変分法(calculus of variations)とは、関数 $u$ を変数とする汎関数 $J(u)=\int_a^bF(x,u,u')\,dx$ の最大・最小を調べる分野で、最短の曲線、懸垂線、力学の Hamilton の原理はいずれもこの形の問題である。端点を固定した最小点は Euler–Lagrange 方程式 $\frac{d}{dx}F_p=F_y$ を満たし、これは変分法の基本補題と du Bois-Reymond の補題から $u$ の 2 階微分を仮定せずに導かれる。被積分関数が $(u,u')$ について凸なら方程式の解は最小点になるが、凸でなければ停留点でも最小とは限らない。最小点の存在は、反射的な空間での弱コンパクト性と凸関数の弱下半連続性を使う直接法で示される。
変分法(calculus of variations)は、関数を変数とする量(汎関数)の最大・最小を調べる解析学の分野である。2 点を結ぶ曲線のうち最も短いもの、回転させたときの曲面の面積が最小になる曲線、決められた長さの紐で囲む面積が最大になる形(Didoの問題)、運動の軌道を作用の停留点として捉える力学の原理などが、どれも「関数 $u$ を動かして積分 $J(u)=\int_a^bF\bigl(x,u(x),u'(x)\bigr)\,dx$ を最小(または最大)にする」という形の問題になる。紐の長さのような制約が付くこともある。
有限個の変数の関数の極値では、極値点で勾配が $0$ になる(極値 の定理「極値点での勾配(Fermat の定理)」)。変分法ではこれに当たる条件が、未知の関数 $u$ についての微分方程式
$$
\frac{d}{dx}F_p\bigl(x,u,u'\bigr)=F_y\bigl(x,u,u'\bigr)
$$
になる。これを Euler–Lagrange 方程式 という($F=F(x,y,p)$ で、$F_y$・$F_p$ は $y$・$p$ についての偏導関数)。この記事では、変分法の基本補題を証明して Euler–Lagrange 方程式を導き、凸性があれば方程式の解が実際に最小になることを示す。そのうえで、最小点が存在しない例を見て、関数解析の道具(反射的な空間での弱コンパクト性と、凸関数の弱下半連続性)で最小点の存在を示す 直接法 を述べる。
この記事では実数値関数だけを扱う。$C^1([a,b])$ は $[a,b]$ 上で連続な導関数をもつ関数の全体で、$\|v\|_{C^1}:=\max|v|+\max|v'|$ とおく。
$a< b$、$\alpha,\beta\in\mathbb{R}$ とし、$F\colon[a,b]\times\mathbb{R}\times\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を、$F(x,y,p)$ とその偏導関数 $F_y$、$F_p$ がどれも連続な関数とする。
$u,h\in C^1([a,b])$ とする。$\varphi(\varepsilon):=J(u+\varepsilon h)$ は $\varepsilon=0$ で微分可能で、
$$
\varphi'(0)=\int_a^b\Bigl(F_y\bigl(x,u,u'\bigr)\,h+F_p\bigl(x,u,u'\bigr)\,h'\Bigr)\,dx
$$
である。右辺を $\delta J(u)[h]$ と書き、$J$ の $u$ での 第 1 変分 という。
$R:=\max|u|+\max|u'|+\max|h|+\max|h'|$ とおき、コンパクト集合 $K:=[a,b]\times[-R,R]^2$ をとる。$|\varepsilon|\le1$ なら、以下に現れる点 $(x,y,p)$ はすべて $K$ に入る。$x$ を固定して $y=u(x)$、$p=u'(x)$、$\eta=h(x)$、$\zeta=h'(x)$ と書くと、
$$
F(x,y+\varepsilon\eta,p+\varepsilon\zeta)-F(x,y,p)=\bigl[F(x,y+\varepsilon\eta,p+\varepsilon\zeta)-F(x,y,p+\varepsilon\zeta)\bigr]+\bigl[F(x,y,p+\varepsilon\zeta)-F(x,y,p)\bigr]
$$
