実多元体

同義語:実可除多元環real division algebra

概要

実多元体(real division algebra)とは、有限次元の実ベクトル空間に双線形な積を入れ、0 でない元による左右の掛け算がどちらも全単射(零因子がない)になるもので、結合法則・可換法則・単位元は仮定せず、実数・複素数・四元数・八元数が例である。可換なら次元は 2 以下で、単位元をもてば実数か複素数と同型になり、一般に次元は 2 の冪である(Hopf)。結合的なら実数・複素数・四元数のどれかと同型であり(Frobenius)、絶対値が積を保てば次元は 1・2・4・8 であり(Hurwitz)、一般の場合も次元が 1・2・4・8 に限ることは Bott–Milnor と Kervaire の定理である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多元環, 実射影空間, Künnethの公式, 領域不変性定理, 代数学の基本定理

実数・複素数・四元数・八元数は、どれも有限次元の実ベクトル空間に双線形な掛け算を入れたもので、$0$ でない元で割り算ができる。このような構造を実多元体(real division algebra)という。結合法則も可換法則も単位元も仮定しない。すると「どんな次元の実多元体があるか」という問いが立つ。答えは次元 $1,2,4,8$ だけで、これは Bott–Milnor と Kervaire が 1958 年に位相幾何学を使って示した深い定理である。
この記事では、そこへ至る途中の結果を完全に証明する。まず、奇数次元の実多元体は $1$ 次元に限ることを固有値の議論で示す。次に Hopf の 2 つの定理を示す。可換な実多元体の次元は $2$ 以下であり、単位元をもてば $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ と同型になる(正規化した平方を 実射影空間 から球面への単射とみる)。一般の実多元体の次元は $2$ の冪である(実射影空間の積の $\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環を使う)。さらに、結合的な実多元体は $\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ のどれかと同型であるという Frobenius の定理と、絶対値が積を保つ場合の Hurwitz の定理(合成代数の分類に帰着する)を示す。次元が $1,2,4,8$ に限ることは引用にとどめる。

定義

実多元体

$A$ を $\mathbb{R}$ 上の有限次元のベクトル空間で $\dim A\ge1$ のものとし、双線形写像 $A\times A\to A$、$(x,y)\mapsto xy$ が与えられているとする。$a\in A$ について、左からの掛け算 $L_a(x):=ax$ と右からの掛け算 $R_a(x):=xa$ は線形写像 $A\to A$ である。$a\ne0$ ならば $L_a$ と $R_a$ がともに全単射であるとき、すなわち方程式 $ax=b$ と $xa=b$ がどの $b$ についても一意に解けるとき、$A$ を実多元体という。結合法則 $(xy)z=x(yz)$、可換法則 $xy=yx$、単位元の存在は仮定しない。それぞれを満たすとき、結合的、可換、単位元をもつという。
2 つの実多元体 $A,B$ の間の同型とは、線形な全単射 $\varphi\colon A\to B$ で $\varphi(xy)=\varphi(x)\varphi(y)$ を満たすものをいう。

$A$ は有限次元なので、線形写像 $L_a$ が全単射であることは単射であること、すなわち核が $0$ であることと同値である。したがって、条件は「零因子がない」こと、つまり
$$ xy=0\ \Longrightarrow\ x=0\ \text{または}\ y=0 $$
と同値である。以下では基底を 1 つ選んで $A=\mathbb{R}^n$($n=\dim A$)とみなし、標準の内積から決まる長さ $|x|$ を使う。積は座標の 2 次式で書けるので、$\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ として連続である。

4 つの古典的な実多元体

$\mathbb{R}$($1$ 次元)、$\mathbb{C}$($2$ 次元)、四元数の全体 $\mathbb{H}$($4$ 次元)、八元数の全体 $\mathbb{O}$($8$ 次元)は単位元をもつ実多元体である。$\mathbb{R}$ と $\mathbb{C}$ は可換かつ結合的、$\mathbb{H}$ は結合的だが可換でない($ij=k=-ji$)。$\mathbb{O}$ は可換でも結合的でもない(八元数 の定理「交代性と割り算」の後の例 $(ij)\ell=-i(j\ell)$)。4 つとも $|xy|=|x||y|$ を満たし($\mathbb{O}$ については 八元数 の定理「絶対値は積を保つ」)、$x\ne0$、$y\ne0$ なら $|xy|\ne0$ なので零因子がない。

