Arhangel’skiiの不等式(Arhangel'skii's inequality)とは、任意の Hausdorff 空間 $X$ の濃度が指標 $\chi(X)$ と Lindelöf 数 $L(X)$ により $|X|\le2^{\chi(X)L(X)}$ と上から評価されるという定理である。特に第1可算な Lindelöf Hausdorff 空間の濃度は高々 $2^{\aleph_0}$ であり、これは「第1可算なコンパクト Hausdorff 空間の濃度は連続体の濃度を超えないか」という Alexandroff–Urysohn の問題(1923 年)を解決した。証明は濃度高々 $2^{\chi(X)L(X)}$ の閉集合を超限再帰で膨らませて空間全体を尽くす議論で、Cantor 立方体が示すように評価は最良である。空間の濃度を基数関数で評価する基数不等式の出発点である。
前提知識: 位相空間, Hausdorff空間, 基数, 基数関数, ネット
第1可算(第1可算公理)なコンパクト Hausdorff 空間(コンパクト空間)の濃度(濃度)は連続体の濃度(連続体の濃度)$2^{\aleph_0}$ を超えないか。Alexandroff と Urysohn が 1923 年に提出したこの問題は、半世紀近く未解決のままであった(Hod84、SS18 §1)。Arhangel’skii は 1969 年に、Hausdorff 空間の濃度を指標(character)と Lindelöf 数という2つの基数関数で上から評価する不等式を証明し、この問題を肯定的に解決した(Arh69)。証明に用いられた「閉集合(閉集合)を超限帰納法(超限帰納法)で膨らませて空間全体を尽くす」議論は、その後の基数不等式の研究の標準的な手法になった。
以下、位相空間 $X$ の各点 $x$ に対し、$x$ の開近傍(開近傍)からなる基本近傍系(基本近傍系)$\mathcal{B}$ を $x$ の開局所基と呼ぶ。基数関数の値はすべて $\aleph_0$ 以上にとる(本記事の規約)。
位相空間 $X$ に対し、次の基数を定める。
任意の Hausdorff 空間 $X$ について
$$|X|\le2^{\chi(X)L(X)}$$
が成り立つ。
thm-arhangelskii-inequality の証明は、2つの補題(lem-arhangelskii-closed-cover、lem-arhangelskii-closure)を準備したのち、証明の節の prf-arhangelskii-inequality で完全に与える。先に定理から直ちに従う系を述べる。
第1可算な Lindelöf Hausdorff 空間 $X$ について $|X|\le2^{\aleph_0}$ が成り立つ。特に、第1可算なコンパクト Hausdorff 空間の濃度は高々 $2^{\aleph_0}$ である(Alexandroff–Urysohn の問題の解決)。
仮定から $\chi(X)=L(X)=\aleph_0$ なので、thm-arhangelskii-inequality により $|X|\le2^{\aleph_0\cdot\aleph_0}=2^{\aleph_0}$ である。コンパクト空間は Lindelöf である。$\square$
証明は Pol による超限帰納法の議論(Eng89 §3.1、Hod84 Chapter 1)に従う。2つの補題を先に示す。証明全体で選択公理(選択公理)を用いる。
$X$ を位相空間、$\kappa:=L(X)$ とし、$F\subset X$ を閉集合とする。$X$ の開集合(開集合)の族 $\mathcal{V}$ が $F\subset\bigcup\mathcal{V}$ を満たすならば、濃度高々 $\kappa$ の部分族 $\mathcal{V}'\subset\mathcal{V}$ で $F\subset\bigcup\mathcal{V}'$ となるものが存在する。
$\mathcal{V}\cup\{X\setminus F\}$ は $X$ の開被覆なので、濃度高々 $\kappa$ の部分被覆 $\mathcal{U}$ をもつ。$\mathcal{V}':=\mathcal{U}\setminus\{X\setminus F\}$ とおくと $\mathcal{V}'\subset\mathcal{V}$、$|\mathcal{V}'|\le\kappa$ であり、$F$ の点は $X\setminus F$ に属さないので $\mathcal{U}$ の他の成員、すなわち $\mathcal{V}'$ の成員に属する。$\square$
$X$ を Hausdorff 空間、$\kappa:=\chi(X)$ とし、$A\subset X$ を空でない部分集合とする。このとき閉包(閉包)について $|\overline{A}|\le|A|^{\kappa}$ が成り立つ。特に $|A|\le2^{\kappa}$ ならば $|\overline{A}|\le2^{\kappa}$ である。
$[\kappa]^{<\omega}$ で $\kappa$ の有限部分集合全体を表す。これは包含関係により有向集合(有向集合)であり、$|[\kappa]^{<\omega}|=\kappa$ である(Jec03 Chapter 3)。
$y\in\overline{A}$ とする。$y$ の濃度高々 $\kappa$ の開局所基をとり、それを(必要なら繰り返しを許して)$\{B_{y,\alpha}\mid\alpha<\kappa\}$ と番号づける。$s\in[\kappa]^{<\omega}$ に対し $B_{y,s}:=\bigcap_{\alpha\in s}B_{y,\alpha}$($s=\emptyset$ のときは $X$)とおくと、$B_{y,s}$ は $y$ の開近傍なので、$y\in\overline{A}$ により $A\cap B_{y,s}\ne\emptyset$ である。各 $s$ について点 $a_{y,s}\in A\cap B_{y,s}$ を選び、
