狭義凸ノルム

同義語:狭義凸なノルム空間strictly convex normstrictly convex spacerotund norm

概要

狭義凸ノルム(strictly convex norm)とは、ノルム空間の異なる 2 つの単位ベクトルの間の凸結合が、両端を除いてつねにノルム 1 未満になるノルム、すなわち単位球面が線分を含まないノルムのことである。三角不等式の等号が同じ向きのベクトルでしか起きないことや、$1<p<\infty$ について $\|x\|^p$ が狭義凸関数であることと同値である。内積から来るノルムや $1<p<\infty$ の $L^p$ のノルムは狭義凸で、$\ell^1$・$\ell^\infty$・$c_0$ のノルムは狭義凸でない。凸集合への最近点が高々 1 つであることで特徴づけられ、双対空間に点を分離する可算族があるノルム空間は同値な狭義凸ノルムをもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ノルム空間, 凸関数, 連続双対空間

何を捉える概念か

Euclid 平面の単位円には線分が含まれない。円周上の異なる 2 点を結ぶ弦は、両端を除いて円の内側を通る。正方形の周には辺という線分がある。狭義凸ノルム(strictly convex norm)は、ノルム空間の単位球面が線分を含まないという、この「丸さ」の条件である。
この条件は「最小にするもの・最大にするものが 1 つに決まる」ことに効く。狭義凸なノルムでは、凸集合の中で与えられた点に最も近い点は高々 1 つであり、$0$ でない連続線形汎関数がノルムを達成する単位ベクトルも高々 1 つである。前者は狭義凸性の特徴づけにもなる。実ノルム空間では、双対空間のノルムが狭義凸なら 双対写像(Banach空間) は 1 点に値をとる。
狭義凸性は 一様凸Banach空間 の一様凸性より弱い。有限次元では両者は一致するが、無限次元では一致しない。また狭義凸性はノルムの形の性質で、同値なノルムに替えると失われうる。逆に、双対空間に点を分離する可算族があれば(とくに可分なら)、同値な狭義凸ノルムに取り替えられる。可分な実ノルム空間では、ノルムと双対ノルムを同時に狭義凸にすることもできる。
以下 $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$、$X$ は $\mathbb K$ 上のノルム空間、$S_X=\{x\in X:\|x\|=1\}$ を単位球面、$X^*$ を連続双対空間とする(記号は 一様凸Banach空間 にそろえる)。

定義

狭義凸ノルム

$X$ のノルム $\|\cdot\|$ が狭義凸であるとは、
$$ x,y\in S_X,\quad x\ne y,\quad 0< t<1\quad\Longrightarrow\quad\|tx+(1-t)y\|<1 $$
が成り立つことをいう。このとき $X$ を狭義凸なノルム空間という。

三角不等式から $\|tx+(1-t)y\|\le1$ はいつも成り立つので、条件は等号が起きないことである。一方、関数 $\varphi\colon X\to\mathbb R$ が狭義凸関数であるとは、$x\ne y$、$0< t<1$ ならば $\varphi(tx+(1-t)y)< t\varphi(x)+(1-t)\varphi(y)$ となることをいう(凸関数 の定義「凸関数と凹関数」の 2 をベクトル空間上の関数に広げたもの)。ノルムそのものは狭義凸関数にならない。$x\ne0$ と $y=2x$ を結ぶ線分の上で $\|\cdot\|$ は 1 次関数だからである。次の定理の 5 は、指数 $p>1$ の冪をとればこの食い違いが消えることを述べる。

狭義凸性の言い換え

ノルム空間 $X$ について、次は同値である。

  1. ノルムは狭義凸である。
  2. $x,y\in S_X$、$x\ne y$ ならば $\|(x+y)/2\|<1$ である。
  3. $S_X$ は線分を含まない。すなわち、$x\ne y$ で $\{tx+(1-t)y:0\le t\le1\}\subset S_X$ となる $x,y$ はない。
  4. $x,y\ne0$ かつ $\|x+y\|=\|x\|+\|y\|$ ならば、ある $\lambda>0$ で $y=\lambda x$ となる。
  5. ある $1< p<\infty$ について、$x\mapsto\|x\|^p$ は狭義凸関数である。
  6. すべての $1< p<\infty$ について、$x\mapsto\|x\|^p$ は狭義凸関数である。