単位元をもたない可換な例

$\mathbb{C}$ の上に新しい積 $z\ast w:=\overline{zw}$(右辺は通常の積の複素共役)を入れる。$\ast$ は $\mathbb{R}$ 上の双線形写像で、可換であり、$|z\ast w|=|z||w|$ なので零因子がない。よって $(\mathbb{C},\ast)$ は $2$ 次元の可換な実多元体である。しかし単位元をもたない。実際 $e\ast w=w$ がすべての $w$ で成り立つとすると、$w=1$ から $\bar e=1$、すなわち $e=1$ であるが、$1\ast i=\bar i=-i\ne i$ となって矛盾する。また結合的でもない:$(i\ast1)\ast1=\overline{-i}=i$、$i\ast(1\ast1)=\overline{i}=-i$ である。

実多元体次元可換結合的単位元$\lvert xy\rvert=\lvert x\rvert\lvert y\rvert$
$\mathbb{R}$$1$○○○○
$\mathbb{C}$$2$○○○○
$(\mathbb{C},\ast)$、$z\ast w=\overline{zw}$$2$○××○
$\mathbb{H}$$4$×○○○
$\mathbb{O}$$8$××○○

表の各欄の根拠は、rda-ex-classical と rda-ex-unitless で述べたとおりである。

基本的な性質

単位元をもつ積への取り替え

$A$ を実多元体とし、$e\in A$、$e\ne0$ とする。
$$ x\ast y:=R_e^{-1}(x)\,L_e^{-1}(y) $$
とおくと、$(A,\ast)$ は $u:=ee$ を単位元とする実多元体である。さらに $|xy|=|x||y|$ がすべての $x,y$ で成り立ち、$|e|=1$ なら、$|x\ast y|=|x||y|$ も成り立つ。

左右の掛け算の逆写像を挟む

要点:$R_e(e)=L_e(e)=ee$ なので $ee$ が単位元になり、長さを保つ写像の逆写像も長さを保つ。

詳しい証明を開く

$R_e^{-1}$、$L_e^{-1}$ は線形なので $\ast$ は双線形である。$x\ast y=0$ なら $R_e^{-1}(x)=0$ または $L_e^{-1}(y)=0$ であり、$x=0$ または $y=0$ である。$R_e(e)=L_e(e)=ee=u$ なので $$ u\ast y=R_e^{-1}(u)\,L_e^{-1}(y)=e\,L_e^{-1}(y)=y,\qquad x\ast u=R_e^{-1}(x)\,L_e^{-1}(u)=R_e^{-1}(x)\,e=x $$ である。$|xy|=|x||y|$ かつ $|e|=1$ なら $|L_e(y)|=|y|$、$|R_e(x)|=|x|$ なので、$L_e^{-1}$、$R_e^{-1}$ も長さを保ち、$|x\ast y|=|R_e^{-1}(x)|\,|L_e^{-1}(y)|=|x||y|$ である。$\square$

$(A,\ast)$ は一般に $A$ と同型ではない($A$ が単位元をもたなくても $(A,\ast)$ はもつ)。しかし次元は同じなので、次元についての主張を調べるときは単位元を仮定してよい。

奇数次元と複素数体上の場合
  1. 実多元体の次元が奇数なら、次元は $1$ である。
  2. $\mathbb{C}$ 上の有限次元のベクトル空間 $A\ne0$ に $\mathbb{C}$ 上の双線形な積が与えられ、零因子がないなら、$\dim_{\mathbb{C}}A=1$ である。
固有値をもつ元の比

要点:$a\ne0$ を固定し、$L_a^{-1}L_b$ の固有値 $\lambda$ をとると $b=\lambda a$ となる。

詳しい証明を開く

1:$a\ne0$ を 1 つ固定し、$b\in A$ を任意にとる。$T:=L_a^{-1}L_b$ は奇数次元の実ベクトル空間の線形写像なので、その固有多項式は奇数次の実係数の多項式であり、中間値の定理により実数の根 $\lambda$ をもつ。固有ベクトル $v\ne0$ をとると $L_bv=\lambda L_av$、すなわち $$ (b-\lambda a)v=bv-\lambda\,av=0 $$ である。零因子がないので $b=\lambda a$ である。$b$ は任意なので $A=\mathbb{R}a$ であり、$\dim A=1$ である。

