Whitehead積(Whitehead product)とは、空間 $X$ のホモトピー群の元 $\alpha\in\pi_k(X)$、$\beta\in\pi_\ell(X)$ に対し、$S^k\times S^\ell$ の最上次の胞体の付着写像 $S^{k+\ell-1}\to S^k\vee S^\ell$ を $\alpha,\beta$ で $X$ へ送った元 $[\alpha,\beta]\in\pi_{k+\ell-1}(X)$ である。$k=\ell=1$ では基本群の交換子になり、$[\beta,\alpha]=(-1)^{k\ell}[\alpha,\beta]$ をみたし、$k,\ell\ge2$ では双線形である。H空間では消え、懸垂でも消える。偶数次元の球面では恒等写像の類どうしの積が Hopf 不変量 $\pm2$ の無限位数の元になる。
Whitehead 積(Whitehead product)は、空間 $X$ のホモトピー群の 2 つの元 $\alpha\in\pi_k(X)$、$\beta\in\pi_\ell(X)$ から $\pi_{k+\ell-1}(X)$ の元 $[\alpha,\beta]$ を作る演算である。積空間 $S^k\times S^\ell$ は一点和 $S^k\vee S^\ell$ に $(k+\ell)$ 次元の胞体を 1 つ貼った CW 複体であり、その貼り付けに使う写像 $\omega\colon S^{k+\ell-1}\to S^k\vee S^\ell$ を、$\alpha$ と $\beta$ を表す写像で $X$ へ送ったものが $[\alpha,\beta]$ である。$k=\ell=1$ では基本群の交換子になる。一般には、$\alpha$ と $\beta$ を表す写像を並べた $S^k\vee S^\ell\to X$ が $S^k\times S^\ell$ 全体に延びるかどうかの障害を測っている。
Whitehead 積は球面のホモトピー群に早くから現れる。恒等写像の類 $\iota_n\in\pi_n(S^n)$ について、$n$ が偶数なら $[\iota_n,\iota_n]\in\pi_{2n-1}(S^n)$ は Hopf 不変量が $\pm2$ の無限位数の元であり、$\pi_3(S^2)\cong\mathbb Z$ では Hopf 写像の類の $\pm2$ 倍である。一方、H 空間では Whitehead 積はすべて消え(H空間 の定理「H 空間の Whitehead 積は消える」)、懸垂をとっても消える。この記事では符号の規約を固定したうえで、Whitehead 積が代表元によらず自然であること、次数付きの対称性 $[\beta,\alpha]=(-1)^{k\ell}[\alpha,\beta]$、$k,\ell\ge2$ での双線形性、懸垂での消滅を証明し、球面と球面の一点和での計算を述べる。
$m\ge1$ について、$D^m\subset\mathbb R^m$ を閉単位円板、$u_m:=(1,\dots,1)/\sqrt m\in\partial D^m$ とし、$q_m\colon D^m\to S^m$ を境界 $\partial D^m$ を 1 点 $s_0$ につぶす商写像とする。$S^m$ の基点は $s_0$ にとる。
$k,\ell\ge1$ とする。$D^k\times D^\ell\subset\mathbb R^k\times\mathbb R^\ell=\mathbb R^{k+\ell}$ はコンパクトな凸集合で原点を内部にもつので、原点から出る各半直線はその境界とちょうど 1 点で交わる。よって
$$
\rho\colon\partial(D^k\times D^\ell)\to S^{k+\ell-1},\qquad \rho(z):=\frac{z}{|z|}
$$
は連続な全単射であり、コンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので同相写像である。$S^{k+\ell-1}$ の基点を $\rho(u_k,u_\ell)$ にとる。基点が $k,\ell$ によって変わることは、回転による同一視(wp-lem-degree)で吸収する。
$S^k\times S^\ell$ に、$0$ 胞体 $(s_0,s_0)$、$S^k\times\{s_0\}$ をなす $k$ 胞体、$\{s_0\}\times S^\ell$ をなす $\ell$ 胞体、特性写像 $\Phi:=q_k\times q_\ell\colon D^k\times D^\ell\to S^k\times S^\ell$ をもつ $(k+\ell)$ 胞体からなる CW 構造を入れる。$(k+\ell)$ 胞体の付着写像を
$$
