開写像(open map)とは、位相空間の間の写像で、定義域の開集合の像がつねに行き先の開集合になるものである。開集合の逆像を見る連続性とは独立な条件であり、$x\mapsto x^2$ のように連続だが開でない写像も、開だが連続でない写像もある。直積の射影、被覆写像、群の作用による商への射影、全射な線形写像 $\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ は開写像である。連続な開全射は商写像になり、連続な全単射が開写像であることは同相写像であることと同値である。
連続写像は「開集合の逆像が開集合になる」写像である。向きを逆にして「開集合の像が開集合になる」ことを要求すると、開写像の概念が得られる。開写像は開集合をつぶさない写像であり、直積の射影、被覆写像、群の作用による商への射影など、空間を「上から見下ろす」写像の多くがこの性質をもつ。連続性とは独立な条件で、連続で開でない写像も、開で連続でない写像もある。開写像は、連続な全射が商写像になるための十分条件や、連続な全単射が同相写像になるための条件として働く。また解析学の「開写像定理」(定数でない正則関数、Banach 空間の間の全射有界線形写像)は、ある種の写像が開写像であると主張する定理である。
$X,Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が開写像(open map、open mapping)であるとは、$X$ の任意の開集合 $U$ について、像 $f(U)=\{f(x)\mid x\in U\}$ が $Y$ の開集合であることをいう。
定義は $f$ の連続性を仮定しない。連続でもある場合は「連続な開写像」と書いて区別する。閉集合の像が閉集合になる写像を閉写像といい、開写像とは別の条件である。ただし全単射に対しては両者は同値になる(閉写像 の命題「全単射では閉写像と開写像が一致する」)。
補集合をとって開と閉を入れ替える議論は、逆像については $f^{-1}(Y\setminus V)=X\setminus f^{-1}(V)$ で成り立つが、像については $f(X\setminus U)$ と $Y\setminus f(U)$ が一般に違うので成り立たない。これが、連続性が開集合でも閉集合でも言い換えられるのに、開写像と閉写像が別の概念になる理由である。
開写像であることは、各点の近くで確かめられる。
写像 $f\colon X\to Y$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2:$V=f(U)$ とすればよい。2 ⇒ 1:$f(U)$ の各点 $f(x)$ について $f(x)\in V_x\subset f(U)$ となる開集合 $V_x$ があるので、$f(U)=\bigcup_xV_x$ は開集合である。
1 ⇒ 3 は明らかである。3 ⇒ 1:開集合 $U$ は $\mathcal{B}$ の元の和集合 $U=\bigcup_iW_i$ と書け、像は和集合と交換する($f(\bigcup_iW_i)=\bigcup_if(W_i)$)ので、$f(U)$ は開集合の和集合として開である。
1 ⇒ 4:$f(\operatorname{Int}A)$ は開集合で $f(A)$ に含まれるので、$f(A)$ に含まれる最大の開集合 $\operatorname{Int}f(A)$ に含まれる。4 ⇒ 1:開集合 $U$ について $f(U)=f(\operatorname{Int}U)\subset\operatorname{Int}f(U)\subset f(U)$ なので $f(U)=\operatorname{Int}f(U)$ は開である。
距離空間の場合、1 ⇒ 5 は 2 を $U=B(x,\varepsilon)$ に使い、$V$ の中に $f(x)$ を中心とする開球をとればよい。5 ⇒ 2:$x\in U$ について $B(x,\varepsilon)\subset U$ となる $\varepsilon$ をとると、$B(f(x),\delta)\subset f(B(x,\varepsilon))\subset f(U)$ である。$\square$
条件 2 は Mor24 Exercises 6.5 の 1 (i)、条件 5 は同じ演習の (ii) にあたる。
1:$(g\circ f)(U)=g(f(U))$ である。2:$W$ の開集合は、$W$ が $X$ で開なので $X$ の開集合でもあり(相対位相 の命題「推移性と開閉性の受け渡し」)、その像は $Y$ で開である。3:$f^{-1}(B)$ の開集合は $f^{-1}(B)\cap U$($U$ は $X$ で開)の形であり、
$$
f\bigl(f^{-1}(B)\cap U\bigr)=B\cap f(U)
$$
が成り立つ(左辺の点は $B$ と $f(U)$ の両方に入り、逆に $y=f(u)\in B$、$u\in U$ なら $u\in f^{-1}(B)\cap U$)。右辺は $B$ で開である。$\square$
2 の「$W$ が開集合」という仮定は外せない(下の反例の表の 4)。3 は、制限する範囲を行き先の部分集合の逆像全体にとれば、どんな部分集合でもよいことを述べている。
位相空間の族 $(X_i)_{i\in I}$ の直積 $\prod_{i\in I}X_i$ に直積位相を入れる。各 $j\in I$ について、射影 $p_j\colon\prod_iX_i\to X_j$ は連続な開写像である。