2:同じ議論で、$T$ は有限次元の複素ベクトル空間の線形写像なので、代数学の基本定理 により固有値 $\lambda\in\mathbb{C}$ をもつ。よって $A=\mathbb{C}a$ である。$\square$

2 により、複素数体の上の有限次元の多元体($\mathbb{C}$ 上で双線形で零因子のないもの)は $1$ 次元しかない。実数体の上では固有値がないことがあるので、偶数次元の可能性が残る。それを絞るのが以下の位相的な議論である。

可換な場合

可換な場合の次元(Hopf)

$A$ を可換な実多元体とする。

  1. $\dim A\le2$ である。
  2. $A$ が単位元をもつなら、$A$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ と同型である。

単位元の仮定は 2 にだけ要る。rda-ex-unitless の $(\mathbb{C},\ast)$ は 1 を満たし 2 の結論を満たさない例である。

正規化した平方を実射影空間からの単射とみる

1:$n:=\dim A\ge3$ と仮定して矛盾を導く。$A=\mathbb{R}^n$ とみなし、$S^{n-1}$ を単位球面、$q\colon S^{n-1}\to\mathbb{RP}^{n-1}$ を商写像とする(実射影空間)。
正規化した平方。 $x\in S^{n-1}$ なら $x\ne0$ なので $x^2:=xx\ne0$ であり、
$$ f\colon S^{n-1}\to S^{n-1},\qquad f(x):=\frac{x^2}{|x^2|} $$
が定まる。$x^2$ の各座標は $x$ の座標の 2 次式なので $f$ は連続であり、双線形性から $(-x)^2=x^2$、すなわち $f(-x)=f(x)$ である。$q(x)=q(y)$ となるのは $y=\pm x$ のときに限り、$q$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全射なので商写像である。よって $f=\bar f\circ q$ を満たす連続写像 $\bar f\colon\mathbb{RP}^{n-1}\to S^{n-1}$ がただ 1 つある。
単射であること。 $f(x)=f(y)$($x,y\in S^{n-1}$)とし、$\alpha:=(|x^2|/|y^2|)^{1/2}>0$ とおくと $x^2=\alpha^2y^2$ である。双線形性と可換性から
$$ (x+\alpha y)(x-\alpha y)=x^2-\alpha\,xy+\alpha\,yx-\alpha^2y^2=x^2-\alpha^2y^2=0 $$
であり、零因子がないので $x=-\alpha y$ または $x=\alpha y$ である。$|x|=|y|=1$、$\alpha>0$ なので $\alpha=1$、$x=\pm y$ であり、$q(x)=q(y)$ である。よって $\bar f$ は単射である。結合法則はここで使っていない。
同相になること。 $\mathbb{RP}^{n-1}$ は空でないコンパクトな $(n-1)$ 次元位相多様体であり、$S^{n-1}$ は連結な $(n-1)$ 次元位相多様体である。領域不変性定理 の系「コンパクトな多様体の埋め込み」により、連続な単射 $\bar f$ は全射で、$\mathbb{RP}^{n-1}$ と $S^{n-1}$ は同相である。
矛盾。 $n-1\ge2$ なので $S^{n-1}$ は単連結である(n次元球面 の定理「基本群の値」)。一方 実射影空間 の補題「2 重被覆が定める 1 次の類」により、$\pi_1(\mathbb{RP}^{n-1})$ から $\mathbb{Z}/2$ への $0$ でない準同型があるので、$\pi_1(\mathbb{RP}^{n-1})$ は自明でない。基本群は同相で不変なので矛盾である。したがって $n\le2$ である。
2:単位元を $1$ と書く。$1\ne0$ である($1=0$ なら $x=1x=0$ がすべての $x$ で成り立ち、$\dim A\ge1$ に反する)。1 により $n=1$ または $n=2$ である。
$n=1$ なら $A=\mathbb{R}1$ であり、$t\mapsto t1$ は $\mathbb{R}$ から $A$ への同型である($(s1)(t1)=st\,1$)。
$n=2$ とする。$1$ と一次独立な $u$ をとり、$u^2=a1+bu$($a,b\in\mathbb{R}$)と書く。$v:=u-\frac b21$ とおくと
$$ v^2=u^2-bu+\tfrac{b^2}{4}1=c1,\qquad c:=a+\tfrac{b^2}{4} $$
である。$c\ge0$ なら $(v+\sqrt c\,1)(v-\sqrt c\,1)=v^2-c1=0$ なので $v=\pm\sqrt c\,1$ となり、$v$ が $1$ と一次独立であることに反する。よって $c<0$ であり、$j:=v/\sqrt{-c}$ とおくと $j^2=-1$、$1,j$ は $A$ の基底である。双線形性と可換性から
$$ (s1+tj)(s'1+t'j)=(ss'-tt')1+(st'+ts')j\qquad(s,t,s',t'\in\mathbb{R}) $$
であり、これは複素数の積の式と同じである。よって $s+t\sqrt{-1}\mapsto s1+tj$ は $\mathbb{C}$ から $A$ への同型である。とくに $A$ は結合的であるが、これは仮定ではなく結論である。$\square$