であり、各括弧に 1 変数の平均値の定理(平均値の定理 の定理「平均値の定理」)を使うと、ある $\theta_1,\theta_2\in(0,1)$ で
$$
\frac{F(x,y+\varepsilon\eta,p+\varepsilon\zeta)-F(x,y,p)}{\varepsilon}=F_y(x,y+\theta_1\varepsilon\eta,p+\varepsilon\zeta)\,\eta+F_p(x,y,p+\theta_2\varepsilon\zeta)\,\zeta
$$
となる($\eta=0$ や $\zeta=0$ の項は両辺とも $0$ である)。$F_y$、$F_p$ は $K$ の上で一様連続なので(一様連続 の定理「Heine–Cantorの定理」)、$\varepsilon\to0$ のとき右辺は $x$ について一様に $F_y(x,u,u')\,h+F_p(x,u,u')\,h'$ に近づく。したがって積分と極限を交換でき、$\varphi'(0)=\delta J(u)[h]$ を得る。$\square$
$\sigma>0$ に対し $\tau>0$ を、$K$ の 2 点の距離が $\tau$ 未満なら $F_y$、$F_p$ の値の差が $\sigma$ 未満になるようにとる。$0< |\varepsilon|< \tau/R$ なら、右辺の 2 つの点と $(x,y,p)$ との距離は $|\varepsilon|(|\eta|+|\zeta|)\le|\varepsilon|R< \tau$ なので、すべての $x$ で、差商と $F_y\,h+F_p\,h'$ との差の絶対値は $\sigma(|h|+|h'|)\le\sigma R$ 以下である。$[a,b]$ で積分すると $\bigl|\frac{\varphi(\varepsilon)-\varphi(0)}{\varepsilon}-\delta J(u)[h]\bigr|\le\sigma R(b-a)$ であり、$\sigma$ は任意である。
$u$ が $J$ の局所最小点なら、$h\in\mathcal{V}$ に対し、$|\varepsilon|$ が小さければ $\|u+\varepsilon h-u\|_{C^1}=|\varepsilon|\,\|h\|_{C^1}< r$ なので、$\varphi$ は $\varepsilon=0$ で極小になり、$\varphi'(0)=0$、すなわち $\delta J(u)[h]=0$ である。この条件を満たす $u\in\mathcal{A}$ を $J$ の 停留点 という。停留の条件は「すべての $h\in\mathcal{V}$ に対する積分の等式」の形をしている。これを微分方程式に書き直すのが次の 2 つの補題である。
$f\in C([a,b])$ が、すべての $h\in\mathcal{V}$ について $\int_a^bf\,h\,dx=0$ を満たすなら、$[a,b]$ 上で $f\equiv0$ である。
$f(c)\ne0$ となる $c$ があったとする。$f$ は連続なので $c\in(a,b)$ としてよく、$-f$ に替えて $f(c)>0$ としてよい。$\delta>0$ を、$[c-\delta,c+\delta]\subset(a,b)$ かつその上で $f>0$ となるようにとる。
$$
h(x):=\begin{cases}(x-c+\delta)^2(c+\delta-x)^2&(|x-c|\le\delta)\\0&(\text{それ以外})\end{cases}
$$
とおくと、$h$ は $[c-\delta,c+\delta]$ の両端で値も導関数も $0$ になる多項式なので $h\in C^1([a,b])$ であり、$h(a)=h(b)=0$ である。$(c-\delta,c+\delta)$ の上では $fh>0$ なので $\int_a^bfh\,dx>0$ となり、仮定に反する。$\square$
$g\in C([a,b])$ が、すべての $h\in\mathcal{V}$ について $\int_a^bg\,h'\,dx=0$ を満たすなら、$g$ は定数関数である。
