互いに素

同義語:coprimerelatively prime

概要

互いに素(coprime)とは、2 つの整数 $a,b$ の最大公約数が $1$ であること、すなわち $\pm1$ 以外に共通の約数をもたないことをいう。Bézout の等式により、これは $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ が存在すること、イデアルの言葉では $(a)+(b)=\mathbb{Z}$ と同値である。一般の可換環ではイデアル $I,J$ が $I+J=A$ を満たすとき互いに素といい、対ごとに互いに素なイデアルについて $A/(I_1\cdots I_n)\cong\prod A/I_i$ という中国剰余定理が成り立つ。$6,10,15$ のように全体の最大公約数が $1$ でも対ごとには互いに素でない例があり、$\mathbb{Z}[x]$ の $2$ と $x$ は共通の約数が単元だけだがイデアルとしては互いに素でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整数, 最大公約数, Bézoutの等式, イデアル
2 つの整数が互いに素であるとは、$\pm1$ 以外に共通の約数をもたないこと、すなわち最大公約数$1$ であることをいう。Bézoutの等式により、これは $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ があることと同値であり、さらにイデアルの言葉では $(a)+(b)=\mathbb{Z}$ と言い換えられる。この最後の形は任意の可換環のイデアルに意味をもち、互いに素なイデアルに対しては、剰余環直積に分解するという中国剰余定理が成り立つ。

定義

互いに素な整数

整数 $a,b$互いに素(coprime、relatively prime)であるとは、$\gcd(a,b)=1$ であること、すなわち $a$$b$ の公約数が $\pm1$ だけであることをいう。
整数 $a_1,\dots,a_n$$n\geq2$)について、

  1. $\gcd(a_1,\dots,a_n)=1$ であるとき、$a_1,\dots,a_n$全体として互いに素 であるという。
  2. $i\neq j$ であるどの 2 つ $a_i,a_j$ も互いに素であるとき、$a_1,\dots,a_n$対ごとに互いに素(pairwise coprime)であるという。

最大公約数は $\gcd(0,0)=0$ と約束するので、$0$$0$ は互いに素でない。$a$$0$ の公約数は $a$ の約数全体なので、$a$$0$ が互いに素であるのは $a=\pm1$ のときに限る。$\gcd(a,b)=\gcd(|a|,|b|)$ なので、互いに素かどうかは符号によらない。$n=2$ では 1 と 2 は同じ条件である。$n\geq3$ では 2 は 1 より強い(ex-coprime-6-10-15)。
体上の多項式についても同じ言葉を使う。

互いに素な多項式

$K$とし、$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方は $0$ でないとする。$f$$g$ の最大公約多項式 $\gcd(f,g)$(公約多項式のうち次数最大のモニック(モニック多項式)なもの)が $1$ であるとき、$f$$g$互いに素 であるという。これは、$f$$g$ をともに割り切る多項式が $0$ でない定数だけであることと同じである。

最大公約多項式の定義と基本性質は 多項式環 の記事の定義「最大公約多項式」と命題「最大公約多項式の特徴づけ」にあり、そこでも $\gcd=1$ を互いに素と呼んでいる。
整数の場合の $ax+by=1$ という形を一般の可換環に移したものが、イデアルの互いに素である。

互いに素なイデアル

$A$ を可換環とし、$I,J$$A$ のイデアルとする。$I+J=A$ であるとき、$I$$J$互いに素(coprime、comaximal)であるという。$I+J$ はイデアルなので、これは $1\in I+J$、すなわち $a+b=1$ となる $a\in I$$b\in J$ が存在することと同値である。
$A$ の元 $a,b$ について、$(a)+(b)=A$、すなわち $ax+by=1$ となる $x,y\in A$ が存在するとき、$a$$b$ はイデアルの意味で互いに素であるという。イデアル $I_1,\dots,I_n$$i\neq j$ のとき $I_i+I_j=A$ を満たすとき、対ごとに互いに素であるという。

