アフィン直線(affine line)とは、体 $k$ 上で一変数多項式環 $k[t]$ のスペクトル $\operatorname{Spec}k[t]$ として定義される代数曲線である。複素数値の点は複素平面と同一視できるが、スキームには一般点や重複度を持つ閉部分スキームの情報もある。自己同型は一次式に限られ、非定数多項式は有限射を与える。原点を除くと乗法群となり、無限遠を加えると射影直線になる。
アフィン直線は、体 $k$ 上で一つの座標 $t$ を自由に動かせる代数曲線である。複素数を係数にすれば、その複素数値の点は複素平面 $\mathbb C$ と同一視できる。しかし代数幾何でいうアフィン直線は、単に点を並べた集合ではない。座標多項式の環を備えたスキーム $\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ であり、通常の点のほかに全体の一般点も持つ(Sta01M0)。
この一変数の場合は、アフィン空間の一般論を具体的に計算できる。閉部分集合は多項式の根で決まり、自己同型は一次式に限られ、多項式 $p(t)$ はアフィン直線からそれ自身への射を定める。他方、複素平面上の正則関数には $e^t$ のような多項式でないものもあり、代数的な射と解析的な写像を区別する入口にもなる。
この記事では主に $k=\mathbb C$ を用い、成り立つところでは任意の体 $k$ に拡張する。アフィン直線を射影直線から無限遠の一点を取り除いた部分としても見て、開いた空間と完備化した空間で関数がどう変わるかを説明する。
体 $k$ 上のアフィン直線は
$$
\mathbb A^1_k:=\operatorname{Spec}k[t]
$$
である。$t$ を座標関数という。$k$ を固定した射 $\operatorname{Spec}K\to\mathbb A^1_k$($K/k$ は体の拡大)は、$k$ 代数準同型 $k[t]\to K$、従って $t$ の像 $a\in K$ に対応する。特に $\mathbb A^1_k(k)=k$ である。
この等式の右辺は $k$ 値点の集合であり、スキームの点の全体ではない。$k=\mathbb C$ の場合、閉点は $(t-a)$($a\in\mathbb C$)に対応する。これに加えて、零イデアル $(0)$ は一般点で、その閉包はアフィン直線全体である。一般点の剰余体は有理関数体 $\mathbb C(t)$ になる。複素平面の通常の位相には、この一般点に対応する点は現れない。
$\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の点は、一般点 $(0)$ と、$a\in\mathbb C$ に対する閉点 $(t-a)$ の全てである。従って空でない真の閉集合は有限個の閉点からなる。
$\mathbb C[t]$ は主イデアル整域である。零でない素イデアルは既約多項式 $p(t)$ で生成され、複素数体の代数的閉性により $p(t)$ は $t-a$ の形を取る。零イデアルも整域の素イデアルだから、記したもの以外に点はない。真の閉集合は零でないイデアル $I$ の零点集合 $V(I)$ である。$I=(f)$ と書けば、$f$ の素因子 $t-a$ は有限個なので、$V(I)$ も有限個の閉点になる。$\square$
任意の体では「閉点は全て $k$ 値点」という主張は成り立たない。例えば $\mathbb A^1_{\mathbb R}$ の $(t^2+1)$ は閉点だが、$t^2+1$ に実根はない。その剰余体は $\mathbb C$ である。この違いがあるため、体を変えるときは $k$ 値点と閉点を混同しない。
アフィン直線の大域正則関数は、その定義に使った座標環そのもの、すなわち $k[t]$ である。分母のある有理関数 $1/t$ は $t=0$ で定義できないため、アフィン直線全体の正則関数ではない。一方、$1/t$ は $t\ne0$ の開部分では正則になる。このように「どの開集合上で考えるか」が関数の許される分母を決める(Sta01HR)。
$T$ を $k$ スキームとする。$k$ 上の射 $T\to\mathbb A^1_k$ の集合は、$T$ の大域正則関数の環 $\Gamma(T,\mathcal O_T)$ の台集合と自然に一対一に対応する。対応する関数は座標 $t$ の引き戻しである。
