区間上で微分可能な関数 $y$ が $y'=ky$ を満たすのは $y=Ce^{kx}$ の形のときに限り、$\mathbb{R}$ 上で 2 回微分可能な $y$ が $y''=-y$ を満たすのは $y=A\cos x+B\sin x$ の形のときに限る。実数 $p,q$ についての $y''+py'+qy=0$ の解は、特性方程式 $\lambda^2+p\lambda+q=0$ の判別式が正なら 2 つの指数関数の和、$0$ なら重解 $\alpha$ による $(A+Bx)e^{\alpha x}$、負なら虚数解 $a\pm bi$ による $e^{ax}(A\cos bx+B\sin bx)$ で、三項間漸化式と同じ構造をもつ。右辺が Lipschitz 条件を満たせば初期値問題の解は一意だが、$y'=\sqrt{|y|}$、$y(0)=0$ の解は無数にある。
前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 指数関数, 三角関数, 平均値の定理, 2次方程式
放射性物質の量や、えさが十分ある細菌の数 $y(x)$($x$ は時刻)は、増える速さ $y'$ がそのときの量 $y$ に比例する。
$$
y'=ky\qquad(k\text{ は定数})
$$
高校ではこれを次のように解く(変数分離)。両辺を $y$ で割って $\frac{y'}{y}=k$、積分して $\log|y|=kx+C$、したがって $y=\pm e^{C}e^{kx}$ である。まとめて $y=Ce^{kx}$ と書く。
半減期 $10$ 日の物質では $y'=-ky$、$y=y(0)e^{-kx}$ で、$e^{-10k}=\frac12$ から $k=\frac{\log2}{10}=0.0693\ldots$(1 日あたり)である。$30$ 日後には $y(30)=y(0)e^{-30k}=y(0)\bigl(\frac12\bigr)^3=\frac{y(0)}8$ になる。
物理では、ばねにつながれた質量 $m$ のおもりの位置 $x(t)$ が $mx''=-Kx$($K>0$ はばね定数)を満たし、$\omega:=\sqrt{K/m}$ として $x=A\sin(\omega t+\varphi)$ と振動すること(単振動)を習う。
$x''=-4x$、$x(0)=1$、$x'(0)=0$ なら $x=\cos2t$ で、周期は $\pi$ である。
これらの計算には、次の疑問が残る。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 変数分離で $y=Ce^{kx}$ | 1 階の方程式の解の一意性 | thm-edt-first-order |
| 単振動 $A\sin(\omega t+\varphi)$ | $y''=-\omega^2y$ の一般解(エネルギーの保存) | thm-edt-harmonic、cor-edt-omega |
| 2 次方程式の判別式 | 特性方程式と一般解の 3 つの型 | thm-edt-general |
| 初期位置と初速度で運動が決まる | 初期値問題の解の存在と一意性 | cor-edt-ivp |
| 加法定理・指数法則 | 一意性からの帰結 | ex-edt-addition |
| 右辺が連続なだけの方程式 | Lipschitz 条件と一意性 | prop-edt-lipschitz |
未知の関数とその導関数の関係を表す式を微分方程式という。$I$ を区間とする。$F(x,y)$ を 2 変数の関数とし、$I$ 上で微分可能な関数 $y$ がすべての $x\in I$ で $y'(x)=F\bigl(x,y(x)\bigr)$ を満たすとき、$y$ を 1 階の微分方程式 $y'=F(x,y)$ の $I$ 上の解という。点 $x_0\in I$ と数 $y_0$ を与えて、$y(x_0)=y_0$ を満たす解を求める問題を初期値問題といい、$y(x_0)=y_0$ を初期条件という。2 階の方程式 $y''=G(x,y,y')$ では、$I$ 上で 2 回微分可能な解を考え、初期条件は $y(x_0)=y_0$、$y'(x_0)=y_1$ の 2 つである。