$\mathbb{Z}$ では、$(a)=(|a|)$$(0)+(b)=(b)$ により $a,b\geq1$ の場合に帰着して $(a)+(b)=(\gcd(a,b))$ が成り立つので(イデアル の記事の例「整数環でのイデアルの演算」)、イデアルの意味の互いに素は def-coprime-integers と一致する(thm-coprime-integers)。一般の整域では「$\pm1$ 以外に共通の約数がない」ことに対応する条件は「共通の約数が単元だけである」であるが、これはイデアルの意味の互いに素より弱いことがある(ex-coprime-z-x)。本記事で一般の可換環について「互いに素」というときは、つねにイデアルの意味とする。

直感

$a$$b$ が互いに素であることは、$a$$b$ が「素因数(素因数分解)を 1 つも共有しない」ことである(thm-coprime-integers の 4)。$8=2^3$$15=3\cdot5$ はどちらも素数でないが、共通の素因数をもたないので互いに素である。互いに素であることは 2 数の間の関係であって、それぞれが素数であるかどうかとは関係がない。
イデアルの言葉で見ると、$a$ の倍数全体と $b$ の倍数全体を足し合わせると $1$ に届く、すなわち $a$$b$合同式の法として別々に扱った情報が互いに干渉しない。これが中国剰余定理の背後にある考え方である。$6$ を法とする計算は、$2$ を法とする計算と $3$ を法とする計算を並べたものと同じであるが、$4$ を法とする計算は $2$ を法とする計算 2 つでは再現できない。$2$$3$ は互いに素だが、$2$$2$ はそうでないからである。
多項式環 $k[x,y]$ のイデアルを平面上の図形の方程式と見ると、2 つのイデアルが互いに素であることは、対応する図形が交わらないことにあたる。たとえば直線 $x=0$ と直線 $x=1$ は平行で交わらず、$x-(x-1)=1$ により $(x)+(x-1)=k[x,y]$ である。

例と反例

互いに素な整数の例
  1. $8$$15$ は互いに素であり、$8\cdot2+15\cdot(-1)=1$ である。
  2. 連続する 2 整数 $n,n+1$ はつねに互いに素である。$(n+1)\cdot1+n\cdot(-1)=1$ だからである。
  3. $1$ と任意の整数は互いに素である。$a\cdot0+1\cdot1=1$ だからである。
  4. 素数 $p$ と整数 $a$ が互いに素であることは、$p\nmid a$ と同値である。$p$ の正の約数は $1$$p$ だけなので、$\gcd(p,a)$$1$$p$ だからである。
  5. $12$$18$ は互いに素でない。$\gcd(12,18)=6$ である。
互いに素な多項式の例

実数$\mathbb{R}$ 上で $f=x^2+1$$g=x-1$ は互いに素である。実際、$f$$g$ で割ると $x^2+1=(x+1)(x-1)+2$ なので
$$ 1=\frac12(x^2+1)-\frac12(x+1)(x-1) $$
であり、$uf+vg=1$ の形に書ける(prop-coprime-common-root の 2)。一方 $x^2+1$$x^3+x=x(x^2+1)$$x^2+1$ を共通因子にもつので互いに素でない。
$x^2+1$$x^2-2x+2$$\mathbb{R}$ 上互いに素である。複素数$\mathbb{C}$ における根はそれぞれ $\pm i$$1\pm i$ であり、共通の根がないからである(prop-coprime-common-root)。

互いに素なイデアルの例
  1. $k$ 上の多項式環 $k[x]$$(x)+(x-1)=k[x]$ である。$x-(x-1)=1$ だからである。より一般に、$a\neq b$ なら $(x-a)$$(x-b)$ は互いに素である。
  2. 可換環の相異なる 2 つの極大イデアル $M\neq N$ は互いに素である。$M\subset M+N$ であり、$N\not\subset M$ なので $M\subsetneq M+N$ となり、$M$ の極大性から $M+N=A$ だからである。
  3. $\mathbb{Z}$ のイデアル $(4)$$(6)$ は互いに素でない。$(4)+(6)=(2)$ である。
反例:共通の約数がなくても互いに素でないイデアル

