極大トーラスの共役定理

同義語:conjugacy theorem for maximal toriconjugacy of maximal tori極大トーラス定理maximal torus theoremCartanの極大トーラス定理

概要

極大トーラスの共役定理(conjugacy theorem for maximal tori)とは、連結なコンパクト Lie 群 $G$ とその極大トーラス $T$ について、$G$ のどの元も $T$ の元に共役であり、$G$ の極大トーラスはすべて互いに共役であるという定理である。ユニタリ行列のユニタリ対角化や、空間の回転が回転軸をもつことはその特別な場合にあたる。帰結として、$G$ の指数写像は全射で、中心はすべての極大トーラスの共通部分に等しく、類関数は $T$ への制限で決まる。連結性やコンパクト性を外すと成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lie群, トーラス, ユニタリ群, Hopf–Rinowの定理

ユニタリ行列はユニタリ行列による共役で対角行列にできる。空間の回転には必ず回転軸があり、座標を取り替えると $z$ 軸のまわりの回転になる。どちらも「群の元を、扱いやすい可換な部分群の元に共役で移せる」という主張である。極大トーラスの共役定理(conjugacy theorem for maximal tori)は、これを連結なコンパクト Lie 群全体に広げたものである。連結なコンパクト Lie 群 $G$ の極大トーラス $T$ について、$G$ のどの元も $T$ の元に共役であり、$G$ の極大トーラスはすべて互いに共役である。É. Cartan に由来するこの定理により、$G$ の共役類や類関数は可換な群 $T$ の上で調べられ、Weyl群 や表現論(Weylの指標公式)の出発点になる。
この記事では次のことを扱う。

  1. 設定と、極大トーラスの Lie 環が自分自身の中心化環に一致すること(lem-mt-centralizer)。
  2. Lie 環の元はすべて、極大トーラスの Lie 環の元に共役であること(thm-mt-lie-algebra)。不変な内積をもつ関数の最大値を使う G. A. Hunt の議論による。
  3. $\mathrm{U}(N)$ の閉部分群である連結なコンパクト Lie 群では指数写像が全射であること(lem-mt-exp)。測地線と Hopf–Rinow の定理による。
  4. 主定理(thm-mt-main)と、中心がすべての極大トーラスの共通部分であること(cor-mt-center)。
  5. 仮定を外すと崩れる例。

設定と定義

$M_N(\mathbb{C})$ を実ベクトル空間とみて、内積 $\langle X,Y\rangle:=\operatorname{Re}\operatorname{tr}(X^*Y)$ を入れる。これは成分の実部と虚部を並べた $\mathbb{R}^{2N^2}$ の標準内積であり、$\lvert X\rvert:=\langle X,X\rangle^{1/2}$ と書く。$N$ 次ユニタリ群を $\mathrm{U}(N)$、その Lie 環(歪 Hermite 行列の全体)を $\mathfrak{u}(N)$ と書く(ユニタリ群)。
以下、$G$ は $\mathrm{U}(N)$ の閉部分群とする。どのコンパクト Lie 群も、ある $\mathrm{U}(N)$ の閉部分群と位相群として同型である(Peter–Weylの定理 の系「コンパクトLie群の忠実な有限次元表現」)。下で述べる主張のうち、トーラス・共役・中心についてのものは位相群の言葉だけで書けるので、この仮定で一般性は失われない。指数写像についての主張(thm-mt-main の 3 の後半と lem-mt-exp)は、この記事では $G$ が $\mathrm{U}(N)$ の閉部分群である場合に述べる。
$\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ は $\mathrm{GL}_{2N}(\mathbb{R})$ の閉部分群とみなせるので、閉部分群定理により $G$ は行列 Lie 群であり(Lie群 の定理「閉部分群定理(Cartan)」)、その Lie 環は
$$ \mathfrak{g}:=T_IG=\{X\in M_N(\mathbb{C})\mid \text{すべての }t\in\mathbb{R}\text{ で }e^{tX}\in G\} $$
である(同じ記事の定理「1 径数部分群と Lie 環」)。$G$ の閉部分群 $H$ の Lie 環 $\mathfrak{h}$ も同じ式で定め、$\mathfrak{h}\subset\mathfrak{g}\subset\mathfrak{u}(N)$ である。