次元が 2 の冪であること

二項係数の偶奇

$n\ge2$ とする。$0< k< n$ を満たすすべての $k$ について 二項係数 $\binom nk$ が偶数なら、$n$ は $2$ の冪である。

2 進の最下位の桁を見る

要点:$n=2^rm$($m$ 奇数)なら、$\mathbb{Z}/2$ 係数で $(1+t)^n=(1+t^{2^r})^m$ の $t^{2^r}$ の係数は $m$ で奇数である。

詳しい証明を開く

$n=2^rm$($m$ は奇数)と書き、$m\ge3$ と仮定する。$\mathbb{Z}/2$ 係数の多項式環では $(1+t)^2=1+t^2$ なので、帰納法により $(1+t)^{2^r}=1+t^{2^r}$ である。よって $\mathbb{Z}/2[t]$ で $$ (1+t)^n=\bigl(1+t^{2^r}\bigr)^m=\sum_{l=0}^m\binom ml t^{2^rl} $$ であり、$t^{2^r}$ の係数は $m\equiv1\pmod2$ である。$m\ge3$ なので $0<2^r< n$ であり、$\binom n{2^r}$ は奇数となって仮定に反する。よって $m=1$ である。$\square$

次元は 2 の冪(Hopf)

実多元体の次元は $2$ の冪である。

この定理は可換性・結合性・単位元のどれも仮定しない。rda-prop-odd の 1 を含み、さらに $6,10,12,\dots$ 次元を除く。

実射影空間の積からの写像

$n:=\dim A$ とする。$n=1=2^0$ なら主張は正しいので、$n\ge2$ とする。以下、コホモロジーの係数はすべて $\mathbb{Z}/2$ とし、$P:=\mathbb{RP}^{n-1}$、$q\colon S^{n-1}\to P$ を商写像とする。
写像 $h$。 $x,y\ne0$ なら $xy\ne0$ であり、$(-x)y=x(-y)=-xy$ なので、
$$ h\colon P\times P\to P,\qquad h(q(x),q(y)):=q\bigl(xy/|xy|\bigr) $$
が矛盾なく定まる。$q\times q\colon S^{n-1}\times S^{n-1}\to P\times P$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全射なので商写像であり、$h\circ(q\times q)$ は連続なので $h$ は連続である。$y_0\in S^{n-1}$ を固定すると、$h(\,\cdot\,,q(y_0))$ は線形な全単射 $R_{y_0}$ が誘導する写像 $q(x)\mapsto q(R_{y_0}x/|R_{y_0}x|)$ であり、その逆写像は $R_{y_0}^{-1}$ が同じように誘導する。よって $h(\,\cdot\,,q(y_0))$ は $P$ の同相写像であり、同様に $h(q(x_0),\,\cdot\,)$ も同相写像である。
コホモロジー環。 $a\in H^1(P)$ を $0$ でない元とすると、実射影空間 の定理「$\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環」により $H^*(P)=\mathbb{Z}/2[a]/(a^n)$ であり、$a^0,\dots,a^{n-1}$ がそれぞれの次数の生成元である。$p_1,p_2\colon P\times P\to P$ を射影とし、$a_1:=p_1^*a$、$a_2:=p_2^*a$ とおく。各 $H^k(P)$ は有限次元なので、Künnethの公式 の定理「コホモロジー環の Künneth の公式」により、クロス積 $a^k\times a^l=a_1^ka_2^l$($0\le k,l\le n-1$)が $H^*(P\times P)$ の基底をなし、
$$ H^*(P\times P)=\mathbb{Z}/2[a_1,a_2]/(a_1^n,a_2^n) $$
である。$H^1(P\times P)$ は $a_1,a_2$ を基底にもつので、$h^*a=k_1a_1+k_2a_2$($k_1,k_2\in\mathbb{Z}/2$)と書ける。
$k_1=k_2=1$ であること。 $i_1\colon P\to P\times P$、$i_1(z):=(z,q(y_0))$ とおく。$p_1\circ i_1$ は恒等写像なので $i_1^*a_1=a$ である。$p_2\circ i_1$ は 1 点への定値写像なので、1 点の空間の $1$ 次のコホモロジーを経由して $i_1^*a_2=0$ である。よって
$$ (h\circ i_1)^*a=i_1^*(k_1a_1+k_2a_2)=k_1a $$
である。一方 $h\circ i_1=h(\,\cdot\,,q(y_0))$ は同相写像なので、$(h\circ i_1)^*$ は $H^1(P)\cong\mathbb{Z}/2$ の同型であり、$(h\circ i_1)^*a=a$ である。したがって $k_1=1$ であり、第 2 成分についての同じ議論で $k_2=1$ である。
二項係数。 $a^n=0$ なので、$h^*$ がカップ積を保つ環準同型であることから
$$ 0=h^*(a^n)=(a_1+a_2)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk a_1^ka_2^{n-k}=\sum_{k=1}^{n-1}\binom nk a_1^ka_2^{n-k} $$
である($\mathbb{Z}/2$ 係数では $a_1a_2=a_2a_1$ であり、$a_1^n=a_2^n=0$)。$0< k< n$ の $a_1^ka_2^{n-k}$ は上の基底の相異なる元なので、係数 $\binom nk$ はすべて $\mathbb{Z}/2$ で $0$ である。rda-lem-binom により $n$ は $2$ の冪である。$\square$

逆に $n$ が $2$ の冪なら $0< k< n$ の $\binom nk$ はすべて偶数なので($(1+t)^n=1+t^n$)、この証明は $16$ 次元や $32$ 次元を除けない。次元が $8$ 以下であることには、より深い道具が要る(rda-thm-bmk)。

結合的な場合

結合的な場合の分類(Frobenius)

結合的な実多元体は、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$、$\mathbb{H}$ のどれかと同型である。