$y=3e^{2x}$ は $y'=6e^{2x}=2y$ なので $\mathbb{R}$ 上の $y'=2y$ の解で、$y(0)=3$ を満たす。$y=\sin x$ は $y''=-\sin x=-y$、$y(0)=0$、$y'(0)=1$ を満たすので、2 階の初期値問題 $y''=-y$、$y(0)=0$、$y'(0)=1$ の解である。
本記事の中心は、実数の定数 $p,q$ についての
$$
y''+py'+qy=0
$$
という方程式(定数係数の 2 階線形同次微分方程式)である。$y=e^{\lambda x}$ を代入すると $(\lambda^2+p\lambda+q)e^{\lambda x}=0$ なので、$e^{\lambda x}$ が解になるのは
$$
\lambda^2+p\lambda+q=0
$$
のときである。これをこの方程式の特性方程式という。$y'=ky$ の特性方程式は $\lambda=k$、$y''=-y$ の特性方程式は $\lambda^2+1=0$(解は $\pm i$)である。
$y_1,y_2$ が $y''+py'+qy=0$ の $I$ 上の解で、$A,B$ が定数ならば、$Ay_1+By_2$ も解である。また、$y$ が $\mathbb{R}$ 上の解で $x_0$ が実数ならば、$x\mapsto y(x+x_0)$ も $\mathbb{R}$ 上の解である。
$(Ay_1+By_2)''+p(Ay_1+By_2)'+q(Ay_1+By_2)=A(y_1''+py_1'+qy_1)+B(y_2''+py_2'+qy_2)=0$ である。後半は、$Y(x):=y(x+x_0)$ について $Y'(x)=y'(x+x_0)$、$Y''(x)=y''(x+x_0)$ なので、$Y''+pY'+qY$ の $x$ での値は $y''+py'+qy$ の $x+x_0$ での値 $0$ に等しい。$\square$
後半は $p,q$ が定数だから成り立つ。あとで初期値問題を扱うとき(cor-edt-ivp)、この平行移動で初期値を与える点を $x=0$ に移す。
$k$ を実数、$I$ を区間とする。$I$ 上で微分可能な関数 $y$ が $y'=ky$ を満たすための必要十分条件は、ある定数 $C$ について $y(x)=Ce^{kx}$($x\in I$)となることである。特に、$x_0\in I$ と $y_0$ を与えると、初期値問題 $y'=ky$、$y(x_0)=y_0$ の解は $y(x)=y_0e^{k(x-x_0)}$ ただ 1 つである。
$y'=ky$ とし、$g(x):=y(x)e^{-kx}$ とおく。積の微分法により
$$
g'(x)=y'(x)e^{-kx}-ky(x)e^{-kx}=\bigl(y'(x)-ky(x)\bigr)e^{-kx}=0
$$
なので、$g$ は $I$ 上で定数 $C$ であり、$y=Ce^{kx}$ である。逆に $(Ce^{kx})'=kCe^{kx}$ なので $Ce^{kx}$ は解である。初期条件 $Ce^{kx_0}=y_0$ から $C=y_0e^{-kx_0}$ と決まる。$\square$
$e^x$ が微分しても変わらない理由は 指数関数の微分 で扱う。
$y'=-3y$、$y(1)=2$ の解は、thm-edt-first-order により $y=2e^{-3(x-1)}$ ただ 1 つである。例えば $y(2)=2e^{-3}=0.0995\ldots$ である。同様に、ex-edt-halflife の $y=y(0)e^{-kx}$ も、この定理($k$ を $-k$ に、$x_0=0$ として)により $y'=-ky$ のただ 1 つの解と分かる。
この証明は $y$ で割っていない。したがって、ある 1 点で $0$ になる解は恒等的に $0$ である($C=0$)ことも同時に示している。変数分離の計算は、$y$ が $0$ にならない区間で解の形を「見つける」方法であり、それ以外に解がないことはこの定理が保証する。$e^{-kx}$ を掛けることは、$y$ を「ふつうに増えたらこうなるはずの量」$e^{kx}$ で割って比を見ることであり、比が変化しないことが $g'=0$ である。
$I$ を区間、$x_0\in I$ とする。$I$ 上で 2 回微分可能な関数 $y$ が $y''=-y$ を満たすならば、すべての $x\in I$ で