使う基本事項

この記事では次を使う。$G\subset\mathrm{U}(N)$ を閉部分群とする。

  1. $\mathfrak{g}$ は実線形部分空間で、$X,Y\in\mathfrak{g}$、$x\in G$ なら $[X,Y]=XY-YX\in\mathfrak{g}$、$xXx^{-1}\in\mathfrak{g}$ である(Lie群 の命題「Lie 環は交換子で閉じている」とその証明)。
  2. 指数写像 $\exp\colon\mathfrak{g}\to G$、$X\mapsto e^X$ の $0$ での微分は $\mathfrak{g}=T_IG$ の恒等写像なので、逆写像定理により、$0$ の近傍を $I$ の $G$ での近傍に微分同相に写す。
  3. $x\in G$ での接空間は $T_xG=x\mathfrak{g}=\{xX\mid X\in\mathfrak{g}\}$ である(左からの積 $y\mapsto xy$ は $G$ の微分同相で、その微分は $X\mapsto xX$)。
  4. $XY=YX$ なら $e^{X+Y}=e^Xe^Y$ である。
  5. $x\in\mathrm{U}(N)$ なら $\langle xX,xY\rangle=\langle Xx,Yx\rangle=\langle X,Y\rangle$、とくに $\langle xXx^{-1},xYx^{-1}\rangle=\langle X,Y\rangle$ である($x^*x=I$ と跡の巡回性)。$Z\in\mathfrak{u}(N)$ について $x=e^{sZ}$ とおいて $s=0$ で微分すると、$\langle [Z,X],Y\rangle+\langle X,[Z,Y]\rangle=0$ を得る。
トーラスと極大トーラス

$G$ の部分群 $T$ で、位相群として $\mathbb{T}^r=\mathbb{R}^r/\mathbb{Z}^r$($r\ge0$)と同型なものを $G$ の トーラス という。$G$ のトーラス $T$ が、$T$ を真に含む $G$ のトーラスをもたないとき、$T$ を $G$ の 極大トーラス(maximal torus)という。

これは Weyl群 の定義「トーラスと極大トーラス」と同じである。トーラスはコンパクトなので $G$ の閉部分群であり、その Lie 環 $\mathfrak{t}$ が定まる。

極大トーラスの共役定理

$G$ を連結なコンパクト Lie 群、$T$ をその極大トーラスとする。

  1. $G$ のどの元 $g$ にも、$xgx^{-1}\in T$ となる $x\in G$ がある。つまり $G=\bigcup_{x\in G}xTx^{-1}$ である。
  2. $G$ のどの極大トーラス $T'$ にも、$T'=xTx^{-1}$ となる $x\in G$ がある。とくに極大トーラスの次元は $T$ の選び方によらない。
  3. $G$ のどの元も、ある極大トーラスに属する。また指数写像 $\mathfrak{g}\to G$ は全射である。
階数と証明の構成

極大トーラスの次元を $G$ の 階数(rank)という。証明は prf-mt-main で、次の節からの補題を組み合わせて行う。

可換な部分群と極大トーラスの Lie 環

連結な可換閉部分群はトーラス

$A$ を $G$ の連結で可換な閉部分群とし、$\mathfrak{a}$ をその Lie 環、$r:=\dim\mathfrak{a}$ とする。このとき $\mathfrak{a}$ の元どうしは可換で、$\exp\colon\mathfrak{a}\to A$ は全射な準同型であり、その核は $\mathfrak{a}$ の格子である。とくに $A$ は $\mathbb{T}^r$ と同型なトーラスである。さらに、$G$ のどのトーラス $S$ についても $S=\exp(\mathfrak{s})$ である。

要点:可換性から $\exp$ は準同型になり、像は開部分群なので連結な $A$ 全体である。核は離散部分群なので格子の一部であり、$A$ のコンパクト性から階数が $r$ になる。

詳しい証明を開く

段 1($\mathfrak{a}$ は可換):$X,Y\in\mathfrak{a}$ なら $e^{sX}e^{tY}=e^{tY}e^{sX}$ がすべての $s,t$ で成り立つ。両辺を $s$ と $t$ で 1 回ずつ微分して $s=t=0$ とおくと $XY=YX$ である。