単位元の存在は仮定していない。証明の段 0 で、結合法則と零因子がないことから単位元が出る。結合法則を外すと $\mathbb{O}$ が反例になる。

平方が −1 の元で全体を二つに分ける

$A$ を結合的な実多元体とする。結合法則により、冪 $a^m$ は括弧の付け方によらない。
段 0(単位元)。 $a\ne0$ をとると $L_a$ は全単射なので、$ae=a$ となる $e$ がある。$a\ne0$ なので $e\ne0$ である。任意の $x$ について $a(ex)=(ae)x=ax$ なので $a(ex-x)=0$、よって $ex=x$ である。とくに $ee=e$ であり、$(xe-x)e=x(ee)-xe=0$ と $e\ne0$ から $xe=x$ である。よって $e$ は単位元であり、これを $1$ と書いて $t\in\mathbb{R}$ を $t1$ と同一視する。実数は $A$ のすべての元と可換である。
段 1(平方が $-1$ の元)。 $A\ne\mathbb{R}$ とし、$a\in A\setminus\mathbb{R}$ をとる。多項式 $g\in\mathbb{R}[t]$ に $g(a)\in A$ を対応させる写像は、結合法則により積を保つ。$A$ は有限次元なので $1,a,a^2,\dots$ は一次従属であり、$\mu(a)=0$ となる次数最小のモニック多項式 $\mu$ がある($a$ の 最小多項式)。$\mu=gh$($g,h$ の次数は $\mu$ より小さい)と分解できたとすると、$g(a)h(a)=\mu(a)=0$ かつ $g(a)\ne0$、$h(a)\ne0$ となって零因子がないことに反するので、$\mu$ は既約である。$a\notin\mathbb{R}$ なので $\deg\mu\ge2$ であり、代数学の基本定理 により実係数の既約多項式の次数は $2$ 以下なので、$\mu=t^2+pt+r$、$p^2-4r<0$ と書ける。$a^2=-pa-r$ を使うと
$$ i:=\frac{2a+p}{\sqrt{4r-p^2}}\quad\text{は}\quad i^2=\frac{4a^2+4pa+p^2}{4r-p^2}=\frac{p^2-4r}{4r-p^2}=-1 $$
を満たす。$\mathbb{C}_A:=\mathbb{R}+\mathbb{R}i$ とおくと、$s+t\sqrt{-1}\mapsto s+ti$ は $\mathbb{C}$ から $\mathbb{C}_A$ への同型である。
段 2($i$ と可換な部分と反可換な部分)。
$$ A_+:=\{x\in A\mid ix=xi\},\qquad A_-:=\{x\in A\mid ix=-xi\} $$
とおく。$i^2=-1$ から、$x_\pm:=\frac12(x\mp ixi)$ について $ix_\pm=\frac12(ix\pm xi)=\pm x_\pm i$ が確かめられ、$x=x_++x_-$ である。$x\in A_+\cap A_-$ なら $2ix=0$ で $x=0$ なので、$A=A_+\oplus A_-$ である。