$$
y(x)=y(x_0)\cos(x-x_0)+y'(x_0)\sin(x-x_0)
$$
である。特に、$\mathbb{R}$ 上の解は定数 $A,B$ を用いて $y=A\cos x+B\sin x$ と書け($A=y(0)$、$B=y'(0)$)、逆にこの形の関数はすべて解である。
$A:=y(x_0)$、$B:=y'(x_0)$、$Y(x):=A\cos(x-x_0)+B\sin(x-x_0)$ とおく。$Y'=-A\sin(x-x_0)+B\cos(x-x_0)$、$Y''=-Y$ なので $Y$ も解であり、$Y(x_0)=A$、$Y'(x_0)=B$ である。$z:=y-Y$ とおくと $z''=y''-Y''=-y+Y=-z$、$z(x_0)=z'(x_0)=0$ である。
$E(x):=z(x)^2+z'(x)^2$ とおくと
$$
E'=2zz'+2z'z''=2z'(z+z'')=0
$$
なので、$E$ は $I$ 上で定数であり、$E=E(x_0)=0$ である。$z^2\le E=0$ から $z=0$、すなわち $y=Y$ である。逆向きは $Y''=-Y$ の計算で示した。$\square$
$E=z^2+z'^2$ は、単振動 $x''=-x$ では「位置エネルギー+運動エネルギー」の 2 倍にあたる。エネルギーが保存されることが、解の一意性を与える。初めにエネルギーが $0$(位置も速度も $0$)なら、その後もずっと静止している。
$\omega>0$ とする。$\mathbb{R}$ 上で 2 回微分可能な関数 $y$ が $y''=-\omega^2y$ を満たすための必要十分条件は、ある定数 $A,B$ について $y=A\cos\omega x+B\sin\omega x$ となることである。このとき $A=y(0)$、$B=y'(0)/\omega$ である。
$w(s):=y(s/\omega)$ とおくと、$w'(s)=\frac1\omega y'(s/\omega)$、$w''(s)=\frac1{\omega^2}y''(s/\omega)=-w(s)$ である。thm-edt-harmonic により $w(s)=w(0)\cos s+w'(0)\sin s$ であり、$s=\omega x$ を代入すると $y(x)=y(0)\cos\omega x+\frac{y'(0)}{\omega}\sin\omega x$ となる。逆に $A\cos\omega x+B\sin\omega x$ を 2 回微分すると $-\omega^2$ 倍になる。$\square$
ex-edt-spring-start の $x=\cos2t$ は、cor-edt-omega($\omega=2$、変数を $t$、未知関数を $x$ と読む)により、$x''=-4x$、$x(0)=1$、$x'(0)=0$ のただ 1 つの解である。実際 $A=x(0)=1$、$B=x'(0)/2=0$ である。
$p,q$ を実数とし、$D:=p^2-4q$ とする。$\mathbb{R}$ 上で 2 回微分可能な関数 $y$ が $y''+py'+qy=0$ を満たすための必要十分条件は、ある定数 $A,B$ について次のようになることである。
まず変換する。$y=e^{-px/2}u$、すなわち $u:=e^{px/2}y$ とおく。$y'=e^{-px/2}\bigl(u'-\frac p2u\bigr)$、$y''=e^{-px/2}\bigl(u''-pu'+\frac{p^2}4u\bigr)$ なので
$$
y''+py'+qy=e^{-px/2}\Bigl(u''-\frac{D}{4}u\Bigr)
$$
である。$e^{-px/2}\ne0$ なので、$y$ が解であることと、$u''=\frac D4u$ であることは同値である。以下、$u''=\frac D4u$ の解がちょうど次の形であることを示す。特性方程式の解は $-\frac p2\pm\frac{\sqrt D}2$ である。
$D<0$ の場合:$u''=-b^2u$ なので、cor-edt-omega により $u=A\cos bx+B\sin bx$ に限る。$y=e^{-px/2}u$ で、$a=-\frac p2$ である。
