Cauchy地平面(Cauchy horizon)とは、時空の閉じた非時間的な集合 $S$ について、未来依存領域 $D^+(S)$ の閉包から $D^+(S)$ の時間的過去を除いた集合 $H^+(S)$ と、時間の向きを逆にした $H^-(S)$ の和のことである。地平面は閉じた非時間的な集合で、$S$ の依存領域が時空全体なら空であり、逆に空でない $S$ について地平面が空なら依存領域は時空全体である。$S$ の縁を除けば地平面は光的測地線で生成され、Minkowski 時空の超平面の中の閉球では円錐の側面、1 点を除いた Minkowski 時空の超平面 $t=0$ では除いた点の未来の光円錐になる。
前提知識: 時空, 依存領域, Globally Hyperbolic時空
閉じた非時間的な集合 $S$ の未来依存領域 $D^+(S)$ は、$S$ の上のデータだけで決まる点の集まりである。その「未来の果て」、すなわち $D^+(S)$ の閉包の点のうち、少しでも未来へ進むと $D^+(S)$ から出てしまう点の全体を未来 Cauchy 地平面という。Cauchy 地平面は依存領域の広がりを止める壁であり、それ自身が閉じた非時間的な集合で、$S$ の縁を除けば光的測地線で織られている。依存領域が時空全体であれば地平面は空であり、空でない閉じた非時間的な $S$ については逆も成り立つ。
以下、時空 $(M,g)$・因果曲線・$I^\pm(p)$・$J^\pm(p)$ は 時空 の記事、非時間的(achronal)・非因果的(acausal)・延長不可能・$D^\pm(A)$・$D(A)$ は 依存領域 の記事の定義と記号を使う。部分集合 $X\subset M$ について $I^\pm(X):=\bigcup_{x\in X}I^\pm(x)$ とおき、閉包を $\overline X$、内部を $\operatorname{Int}X$ と書く。各 $I^\pm(p)$ は開集合なので(時空 の定理「時間的未来の基本性質」)、$I^\pm(X)$ も開集合である。
$S$ を時空 $(M,g)$ の閉じた非時間的な部分集合とする。
$$
H^+(S):=\overline{D^+(S)}\setminus I^-\bigl(D^+(S)\bigr),\qquad H^-(S):=\overline{D^-(S)}\setminus I^+\bigl(D^-(S)\bigr)
$$
をそれぞれ $S$ の未来 Cauchy 地平面(future Cauchy horizon)、過去 Cauchy 地平面(past Cauchy horizon)といい、$H(S):=H^+(S)\cup H^-(S)$ を $S$ の Cauchy 地平面(Cauchy horizon)という。
定義は Min19 Definition 3.14(p. 87)・Definition 3.32(p. 93)、MS08 Definition 3.73(p. 43)による。$q\in I^-(D^+(S))$ は「$I^+(q)$ が $D^+(S)$ と交わる」ことと同じなので、
$p\in H^+(S)$ $\iff$ $p\in\overline{D^+(S)}$ かつ $I^+(p)\cap D^+(S)=\emptyset$
である。つまり $H^+(S)$ は、閉包の意味で $D^+(S)$ に属しながら、どの未来向き時間的曲線で少し進んでも $D^+(S)$ に入れない点の全体である。時間の向きを逆にすると $D^+$ と $D^-$、$H^+$ と $H^-$ が入れ替わるので、以下では主に $H^+(S)$ を扱う。
依存領域 の記事は区分的に滑らかな因果曲線で $D^\pm$ を定め、Min19 は区分的に $C^1$ な因果曲線で定める。閉集合 $S$ については、過去に延長不可能で $S$ と交わらない因果曲線の有無はどちらの流儀でも変わらないので(Min19 Proposition 3.3 とその証明、pp. 84–85)、$D^\pm(S)$ と $H^\pm(S)$ は同じ集合になる。