$c:=\frac1{b-a}\int_a^bg\,dx$ とし、$h(x):=\int_a^x\bigl(g(t)-c\bigr)\,dt$ とおく。微分積分学の基本定理により $h\in C^1([a,b])$、$h'=g-c$ であり(微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」)、$h(a)=0$、$h(b)=\int_a^bg-c(b-a)=0$ なので $h\in\mathcal{V}$ である。仮定と $\int_a^bh'\,dx=h(b)-h(a)=0$ から
$$
\int_a^b(g-c)^2\,dx=\int_a^b(g-c)\,h'\,dx=\int_a^bg\,h'\,dx-c\int_a^bh'\,dx=0
$$
である。$(g-c)^2$ は連続で $0$ 以上なので、$g\equiv c$ である。$\square$
変分法の基本補題は変分学の基本補題とも呼ばれる。$\mathbb{R}^n$ の開集合の上の局所可積分関数についての版、du Bois-Reymond の補題の局所可積分関数の版、その多変数の類似(弱勾配が $0$ なら定数)は 変分法の基本補題 にある。
$u\in\mathcal{A}$ が $J$ の停留点(とくに局所最小点)なら、関数 $x\mapsto F_p\bigl(x,u(x),u'(x)\bigr)$ は $[a,b]$ 上で $C^1$ 級であり、
$$
\frac{d}{dx}F_p\bigl(x,u(x),u'(x)\bigr)=F_y\bigl(x,u(x),u'(x)\bigr)\qquad(x\in[a,b])
$$
が成り立つ。
$F_y$、$F_p$ を $(x,u(x),u'(x))$ での値を表す $[a,b]$ 上の連続関数とみる。$G(x):=\int_a^xF_y\,dt$ とおくと、$G\in C^1([a,b])$、$G'=F_y$ である(微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」)。$h\in\mathcal{V}$ に部分積分を使うと(部分積分 の定理「部分積分の公式」)、$h(a)=h(b)=0$ より
$$
\int_a^bF_y\,h\,dx=\bigl[G\,h\bigr]_a^b-\int_a^bG\,h'\,dx=-\int_a^bG\,h'\,dx
$$
である。停留の条件 $\delta J(u)[h]=0$ は、したがって
$$
\int_a^b\bigl(F_p-G\bigr)\,h'\,dx=0\qquad(h\in\mathcal{V})
$$
と書ける。$F_p-G$ は連続なので、lem-cv-dubois により定数 $C$ に等しい。よって $F_p=G+C$ は $C^1$ 級で、その導関数は $G'=F_y$ である。$\square$
この形の証明では $u$ が $C^1$ 級であることしか使わず、$u''$ の存在を仮定していない。$u$ と $F$ が $C^2$ 級なら、合成関数の微分(連鎖律 の定理「多変数の連鎖律」)により、方程式は $(a,b)$ の上で
$$
F_{px}+F_{py}\,u'+F_{pp}\,u''=F_y
$$
という 2 階の常微分方程式になる。これが Euler–Lagrange 方程式の通常の形である。ここで $F_{px}$ などは 2 階の偏導関数を $(x,u,u')$ で評価したものである。
$F$ が $x$ を含まない($F=F(y,p)$)とき、$C^2$ 級の停留点 $u\in\mathcal{A}$ について、
$$
F\bigl(u,u'\bigr)-u'\,F_p\bigl(u,u'\bigr)
$$
は $[a,b]$ 上で定数である。
$F$ の偏導関数は連続なので $F$ は全微分可能であり(偏微分 の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)、連鎖律から $\frac{d}{dx}F(u,u')=F_y\,u'+F_p\,u''$ である。一方 thm-cv-euler-lagrange により $F_p(u,u')$ は微分可能で導関数は $F_y$ なので、積の微分から $\frac{d}{dx}\bigl(u'F_p\bigr)=u''F_p+u'F_y$ である。差をとると $0$ になる。$\square$