1 は Bre11 の脚注 2(p. 4)の定義、2 は 一様凸Banach空間 の定義「狭義凸」の形である。1 と 5 の同値($p=2$ と一般の $p$)は Bre11 Exercise 1.26(p. 29)に問題として挙げられている。

1 ⇒ 2 は $t=\frac12$ の場合、2 ⇒ 3 は線分の中点を見ればよい。6 ⇒ 5 は明らかである。
3 ⇒ 1:1 が成り立たないとして、$x,y\in S_X$、$x\ne y$、$0< t_0<1$ で $\|t_0x+(1-t_0)y\|=1$ となるものをとる。$g(t)=\|tx+(1-t)y\|$ は $[0,1]$ 上の凸関数で、$g\le1$、$g(0)=g(t_0)=g(1)=1$ である。$0< t< t_0$ なら、$\lambda=\frac{1-t_0}{1-t}\in(0,1)$ について $t_0=\lambda t+(1-\lambda)\cdot1$ なので、凸性から $1=g(t_0)\le\lambda g(t)+(1-\lambda)$、すなわち $g(t)\ge1$ である。$t_0< t<1$ なら $t_0=\frac{t_0}t\cdot t+\bigl(1-\frac{t_0}t\bigr)\cdot0$ を使って同様に $g(t)\ge1$ を得る。よって $g\equiv1$ であり、$x$ と $y$ を結ぶ線分が $S_X$ に含まれる。これは 3 に反する。
1 ⇒ 4:$a=\|x\|$、$b=\|y\|$、$u=x/a$、$v=y/b$、$t=\frac a{a+b}\in(0,1)$ とおくと
$$ tu+(1-t)v=\frac{x+y}{a+b},\qquad\|tu+(1-t)v\|=\frac{\|x+y\|}{a+b}=1 $$
である。1 から $u=v$ でなければならず、$y=\frac bax$ となる。
4 ⇒ 1:$x,y\in S_X$、$0< t<1$ で $\|tx+(1-t)y\|=1$ とすると、$\|tx+(1-t)y\|=\|tx\|+\|(1-t)y\|$ なので、4 から $(1-t)y=\lambda tx$($\lambda>0$)である。両辺のノルムを比べて $1-t=\lambda t$ となり、$y=x$ である。
1 ⇒ 6:$1< p<\infty$、$x\ne y$、$0< t<1$ とし、$a=\|x\|$、$b=\|y\|$ とおく。$a\ne b$ のときは、三角不等式と、$s\mapsto s^p$ が $[0,\infty)$ の異なる 2 点の間で狭義凸であること(両端が正なら 凸関数 の系「2階導関数による判定」の 2、一方が $0$ なら $(ta)^p=t^pa^p< ta^p$)から
$$ \|tx+(1-t)y\|^p\le\bigl(ta+(1-t)b\bigr)^p< ta^p+(1-t)b^p $$
である。$a=b$ のときは $a>0$($a=b=0$ なら $x=y=0$)で、$x/a$ と $y/a$ は異なる単位ベクトルなので、1 から $\|tx+(1-t)y\|< a$ となり、$p$ 乗して $< a^p=ta^p+(1-t)b^p$ を得る。
5 ⇒ 1:$x,y\in S_X$、$x\ne y$ なら $\|tx+(1-t)y\|^p< t+(1-t)=1$ である。$\square$

4 は「三角不等式の等号は同じ向きのベクトルでしか起きない」と読める。内積から来るノルムでは、これは Cauchy–Schwarzの不等式 の等号条件から従う。

例

内積空間

内積から来るノルムは狭義凸である。$x,y\in S_X$、$x\ne y$ なら、平行四辺形の等式から $\bigl\|\frac{x+y}2\bigr\|^2=1-\bigl\|\frac{x-y}2\bigr\|^2<1$ であり、thm-scn-equivalent の 2 が成り立つ。

$L^p$ 空間($1< p<\infty$)

$(\Omega,\mathcal F,\mu)$ を測度空間、$1< p<\infty$ とする。$\mathbb K$ 値の $L^p(\mu)$ のノルム $\|\cdot\|_p$ は狭義凸である。

