球(ball)とは、空間の点 $C$ からの距離が $r$ 以下の点の全体からなる立体であり、距離がちょうど $r$ の点の全体(球面)はその表面である。球を $C$ からの距離 $d$ の平面で切ると、$d<r$ なら半径 $\sqrt{r^2-d^2}$ の円板、$d=r$ なら 1 点、$d>r$ なら空集合になり、$d=0$ の切り口の縁が大円である。球の 2 点を結ぶ線分は球に含まれ(凸)、2 点の距離は $2r$ 以下で、等号は 2 点が直径の両端のときに限る。半径 $R$ の球に内接する円錐の体積は、高さ $\frac43R$ のとき最大値 $\frac{32}{81}\pi R^3$ をとる。
前提知識: 空間座標と球面の方程式, 円錐(高校数学), ベクトルの内積(高校数学)
中学校では、半径 $r$ の 球 の体積は $\dfrac43\pi r^3$、表面積は $4\pi r^2$ と習う。体積を考えるときの球は、ボールのように中身の詰まった立体であり、表面積を考えるときは、その表面(風船のゴム膜にあたる曲面)を見ている。まず座標で、点が球のどこにあるかを確かめる。
原点 $O$ を中心とする半径 $5$ の球を考える。点と $O$ の距離を計算すると(空間座標と球面の方程式 の定理「2 点間の距離」)
半径 $3$ の球の中に、頂点と底面の円周が球の表面にのるように円錐を入れる。円錐の高さを $h$ とすると、底面の半径 $r$ は $r^2=h(6-h)$ で決まる(thm-blh-cone の証明で示す)。体積 $\dfrac13\pi r^2h$ を計算すると
| 高さ $h$ | $3$ | $4$ | $5$ |
|---|---|---|---|
| $r^2=h(6-h)$ | $9$ | $8$ | $5$ |
| 体積 | $9\pi\approx28.27$ | $\dfrac{32}3\pi\approx33.51$ | $\dfrac{25}3\pi\approx26.18$ |
で、高さを球の半径と同じ $3$ にするより、少し高い $4$ にする方が体積は大きい。
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 中学・高校の言葉 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 球(中身の詰まった立体) | 中心からの距離が $r$ 以下の点の全体(def-blh-ball) | 閉球体 |
| 球面(表面) | 中心からの距離がちょうど $r$ の点の全体 | 2 次元球面 |
| 球のどこを切っても切り口は円 | thm-blh-section | 球面と平面の交わり |
| 直径は球の中で最も長い線分 | thm-blh-convex の 2 | 集合の直径 |
この記事では、次のことを認めて使う。どれも座標空間の計算で確かめられる事実である。
(B1) 座標空間の 2 点 $(x_1,y_1,z_1)$、$(x_2,y_2,z_2)$ の距離は $\sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2+(z_1-z_2)^2}$ である(空間座標と球面の方程式 の定理「2 点間の距離」)。
(B2) 空間のベクトル $\vec a$、$\vec b$ について $\lvert\vec a\cdot\vec b\rvert\le\lvert\vec a\rvert\lvert\vec b\rvert$ で、等号は一方が $\vec 0$ か、$\vec b=k\vec a$ となる実数 $k$ があるときに限る(ベクトルの内積(高校数学) の系「内積の大きさの不等式」)。
(B3) 点 $C$ から平面 $\alpha$ に下ろした垂線の足を $H$ とすると、$\alpha$ の上のどの点 $X$ についても $CX^2=CH^2+HX^2$ である(三平方の定理)。$CH$ を $C$ と $\alpha$ の 距離 という。
(B4) 区間で導関数が正なら関数はその区間で増加し、負なら減少する(関数の増減と極値 の定理「導関数の符号と増減」)。
(B2) から、空間のベクトルの 三角不等式 $\lvert\vec a+\vec b\rvert\le\lvert\vec a\rvert+\lvert\vec b\rvert$ が出る。実際 $\lvert\vec a+\vec b\rvert^2=\lvert\vec a\rvert^2+2\vec a\cdot\vec b+\lvert\vec b\rvert^2\le(\lvert\vec a\rvert+\lvert\vec b\rvert)^2$ で、等号は $\vec a\cdot\vec b=\lvert\vec a\rvert\lvert\vec b\rvert$ のときに限る。
空間の点 $C$ と正の数 $r$ について、
