高木関数

同義語:Takagi関数Takagi functionblancmange function

概要

高木関数(Takagi function)とは、$x$ から最も近い整数までの距離を $\varphi(x)$ として $\tau(x)=\sum_{n\ge0}2^{-n}\varphi(2^nx)$ で定まる関数で、高木貞治が 1903 年に与えた、すべての点で連続なのにどの点でも有限の微分係数をもたない関数の例である。部分和は長さ $2^{-m}$ の 2 進区間ごとに整数の傾きをもつ折れ線で、区間を 1 段細かくするたびに傾きが $\pm1$ だけ動くことから微分できないことが従う。$\tau$ は 2 つの関数方程式で特徴づけられ、$\lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert$ は $h\log_2(1/h)$ の程度で、最大値は $\tau(1/3)=2/3$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一様収束, 連続関数, 導関数

高木関数(Takagi function)は、$x$ から最も近い整数までの距離を $\varphi(x)$ として
$$ \tau(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\varphi(2^nx)}{2^n} $$
で定まる関数である。高木貞治(Teiji Takagi)が 1903 年に、すべての点で連続なのに、どの点でも(有限の)微分係数をもたない関数の簡単な例として与えた(Tak03)。三角の波を高さと幅を半分ずつにしながら足し合わせたもので、グラフは図のように細かな山を無限に重ねた形になる。
至るところ微分できない連続関数の例としては Weierstrass の三角級数が古いが、高木関数は 2 進法と相性がよく、多くの性質を有限の計算で正確に確かめられる。この記事では、連続性、2 つの関数方程式とそれによる特徴づけ、どの点でも微分できないこと、変化の大きさの評価 $h\log_2(1/h)$、最大値 $\frac23$ を証明し、条件を変えると結論が崩れる例を調べる。

定義と基本性質

高木関数

$x\in\mathbb{R}$ について $\varphi(x):=\min_{k\in\mathbb{Z}}\lvert x-k\rvert$(最も近い整数までの距離)とおく。高木関数 $\tau\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を
$$ \tau(x):=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\varphi(2^nx)}{2^n} $$
で定める。$m\ge0$ について、最初の $m$ 項の和を $\tau_m(x):=\sum_{n=0}^{m-1}2^{-n}\varphi(2^nx)$ と書く($\tau_0=0$)。

$\varphi$ は周期 $1$ の連続関数で、$0\le\varphi\le\frac12$ である。各区間 $\bigl[\frac j2,\frac{j+1}2\bigr]$($j\in\mathbb{Z}$)の上で $\varphi$ は 1 次式で、傾きは $j$ が偶数なら $1$、奇数なら $-1$ である。また $\lvert\varphi(a)-\varphi(b)\rvert\le\min\{\lvert a-b\rvert,\frac12\}$ が成り立つ($\varphi$ は 1-Lipschitz で、値は $[0,\frac12]$ にある)。
高木関数 τ のグラフ(青)と部分和 τ_1, τ_2, τ_3, τ_4(灰色の折れ線)。部分和は τ に下から近づき、最大値 2/3 の高さに破線を引いた 高木関数 τ のグラフ(青)と部分和 τ_1, τ_2, τ_3, τ_4(灰色の折れ線)。部分和は τ に下から近づき、最大値 2/3 の高さに破線を引いた
以下、長さ $2^{-m}$ の区間 $I=\bigl[\frac k{2^m},\frac{k+1}{2^m}\bigr]$($k\in\mathbb{Z}$、$m\ge0$)を $m$ 段の 2 進区間 という。$x$ の 2 進展開を $x-\lfloor x\rfloor=0.b_1b_2b_3\cdots$ と書く($b_i\in\{0,1\}$)。