$\|f\|_p=\|g\|_p=1$、$\|(f+g)/2\|_p=1$ として $f=g$(ほとんどいたるところ)を示す。各点で
$$ \Bigl|\frac{f+g}2\Bigr|^p\le\Bigl(\frac{|f|+|g|}2\Bigr)^p\le\frac{|f|^p+|g|^p}2 $$
であり(2 つ目は $s\mapsto s^p$ の凸性)、両端の積分はともに $1$ である。非負関数の差の積分が $0$ なので、ほとんどいたるところで 2 つの不等号はともに等号である。2 つ目の等号と $s\mapsto s^p$ の狭義凸性(prf-scn-equivalent の 1 ⇒ 6 で使ったもの)から $|f|=|g|$、1 つ目の等号から $|f+g|=|f|+|g|$ である。複素数 $a,b$ で $|a|=|b|$、$|a+b|=|a|+|b|$ なら $a=b$ なので($|a+b|^2=|a|^2+|b|^2+2\operatorname{Re}a\bar b$ から $\operatorname{Re}a\bar b=|a||b|$、よって $a\bar b=|a|^2$)、ほとんどいたるところで $f=g$ である。$\square$

σ-有限な測度空間の実数値の $L^p$ では、より強く一様凸性が成り立つ(Clarksonの不等式 の系「$L^p$ の一様凸性」)。

狭義凸でないノルム

次のどれも単位球面に線分を含むので、狭義凸でない。

  1. $\ell^1$($\mathbb K^n$ の $\|\cdot\|_1$ を含む):$e_1$ と $e_2$ を結ぶ線分上で $\|te_1+(1-t)e_2\|_1=1$。
  2. $\ell^\infty$・$c_0$($\mathbb K^n$ の $\|\cdot\|_\infty$ を含む):$x=e_1+e_2$、$y=e_1-e_2$ について $tx+(1-t)y=e_1+(2t-1)e_2$ のノルムは $1$。
  3. $C([0,1])$ の最大値ノルム:定数関数 $1$ と $s\mapsto s$ の凸結合 $t+(1-t)s$ の最大値は $1$。
  4. $L^1([0,1])$:$2\cdot1_{[0,1/2]}$ と $2\cdot1_{[1/2,1]}$ の凸結合のノルムは $1$。

$(\mathbb R^2,\|\cdot\|_2)$ と $(\mathbb R^2,\|\cdot\|_\infty)$ は同値なノルムだが、前者だけが狭義凸である。狭義凸性は位相ではなくノルムの形で決まる。
有限次元のノルム空間では、狭義凸なら一様凸である(一様凸Banach空間 の命題「有限次元では狭義凸と一様凸は同値」)。無限次元では、$c_0$ に $\|x\|_\infty+\bigl(\sum_n2^{-n}|x_n|^2\bigr)^{1/2}$ を入れたノルムが、狭義凸だが一様凸でない例になる(同記事の例「狭義凸だが一様凸でないノルム」)。

最近点の一意性

集合 $C\subset X$ と $x_0\in X$ について、$\|x_0-c_0\|=\inf_{c\in C}\|x_0-c\|$ を満たす $c_0\in C$ を、$x_0$ の $C$ での最近点という。

最近点の一意性による特徴づけ

ノルム空間 $X$ について、次は同値である。

  1. ノルムは狭義凸である。
  2. どの凸集合 $C\subset X$ とどの $x_0\in X$ についても、$x_0$ の $C$ での最近点は高々 1 つである。

1 ⇒ 2:$c_1\ne c_2$ がともに最近点で、$d=\inf_C\|x_0-c\|$ とする。$d=0$ なら $c_1=x_0=c_2$ となるので $d>0$ である。$u_i=(x_0-c_i)/d$ は異なる単位ベクトルなので $\|(u_1+u_2)/2\|<1$ であり、凸性から $(c_1+c_2)/2\in C$ なのに $\|x_0-(c_1+c_2)/2\|=d\,\|(u_1+u_2)/2\|< d$ となって $d$ の定義に反する。
2 ⇒ 1:狭義凸でないとすると、thm-scn-equivalent の 3 により、$x\ne y$ で線分 $C=\{tx+(1-t)y:0\le t\le1\}$ が $S_X$ に含まれるものがある。$C$ は凸で、$x_0=0$ からの距離は $C$ のどの点でも $1$ なので、$C$ のすべての点が最近点であり、2 に反する。$\square$