段 3($A_+=\mathbb{C}_A$)。 $A_+$ は $\mathbb{C}_A$ を含み、積で閉じている。$c\in\mathbb{C}_A$ を左から掛けることで、$A_+$ は $\mathbb{C}_A$ 上の有限次元のベクトル空間になる。$x\in A_+$ について $L_x\colon A_+\to A_+$ は $\mathbb{C}_A$ 線形である。実際 $x$ は $i$ と可換なので $x(cy)=(xc)y=(cx)y=c(xy)$ である。代数学の基本定理により $L_x$ は固有値 $\lambda\in\mathbb{C}_A$ をもち、固有ベクトル $y\ne0$ について $(x-\lambda)y=0$ なので $x=\lambda\in\mathbb{C}_A$ である。よって $A_+=\mathbb{C}_A$ である。
段 4($A_-$ の決定)。 $A_-=0$ なら $A=\mathbb{C}_A\cong\mathbb{C}$ である。$A_-\ne0$ とし、$y\in A_-$、$y\ne0$ をとる。$x\in A_-$ なら
$$ i(xy)=(ix)y=-(xi)y=-x(iy)=x(yi)=(xy)i $$
なので $xy\in A_+$ である。$R_y$ は単射なので $\dim A_-\le\dim A_+=2$ である。また $c\in\mathbb{C}_A$ なら $i(cy)=c(iy)=-(cy)i$ なので $\mathbb{C}_Ay\subset A_-$ であり、$c\mapsto cy$ は単射なので $A_-=\mathbb{C}_Ay$ である。
$x=y$ として $y^2\in A_+=\mathbb{C}_A$ であり、$y^2=\alpha+\beta i$($\alpha,\beta\in\mathbb{R}$)と書ける。結合法則から $y\,y^2=y^2\,y$ であり、$yi=-iy$ を使うと左辺は $\alpha y-\beta iy$、右辺は $\alpha y+\beta iy$ なので、$2\beta\,iy=0$、$\beta=0$ である。$\alpha\ge0$ なら $(y-\sqrt\alpha)(y+\sqrt\alpha)=y^2-\alpha=0$ から $y=\pm\sqrt\alpha\in A_+\cap A_-=0$ となって矛盾する。よって $\alpha<0$ であり、$j:=y/\sqrt{-\alpha}$ とおくと $j^2=-1$、$ij=-ji$ である。$k:=ij$ とおくと
$$ k^2=ijij=-i^2j^2=-1,\quad jk=jij=-ij^2=i,\quad ki=iji=-i^2j=j, $$
$$ kj=ij^2=-i,\quad ik=i^2j=-j,\quad ji=-k $$
であり、$A=A_+\oplus A_-=(\mathbb{R}+\mathbb{R}i)\oplus(\mathbb{R}j+\mathbb{R}k)$ である。$1,i,j,k$ の積の表は 四元数 の基底の積の表と同じなので、基底を対応させる線形写像 $\mathbb{H}\to A$ は同型である。$\square$