$u\in C^1([a,b])$ が $u(a)=\alpha$ を満たし、$u(b)$ に条件を付けない集合 $\{v\in C^1([a,b]): v(a)=\alpha\}$ の上で $J$ を最小にするとする。このとき $u$ は Euler–Lagrange 方程式を満たし、さらに $F_p\bigl(b,u(b),u'(b)\bigr)=0$ である。
$\mathcal{V}$ の元 $h$ について $u+\varepsilon h$ は同じ集合に入るので、thm-cv-euler-lagrange の証明がそのまま使え、$F_p$ は $C^1$ 級で導関数は $F_y$ である。次に $h(x):=x-a$ とおくと $u+\varepsilon h$ も同じ集合に入るので、lem-cv-first-variation から $\delta J(u)[h]=0$ である。部分積分により
$$
0=\int_a^b\bigl(F_y\,h+F_p\,h'\bigr)\,dx=\int_a^b\bigl((F_p)'\,h+F_p\,h'\bigr)\,dx=\bigl[F_p\,h\bigr]_a^b=F_p\bigl(b,u(b),u'(b)\bigr)\,(b-a)
$$
なので、$F_p\bigl(b,u(b),u'(b)\bigr)=0$ である。$\square$
この条件は、固定しない端点で自然に課される境界条件なので 自然境界条件 という。
$u'=\sinh\frac{x-d}{c}$、$\sqrt{1+u'^2}=\cosh\frac{x-d}{c}$ なので、$F_p=uu'/\sqrt{1+u'^2}=c\sinh\frac{x-d}{c}$ であり、$\frac{d}{dx}F_p=\cosh\frac{x-d}{c}=\sqrt{1+u'^2}=F_y$ となる。
停留点は最小点とは限らないが、被積分関数が凸なら、停留点はつねに最小点である。
各 $x\in[a,b]$ について $(y,p)\mapsto F(x,y,p)$ が $\mathbb{R}^2$ 上の凸関数であるとする。
段 1(接平面の不等式).$g\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を偏導関数が連続な凸関数とし、$w,z\in\mathbb{R}^2$ とする。$0< t\le1$ なら凸性から $g(w+t(z-w))\le(1-t)g(w)+tg(z)$ なので
$$
\frac{g\bigl(w+t(z-w)\bigr)-g(w)}{t}\le g(z)-g(w)
$$
である。$g$ は全微分可能なので(偏微分 の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)、$t\to0^+$ で左辺は $\nabla g(w)\cdot(z-w)$ に近づき(同じ記事の命題「全微分可能な関数の方向微分」)、
$$
g(z)\ge g(w)+\nabla g(w)\cdot(z-w)
$$
を得る。$g$ が狭義凸で $z\ne w$ なら、中点 $m=\frac{z+w}2$ について $g(m)< \frac{g(z)+g(w)}2$ と、上の不等式を $m$ に使った $g(m)\ge g(w)+\frac12\nabla g(w)\cdot(z-w)$ から、狭い不等号 $g(z)>g(w)+\nabla g(w)\cdot(z-w)$ が従う。
段 2(最小性).$v\in\mathcal{A}$ とし、$h:=v-u\in\mathcal{V}$ とおく。段 1 を各 $x$ で $g=F(x,\cdot,\cdot)$、$w=(u,u')$、$z=(v,v')$ に使うと
$$
F(x,v,v')-F(x,u,u')\ge F_y(x,u,u')\,h+F_p(x,u,u')\,h'
$$
である。積分して Euler–Lagrange 方程式 $F_y=(F_p)'$ を使うと
$$
J(v)-J(u)\ge\int_a^b\bigl((F_p)'\,h+F_p\,h'\bigr)\,dx=\bigl[F_p\,h\bigr]_a^b=0
$$
である。
