判別式(discriminant)とは、体 $K$ 上の $n$ 次多項式 $f=a_nx^n+\dots+a_0$ の根を $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ とするとき $\Delta(f)=a_n^{2n-2}\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ で定まる量であり、根を求めなくても係数の整数係数多項式として計算できる。$\Delta(f)=0$ であることは $f$ が重根をもつことと同値である。2 次式 $ax^2+bx+c$ では $b^2-4ac$、3 次式 $x^3+px+q$ では $-4p^3-27q^2$ であり、実数係数で重根がなければ判別式の符号は虚数解の共役な組の個数 $s$ を用いて $(-1)^s$ と表され、2 次式・3 次式ではこれで実数解の個数が決まる。2 次形式・代数体の判別式は別の概念である。
2 次方程式 $ax^2+bx+c=0$ の解の公式 $x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$ で、根号の中の $b^2-4ac$ は解の様子を決める。実数係数なら、$b^2-4ac>0$ のとき相異なる 2 つの実数解、$=0$ のとき重解、$<0$ のとき互いに共役な 2 つの虚数解(複素数)をもつ。たとえば $x^2-5x+6=(x-2)(x-3)$ では $b^2-4ac=25-24=1$ で、これは 2 つの根の差の 2 乗 $(3-2)^2$ に等しい。$x^2+2x+5$ では $4-20=-16$ で、根は $-1\pm2i$ である。
この「根の差の 2 乗」を任意の次数の多項式に広げたものが 判別式 である。$n$ 次式の判別式は、根どうしの差の 2 乗をすべて掛け合わせたもの(に最高次の係数のべきを掛けたもの)であり、根を求めなくても係数から計算できる。たとえば 3 次式 $x^3-3x+1$ の判別式は $81>0$ で、実際に 3 つの実数解 $-1.8794\ldots$、$0.3473\ldots$、$1.5321\ldots$ をもつ。$x^3-2$ の判別式は $-108<0$ で、実数解は $\sqrt[3]{2}=1.2599\ldots$ の 1 つだけである。
本記事では、体上の 1 変数多項式の判別式を定義し、それが係数の整数係数多項式であること、$0$ になることと重根をもつことの同値、導関数による表示、2 次式・3 次式の公式、実数係数の場合の符号と実根の個数の関係を証明する。2次形式の判別式・代数体の判別式・格子の判別式形式は別の概念であり、rem-disc-other-meanings で区別する。
以下、$K$ は体、$n\ge1$ とし、$K$ 係数の $n$ 次多項式
$$
f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0\qquad(a_i\in K,\ a_n\ne0)
$$
を考える。$f$ は適当な体の拡大 $L\supset K$(たとえば $f$ の分解体。存在は 分解体 の記事の定理「分解体の存在」)で 1 次式の積
$$
f(x)=a_n(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_n)\qquad(\alpha_i\in L)
$$
に分解する。$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ は $f$ の根を重複を込めて並べたものである。$K\subset\mathbb{C}$ なら、代数学の基本定理により $L=\mathbb{C}$ にとれる。
上の記号で
$$
\Delta(f):=a_n^{2n-2}\prod_{1\le i< j\le n}(\alpha_i-\alpha_j)^2
$$
を $f$ の 判別式(discriminant)という。$n=1$ のときは積が空なので $\Delta(f)=1$ である。
$\Delta(f)$ は $\operatorname{disc}(f)$、$D(f)$ とも書く。根の番号の付け方を変えると、各因子 $\alpha_i-\alpha_j$ は符号が変わるだけで、2 乗した因子の全体は同じなので、$\Delta(f)$ は番号の付け方によらない。$\Delta(f)$ が $K$ の元であり、分解させる体 $L$ の選び方にもよらないことは thm-disc-coefficients で示す。
