Malfattiの円(Malfatti circles)とは、三角形 $ABC$ の中の 3 つの円で、それぞれ頂点 $A,B,C$ をはさむ 2 辺に接し、どの 2 つも外接するものである。半径を $r_1,r_2,r_3$ とすると $r_1\cot\frac A2+2\sqrt{r_1r_2}+r_2\cot\frac B2=c$ などの 3 本の式が成り立つ。1 辺 $1$ の正三角形では Malfatti の円はただ 1 組で、半径はどれも $\frac{\sqrt3-1}4$、面積の和 $\frac{3\pi(2-\sqrt3)}8$ は、内接円と 2 つの角の円の面積の和 $\frac{11\pi}{108}$ より小さい。したがって、面積の和が最大の 3 つの円を三角形から切り出す Malfatti の問題の答えは、正三角形では Malfatti の円ではない。
前提知識: 三角形の内心と傍心, 2円の位置関係と共通接線, 三角形の半角公式, 相似変換と相似の中心
1 辺の長さが $1$ の正三角形の中に、互いに重ならない 3 つの円を置く。3 つの円の面積の和をできるだけ大きくしたい。まず思いつくのは、3 つの同じ大きさの円を、それぞれ 1 つの角に寄せて 2 辺に接させ、隣どうしも接するように置く配置である。
正三角形 $ABC$(1 辺 $1$)の中に、半径 $\rho$ の円 $\omega_A$、$\omega_B$、$\omega_C$ を置く。$\omega_A$ は辺 $AB$、$AC$ に、$\omega_B$ は辺 $BA$、$BC$ に、$\omega_C$ は辺 $CA$、$CB$ に接し、3 つの円は互いに外接するとする。
(1) 頂点から接点までの長さ。$\omega_A$ の中心を $P$、$\omega_A$ が辺 $AB$ に接する点を $T$ とする。$P$ は 2 辺 $AB$、$AC$ から等しい距離 $\rho$ にあるので、角 $A$ の二等分線の上にある。三角形 $APT$ は $\angle ATP=90^\circ$、$\angle PAT=30^\circ$ の直角三角形なので
$$
AT=\frac{PT}{\tan30^\circ}=\sqrt3\,\rho
$$
である。$\omega_B$ が辺 $AB$ に接する点を $T'$ とすると、同じく $BT'=\sqrt3\,\rho$ である。
(2) 2 つの接点の間。$\omega_A$ と $\omega_B$ は同じ半径 $\rho$ で辺 $AB$ に接しているので、2 つの中心は辺 $AB$ から同じ高さ $\rho$ にあり、中心を結ぶ線分は $AB$ に平行である。外接しているので中心の距離は $2\rho$ で、$TT'=2\rho$ である。
(3) 辺 $AB$ の長さを足し合わせると $AT+TT'+T'B=1$ なので
$$
\sqrt3\,\rho+2\rho+\sqrt3\,\rho=1,\qquad \rho=\frac1{2\sqrt3+2}=\frac{\sqrt3-1}{4}\approx0.1830
$$
である(分母と分子に $\sqrt3-1$ を掛けて $(2\sqrt3+2)(\sqrt3-1)=4$ を使った)。
(4) 面積の和は
$$
3\pi\rho^2=3\pi\cdot\frac{(\sqrt3-1)^2}{16}=3\pi\cdot\frac{4-2\sqrt3}{16}=\boxed{\frac{3\pi(2-\sqrt3)}8}\approx0.3157
$$
である。
同じ正三角形で、別の置き方を試す。まず内接円を置く。内接円の半径は $r=\dfrac{\sqrt3}6$ である(面積 $\dfrac{\sqrt3}4$ を半周長 $\dfrac32$ で割る。三角形の内心と傍心)。
残りの隙間は 3 つの角の近くにある。角 $A$ の近くに、2 辺 $AB$、$AC$ と内接円に接する円 $\omega$ を置く。$\omega$ の半径を $\rho'$ とすると、中心は角 $A$ の二等分線の上で $A$ から距離 $\dfrac{\rho'}{\sin30^\circ}=2\rho'$ のところにある。内接円の中心 $I$ は $A$ から距離 $2r$ にある。$\omega$ と内接円は外接するので、中心の距離は半径の和で
$$
2r-2\rho'=r+\rho',\qquad \rho'=\frac r3=\frac{\sqrt3}{18}
$$