日常の言葉や問題文では、「球」が表面だけを指すこともある。この記事では、立体を「球」、表面を「球面」と呼び分ける。球面の方程式の扱い(一般形、接平面、2 つの球面の交わり)は 空間座標と球面の方程式 で扱い、この記事は中身の詰まった立体としての球を主題にする。
Euclid『原論』第 XI 巻の定義 14 は、半円を直径のまわりに 1 回転させてできる図形を球と定めている(Hea56c p. 261)。半円の弧が球面を、半円の内部が球の中身を作る。円錐(高校数学) が直角三角形の回転で作られるのと同じ見方である。
中心 $C$、半径 $r$ の球と平面 $\alpha$ について、$C$ と $\alpha$ の距離を $d$、$C$ から $\alpha$ に下ろした垂線の足を $H$ とする。
方針:(B3) で、$\alpha$ の上の点が球に入る条件を、$H$ からの距離の条件に直す。
段 1(言いかえ)。$\alpha$ の上の点 $X$ について、(B3) から $CX^2=d^2+HX^2$ である。したがって
$$
X\ \text{が球の点}\iff d^2+HX^2\le r^2\iff HX^2\le r^2-d^2
$$
であり、$X$ が球面の点であることは $HX^2=r^2-d^2$ と同値である。
段 2(場合分け)。$d< r$ なら、$\alpha$ の上の点 $X$ が球の点であることは $HX\le\sqrt{r^2-d^2}$ と同値で、切り口は中心 $H$、半径 $\sqrt{r^2-d^2}$ の円板である。同じく、球面と $\alpha$ の交わりは $HX=\sqrt{r^2-d^2}$ の円である。$d=r$ なら条件は $HX^2\le0$、つまり $X=H$ である。$d>r$ なら $r^2-d^2<0$ で、条件を満たす $X$ はない。$\square$
球面の側の主張(縁の円と、$d=r$ のとき平面が球面に $H$ で接すること)は 空間座標と球面の方程式 の定理「球面と平面の交わり」と同じ内容である。この記事の主張は、中身を含めた切り口が円板になることである。
切り口の半径 $\sqrt{r^2-d^2}$ は、$d$ が小さいほど大きく、$d=0$、つまり平面が中心を通るとき最大の $r$ になる。中心を通る平面で切った切り口の縁の円を 大円 という。地球を球とみなすと、赤道や経線(の両側を合わせたもの)は大円で、赤道以外の緯線は大円ではない。
球を、中心からの距離 d の平面で切る(中心と H を通る断面で見た図)。切り口は半径 √(r² − d²) の円板で、d = 0 のとき大円になる
原点を中心とする半径 $5$ の球を、平面 $\alpha\colon x+2y+2z=9$ で切る。原点と $\alpha$ の距離は $d=\dfrac{\lvert-9\rvert}{\sqrt{1+4+4}}=3$ で、垂線の足は法線ベクトル $(1,2,2)$ の向きに距離 $3$ 進んだ点 $H=(1,2,2)$ である($1+4+4=9$ で確かに $\alpha$ の上)。thm-blh-section により、切り口は中心 $(1,2,2)$、半径 $\sqrt{25-9}=4$ の円板である。たとえば $X=(5,0,2)$ は $\alpha$ の上にあり($5+0+4=9$)、$HX=\sqrt{16+4+0}=2\sqrt5\approx4.47>4$ なので切り口に入らない。実際 $OX=\sqrt{29}>5$ である。
中心 $C$、半径 $r$ の球の 2 点 $X$、$Y$ について、次が成り立つ。
方針:$\vec x=\overrightarrow{CX}$、$\vec y=\overrightarrow{CY}$ とおくと、$\lvert\vec x\rvert\le r$、$\lvert\vec y\rvert\le r$ である。三角不等式とその等号の条件を使う。
段 1(1 の証明)。線分 $XY$ の点は、$0\le t\le1$ で $\overrightarrow{CZ}=(1-t)\vec x+t\vec y$ となる点 $Z$ である。三角不等式から
$$
CZ=\lvert(1-t)\vec x+t\vec y\rvert\le(1-t)\lvert\vec x\rvert+t\lvert\vec y\rvert\le(1-t)r+tr=r
$$
なので、$Z$ は球の点である。
段 2(2 の不等式)。$XY=\lvert\vec y-\vec x\rvert\le\lvert\vec y\rvert+\lvert-\vec x\rvert\le2r$ である。