連続性は直積位相の定義による。開写像であることを prop-open-map-criteria の 3 で示す。直積位相の開基として、有限個を除く $i$ で $U_i=X_i$ である開集合の積 $W=\prod_iU_i$ の全体をとる。どれかの $U_i$ が空なら $W=\emptyset$ で $p_j(W)=\emptyset$ は開である。すべての $U_i$ が空でないなら $p_j(W)=U_j$ である。実際 $p_j(W)\subset U_j$ は明らかで、$u\in U_j$ に対し、各 $i\ne j$ で $U_i$ の点 $u_i$ を 1 つずつ選び $u_j:=u$ とおけば $(u_i)_i\in W$ で $p_j((u_i)_i)=u$ である。よって $p_j(W)$ はつねに開である。$\square$
$W$ の点を作るときに各 $U_i$ から点を選んでいるので、$I$ が無限集合なら選択公理を使っている($I$ が有限なら不要)。同じ主張は 直積位相 の命題「射影は連続な開写像である」にもあり、箱位相 についても射影は開写像である(箱位相 の命題「射影は連続な開写像である」)。$\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$、$(x,y)\mapsto x$ はこの例であり、開写像だが閉写像ではない(閉写像 の例「反例:射影は開写像だが閉写像でない」)。
$f\colon X\to Y$ を連続な開写像で全射とする。このとき $Y$ の部分集合 $V$ について、$V$ が開であることと $f^{-1}(V)$ が開であることは同値である。すなわち $f$ は商写像である。
$V$ が開なら $f$ の連続性から $f^{-1}(V)$ は開である。逆に $f^{-1}(V)$ が開なら、$f$ は全射なので $V=f(f^{-1}(V))$ であり、$f$ が開写像なので $V$ は開である。$\square$
閉写像についての同じ主張が 閉写像 の命題「連続な閉全射は商写像である」、両方をまとめた形が 商写像 の命題「連続な開全射と閉全射」にある。逆は成り立たず、開でも閉でもない商写像がある(商写像 の注意「反例:開でも閉でもない商写像」)。
群 $G$ が位相空間 $X$ に同相写像で作用しているとする(各 $g\in G$ について $x\mapsto gx$ が同相写像)。軌道空間 $X/G$ に商位相を入れると、商写像 $\pi\colon X\to X/G$ は開写像である。
$U\subset X$ を開集合とする。$\pi^{-1}(\pi(U))$ は $U$ の点と同じ軌道に入る点の全体なので
$$
\pi^{-1}(\pi(U))=\bigcup_{g\in G}gU
$$
である。各 $gU$ は同相写像 $x\mapsto gx$ による開集合の像なので開であり、その和集合も開である。商位相の定義により $\pi(U)$ は $X/G$ の開集合である。$\square$
同じ主張は 商空間(位相) の命題「軌道空間の開性と有限群の場合の分離性」の 1 にある。位相群 $G$ の部分群 $H$ による剰余空間への射影 $G\to G/H$ が開写像であること(位相群 の命題「剰余空間の位相」)は、$H$ が右からの掛け算で $G$ に作用する場合である。商空間 $X/{\sim}$ への射影は一般には開写像でない。たとえば $[0,1]$ の端点 $0$ と $1$ を同一視して円周を作る射影 $q$ では、$[0,\tfrac12)$ は開だが $q^{-1}(q([0,\tfrac12)))=[0,\tfrac12)\cup\{1\}$ は $[0,1]$ で開でないので、$q([0,\tfrac12))$ は開でない。
$f\colon X\to Y$ を単射な連続開写像とする。このとき $f(X)$ は $Y$ の開集合であり、$f$ は $X$ から $f(X)$(相対位相)への同相写像である。
各点の近くでこの形になる写像が局所同相写像であり、局所同相写像は連続な開写像である(同相写像 の命題「局所同相写像の連続性と開性」)。被覆写像は局所同相写像なので開写像である(被覆空間 の命題「被覆写像の基本性質」)。とくに $\mathbb{R}\to S^1$、$t\mapsto(\cos t,\sin t)$ は開写像である(被覆空間 の例「円周を実数直線で覆う」)。
$A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を全射な線形写像とする。$\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^m$ に Euclid空間 の通常の位相を入れると、$A$ は開写像である。