である。このような円を 2 つの角(たとえば $A$ と $B$)に置くと、3 つの円の面積の和は
$$
\pi r^2+2\pi\left(\frac r3\right)^2=\frac{11}9\pi r^2=\frac{11}9\pi\cdot\frac1{12}=\boxed{\frac{11\pi}{108}}\approx0.3200
$$
で、ex-mal-start の $0.3157$ より大きい。
正三角形の中で互いに接し、それぞれ 2 辺に接する等しい 3 つの円。面積の和は約 0.3157
内接円と、2 つの角に置いた小さな円。面積の和は約 0.3200 で、左の配置より大きい
3 つの円がきちんと互いに接している ex-mal-start の配置の方が、面積の和は小さかった。ex-mal-start の 3 つの円を Malfatti の円 といい、「三角形から面積の和が最大になる 3 つの円を切り出す」問題を Malfatti の問題 という。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 頂点から接点まで $\sqrt3\,\rho$ | $\rho\cot\dfrac A2$(lem-mal-corner) | 角の二等分線の上の相似 |
| 接点の間 $2\rho$ | 共通接線の長さ $2\sqrt{r_1r_2}$(lem-mal-tangent) | 平方根による変数の置きかえ |
| 1 辺の長さを足し合わせる | 3 本の連立方程式 | 非線形の連立方程式 |
| 2 つの配置の面積を比べる | Malfatti の円は最大ではない | 制約つきの最大化 |
以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、角の大きさを $A$、$B$、$C$、半周長を $s=\dfrac{a+b+c}2$、内接円の半径を $r$ とする。「三角形の中の円」は、円とその内部が三角形の周と内部に含まれることをいう。
三角形 $ABC$ の中の 3 つの円 $\omega_A$、$\omega_B$、$\omega_C$ が次をみたすとき、これらを三角形 $ABC$ の Malfatti の円 という(Wei26)。
(R1) $\omega_A$ は辺 $AB$、$AC$ に、$\omega_B$ は辺 $BC$、$BA$ に、$\omega_C$ は辺 $CA$、$CB$ に接する。
(R1) 3 つの円はどの 2 つも外接する。
三角形の中に、どの 2 つも内部が重ならない 3 つの円を置くとき、面積の和を最大にする置き方を求める問題を Malfatti の問題 という。
$\omega_A$、$\omega_B$、$\omega_C$ の半径を $r_1$、$r_2$、$r_3$ とする($r$ は内接円の半径)。ex-mal-start は正三角形で $r_1=r_2=r_3=\dfrac{\sqrt3-1}4$ の Malfatti の円を求めたものであり、ex-mal-start-greedy は Malfatti の問題の 1 つの候補を示したものである。
条件 (i) だけでは円の大きさは決まらない。たとえば正三角形で、各頂点の 2 辺に接する半径 $0.1$ の円を 3 つ置くことができる(3 つの円は互いに離れている)。条件 (ii) の「どの 2 つも外接する」が、3 つの半径を決める式を与える。
Malfatti の円の式は、ex-mal-start の (1)(2) を一般の三角形でやり直せば得られる。そのための道具を 2 つ用意する。
三角形 $ABC$ の中の半径 $\rho$ の円が、辺 $AB$、$AC$ に接するとする。このとき
(1) 円の中心は角 $A$ の二等分線の上にあり、円が辺 $AB$ に接する点 $T$ について $AT=\rho\cot\dfrac A2=\dfrac{\rho(s-a)}r$ である。
(2) $\rho\le r$ であり、したがって $AT\le s-a$ である。
要点:(1) 中心は 2 辺から等距離なので二等分線の上にあり、直角三角形 $ATP$ で $\tan\dfrac A2=\dfrac\rho{AT}$ である。$\tan\dfrac A2=\dfrac r{s-a}$ は 三角形の半角公式 の命題「内接円の半径と半角の正接」。(2) この円は、$A$ を中心とする相似比 $\dfrac\rho r$ の相似拡大による内接円の像である。$\rho>r$ なら、内接円と辺 $BC$ の接点の像が三角形の外に出てしまう。