連続性と部分和
  1. 級数は $\mathbb{R}$ 上で一様収束し、$\tau$ は連続で、$\lvert\tau(x)-\tau_m(x)\rvert\le2^{-m}$ である。
  2. $\tau(x+1)=\tau(x)$、$\tau(-x)=\tau(x)$。とくに $\tau(1-x)=\tau(x)$ である。
  3. $\tau_m$ は各 $m$ 段の 2 進区間 $I=\bigl[\frac k{2^m},\frac{k+1}{2^m}\bigr]$ の上で 1 次式であり、その傾き $D_m(I)$ は整数で、$k$ を $m$ 桁の 2 進数 $k-2^m\lfloor k/2^m\rfloor=(c_1c_2\cdots c_m)_2$ と書いたときの($0$ の個数)$-$($1$ の個数)に等しい。とくに $\lvert D_m(I)\rvert\le m$ である。
  4. $m$ 段の 2 進区間の端点 $u=\frac k{2^m}$ では $\tau(u)=\tau_m(u)$ である。
項ごとに見る

1:$n$ 番目の項の絶対値は $2^{-n}\cdot\frac12$ 以下で、$\sum_{n\ge m}2^{-n-1}=2^{-m}$ である。よって Weierstrass の M 判定法により級数は一様収束し、連続関数の一様収束極限として $\tau$ は連続である(一様収束)。同じ評価から $\lvert\tau-\tau_m\rvert\le2^{-m}$。
2:$\varphi(y+k)=\varphi(y)$($k\in\mathbb{Z}$)と $\varphi(-y)=\varphi(y)$ を各項に使う。$2^n(x+1)=2^nx+2^n$ である。
3:$n< m$ とする。$2^nI=\bigl[\frac{k}{2^{m-n}},\frac{k+1}{2^{m-n}}\bigr]$ は長さ $2^{n-m}\le\frac12$ で、端点が $2^{n-m}$ の整数倍なので、ある $\bigl[\frac j2,\frac{j+1}2\bigr]$ に含まれる。したがって $x\mapsto2^{-n}\varphi(2^nx)$ は $I$ の上で傾き $\pm1$ の 1 次式である。傾きが $+1$ になるのは $j$ が偶数のとき、つまり $2^nI$ の点の小数部分が $[0,\frac12]$ にあるときで、これは $I$ の内部の点 $x$ の 2 進展開の $n+1$ 桁目が $b_{n+1}=c_{n+1}=0$ であることと同じである。$n=0,\dots,m-1$ について足すと 3 を得る。
4:$n\ge m$ なら $2^nu=2^{n-m}k$ は整数なので $\varphi(2^nu)=0$ である。$\square$

3 の傾きを $x$ の 2 進展開で言えば、$x$ が $m$ 段の 2 進区間の内部にあるとき、$D_m=(b_1,\dots,b_m\text{ のうち }0\text{ の個数})-(1\text{ の個数})$ である。

値の計算
  1. $\tau(0)=0$、$\tau\bigl(\frac12\bigr)=\frac12$、$\tau\bigl(\frac14\bigr)=\frac14+\frac12\cdot\frac12=\frac12$。一般に $m\ge1$ について $\tau(2^{-m})=\sum_{n=0}^{m-1}2^{-n}\cdot2^{n-m}=m\,2^{-m}$ である($n< m$ では $2^{n-m}\le\frac12$ なので $\varphi(2^{n-m})=2^{n-m}$、$n\ge m$ の項は $0$)。
  2. $x=\frac13$ では $2^nx$ の小数部分は $\frac13$ か $\frac23$ なので $\varphi(2^nx)=\frac13$ がすべての $n$ で成り立ち、$\tau\bigl(\frac13\bigr)=\frac13\sum_{n\ge0}2^{-n}=\frac23$ である。
  3. $\int_0^1\tau(x)\,dx=\frac12$。一様収束する級数は項ごとに積分でき、$y=2^nx$ と置換すると $\int_0^1\varphi(2^nx)\,dx=2^{-n}\int_0^{2^n}\varphi(y)\,dy=\int_0^1\varphi(y)\,dy=\frac14$ なので、$\sum_{n\ge0}2^{-n}\cdot\frac14=\frac12$ である。

高木の元の定義は、2 進展開の桁で値を書くものであった。

2 進展開による表示

$0\le x\le1$ を $x=0.b_1b_2b_3\cdots$(2 進展開。2 通りあるときはどちらでもよい)と書き、$\ell_m:=\#\{i\mid1\le i< m,\ b_i\ne b_m\}$ とおくと
$$ \tau(x)=\sum_{m=1}^{\infty}\frac{\ell_m}{2^m} $$
である(Tak03、Lag12 Theorem 3.1, p. 5)。