$U\subset M$ を開集合とし、$U$ の中の未来向き時間的曲線で $q$ から行ける点の全体を $I^+(q,U)$、$q$ へ行ける点の全体を $I^-(q,U)$ と書く。非時間的な集合 $S$ の縁(edge)$\mathrm{edge}(S)$ とは、$\overline S$ の点 $q$ であって、$q$ を含む任意の開集合 $U$ について、ある $p\in I^-(q,U)$、$r\in I^+(q,U)$ と、$U$ の中で $p$ から $r$ へ行き $S$ と交わらない時間的曲線が存在するものの全体である(Min19 Definition 2.130、p. 76)。
縁は「$S$ のすぐ脇を、$S$ を横切らずに過去から未来へすり抜けられる点」である。たとえば Minkowski 時空の超平面 $\{t=0\}$ の縁は空であり、その中の閉球 $\{(0,x)\mid\lvert x-x_0\rvert\le r\}$ の縁は境界の球面 $\{(0,x)\mid\lvert x-x_0\rvert=r\}$ である。境界の点 $q=(0,y)$ では、$(-\varepsilon,y)$ から $(0,y+\delta e)$($e$ は外向きの単位ベクトル、$0< \delta< \varepsilon$)を経て $(\varepsilon,y)$ へ行く折れ線が球の外で $t=0$ を横切る時間的曲線であり、球の内部の点では、十分小さい $U$ の中の時間的曲線は必ず球の中で $t=0$ を横切る。
$S$ を閉じた非時間的な集合とする。
1.$I^-(D^+(S))$ は開集合なので、$H^+(S)=\overline{D^+(S)}\cap\bigl(M\setminus I^-(D^+(S))\bigr)$ は 2 つの閉集合の共通部分である。
2.ある時間的曲線が、異なる 2 つの径数の値で $H^+(S)$ の点を通ったとする。向きを未来向きにそろえ、先に通る点を $p$、後に通る点を $q$ とすると($p=q$ でもよい)、その間の部分は $p$ から $q$ への未来向き時間的曲線なので $q\in I^+(p)$ である。$I^+(p)$ は $q$ の開近傍で $q\in\overline{D^+(S)}$ なので、$I^+(p)$ は $D^+(S)$ の点 $r$ を含む。すると $p\in I^-(r)\subset I^-(D^+(S))$ となり、$p\in H^+(S)$ に反する。
3.$z\in D^+(S)\cap I^-(S)$ があったとし、$z\ll s$($s\in S$)とする。依存領域 の補題「延長不可能な因果曲線の存在」により $z$ から出る過去に延長不可能な過去向き因果曲線があり、$z\in D^+(S)$ なのでこれは $S$ の点 $s'$ を通る。すると $s'\le z\ll s$ であり、時空 の定理「時間的未来の基本性質」の押し上げ補題により $s'\ll s$ となる。$s'$ から $s$ への時間的曲線は $S$ を 2 つの径数の値で通るので($s'=s$ なら閉じた時間的曲線になる)、$S$ の非時間性に反する。よって $D^+(S)\cap I^-(S)=\emptyset$ であり、$I^-(S)$ は開集合なので閉包をとっても交わらない。$\square$
$S$ が閉じた非時間的な集合のとき、$D^+(S)$ の位相的な境界は $S\cup H^+(S)$ に等しく、$D(S)$ の位相的な境界は $H(S)$ に等しい(Min19 Proposition 3.16 の式 (3.2)、p. 87、Proposition 3.33 の式 (3.9)、p. 94。この記事では証明しない)。$D(S)$ の内部の点は $S$ の上のデータで決まり、かつ近くの点もすべてそうであるような点であり、地平面はその領域の「$S$ 以外の境目」にあたる。
$S$ を時空 $(M,g)$ の閉じた非時間的な部分集合とする。
1.$p\in M$ を任意にとる。依存領域 の補題「延長不可能な因果曲線の存在」により、$p$ から出る過去に延長不可能な過去向き時間的曲線と、未来に延長不可能な未来向き時間的曲線がある。前者を逆向きにたどって $p$ に着き、そこから後者をたどる曲線を $\gamma\colon(a,b)\to M$、$\gamma(0)=p$ とする。$p$ での左右の片側接ベクトルはどちらも未来向き時間的なので、$\gamma$ は延長不可能な未来向き時間的曲線である。$D(S)=M$ なので、依存領域 の定理「依存領域が時空全体になる条件」により、$\gamma$ はある径数 $s_0$ で $S$ の点 $\gamma(s_0)$ を通る。