\omega_{k,\ell}:=\Phi\circ\rho^{-1}\colon S^{k+\ell-1}\to S^k\vee S^\ell:=S^k\times\{s_0\}\cup\{s_0\}\times S^\ell
$$
とする。基点付き空間 $(X,x_0)$ と基点付き写像 $f\colon S^k\to X$、$g\colon S^\ell\to X$ について、$f\vee g\colon S^k\vee S^\ell\to X$ を $(u,s_0)\mapsto f(u)$、$(s_0,v)\mapsto g(v)$ で定め、
$$
[f,g]:=\bigl[(f\vee g)\circ\omega_{k,\ell}\bigr]\in\pi_{k+\ell-1}(X,x_0)
$$
を $f$ と $g$ の Whitehead 積という。
$\partial(D^k\times D^\ell)=\partial D^k\times D^\ell\cup D^k\times\partial D^\ell$ であり、$\Phi$ は $\partial D^k\times D^\ell$ を $\{s_0\}\times S^\ell$ に、$D^k\times\partial D^\ell$ を $S^k\times\{s_0\}$ に写すので、$\omega_{k,\ell}$ は一点和に値をとる。基点 $\rho(u_k,u_\ell)$ は $\partial D^k\times\partial D^\ell$ の点の像なので $(s_0,s_0)$ に写る。これは H空間 の定義「Whitehead 積」と同じ構成で、境界と球面の同一視を $\rho$ で固定したものである。同一視を向きを逆にする同相写像に替えると、すべての Whitehead 積が一斉に逆元に替わる(wp-lem-degree)。文献によって符号の規約が異なるのはこのためである。
1:$F\colon S^k\times I\to X$、$G\colon S^\ell\times I\to X$ を基点を止めたホモトピーとする。$(F_t\vee G_t)$ は閉集合 $S^k\times\{s_0\}$ と $\{s_0\}\times S^\ell$ の上でそれぞれ連続で、共通部分 $(s_0,s_0)$ で値 $x_0$ が一致するので、$(u,t)\mapsto(F_t\vee G_t)(u)$ は $(S^k\vee S^\ell)\times I$ の上で連続である。よって $(F_t\vee G_t)\circ\omega_{k,\ell}$ は基点を止めたホモトピーである。2:$h\circ(f\vee g)=(hf)\vee(hg)$ による。3:$i_1\vee i_2$ は $S^k\vee S^\ell$ の恒等写像であり、$(f\vee g)\circ\omega_{k,\ell}$ は $f\vee g$ と $\omega_{k,\ell}$ の合成である。$\square$
3 から、すべての Whitehead 積は普遍の例 $[\omega_{k,\ell}]\in\pi_{k+\ell-1}(S^k\vee S^\ell)$ の像である。MP12 §9.3(p. 183)は、この見方で Whitehead 積を自然なホモトピー演算として説明している。
$k=\ell=1$ とする。$D^1\times D^1=[-1,1]^2$、$u_1=1$ で、基点は角 $(1,1)$ である。$f\colon S^1\to X$ の類 $[f]$ を、ループ $t\mapsto f(q_1(2t-1))$($0\le t\le1$)の類とし、$(f\vee g)\circ\omega_{1,1}$ は、定義域の円周を基点から反時計回りにたどるループとみる。正方形の周を $(1,1)$ から反時計回りにたどると、上の辺では第 1 座標が $1$ から $-1$ へ、左の辺では第 2 座標が $1$ から $-1$ へ、下の辺では第 1 座標が $-1$ から $1$ へ、右の辺では第 2 座標が $-1$ から $1$ へ動く。$\Phi$ で写すと、順に $f$ の逆向き、$g$ の逆向き、$f$、$g$ をたどるので、
$$
[f,g]=[f]^{-1}[g]^{-1}[f][g]
$$
である。$X=S^1\vee S^1$ で $\pi_1(X)$ は $2$ つの生成元 $a,b$ の自由群であり、$[a,b^2]=a^{-1}b^{-2}ab^2$ と $[a,b]^2=a^{-1}b^{-1}aba^{-1}b^{-1}ab$ は異なる既約な語なので、$[a,b^2]\neq[a,b]^2$ である。$k=\ell=1$ の Whitehead 積は双線形でない。