$y=0.c_1c_2\cdots$ なら $\varphi(y)=\sum_{j\ge1}[c_j\ne c_1]\,2^{-j}$ である。ここで $[\ \cdot\ ]$ は条件が成り立てば $1$、成り立たなければ $0$ を表す。

詳しい計算を開く

$c_1=0$ なら $y\le\frac12$ で $\varphi(y)=y=\sum_jc_j2^{-j}$、$c_1=1$ なら $y\ge\frac12$ で $\varphi(y)=1-y=\sum_j(1-c_j)2^{-j}$($1=\sum_{j\ge1}2^{-j}$ を使った)であり、どちらも右辺に一致する。$y=2^nx$ の小数部分は $0.b_{n+1}b_{n+2}\cdots$ なので $\varphi(2^nx)=\sum_{j\ge1}[b_{n+j}\ne b_{n+1}]2^{-j}$ である($x=1$ の展開 $0.111\cdots$ でも $\varphi(2^n)=0$ と合う)。これを $\tau$ の定義に入れ、$m=n+j$ でまとめると、$m$ 番目の桁の寄与は $2^{-m}\#\{n\mid0\le n,\ n+1< m,\ b_m\ne b_{n+1}\}=2^{-m}\ell_m$ となる($j=1$ の項は $0$ なので $n+1< m$ に限ってよい)。項はすべて $0$ 以上なので並べ替えてよい。$\square$

関数方程式と特徴づけ

関数方程式による特徴づけ

$f=\tau$ は、$0\le x\le1$ のすべての $x$ について
$$ f\Bigl(\frac x2\Bigr)=\frac x2+\frac{f(x)}2,\qquad f\Bigl(\frac{1+x}2\Bigr)=\frac{1-x}2+\frac{f(x)}2 $$
を満たす。逆に、$[0,1]$ 上の有界な関数 $f$ がこの 2 つの式を満たせば、$[0,1]$ 上で $f=\tau$ である。

縮小で差を消す

$0\le x\le1$ とする。$\varphi\bigl(\frac x2\bigr)=\frac x2$、$\varphi\bigl(\frac{1+x}2\bigr)=1-\frac{1+x}2=\frac{1-x}2$ である。$n\ge1$ では $\varphi\bigl(2^n\cdot\frac x2\bigr)=\varphi(2^{n-1}x)$、$\varphi\bigl(2^n\cdot\frac{1+x}2\bigr)=\varphi(2^{n-1}+2^{n-1}x)=\varphi(2^{n-1}x)$ である。よって
$$ \tau\Bigl(\frac x2\Bigr)=\frac x2+\sum_{n\ge1}\frac{\varphi(2^{n-1}x)}{2^n}=\frac x2+\frac{\tau(x)}2 $$
で、もう一方も同じである。
逆を示す。$g:=f-\tau$ は $[0,1]$ 上で有界で、$g\bigl(\frac x2\bigr)=\frac{g(x)}2$、$g\bigl(\frac{1+x}2\bigr)=\frac{g(x)}2$ を満たす。$M:=\sup_{[0,1]}\lvert g\rvert$ とおく。$[0,1]$ のどの点 $y$ も、$x=2y$($y\le\frac12$)か $x=2y-1$($y\ge\frac12$)とおけば $x\in[0,1]$ で $y=\frac x2$ か $y=\frac{1+x}2$ と書けるので、$\lvert g(y)\rvert=\frac{\lvert g(x)\rvert}2\le\frac M2$ である。よって $M\le\frac M2$ で、$M$ は有限なので $M=0$ である。$\square$

2 つの式は、$\tau$ のグラフの $[0,\frac12]$ の部分が、全体のグラフを縦横 $\frac12$ に縮めて直線 $y=x$ の分だけ持ち上げたものであることを言っている。これを繰り返すと、どの 2 進区間の上でも、グラフは全体の縮小に 1 次関数を足したものになる。

自己アフィン性

$I=\bigl[\frac k{2^m},\frac{k+1}{2^m}\bigr]$ を $m$ 段の 2 進区間、$D=D_m(I)$ を prop-tk-basic の 3 の傾きとすると、$0\le y\le1$ について
$$ \tau\Bigl(\frac k{2^m}+\frac y{2^m}\Bigr)=\tau\Bigl(\frac k{2^m}\Bigr)+\frac{\tau(y)+Dy}{2^m} $$
が成り立つ。