(1) 円の中心 $P$ は 2 直線 $AB$、$AC$ から距離 $\rho$ にあり、三角形の中にあるので角 $A$ の内部にある。2 直線から等距離にある点で角の内部にあるものは、角の二等分線の上にある(三角形の内心と傍心)。接線は接点を通る半径に垂直なので $\angle ATP=90^\circ$、$\angle PAT=\dfrac A2$ で、直角三角形 $ATP$ から $\tan\dfrac A2=\dfrac{PT}{AT}=\dfrac\rho{AT}$、つまり $AT=\rho\cot\dfrac A2$ である。三角形の半角公式 の命題「内接円の半径と半角の正接」により $\tan\dfrac A2=\dfrac r{s-a}$ なので、$\cot\dfrac A2=\dfrac{s-a}r$ である。
(2) 内接円も 2 辺 $AB$、$AC$ に接し、中心 $I$ は同じ二等分線の上にある。$A$ を中心とする相似比 $k=\dfrac\rho r$ の相似拡大(相似変換と相似の中心)は、直線 $AB$、$AC$ をそれぞれ自分自身に移し、内接円を「中心が二等分線の上にあり、$AB$、$AC$ に接する半径 $\rho$ の円」、つまりもとの円に移す。仮に $\rho>r$、つまり $k>1$ だったとする。内接円が辺 $BC$ に接する点 $D$ は、$A+k(D-A)$ に移る。$D$ は辺 $BC$ の上にあり $k>1$ なので、この点は直線 $BC$ について $A$ と反対側にあり、三角形の外にある。これは円が三角形の中にあることに反する。よって $\rho\le r$ であり、$AT=\dfrac{\rho(s-a)}r\le s-a$ である。$\square$
半径 $\rho_1$、$\rho_2$ の 2 つの円が外接し、どちらも直線 $\ell$ に同じ側から接するとする。$\ell$ との接点を $T_1$、$T_2$ とすると
$$
T_1T_2=2\sqrt{\rho_1\rho_2}
$$
である。
$\ell$ は 2 つの円の共通外接線で、線分 $T_1T_2$ はその長さである。2円の位置関係と共通接線 の命題「共通接線の長さ」により、中心の距離を $d$ とすると $T_1T_2=\sqrt{d^2-(\rho_1-\rho_2)^2}$ である。外接しているので $d=\rho_1+\rho_2$ で
$$
T_1T_2=\sqrt{(\rho_1+\rho_2)^2-(\rho_1-\rho_2)^2}=\sqrt{4\rho_1\rho_2}=2\sqrt{\rho_1\rho_2}
$$
である。途中で $(\rho_1+\rho_2)^2-(\rho_1-\rho_2)^2=4\rho_1\rho_2$(展開すると $\rho_1^2$、$\rho_2^2$ が打ち消し合う)を使った。$\square$
角 A に入る円の接点までの長さは ρ cot(A/2)、1 本の直線に接して外接する 2 円の接点の間は 2√(ρ1ρ2)
三角形 $ABC$ の Malfatti の円 $\omega_A$、$\omega_B$、$\omega_C$ の半径を $r_1$、$r_2$、$r_3$ とすると
$$
\begin{aligned}
r_1\cot\frac A2+2\sqrt{r_1r_2}+r_2\cot\frac B2&=c,\\
r_2\cot\frac B2+2\sqrt{r_2r_3}+r_3\cot\frac C2&=a,\\
r_3\cot\frac C2+2\sqrt{r_3r_1}+r_1\cot\frac A2&=b
\end{aligned}
$$
が成り立つ。$\cot\dfrac A2=\dfrac{s-a}r$ などを使うと、1 本目は $\dfrac{(s-a)r_1+(s-b)r_2}r+2\sqrt{r_1r_2}=c$ と書ける。
方針:1 本目の式を示す。辺 $AB$ を、頂点 $A$ から $\omega_A$ の接点まで、2 つの接点の間、$\omega_B$ の接点から頂点 $B$ まで、の 3 つに分ける。残りの 2 本は、頂点の名前を $A\to B\to C\to A$ と回せば同じである。
段 1(頂点から接点まで)。$\omega_A$ が辺 $AB$ に接する点を $T_1$、$\omega_B$ が辺 $AB$ に接する点を $T_2$ とする。lem-mal-corner (1) を $\omega_A$ と頂点 $A$ に、$\omega_B$ と頂点 $B$ に使うと