最近点の存在には別の仮定が要る。$X$ が反射的な Banach 空間で $C$ が空でない閉凸集合なら最近点は存在する(反射的Banach空間 の系「最近点の存在」)。したがって、狭義凸な反射的 Banach 空間では、空でない閉凸集合への最近点がただ 1 つ存在する。一様凸 Banach 空間での同じ結論(一様凸Banach空間 の命題「閉凸集合への最近点の一意存在」)はこの特別な場合である。

汎関数がノルムを達成する点

$f\in X^*$ について $|f(x)|\le\|f\|\,\|x\|$ である。単位球面の上で $f(x)=\|f\|$ となる点は、$f$ の「最も大きくなる方向」である。

ノルムを達成する点の一意性

$X$ を狭義凸なノルム空間、$f\in X^*$、$f\ne0$ とする。$x\in S_X$ で $f(x)=\|f\|$ となるものは高々 1 つである。$X$ が反射的な Banach 空間なら、そのような $x$ がただ 1 つ存在する。

$x_1\ne x_2$ がともに条件を満たすとすると、$m=(x_1+x_2)/2$ について $f(m)=\|f\|$ なので $\|f\|\le\|f\|\,\|m\|$、すなわち $\|m\|\ge1$ である。一方、狭義凸性から $\|m\|<1$ であり、矛盾する。
存在:反射的Banach空間 の命題「反射的なら汎関数はノルムを達成する」により、$\|x\|\le1$、$|f(x)|=\|f\|$ となる $x$ がある。$f\ne0$ なので $\|x\|=1$ であり、$|\alpha|=1$ のスカラー $\alpha$ で $f(\alpha x)=\|f\|$ となるように $x$ を $\alpha x$ に替えればよい。$\square$

$(\mathbb R^2,\|\cdot\|_1)$ 上の $f(x)=x_1+x_2$ は $\|f\|=1$ で、$e_1$ と $e_2$ を結ぶ線分のすべての点でノルムを達成する。この命題は、双対写像(Banach空間) の値から元の点が決まること(同記事の定理「狭義凸性と双対写像」)に使われる。

同値な狭義凸ノルムへの取り替え

狭義凸性は同値なノルムで保たれないが、次の条件のもとでは、もとのノルムと同値な狭義凸ノルムを作れる。考え方は、もとのノルムの 2 乗に、内積から来る半ノルムの 2 乗を足して「丸める」ことである。

狭義凸ノルムへの取り替え

$X$ をノルム空間とし、$X^*$ の点列 $(f_n)_{n\ge1}$ で $\|f_n\|\le1$、かつ「すべての $n$ で $f_n(x)=0$ なら $x=0$」を満たすものがあるとする。
$$ N(x)=\Bigl(\|x\|^2+\sum_{n=1}^\infty2^{-n}|f_n(x)|^2\Bigr)^{1/2} $$
とおくと、$N$ は $\|x\|\le N(x)\le\sqrt2\,\|x\|$ を満たす狭義凸ノルムである。

内積から来る部分:$\langle x,y\rangle'=\sum_n2^{-n}f_n(x)\overline{f_n(y)}$ は $|f_n(x)|\le\|x\|$ により絶対収束し、第 1 変数について線形、エルミート対称で、$\langle x,x\rangle'\ge0$ である。$f_n$ が点を分離するという仮定から、$\langle x,x\rangle'=0$ なら $x=0$ である。よって $\langle\cdot,\cdot\rangle'$ は内積であり、$|x|'=\sqrt{\langle x,x\rangle'}$ は $|x|'\le\|x\|$ を満たすノルムである。
$N$ はノルム:$N(x)$ は $\mathbb R^2$ のベクトル $(\|x\|,|x|')$ の Euclid ノルムである。斉次性と $N(x)=0\Rightarrow x=0$ は明らかで、三角不等式は、各成分の三角不等式と $\mathbb R^2$ の Euclid ノルムの三角不等式から
$$ N(x+y)\le\bigl\|(\|x\|+\|y\|,\ |x|'+|y|')\bigr\|_2\le N(x)+N(y) $$
となる(1 つ目は成分が大きいほど Euclid ノルムが大きいことによる)。$0\le|x|'\le\|x\|$ から $\|x\|\le N(x)\le\sqrt2\|x\|$ である。
狭義凸性:$N^2=\|\cdot\|^2+|\cdot|'^2$ が狭義凸関数であることを示せば、thm-scn-equivalent の 5 ⇒ 1($p=2$)により $N$ は狭義凸である。$\|\cdot\|^2$ は凸関数である($\|tx+(1-t)y\|^2\le(t\|x\|+(1-t)\|y\|)^2\le t\|x\|^2+(1-t)\|y\|^2$)。内積の展開から
$$ |tx+(1-t)y|'^2=t|x|'^2+(1-t)|y|'^2-t(1-t)|x-y|'^2 $$
であり、$x\ne y$、$0< t<1$ なら最後の項は正なので、$|\cdot|'^2$ は狭義凸関数である。凸関数と狭義凸関数の和は狭義凸関数である。$\square$

