互いに素(coprime)とは、2 つの整数 $a,b$ の最大公約数が $1$ であること、すなわち $\pm1$ 以外に共通の約数をもたないことをいう。Bézout の等式により、これは $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ が存在すること、イデアルの言葉では $(a)+(b)=\mathbb{Z}$ と同値である。一般の可換環ではイデアル $I,J$ が $I+J=A$ を満たすとき互いに素といい、対ごとに互いに素なイデアルについて $A/(I_1\cdots I_n)\cong\prod A/I_i$ という中国剰余定理が成り立つ。$6,10,15$ のように全体の最大公約数が $1$ でも対ごとには互いに素でない例があり、$\mathbb{Z}[x]$ の $2$ と $x$ は共通の約数が単元だけだがイデアルとしては互いに素でない。
前提知識: 整数, 最大公約数, Bézoutの等式, イデアル
2 つの整数が互いに素であるとは、$\pm1$ 以外に共通の約数をもたないこと、すなわち最大公約数が $1$ であることをいう。Bézoutの等式により、これは $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ があることと同値であり、さらにイデアルの言葉では $(a)+(b)=\mathbb{Z}$ と言い換えられる。この最後の形は任意の可換環のイデアルに意味をもち、互いに素なイデアルに対しては、剰余環が直積に分解するという中国剰余定理が成り立つ。
整数 $a,b$ が 互いに素(coprime、relatively prime)であるとは、$\gcd(a,b)=1$ であること、すなわち $a$ と $b$ の公約数が $\pm1$ だけであることをいう。
整数 $a_1,\dots,a_n$($n\geq2$)について、
最大公約数は $\gcd(0,0)=0$ と約束するので、$0$ と $0$ は互いに素でない。$a$ と $0$ の公約数は $a$ の約数全体なので、$a$ と $0$ が互いに素であるのは $a=\pm1$ のときに限る。$\gcd(a,b)=\gcd(|a|,|b|)$ なので、互いに素かどうかは符号によらない。$n=2$ では 1 と 2 は同じ条件である。$n\geq3$ では 2 は 1 より強い(ex-coprime-6-10-15)。
体上の多項式についても同じ言葉を使う。
最大公約多項式の定義と基本性質は 多項式環 の記事の定義「最大公約多項式」と命題「最大公約多項式の特徴づけ」にあり、そこでも $\gcd=1$ を互いに素と呼んでいる。
整数の場合の $ax+by=1$ という形を一般の可換環に移したものが、イデアルの互いに素である。
$A$ を可換環とし、$I,J$ を $A$ のイデアルとする。$I+J=A$ であるとき、$I$ と $J$ は 互いに素(coprime、comaximal)であるという。$I+J$ はイデアルなので、これは $1\in I+J$、すなわち $a+b=1$ となる $a\in I$、$b\in J$ が存在することと同値である。
$A$ の元 $a,b$ について、$(a)+(b)=A$、すなわち $ax+by=1$ となる $x,y\in A$ が存在するとき、$a$ と $b$ はイデアルの意味で互いに素であるという。イデアル $I_1,\dots,I_n$ が $i\neq j$ のとき $I_i+I_j=A$ を満たすとき、対ごとに互いに素であるという。
$\mathbb{Z}$ では、$(a)=(|a|)$、$(0)+(b)=(b)$ により $a,b\geq1$ の場合に帰着して $(a)+(b)=(\gcd(a,b))$ が成り立つので(イデアル の記事の例「整数環でのイデアルの演算」)、イデアルの意味の互いに素は def-coprime-integers と一致する(thm-coprime-integers)。一般の整域では「$\pm1$ 以外に共通の約数がない」ことに対応する条件は「共通の約数が単元だけである」であるが、これはイデアルの意味の互いに素より弱いことがある(ex-coprime-z-x)。本記事で一般の可換環について「互いに素」というときは、つねにイデアルの意味とする。
$a$ と $b$ が互いに素であることは、$a$ と $b$ が「素因数(素因数分解)を 1 つも共有しない」ことである(thm-coprime-integers の 4)。$8=2^3$ と $15=3\cdot5$ はどちらも素数でないが、共通の素因数をもたないので互いに素である。互いに素であることは 2 数の間の関係であって、それぞれが素数であるかどうかとは関係がない。