$x=\frac{k+y}{2^m}$ とおく。$\tau_m$ は $I$ の上で傾き $D$ の 1 次式なので $\tau_m(x)=\tau_m\bigl(\frac k{2^m}\bigr)+D\frac y{2^m}$ で、prop-tk-basic の 4 により $\tau_m\bigl(\frac k{2^m}\bigr)=\tau\bigl(\frac k{2^m}\bigr)$ である。$n\ge m$ の項は $\varphi(2^nx)=\varphi(2^{n-m}k+2^{n-m}y)=\varphi(2^{n-m}y)$ なので、$\sum_{n\ge m}2^{-n}\varphi(2^nx)=2^{-m}\tau(y)$ である。$\square$

たとえば $I=\bigl[\frac14,\frac12\bigr]$($k=1$、$m=2$、桁は $01$)では $D=0$ なので、$\tau\bigl(\frac14+\frac y4\bigr)=\frac12+\frac{\tau(y)}4$ となり、この区間のグラフは全体を $\frac14$ に縮めて $\frac12$ だけ上げたものそのものである。
左:τ のグラフと、区間 [1/4,1/2] の部分を囲む枠。右:その部分の拡大。全体のグラフを 1/4 に縮めて 1/2 だけ上げた形と同じになる 左:τ のグラフと、区間 [1/4,1/2] の部分を囲む枠。右:その部分の拡大。全体のグラフを 1/4 に縮めて 1/2 だけ上げた形と同じになる
高木関数は、力学系 のテント写像 $T(x)=1-\lvert2x-1\rvert$($[0,1]$ 上)の反復でも書ける。$0\le y\le1$ では $T(y)=2\varphi(y)$ であり、$T(2\varphi(z))=2\varphi(2\varphi(z))=2\varphi(2z)$($2\varphi(z)\equiv\pm2z\pmod 2$ と $\varphi$ の偶性・周期性による)なので、帰納法で $T^n(x)=2\varphi(2^{n-1}x)$($n\ge1$、$0\le x\le1$)となり、
$$ \tau(x)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{T^n(x)}{2^n}\qquad(0\le x\le1) $$
を得る(Lag12 Theorem 5.1, p. 9)。テント写像は ロジスティック写像 $x\mapsto4x(1-x)$ と位相共役なので、高木関数はこの写像の力学系とも結びつく。

どの点でも微分できないこと

微分できないことを示すには、$x$ を挟む 2 進区間の両端で平均変化率をとる。そのために、微分係数が両側から挟んだ弦の傾きの極限でもあることを確かめておく。

挟んだ弦の傾き

$f$ が $x$ で微分可能で、$u_m\le x\le v_m$、$u_m< v_m$、$v_m-u_m\to0$ なら
$$ \frac{f(v_m)-f(u_m)}{v_m-u_m}\to f'(x)\qquad(m\to\infty) $$
である。

2 つの弦の傾きの平均

$\lambda_m:=\frac{v_m-x}{v_m-u_m}\in[0,1]$ とおく。$\varepsilon>0$ に対して $\delta>0$ を、$0<\lvert t-x\rvert<\delta$ なら $\bigl\lvert\frac{f(t)-f(x)}{t-x}-f'(x)\bigr\rvert\le\varepsilon$ となるようにとり、$v_m-u_m<\delta$ となる $m$ を考える。$u_m< x< v_m$ なら
$$ \frac{f(v_m)-f(u_m)}{v_m-u_m}=\lambda_m\frac{f(v_m)-f(x)}{v_m-x}+(1-\lambda_m)\frac{f(x)-f(u_m)}{x-u_m} $$
で、右辺の 2 つの傾きはどちらも $f'(x)$ との差が $\varepsilon$ 以下なので、左辺もそうである。$x=u_m$ や $x=v_m$ のときは左辺が片方の傾きそのものになり、同じ評価が成り立つ。$\square$