$$
AT_1=r_1\cot\frac A2,\qquad BT_2=r_2\cot\frac B2
$$
である。
段 2(接点の間)。$\omega_A$ と $\omega_B$ は外接し(条件 (ii))、どちらも直線 $AB$ に三角形の側から接する。lem-mal-tangent により $T_1T_2=2\sqrt{r_1r_2}$ である。
段 3(並び順)。$T_1$、$T_2$ は線分 $AB$ の上にある。$A$ から $B$ への向きの長さ $1$ のベクトルを $\vec e$ とすると、$\overrightarrow{AT_1}=AT_1\,\vec e$、$\overrightarrow{AT_2}=(c-BT_2)\,\vec e$ で、
$$
\overrightarrow{T_1T_2}=(c-AT_1-BT_2)\,\vec e
$$
である。lem-mal-corner (2) から $AT_1\le s-a$、$BT_2\le s-b$ なので、$AT_1+BT_2\le(s-a)+(s-b)=2s-a-b=c$ で、$c-AT_1-BT_2\ge0$ である。よって $T_1T_2=c-AT_1-BT_2$ となる。
段 4(まとめ)。段 2 と段 3 から $c-AT_1-BT_2=2\sqrt{r_1r_2}$ で、段 1 を代入すると 1 本目の式を得る。$\square$
段 3 は「$T_1$ が $T_2$ より $A$ に近い」ことを確かめる段である。これを確かめないと、$c=AT_1+BT_2-2\sqrt{r_1r_2}$ の可能性が残る。三角形の中にあるという条件がここで効いている(ex-mal-cx-outside)。
正三角形(1 辺 $1$)では $\cot\dfrac A2=\cot\dfrac B2=\cot\dfrac C2=\sqrt3$ で、3 本の式はどれも $\sqrt3\,r_i+2\sqrt{r_ir_j}+\sqrt3\,r_j=1$ である。$r_1=r_2=r_3=\rho$ とおくと $(2\sqrt3+2)\rho=1$ で、ex-mal-start の $\rho=\dfrac{\sqrt3-1}4$ が得られる。
一般の三角形では、3 本の式を手で解くのは難しい。$u_i=\sqrt{r_i}$ とおくと 3 本とも $u_1,u_2,u_3$ の 2 次式になるので、数値計算(Newton 法)で解ける。3 つの三角形で解いた結果を並べる。
| 三角形 | 角 $A,B,C$ | $r_1$ | $r_2$ | $r_3$ | 面積の和 |
|---|---|---|---|---|---|
| 正三角形(1 辺 $1$) | $60^\circ,60^\circ,60^\circ$ | $0.18301$ | $0.18301$ | $0.18301$ | $0.31567$ |
| $a=3$、$b=4$、$c=5$ | $36.87^\circ,53.13^\circ,90^\circ$ | $0.75200$ | $0.66489$ | $0.50793$ | $3.97595$ |
| $A(0,0)$、$B(8,0)$、$C(-2,3)$ | $123.69^\circ,16.70^\circ,39.61^\circ$ | $0.42902$ | $0.95278$ | $0.79511$ | $5.41623$ |
どの三角形でも、初期値を変えて数値計算しても正の解は 1 組しか見つからなかった。ただし、一般の三角形で Malfatti の円がいつもあり、ただ 1 組に決まることは、この記事では証明しない(正三角形については thm-mal-equilateral で示す)。
3 辺が $3,4,5$ の直角三角形では、ex-mal-corner (1) より $\cot\dfrac A2=3$、$\cot\dfrac B2=2$、$\cot\dfrac C2=1$ なので、3 本の式は
$$
3r_1+2\sqrt{r_1r_2}+2r_2=5,\qquad 2r_2+2\sqrt{r_2r_3}+r_3=3,\qquad r_3+2\sqrt{r_3r_1}+3r_1=4
$$
である。表の値を入れると、3 本とも小数第 5 位まで成り立つ。
$r_1\approx0.75200$、$r_2\approx0.66489$ から $\sqrt{r_1r_2}\approx0.70711$ で