段 3(一意性).狭義凸のとき $J(v)=J(u)$ とすると、段 2 の不等式の左辺から右辺を引いた連続関数は $0$ 以上で積分が $0$ なので、恒等的に $0$ である。段 1 の狭い不等号から、すべての $x$ で $(v,v')=(u,u')$、すなわち $v=u$ である。$\square$
$F=\sqrt{1+p^2}$ は $p$ について $F_{pp}=(1+p^2)^{-3/2}>0$ なので凸であり(凸関数 の系「2階導関数による判定」)、$y$ を含まないので $(y,p)$ の関数としても凸である。よって ex-cv-el-examples の 1 の線分 $u$ は thm-cv-convex の 1 により $J$ の最小点である。$F$ は $y$ について狭義凸でないので 2 は使えないが、$J(v)=J(u)$ なら段 3 と同じ議論で、すべての $x$ で $\sqrt{1+v'^2}=\sqrt{1+u'^2}+F_p(u')(v'-u')$ となり、$p\mapsto\sqrt{1+p^2}$ の狭義凸性から $v'=u'$、したがって $v=u$ である。こうして、$C^1$ 級のグラフの中では線分がただ 1 つの最短の曲線である。
$[a,b]=[0,2\pi]$、$F=p^2-y^2$、$\alpha=\beta=0$ とする。$u\equiv0$ は $F_y=-2u=0$、$F_p=2u'=0$ を満たすので停留点である。しかし $h(x)=\sin\frac x2$ は $h(0)=h(2\pi)=0$ を満たし、
$$
J(h)=\int_0^{2\pi}\Bigl(\frac14\cos^2\frac x2-\sin^2\frac x2\Bigr)\,dx=\frac\pi4-\pi=-\frac{3\pi}4<0=J(0)
$$
なので、$0$ は最小点でない。さらに $J(th)=t^2J(h)\to-\infty$($t\to\infty$)なので、$J$ は下に有界でもない。$F$ は $y$ について凸でなく、thm-cv-convex の仮定が外れている。
Euler–Lagrange 方程式は最小点がもし存在すれば満たす条件であり、最小点の存在そのものは別の問題である。下に有界な汎関数でも、下限が $C^1$ 級の関数でとられないことがある。
$[a,b]=[-1,1]$、$\alpha=-1$、$\beta=1$、$F=x^2p^2$ とし、$J(v)=\int_{-1}^1x^2v'^2\,dx$ とする。$J\ge0$ であり、$\inf_{\mathcal{A}}J=0$ だが、$J(v)=0$ となる $v\in\mathcal{A}$ はない。
実際、$\varepsilon>0$ について $u_\varepsilon(x):=\arctan(x/\varepsilon)/\arctan(1/\varepsilon)$ は $\mathcal{A}$ に属し、$J(u_\varepsilon)\le2\varepsilon/\arctan(1/\varepsilon)\to0$ である。逆に $J(v)=0$ なら、連続関数 $x^2v'^2\ge0$ の積分が $0$ なので、$x\ne0$ で $v'(x)=0$ となる。$v$ は $[-1,0]$ と $[0,1]$ のそれぞれで定数で、$x=0$ で連続なので $[-1,1]$ 全体で定数になり、$v(-1)=-1\ne1=v(1)$ に反する。
$A:=\arctan(1/\varepsilon)$ とおくと $u_\varepsilon'(x)=\dfrac{\varepsilon}{A(\varepsilon^2+x^2)}$ であり、$x^2\le\varepsilon^2+x^2$ から $x^2u_\varepsilon'^2\le\dfrac{\varepsilon^2}{A^2(\varepsilon^2+x^2)}$ である。$\int_{-1}^1\frac{\varepsilon^2}{\varepsilon^2+x^2}\,dx=2\varepsilon A$ なので $J(u_\varepsilon)\le2\varepsilon/A$ を得る。$\varepsilon\to0$ で $A\to\pi/2$ である。
$u_\varepsilon$ は $\varepsilon\to0$ で、$0$ で跳ぶ関数 $\operatorname{sgn}x$ に近づく。最小化列が $C^1([a,b])$ の中で収束しないことが問題なので、もっと広い空間で極限をとり、そこで最小点を探すことになる。そのための一般的な枠組みが次の定理である。