$D=0$ の場合:$u''=0$ なので、$u'$ は定数 $B$ であり、$(u-Bx)'=0$ から $u=A+Bx$ に限る。
$D>0$ の場合:$c:=\frac{\sqrt D}2>0$ とおくと $u''=c^2u$ である。$v:=u'-cu$ とおくと $v'=u''-cu'=c^2u-cu'=-cv$ なので、thm-edt-first-order により $v=Ke^{-cx}$($K$ は定数)である。すると
$$
(ue^{-cx})'=(u'-cu)e^{-cx}=Ke^{-2cx}=\Bigl(-\frac{K}{2c}e^{-2cx}\Bigr)'
$$
なので、$ue^{-cx}+\frac K{2c}e^{-2cx}$ は定数 $B$ であり、$u=Ae^{-cx}+Be^{cx}$($A:=-\frac K{2c}$)となる。逆に $(e^{\pm cx})''=c^2e^{\pm cx}$ なので、この形の $u$ は解である。$y=e^{-px/2}u=Ae^{\beta x}+Be^{\alpha x}$($\alpha,\beta=-\frac p2\pm c$)であり、$A,B$ の名前を付け替えれば主張の形になる。
どの場合も、$u$ の形は必要十分なので、$y$ の形も必要十分である。$\square$
同じ特性方程式の形で三項間漸化式を解く方法は 三項間漸化式の特性方程式 で扱う。
$u=e^{px/2}y$ は、$y$ を「$e^{-px/2}$ の速さで減衰($p<0$ なら増大)する部分」で割って、残りを見る操作である。残った $u$ は $u''=\frac D4u$ という形になり、判別式 $D$ の符号だけで指数関数型($D>0$)、1 次関数型($D=0$)、三角関数型($D<0$)に分かれる。指数関数と三角関数は、同じ方程式の $D$ の符号違いにすぎない(疑問 3)。
$y''-3y'+2y=0$ の特性方程式 $\lambda^2-3\lambda+2=0$ の解は $1,2$($D=1>0$)なので、一般解は $y=Ae^x+Be^{2x}$ である。$y''+2y'+5y=0$ では $\lambda=-1\pm2i$($D=-16<0$)なので、一般解は $y=e^{-x}(A\cos2x+B\sin2x)$ である。
実数 $p,q,x_0,y_0,y_1$ を任意に与えると、$y''+py'+qy=0$、$y(x_0)=y_0$、$y'(x_0)=y_1$ を満たす $\mathbb{R}$ 上の解がただ 1 つ存在する。
lem-edt-superposition の平行移動により $x_0=0$ としてよい($Y(x):=y(x+x_0)$ は、$Y(0)=y_0$、$Y'(0)=y_1$ を満たす解と 1 対 1 に対応する)。thm-edt-general の一般解に $x=0$ を代入すると、$A,B$ についての連立 1 次方程式は
$$
\text{1:}\ A+B=y_0,\ \alpha A+\beta B=y_1;\qquad\text{2:}\ A=y_0,\ \alpha A+B=y_1;\qquad\text{3:}\ A=y_0,\ aA+bB=y_1
$$
である。係数の行列式はそれぞれ $\beta-\alpha\ne0$、$1$、$b\ne0$ なので、$A,B$ はただ 1 通りに決まる。解はすべて一般解の形なので、これで存在と一意性が示された。$\square$
$y''-3y'+2y=0$、$y(0)=0$、$y'(0)=1$ では、ex-edt-general-small の一般解から $A+B=0$、$A+2B=1$ なので $A=-1$、$B=1$ であり、解は $y=e^{2x}-e^x$ ただ 1 つである。
したがって解の全体は、2 つの数 $(y(0),y'(0))$ で過不足なく決まる。$y\mapsto(y(0),y'(0))$ は解の全体から $\mathbb{R}^2$ への線形な全単射なので、解の全体は 2 次元のベクトル空間であり、$e^{\alpha x},e^{\beta x}$ などはその基底である。
実数 $a$ を固定し、$y(x):=\sin(x+a)$ とおくと、$y''=-y$、$y(0)=\sin a$、$y'(0)=\cos a$ である。thm-edt-harmonic により