イデアルの言葉で見ると、$a$ の倍数全体と $b$ の倍数全体を足し合わせると $1$ に届く、すなわち $a$ と $b$ を合同式の法として別々に扱った情報が互いに干渉しない。これが中国剰余定理の背後にある考え方である。$6$ を法とする計算は、$2$ を法とする計算と $3$ を法とする計算を並べたものと同じであるが、$4$ を法とする計算は $2$ を法とする計算 2 つでは再現できない。$2$ と $3$ は互いに素だが、$2$ と $2$ はそうでないからである。
多項式環 $k[x,y]$ のイデアルを平面上の図形の方程式と見ると、2 つのイデアルが互いに素であることは、対応する図形が交わらないことにあたる。たとえば直線 $x=0$ と直線 $x=1$ は平行で交わらず、$x-(x-1)=1$ により $(x)+(x-1)=k[x,y]$ である。
実数体 $\mathbb{R}$ 上で $f=x^2+1$ と $g=x-1$ は互いに素である。実際、$f$ を $g$ で割ると $x^2+1=(x+1)(x-1)+2$ なので
$$
1=\frac12(x^2+1)-\frac12(x+1)(x-1)
$$
であり、$uf+vg=1$ の形に書ける(prop-coprime-common-root の 2)。一方 $x^2+1$ と $x^3+x=x(x^2+1)$ は $x^2+1$ を共通因子にもつので互いに素でない。
$x^2+1$ と $x^2-2x+2$ は $\mathbb{R}$ 上互いに素である。複素数体 $\mathbb{C}$ における根はそれぞれ $\pm i$ と $1\pm i$ であり、共通の根がないからである(prop-coprime-common-root)。
整数係数の多項式環 $\mathbb{Z}[x]$ で $2$ と $x$ を考える。$2$ と $x$ をともに割り切る元は $\pm1$、すなわち単元だけである。しかし $(2)+(x)=(2,x)$ の元 $2u+xv$ の定数項は偶数なので $1\notin(2,x)$ であり、$(2)$ と $(x)$ はイデアルとして互いに素でない。詳しくは Bézoutの等式 の記事の例「反例:整数係数多項式環の 2 と x」にある。
この例は「共通の約数が単元だけならイデアルとして互いに素」という含意を破る。$\mathbb{Z}[x]$ は一意分解整域であるが単項イデアル整域でなく、2 つの条件の一致には Bézout の等式が必要である(rem-coprime-pid)。幾何学的には、$\mathbb{Z}[x]$ の中で $2=0$ が定める図形と $x=0$ が定める図形は、極大イデアル $(2,x)$ に対応する点で交わっている。
$6=2\cdot3$、$10=2\cdot5$、$15=3\cdot5$ とする。
整数 $a,b$ について、次は同値である。
$a=b=0$ のときは、$\gcd(0,0)=0$、$0\cdot x+0\cdot y=0$、$(0)+(0)=(0)$ であり、素数 $2$ は $0$ を割り切るので、1〜4 はすべて成り立たない。以下、$a,b$ の少なくとも一方は $0$ でないとする。
1 ⇒ 2 は Bézoutの等式($\gcd(a,b)=ax+by$ となる $x,y$ の存在)である。2 ⇒ 1:$a,b$ の公約数 $c$ は $ax+by=1$ を割り切るので $c=\pm1$ であり、$\gcd(a,b)=1$ である。
2 ⇔ 3:$(a)+(b)=\{ax+by\mid x,y\in\mathbb{Z}\}$ であり(イデアル の記事の定義「イデアルの和・積・共通部分」)、イデアルが $\mathbb{Z}$ に等しいことは $1$ を含むことと同値である。
1 ⇒ 4:素数 $p$ が $a,b$ をともに割り切れば $p\geq2$ は公約数なので $\gcd(a,b)\geq2$ である。4 ⇒ 1:$d=\gcd(a,b)\geq2$ とすると、$d$ は素因数 $p$ をもち(素数 の記事の命題「素因数の存在」)、$p\mid d$、$d\mid a$、$d\mid b$ から $p$ は $a,b$ をともに割り切る。
次の命題は、互いに素な因子を割り算から取り除けることを述べる。$a$ が素数 $p$ のときは、$p\nmid b$ が $\gcd(p,b)=1$ と同値なので(ex-coprime-integer-examples の 4)、1 は「$p\mid bc$ かつ $p\nmid b$ なら $p\mid c$」となる。これが 素数 の記事の補題「Euclidの補題」である。
$a,b,c$ を整数とする。
2 を繰り返すと、$a$ が $b_1,\dots,b_m$ のそれぞれと互いに素なら $a$ は積 $b_1\cdots b_m$ と互いに素である。3 の仮定 $\gcd(a,b)=1$ は外せない。$a=b=2$、$c=2$ では $2\mid2$ だが $4\nmid2$ である。1 の仮定も外せない。$a=4$、$b=2$、$c=2$ では $4\mid bc=4$ だが $4\nmid2$ である。