$s_1>\max\{s_0,0\}$ をとり $q:=\gamma(s_1)$ とおくと、$\gamma(s_0)\ll q$ かつ $p=\gamma(0)\ll q$ である。$q\in D^-(S)$ と仮定する。$q$ から出る未来に延長不可能な未来向き因果曲線(同じ補題)は $S$ の点 $y$ を通るので、$\gamma(s_0)\ll q\le y$ と押し上げ補題から $\gamma(s_0)\ll y$ となり、prf-cauchy-horizon-closed-achronal の 3 と同じく $S$ の非時間性に反する。よって $q\notin D^-(S)$ であり、$q\in D(S)$ から $q\in D^+(S)$ である。したがって $p\in I^-(D^+(S))$ である。$p$ は任意だったから $I^-(D^+(S))=M$ であり、$H^+(S)=\overline{D^+(S)}\setminus M=\emptyset$ である。時間の向きを逆にして $I^+(D^-(S))=M$、$H^-(S)=\emptyset$ を得る。
2.$H(S)=\emptyset$ なら、rem-cauchy-horizon-boundary の等式により $D(S)$ の境界 $\overline{D(S)}\setminus\operatorname{Int}D(S)$ は空である。すると $\overline{D(S)}=\operatorname{Int}D(S)\subset D(S)\subset\overline{D(S)}$ なので、$D(S)$ は開集合かつ閉集合である。$\emptyset\neq S\subset D(S)$(依存領域 の命題「依存領域の基本性質」)であり、時空は連結なので $D(S)=M$ である。$\square$
2 の証明は、引用した境界の等式に依存している。1 は記事の中で完結している。
$S$ が Globally Hyperbolic時空 の記事の意味の Cauchy 超曲面であって閉集合ならば、$H(S)=\emptyset$ である。
Cauchy 超曲面は非因果的、したがって非時間的であり、依存領域 の記事により $D(S)=M$ である(同記事の定理「依存領域が時空全体になる条件」の後の注意)。thm-cauchy-horizon-empty の 1 を当てる。$\square$
逆に、大域的双曲でない時空では、空でない Cauchy 地平面が現れることがある(下の ex-cauchy-horizon-punctured)。
$S$ を閉じた非時間的な集合とし、$p\in H^+(S)\setminus\mathrm{edge}(S)$ とする。このとき、$p$ を未来の端点とする光的測地線であって、$H^+(S)$ に含まれ、過去に延長不可能であるか、または過去の端点が $\mathrm{edge}(S)$ にあるものが存在する。特に $\mathrm{edge}(S)=\emptyset$ なら、空でない $H^+(S)$ は、過去に延長不可能な光的測地線で生成される非時間的な Lipschitz 超曲面である。
Min19 Theorem 3.24(pp. 91–92)と Corollary 3.25(p. 92)。この記事では証明しない。証明の筋は次のとおりである。$p$ に未来側から近づく点列 $p_k\gg p$ は、$D^+(S)$ と交わらない開集合 $I^+(p)$ に属するので $\overline{D^+(S)}$ に属さない。閉集合 $S$ については、$\overline{D^+(S)}$ は過去に延長不可能な時間的曲線がすべて $S$ と交わる点の全体に等しい(Min19 Proposition 3.10、p. 85)ので、$p_k$ で終わり $S$ と交わらない過去に延長不可能な時間的曲線がある。その極限曲線をとると、$p$ で終わる因果曲線が $H^+(S)$ の中に得られる。$H^+(S)$ は非時間的なので(prop-cauchy-horizon-closed-achronal)、その曲線は光的測地線になる。この光的測地線を $H^+(S)$ の生成線(generator)という。
生成線は未来の向きには地平面を出ていくことがある(下の閉球の例の頂点)。$\mathrm{edge}(S)$ の点は除く必要がある(下の反例の表)。
