を挙げている)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| スカラーが複素数 | $\mathbb R^2$ の回転 $J$ | 有界作用素のスペクトルの非空性(実スペクトルが空) |
| $A$ が有界 | ex-res-derivative の $A$ と $A_1$ | スペクトルが空でないコンパクト集合であること($\sigma(A)=\emptyset$、$\sigma(A_1)=\mathbb C$) |
| レゾルベントがコンパクト | $C([0,1])$ 上の掛け算 $(Mf)(t)=tf(t)$ | thm-res-compact の 2・3($\sigma(M)=[0,1]$ で、固有値はない) |
1 行目は前節の計算である。2 行目は ex-res-derivative である。$A$ は $\rho(A)\ne\emptyset$ なので prop-res-closed により閉作用素である。$A_1$ も閉作用素である($u_n\to u$、$u_n'\to g$ がともに一様収束なら、$u_n(x)=u_n(0)+\int_0^xu_n'$ の極限から $u\in C^1$、$u'=g$ となる)。$u_n(x)=x^n$ は $\|u_n\|_\infty=1$、$\|u_n'\|_\infty=n$ で $D(A)\subset D(A_1)$ に属するので、どちらも有界でない。3 行目:$M$ は有界($\|M\|=1$)である。$\lambda\notin[0,1]$ なら $1/(\lambda-t)$ は $[0,1]$ 上の連続関数で、それを掛ける作用素が $(\lambda-M)^{-1}$ である。$\lambda\in[0,1]$ なら $(\lambda-M)f$ は $t=\lambda$ で $0$ になるので、$\lambda-M$ は全射でなく、$\lambda\in\sigma(M)$ である。一方 $(\lambda-t)f(t)=0$ が全ての $t$ で成り立つなら、$t\ne\lambda$ で $f(t)=0$ で、連続性から $f=0$ なので、固有値はない。$M$ のレゾルベントは、thm-res-compact の 2 に反するのでコンパクトではない。
強連続な縮小半群の生成作用素 $A$ では、$\lambda>0$ が $\rho(A)$ に属し、レゾルベントは半群の Laplace 変換 $R(\lambda,A)x=\int_0^\infty e^{-\lambda t}T(t)x\,dt$ で与えられる(Hille–吉田の定理 の命題「レゾルベントの Laplace 表示」)。逆に、定義域の稠密性とレゾルベントの評価 $\|R(\lambda,A)\|\le1/\lambda$($\lambda>0$)から半群を作り直すのが Hille–吉田の定理 の主定理であり、強連続半群 の記事の定理「指数公式」はレゾルベントの冪の極限として半群を表す。
Hilbert 空間の自己共役作用素では、スペクトルは実数に含まれ、$\operatorname{Im}\lambda\ne0$ について $\|(T-\lambda)^{-1}\|\le1/|\operatorname{Im}\lambda|$ である(自己共役作用素 の定理「自己共役作用素のスペクトル」)。有界な自己共役作用素のスペクトルの両端は、2 次形式の値の範囲から決まる(Rayleigh商)。
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