可分なノルム空間

可分なノルム空間 $X$ は、もとのノルムと同値な狭義凸ノルムをもつ。

$X\ne\{0\}$ としてよい。稠密な点列 $(a_n)$ をとり、連続双対空間 の定理「点でノルムを実現する汎関数」により、$a_n\ne0$ なら $\|f_n\|=1$、$f_n(a_n)=\|a_n\|$ となる $f_n\in X^*$ を、$a_n=0$ なら $f_n=0$ をとる。すべての $n$ で $f_n(x)=0$ とする。$a_{n_k}\to x$ となる部分列をとると
$$ \|a_{n_k}\|=f_{n_k}(a_{n_k})=f_{n_k}(a_{n_k}-x)\le\|a_{n_k}-x\|\to0 $$
なので $\|x\|=\lim_k\|a_{n_k}\|=0$ である。よって $(f_n)$ は thm-scn-renorm の仮定を満たす。$\square$

$\ell^\infty$ は可分でないが、座標汎関数の列が thm-scn-renorm の仮定を満たすので、やはり同値な狭義凸ノルムをもつ。

双対ノルムも狭義凸にする

可分な空間では、さらにノルムとその双対ノルムがともに狭義凸になる同値なノルムを作れる(Bre11 Exercise 3.27、p. 86)。双対空間 $X^*$ の上で thm-scn-renorm を使えば $X^*$ に狭義凸ノルムが作れるが、それが $X$ のあるノルムの双対ノルムになっていることは別に確かめる必要がある。そのための条件が次の補題であり、ここで弱スター位相(弱スター位相)が効く。この節では実ノルム空間を考え、$X^*$ のもとの双対ノルムを $\|\cdot\|_*$、$B_X=\{x:\|x\|\le1\}$ と書く。

双対ノルムになるための条件

$X$ を実ノルム空間、$N$ を $X^*$ 上のノルムとし、定数 $0< a\le b$ ですべての $f$ について $a\|f\|_*\le N(f)\le b\|f\|_*$ が成り立ち、$C:=\{f\in X^*:N(f)\le1\}$ が弱スター位相で閉じているとする。$n(x):=\sup_{f\in C}f(x)$ とおくと、$n$ は $\|x\|/b\le n(x)\le\|x\|/a$ を満たす $X$ のノルムであり、$n$ の双対ノルム $n^*(g):=\sup\{g(x):n(x)\le1\}$ は $N$ に一致する。

要点:$n^*\le N$ は定義から分かる。逆向きは、$C$ の外の汎関数を有限個の点での値で $C$ から切り離し、有限次元で分離する。

詳しい証明を開く

$n$ はノルム。$N(-f)=N(f)$ なので $C=-C$ であり、$n(x)\ge0$、$n(-x)=n(x)$ である。上限の性質から $n(x+y)\le n(x)+n(y)$、$t>0$ で $n(tx)=tn(x)$ である。$f\in C$ なら $\|f\|_*\le N(f)/a\le1/a$ なので $n(x)\le\|x\|/a$ である。$\|f\|_*\le1/b$ なら $N(f)\le1$ なので $C$ は $\{f:\|f\|_*\le1/b\}$ を含み、連続双対空間 の定理「点でノルムを実現する汎関数」により $n(x)\ge\|x\|/b$ である。とくに $n(x)=0$ なら $x=0$ である。