$(\mathbb R^{1+n},\eta)$、$\eta=-dt^2+\lvert dx\rvert^2$ を Minkowski 時空とし(Minkowski空間。時間的向き付けは $\partial_t$ で与える)、点を $(t,x)$($x\in\mathbb R^n$)と書く。$\overline B(x,\rho)$ は $\mathbb R^n$ の中心 $x$、半径 $\rho$ の閉球を表す($\rho=0$ なら $\{x\}$)。
$K\subset\mathbb R^n$ を閉集合とし、$S_K:=\{(0,x)\mid x\in K\}$ とおく。$S_K$ は閉じた非因果的な集合であり、
$$
D^+(S_K)=\{(t,x)\mid t\ge0,\ \overline B(x,t)\subset K\}
$$
である。
因果曲線に沿って $t$ は狭義単調なので、因果曲線は超平面 $t=0$ を高々 1 回しか通らない。よって $S_K$ は非因果的であり、閉集合であることは明らかである。依存領域 の定理「閉球の依存領域は円錐」の証明のとおり、$(t,x)$ から出る過去に延長不可能な過去向き因果曲線は $t$ でパラメータ付けして $\tau\mapsto(\tau,y(\tau))$($\tau\le t$)と書け、$\lvert y(\tau_1)-y(\tau_2)\rvert\le\lvert\tau_1-\tau_2\rvert$ を満たし、$\tau$ は $-\infty$ まで動く。
$\supset$:$t\ge0$、$\overline B(x,t)\subset K$ とする。上の曲線は $\tau=0$ で点 $(0,y(0))$ を通り、$\lvert y(0)-x\rvert\le t$ なので $y(0)\in K$ である。よって $(t,x)\in D^+(S_K)$ である。
$\subset$:$(t,x)\in D^+(S_K)$ とする。$t<0$ なら、真下へ向かう直線 $s\mapsto(t-s,x)$($s\ge0$)は過去に延長不可能で $t=0$ を通らないので矛盾する。$t=0$ なら、$(0,x)$ から出る因果曲線が $t=0$ を通るのは始点だけなので $x\in K$、すなわち $\overline B(x,0)\subset K$ である。$t>0$ とし、$y\in\overline B(x,t)$ をとる。直線 $s\mapsto\bigl(t-s,\ x+s(y-x)/t\bigr)$($s\ge0$)は、速度の空間成分の大きさが $\lvert y-x\rvert/t\le1$ なので過去向きの因果曲線で、$t$ 座標が $-\infty$ へ動くので過去に延長不可能である。これが $t=0$ を通るのは $s=t$ のときの点 $(0,y)$ だけなので、$y\in K$ である。$\square$
1 では $\varphi(x):=x^1$、$c:=0$、2 では $\varphi(x):=\lvert x-x_0\rvert$、$c:=r$ とおく。1 では $\overline B(x,t)$ の上の $y^1$ の最大値は $x^1+t$、2 では $\overline B(x,t)$ の上の $\lvert y-x_0\rvert$ の最大値は三角不等式により $\lvert x-x_0\rvert+t$ である($x\ne x_0$ なら点 $x+t(x-x_0)/\lvert x-x_0\rvert$ で、$x=x_0$ なら球面上の任意の点で達する)。よって lem-cauchy-horizon-minkowski-dod により、どちらの場合も
$$
D^+(S_K)=\{(t,x)\mid t\ge0,\ f(t,x)\le c\},\qquad f(t,x):=t+\varphi(x)
$$
であり、これは閉集合なので $\overline{D^+(S_K)}=D^+(S_K)$ である。
$f$ は未来向き時間的曲線に沿って狭義増加する。実際、曲線を $t$ でパラメータ付けすると速度の空間成分は $\lvert\dot x\rvert< 1$ を満たすので、$t_1< t_2$ に対し $\varphi$ が 1-Lipschitz であることから
$$
f(t_2,x(t_2))-f(t_1,x(t_1))\ge(t_2-t_1)-\lvert x(t_2)-x(t_1)\rvert\ge(t_2-t_1)-\int_{t_1}^{t_2}\lvert\dot x\rvert\,dt>0