段 2($\exp$ は全射な準同型):段 1 と rem-mt-facts の 4 から $e^{X+Y}=e^Xe^Y$ なので、$\exp|_{\mathfrak{a}}$ は加法群 $\mathfrak{a}$ から $A$ への準同型で、像 $E$ は部分群である。rem-mt-facts の 2 を $A$ に当てると、$E$ は $I$ の $A$ での近傍 $V$ を含む。$y\in E$ なら $yV\subset E$ なので $E$ は開集合であり、$A\setminus E$ は開集合 $yE$($y\notin E$)の和なので $E$ は閉集合でもある。$A$ は連結なので $E=A$ である。また $\exp(X+Y)=e^Xe^Y$ と rem-mt-facts の 2 から、$\exp|_{\mathfrak{a}}$ は各点の近くで開写像である。

段 3(核は格子):核 $\Lambda$ は部分群で、rem-mt-facts の 2 により $0$ の近傍 $U$ で $U\cap\Lambda=\{0\}$ となるものがあるので、離散部分群である。格子(群) の定理「離散部分群の構造」により、一次独立な $v_1,\dots,v_m\in\mathfrak{a}$ で $\Lambda=\mathbb{Z}v_1+\dots+\mathbb{Z}v_m$ となるものがある。これを $\mathfrak{a}$ の基底 $v_1,\dots,v_r$ に延ばす。段 2 により $\exp$ は連続な全単射 $\mathfrak{a}/\Lambda\to A$ を引き起こし、これは開写像でもあるので同相写像である。$m< r$ なら $\sum_it_iv_i\mapsto t_r$ は $\mathfrak{a}/\Lambda$ から $\mathbb{R}$ への全射な連続写像を定め、像が有界でないので $\mathfrak{a}/\Lambda$ はコンパクトでない。$A$ はコンパクトなので $m=r$ であり、$\sum_it_iv_i\mapsto(t_i)$ を $\mathbb{Z}^r$ で割って $A\cong\mathfrak{a}/\Lambda\cong\mathbb{R}^r/\mathbb{Z}^r$ を得る。

段 4:トーラス $S$ は連結で可換な閉部分群なので、段 2 から $S=\exp(\mathfrak{s})$ である。$\square$

次の補題が、極大性を Lie 環の言葉に直す。

極大トーラスの Lie 環は自分の中心化環

$T$ を $G$ の極大トーラス、$\mathfrak{t}$ をその Lie 環とする。$Y\in\mathfrak{g}$ がすべての $H\in\mathfrak{t}$ と $[Y,H]=0$ をみたすなら、$Y\in\mathfrak{t}$ である。とくに、$\mathfrak{t}$ を含む $\mathfrak{g}$ の可換な部分空間は $\mathfrak{t}$ だけである。

要点:$\mathfrak{t}+\mathbb{R}Y$ の指数の像の閉包はトーラスで $T$ を含むので、極大性から $T$ に一致する。

詳しい証明を開く

$\mathfrak{a}:=\mathfrak{t}+\mathbb{R}Y$ は、lem-mt-abelian の段 1 と仮定により可換な部分空間である。rem-mt-facts の 4 から $\exp(\mathfrak{a})$ は可換な部分群で、連結集合 $\mathfrak{a}$ の連続像なので連結である。その閉包 $A$ は $G$ の閉部分群で、可換(積が連続なので可換性は閉包に引き継がれる)かつ連結である。lem-mt-abelian により $A$ はトーラスで、$T=\exp(\mathfrak{t})\subset A$ なので、極大性から $A=T$ である。よってすべての $s$ で $e^{sY}\in T$ となり、$Y\in\mathfrak{t}$ である。後半:$\mathfrak{t}\subset\mathfrak{a}'$ で $\mathfrak{a}'$ が可換なら、$\mathfrak{a}'$ の元は $\mathfrak{t}$ のすべての元と可換なので $\mathfrak{t}$ に属する。$\square$

$H\in\mathfrak{g}$ に対し $\operatorname{ad}H\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}$、$Y\mapsto[H,Y]$ とおく。rem-mt-facts の 5 により $\operatorname{ad}H$ は内積について歪対称である($\langle\operatorname{ad}H(X),Y\rangle=-\langle X,\operatorname{ad}H(Y)\rangle$)。

正則な元

$T$ を $G$ の極大トーラスとする。$H\in\mathfrak{t}$ で、$\ker\operatorname{ad}H=\{Y\in\mathfrak{g}\mid[H,Y]=0\}$ が $\mathfrak{t}$ に一致するものがある。