分数の約分もこの命題に基づく。有理数 $q$ は $q=a/b$($b\geq1$、$\gcd(a,b)=1$)の形にただ 1 通りに書ける。$a/b=a'/b'$ を 2 つのそのような表示とすると $ab'=a'b$ であり、$b\mid a'b=ab'$ と $\gcd(b,a)=1$ から $b\mid b'$、同様に $b'\mid b$ なので $b=b'$、したがって $a=a'$ である。
体 $K$ に対し、$K$ を含む代数閉体 $\Omega$ を 1 つとる。たとえば $K$ の代数閉包をとればよい(代数閉体 の記事の定理「代数閉包の存在と一意性」)。$K\subset\mathbb{C}$ なら $\Omega=\mathbb{C}$ でよい(代数閉体 の記事の定理「複素数体の代数閉性(代数学の基本定理)」)。
$K$ を体、$\Omega$ を $K$ を含む代数閉体とし、$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方は $0$ でないとする。次は同値である。
1 ⇒ 2:多項式環 の記事の命題「最大公約多項式の特徴づけ」により、$\gcd(f,g)$ は $uf+vg$ の形に書ける。2 ⇒ 1:$f,g$ をともに割り切る多項式は $uf+vg=1$ を割り切るので $0$ でない定数であり、$\gcd(f,g)=1$ である。
2 ⇒ 3:$\alpha\in\Omega$ が共通の根なら、$x$ に $\alpha$ を代入する写像は環準同型なので(多項式環 の記事の定理「多項式環の普遍性」)、$1=u(\alpha)f(\alpha)+v(\alpha)g(\alpha)=0$ となって矛盾する。
3 ⇒ 1:$d=\gcd(f,g)$ が定数でないとする。$d\in K[x]\subset\Omega[x]$ は次数 $1$ 以上なので、$\Omega$ が代数閉体であることから $d(\alpha)=0$ となる $\alpha\in\Omega$ がある。$d\mid f$、$d\mid g$ なので $f(\alpha)=g(\alpha)=0$ となり、3 に反する。よって $d=1$ である。
最後の主張は、3 の条件が $K$ と $L$ のどちらで考えても同じ $\Omega$ の中の条件であることから、1 ⇔ 3 を $K$ と $L$ に適用すれば得られる。
prop-coprime-common-root により、$f$ と $g$ が互いに素かどうかは係数の体を広げても変わらない。これに対し、$f$ が既約多項式であるかどうかは係数の体によって変わる($x^2+1$ は $\mathbb{R}$ 上既約だが $\mathbb{C}$ 上可約)。
$A$ を可換環とし、$I,J,K$ を $A$ のイデアルとする。
1 において $A$ が零環のときは、$I+J=A$ はつねに成り立ち、極大イデアルは存在しないので、同値はそのまま成り立つ。3 により、たとえば $\mathbb{Z}$ で $\gcd(m,n)=1$ なら $\gcd(m^k,n^l)=1$ である。
2 つのイデアルが互いに素であることは、単項イデアル整域では最大公約元の言葉で言い換えられる。
$A$ を単項イデアル整域とし、$a,b\in A$ とする。Bézoutの等式 の記事の定理「単項イデアル整域におけるBézoutの等式」により $(a)+(b)=(d)$ となる最大公約元 $d$ があるので、$(a)+(b)=A$ であることと、$a,b$ の最大公約元が単元であること(共通の約数が単元だけであること)は同値である。$\mathbb{Z}$ と体上の 1 変数多項式環 $K[x]$ は単項イデアル整域なので、thm-coprime-integers と prop-coprime-common-root の 1 ⇔ 2 はこの特別な場合である。単項イデアル整域でない $\mathbb{Z}[x]$ では、ex-coprime-z-x のように 2 つの条件が分かれる。
互いに素なイデアルの最も重要な性質は、剰余環が直積に分解することである。
$A$ を可換環、$I_1,\dots,I_n$($n\geq1$)を $A$ のイデアルとし、
$$
\rho\colon A\to A/I_1\times\cdots\times A/I_n,\qquad a\mapsto(a+I_1,\dots,a+I_n)
$$
とする。
証明の元 $e_i$ の像 $\rho(e_i)$ は第 $i$ 成分だけが $1$ で他が $0$ の元であり、直積環の冪等元である。$A=\mathbb{Z}$、$I_i=(m_i)$ とすると、thm-coprime-crt は整数の中国剰余定理になる。
$m_1,\dots,m_n$ を対ごとに互いに素な正の整数とし、$M=m_1m_2\cdots m_n$ とする。