$n^*\le N$。$g\ne0$ とし、$g':=g/N(g)\in C$ とおくと、すべての $x$ で $g'(x)\le n(x)$ なので、$n(x)\le1$ なら $g(x)\le N(g)$ である。よって $n^*(g)\le N(g)$ である。

$N(g)>1$ なら $n^*(g)>1$。$g\notin C$ で $C$ は弱スター閉なので、弱スター位相の基本近傍 $U=\{h:|h(x_i)-g(x_i)|<\varepsilon\ (1\le i\le m)\}$ で $C$ と交わらないものがある(弱スター位相 の定義「弱スター位相」)。$\pi(h):=(h(x_1),\dots,h(x_m))\in\mathbb R^m$ とおくと、$\pi(C)$ は凸集合で、$\pi(g)$ は $\pi(C)$ の閉包 $K$ に入らない($K$ の点で $\pi(g)$ に各成分の差が $\varepsilon$ 未満のものがあれば、$\pi(C)$ にもそういう点があり、$U\cap C\ne\emptyset$ となるから)。$K$ は空でない閉凸集合なので、Hilbert空間 の定理「閉凸集合への最短点の存在と一意性」により $\pi(g)$ に最も近い $p\in K$ がある。$\lambda:=\pi(g)-p\ne0$ とおく。$q\in K$、$0< t\le1$ なら $p+t(q-p)\in K$ なので $|\lambda-t(q-p)|^2\ge|\lambda|^2$、すなわち $2\langle\lambda,q-p\rangle\le t|q-p|^2$ であり、$t\to+0$ として $\langle\lambda,q\rangle\le\langle\lambda,p\rangle$ を得る($\langle\cdot,\cdot\rangle$ は $\mathbb R^m$ の標準内積)。$x:=\sum_i\lambda_ix_i$ とおくと $h(x)=\langle\lambda,\pi(h)\rangle$ なので、$n(x)=\sup_{h\in C}h(x)\le\langle\lambda,p\rangle<\langle\lambda,p\rangle+|\lambda|^2=g(x)$ である。$g(x)>n(x)\ge0$ から $x\ne0$、$n(x)>0$ であり、$n^*(g)\ge g(x/n(x))>1$ となる。

$n^*\ge N$。$N(g)>n^*(g)$ となる $g$ があれば、$n^*(g)< c< N(g)$ となる $c$ をとって $g/c$ に前段を使うと $n^*(g)>c$ となり矛盾する。$\square$

双対ノルムも狭義凸な同値ノルム

$X$ を可分な実ノルム空間とする。$X$ には、もとのノルムと同値なノルム $N_2$ で、$N_2$ もその双対ノルム $N_2^*$ も狭義凸になるものがある。

要点:$X^*$ 上に thm-scn-renorm で狭義凸ノルム $N_1$ を作り、lem-scn-predual で $N_1$ を双対ノルムにもつ $X$ のノルム $n_1$ を取り出す。$n_1$ を thm-scn-renorm でもう一度丸めたものが $N_2$ である。$N_2^*$ の狭義凸性は、Hahn–Banach の定理で $N_1$ と $\ell^2$ のノルムの「2 乗和」に持ち上げて示す。

詳しい証明を開く

段 1:$X^*$ の狭義凸ノルム。$X\ne\{0\}$ としてよい。$B_X$ の稠密な点列 $(a_n)$ をとる(可分な距離空間の部分集合は可分である)。$e_n(f):=f(a_n)$ は $X^*$ 上の連続線形汎関数で $\|e_n\|\le\|a_n\|\le1$ である。すべての $n$ で $f(a_n)=0$ なら、$f$ は連続なので $B_X$ 全体で $0$ になり、$f=0$ である。ノルム空間 $X^*$ と点列 $(e_n)$ に thm-scn-renorm を使うと、$N_1(f):=\bigl(\|f\|_*^2+\sum_n2^{-n}f(a_n)^2\bigr)^{1/2}$ は $\|f\|_*\le N_1(f)\le\sqrt2\|f\|_*$ を満たす $X^*$ の狭義凸ノルムである。