要点:核の次元が最小の $H$ をとると、その核の上ではほかの $\operatorname{ad}H'$ も $0$ になる。

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$\mathfrak{t}$ は可換なので、どの $H\in\mathfrak{t}$ についても $\mathfrak{t}\subset\ker\operatorname{ad}H$ である。$\dim\ker\operatorname{ad}H$ が最小になる $H\in\mathfrak{t}$ をとり、$K:=\ker\operatorname{ad}H$ とおく。$H'\in\mathfrak{t}$ を任意にとる。Jacobi の恒等式と $[H,H']=0$ から $\operatorname{ad}H\circ\operatorname{ad}H'=\operatorname{ad}H'\circ\operatorname{ad}H$ なので、$\operatorname{ad}H'$ は $K$ を $K$ に写す。歪対称な写像は不変な部分空間の直交補空間も保つので、$\operatorname{ad}H$ と $\operatorname{ad}H'$ はともに $K^\perp$ を保つ。$\operatorname{ad}H$ は $K^\perp$ の上で単射なので可逆であり、可逆な写像の全体は開集合なので、十分小さい $s\ne0$ について $\operatorname{ad}(H+sH')=\operatorname{ad}H+s\operatorname{ad}H'$ も $K^\perp$ の上で可逆である。一方 $K$ の上では $\operatorname{ad}(H+sH')=s\operatorname{ad}H'$ である。よって $\ker\operatorname{ad}(H+sH')=\ker(\operatorname{ad}H'|_K)$ であり、$H$ の選び方から $\dim\ker(\operatorname{ad}H'|_K)\ge\dim K$、すなわち $\operatorname{ad}H'$ は $K$ の上で $0$ である。$H'$ は任意なので、$K$ の元はすべての $H'\in\mathfrak{t}$ と可換であり、lem-mt-centralizer により $K\subset\mathfrak{t}$ である。$\square$

このような $H$ を 正則な元 という。たとえば $G=\mathrm{U}(n)$ で $T$ が対角行列の群のとき、$\mathfrak{t}$ は $\operatorname{diag}(i\theta_1,\dots,i\theta_n)$ の全体で、$\theta_j$ が相異なる $H$ が正則である。$[H,Y]$ の $(j,k)$ 成分は $i(\theta_j-\theta_k)Y_{jk}$ だからである。

Lie 環の共役:最大値の議論

Lie 環の元の共役

$G$ をコンパクト Lie 群($\mathrm{U}(N)$ の閉部分群)、$T$ をその極大トーラスとする。どの $X\in\mathfrak{g}$ にも、$xXx^{-1}\in\mathfrak{t}$ となる $x\in G$ がある。

要点:正則な元 $H$ との内積 $\langle xXx^{-1},H\rangle$ を $x$ について最大にすると、最大点で $[H,xXx^{-1}]=0$ が出る。

詳しい証明を開く

lem-mt-regular の正則な元 $H\in\mathfrak{t}$ をとる。$f(x):=\langle xXx^{-1},H\rangle$ はコンパクトな $G$ の上の連続関数なので、最大値をとる点 $x_0$ がある。$X_0:=x_0Xx_0^{-1}$ とおくと $X_0\in\mathfrak{g}$ である(rem-mt-facts の 1)。$Z\in\mathfrak{g}$ を任意にとると、$e^{sZ}x_0\in G$ なので $\varphi(s):=f(e^{sZ}x_0)=\langle e^{sZ}X_0e^{-sZ},H\rangle$ は $s=0$ で最大になり、$\varphi'(0)=\langle[Z,X_0],H\rangle=0$ である。rem-mt-facts の 5 を 2 回使うと $\langle[Z,X_0],H\rangle=-\langle X_0,[Z,H]\rangle=\langle X_0,[H,Z]\rangle=-\langle[H,X_0],Z\rangle$ なので、すべての $Z\in\mathfrak{g}$ について $\langle[H,X_0],Z\rangle=0$ である。$[H,X_0]\in\mathfrak{g}$ なので $Z=[H,X_0]$ とおいて $[H,X_0]=0$ を得る。正則性から $X_0\in\mathfrak{t}$ である。$\square$

この議論は Hun56 の補題(p. 307)による。Hunt は Lie 環の 2 つの元 $u,v$ について、内部自己同型 $\sigma$ を動かして $\langle u,\sigma(v)\rangle$ を最小にし、$[u,\sigma(v)]=0$ を導いている。上の証明は、その一方を正則な元にとったものである。