高木関数はどの点でも微分できない

どの $x\in\mathbb{R}$ でも、$\tau$ は $x$ で微分可能でない(有限の微分係数をもたない)。

傾きが毎段 1 ずつ動く

$x$ を固定し、$m\ge0$ について $k_m:=\lfloor2^mx\rfloor$、$u_m:=\frac{k_m}{2^m}\le x< v_m:=\frac{k_m+1}{2^m}$、$I_m:=[u_m,v_m]$ とおく。$I_{m+1}\subset I_m$ である。prop-tk-basic の 4 により $\tau(u_m)=\tau_m(u_m)$、$\tau(v_m)=\tau_m(v_m)$ なので、
$$ Q_m:=\frac{\tau(v_m)-\tau(u_m)}{v_m-u_m}=\frac{\tau_m(v_m)-\tau_m(u_m)}{v_m-u_m}=D_m(I_m) $$
は $\tau_m$ の $I_m$ 上の傾きである。$\tau_{m+1}=\tau_m+2^{-m}\varphi(2^m\,\cdot\,)$ で、$I_{m+1}\subset I_m$ の上で $\tau_m$ の傾きは $D_m(I_m)$、$2^{-m}\varphi(2^m\,\cdot\,)$ の傾きは $\pm1$ なので(prf-tk-basic の 3)、$Q_{m+1}-Q_m=\pm1$ である。よって $(Q_m)$ は Cauchy 列でなく収束しない。$\tau$ が $x$ で微分可能なら lem-tk-straddle により $Q_m\to\tau'(x)$ となるはずなので、$\tau$ は $x$ で微分可能でない。$\square$

証明が使ったのは「$m$ 段目の項が、それまでの和の傾きを $\pm1$ だけ動かす」ことである。重みを $a^n$ に替えた $f_a(x):=\sum_{n\ge0}a^n\varphi(2^nx)$($0< a<1$)でも、同じ $u_m,v_m$ について平均変化率は $\sum_{n< m}(2a)^n\varepsilon_n$($\varepsilon_n=\pm1$)となり、隣り合う差の絶対値は $(2a)^m$ である。$\frac12\le a<1$ ならこれは $0$ に近づかないので、$f_a$ もどの点でも微分できない。$a<\frac12$ では結論が崩れる。$2$ 進有理数でない $x$ では、各項 $a^n\varphi(2^n\,\cdot\,)$ は $x$ で微分可能で微分係数は $(2a)^n\varepsilon_n$ であり、各項の平均変化率の絶対値は $(2a)^n$ 以下なので、$\sum_n(2a)^n<\infty$ により項ごとに極限をとってよく、$f_a$ は $x$ で微分可能である($a=\frac14$ の具体例は ex-tk-counterexamples)。
有限の微分係数はないが、$\tau'(x)=+\infty$ や $-\infty$ となる(両側の平均変化率がそろって発散する)点は、どちらも $[0,1]$ で稠密に存在することが知られている(この記事では証明しない。Lag12 Theorem 8.6, p. 17)。

変化の大きさ

$\tau$ は連続だが、どの点でも微分できないので、$\lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert$ は $h$ に比例するほど小さくはなれない。どこまで小さいかは次のとおりで、評価は定数倍を除いて最良である。

連続の度合い

$0< h\le1$ と $x\in\mathbb{R}$ について
$$ \lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert\le h\Bigl(\log_2\frac1h+2\Bigr) $$
である。一方、$h=2^{-m}$ では $\tau(h)-\tau(0)=h\log_2\frac1h$ である。したがって $\tau$ は $0<\alpha<1$ のすべての $\alpha$ について $\alpha$ 次 Hölder 連続だが、Lipschitz 連続でない。