$m\ge1$、$p,p'\in S^m$ とし、$\pi_m(X,x_0)$ の元を $(S^m,p)$ からの基点付き写像でも $(S^m,p')$ からの基点付き写像でも表すことにする($p$ を $p'$ に写す回転 $r$ による合成 $h\mapsto h\circ r$ で同一視する)。写像度 $d$ の基点付き写像 $v\colon(S^m,p)\to(S^m,p')$ と基点付き写像 $h\colon(S^m,p')\to(X,x_0)$ について、$[h\circ v]=d[h]$ である($m=1$ では $[h]^d$)。
要点:$r^{-1}\circ v$ は $(S^m,p)$ の基点付き自己写像で写像度 $d$ をもつので、写像度による分類で $d$ 倍の恒等写像の類に等しい。
同一視が回転の選び方によらないこと:$r,r'$ が $p$ を $p'$ に写す回転なら、$r^{-1}r'$ は $p$ を止める回転であり、$p$ を止める回転の全体は $\mathrm{SO}(m)$ と同型で弧状連結なので($m=1$ では単位元だけ)、$r$ と $r'$ は $p$ を $p'$ に写す回転の道で結べる。これは $h\circ r$ と $h\circ r'$ の基点を止めたホモトピーを与える。
回転の行列式は $1$ なので、写像度 の命題「直交変換の写像度」により $\deg r=1$ であり、同記事の命題「写像度の基本性質」により $w:=r^{-1}\circ v\colon(S^m,p)\to(S^m,p)$ の写像度は $d$ である。球面のホモトピー群 の命題「消滅域と対角線」の 2(写像度による同型 $\pi_m(S^m)\cong\mathbb Z$)により $[w]=d[\mathrm{id}]$ である。$(h\circ r)_*$ は準同型なので $[h\circ v]=[(h\circ r)\circ w]=(h\circ r)_*[w]=d[h\circ r]$ であり、$[h\circ r]$ は同一視で $[h]$ にあたる。$\square$
$k,\ell\ge1$、$\alpha\in\pi_k(X)$、$\beta\in\pi_\ell(X)$ について $[\beta,\alpha]=(-1)^{k\ell}[\alpha,\beta]$ である。$k=\ell=1$ では $[\beta,\alpha]=[\alpha,\beta]^{-1}$ を意味する。
要点:座標のブロックの入れ替え $\sigma(x,y)=(y,x)$ は付着写像 $\omega_{k,\ell}$ と $\omega_{\ell,k}$ を結び、境界の球面の上で写像度 $(-1)^{k\ell}$ をもつ。
$\alpha=[f]$、$\beta=[g]$ とする。$\sigma\colon\mathbb R^k\times\mathbb R^\ell\to\mathbb R^\ell\times\mathbb R^k$、$\sigma(x,y):=(y,x)$ は座標の置換で、$D^k\times D^\ell$ を $D^\ell\times D^k$ に、境界を境界に写し、長さを保つので $\rho\circ\sigma=\sigma\circ\rho$ をみたす。基点については $\sigma(u_k,u_\ell)=(u_\ell,u_k)$ である。$\tau\colon S^k\times S^\ell\to S^\ell\times S^k$ を因子の入れ替えとすると $\Phi_{\ell,k}\circ\sigma=\tau\circ\Phi_{k,\ell}$ なので、$\bar\sigma:=\sigma|_{S^{k+\ell-1}}$ について $\omega_{\ell,k}\circ\bar\sigma=\tau\circ\omega_{k,\ell}$ である。$(g\vee f)\circ\tau$ は $S^k\vee S^\ell$ の上で $f\vee g$ に一致するので$$(g\vee f)\circ\omega_{\ell,k}\circ\bar\sigma=(f\vee g)\circ\omega_{k,\ell}$$となる。$\bar\sigma$ は、$\ell$ 個の座標のブロックを $k$ 個の座標のブロックの前へ移す置換の行列が定める写像で、その置換の符号は $(-1)^{k\ell}$ なので、写像度 の例「座標の入れ替えの写像度」の 1 により $\deg\bar\sigma=(-1)^{k\ell}$ である。wp-lem-degree により $[\alpha,\beta]=(-1)^{k\ell}[\beta,\alpha]$ であり、両辺に $(-1)^{k\ell}$ を掛ければ主張になる。$k=\ell=1$ では群の演算を乗法で書いて $[\alpha,\beta]=[\beta,\alpha]^{-1}$ である。$\square$