最大値の議論を 2 次で見る

$G=\mathrm{U}(2)$、$T$ を対角行列の群、$H=\operatorname{diag}(i,-i)$(正則な元)、$X=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}\in\mathfrak{u}(2)$ とする。$X$ の固有値は $\pm i$ で跡は $0$ なので、共役 $Y=xXx^{-1}$ も跡 $0$、固有値 $\pm i$ の歪 Hermite 行列であり、$Y=\begin{pmatrix}ia&b\\-\bar b&-ia\end{pmatrix}$($a\in\mathbb{R}$、$b\in\mathbb{C}$)と書ける。$Y^2=-(a^2+\lvert b\rvert^2)I$ なので $a^2+\lvert b\rvert^2=1$ であり、$\langle Y,H\rangle=\operatorname{Re}\operatorname{tr}(Y^*H)=2a$ である。これが最大になるのは $a=1$、$b=0$、すなわち $Y=\operatorname{diag}(i,-i)\in\mathfrak{t}$ のときで、最大点で $Y$ がちょうど対角行列になっている。

指数写像の全射性

群の元についての主張に移るには、すべての元が $e^X$($X\in\mathfrak{g}$)の形に書けることが要る。連結でも、コンパクトでない群ではこれが成り立たない(Lie群 の例「反例:連結でも指数写像は全射でない」の $\mathrm{SL}_2(\mathbb{R})$)。コンパクトな群では、$M_N(\mathbb{C})$ の内積から誘導される計量の測地線を使う。

1 径数部分群は測地線

$G\subset\mathrm{U}(N)$ を閉部分群とし、$M_N(\mathbb{C})=\mathbb{R}^{2N^2}$ の内積 $\langle\ ,\ \rangle$ から誘導される Riemann 計量を $G$ に入れる。$X\in\mathfrak{g}$ なら、$c(t):=e^{tX}$ は $G$ の測地線である。

要点:$c$ の加速度 $e^{tX}X^2$ は $T_{c(t)}G$ に直交する。

詳しい証明を開く

$\mathbb{R}^{2N^2}$ の中での加速度は $c''(t)=e^{tX}X^2$ である。rem-mt-facts の 3 により $T_{c(t)}G=e^{tX}\mathfrak{g}$ なので、$Y\in\mathfrak{g}$ について、rem-mt-facts の 5 から $\langle e^{tX}X^2,e^{tX}Y\rangle=\langle X^2,Y\rangle=\operatorname{Re}\operatorname{tr}((X^*)^2Y)=\operatorname{Re}\operatorname{tr}(X^2Y)$ である($X^*=-X$)。$A:=X^2Y$ とおくと、$Y^*=-Y$ から $A^*=Y^*(X^*)^2=-YX^2$ で、$\overline{\operatorname{tr}A}=\operatorname{tr}A^*=-\operatorname{tr}(YX^2)=-\operatorname{tr}A$ なので $\operatorname{tr}A$ は純虚数であり、$\langle c''(t),e^{tX}Y\rangle=0$ である。よって $c''(t)$ は $T_{c(t)}G$ に直交する。曲線に沿う Gauss の公式(Lee18 Corollary 8.3、p. 229)により、$G$ の中での共変微分 $D_tc'$ は $\mathbb{R}^{2N^2}$ での加速度 $c''$ の接成分に等しいので、$D_tc'=0$ であり、$c$ は測地線である。$\square$

指数写像の全射性

$G$ を連結なコンパクト Lie 群($\mathrm{U}(N)$ の閉部分群)とする。どの $g\in G$ にも、$g=e^X$ となる $X\in\mathfrak{g}$ がある。

要点:$I$ と $g$ を結ぶ測地線は、初速度が同じ 1 径数部分群に一致する。

詳しい証明を開く

$G$ はコンパクトで連結な Riemann 多様体なので、Hopf–Rinowの定理 の系「コンパクトなリーマン多様体は完備」により、測地線 $\gamma\colon[0,1]\to G$ で $\gamma(0)=I$、$\gamma(1)=g$ となるものがある。$X:=\gamma'(0)\in T_IG=\mathfrak{g}$ とおくと、lem-mt-geodesic の $c(t)=e^{tX}$ も $c(0)=I$、$c'(0)=X$ をみたす測地線なので、測地線の一意性(測地線 の命題「測地線の局所存在と一意性」)により $[0,1]$ の上で $\gamma=c$ であり、$g=\gamma(1)=e^X$ である。$\square$