アフィンスキームへの射は大域切断への環準同型に対応するので、$k$ 上の射 $T\to\operatorname{Spec}k[t]$ は $k$ 代数準同型 $k[t]\to\Gamma(T,\mathcal O_T)$ に対応する。多項式環の普遍性により、そのような準同型は $t$ の像を一つ指定すると一意に定まる。$t$ の像は任意の大域正則関数でよい。$\square$
特に $T=\mathbb A^1_k$ とすると、自己射は多項式 $p(t)\in k[t]$ で尽くされる。射の合成は多項式の代入に対応する。$p(t)=t^2$ と $q(t)=t+1$ をこの順で合成するか逆順で合成するかにより、$(t+1)^2$ と $t^2+1$ が現れる。一般に自己射の合成は可換ではない。
複素数上では、同じ式 $p(z)$ を複素平面の正則写像としても読める。しかし逆は成り立たない。例えば $e^z:\mathbb C\to\mathbb C$ は正則写像だが、$\mathbb A^1_{\mathbb C}\to\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の代数的な射ではない。代数的な大域関数は $\mathbb C[t]$ に限られ、$e^t$ は多項式でないからである。両者の対象は同じ複素数値点を持っても、許される写像の範囲が違う。
多項式は全て自己射を与えるが、逆射を持つものは少ない。例えば $t\mapsto t^2$ は非零複素数上で二つの値を一つに送るので、自己同型ではない。実際、全ての体でアフィン直線の代数的自己同型は一次式に限られる。
体 $k$ 上の $k$ スキーム $\mathbb A^1_k$ の自己同型は、ちょうど
$$
t\longmapsto at+b\qquad(a\in k^\times,\ b\in k)
$$
で与えられる。合成の下で自己同型群は $k\rtimes k^\times$ と表せる。
自己同型に対応する多項式を $p(t)$、逆射に対応する多項式を $q(t)$ とする。合成が恒等射だから $q(p(t))=t$ である。定数多項式は逆を持たないので、$p,q$ はともに非定数である。体上では $\deg(q\circ p)=\deg q\,\deg p$ だから、両次数は $1$ でなければならない。従って $p(t)=at+b$、$a\ne0$ となる。逆にこの式には $t\mapsto a^{-1}(t-b)$ という多項式の逆射がある。$b$ による平行移動と $a$ による拡大縮小の積として群を記述できる。$\square$
ここで「自己同型」は $k$ 上の代数的な射の自己同型である。複素平面の位相同型を数えているわけではない。また、$\mathbb A^n_k$ の $n\ge2$ では多変数多項式の自己同型が一次式だけとは限らない。例えば $(x,y)\mapsto(x,y+x^2)$ は逆写像 $(x,y)\mapsto(x,y-x^2)$ を持つ。一変数の次数の議論を高次元へそのまま移せない。
複素アフィン直線の閉集合は有限点の集合だったが、閉部分スキームには同じ点集合の上に異なる情報が載る。$a\in\mathbb C$ に対して $(t-a)$ と $((t-a)^2)$ は、どちらも点 $a$ だけを台集合とする。だが座標環 $\mathbb C[t]/(t-a)\cong\mathbb C$ と $\mathbb C[t]/((t-a)^2)$ は異なり、後者には零でない冪零元 $t-a$ の像が残る。
$0\ne f(t)\in\mathbb C[t]$ を
$$
f(t)=c\prod_{i=1}^{r}(t-a_i)^{m_i}
$$
と相異なる $a_i$ と正整数 $m_i$ で分解する。閉部分スキーム $V(f)\subset\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の台集合は $\{a_1,\ldots,a_r\}$ で、座標環 $\mathbb C[t]/(f)$ の $\mathbb C$ ベクトル空間としての次元は $\sum_i m_i=\deg f$ である。
多項式の割り算により、$\mathbb C[t]/(f)$ の元は次数が $\deg f$ より小さい多項式で一意に代表される。従って $1,t,\ldots,t^{\deg f-1}$ が基底となり、次元は $\deg f=\sum_i m_i$ である。素イデアルで $(f)$ を含むものは、$f$ を割る $t-a_i$ で生成されるので、台集合は記した点だけである。$\square$