整数係数の多項式環 $\mathbb{Z}[x]$$2$$x$ を考える。$2$$x$ をともに割り切る元は $\pm1$、すなわち単元だけである。しかし $(2)+(x)=(2,x)$ の元 $2u+xv$ の定数項は偶数なので $1\notin(2,x)$ であり、$(2)$$(x)$ はイデアルとして互いに素でない。詳しくは Bézoutの等式 の記事の例「反例:整数係数多項式環の 2 と x」にある。
この例は「共通の約数が単元だけならイデアルとして互いに素」という含意を破る。$\mathbb{Z}[x]$一意分解整域であるが単項イデアル整域でなく、2 つの条件の一致には Bézout の等式が必要である(rem-coprime-pid)。幾何学的には、$\mathbb{Z}[x]$ の中で $2=0$ が定める図形と $x=0$ が定める図形は、極大イデアル $(2,x)$ に対応する点で交わっている。

反例:全体として互いに素だが対ごとには互いに素でない整数

$6=2\cdot3$$10=2\cdot5$$15=3\cdot5$ とする。

  1. $6,10,15$ は全体として互いに素である。$6\cdot1+10\cdot1+15\cdot(-1)=1$ なので公約数は $1$ を割り切る。
  2. しかし対ごとには互いに素でない。$\gcd(6,10)=2$$\gcd(6,15)=3$$\gcd(10,15)=5$ である。
    この 3 数では、対ごとに互いに素な場合に成り立つ次の 2 つの性質が破れる。
  • 積と共通部分:$(6)\cap(10)\cap(15)$$6,10,15$ の公倍数全体 $(30)$ であるが、積は $(6)(10)(15)=(900)$ であり、$(30)\neq(900)$ である。「全体として互いに素なら共通部分は積に等しい」という含意が破れる。
  • 連立合同式:$x\equiv0\pmod 6$$x\equiv1\pmod{10}$ を満たす整数 $x$ はない。前者から $x$ は偶数、後者から $x$ は奇数となるからである。したがって $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/10\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/15\mathbb{Z}$ は全射でなく、「全体として互いに素なら中国剰余定理の写像は全射」という含意が破れる。
    逆に、$n\geq2$ 個の整数が対ごとに互いに素なら、全体として互いに素である。$a_1,a_2$ の公約数は $\pm1$ だけなので、$a_1,\dots,a_n$ の公約数も $\pm1$ だけだからである。$n=1$ のときは対ごとの条件は空虚に成り立つので、1 個の整数 $a_1$ について両者を比べることはしない。

性質

整数の場合

整数が互いに素であることの言い換え

整数 $a,b$ について、次は同値である。

  1. $\gcd(a,b)=1$
  2. $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ が存在する。
  3. $(a)+(b)=\mathbb{Z}$
  4. $a$$b$ をともに割り切る素数は存在しない。
Bézoutの等式と素因数

$a=b=0$ のときは、$\gcd(0,0)=0$$0\cdot x+0\cdot y=0$$(0)+(0)=(0)$ であり、素数 $2$$0$ を割り切るので、1〜4 はすべて成り立たない。以下、$a,b$ の少なくとも一方は $0$ でないとする。
1 ⇒ 2 は Bézoutの等式$\gcd(a,b)=ax+by$ となる $x,y$ の存在)である。2 ⇒ 1:$a,b$ の公約数 $c$$ax+by=1$ を割り切るので $c=\pm1$ であり、$\gcd(a,b)=1$ である。
2 ⇔ 3:$(a)+(b)=\{ax+by\mid x,y\in\mathbb{Z}\}$ であり(イデアル の記事の定義「イデアルの和・積・共通部分」)、イデアルが $\mathbb{Z}$ に等しいことは $1$ を含むことと同値である。
1 ⇒ 4:素数 $p$$a,b$ をともに割り切れば $p\geq2$ は公約数なので $\gcd(a,b)\geq2$ である。4 ⇒ 1:$d=\gcd(a,b)\geq2$ とすると、$d$ は素因数 $p$ をもち(素数 の記事の命題「素因数の存在」)、$p\mid d$$d\mid a$$d\mid b$ から $p$$a,b$ をともに割り切る。