$$
\sin(x+a)=\sin a\cos x+\cos a\sin x
$$
となる。$\cos(x+a)$ も同様に $y(0)=\cos a$、$y'(0)=-\sin a$ から $\cos(x+a)=\cos a\cos x-\sin a\sin x$ となる。同じく $y(x):=e^{x+a}$ は $y'=y$、$y(0)=e^a$ を満たすので、thm-edt-first-order により $e^{x+a}=e^ae^x$(指数法則)である。微分の公式を認めれば、「同じ微分方程式と同じ初期値をもつ 2 つの関数は等しい」という一意性だけで、加法定理と指数法則が出る。ただし高校の教科書では $(\sin x)'=\cos x$ を加法定理から、$(e^x)'=e^x$ を指数法則から導くので、これは加法定理・指数法則の独立な証明ではない。$\sin,\cos$ を $y''=-y$ の解として、$e^x$ を $y'=y$ の解として定義する立場では、これが加法定理・指数法則の証明になる(三角関数はどう定義するか、指数関数と対数関数はどう定義するか)。
cor-edt-omega の解 $A\cos\omega t+B\sin\omega t$ は、$R:=\sqrt{A^2+B^2}$ とし、$(A,B)\ne(0,0)$ なら $\sin\varphi=\frac AR$、$\cos\varphi=\frac BR$ となる $\varphi$ をとって、加法定理から $R\sin(\omega t+\varphi)$ と書ける。物理で習う単振動の式は、この一般解の書き換えである。
三項間漸化式 $a_{n+2}+pa_{n+1}+qa_n=0$($q\ne0$)でも、等比数列 $a_n=\lambda^n$ が解になる条件は同じ特性方程式 $\lambda^2+p\lambda+q=0$ であり、解の形は次のように対応する(三項間漸化式と行列の固有値)。$q\ne0$ なら特性方程式の解はどれも $0$ でない。$q=0$ を許すと、$p=q=0$(重解 $0$)のとき漸化式は $a_{n+2}=0$ で $a_0,a_1$ は任意なのに、$(A+Bn)0^n$ では $a_1=0$ の数列しか表せず、表の重解の行が崩れる。
| 微分方程式 $y''+py'+qy=0$ | 漸化式 $a_{n+2}+pa_{n+1}+qa_n=0$($q\ne0$) | |
|---|---|---|
| 基本の操作 | 微分 $y\mapsto y'$ | ずらし $a_n\mapsto a_{n+1}$ |
| 操作で $\lambda$ 倍になるもの | $e^{\lambda x}$ | $\lambda^n$ |
| 異なる実数解 $\alpha,\beta$ | $Ae^{\alpha x}+Be^{\beta x}$ | $A\alpha^n+B\beta^n$ |
| 重解 $\alpha$ | $(A+Bx)e^{\alpha x}$ | $(A+Bn)\alpha^n$ |
| 虚数解 | $a\pm bi$ のとき $e^{ax}(A\cos bx+B\sin bx)$ | $r(\cos\theta\pm i\sin\theta)$ のとき $r^n(A\cos n\theta+B\sin n\theta)$ |
| 初期値 | $y(0),y'(0)$ | $a_0,a_1$ |
どちらも、線形な操作(微分、ずらし)で定数倍になるもの、すなわちその操作の固有ベクトルを探しており、特性方程式はその固有値の方程式である。虚数解の行は、複素数の指数関数についての Eulerの公式 $e^{(a+bi)x}=e^{ax}(\cos bx+i\sin bx)$ と、ド・モアブルの定理 $\bigl(r(\cos\theta+i\sin\theta)\bigr)^n=r^n(\cos n\theta+i\sin n\theta)$ の実部と虚部にあたる(本記事では複素数値関数の微分は扱わず、thm-edt-general は実数の範囲で証明した)。
質量 $m$、ばね定数 $K$ のおもりの位置 $x(t)$ は $mx''=-Kx$ を満たす。$\omega:=\sqrt{K/m}$ とすると $x''=-\omega^2x$ であり、cor-edt-omega により、初期位置 $x_0$、初速度 $v_0$ の運動は
