Gabriel–Popescuの定理

概要

Gabriel–Popescuの定理(Gabriel–Popescu theorem)とは、生成対象 $G$ を持つGrothendieck圏 $\mathcal A$ が、環 $R:=\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)$ 上の加群の圏の局所化として実現されることを述べる定理である。抽象的な公理だけで定義されたGrothendieck圏が、実は具体的な加群の圏の「良い商」として常に具体的に表せることを保証する、Grothendieck圏の理論における中心的な構造定理である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アーベル圏, 完全関手, 充満忠実関手, Grothendieck圏

定義

Gabriel–Popescuの定理

Grothendieck圏 $\mathcal A$ が生成対象 $G$ を持つとし、$R:=\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)$$G$ の自己準同型環)とする。$\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,X)$ に、$r\in R$$f\mapsto f\circ r$ で右から作用させることにより右 $R$ 加群の構造を与え、関手
$$ T\colon\mathcal A\longrightarrow\mathrm{Mod}\text{-}R,\qquad T(X):=\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,X) $$
を考える。このとき:
(i) $T$充満忠実関手である。
(ii) $T$ は完全な左随伴関手 $F\colon\mathrm{Mod}\text{-}R\to\mathcal A$ を持つ(すなわち $F$完全関手である)。
したがって $\mathcal A$ は、$\mathrm{Mod}\text{-}R$ のある局所化する部分圏($F$ の核として定まる)による商圏に圏同値である。

直感

生成対象の定義(Grothendieck圏参照)は、$\operatorname{Hom}(G,-)$ が忠実であることしか保証しない——これは「異なる射を異なる写像に区別できる」という弱い情報である。Gabriel–Popescuの定理の主張はこれよりはるかに強く、$\operatorname{Hom}(G,-)$充満でもあること、すなわち $R:=\operatorname{End}(G)$ 加群の間の射がすべて $\mathcal A$ の射から来ることを述べる。これは(AB5)条件(フィルター余極限の健全性)と生成対象の存在を同時に使う、Grothendieck圏に特有の現象であり、一般のアーベル圏では成り立たない。
この定理の意義は、抽象的な公理系((AB5)+生成対象)で定義されたGrothendieck圏が、実は必ず「馴染み深い」加群の圏 $\mathrm{Mod}\text{-}R$ の中に(局所化を通じて)具体的に実現できることを保証する点にある。層の圏やねじれ理論に現れる様々なGrothendieck圏は、この定理を通じて加群の圏の言葉に翻訳して調べることができる。

加群の圏自身の場合

$\mathcal A=\mathrm{Mod}\text{-}R$ 自身とし、生成対象を $G=R$(右正則加群)に取る。このとき $\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)=\operatorname{End}_{\mathrm{Mod}\text{-}R}(R)\cong R$ であり、$T=\operatorname{Hom}_{\mathrm{Mod}\text{-}R}(R,-)\colon\mathrm{Mod}\text{-}R\to\mathrm{Mod}\text{-}R$ は(米田の補題の意味で)恒等関手と自然同型になる。この場合、$T$ の左随伴 $F$ も恒等関手であり、局所化する部分圏は零部分圏(自明な局所化)である。Gabriel–Popescuの定理はこの自明な場合を境界例として含んでいる。

性質

$T$の忠実性

上の $T=\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)$ は忠実である。

$G$ は生成対象であるから、Grothendieck圏の定義により $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)\colon\mathcal A\to\mathbf{Ab}$ は忠実である。$T$ はこの関手に $R$ 加群としての追加構造を与えたものにすぎず、台となる集合(台となるアーベル群)の間の写像は $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)$ が与えるものとまったく同じであるから、$T$ もまた忠実である。$\blacksquare$

充満性・完全左随伴の存在(引用)

$T$ が実際に充満であること(prop-gabriel-popescu-faithfulの忠実性と合わせて充満忠実関手であることを示す)、および完全な左随伴 $F$ が存在することの証明は、(AB5)条件と生成対象の存在を本質的に組み合わせた技術的な議論を要し、本記事の範囲を大きく超える。原論文(Gabrielの学位論文Gab62、Popescu–Gabrielの論文PG64)、あるいは標準的な教科書(Pop73Ste75第X章)に証明が詳しく述べられている。本記事ではこれらを標準的な事実として引用する。

関連項目

参考文献

[1]
Pierre Gabriel, Des catégories abéliennes, Bulletin de la Société Mathématique de France, 1962, 323–448
[2]
Nicolae Popescu, Pierre Gabriel, Caractérisation des catégories abéliennes avec générateurs et limites inductives exactes, Comptes Rendus de l'Académie des Sciences (Paris), 1964, 4188–4190
[3]
Nicolae Popescu, Abelian Categories with Applications to Rings and Modules, Academic Press, 1973
[4]
Bo Stenström, Rings of Quotients, 1975, Springer

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