$$\Phi(y):=(a_{y,s})_{s\in[\kappa]^{<\omega}}\in A^{[\kappa]^{<\omega}}$$
とおく。
ネット $(a_{y,s})_{s\in[\kappa]^{<\omega}}$ は $y$ に収束(収束)する。実際、$y$ の任意の開近傍 $U$ に対し $B_{y,\alpha}\subset U$ となる $\alpha$ があり、$s\supset\{\alpha\}$ なる任意の $s$ について $a_{y,s}\in B_{y,s}\subset B_{y,\alpha}\subset U$ である。
$\Phi$ が単射であることを示す。$\Phi(y)=\Phi(z)$、$y\ne z$ と仮定する。$X$ は Hausdorff なので、交わらない開集合 $U\ni y$、$W\ni z$ がある。同じネット $(a_{y,s})_s=(a_{z,s})_s$ が $y$ と $z$ の両方に収束するので、$s_1$ 以降の項は $U$ に、$s_2$ 以降の項は $W$ に属する。$s:=s_1\cup s_2$ をとると $a_{y,s}\in U\cap W=\emptyset$ となり矛盾する。よって $\Phi$ は単射であり、
$$|\overline{A}|\le|A^{[\kappa]^{<\omega}}|=|A|^{\kappa}$$
である。$|A|\le2^{\kappa}$ のときは $|A|^{\kappa}\le(2^{\kappa})^{\kappa}=2^{\kappa\cdot\kappa}=2^{\kappa}$ である(Jec03 Chapter 3, Chapter 5)。$\square$
$X$ を Hausdorff 空間とし、$\kappa:=\chi(X)L(X)$ とおく。$X=\emptyset$ なら示すことはないので $X\ne\emptyset$ とする。各 $x\in X$ について濃度高々 $\kappa$ の開局所基 $\mathcal{B}_x$ を1つ固定する。$\chi(X)\le\kappa$ なので、lem-arhangelskii-closureの評価 $|\overline A|\le|A|^{\chi(X)}\le|A|^{\kappa}$ はそのまま使える。用いる基数の算術は、無限基数 $\kappa$ について $\kappa\cdot\kappa=\kappa$、$(2^{\kappa})^{\kappa}=2^{\kappa}$、$\kappa^+\le2^{\kappa}$、および後続基数(後続基数)$\kappa^+$ が正則である(正則基数。$\kappa^+$ より小さい順序数(順序数)の、濃度高々 $\kappa$ の集合の上限は $\kappa^+$ より小さい)ことである(Jec03 Chapter 3, Chapter 5)。
閉集合の列の構成。順序数 $\alpha<\kappa^+$ に関する超限再帰(超限再帰)により、$X$ の閉集合 $F_\alpha$ を次の条件を満たすように構成する。
$F:=\bigcup_{\alpha<\kappa^+}F_\alpha$ とおく。$|F|\le\kappa^+\cdot2^{\kappa}=2^{\kappa}$ である。
主張 1:$F$ は閉集合である。$y\in\overline{F}$ とする。各 $B\in\mathcal{B}_y$ について $B\cap F\ne\emptyset$ なので点 $f_B\in B\cap F$ を選び、$f_B\in F_{\alpha_B}$ となる $\alpha_B<\kappa^+$ をとる。$\{\alpha_B\mid B\in\mathcal{B}_y\}$ は濃度高々 $\kappa$ なので、$\kappa^+$ の正則性により $\beta:=\sup_B\alpha_B<\kappa^+$ であり、(a) からすべての $f_B$ は $F_\beta$ に属する。$y$ の任意の開近傍はある $B\in\mathcal{B}_y$ を含み、$f_B\in B$ なので、$y\in\overline{\{f_B\mid B\in\mathcal{B}_y\}}\subset\overline{F_\beta}=F_\beta\subset F$ である。
主張 2:$F=X$ である。$y\in X\setminus F$ が存在すると仮定する。$X$ は Hausdorff なので $T_1$ であり(T1空間)、$X\setminus\{y\}$ は開集合である。各 $x\in F$ について $x\in X\setminus\{y\}$ なので、$B_x\in\mathcal{B}_x$ で $B_x\subset X\setminus\{y\}$ となるものを選ぶ。族 $\{B_x\mid x\in F\}$ は閉集合 $F$ を覆うので、lem-arhangelskii-closed-cover により、濃度高々 $\kappa$ の部分集合 $F'\subset F$ で $F\subset\bigcup_{x\in F'}B_x$ となるものがある。各 $x\in F'$ に対し $x\in F_{\alpha_x}$ となる $\alpha_x<\kappa^+$ をとると、$\kappa^+$ の正則性により $\alpha:=\sup_{x\in F'}\alpha_x<\kappa^+$ であり、(a) から $F'\subset F_\alpha$ である。$\mathcal{V}:=\{B_x\mid x\in F'\}$ とおくと、$\mathcal{V}\subset\mathcal{W}_\alpha$、$|\mathcal{V}|\le\kappa$ であり、$y\notin\bigcup\mathcal{V}$ なので $\bigcup\mathcal{V}\ne X$ である。よって (c) により $F_{\alpha+1}\setminus\bigcup\mathcal{V}\ne\emptyset$ である。しかし $F_{\alpha+1}\subset F\subset\bigcup\mathcal{V}$ なので矛盾する。