$$
である。
$p\in D^+(S_K)$ で $f(p)=c$ とする。$p\ll q$ なら $f(q)>c$ なので $q\notin D^+(S_K)$ であり、$p\notin I^-(D^+(S_K))$、すなわち $p\in H^+(S_K)$ である。$p=(t,x)\in D^+(S_K)$ で $f(p)< c$ なら、$0< \varepsilon< c-f(p)$ に対し $q:=(t+\varepsilon,x)$ は $f(q)=f(p)+\varepsilon< c$ で $D^+(S_K)$ に属し、$p\ll q$ なので $p\notin H^+(S_K)$ である。よって $H^+(S_K)=\{t\ge0,\ f=c\}$ である。$\square$
半空間の場合、$\mathrm{edge}(S_K)=\{(0,x)\mid x^1=0\}$ であり、$H^+(S_K)$ は光的な半超平面である。その生成線は縁の点 $(0,y)$($y^1=0$)から出る光的な半直線 $s\mapsto(s,\ y-se_1)$($s\ge0$、$e_1$ は第 1 座標の単位ベクトル)で、過去の端点が縁にあり、未来には延長不可能である。閉球の場合、$H^+(S_K)$ は $S_K$ を底面とする円錐の側面で、生成線は縁の球面の点 $(0,x_0+re)$($\lvert e\rvert=1$)から頂点 $(r,x_0)$ へ向かう光的な線分 $s\mapsto(s,\ x_0+(r-s)e)$($0\le s\le r$)である。どちらも thm-cauchy-horizon-generators と合っている。閉球の地平面はコンパクトで、頂点では滑らかな超曲面でない。生成線は頂点で互いに交わり、その先へは地平面の外に出る。
$M:=\mathbb R^{1+n}\setminus\{o\}$、$o:=(1,0)$ に Minkowski 計量を制限した時空を考え、$S:=\{(0,x)\mid x\in\mathbb R^n\}$ とおく。$S$ は $M$ の閉じた非因果的な集合で、縁は空である。このとき
$$
D^+(S)=\{(t,x)\mid t\ge0,\ t-1< \lvert x\rvert\},\qquad H^+(S)=\{(t,x)\mid t>1,\ t-1=\lvert x\rvert\},\qquad H^-(S)=\emptyset
$$
である。すなわち、除いた点 $o$ の未来の光円錐が未来 Cauchy 地平面になり、$D(S)\ne M$ である。生成線は $o$ から出る光的な半直線 $s\mapsto(1+s,se)$($s>0$、$\lvert e\rvert=1$)で、$s\to0$ の極限 $o$ が $M$ にないので過去に延長不可能であり、thm-cauchy-horizon-generators の後半と合っている。さらに $H^+(S)$ は $D^+(S)$ に含まれず、$D^+(S)$ は閉集合でない。
要点:過去にたどる因果曲線が $t=0$ に届かないのは、$o$ に吸い込まれて止まる場合だけである。
$\mathbb R^{1+n}$ での因果関係を $\le_L$、$\ll_L$ と書く。$M$ の因果曲線は $\mathbb R^{1+n}$ の因果曲線でもある。
$D^+(S)$ の決定。$t< 0$ の点は、lem-cauchy-horizon-minkowski-dod の証明と同じく真下への直線で除かれる。$t\ge0$、$t-1\ge\lvert x\rvert$、$(t,x)\ne o$ の点 $p$ から $o$ へ向かう線分 $s\mapsto p+s(o-p)$($0\le s< 1$)は過去向きの因果曲線で、$s\to1$ の極限 $o$ が $M$ にないので過去に延長不可能であり、$t\ge1$ の範囲にとどまるので $S$ と交わらない。よって $p\notin D^+(S)$ である。逆に $t\ge0$、$t-1< \lvert x\rvert$ の点 $p=(t,x)$ から出る過去に延長不可能な因果曲線 $\alpha$ を $t$ でパラメータ付けして $\tau\mapsto(\tau,y(\tau))$ と書く。