$$
x(t)=x_0\cos\omega t+\frac{v_0}{\omega}\sin\omega t
$$
に限る。振幅は $\sqrt{x_0^2+(v_0/\omega)^2}$ で初期条件によるが、周期 $\frac{2\pi}\omega$ は振幅によらない(等時性)。たとえば ex-edt-spring-start と同じ方程式($m=1$、$K=4$)で初速度を $2$ にした $x_0=1$、$v_0=2$ なら $x=\cos2t+\sin2t=\sqrt2\sin\bigl(2t+\frac\pi4\bigr)$ で、周期は $\pi$ である。
力学的エネルギー $\frac12mx'^2+\frac12Kx^2$ を微分すると $x'(mx''+Kx)=0$ であり、エネルギーは一定である。これは thm-edt-harmonic の証明の $E$ と同じものである。
速さに比例する抵抗があると、$\gamma>0$、$\omega_0>0$ として $x''+2\gamma x'+\omega_0^2x=0$ となる。特性方程式 $\lambda^2+2\gamma\lambda+\omega_0^2=0$ の解は $-\gamma\pm\sqrt{\gamma^2-\omega_0^2}$ であり、thm-edt-general の 3 つの場合がそのまま物理の 3 つの運動になる。
振り返ると、thm-edt-first-order と thm-edt-harmonic の証明は、どちらも「2 つの解の差の大きさを表す量が増えられない」ことを示していた。この議論は、右辺が $y$ について急に変化しないという条件のもとで一般化できる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| Lipschitz 条件(右辺は連続のまま) | 初期値問題の解はただ 1 つ | ex-edt-sqrt |
| 右辺が $y$ の 1 次式であること | 解は $\mathbb{R}$ 全体に延びる | ex-edt-blowup |
$I$ を区間、$x_0\in I$ とし、$F$ は $I\times\mathbb{R}$ 上の関数で、ある定数 $L\ge0$ についてすべての $x\in I$、$y,z\in\mathbb{R}$ で
$$
|F(x,y)-F(x,z)|\le L|y-z|
$$
を満たすとする(Lipschitz 条件)。$y,z$ が $I$ 上の $y'=F(x,y)$ の解で $y(x_0)=z(x_0)$ ならば、$I$ 上で $y=z$ である。
$w:=(y-z)^2\ge0$ とおくと、$w(x_0)=0$ であり、
$$
|w'|=2|y-z|\,\bigl|F(x,y)-F(x,z)\bigr|\le2L(y-z)^2=2Lw
$$
である。$x\ge x_0$ の側では、$(we^{-2Lx})'=(w'-2Lw)e^{-2Lx}\le0$ なので $we^{-2Lx}$ は減少し、$w(x)e^{-2Lx}\le w(x_0)e^{-2Lx_0}=0$ となる。$x\le x_0$ の側では、$(we^{2Lx})'=(w'+2Lw)e^{2Lx}\ge0$ なので $we^{2Lx}$ は増加し、$w(x)e^{2Lx}\le w(x_0)e^{2Lx_0}=0$ となる。$w\ge0$ と合わせて $w=0$、すなわち $y=z$ である。(関数の増減には、導関数の符号と増減の関係を使った。これも平均値の定理から従う。)$\square$
$F(x,y)=ky$ なら $L=|k|$ で、thm-edt-first-order の一意性の部分はこの命題の特別な場合である。thm-edt-harmonic の $E=z^2+z'^2$ も、$y''=-y$ を 2 つの未知関数 $(y,y')$ の方程式 $(y,y')'=(y',-y)$ とみて、差の長さの 2 乗の変化を調べたものである。
初期値問題 $y'=\sqrt{|y|}$、$y(0)=0$ を考える。$y\equiv0$ は解である。さらに、任意の $c\ge0$ について
$$
y_c(x):=\begin{cases}0&(x< c)\\[2pt]\dfrac{(x-c)^2}{4}&(x\ge c)\end{cases}