この次元は、根を重複度込みで数える方法になる。例えば $V((t-a)^3)$ は点としては一個だが、座標環の次元は $3$ である。集合だけを見れば三重根と単根を区別できない。多項式の方程式をスキームとして見る利点が、最も小さな例で現れている。
$t=0$ の閉点を除いた開部分は標準開集合 $D(t)$ であり、座標環は局所化 $k[t,t^{-1}]$ である。これを $\mathbb A^1_k\setminus\{0\}\cong\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ と書く。右辺は乗法群スキーム $\mathbb G_{m,k}$ でもある。点を一つ除いただけで、座標関数 $t$ に逆元 $t^{-1}$ が加わる。
体 $k$ 上で $\mathbb A^1_k$ と $\mathbb A^1_k\setminus\{0\}$ は、$k$ スキームとして同型でない。
$k[t]$ の単元は零でない定数だけなので $k[t]^\times=k^\times$ である。他方、$k[t,t^{-1}]$ では $t$ が単元であり、単元群は $\{ct^n:c\in k^\times,\ n\in\mathbb Z\}$ である。$t$ は無限位数の新しい単元を与えるから、$k$ 代数として両座標環は同型でない。アフィンスキームの同型なら大域関数環も同型になるはずなので、スキームも同型でない。$\square$
複素数値点の通常の位相でも、$\mathbb C$ は一点へ縮められるが、$\mathbb C^\times$ は単位円周に変形レトラクトして穴を持つ。これは別の不変量による区別である。上の代数的な証明は複素数以外の体にも通用し、局所化で得た単元の違いを使っている。
非定数多項式 $p(t)\in\mathbb C[t]$ は自己射 $p:\mathbb A^1_{\mathbb C}\to\mathbb A^1_{\mathbb C}$ を定める。標的の座標を $u$ とすれば、対応する環準同型は $\mathbb C[u]\to\mathbb C[t]$、$u\mapsto p(t)$ である。$p(t)=t^n$ の場合、零でない標的の点 $b$ の逆像には $n$ 個の複素数があるが、$b=0$ の逆像の台集合は一点である。この違いは分岐で説明される。
$p(t)\in\mathbb C[t]$ を次数 $d\ge1$ の多項式とする。$p$ が定める $\mathbb A^1_{\mathbb C}\to\mathbb A^1_{\mathbb C}$ は次数 $d$ の有限射である。各 $b\in\mathbb C$ に対し、逆像のスキームの座標環は $\mathbb C[t]/(p(t)-b)$ であり、そのベクトル空間としての次元は $d$ である。
$p(t)=a_dt^d+\cdots+a_0$、$a_d\ne0$ とする。$u=p(t)$ と置くと、$t$ は係数が $\mathbb C[u]$ にあるモニック多項式
$$
t^d+a_d^{-1}(a_{d-1}t^{d-1}+\cdots+a_0-u)=0
$$
を満たす。従って $\mathbb C[t]$ は $\mathbb C[u]$ 上 $1,t,\ldots,t^{d-1}$ で生成される有限加群である。表示が一意であることは、零でない項 $g_i(p(t))t^i$ の次数が $d\deg g_i+i$ となり、異なる $i\in\{0,\ldots,d-1\}$ では最高次数が一致しないことから分かる。よって自由加群の階数は $d$ である。$u=b$ として基底変換すると逆像の座標環は $\mathbb C[t]/(p(t)-b)$ となり、割り算からその次元は $d$ である。$\square$
この命題の「逆像の長さは常に $d$」と「相異なる点が常に $d$ 個」は違う。$p(t)-b$ が重根を持てば、一点に複数の長さが集まる。複素数上では重根 $a$ で $p'(a)=0$ となる。例えば $p(t)=t^n$ は $0$ で重根を持ち、$V(t^n)$ の長さは $n$ だが、台集合は一点である。標数が正の場合は微分が恒等的に零になる多項式もあるため、この複素数上の分岐の説明をそのまま全ての体へ移さない。