thm-coprime-integers により $(m_i)+(m_j)=\mathbb{Z}$($i\neq j$)なので、thm-coprime-crt を $A=\mathbb{Z}$、$I_i=(m_i)$ に適用する。$(m_1)\cdots(m_n)=(M)$ である(イデアル の記事の例「整数環でのイデアルの演算」の $(m)(n)=(mn)$ を繰り返す)ので 1 を得る。2 の存在は $\rho$ の全射性、$M$ を法とする一意性は $\ker\rho=(M)$ による。
$x\equiv2\pmod3$、$x\equiv3\pmod5$、$x\equiv2\pmod7$ を解く。$M=105$ であり、thm-coprime-crt の証明の $e_i$ にあたる整数は
$$
e_1=70\ (\equiv1\bmod3,\ \equiv0\bmod35),\qquad e_2=21\ (\equiv1\bmod5,\ \equiv0\bmod21),\qquad e_3=15\ (\equiv1\bmod7,\ \equiv0\bmod15)
$$
である。$e_1=70$ は、$35$ の倍数のうち $3$ で割って $1$ 余るものを探せば見つかる(一般には $35y\equiv1\pmod3$ を Bézoutの等式 で解く)。よって
$$
x\equiv2\cdot70+3\cdot21+2\cdot15=233\equiv23\pmod{105}
$$
であり、実際 $23=7\cdot3+2=4\cdot5+3=3\cdot7+2$ である。
$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は、どちらも 4 個の元をもつ環であるが同型でない。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ では $1$ の加法的な位数が $4$ であるのに対し、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ ではすべての元 $u$ が $u+u=0$ を満たすからである。$2$ と $2$ は互いに素でなく、$(2)\cap(2)=(2)\neq(4)=(2)(2)$ である。この例は、thm-coprime-crt の 3 で「対ごとに互いに素」の仮定を外すと同型が成り立たないことを示す。全体として互いに素であるだけでは足りないことは ex-coprime-6-10-15 で見た。
$n\geq1$ に対し、$1\leq k\leq n$ で $n$ と互いに素な整数 $k$ の個数を $\varphi(n)$ と書く(Eulerのφ関数)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元 $[k]$ が単元であることと $\gcd(k,n)=1$ は同値である(環 の記事の例「整数の剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$」)ので、$\varphi(n)$ は単元群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の位数に等しい。
$m,n$ が互いに素な正の整数ならば $\varphi(mn)=\varphi(m)\varphi(n)$ である。
cor-coprime-crt-integers の環同型 $\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は単元群の同型を引き起こす。環の直積の単元群は単元群の直積である(環 の記事の例「環の直積」)から、
$$
(\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z})^\times\cong(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^\times\times(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times
$$
であり、位数を比べて $\varphi(mn)=\varphi(m)\varphi(n)$ を得る。
たとえば $\varphi(15)=\varphi(3)\varphi(5)=2\cdot4=8$ であり、実際 $15$ と互いに素な $1\leq k\leq15$ は $1,2,4,7,8,11,13,14$ の 8 個である。互いに素でない場合は成り立たない。$\varphi(4)=2$ であるが $\varphi(2)\varphi(2)=1$ である。素因数分解 $n=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ と $\varphi(p^e)=p^e-p^{e-1}$ を合わせると $\varphi(n)=n\prod_{i}(1-1/p_i)$ が得られる(Apo76 Chapter 2)。
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