wp-ex-pi1 の式でも、$[g,f]=[g]^{-1}[f]^{-1}[g][f]=\bigl([f]^{-1}[g]^{-1}[f][g]\bigr)^{-1}$ と確かめられる。$\alpha=\beta$ とすると、$k$ が奇数のとき $[\alpha,\alpha]=-[\alpha,\alpha]$、すなわち $2[\alpha,\alpha]=0$ が従う。
$\pi_k$ の和は、赤道をつぶす写像 $\nu\colon S^k\to S^k\vee S^k$ を使って $[f]+[g]=[(f\vee g)\circ\nu]$ で定まる(Hat02 §4.1, p. 341)。
$k,\ell\ge2$ とする。$\alpha,\alpha'\in\pi_k(X)$、$\beta,\beta'\in\pi_\ell(X)$ について
$$
[\alpha+\alpha',\beta]=[\alpha,\beta]+[\alpha',\beta],\qquad[\alpha,\beta+\beta']=[\alpha,\beta]+[\alpha,\beta']
$$
である。よって Whitehead 積は双線形写像 $\pi_k(X)\otimes\pi_\ell(X)\to\pi_{k+\ell-1}(X)$ を定める。
要点:普遍の例 $Y=S^k\vee S^k\vee S^\ell$ に帰着させる。$P=(S^k\vee S^k)\times S^\ell$ は $Y$ に $2$ つの $(k+\ell)$ 胞体を貼った CW 複体で、その付着写像が $[a_1,b]$ と $[a_2,b]$ である。$[a_1+a_2,b]$ も $P$ の中の円板の境界として現れ、対 $(P,Y)$ の相対ホモトピー群が相対 Hurewicz の定理でホモロジーと一致するので、円板どうしの関係をホモロジーで確かめればよい。
帰着。 2 つ目の等式は、1 つ目と wp-prop-symmetry から $[\alpha,\beta+\beta']=(-1)^{k\ell}[\beta+\beta',\alpha]=(-1)^{k\ell}\bigl([\beta,\alpha]+[\beta',\alpha]\bigr)=[\alpha,\beta]+[\alpha,\beta']$ と従う(1 つ目を $k$ と $\ell$ の役割を入れ替えて使う)。1 つ目を示す。$Y:=S^k\vee S^k\vee S^\ell$ とし、$a_1,a_2\in\pi_k(Y)$、$b\in\pi_\ell(Y)$ を 3 つの包含の類とする。$\alpha=[f]$、$\alpha'=[f']$、$\beta=[g]$ なら $F:=f\vee f'\vee g\colon Y\to X$ について $F_*a_1=\alpha$、$F_*a_2=\alpha'$、$F_*b=\beta$ なので、wp-prop-natural の 2 により $Y$ で $[a_1+a_2,b]=[a_1,b]+[a_2,b]$ を示せば十分である。
円板の類。 $i_1,i_2\colon S^k\to S^k\vee S^k$ を包含、$p_1,p_2\colon S^k\vee S^k\to S^k$ を一方の成分を恒等写像、他方を基点へ写す写像とする。$P:=(S^k\vee S^k)\times S^\ell$ に積の CW 構造を入れると、$Y=(S^k\vee S^k)\times\{s_0\}\cup\{s_0\}\times S^\ell$ は部分複体で、$P$ は $Y$ に特性写像 $\chi_j:=(i_j\times\mathrm{id})\circ\Phi$($j=1,2$)をもつ $2$ つの $(k+\ell)$ 胞体を貼ったものである。$\chi:=(\nu\times\mathrm{id})\circ\Phi$ とおく。$\chi,\chi_1,\chi_2$ は対の写像 $(D^k\times D^\ell,\partial(D^k\times D^\ell))\to(P,Y)$ で、基点 $(u_k,u_\ell)$ を基点に写すので、相対ホモトピー群 $\pi_{k+\ell}(P,Y)$ の元 $c,c_1,c_2$ を定める($D^k\times D^\ell$ は $\rho$ を動径方向に延ばした同相で円板と同一視する)。境界への制限は $\chi_j\circ\rho^{-1}=(a_j\vee b)\circ\omega_{k,\ell}$、$\chi\circ\rho^{-1}=(\nu\vee\mathrm{id})\circ\omega_{k,\ell}$ の形なので、境界準同型 $\partial\colon\pi_{k+\ell}(P,Y)\to\pi_{k+\ell-1}(Y)$ について$$\partial c=[a_1+a_2,b],\qquad\partial c_j=[a_j,b]$$である。$\partial$ は準同型なので、$c=c_1+c_2$ を示せばよい。