$$3\times0.75200+2\times0.70711+2\times0.66489\approx2.25600+1.41422+1.32978=5.00000$$
となる。中心の位置を座標で計算すると($A(4,0)$、$B(0,3)$、$C(0,0)$ として、$\omega_A$ の中心 $(1.74400,\ 0.75200)$、$\omega_B$ の中心 $(0.66489,\ 1.67021)$、$\omega_C$ の中心 $(0.50793,\ 0.50793)$)、3 つの円が互いに外接し、それぞれ 2 辺に接し、残りの辺から離れていることも確かめられる。
表の直角三角形では、いちばん大きい Malfatti の円は最も小さい角 $A$ に入り、直角の $C$ に入る円がいちばん小さい。鈍角三角形でも、鈍角 $A$ の円がいちばん小さい。この傾向の理由は、この記事では調べない。
3 辺が 3、4、5 の直角三角形の Malfatti の円
鈍角三角形 A(0,0)、B(8,0)、C(−2,3) の Malfatti の円。鈍角 A の円がいちばん小さい
Wei26 には、Malfatti の円の半径と内接円の半径 $r$ の関係として
$$
r=\frac{2\sqrt{r_1r_2r_3}}{\sqrt{r_1}+\sqrt{r_2}+\sqrt{r_3}-\sqrt{r_1+r_2+r_3}}
$$
が載っている。この記事ではこの式を証明しない。上の表の 3 つの三角形では、右辺と $r$ の差は $10^{-12}$ 以下である(正三角形 $r=\dfrac{\sqrt3}6\approx0.28868$、直角三角形 $r=1$、鈍角三角形 $r\approx1.08864$)。
正三角形では正確に確かめられる。
$r_1=r_2=r_3=\rho$ のとき右辺は
$$\frac{2\rho\sqrt\rho}{3\sqrt\rho-\sqrt{3\rho}}=\frac{2\rho}{3-\sqrt3}=\frac{2\rho(3+\sqrt3)}{6}=\frac{(3+\sqrt3)\rho}3$$
で、$\rho=\dfrac{\sqrt3-1}4$ を入れると $\dfrac{(3+\sqrt3)(\sqrt3-1)}{12}=\dfrac{3\sqrt3-3+3-\sqrt3}{12}=\dfrac{\sqrt3}6=r$ となる。
ex-mal-start-greedy の計算を、一般の角で使える形にしておく。
三角形 $ABC$ の中にあって、辺 $AB$、$AC$ と内接円に接し、内接円より頂点 $A$ に近い側にある円の半径は
$$
\rho_A=r\cdot\frac{1-\sin\frac A2}{1+\sin\frac A2}
$$
である。
要点:中心は二等分線の上で $A$ から $\dfrac\rho{\sin\frac A2}$、内接円の中心は $\dfrac r{\sin\frac A2}$ のところにあり、その差が $r+\rho$ に等しい。
lem-mal-corner (1) より、半径 $\rho$ で 2 辺 $AB$、$AC$ に接する円の中心は二等分線の上にあり、$A$ からの距離は $\dfrac\rho{\sin\frac A2}$ である(直角三角形 $ATP$ で $\sin\dfrac A2=\dfrac{PT}{AP}$)。内接円の中心 $I$ の $A$ からの距離は $\dfrac r{\sin\frac A2}$ である。円が内接円より $A$ に近い側にあって外接するので、中心の距離は $\dfrac{r-\rho}{\sin\frac A2}=r+\rho$ で、$r-\rho=(r+\rho)\sin\dfrac A2$、つまり $\rho\left(1+\sin\dfrac A2\right)=r\left(1-\sin\dfrac A2\right)$ である。$\square$
正三角形では $\sin30^\circ=\dfrac12$ で $\rho_A=r\cdot\dfrac{1/2}{3/2}=\dfrac r3$ となり、ex-mal-start-greedy の値と一致する。
1 辺の長さが $1$ の正三角形について、次が成り立つ。
(1) Malfatti の円はただ 1 組で、3 つとも半径 $\dfrac{\sqrt3-1}4$ の円である。面積の和は $\dfrac{3\pi(2-\sqrt3)}8$ である。