四元数 の定理「Frobenius の定理」は、単位元をもつ場合を別の方法(平方が負の実数になる元の空間に内積を入れる)で示している。上の段 3 は rda-prop-odd の 2 と同じ固有値の議論である。

絶対値が積を保つ場合

絶対値が積を保つ場合(Hurwitz)

$\mathbb{R}^n$($n\ge1$)に双線形な積が与えられ、標準の長さについて $|xy|=|x||y|$ がすべての $x,y$ で成り立つとする。

  1. $n$ は $1,2,4,8$ のどれかである。
  2. 積が単位元をもつなら、$\mathbb{R}^n$ は長さを保つ同型によって $\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H},\mathbb{O}$ のどれかと同型である。
合成代数に帰着する

$x,y\ne0$ なら $|xy|=|x||y|\ne0$ なので零因子はなく、$\mathbb{R}^n$ は実多元体である。
2:$N(x):=|x|^2$ は正定値な 2 次形式で、その極形式 $N(x+y)-N(x)-N(y)$ は標準内積の $2$ 倍なので非退化であり、$N(xy)=N(x)N(y)$ である。単位元は $0$ でない(rda-prf-comm の 2 と同じ理由)。よって $(\mathbb{R}^n,N)$ はノルムが正定値な合成代数であり、Hurwitzの定理(合成代数) の定理「Hurwitzの定理」の 3 により結論を得る。
1:$|e|=1$ の $e$ をとって rda-lem-isotope の積 $\ast$ を作ると、$\ast$ は単位元をもち $|x\ast y|=|x||y|$ を満たす。2 の前半の議論により $(\mathbb{R}^n,\ast)$ は合成代数であり、同じ定理の 1 により $n\in\{1,2,4,8\}$ である。$\square$

1 では単位元を仮定していない。rda-ex-unitless の $(\mathbb{C},\ast)$ は $|z\ast w|=|z||w|$ を満たすが単位元をもたず、2 の結論の 4 つのどれとも同型でない($\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H},\mathbb{O}$ は単位元をもつ)。

次元は 1・2・4・8 に限る

次元の決定(Bott–Milnor・Kervaire)

実多元体の次元は $1,2,4,8$ のどれかである。

所在と証明の道筋

この記事では証明しない。Bott–Milnor と Kervaire が 1958 年に、ユニタリ群のホモトピー群についての Bott の結果 $\pi_{2n}(U(n))\cong\mathbb{Z}/n!$ の応用として示した(Hat02 p. 173、p. 428)。Adams による Hopf 不変量 $1$ の定理からも導かれ、その道筋は Hopf不変量1の定理 の定理「多元体と H 空間」にある。そこでは、rda-lem-isotope と同じ取り替えで単位元をもつ積を作り、単位球面 $S^{n-1}$ に H空間 の構造を入れ、Hopf 構成で Hopf 不変量 $1$ の写像 $S^{2n-1}\to S^n$ を得る(Hopf 構成の Hopf 不変量が符号を除いて積の双次数の積になることは Hopf不変量 の定理「Hopf 構成の Hopf 不変量」)。4 つの次元はどれも rda-ex-classical の例で実現される。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
零因子がない(rda-thm-power)$\mathbb{R}^3$ と ベクトル積 $x\times y$次元が $2$ の冪であること
有限次元(rda-thm-frobenius)有理関数体 $\mathbb{R}(t)$$\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ のどれかと同型であること
可換(rda-thm-comm の 1)$\mathbb{H}$次元が $2$ 以下であること
単位元(rda-thm-comm の 2)$(\mathbb{C},\ast)$、$z\ast w=\overline{zw}$$\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ と同型であること
結合的(rda-thm-frobenius)$\mathbb{O}$$\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ のどれかと同型であること
反例:表の各行の確かめ