相対 Hurewicz の定理。 $P$ と $Y$ の差は $(k+\ell)$ 胞体だけなので、対 $(P,Y)$ は $(k+\ell-1)$ 連結である(Hat02 Corollary 4.12, p. 351)。$k,\ell\ge2$ なので $Y$ は単連結である。よって相対 Hurewicz 準同型 $h\colon\pi_{k+\ell}(P,Y)\to H_{k+\ell}(P,Y)$ は同型である(Hat02 Theorem 4.37, p. 371)。$h$ は円板の写像 $\psi$ の類を $\psi_*[D,\partial D]$($[D,\partial D]$ は向きの生成元)に写す。$e:=\Phi_*[D,\partial D]\in H_{k+\ell}(S^k\times S^\ell,S^k\vee S^\ell)$ とすると、$h(c_j)=(i_j\times\mathrm{id})_*e$、$h(c)=(\nu\times\mathrm{id})_*e$ である。
ホモロジーでの計算。 $P_j:=p_j\times\mathrm{id}\colon(P,Y)\to(S^k\times S^\ell,S^k\vee S^\ell)$ とする。$P_j\circ(i_j\times\mathrm{id})=\mathrm{id}$ であり、$i\neq j$ なら $P_j\circ(i_i\times\mathrm{id})$ は $S^k\times S^\ell$ 全体を $\{s_0\}\times S^\ell\subset S^k\vee S^\ell$ に写すので相対ホモロジーで $0$ を誘導する。$H_{k+\ell}(P,Y)$ は $2$ つの胞体の類 $h(c_1),h(c_2)$ を基底とする自由アーベル群なので(胞体ホモロジー)、$(P_{1*},P_{2*})$ は $H_{k+\ell}(P,Y)$ から $H_{k+\ell}(S^k\times S^\ell,S^k\vee S^\ell)^{\oplus2}\cong\mathbb Z^2$ への同型である。一方 $p_j\circ\nu$ は基点を止めて恒等写像とホモトピックなので(つぶさない側の半球を $S^k$ 全体へ広げる写像である)、$P_j\circ(\nu\times\mathrm{id})=(p_j\nu)\times\mathrm{id}$ は対の写像として恒等写像とホモトピックであり、$P_{j*}h(c)=e$ である。よって $h(c)=h(c_1)+h(c_2)=h(c_1+c_2)$ で、$h$ が単射なので $c=c_1+c_2$ である。$\square$
$k=\ell=1$ では wp-ex-pi1 のとおり双線形性は成り立たない。$k=1$、$\ell\ge2$ のときは、$\pi_1$ が $\pi_\ell$ に作用することを反映して、Whitehead 積は作用と $\pi_\ell$ の差で表される(Hat02 §4.2, p. 381。この記事では証明しない)。$k,\ell,m\ge2$ のとき、Whitehead 積は符号つきの Jacobi 恒等式もみたし、有理化すると $\pi_{*+1}(X)\otimes\mathbb Q$ は次数をずらした次数付き Lie 代数になる。Quillen はこの Lie 代数を単連結空間の有理ホモトピー型の基本の不変量とし、ループ空間 $\Omega X$ の有理ホモロジーの原始元のなす Lie 代数と同型であることを示した(Qui69 Part I §1, p. 210、Proposition 5.1, p. 224。この記事では証明しない)。ループ空間の側では同じ構造が Samelson 積として現れる(MP12 §9.2, pp. 180–182)。有理ホモトピー論 を参照。
基点付き空間 $(X,x_0)$ について、$\lambda\colon X\to\Omega\Sigma X$ を、$x$ に被約懸垂 $\Sigma X$ の中のループ $t\mapsto[x,t]$ を対応させる写像とする(懸垂 の定義「被約懸垂」)。$\lambda(x_0)$ は定値ループである。懸垂準同型 $E\colon\pi_k(X)\to\pi_{k+1}(\Sigma X)$ を、$\lambda_*\colon\pi_k(X)\to\pi_k(\Omega\Sigma X)$ と同型 $\pi_k(\Omega\Sigma X)\cong\pi_{k+1}(\Sigma X)$(ループ空間 の定理「ホモトピー群のずれ」)の合成で定める。これは $[f]$ を $[\Sigma f]$ に写す写像と一致する(Hat02 §4.J, p. 473)。