(2) 内接円と、2 つの頂点の近くに置いた lem-mal-corner-incircle の円(半径 $\dfrac{\sqrt3}{18}$)の 3 つは、正三角形の中にあってどの 2 つも内部が重ならず、面積の和は $\dfrac{11\pi}{108}$ である。
(3) $\dfrac{3\pi(2-\sqrt3)}8<\dfrac{11\pi}{108}$ である。したがって、正三角形では Malfatti の円は Malfatti の問題の答えではない。
方針:thm-mal-equations の 3 本の式の差をとって 3 つの半径が等しいことを示し、(2) の配置が条件をみたすことを確かめてから、面積を比べる。
段 1(半径は等しい)。Malfatti の円の半径を $r_1,r_2,r_3$ とし、$u_i=\sqrt{r_i}>0$ とおく。thm-mal-equations の式は、正三角形では
$$
\sqrt3\,u_1^2+2u_1u_2+\sqrt3\,u_2^2=1,\qquad \sqrt3\,u_2^2+2u_2u_3+\sqrt3\,u_3^2=1,\qquad \sqrt3\,u_3^2+2u_3u_1+\sqrt3\,u_1^2=1
$$
である。1 本目から 3 本目を引くと、$\sqrt3\,u_1^2$ が消えて
$$
2u_1(u_2-u_3)+\sqrt3\,(u_2^2-u_3^2)=0,\qquad (u_2-u_3)\bigl(2u_1+\sqrt3\,(u_2+u_3)\bigr)=0
$$
となる。2 つ目の因数は正の数の和なので正で、$u_2=u_3$ である。同じく 1 本目から 2 本目を引くと $u_1=u_3$ である。よって $r_1=r_2=r_3$ で、ex-mal-equations-eq の計算から共通の値は $\dfrac{\sqrt3-1}4$ に限る。半径が決まると、lem-mal-corner (1) により各円の中心も二等分線の上の 1 点に決まるので、Malfatti の円はあっても 1 組だけである。
段 2(実際に Malfatti の円である)。逆に、半径 $\rho=\dfrac{\sqrt3-1}4$ で各頂点の 2 辺に接する 3 つの円を考える。$\rho< r=\dfrac{\sqrt3}6$($\rho\approx0.183$、$r\approx0.289$)なので、各円は頂点を中心とする相似比 $\dfrac\rho r<1$ の相似拡大による内接円の像で、三角形の中にある(内接円は三角形の中にあり、相似比 $1$ 未満で頂点から縮めると、三角形の中の図形は三角形の中に移る)。ex-mal-start の (2)(3) と同じく、隣り合う 2 つの円の中心は同じ辺から高さ $\rho$ にあり、その間の距離は $1-2\sqrt3\,\rho=2\rho$ なので、2 つの円は外接する。よってこれは Malfatti の円で、面積の和は ex-mal-start の (4) のとおり $\dfrac{3\pi(2-\sqrt3)}8$ である。これで (1) が示された。
段 3(比べる配置)。$r=\dfrac{\sqrt3}6$ の内接円と、頂点 $A$、$B$ の近くの半径 $\dfrac r3=\dfrac{\sqrt3}{18}$ の円 $\omega'_A$、$\omega'_B$ を考える。$\omega'_A$ は $A$ を中心とする相似比 $\dfrac13$ の相似拡大による内接円の像なので三角形の中にあり、中心は二等分線の上で $A$ から $\dfrac{r/3}{\sin30^\circ}=\dfrac{2r}3$、$I$ は $A$ から $2r$ のところにあるので、中心の距離は $\dfrac{4r}3=r+\dfrac r3$ で、内接円に外接する。$\omega'_B$ も同じである。$\omega'_A$ と $\omega'_B$ の中心は $\dfrac{2A+I}3$ と $\dfrac{2B+I}3$(位置ベクトルで。$A$ から $I$ へ $\dfrac13$ 進んだ点)なので、中心の距離は $\dfrac23AB=\dfrac23$ で、半径の和 $\dfrac{\sqrt3}9\approx0.19$ より大きい。よって 3 つの円はどの 2 つも内部が重ならない。面積の和は ex-mal-start-greedy のとおり $\dfrac{11\pi}{108}$ である。これで (2) が示された。