段 2:$N_1$ は双対ノルム。$C:=\{N_1\le1\}$ は、$m\ge1$ と $x\in B_X$ にわたる集合 $\{f:f(x)^2+\sum_{n\le m}2^{-n}f(a_n)^2\le1\}$ の共通部分である($\|f\|_*^2=\sup_{x\in B_X}f(x)^2$ と、級数が部分和の上限であることによる)。各集合は弱スター連続な関数 $f\mapsto f(x)^2+\sum_{n\le m}2^{-n}f(a_n)^2$ による閉集合の逆像なので弱スター閉であり、$C$ も弱スター閉である。lem-scn-predual($a=1$、$b=\sqrt2$)により、$n_1(x):=\sup_{f\in C}f(x)$ は $\|x\|/\sqrt2\le n_1(x)\le\|x\|$ を満たすノルムで、その双対ノルムは $N_1$ である。

段 3:$N_2$ の狭義凸性。cor-scn-separable の証明の点列 $(f_n)$ は $\|f_n\|_*\le1$ で点を分離する。$|f_n(x)|\le\|x\|\le\sqrt2\,n_1(x)$ なので $g_n:=f_n/\sqrt2$ の $n_1$ に関する双対ノルムは $1$ 以下であり、$(g_n)$ も点を分離する。ノルム空間 $(X,n_1)$ と $(g_n)$ に thm-scn-renorm を使うと、$N_2(x):=\bigl(n_1(x)^2+\sum_n2^{-n}g_n(x)^2\bigr)^{1/2}$ は $n_1\le N_2\le\sqrt2\,n_1$ を満たす狭義凸ノルムであり、$\|x\|/\sqrt2\le N_2(x)\le\sqrt2\|x\|$ である。

段 4:2 乗和の空間。$H:=X\times\ell^2$ に $Q(x,v):=\bigl(n_1(x)^2+\|v\|_2^2\bigr)^{1/2}$ を入れる($\ell^2$ は実数列の空間)。$Rx:=(2^{-n/2}g_n(x))_n$ とおくと $\|Rx\|_2\le n_1(x)$ であり、$j(x):=(x,Rx)$ は $Q(j(x))=N_2(x)$ を満たす線形写像である。$H$ 上の連続線形汎関数 $\Phi$ は、$f:=\Phi(\cdot,0)\in X^*$ と、$\ell^2$ の Rieszの表現定理 による $w\in\ell^2$ で $\Phi(x,v)=f(x)+\langle w,v\rangle$ と書ける。その双対ノルムは $\|\Phi\|=\bigl(N_1(f)^2+\|w\|_2^2\bigr)^{1/2}$ である。実際、$\alpha:=N_1(f)$(段 2 によりこれは $n_1$ に関する $f$ の双対ノルム)、$\beta:=\|w\|_2$ とおくと、$|\Phi(x,v)|\le\alpha n_1(x)+\beta\|v\|_2\le(\alpha^2+\beta^2)^{1/2}Q(x,v)$ である($\mathbb R^2$ の Cauchy–Schwarz の不等式)。逆に $\delta>0$ について $n_1(x_0)=1$、$f(x_0)\ge\alpha-\delta$ となる $x_0$ と、$\|v_0\|_2=1$、$\langle w,v_0\rangle=\beta$ となる $v_0$ をとり($w=0$ なら $v_0$ は任意の単位ベクトル)、$(x,v):=(\alpha x_0,\beta v_0)$ で評価すると $\Phi(x,v)\ge\alpha^2-\alpha\delta+\beta^2$、$Q(x,v)=(\alpha^2+\beta^2)^{1/2}$ である。$\delta\to0$ として上界に一致する下界を得る。

段 5:$H^*$ のノルムは狭義凸。$(f,w)\ne(f',w')$ とする。$N_1$ と $\|\cdot\|_2$ は狭義凸ノルムなので、thm-scn-equivalent の 1 ⇒ 6 により $N_1^2$ と $\|\cdot\|_2^2$ は狭義凸関数であり、$f\ne f'$ か $w\ne w'$ のどちらかの項で凸結合の不等式が狭義になる。もう一方の項でも凸結合の不等式(等号を含む)が成り立つので、$(f,w)\mapsto N_1(f)^2+\|w\|_2^2$ は狭義凸関数である。thm-scn-equivalent の 5 ⇒ 1($p=2$)により、$H^*$ のノルムは狭義凸である。