段 3(等号の条件)。$XY=2r$ なら、段 2 の 2 つの不等号がどちらも等号なので、$\lvert\vec x\rvert=\lvert\vec y\rvert=r$($X$、$Y$ は球面の上)で、三角不等式の等号から $(-\vec x)\cdot\vec y=\lvert\vec x\rvert\lvert\vec y\rvert=r^2$ である。(B2) の等号の条件から $\vec y=k(-\vec x)$ となる $k$ があり、内積に代入すると $kr^2=r^2$、$k=1$ である。よって $\vec y=-\vec x$ で、$C$ は線分 $XY$ の中点である。逆に $\lvert\vec x\rvert=r$、$\vec y=-\vec x$ なら $XY=\lvert-2\vec x\rvert=2r$ である。$\square$
1 の性質をもつ図形を 凸 であるという。球は凸であり、2 から、球の中で最も長い線分は直径である。
原点を中心とする半径 $5$ の球で、
頂点が球面の上にあり、底面の円周が球面の上にある直円錐を、球に 内接する円錐 という。
半径 $R$ の球に内接する円錐の高さを $h$ とすると、$0< h<2R$ で、底面の半径 $r$ は $r^2=h(2R-h)$ を満たす。体積 $\dfrac13\pi r^2h$ が最大になるのは $h=\dfrac43R$ のときに限り、そのとき $r=\dfrac{2\sqrt2}3R$、体積は $\dfrac{32}{81}\pi R^3$ で、球の体積の $\dfrac8{27}$ である。
方針:thm-blh-section で底面の円の中心と半径を決め、体積を $h$ の 3 次関数にして (B4) を使う。
段 1(底面の円)。球の中心を $C$、底面を含む平面を $\beta$、$C$ と $\beta$ の距離を $d$、垂線の足を $H$ とする。底面の円周 $K$(中心 $O$、半径 $r$)は球面と $\beta$ の交わりに含まれる。交わりが 2 点以上を含むので、thm-blh-section により $d< R$ で、交わりは中心 $H$、半径 $s=\sqrt{R^2-d^2}$ の円である。$K$ の点は $\beta$ の中の単位ベクトル $\vec u$ を使って $O+r\vec u$ と書け、$H$ からの距離が $s$ なので
$$
\lvert\overrightarrow{HO}\rvert^2+2r\,\vec u\cdot\overrightarrow{HO}+r^2=s^2
$$
がすべての $\vec u$ で成り立つ。$\vec u$ と $-\vec u$ を入れて引くと $\vec u\cdot\overrightarrow{HO}=0$ である。$\overrightarrow{HO}$ は $\beta$ の中のベクトルで、$\beta$ の中のどの向きとも垂直なので $\overrightarrow{HO}=\vec 0$、つまり $O=H$ で、$r^2=s^2=R^2-d^2$ である。
段 2(高さ)。円錐の軸は、$O=H$ を通って $\beta$ に垂直な直線で、$CH\perp\beta$ なので $C$ を通る($C=H$ のときも通る)。頂点 $V$ は軸の上で $CV=R$ の点なので、$C$ から軸に沿って $R$ だけ離れた 2 点のどちらかである。$V$ と $\beta$ の距離 $h$ は $R+d$ か $R-d$ で、どちらでも $(h-R)^2=d^2$、$0< h<2R$ である。よって
$$
r^2=R^2-(h-R)^2=h(2R-h)
$$
である。逆に $0< h<2R$ のどの $h$ についても、$d=\lvert h-R\rvert$ の平面と軸の上の点でこの円錐が作れる。
段 3(体積の最大)。体積は $f(h)=\dfrac13\pi h^2(2R-h)=\dfrac\pi3(2Rh^2-h^3)$ で、
$$
f'(h)=\frac\pi3(4Rh-3h^2)=\frac\pi3h(4R-3h)
$$
である。$0< h< \dfrac43R$ で $f'(h)>0$、$\dfrac43R< h<2R$ で $f'(h)<0$ なので、(B4) により $f$ は $0< h\le\dfrac43R$ で増加し、$\dfrac43R\le h<2R$ で減少する。よって $f$ は $h=\dfrac43R$ のときに限り最大である。このとき $r^2=\dfrac43R\cdot\dfrac23R=\dfrac89R^2$、$f\left(\dfrac43R\right)=\dfrac\pi3\cdot\dfrac{16}9R^2\cdot\dfrac23R=\dfrac{32}{81}\pi R^3$ である。球の体積 $\dfrac43\pi R^3$ との比は $\dfrac{32}{81}\cdot\dfrac34=\dfrac8{27}$ である。$\square$
最大のとき、球の中心は底面から $h-R=\dfrac R3$ の高さにある。半頂角 $\varphi$ は $\tan\varphi=\dfrac rh=\dfrac{\sqrt2}2$ から約 $35.26^\circ$ である。
左:半径 R の球に内接する円錐のうち体積が最大のもの(軸を含む断面、h = 4R/3)。右:体積 f(h) を πR³ で割ったグラフ。h = 4R/3 で最大値 32/81 をとる