$E$ を実数体上の反射的な Banach 空間、$A\subset E$ を空でない閉凸集合とし、$\Phi\colon A\to(-\infty,+\infty]$ が次を満たすとする。
$\Phi$ の値が下限に近づく点列 $(x_n)$ は、強圧性により有界になり、$E$ の反射性により弱収束する部分列をもつ。$A$ は閉凸なので弱閉であり、凸で下半連続な $\Phi$ は弱下半連続なので、その弱極限が $A$ の中の最小点になる。詳しい証明は 変分法の直接法 の定理「反射的な空間での直接法」にある。$\square$
証明の流れ ── 最小化列をとる、強圧性で有界にする、弱コンパクト性で部分列を収束させる、弱下半連続性で極限が最小点になることを示す ── を 直接法 という。Weierstrass の例では、最小化列 $u_\varepsilon$ の $C^1$ ノルムが有界にならず($u_\varepsilon'(0)=1/(\varepsilon A)\to\infty$、$A=\arctan(1/\varepsilon)$)、この流れは強圧性の段で切れる。直接法を使うには、汎関数が強圧的になるノルムを選び、そのノルムで完備かつ反射的な空間をとる必要がある。そこで、関数とその弱微分を $L^2$ で測る Sobolev 空間(Sobolev空間の基本事項)のような反射的な空間で最小点を求め、そのあとで滑らかさを調べる。定理の仮定(強圧性、$A$ の閉性、$\Phi$ の下半連続性・凸性、$E$ の反射性)を 1 つずつ外して最小値がとられなくなる反例は、変分法の直接法 の節「仮定を外すと成り立たなくなること」の表にある。
$H$ を、$g\in L^2(0,1)$(実数値)で $\int_0^1g=0$ を満たすものによって $u(x)=\int_0^xg(t)\,dt$ と書ける関数 $u$ の全体とし、内積 $\langle u,v\rangle_H:=\int_0^1u'v'\,dx$ を入れる($u'=g$)。$f\in L^2(0,1)$(実数値)と $\lambda\ge0$ に対して
$$
\mathcal{J}(v):=\frac12\int_0^1v'^2\,dx+\frac\lambda2\int_0^1v^2\,dx-\int_0^1fv\,dx\qquad(v\in H)
$$
とおく。このとき
$H$ が Hilbert 空間であることと、$|v(x)|\le\sqrt x\,\|v\|_H$、$\|v\|_{L^2}^2\le\frac12\|v\|_H^2$ が成り立つことは、Lax–Milgramの定理 の「境界値問題の弱解」の節で示されている(そこでは複素数値だが、実数値の関数の全体は同じ議論で実 Hilbert 空間になる)。とくに $u\mapsto\int_0^1fu$ と $u\mapsto\int_0^1u^2$ は $H$ 上で連続である。
1 を示す。$u,v\in H$ について、展開すると
$$
\mathcal{J}(u+v)=\mathcal{J}(u)+B(u,v)+Q(v),\quad B(u,v):=\int_0^1u'v'+\lambda\int_0^1uv-\int_0^1fv,\quad Q(v):=\frac12\int_0^1v'^2+\frac\lambda2\int_0^1v^2
$$
であり、$Q(v)\ge\frac12\|v\|_H^2$ である。すべての $v$ で $B(u,v)=0$ なら、$v\ne0$ で $\mathcal{J}(u+v)>\mathcal{J}(u)$ となり、$u$ は最小点(しかもただ 1 つ)である。逆に $u$ が最小点なら、$\varepsilon\in\mathbb{R}$ について $\mathcal{J}(u+\varepsilon v)=\mathcal{J}(u)+\varepsilon B(u,v)+\varepsilon^2Q(v)$ は $\varepsilon=0$ で最小なので、$B(u,v)=0$ である。