次の命題は、互いに素な因子を割り算から取り除けることを述べる。$a$ が素数 $p$ のときは、$p\nmid b$$\gcd(p,b)=1$ と同値なので(ex-coprime-integer-examples の 4)、1 は「$p\mid bc$ かつ $p\nmid b$ なら $p\mid c$」となる。これが 素数 の記事の補題「Euclidの補題」である。

互いに素な因子の消去

$a,b,c$ を整数とする。

  1. $\gcd(a,b)=1$ かつ $a\mid bc$ ならば $a\mid c$ である。
  2. $\gcd(a,b)=1$ かつ $\gcd(a,c)=1$ ならば $\gcd(a,bc)=1$ である。
  3. $\gcd(a,b)=1$ かつ $a\mid c$$b\mid c$ ならば $ab\mid c$ である。
1 の表示に掛ける
  1. thm-coprime-integers により $ax+by=1$ となる $x,y$ がある。両辺に $c$ を掛けると $c=a(cx)+(bc)y$ であり、右辺の 2 項はともに $a$ で割り切れるので $a\mid c$ である。
  2. $ax+by=1$$ax'+cz=1$ とすると、辺々掛けて
    $$ 1=(ax+by)(ax'+cz)=a(xax'+xcz+byx')+(bc)(yz) $$
    を得る。よって $a$$bc$ の公約数は $1$ を割り切り、$\gcd(a,bc)=1$ である。
  3. $c=ak$ と書く。$b\mid ak$ であり $\gcd(b,a)=1$ なので、1 により $b\mid k$ である。$k=bl$ と書けば $c=abl$ である。

2 を繰り返すと、$a$$b_1,\dots,b_m$ のそれぞれと互いに素なら $a$ は積 $b_1\cdots b_m$ と互いに素である。3 の仮定 $\gcd(a,b)=1$ は外せない。$a=b=2$$c=2$ では $2\mid2$ だが $4\nmid2$ である。1 の仮定も外せない。$a=4$$b=2$$c=2$ では $4\mid bc=4$ だが $4\nmid2$ である。
分数の約分もこの命題に基づく。有理数 $q$$q=a/b$$b\geq1$$\gcd(a,b)=1$)の形にただ 1 通りに書ける。$a/b=a'/b'$ を 2 つのそのような表示とすると $ab'=a'b$ であり、$b\mid a'b=ab'$$\gcd(b,a)=1$ から $b\mid b'$、同様に $b'\mid b$ なので $b=b'$、したがって $a=a'$ である。

多項式の場合

$K$ に対し、$K$ を含む代数閉体 $\Omega$ を 1 つとる。たとえば $K$代数閉包をとればよい(代数閉体 の記事の定理「代数閉包の存在と一意性」)。$K\subset\mathbb{C}$ なら $\Omega=\mathbb{C}$ でよい(代数閉体 の記事の定理「複素数体の代数閉性(代数学の基本定理)」)。

共通根による判定

$K$ を体、$\Omega$$K$ を含む代数閉体とし、$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方は $0$ でないとする。次は同値である。

  1. $f$$g$$K[x]$ において互いに素である。
  2. $uf+vg=1$ となる $u,v\in K[x]$ が存在する。すなわち $(f)+(g)=K[x]$ である。
  3. $f$$g$$\Omega$ に共通の根をもたない。
    特に、$K\subset L\subset\Omega$ を満たす体 $L$ について、$f$$g$$K[x]$ で互いに素であることと $L[x]$ で互いに素であることは同値である。
代入と最大公約多項式の根