段 4(比べる)。
$$
\frac{11}{108}-\frac{3(2-\sqrt3)}8=\frac{22-81(2-\sqrt3)}{216}=\frac{81\sqrt3-140}{216}
$$
である。$(81\sqrt3)^2=6561\times3=19683$、$140^2=19600$ で、$19683>19600$ なので $81\sqrt3>140$ である。よって右辺は正で、(3) の不等式が成り立つ。Malfatti の円より面積の和が大きい配置があるので、Malfatti の円は面積の和を最大にしない。$\square$
差は $\pi\cdot\dfrac{81\sqrt3-140}{216}\approx0.0043$ で、面積の和の約 $1.4\%$ にすぎない。数値だけを見ると見逃しそうな差だが、(3) は正確な不等式である。
ほかの 2 つの三角形でも、内接円と、lem-mal-corner-incircle の円のうち大きい方から 2 つを置いた配置と比べてみる(どちらの三角形でも、2 つの角の円の中心の距離は半径の和より大きく、重ならないことを数値で確かめた)。
| 三角形 | Malfatti の円の面積の和 | 内接円と角の 2 つの円の面積の和 | 三角形の面積 |
|---|---|---|---|
| 正三角形(1 辺 $1$) | $0.31567$ | $0.31998$ | $0.43301$ |
| $a=3$、$b=4$、$c=5$ | $3.97595$ | $4.44778$ | $6$ |
| $A(0,0)$、$B(8,0)$、$C(-2,3)$ | $5.41623$ | $6.70550$ | $12$ |
どの三角形でも、Malfatti の円の方が小さい。正三角形では差がわずかだが、直角三角形や鈍角三角形では差がはっきりする。直角三角形では、比べる配置の角の円は角 $A$(半径 $0.51949$)と角 $B$(半径 $0.38197$)に置いた。
Malfatti の問題は、「3 つの円が三角形の中にあり、互いに重ならない」という条件(制約)のもとで、面積の和 $\pi(\rho_1^2+\rho_2^2+\rho_3^2)$ を最大にする問題である。
3 つの円の中心と半径の 9 個の数を変数とすると、「円が辺からはみ出さない」は 1 次の不等式、「2 つの円が重ならない」は中心の距離が半径の和以上という不等式で書ける。面積の和は半径の 2 次式である。Malfatti の円は、このうち「どの円も 2 辺に接する」(6 本)「どの 2 つも接する」(3 本)の 9 本の不等式を等式にした配置で、9 個の変数に 9 本の等式が課されている。
しかし、最大値をとる点で、どの制約が等式になるかは前もってはわからない。thm-mal-equilateral の比べる配置では、内接円は 3 辺すべてに接し、角の円は 2 辺と内接円に接するが、角の円どうしは接していない。制約のどれが等式になるかの組合せを変えると、答えが変わりうる。これは、条件付きの最大・最小の問題(条件付きの最大・最小)で、最大値が境界のどこでとられるかを場合分けして調べるのと同じ構造である。
Wei26 には、Malfatti の円は長い間 Malfatti の問題の答えだと考えられていたが、その後、答えにならないことが示されたと述べられている。この記事で示したのは正三角形の場合だけで、一般の三角形で Malfatti の円が答えにならないこと、実際の答えがどんな配置かは、この記事では証明しない。
大学の数学では、等式の制約のもとでの極値を Lagrange の乗数法で調べ、不等式の制約を含む場合にはそれを広げた方法を使う。Malfatti の円の 3 本の式 thm-mal-equations は、$u_i=\sqrt{r_i}$ とおくと 3 変数の 2 次の連立方程式で、数値的には Newton 法で解ける。この記事の表の値も、そのようにして求めた。
thm-mal-equations と thm-mal-equilateral の条件を外すと何が起こるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| どの 2 つも外接する($\omega_A$ と $\omega_B$ の接触を外す) | 正三角形で $\omega_A$、$\omega_B$ の半径 $0.12$ または $0.15$ | 3 つの半径がただ 1 組に決まる |