2 を示す。$H$ は Hilbert 空間なので反射的である(反射的Banach空間 の命題「Hilbert 空間は反射的」)。$\mathcal{J}$ は連続であり、ノルムの 2 乗と $\int v^2$ は凸、$\int fv$ は線形なので凸である。Cauchy–Schwarz の不等式から $\bigl|\int_0^1fv\bigr|\le\|f\|_{L^2}\|v\|_{L^2}\le\|f\|_{L^2}\|v\|_H/\sqrt2$ なので
$$
\mathcal{J}(v)\ge\frac12\|v\|_H^2-\frac{\|f\|_{L^2}}{\sqrt2}\|v\|_H\to+\infty\qquad(\|v\|_H\to\infty)
$$
であり、強圧的である。thm-cv-direct を $E=A=H$ に使うと最小点が存在し、1 の証明から最小点はただ 1 つである。$\square$
1 の弱い形の方程式の解は、Lax–Milgramの定理 の定理「区間上の Dirichlet 問題の弱解」でも得られる。微分方程式の解を汎関数の最小点として求めるこの考え方を Dirichlet の原理 という。
thm-cv-convex の仮定を 1 つずつ外した反例を挙げる。3 行目は、被積分関数が凸でも、最小点を $C^1([a,b])$ の中で探すと見つからないことがある例でもある。thm-cv-direct の仮定を 1 つずつ外した反例は、上に述べたとおり 変分法の直接法 の表にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $F$ が $(y,p)$ について凸(thm-cv-convex の前提) | $[0,2\pi]$、$F=p^2-y^2$、$\alpha=\beta=0$(ex-cv-not-minimal) | 停留点 $u\equiv0$ が最小点である |
| $F$ が狭義凸(thm-cv-convex の 2) | $F=p$ | 最小点がただ 1 つ |
| Euler–Lagrange 方程式を満たす $u\in\mathcal{A}$ がある(thm-cv-convex の 1。$F$ は凸のまま) | $[-1,1]$、$F=x^2p^2$、$\alpha=-1$、$\beta=1$(ex-cv-weierstrass) | $J$ が $\mathcal{A}$ の上で最小値をとる |
1 行目:$u\equiv0$ は Euler–Lagrange 方程式を満たし、外れているのは凸性だけである。2 行目:$F=p$ は $(y,p)$ について線形なので凸だが、狭義凸でない。$F_y=0$、$F_p=1$ なので、すべての $u\in\mathcal{A}$ が Euler–Lagrange 方程式を満たし、$J(v)=\int_a^bv'\,dx=\beta-\alpha$ は $\mathcal{A}$ の上で一定である。$\mathcal{A}$ は線分と、線分に $(x-a)(b-x)$ を足した関数とを含むので、最小点は 2 つ以上ある。3 行目:各 $x$ で $(y,p)\mapsto x^2p^2$ は凸である。Euler–Lagrange 方程式を満たす $u\in\mathcal{A}$ があれば thm-cv-convex の 1 により最小点になり、ex-cv-weierstrass に反するので、そのような $u$ はない。
第 1 変分と Euler–Lagrange 方程式の導出は LS90 Ch. 3 §15(pp. 182–185)にあり、そこでも du Bois-Reymond の補題で $u''$ を仮定せずに導いている(p. 184)。自由な端点での境界条件も同じ箇所(p. 185)にある。直接法の定理は Bre11 Corollary 3.23(p. 71)で、弱下半連続性は Corollary 3.9(p. 61)、弱収束部分列は Theorem 3.18(p. 69)である。du Bois-Reymond の補題の $L^1_{\mathrm{loc}}$ 版は 変分法の基本補題 の定理「du Bois-Reymond の補題」にある。1 次元の Dirichlet の原理は Bre11 Proposition 8.15(p. 221、$\lambda=1$ の場合)にある。
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