1 ⇒ 2:多項式環 の記事の命題「最大公約多項式の特徴づけ」により、$\gcd(f,g)$$uf+vg$ の形に書ける。2 ⇒ 1:$f,g$ をともに割り切る多項式は $uf+vg=1$ を割り切るので $0$ でない定数であり、$\gcd(f,g)=1$ である。
2 ⇒ 3:$\alpha\in\Omega$ が共通の根なら、$x$$\alpha$ を代入する写像は環準同型なので(多項式環 の記事の定理「多項式環の普遍性」)、$1=u(\alpha)f(\alpha)+v(\alpha)g(\alpha)=0$ となって矛盾する。
3 ⇒ 1:$d=\gcd(f,g)$ が定数でないとする。$d\in K[x]\subset\Omega[x]$ は次数 $1$ 以上なので、$\Omega$ が代数閉体であることから $d(\alpha)=0$ となる $\alpha\in\Omega$ がある。$d\mid f$$d\mid g$ なので $f(\alpha)=g(\alpha)=0$ となり、3 に反する。よって $d=1$ である。
最後の主張は、3 の条件が $K$$L$ のどちらで考えても同じ $\Omega$ の中の条件であることから、1 ⇔ 3 を $K$$L$ に適用すれば得られる。

prop-coprime-common-root により、$f$$g$ が互いに素かどうかは係数の体を広げても変わらない。これに対し、$f$既約多項式であるかどうかは係数の体によって変わる($x^2+1$$\mathbb{R}$ 上既約だが $\mathbb{C}$ 上可約)。

イデアルの場合

互いに素なイデアルの基本性質

$A$ を可換環とし、$I,J,K$$A$ のイデアルとする。

  1. $I+J=A$ であることと、$I$$J$ をともに含む極大イデアルが存在しないことは同値である。
  2. $I+J=A$ かつ $I+K=A$ ならば $I+JK=A$ である。
  3. $I+J=A$ ならば、任意の正の整数 $m,n$ について $I^m+J^n=A$ である。
  4. $I+J=A$ ならば $IJ=I\cap J$ である。
1 の分解を掛け合わせる
  1. $I+J\neq A$ なら、$I+J$ は真のイデアルなので、それを含む極大イデアル $M$ が存在する(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。$M$$I$$J$ をともに含む。逆に極大イデアル $M$$I$$J$ を含めば $I+J\subset M\neq A$ である。
  2. $1=a+b=a'+c$$a,a'\in I$$b\in J$$c\in K$)と書く。辺々掛けて
    $$ 1=(a+b)(a'+c)=aa'+ac+ba'+bc $$
    を得る。$aa'$$ac$$ba'$$I$ に属し、$bc$$JK$ に属するので、$1\in I+JK$ である。
  3. $n$ に関する帰納法で $I+J^n=A$ を示す。$n=1$ は仮定である。$I+J^{n-1}=A$ なら、2 を $J$$K=J^{n-1}$ に適用して $I+J^n=A$ を得る。次に $J^n+I=A$ に同じ議論を $I$ の側について行えば、$J^n+I^m=A$ を得る。
  4. イデアル の記事の命題「互いに素なイデアルの積と共通部分」である。

1 において $A$零環のときは、$I+J=A$ はつねに成り立ち、極大イデアルは存在しないので、同値はそのまま成り立つ。3 により、たとえば $\mathbb{Z}$$\gcd(m,n)=1$ なら $\gcd(m^k,n^l)=1$ である。
2 つのイデアルが互いに素であることは、単項イデアル整域では最大公約元の言葉で言い換えられる。

単項イデアル整域での一致

$A$ を単項イデアル整域とし、$a,b\in A$ とする。Bézoutの等式 の記事の定理「単項イデアル整域におけるBézoutの等式」により $(a)+(b)=(d)$ となる最大公約元 $d$ があるので、$(a)+(b)=A$ であることと、$a,b$ の最大公約元が単元であること(共通の約数が単元だけであること)は同値である。$\mathbb{Z}$ と体上の 1 変数多項式環 $K[x]$ は単項イデアル整域なので、thm-coprime-integersprop-coprime-common-root の 1 ⇔ 2 はこの特別な場合である。単項イデアル整域でない $\mathbb{Z}[x]$ では、ex-coprime-z-x のように 2 つの条件が分かれる。