| 3 つの円が三角形の中にある | 正三角形で 2 辺を含む 2 直線に接する半径 $\dfrac{\sqrt3+1}4$ の 2 つの円 | 1 本目の式 $r_1\cot\dfrac A2+2\sqrt{r_1r_2}+r_2\cot\dfrac B2=c$ |
| (Malfatti の円は面積の和を最大にするか) | 正三角形の内接円と角の 2 つの円 | 面積の和が最大 |
1 辺 $1$ の正三角形で、$\omega_A$、$\omega_B$ は半径 $t$ で頂点 $A$、$B$ の 2 辺に接し、$\omega_C$ は頂点 $C$ の 2 辺に接して $\omega_A$、$\omega_B$ の両方に外接するとする。$\omega_A$ と $\omega_B$ が接するという条件は外す。
$\omega_C$ の半径を $v$ とすると、辺 $CA$ で thm-mal-equations の証明と同じ計算をして $\sqrt3\,t+2\sqrt{tv}+\sqrt3\,v=1$ である。$t=0.12$ でも $t=0.15$ でも、この式をみたす $v$ があり、3 つの円は三角形の中にあって重ならない。条件 (i) と 2 つの接触だけでは、半径は 1 組に決まらない。
$\sqrt v$ の 2 次方程式として解くと、$t=0.12$ のとき $v\approx0.25526$、$t=0.15$ のとき $v\approx0.21837$ である。どちらも $t$、$v$ は内接円の半径 $\dfrac{\sqrt3}6\approx0.28868$ 以下で円は三角形の中にあり、$\omega_A$ と $\omega_B$ の中心の距離から半径の和を引くと $0.34431$、$0.18038$ で正なので重ならない。
1 辺 $1$ の正三角形 $A(0,0)$、$B(1,0)$、$C\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で、半径 $\rho=\dfrac{\sqrt3+1}4\approx0.683$ の円 $\omega_A$ を直線 $AB$、$AC$ に、円 $\omega_B$ を直線 $BA$、$BC$ に、三角形の側から接するように置く。$\omega_A$ の中心は角 $A$ の二等分線の上の $\left(\sqrt3\,\rho,\ \rho\right)$、$\omega_B$ の中心は $\left(1-\sqrt3\,\rho,\ \rho\right)$ で、中心の距離は
$$
\sqrt3\,\rho-(1-\sqrt3\,\rho)=2\sqrt3\,\rho-1=\frac{3+\sqrt3}2-1=\frac{\sqrt3+1}2=2\rho
$$
なので、2 つの円は外接する。しかし $\rho>r$ で、2 つの円は三角形からはみ出している。
直線 $AB$ との接点は $A$ から $\sqrt3\,\rho\approx1.183$ と $B$ から $\sqrt3\,\rho$ のところで、並び順が入れかわっている($\omega_A$ の接点の方が $B$ に近い)。このため thm-mal-equations の 1 本目の式の左辺は $2+\sqrt3$ になって $c=1$ に等しくなく、成り立つのは $c=AT_1+BT_2-2\sqrt{r_1r_2}$ の方である。prf-mal-equations の段 3 で「三角形の中にある」を使った理由がここにある。
$$\sqrt3\,\rho+2\rho+\sqrt3\,\rho=\frac{(2\sqrt3+2)(\sqrt3+1)}4=\frac{(\sqrt3+1)^2}2=2+\sqrt3,\qquad 2\sqrt3\,\rho-2\rho=\frac{(2\sqrt3-2)(\sqrt3+1)}4=\frac{2\cdot2}4=1$$
Malfatti の円どうしの接触を 1 つ外すと、半径 t を変えても 3 つの円が置ける(t = 0.15 の場合)
三角形からはみ出す半径 (√3+1)/4 の 2 つの円。直線 AB との接点の並び順が入れかわる
3 行目は thm-mal-equilateral そのものである。Malfatti の円は「互いに接し、それぞれ 2 辺に接する」というきれいな条件で決まるが、その条件は面積の和の最大を保証しない。
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