$$
も $\mathbb{R}$ 上の解である。実際、$x>c$ では $y_c'=\frac{x-c}2=\sqrt{\frac{(x-c)^2}4}=\sqrt{|y_c|}$、$x< c$ では両辺が $0$ である。$x=c$ では、左からの差分商は $0$、右からの差分商は $\frac{h^2/4}{h}=\frac h4\to0$ なので $y_c'(c)=0=\sqrt{|y_c(c)|}$ である。$c>0$ なら $y_c(0)=0$、また $c=0$ の $y_c$ も $y_c(0)=0$ を満たす。したがって同じ初期条件をもつ解が無数にある。「$0$ にしばらくとどまり、好きな時刻 $c$ に動き出す」解がすべて許される。
右辺 $F(y)=\sqrt{|y|}$ は連続だが、$y=0$ の近くで Lipschitz 条件を満たさない:$\frac{|F(y)-F(0)|}{|y-0|}=\frac1{\sqrt{|y|}}$ は $y\to0$ で限りなく大きくなる($y=10^{-2},10^{-4},10^{-6}$ で $10,100,1000$)。この例は「右辺が連続なら初期値問題の解は一意である」という主張の反例であり、prop-edt-lipschitz の Lipschitz 条件を外すと一意性が崩れることを示す。証明のどこが崩れるかを見ると、$y=y_c$、$z=0$ では $w=\frac{(x-c)^4}{16}$ で $w'=\frac{(x-c)^3}{4}$ となり、$\frac{w'}{w}=\frac4{x-c}$ は $x\to c+0$ で限りなく大きくなって、$|w'|\le2Lw$ となる定数 $L$ がない。
時間を逆向きに見ると、底に穴のあいた水槽の水位 $h$ は(Torricelli の法則により)$h'=-k\sqrt h$ の形の方程式に従い、有限の時間で空になる。空になった水槽を見ても、いつ空になったかは分からない。これが一意性の破れの物理的な姿である。
右辺 $F$ が初期値 $(x_0,y_0)$ を中心とする有界な長方形 $[x_0-a,x_0+a]\times[y_0-b,y_0+b]$($a,b>0$)の上で連続で、さらにその上で $y$ について Lipschitz 条件を満たせば(ある定数 $L$ があって、長方形の中のすべての $(x,y)$、$(x,z)$ で $|F(x,y)-F(x,z)|\le L|y-z|$)、$x_0$ の近くで解が存在し、ただ 1 つである(Picard–Lindelöf の定理。本記事では証明しない。Leb26 Theorem 6.3.2、p. 247。同書の Example 6.3.5、p. 251 は $y'=2\sqrt{|y|}$ で一意性が崩れる例を挙げる)。ただし「近くで」は外せない。$F(x,y)=y^2$ はどの有界な長方形の上でも Lipschitz 条件を満たす($|y^2-z^2|=|y+z|\,|y-z|$ で、$|y+z|$ は長方形の上で有界)が、$\mathbb{R}^2$ 全体では満たさない($|y+z|$ が有界でない)。それでも $y(0)=1$ の解は $x=1$ を越えて延びない(ex-edt-blowup)。解の存在を支えるのは右辺の連続性の側で、Lipschitz 条件だけでは存在は保証されない(同書 Example 6.3.6、p. 251 は、$y$ について Lipschitz 条件を満たすが $x$ について連続でない右辺で、解が存在しない例を挙げる)。
$y'=y^2$、$y(0)=1$ の解 $y=\frac1{1-x}$ は $x\to1-0$ で限りなく大きくなり、$x=1$ を越えて延ばせない(Leb26 Example 6.3.4、p. 250)。$x=0.9,0.99$ で $y=10,100$ である。右辺 $y^2$ は $y$ の 1 次式でなく、この例は「解は $\mathbb{R}$ 全体に延びる」という主張を破る。
定数係数の線形方程式で解が $\mathbb{R}$ 全体に延びるのは、thm-edt-general で具体的に解けたからである。
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