主定理の証明

要点:1 は指数写像の全射性と Lie 環の共役から出る。2 は正則な元を共役で $\mathfrak{t}$ に移し、Lie 環の極大性を使う。

詳しい証明を開く

1.lem-mt-exp により $g=e^X$($X\in\mathfrak{g}$)と書ける。thm-mt-lie-algebra により $xXx^{-1}\in\mathfrak{t}$ となる $x\in G$ があり、$xgx^{-1}=e^{xXx^{-1}}\in\exp(\mathfrak{t})=T$ である(lem-mt-abelian)。

2.共役 $y\mapsto xyx^{-1}$ は $G$ の位相群としての自己同型なので、トーラスをトーラスに、極大トーラスを極大トーラスに写し、$xT'x^{-1}$ の Lie 環は $x\mathfrak{t}'x^{-1}$ である($e^{sxYx^{-1}}=xe^{sY}x^{-1}$)。$T'$ について lem-mt-regular の正則な元 $H'\in\mathfrak{t}'$ をとる。thm-mt-lie-algebra により $H'':=xH'x^{-1}\in\mathfrak{t}$ となる $x\in G$ がある。$Y\mapsto xYx^{-1}$ は括弧を保つ $\mathfrak{g}$ の線形同型なので、$\ker\operatorname{ad}H''=x(\ker\operatorname{ad}H')x^{-1}=x\mathfrak{t}'x^{-1}$ である。$H''\in\mathfrak{t}$ で $\mathfrak{t}$ は可換なので $\mathfrak{t}\subset\ker\operatorname{ad}H''=x\mathfrak{t}'x^{-1}$ であり、$x\mathfrak{t}'x^{-1}$ は可換なので lem-mt-centralizer の後半により $\mathfrak{t}=x\mathfrak{t}'x^{-1}$ である。lem-mt-abelian により $T=\exp(\mathfrak{t})=x\exp(\mathfrak{t}')x^{-1}=xT'x^{-1}$ である。

3.1 の $x$ について $g\in x^{-1}Tx$ であり、$x^{-1}Tx$ は極大トーラスである。指数写像の全射性は lem-mt-exp である。$\square$

Hun56(pp. 307–308)は、1 径数部分群 $\{e^{sH}\}$ が $T$ で稠密になる $H\in\mathfrak{t}$ を使って 2 を示し、すべての元が指数の像に入ることから 1 を導いている。上の証明は、稠密な 1 径数部分群の代わりに正則な元(lem-mt-regular)を使い、指数写像の全射性も lem-mt-exp で示した。なお Hun56 は極大トーラスを「極大可換部分群」(maximal Abelian subgroup)とよび、それがトーラスであることを既知として使っている。連結性を課さない文字どおりの極大可換部分群については主張が成り立たない(ex-mt-counterexamples の 4 行目)ので、Hun56 の主張は極大な連結可換部分群、すなわち極大トーラスについてのものと読む。

中心は極大トーラスの共通部分

$G$ を連結なコンパクト Lie 群、$T$ をその極大トーラスとする。$G$ の中心 $Z(G)$ は、$G$ のすべての極大トーラスの共通部分 $\bigcap_{x\in G}xTx^{-1}$ に等しい。とくに $Z(G)\subset T$ であり、$G$ が可換であることと $G$ がトーラスであることは同値である。

要点:中心の元は共役で動かないので、どの極大トーラスにも入る。逆に、どの元も可換な極大トーラスのどれかに入る。

詳しい証明を開く

thm-mt-main の 2 により、極大トーラスの全体は $\{xTx^{-1}\mid x\in G\}$ である。$z\in Z(G)$ とする。thm-mt-main の 1 により $xzx^{-1}\in T$ となる $x$ があり、$xzx^{-1}=z$ なので $z\in T$ である。$T$ の代わりに任意の極大トーラスをとっても同じなので、$z$ はすべての極大トーラスに属する。逆に $z$ がすべての極大トーラスに属するとする。$g\in G$ は thm-mt-main の 3 によりある極大トーラス $T_g$ に属し、$T_g$ は可換で $z\in T_g$ なので $zg=gz$ である。よって $z\in Z(G)$ である。最後に、$G$ が可換なら $G=Z(G)\subset T\subset G$ なので $G=T$ はトーラスであり、トーラスは可換である。$\square$