中国剰余定理との関係

互いに素なイデアルの最も重要な性質は、剰余環が直積に分解することである。

剰余環の直積への分解

$A$ を可換環、$I_1,\dots,I_n$$n\geq1$)を $A$ のイデアルとし、
$$ \rho\colon A\to A/I_1\times\cdots\times A/I_n,\qquad a\mapsto(a+I_1,\dots,a+I_n) $$
とする。

  1. $\rho$環準同型であり、$\ker\rho=I_1\cap\cdots\cap I_n$ である。
  2. $\rho$ が全射であることと、$I_1,\dots,I_n$ が対ごとに互いに素であることは同値である。
  3. $I_1,\dots,I_n$ が対ごとに互いに素ならば $I_1\cap\cdots\cap I_n=I_1I_2\cdots I_n$ であり、$\rho$ は環の同型
    $$ A/(I_1I_2\cdots I_n)\cong A/I_1\times\cdots\times A/I_n $$
    を引き起こす。
1 つの成分だけが 1 になる元
  1. 各成分 $A\to A/I_i$ は自然な射影で環準同型なので、$\rho$ も環準同型である。$\rho(a)=0$ はすべての $i$$a\in I_i$ であることと同じである。
  2. 全射 ⇒ 対ごとに互いに素:$i\neq j$ とし、第 $i$ 成分が $1+I_i$、他の成分が $0$ である元の逆像 $a$ をとる。$a-1\in I_i$$a\in I_j$ なので $1=(1-a)+a\in I_i+I_j$ である。
    対ごとに互いに素 ⇒ 全射:$n=1$ なら $\rho$ は自然な射影なので全射である。$n\geq2$ とし、$i$ を固定する。$j\neq i$ について $I_i+I_j=A$ なので、prop-coprime-ideals-basic の 2 を繰り返し用いて $I_i+\prod_{j\neq i}I_j=A$ を得る。よって
    $$ 1=u_i+e_i,\qquad u_i\in I_i,\quad e_i\in\prod_{j\neq i}I_j $$
    と書ける。$e_i\equiv1\pmod{I_i}$ であり、$j\neq i$ について $e_i\in\prod_{k\neq i}I_k\subset I_j$ なので $e_i\equiv0\pmod{I_j}$ である。任意の $(a_1+I_1,\dots,a_n+I_n)$ に対し $a:=a_1e_1+\cdots+a_ne_n$ とおくと、各 $i$$a\equiv a_i\pmod{I_i}$ であり、$\rho(a)=(a_1+I_1,\dots,a_n+I_n)$ である。
  3. $n$ に関する帰納法で $I_1\cap\cdots\cap I_n=I_1\cdots I_n$ を示す。$n=1$ は明らかである。$n\geq2$ とし、$J:=I_1\cdots I_{n-1}$ とおくと、帰納法の仮定により $J=I_1\cap\cdots\cap I_{n-1}$ である。prop-coprime-ideals-basic の 2 を繰り返して $I_n+J=A$ であり、同じ命題の 4 により $JI_n=J\cap I_n$ である。これは $I_1\cdots I_n=I_1\cap\cdots\cap I_n$ にほかならない。最後に 1 と 2 から、$\rho$ は全射で核が $I_1\cdots I_n$ なので、 の記事の定理「環の準同型定理」により同型が得られる。

証明の元 $e_i$ の像 $\rho(e_i)$ は第 $i$ 成分だけが $1$ で他が $0$ の元であり、直積環の冪等元である。$A=\mathbb{Z}$$I_i=(m_i)$ とすると、thm-coprime-crt は整数の中国剰余定理になる。

整数の連立合同式

$m_1,\dots,m_n$ を対ごとに互いに素な正の整数とし、$M=m_1m_2\cdots m_n$ とする。

  1. 環の同型 $\mathbb{Z}/M\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/m_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/m_n\mathbb{Z}$ がある。
  2. 任意の整数 $a_1,\dots,a_n$ に対し、連立合同式 $x\equiv a_i\pmod{m_i}$$i=1,\dots,n$)は整数解をもち、解は $M$ を法としてただ 1 つである。
整数環への適用

thm-coprime-integers により $(m_i)+(m_j)=\mathbb{Z}$$i\neq j$)なので、thm-coprime-crt$A=\mathbb{Z}$$I_i=(m_i)$ に適用する。$(m_1)\cdots(m_n)=(M)$ である(イデアル の記事の例「整数環でのイデアルの演算」の $(m)(n)=(mn)$ を繰り返す)ので 1 を得る。2 の存在は $\rho$ の全射性、$M$ を法とする一意性は $\ker\rho=(M)$ による。