各行の反例は、外した条件以外の仮定を満たし、結論だけが成り立たない。

各行の確かめを開く

1 行目:ベクトル積は $\mathbb{R}^3$ の上の双線形な積で、$x\times x=0$ なので零因子をもつ。ほかの性質(有限次元、双線形)は満たし、次元 $3$ は $2$ の冪でない。2 行目:$\mathbb{R}(t)$ は可換かつ結合的で単位元をもち、$0$ でない元は逆元をもつので零因子がない。しかし $1,t,t^2,\dots$ が一次独立なので無限次元であり、どの有限次元の多元体とも同型でない。3 行目:$\mathbb{H}$ は結合的で単位元をもつ $4$ 次元の実多元体で、$ij=-ji\ne ji$ なので可換でない。4 行目:rda-ex-unitless により $(\mathbb{C},\ast)$ は $2$ 次元の可換な実多元体で、単位元をもたない。同型 $\varphi\colon(\mathbb{C},\ast)\to B$ があれば $B$ の単位元の逆像が $(\mathbb{C},\ast)$ の単位元になるので、単位元をもつ $\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどちらとも同型でない。5 行目:rda-ex-classical により $\mathbb{O}$ は単位元をもつ $8$ 次元の実多元体で、結合的でない。次元 $8$ は $1,2,4$ のどれとも違うので、$\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ と同型でない。

rda-thm-frobenius の仮定から単位元を外しても反例はない(段 0 で単位元が出る)。rda-thm-hurwitz の 1 から単位元を外しても反例はない(rda-lem-isotope)。

補足

位相幾何学との関係

実多元体の構造から球面の平行化が作れる。

構成と帰結を開く

$\mathbb{R}^n$ に実多元体の構造があるとし、rda-lem-isotope で単位元 $u$ をもつ積 $\ast$ に取り替える。$u,e_2,\dots,e_n$ を基底とすると、$x\in S^{n-1}$ について $y\mapsto y\ast x$ は線形な全単射なので、$x=u\ast x,\ e_2\ast x,\dots,e_n\ast x$ は一次独立である。$e_k\ast x$ から $x$ 方向の成分を引いたものを $v_k(x)$ とおくと、$v_2,\dots,v_n$ は $S^{n-1}$ の上の一次独立な $n-1$ 本の連続な接ベクトル場であり、$S^{n-1}$ は平行化可能である。$S^{n-1}$ に一次独立な $n-1$ 本の接ベクトル場があるのは $n=1,2,4,8$ に限るという Adams の定理(球面上の独立なベクトル場)を使えば、rda-thm-bmk がここからも従う。同じ構成で、奇数 $n\ge3$ の実多元体があれば偶数次元の球面 $S^{n-1}$ に零点のない接ベクトル場ができてしまうので、rda-prop-odd の 1 は 毛玉の定理 からも導ける。

文献

rda-thm-comm とその証明の筋、rda-ex-unitless は Hat02 §2.B の「Division Algebras」(Theorem 2B.5、pp. 173–174)にある。証明で使う領域不変性の系は同書 Corollary 2B.4(p. 172)である。rda-thm-power とその証明の筋は同書 Theorem 3.21(p. 223)で、証明で使う $\mathbb{RP}^{n-1}\times\mathbb{RP}^{n-1}$ のコホモロジー環も同じ証明の中で使われている(無限次元の実射影空間の積のコホモロジー環は Example 3.20、p. 222)。Frobenius・Hurwitz の定理の言明と、次元が $8$ 以下であることが Bott–Milnor・Kervaire による旨は同書 p. 173 と §4.B(p. 428)にある。rda-prop-odd、rda-thm-frobenius の証明、rda-thm-hurwitz の 1 を単位元のない場合に帰着する議論は、この記事で組み立てたものである。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Theorem 2B.3・Corollary 2B.4(p. 172)、§2.B「Division Algebras」・Theorem 2B.5(pp. 173–174)、Example 3.20(p. 222)、Theorem 3.21(p. 223)、§4.B(p. 428)

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