トーラスは極大トーラスに含まれる

$G$ のどのトーラス $S$ も、ある極大トーラスに含まれる。

要点:トーラスを真に大きくすると次元が真に上がる。

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トーラス $S\subsetneq S'$ について $\mathfrak{s}\subset\mathfrak{s}'$ であり、$\dim\mathfrak{s}=\dim\mathfrak{s}'$ なら $\mathfrak{s}=\mathfrak{s}'$ なので、lem-mt-abelian により $S=\exp(\mathfrak{s})=\exp(\mathfrak{s}')=S'$ となって矛盾する。よって $\dim\mathfrak{s}<\dim\mathfrak{s}'$ である。$S$ を含むトーラスの次元は $\dim\mathfrak{g}$ 以下なので、$S$ を含むトーラスのうち次元が最大のもの $T_0$ がある。$T_0$ を真に含むトーラスは次元がさらに大きいので存在せず、$T_0$ は極大トーラスである。$\square$

thm-mt-main の 1 から、$G$ 上の類関数(共役で値の変わらない関数)$f$ は $T$ への制限で決まる。$xgx^{-1}\in T$ なら $f(g)=f(xgx^{-1})$ だからである。どの $T$ の関数が類関数の制限になるかは Weyl群 で扱う。

例

ユニタリ群の極大トーラス

$G=\mathrm{U}(n)$、$T$ を対角行列の群とする。$T\cong\mathbb{T}^n$ は極大トーラスである(Weyl群 の定理「ユニタリ群と特殊ユニタリ群の Weyl 群」)。thm-mt-main の 1 は、ユニタリ行列がユニタリ行列で対角化できるという事実にあたる(ユニタリ群 の定理「共役類は固有値で決まる」)。2 は、互いに可換なユニタリ行列からなるトーラスが、同じ正規直交基底で同時に対角化できることを含む。cor-mt-center の共通部分 $\bigcap_xxTx^{-1}$ は、どの正規直交基底でも対角になる行列、すなわちすべてのベクトルを固有ベクトルにもつ行列の全体なので、スカラー行列 $\{zI\mid\lvert z\rvert=1\}$ であり、ユニタリ群 の定理「ユニタリ群の中心」と一致する。$\mathrm{U}(n)$ の階数は $n$、$\mathrm{SU}(n)$ の階数は $n-1$ である($\mathrm{SU}(n)$ では行列式 $1$ の対角行列の群が極大トーラス)。

空間の回転の極大トーラス

$G=\mathrm{SO}(3)$、$T=\{R_z(\theta)\}$($z$ 軸のまわりの角 $\theta$ の回転)とする。$T$ は極大トーラスである(Weyl群 の例「回転群 $\mathrm{SO}(3)$ の Weyl 群」)。thm-mt-main の 1 は、どの回転も回転軸をもち、軸を $z$ 軸に移すと $R_z(\theta)$ になるという事実にあたる(回転群 の定理「$\mathrm{SO}(3)$ の共役類」)。極大トーラスは、ある軸のまわりの回転の全体であり、軸の選び方だけ(向きを除いて)ある。$I$ でない回転の回転軸はただ 1 つなので、$z$ 軸のまわりの回転の群と $x$ 軸のまわりの回転の群の共通部分は $\{I\}$ であり、cor-mt-center から $Z(\mathrm{SO}(3))=\{I\}$ である。$\mathrm{SO}(3)$ の階数は $1$ である。

仮定を外すと崩れる例

外す条件・誤った期待反例成り立たなくなること
$G$ が連結$G=\mathrm{O}(2)$、$T=\mathrm{SO}(2)$thm-mt-main の 1(鏡映は $T$ の元に共役でない)
$G$ がコンパクト$G=\mathrm{SL}_2(\mathbb{R})$、$T=\mathrm{SO}(2)$、$u=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$thm-mt-main の 1・3($u$ はどのトーラスにも属さない)
$T$ が極大$G=\mathrm{U}(2)$、$T_1=\{zI\}$thm-mt-main の 1($\operatorname{diag}(1,-1)$ は $T_1$ の元に共役でない)
誤った期待:可換な部分群はトーラスに入る$G=\mathrm{SO}(3)$ の $V=\{I,\operatorname{diag}(1,-1,-1),\operatorname{diag}(-1,1,-1),\operatorname{diag}(-1,-1,1)\}$$V$ はどのトーラスにも含まれない。極大トーラスを「極大な可換部分群」に替えた主張
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1 行目:トーラスは連結なので $\mathrm{O}(2)$ の単位元の連結成分 $\mathrm{SO}(2)$ に含まれ、$\mathrm{SO}(2)$ 自身がトーラスなので、$T$ は極大トーラスである。鏡映 $r=\operatorname{diag}(1,-1)$ の共役はすべて行列式が $-1$ なので $\mathrm{SO}(2)$ に入らない。$\mathrm{O}(2)$ はコンパクトで、外れているのは連結性だけである(極大トーラスが $\mathrm{SO}(2)$ だけなので、2 は成り立っている)。