$k,\ell\ge1$、$\alpha\in\pi_k(X)$、$\beta\in\pi_\ell(X)$ について $E[\alpha,\beta]=0$ である。
wp-prop-natural の 2 により $\lambda_*[\alpha,\beta]=[\lambda_*\alpha,\lambda_*\beta]$ であり、右辺は $\Omega\Sigma X$ の中の Whitehead 積である。ループの連結を積、定値ループ $\lambda(x_0)$ を単位元とすると、$\Omega\Sigma X$ は H 空間である(ループ空間 の定理「ループ空間は H 群」。単位元のホモトピーはループの径数の付け替えで、定値ループを動かさない)。H空間 の定理「H 空間の Whitehead 積は消える」により $[\lambda_*\alpha,\lambda_*\beta]=0$ であり、$E[\alpha,\beta]=0$ である。$\square$
とくに $E[\iota_n,\iota_n]=0$ である。逆に、懸垂 $E\colon\pi_{2n-1}(S^n)\to\pi_{2n}(S^{n+1})$ の核は $[\iota_n,\iota_n]$ で生成される(Hat02 §4.J, pp. 473–474。James簡約積 の定理「James の定理」による。この記事では証明しない)。Whitehead 積は、懸垂で失われる不安定な情報を担っている。
$n\ge1$ とし、$\iota_n\in\pi_n(S^n)$ を恒等写像の類とする。
1:$J_2(S^n)$ の $2n$ 胞体の付着写像は、$S^n\times S^n$ の $2n$ 胞体の付着写像に折りたたみ写像 $\nabla\colon S^n\vee S^n\to S^n$ を合成したものである(James簡約積 の節「2 番目の段とH空間」)。$\nabla=\mathrm{id}\vee\mathrm{id}$ なので、境界の球面の同一視を $\rho$ にそろえればこれは $(\mathrm{id}\vee\mathrm{id})\circ\omega_{n,n}$ であり、その類は $[\iota_n,\iota_n]$ である。同一視の違いは向きの符号だけを変える(wp-lem-degree)。
2:James簡約積 の系「付着写像の例」の 2 により、$n$ が偶数なら付着写像の Hopf 不変量は $\pm2$ である。Hopf 不変量は写像のホモトピー類だけで決まり、$S^{2n-1}$ の向きを逆にする写像を前から合成すると符号を変える(Hopf不変量 の命題「基本性質」の 1・4、Hat02 §4.B, p. 427)ので、1 により $[\iota_n,\iota_n]$ の Hopf 不変量も $\pm2$ である。Hopf 不変量 $H\colon\pi_{2n-1}(S^n)\to\mathbb Z$ は準同型なので(Hopf不変量 の定理「加法性」、Hat02 Proposition 4B.1, p. 428)、$m\neq0$ なら $H(m[\iota_n,\iota_n])=\pm2m\neq0$ であり、$m[\iota_n,\iota_n]\neq0$ である。
3:wp-prop-symmetry で $\alpha=\beta=\iota_n$ とすると $[\iota_n,\iota_n]=(-1)^{n^2}[\iota_n,\iota_n]=-[\iota_n,\iota_n]$ である($n=1$ では $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ が可換なので $[\iota_1,\iota_1]=0$)。
4:James簡約積 の定理「H 空間であることの判定」により、$S^n$ が H 空間であることと付着写像が零ホモトピックであることは同値であり、1 により後者は $[\iota_n,\iota_n]=0$ と同値である。$\square$
Adams の定理により、$S^n$ が H 空間になるのは $n=0,1,3,7$ に限る(Hopf不変量1の定理)。よって 4 から、奇数 $n$ が $1,3,7$ のどれでもなければ $[\iota_n,\iota_n]$ は位数がちょうど $2$ の元である。$n=1,3,7$ では、$S^1,S^3,S^7$ が単位複素数・単位四元数・単位八元数の積で H 空間になるので(H空間 の例「位相群と単位球面」「7 次元球面と射影空間」)、$[\iota_n,\iota_n]=0$ である。