$R=3$ では、最大は $h=4$、$r=2\sqrt2$、体積 $\dfrac{32}{81}\pi\cdot27=\dfrac{32}3\pi$ で、ex-blh-start-cone の表の $h=4$ の値と一致する。球の体積は $36\pi$ で、$\dfrac{32}3\pi\mathbin{÷}36\pi=\dfrac8{27}\approx0.296$ である。$h=4$ では球の中心は底面から $1$ の高さにあり、底面の円は球を中心から距離 $1$ の平面で切った円で、半径は $\sqrt{9-1}=2\sqrt2$ である(thm-blh-section)。
半径 $r$ の球の体積は $\dfrac43\pi r^3$、球面の面積は $4\pi r^2$ である。体積は、thm-blh-section の切り口の面積 $\pi(r^2-d^2)$ を、円柱から円錐をくり抜いた立体の断面積と比べて求められ(体積と回転体 の例「半球と、円柱から円錐を除いた立体」)、表面積は、球面に内接する円錐台の側面積の極限として求められる(球の体積と表面積 の定理「球の表面積」)。どちらの計算にも 円錐(高校数学) の公式が使われる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 中身を含める(球面だけにする) | ex-blh-cx-surface | 2 点を結ぶ線分が含まれる(thm-blh-convex の 1) |
| 中心が線分の中点(球面の 2 点にするだけ) | ex-blh-cx-chord | 2 点の距離が $2r$(thm-blh-convex の 2 の等号) |
| 距離を普通の距離で測る(座標の差の絶対値の和で測る) | ex-blh-cx-octahedron | 平面で切った切り口が円板(thm-blh-section) |
原点を中心とする半径 $5$ の球面の 2 点 $X(5,0,0)$、$Y(-5,0,0)$ を結ぶ線分の中点は原点で、原点からの距離は $0$ なので球面の上にない。球面は、中身を含めた球と違って凸ではない。prf-blh-convex の段 1 では、$CZ\le r$ は言えても、$CZ=r$ は言えない。
ex-blh-convex の $X(3,4,0)$、$Y'(0,0,5)$ はどちらも球面の上にあるが、$XY'=5\sqrt2<10$ である。$\overrightarrow{OX}\cdot\overrightarrow{OY'}=0$ で、prf-blh-convex の段 3 の等号の条件 $(-\vec x)\cdot\vec y=r^2$ を満たさない。球面の上の 2 点でも、中心が中点でなければ距離は直径より短い。
2 点の「距離」を $\lvert x_1-x_2\rvert+\lvert y_1-y_2\rvert+\lvert z_1-z_2\rvert$ で測ると、原点からの「距離」が $1$ 以下の点の全体は $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert+\lvert z\rvert\le1$ で、これは 6 つの頂点 $(\pm1,0,0)$、$(0,\pm1,0)$、$(0,0,\pm1)$ をもつ正八面体である。平面 $z=\dfrac12$ で切ると、切り口は $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert\le\dfrac12$ で、4 つの頂点 $\left(\pm\dfrac12,0\right)$、$\left(0,\pm\dfrac12\right)$ をもつ正方形であり、円板ではない。prf-blh-section は (B3) の三平方の定理を使ったが、この測り方では (B3) が成り立たない。
一方、この正八面体も凸である(三角不等式 $\lvert a+b\rvert\le\lvert a\rvert+\lvert b\rvert$ を座標ごとに使えば、prf-blh-convex の段 1 と同じ計算になる)。凸であることは、距離の測り方が三角不等式を満たすことから来ている。
大学数学では、2 点の距離が決まった集合(距離空間)で、点 $C$ からの距離が $r$ 以下の点の全体を 閉球、$r$ より小さい点の全体を 開球 という(閉球)。高校の球は、普通の距離で測った座標空間の閉球である。距離の測り方を変えると、ex-blh-cx-octahedron のように閉球の形が変わる。ベクトルの長さの測り方(ノルム)から決まる距離では、閉球はいつも凸になる(ノルム、凸集合。証明は prf-blh-convex の段 1 と同じ計算である)。球面を位相の言葉で調べることは 球面 で扱う。
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