段の数で分ける

$2^{-m}< h\le2^{-m+1}$ となる整数 $m\ge1$ をとる。$m-1\le\log_2\frac1h$ である。$\tau_m$ は連続な折れ線で、prop-tk-basic の 3 により各線分の傾きの絶対値は $m$ 以下なので、$\lvert\tau_m(x+h)-\tau_m(x)\rvert\le mh$ である。残りの項は $\lvert\varphi(a)-\varphi(b)\rvert\le\frac12$ により
$$ \Bigl\lvert\sum_{n\ge m}\frac{\varphi(2^n(x+h))-\varphi(2^nx)}{2^n}\Bigr\rvert\le\sum_{n\ge m}\frac{1}{2^{n+1}}=2^{-m}< h $$
である。合わせて $\lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert\le(m+1)h\le h\bigl(\log_2\frac1h+2\bigr)$。
後半は ex-tk-values の 1 から $\tau(2^{-m})=m2^{-m}$ である。Hölder 連続性:$0<\alpha<1$ なら $h^{1-\alpha}\bigl(\log_2\frac1h+2\bigr)$ は $(0,1]$ で有界なので、ある $C$ で $\lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert\le Ch^\alpha$($0< h\le1$)であり、$h>1$ では $\lvert\tau(x+h)-\tau(x)\rvert\le\frac23\le\frac23h^\alpha$ である(thm-tk-max)。Lipschitz でないこと:$\frac{\tau(2^{-m})-\tau(0)}{2^{-m}}=m$ は有界でない。$\square$

$\alpha$ 次 Hölder 連続な関数のつくる空間については Hölder空間 を参照。評価の形 $h\log_2\frac1h$ は Lag12 Theorem 8.1(p. 15)にもある(そこでは定数を $2$ とした形)。

最大値

最大値は 2/3

すべての $x$ で $0\le\tau(x)\le\frac23$ である。$\tau(x)=\frac23$ となるのは、すべての $k\ge0$ について $4^kx$ の小数部分が $\bigl[\frac14,\frac34\bigr]$ に入るとき、かつそのときに限る。とくに $\tau\bigl(\frac13\bigr)=\frac23$ であり、最大値をとる点は非可算個ある。

2 項ずつ組にする

$\psi(y):=\varphi(y)+\frac12\varphi(2y)$ とおくと、$\psi$ は周期 $1$ の偶関数で、$0\le y\le\frac14$ では $\psi(y)=y+y=2y\le\frac12$、$\frac14\le y\le\frac12$ では $\psi(y)=y+\frac12(1-2y)=\frac12$ である。よって $\psi\le\frac12$ で、等号は $\varphi(y)\ge\frac14$、つまり $y$ の小数部分が $\bigl[\frac14,\frac34\bigr]$ にあるときに限る。$\tau$ の項を $n=2k$ と $n=2k+1$ の組にまとめると(項は $0$ 以上なのでまとめてよい)
$$ \tau(x)=\sum_{k\ge0}\frac{\psi(4^kx)}{4^k}\le\frac12\sum_{k\ge0}\frac1{4^k}=\frac23 $$
で、等号はすべての $k$ で $\psi(4^kx)=\frac12$ のときに限る。$x=\frac13$ では $4^kx$ の小数部分はいつも $\frac13$ である。非可算性:4 進展開の桁がすべて $1$ か $2$ である $x=0.d_1d_2\cdots$(4 進)の全体は非可算で、$4^kx$ の小数部分 $0.d_{k+1}d_{k+2}\cdots$ は $0.111\cdots=\frac13$ 以上 $0.222\cdots=\frac23$ 以下なので、条件を満たす。$\square$

最大値 $\frac23$ と $\tau\bigl(\frac13\bigr)=\frac23$ は Lag12 Theorem 3.2(p. 5)にもある(証明は p. 6 で、隣り合う 2 項の和の評価による)。最大値をとる点の集合は、上の 4 進の例のような Cantor 集合型の集合を含む(Cantor集合)。$\tau$ の極小値をとる点はちょうど 2 進有理数の全体である、という Kahane の結果もある(この記事では証明しない。Lag12 Theorem 11.1, p. 19)。

条件を外した反例

thm-tk-nowhere と thm-tk-functional・prop-tk-basic の条件を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
無限個の項を足す有限和 $\tau_m$どの点でも微分できない
重みの比が $\frac12$ 以上$f_{1/4}(x)=\sum_{n\ge0}4^{-n}\varphi(2^nx)$($0\le x\le1$ で $2x(1-x)$ に等しい)どの点でも微分できない
各項 $\varphi$ の連続性$\varphi$ を $\sigma(y):=y-\lfloor y\rfloor$ に替えた $\sum_n2^{-n}\sigma(2^nx)$和が連続である
thm-tk-functional の 2 つ目の式$f(x)=\tau(x)+x$1 つ目の式だけで $f=\tau$ が決まる
反例:表の各行の確かめ