2 行目:$\mathrm{SL}_2(\mathbb{R})$ は連結だがコンパクトでない。$\mathrm{SO}(2)$ と可換な $2$ 次実行列は $aI+bJ$($J$ は $90$ 度の回転)の形で、行列式 $1$ なら $a^2+b^2=1$ なので $\mathrm{SO}(2)$ に属する。よって $\mathrm{SO}(2)$ を含む可換な部分群は $\mathrm{SO}(2)$ だけで、$T=\mathrm{SO}(2)$ は極大トーラスである。$u$ があるトーラス $S$ に属するなら、$u^k=\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}$ はすべてコンパクト集合 $S$ に入るが、成分 $k$ は有界でないので矛盾する。共役 $xux^{-1}$ についても同じなので、$u$ は $T$ の元に共役でない。

3 行目:$T_1\cong\mathrm{U}(1)$ はトーラスだが、対角行列の群に真に含まれるので極大でない。$T_1$ の元は中心に属するので共役で動かず、$\operatorname{diag}(1,-1)$ はスカラー行列でないので $T_1$ の元に共役でない。

4 行目:$V$ は可換な部分群である。$V$ があるトーラス $S$ に含まれるとすると、lem-mt-contained と thm-mt-main の 2 により $S\subset xTx^{-1}$($T=\{R_z(\theta)\}$)となる $x$ があり、$V$ は円周 $\mathbb{T}^1$ と同型な群に含まれる。$\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ で位数 $2$ の元は $\frac12$ だけなのに、$V$ には位数 $2$ の元が $3$ つあるので矛盾する。さらに、$\operatorname{diag}(1,-1,-1)$ と可換な回転は固有空間 $\mathbb{R}e_1$ を保ち、$\operatorname{diag}(-1,1,-1)$ と可換な回転は $\mathbb{R}e_2$ を保つので、$V$ のすべての元と可換な回転は各座標軸を保つ対角行列で、成分は $\pm1$、行列式は $1$ である。よって $V$ は極大な可換部分群である。$T$ も極大な可換部分群だが(Weyl群 の例「回転群 $\mathrm{SO}(3)$ の Weyl 群」で $Z_G(T)=T$)、$V$ は有限群なので $T$ と共役でない。

補足

歴史と別の証明

定理は É. Cartan による。Hun56(p. 307)は、A. Weil と Hopf–Samelson が位相的な証明を与えたことを述べ、その代わりに thm-mt-lie-algebra の最大値の議論による証明を与えた。位相的な証明の筋は次のとおりである(FH91 Theorem 26.16 の証明の概略、p. 441)。$z\in G$ による $G/T$ の左移動 $yT\mapsto zyT$ はどれも恒等写像とホモトピックなので、その Lefschetz 数は $G/T$ の Euler 標数に等しい。Euler 標数が $0$ でないことを示せば Lefschetz の不動点定理から不動点 $yT$ があり、$y^{-1}zy\in T$ となる。この記事ではこの方法は使っていない。

Weyl 群との関係

Weyl群 の定理「極大トーラスへの共役と Weyl 群」は、Lie 環が半単純な連結コンパクト Lie 群について、どの元も $T$ の元に共役であること、$Z_G(T)=T$、類関数と $W(G,T)$ 不変な関数の対応、ルート系の Weyl 群との同型を述べている。その 1 は thm-mt-main の 1 の特別な場合であり、この記事で証明した。類関数の対応は FH91 Corollary 26.17(p. 441)にあり、$Z_G(T)=T$ は同書 Theorem 26.16 の証明の概略(p. 441)で使われている。どちらもこの記事では証明しない。

関連項目

参考文献

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