射影直線 $\mathbb P^1_k$ は二つのアフィン直線を貼って作れる。一方の座標を $t$、もう一方を $s$ とし、重なりで $s=t^{-1}$ とする(Sta01JE)。最初の直線にないもう一方の点を $\infty$ と書くと、$\mathbb A^1_k=\mathbb P^1_k\setminus\{\infty\}$ である。したがって「無限遠の一点を加える」という表現は、二つのアフィン座標を $t$ と $1/t$ で貼る操作を指している。
体 $k$ に対し、$\Gamma(\mathbb P^1_k,\mathcal O_{\mathbb P^1_k})=k$ である。特に $k$ 上の射 $\mathbb P^1_k\to\mathbb A^1_k$ は定数射に限られる。
大域正則関数を $t$ 側の座標で $f(t)\in k[t]$、$s$ 側の座標で $g(s)\in k[s]$ と書く。重なりで $s=t^{-1}$ だから、同じ関数なら $f(t)=g(t^{-1})$ が $k[t,t^{-1}]$ で成り立つ。左辺は非負の冪、右辺は非正の冪だけを含むので、両辺は定数である。よって大域関数環は $k$ である。prop-affine-line-universal により $\mathbb P^1_k\to\mathbb A^1_k$ の射はこの環の元に対応するから、定数射だけである。$\square$
アフィン直線には $t,t^2,\ldots$ という無数の非定数大域関数があるが、射影直線では全て消える。アフィン座標の多項式 $t$ は無限遠で $s^{-1}$ となって極を持つため、射影直線全体の正則関数ではない。この対比は、因子の零点と極を数えるときにも重要である。例えば $t-a$ のアフィン直線上の因子は点 $a$ だけを含み、射影直線上では無限遠の極も数える(因子類群)。
アフィン直線の $k$ 値点が $k$ と同一視できることは、スキーム自体が集合 $k$ だけから決まるという意味ではない。一般点、閉点の剰余体、冪零元を持つ閉部分スキームを扱うときには、座標環と構造層が必要である。特に $V((t-a)^2)$ と $V(t-a)$ は点集合として同じでも異なる。
「アフィン直線からアフィン直線への射は多項式」という主張には、$k$ 上の代数的な射という条件が入る。$\mathbb C$ の通常の位相で連続な写像や複素解析的な正則写像まで含めれば、対象はずっと多い。代数的な写像の中でも、自己射と自己同型は違い、後者は $at+b$ に限られる。
また、$t^n$ のような射では、標的の各点の逆像を台集合として数えるか、閉部分スキームの長さで数えるかを区別する。重根を持つ点では集合の点数が減る一方、長さは次数を保つ。アフィン直線は、この違いを一変数多項式の因数分解と割り算だけで確かめられる最初の例である。
上の命題は、それぞれ「一変数」「体上」「代数閉体」「非定数」「射影直線全体」といった仮定に支えられている。仮定を一つ外すと結論が崩れることを、次の表の反例で確かめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 一変数(prop-affine-line-aut) | $\mathbb A^2_k$ の $(x,y)\mapsto(x,y+x^2)$ | 自己同型は一次式に限る |
| 基礎が体(prop-affine-line-aut) | $R=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ 上の $t\mapsto t+\varepsilon t^2$ | 自己同型は $at+b$ の形に限る |
| 代数閉体(prop-affine-line-points) | $\mathbb A^1_{\mathbb R}$ の閉点 $(t^2+1)$ | 閉点は全て $(t-a)$ の形の $k$ 値点 |
| 非定数(prop-affine-line-finite-map) | 定数多項式 $p(t)=c$ | 射が有限で、各逆像の長さが $d$ |
| 射影直線全体(prop-affine-line-projective-functions) | 一点を除いた $\mathbb P^1_k\setminus\{\infty\}=\mathbb A^1_k$ | 大域正則関数は定数だけ |
| 代数的な射(prop-affine-line-universal) | 正則写像 $e^z:\mathbb C\to\mathbb C$ | 自己射は多項式で与えられる |
各行の確認は次のとおりである。
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