段 6:$N_2^*$ の狭義凸性。$h_1\ne h_2$ を $N_2^*(h_1)=N_2^*(h_2)=1$ を満たす $(X,N_2)$ 上の連続線形汎関数とする。$j$ はノルム $N_2$ と $Q$ を保つので、$h_i\circ j^{-1}$ は部分空間 $j(X)\subset H$ 上のノルム $1$ の線形汎関数であり、Hahn–Banachの定理 の系「ノルムを保つ延長」により、$\|\Phi_i\|=1$、$\Phi_i\circ j=h_i$ を満たす $\Phi_i\in H^*$ がある。$h_1\ne h_2$ なので $\Phi_1\ne\Phi_2$ であり、段 5 から $\|(\Phi_1+\Phi_2)/2\|<1$ である。$N_2(x)\le1$ なら $Q(j(x))\le1$ なので、$|\frac{h_1+h_2}2(x)|=|\frac{\Phi_1+\Phi_2}2(j(x))|\le\|(\Phi_1+\Phi_2)/2\|$ であり、$N_2^*\bigl(\frac{h_1+h_2}2\bigr)<1$ を得る。thm-scn-equivalent の 2 ⇒ 1 により $N_2^*$ は狭義凸である。$\square$

証明は Bre11 Exercise 3.27 の筋による。$X^*$ 上の新しいノルムが双対ノルムであることは thm-scn-renorm からは分からず、その単位球が弱スター閉であることを lem-scn-predual で使ったところが要である。完備性は使っていないので、$X$ は Banach 空間でなくてよい。
一様凸なノルムへの取り替えはこれとは違い、反射的でない Banach 空間ではできない。同値なノルムに替えても反射性は変わらず、一様凸 Banach 空間は反射的だからである(一様凸Banach空間 の定理「Milman–Pettisの定理」とその後の注意)。たとえば $c_0$ は可分なので同値な狭義凸ノルムをもつが、同値な一様凸ノルムはもたない。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
狭義凸性$(\mathbb R^2,\|\cdot\|_1)$ の線分 $C=\{te_1+(1-t)e_2:0\le t\le1\}$ と $x_0=0$最近点の一意性(thm-scn-nearest)
狭義凸性$(\mathbb R^2,\|\cdot\|_1)$ 上の $f(x)=x_1+x_2$ノルムを達成する点の一意性(prop-scn-norming-point)
反射的な Banach 空間であること$\ell^2$ のノルムを入れた $c_{00}$(有限個の項だけが $0$ でない実数列の空間)上の $f(x)=\sum_n2^{-n}x_n$ノルムを達成する点の存在(prop-scn-norming-point)
指数 $p>1$$p=1$、$\mathbb R$ の絶対値と $x=1$、$y=2$$\|\cdot\|^p$ の狭義凸性(thm-scn-equivalent の 6)
有限次元ex-scn-non の後の $c_0$ のノルム狭義凸なら一様凸

1・2 行目は ex-scn-non の 1 の線分上で距離・値が一定になることによる。3 行目:$c_{00}$ は内積空間なので狭義凸である(ex-scn-inner)。$w=(2^{-n})_n\in\ell^2$ とすると $f(x)=\langle x,w\rangle$ であり、Cauchy–Schwarz の不等式と、$c_{00}$ が $\ell^2$ で稠密であることから $\|f\|=\|w\|_2$ である。$\|x\|_2=1$ で $f(x)=\|w\|_2$ となるのは Cauchy–Schwarz の不等式の等号の場合で、$x=w/\|w\|_2$ に限るが、これは $c_{00}$ に属さない。4 行目は $|t+2(1-t)|=t|1|+(1-t)|2|$ であり、$\mathbb R$ の絶対値は内積から来る狭義凸ノルムなので、外れているのは $p>1$ だけである。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, 脚注 2(p. 4、狭義凸の定義)、Exercise 1.26(p. 29、狭義凸ノルムと $\|x\|^p$ の狭義凸性)、Exercise 3.27(p. 86、ノルムと双対ノルムがともに狭義凸な同値ノルム)

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