1 行目:$\tau_m$ は 2 進区間の内部では 1 次式なので、$m$ 段の 2 進区間の端点 $\frac k{2^m}$ 以外のすべての点で微分可能である($[0,1]$ では有限個の点を除いて微分可能)。
2 行目:$F:=f_{1/4}$、$G(x):=2\{x\}(1-\{x\})$($\{x\}=x-\lfloor x\rfloor$)とおく。どちらも周期 $1$ で有界である。添字をずらすと $F(x)=\varphi(x)+\frac14F(2x)$ である。$G$ も同じ式を満たす。

確かめを開く

$0\le x<\frac12$ では $\varphi(x)=x$、$\{2x\}=2x$ で、$x+\frac14\cdot2\cdot2x(1-2x)=2x-2x^2=G(x)$。$\frac12\le x<1$ では $\varphi(x)=1-x$、$\{2x\}=2x-1$ で、$1-x+\frac14\cdot2(2x-1)(2-2x)=(1-x)\cdot2x=G(x)$。

$H:=F-G$ は有界で $H(x)=\frac14H(2x)$ を満たすので、$\sup\lvert H\rvert\le\frac14\sup\lvert H\rvert$ から $H=0$ である。よって $0\le x\le1$ で $f_{1/4}(x)=2x(1-x)$ であり($x=1$ では両辺 $0$)、$f_{1/4}$ は $(0,1)$ のすべての点で微分可能である。

重みの比 $\frac14$ は $\frac12$ より小さい。prf-tk-nowhere の平均変化率は $\sum_{n< m}2^{-n}\varepsilon_n$ となり、隣り合う差 $2^{-m}$ が $0$ に近づくので、議論が使えない。
3 行目:各項は $2^{-n}$ 以下なので和は一様収束するが、$x=\frac12$ で連続でない。$x=\frac12$ では $\sigma\bigl(\frac12\bigr)=\frac12$、$n\ge1$ の項は $\sigma(2^{n-1})=0$ なので和は $\frac12$ である。$x=\frac12-t$($0< t<2^{-N}$)では $n=1,\dots,N$ の項が $2^{-n}\sigma(2^{n-1}-2^nt)=2^{-n}(1-2^nt)$ なので、和は $\frac12-t+\sum_{n=1}^N(2^{-n}-t)$ 以上であり、$t\to0$、$N\to\infty$ として左極限は $\frac12+1=\frac32$ 以上になる(各項は $0$ 以上)。$\sigma$ は整数点で連続でない。
4 行目:$f\bigl(\frac x2\bigr)=\tau\bigl(\frac x2\bigr)+\frac x2=\frac x2+\frac{\tau(x)+x}2=\frac x2+\frac{f(x)}2$ で 1 つ目の式を満たし、$f$ は有界だが $f\ne\tau$ である。2 つ目の式は $x=0$ で左辺 $f\bigl(\frac12\bigr)=1$、右辺 $\frac12+\frac{f(0)}2=\frac12$ となり成り立たない。

歴史と関連する関数

高木の 1903 年の論文は、prop-tk-digits の形で関数を定め、2 進有理数の 2 通りの展開が同じ値を与えることと、$2^{-n}$ 刻みの平均変化率が収束しないことを示した(Tak03)。同じ関数はのちに van der Waerden(1930 年、10 進の類似)、Hildebrandt、de Rham らによって独立に見いだされた(Lag12 §1, p. 1)。別の三角の波の級数(重み $\bigl(\frac34\bigr)^n$、倍率 $4^n$)による証明は 微分できない連続関数 にある。

関連項目

参考文献

[1]
Teiji Takagi(高木貞治), A simple example of the continuous function without derivative(誘導函數ヲ有セザル連續函數ノ簡單ナル例), Proceedings of the Tokyo Mathematico-Physical Society, Ser. II, Vol. 1(東京數學物理學會記事), 1903, pp. 176–177:2 進展開の桁による定義、2 進有理数で 2 通りの展開が同じ値を与えること、2^{-n} 刻みの平均変化率による微分不可能性

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