$\pi_3(S^2)\cong\mathbb Z$ は Hopf 写像 $\eta\colon S^3\to S^2$ の類で生成され(Hopf写像 の節「ホモトピー群と一般化」、Hat02 Example 4.51, p. 380)、$H(\eta)=\pm1$ である(コホモロジー環 の例「Hopf 不変量の計算」の 2)。Hopf 不変量 $H\colon\pi_3(S^2)\to\mathbb Z$ は生成元を $\pm1$ に写す準同型なので同型であり、wp-thm-spheres の 2 の $H([\iota_2,\iota_2])=\pm2$ から
$$
[\iota_2,\iota_2]=\pm2\eta
$$
である。wp-thm-suspension により $E(2\eta)=0$ であり、これは $\pi_4(S^3)\cong\mathbb Z/2$ が $E\eta$ で生成されること(Hat02 Corollary 4J.4, p. 474)と合っている。
$Y:=S^2\vee S^2$ とし、$i_1,i_2$ を包含、$\eta_j:=i_j\circ\eta$ とする。$\pi_3(Y)$ は $\eta_1,\eta_2,[i_1,i_2]$ を基底とする階数 $3$ の自由アーベル群である(Hat02 Example 4.52, pp. 380–381。この記事では証明しない)。
$[i_1,i_2]=[\omega_{2,2}]$ なので、$Y$ に $[i_1,i_2]$ で $4$ 胞体を貼った空間は $S^2\times S^2$ である。$H^2(S^2\times S^2;\mathbb Z)$ の生成元 $x_1,x_2$($2$ つの因子からの引き戻し)は $x_1^2=x_2^2=0$ をみたし、$x_1x_2$ は $H^4$ の生成元である(コホモロジー環 の定理「Künneth の定理(環の形)」)。一般に $\varphi=c_1\eta_1+c_2\eta_2+c_{12}[i_1,i_2]$ で $4$ 胞体を貼った空間では、カップ積の行列($x_ix_j$ を $H^4$ の生成元の何倍かで表したもの)は符号の規約を除いて $\begin{pmatrix}c_1&c_{12}\\ c_{12}&c_2\end{pmatrix}$ になる(Hat02 Proposition 4C.3 の証明, pp. 430–431)。対角成分は Hopf 不変量、非対角成分は Whitehead 積の係数である。単連結な閉 $4$ 次元多様体の交叉形式は、この形で $2$ 次元球面の一点和に $4$ 胞体を貼る写像として読める。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ が H 空間(Whitehead 積の消滅) | $X=S^2$、$[\iota_2,\iota_2]=\pm2\eta$ | $[\alpha,\beta]=0$ |
| $k,\ell\ge2$(双線形性) | wp-ex-pi1 の $X=S^1\vee S^1$ | $[a,b^2]=[a,b]^2$ |
| $n$ が奇数($2[\iota_n,\iota_n]=0$) | $n=2$ の $[\iota_2,\iota_2]=\pm2\eta$ | $2[\iota_n,\iota_n]=0$(無限位数になる) |
| $n\in\{1,3,7\}$($[\iota_n,\iota_n]=0$) | $n=5$ | $[\iota_n,\iota_n]=0$($S^5$ は H 空間でないので、wp-thm-spheres の 4 により $[\iota_5,\iota_5]\neq0$) |
3 行目の $\pm2\eta$ が無限位数であることは、$\pi_3(S^2)\cong\mathbb Z$ と $[\iota_2,\iota_2]\neq0$ から従う。4 行目の $S^5$ が H 空間でないことは Adams の定理による(Hopf不変量1の定理)。$[\iota_5,\iota_5]$ は wp-thm-spheres の 3 により位数 $2$ である。
Whitehead 積は J. H. C. Whitehead が導入した。Hilton は、球面の一点和のホモトピー群が、反復した Whitehead 積を球面のホモトピー群で写したもので表されることを示した(wp-ex-wedge はその最初の場合である。Hat02 p. 381)。懸垂の核を Whitehead 積で表す EHP 完全列は、不安定なホモトピー群の計算の基本の道具である(Hat02 §4.J, p. 474)。
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