3・5・7 を法とする連立合同式

$x\equiv2\pmod3$$x\equiv3\pmod5$$x\equiv2\pmod7$ を解く。$M=105$ であり、thm-coprime-crt の証明の $e_i$ にあたる整数は
$$ e_1=70\ (\equiv1\bmod3,\ \equiv0\bmod35),\qquad e_2=21\ (\equiv1\bmod5,\ \equiv0\bmod21),\qquad e_3=15\ (\equiv1\bmod7,\ \equiv0\bmod15) $$
である。$e_1=70$ は、$35$ の倍数のうち $3$ で割って $1$ 余るものを探せば見つかる(一般には $35y\equiv1\pmod3$Bézoutの等式 で解く)。よって
$$ x\equiv2\cdot70+3\cdot21+2\cdot15=233\equiv23\pmod{105} $$
であり、実際 $23=7\cdot3+2=4\cdot5+3=3\cdot7+2$ である。

反例:互いに素でない法

$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は、どちらも 4 個の元をもつ環であるが同型でない。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ では $1$ の加法的な位数が $4$ であるのに対し、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ ではすべての元 $u$$u+u=0$ を満たすからである。$2$$2$ は互いに素でなく、$(2)\cap(2)=(2)\neq(4)=(2)(2)$ である。この例は、thm-coprime-crt の 3 で「対ごとに互いに素」の仮定を外すと同型が成り立たないことを示す。全体として互いに素であるだけでは足りないことは ex-coprime-6-10-15 で見た。

Euler関数の乗法性

$n\geq1$ に対し、$1\leq k\leq n$$n$ と互いに素な整数 $k$ の個数を $\varphi(n)$ と書く(Eulerのφ関数)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元 $[k]$単元であることと $\gcd(k,n)=1$ は同値である( の記事の例「整数の剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$」)ので、$\varphi(n)$ は単元群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の位数に等しい。

Euler関数の乗法性

$m,n$ が互いに素な正の整数ならば $\varphi(mn)=\varphi(m)\varphi(n)$ である。

単元群の直積分解

cor-coprime-crt-integers の環同型 $\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は単元群の同型を引き起こす。環の直積の単元群は単元群の直積である( の記事の例「環の直積」)から、
$$ (\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z})^\times\cong(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^\times\times(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times $$
であり、位数を比べて $\varphi(mn)=\varphi(m)\varphi(n)$ を得る。

たとえば $\varphi(15)=\varphi(3)\varphi(5)=2\cdot4=8$ であり、実際 $15$ と互いに素な $1\leq k\leq15$$1,2,4,7,8,11,13,14$ の 8 個である。互いに素でない場合は成り立たない。$\varphi(4)=2$ であるが $\varphi(2)\varphi(2)=1$ である。素因数分解 $n=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$$\varphi(p^e)=p^e-p^{e-1}$ を合わせると $\varphi(n)=n\prod_{i}(1-1/p_i)$ が得られる(Apo76 Chapter 2)。

文献

整数の互いに素・連立合同式・Euler 関数は Apo76 Chapter 1、2、5、DF04 §0.2 に、可換環の互いに素なイデアル(comaximal ideals)と中国剰余定理は DF04 §7.6、AM69 Chapter 1 にある。

関連項目

参考文献

[1]
Tom M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Springer, 1976, Chapter 1(最大公約数と互いに素)、Chapter 2(Euler 関数)、Chapter 5(合同式と中国剰余定理)
[2]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §0.2(整数の性質)、§7.6(中国剰余定理と comaximal なイデアル)
[3]
Michael F. Atiyah and Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 1(互いに素なイデアルと剰余環の直積)

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