$A$ は全射なので、$\mathbb{R}^m$ の標準基底 $e_1,\dots,e_m$ のそれぞれに $Av_k=e_k$ となる $v_k$ がとれる。$S\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ を $Se_k:=v_k$ で定まる線形写像とすると $AS=\mathrm{id}$ であり、$S$ は(成分が 1 次式なので)連続である。$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$x\in U$ とし、$B(x,\varepsilon)\subset U$ となる $\varepsilon$ をとる。$S$ は原点で連続なので、$\|w\|<\delta$ なら $\|Sw\|<\varepsilon$ となる $\delta>0$ がある。$\|y-Ax\|<\delta$ なら $x':=x+S(y-Ax)$ は $\|x'-x\|<\varepsilon$ を満たして $U$ に入り、$Ax'=Ax+(y-Ax)=y$ である。よって $B(Ax,\delta)\subset A(U)$ であり、prop-open-map-criteria の 2 により $A$ は開写像である。$\square$
全射でない線形写像は開写像でない:像が真の部分空間 $L\subsetneq\mathbb{R}^m$ なら、$A(\mathbb{R}^n)=L$ は空でないが、$L$ はどの開球も含まない($L$ の点 $y$ と $L$ に入らない $z$ について、$y+t z\notin L$($t\ne0$)で、$t\to0$ で $y$ に近づく)。無限次元では、この命題の類似が Banach 空間の開写像定理である(「注意」の節)。
左:x ↦ x² は開区間(−1 から 1)を 0 以上 1 未満の区間に写す。中:射影は閉集合 xy = 1 を閉でない ℝ∖{0} に写す。右:座標軸の和 A への射影の制限は、A の開集合(縦軸の一部)を 1 点 {0} に写す
| 外す条件・取り違え | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 連続なら開 | $f(x)=x^2$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}$) | 開写像である |
| 開なら閉 | 射影 $\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ | 閉写像である |
| 開なら連続 | 恒等写像 $(\mathbb{R},\text{通常})\to(\mathbb{R},\text{離散})$ | 連続である |
| 制限する部分集合が開 | 座標軸の和 $A=\{xy=0\}$ への射影の制限 | 制限も開写像である |
| 商写像なら開 | $[0,1]$ の両端を貼る射影 | 開写像である |
2 は 閉写像 の例「反例:射影は開写像だが閉写像でない」で、閉集合 $\{xy=1\}$ の像が閉でない $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ になる(図 1 の中)。逆向きの「閉なら開」も、定値写像 $\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ で破れる(閉写像 の例「定値写像は閉写像だが開写像とは限らない」)。5 は上の「商写像と群の作用」の節の最後の例である。1・3・4 を以下で確かめる。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ は連続だが開写像でない。開区間 $(-1,1)$ の像は $[0,1)$ であり(図 1 の左)、$0$ を中心とするどの開区間も負の数を含むので $[0,1)$ は開でない。満たす性質:連続。満たさない性質:開写像。破る含意:「連続写像は開写像」。
開写像かどうかは行き先の位相にもよる。値域を縮めた $\mathbb{R}\to[0,\infty)$、$x\mapsto x^2$ は開写像である。開区間 $(a,b)$ の像は、$a<0< b$ なら $[0,\max\{a^2,b^2\})$、そうでなければ端点を含まない区間であり、どちらも $[0,\infty)$ の開集合だから(prop-open-map-criteria の 3)。
複素数に広げた $z\mapsto z^2$($\mathbb{C}\to\mathbb{C}$)は開写像である(開写像定理(複素解析) の例「2 乗写像」)。実数の 2 乗写像は $0$ の近くで折り返すが、複素数の 2 乗写像は $0$ のまわりを 2 周して覆うからである。
射影 $p\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$、$p(x,y)=x$ は開写像である。座標軸の和 $A:=\{(x,y)\mid xy=0\}$ に制限した $p|_A\colon A\to\mathbb{R}$ を考える。$V:=A\cap B\bigl((0,1),\tfrac12\bigr)=\{(0,y)\mid\tfrac12< y<\tfrac32\}$ は $A$ の開集合だが、$p(V)=\{0\}$ は $\mathbb{R}$ で開でない(図 1 の右)。満たす性質:$p$ は開写像、$A$ は閉集合。満たさない性質:$p|_A$ は開写像でない。破る含意:「開写像の任意の部分集合への制限は開写像」。prop-open-map-composition の 2 は $A$ が開集合であることを仮定し、3 は $A$ が $p^{-1}(B)$ の形であることを仮定している。$A$ はどちらでもない。
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