$\tau$ の下限 $\tau_*$ が有限なら、$y$ は 1-Lipschitz なので $\tau\downarrow\tau_*$ で $\mathbb R^{1+n}$ の点 $(\tau_*,y_*)$ に収束する。$\alpha$ は $M$ で過去に延長不可能なので、この点は $M$ になく $o$ である。すると $\lvert x-0\rvert=\lim\lvert y(t)-y(\tau)\rvert\le t-1$ となり、仮定に反する。よって $\tau$ は $-\infty$ まで動き、$\alpha$ は $\tau=0$ で $S$ の点を通る($o$ の $t$ 座標は $1$ なので、その点は $M$ にある)。以上で $D^+(S)$ の式を得る。
$H^+(S)$ の決定。$\overline{D^+(S)}=\{t\ge0,\ t-1\le\lvert x\rvert\}\setminus\{o\}$ である(閉包は $M$ の中でとる)。$p\in D^+(S)$ については、$\varepsilon>0$ を小さくとると $q=(t+\varepsilon,x)$ も $D^+(S)$ に属し、真上への線分は $o$ を通らないので $p\ll q$ であり、$p\notin H^+(S)$ である。$t\ge0$、$t-1=\lvert x\rvert$、$p\ne o$(したがって $t>1$)の点 $p$ について、$p\ll q$ となる $q=(t',x')\in M$ をとると、$p\ll_Lq$ から $t'-t>\lvert x'-x\rvert$ なので $t'-1>\lvert x\rvert+\lvert x'-x\rvert\ge\lvert x'\rvert$ となり、$q\notin D^+(S)$ である。よって $p\in H^+(S)$ である。
$H^-(S)$。$t\le0$ の点から出る未来に延長不可能な因果曲線は、$t\to\infty$ となるか $o$ に収束して止まるかのどちらかで(上と同じ議論)、どちらの場合も $t=0$ を通る。$t>0$ の点からは $t$ が増える一方なので $S$ と交わらない。よって $D^-(S)=\{t\le0\}$ であり、各点 $p$ について $p-(\varepsilon,0)\in D^-(S)$ と $p-(\varepsilon,0)\ll p$ から $p\in I^+(D^-(S))$ なので $H^-(S)=\emptyset$ である。$\square$
この例では $S$ は大域的双曲な Minkowski 時空の Cauchy 超曲面の名残だが、点を 1 つ除いただけで依存領域が欠け、その欠けの境目が光的な地平面として現れる。thm-cauchy-horizon-empty の 2 の「$H(S)=\emptyset$ なら $D(S)=M$」の対偶の具体例でもある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $D(S)=M$ | ex-cauchy-horizon-punctured | $H(S)=\emptyset$(thm-cauchy-horizon-empty の 1) |
| $p\notin\mathrm{edge}(S)$ | 半空間の $S_K$ の縁の点 $p=(0,y)$($y^1=0$) | $p$ を未来の端点とし $H^+(S)$ に含まれる光的測地線がある(thm-cauchy-horizon-generators) |
| $\mathrm{edge}(S)=\emptyset$ | 閉球の $S_K$ | 生成線が過去に延長不可能(thm-cauchy-horizon-generators の後半) |
2 行目:$H^+(S_K)\subset\{t\ge0\}$ であり、$p=(0,y)$ を未来の端点とする因果曲線の $p$ より前の点では $t< 0$ なので、そのような光的測地線は $H^+(S_K)$ に含まれない。一方 $p\in H^+(S_K)$ である(thm-cauchy-horizon-minkowski の 1)。3 行目:閉球の地平面の生成線は縁の球面に過去の端点をもつ線分であり、$H^+(S_K)\subset\{t\ge0\}$ の中に過去に延長不可能な光的測地線はない。
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