以上により $X=F$ であり、$|X|=|F|\le2^{\kappa}=2^{\chi(X)L(X)}$ である。$\square$
上の証明で Hausdorff 性を本質的に用いたのは lem-arhangelskii-closure(ネットの極限の一意性)だけであり、主張 2 は $T_1$ 性しか使っていない。$T_1$ 空間では閉包の濃度の評価が成り立たず、1つのネットが多くの点に収束しうる。例えば、$\omega$ の各点を孤立点とし、点 $p_i$($i\in I$)の近傍を $\{p_i\}\cup(\omega\setminus F)$($F\subset\omega$ 有限)で与える空間 $X=\omega\cup\{p_i\}_{i\in I}$ は第1可算な $T_1$ 空間で $\overline{\omega}=X$ だが、$|X|=|I|$ は任意に大きくできる(相異なる 2 点がそれぞれ相手を含まない近傍を持つこと、すなわち $X$ が $T_1$ であることは、この近傍の定め方から各自確認できる)。実際、第1可算な Lindelöf $T_1$ 空間の濃度が $2^{\aleph_0}$ で抑えられるかどうかは未解決である(2026年9月時点、Bella–Spadaro BS15 §1)。
Hausdorff 空間 $X$ の重さ(weight、開基(開基)の濃度の最小値と $\aleph_0$ の大きい方)を $w(X)$ とすると $|X|\le2^{w(X)}$ である。
$\chi(X)\le w(X)$ である(開基のうち $x$ を含む成員全体は $x$ の開局所基である)。また $L(X)\le w(X)$ である。実際、$\mathcal{B}$ を濃度 $w(X)$ の開基、$\mathcal{U}$ を開被覆とし、$\mathcal{B}':=\{B\in\mathcal{B}\mid B\subset U\text{ となる }U\in\mathcal{U}\text{ が存在する}\}$ とおいて各 $B\in\mathcal{B}'$ に $B\subset U_B$ なる $U_B\in\mathcal{U}$ を選ぶと、$\{U_B\mid B\in\mathcal{B}'\}$ は濃度高々 $w(X)$ の部分被覆である($x\in X$ に対し $x\in U\in\mathcal{U}$ をとると $x\in B\subset U$ なる $B\in\mathcal{B}$ があり、$x\in U_B$)。よって $\chi(X)L(X)\le w(X)$ であり、thm-arhangelskii-inequality から従う。$\square$
$\kappa$ を無限基数とし、Cantor 立方体(Cantor立方体)$X:=\{0,1\}^{\kappa}$(2 点離散空間の直積位相(直積位相)による冪)を考える。$X$ は Hausdorff 空間の直積なので Hausdorff であり、Tychonoff の定理(Tychonoffの定理)によりコンパクトなので $L(X)=\aleph_0$ である。有限個の座標を指定して得られる筒集合(筒集合) $\{f\in X\mid f(\alpha_1)=\varepsilon_1,\dots,f(\alpha_n)=\varepsilon_n\}$ の全体は開基であり、その個数は $\kappa$ なので $\chi(X)\le w(X)\le\kappa$ である。一方 $|X|=2^{\kappa}$ である。よって
$$2^{\kappa}=|X|\le2^{\chi(X)L(X)}\le2^{\kappa}$$
となり、thm-arhangelskii-inequality の不等式は $X$ で等号になる。特に $\kappa=\aleph_0$ のとき、$X$ は Cantor 集合(Cantor集合)に同相(同相)な第1可算コンパクト Hausdorff 空間で濃度がちょうど $2^{\aleph_0}$ の例である。
Arhangel’skiiの不等式は、位相空間の濃度を基数関数で評価する一連の不等式の出発点である。Hausdorff 空間 $X$ について、Hajnal–Juhász の不等式 $|X|\le2^{c(X)\chi(X)}$($c(X)$ は cellularity(cellularity))、de Groot の不等式 $|X|\le2^{hL(X)}$($hL(X)$ は遺伝的 Lindelöf 数(遺伝的Lindelöf数))、Arhangel’skii–Šapirovskii の不等式 $|X|\le2^{\psi(X)t(X)L(X)}$($\psi$ は擬指標(擬指標)、$t$ は tightness(tightness))が知られており、最後のものは $\psi(X)\le\chi(X)$、$t(X)\le\chi(X)$ から thm-arhangelskii-inequality を含む。これらの証明は Hod84 Chapter 1 および Juh80 Chapter 2 に譲る。基数関数の定義は 基数関数 を参照。
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