最高次の係数のべき $a_n^{2n-2}$ は、$\Delta(f)$ を係数の多項式にするために付けている(thm-disc-coefficients)。$f$ がモニック多項式($a_n=1$)なら $\Delta(f)=\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ である。$f$ を定数倍しても根は変わらないので、$c\in K$、$c\ne0$ について $\Delta(cf)=c^{2n-2}\Delta(f)$ である。また $f(x+t)$($t\in K$)の根は $\alpha_i-t$ で差が変わらないので、$\Delta(f(x+t))=\Delta(f)$ である。
判別式は根どうしの「近さ」を 1 つの数にまとめたものである。2 つの根が一致すると $0$ になり、根がすべて異なれば $0$ でない。根を求めるには一般に根号や数値計算が必要だが(5 次以上では根号で表せない方程式もある)、判別式は係数の四則演算だけで計算でき、重根の有無を根を求めずに判定できる。
実数係数の場合、実数の差の 2 乗は正、互いに共役な虚数の差の 2 乗は負なので、判別式の符号は虚数解の組の個数の偶奇を表す(thm-disc-real-sign)。2 次式・3 次式では、これで実数解の個数が決まる。
thm-disc-low-degree の公式による。
$f=x^4+1$ と $g=(x^2-1)(x^2-4)=x^4-5x^2+4$ の判別式は、それぞれ $\Delta(f)=256$、$\Delta(g)=5184$($g$ の根 $\pm1,\pm2$ から直接計算すると $(1\cdot2\cdot3\cdot3\cdot4\cdot1)^2=72^2$)で、どちらも正である。しかし $f$ の根 $e^{\pm\pi i/4}$、$e^{\pm3\pi i/4}$ はどれも実数でなく、$g$ の根は 4 つとも実数である。
この例は「実数係数で判別式が正」を満たすが「実根の個数が一通りに決まる」を満たさない場合を示す。thm-disc-real-sign が述べるのは虚数解の組の個数 $s$ の偶奇だけであり($f$ は $s=2$、$g$ は $s=0$)、2 次式・3 次式で実根の個数が決まる(cor-disc-real-low-degree)のは次数が小さいからである。
標数が $2$ でない体 $K$ 上の 2 次式は、判別式が $K$ の元の 2 乗であるときに限り $K$ に根をもち、1 次式の積に分解する(prop-disc-quadratic-square)。3 次式ではこれが成り立たない。$f=x^3-3x+1$ は $\Delta(f)=81=9^2$ と有理数の 2 乗だが、$\mathbb{Q}$ 上既約(既約多項式)である。実際、有理数の根があるとすれば整数係数でモニックなので整数の根であり、それは定数項 $1$ の約数 $\pm1$ に限られるが、$f(1)=-1$、$f(-1)=3$ でどちらも根でない。3 次式が可約なら 1 次の因子、すなわち有理数の根をもつので、$f$ は既約である。
この例は「判別式が $K$ の元の 2 乗である」を満たすが「$K$ 上で可約である」を満たさない 3 次式を示す。3 次以上の既約多項式では、判別式が 2 乗であることは根を $K$ に持つことではなく、Galois群が交代群に含まれることを意味する(rem-disc-galois)。
条件を 1 つ外した反例を表にまとめる。各行の確認は上の例と反例の箱にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 次数が 3 以下(cor-disc-real-low-degree) | $x^4+1$ と $(x^2-1)(x^2-4)$ | 判別式の符号で実数解の個数が決まる |
| 2 次式であること(prop-disc-quadratic-square) | $x^3-3x+1$($\Delta=81=9^2$、$\mathbb{Q}$ 上既約) | 判別式が平方なら $K$ 上で可約 |
| 係数の体(同じ式を $\mathbb{F}_2$ 上で見る) | $x^2+1$ | 判別式が $0$ でない(重根をもたない) |
$n$ 変数の基本対称多項式を $e_1,\dots,e_n$ と書く($e_k=\sum_{i_1<\dots< i_k}x_{i_1}\cdots x_{i_k}$)。対称多項式 の記事の定理「対称多項式の基本定理」により、整数係数の対称多項式 $g\in\mathbb{Z}[x_1,\dots,x_n]$ は、ただ 1 つの整数係数多項式 $P\in\mathbb{Z}[y_1,\dots,y_n]$ によって $g=P(e_1,\dots,e_n)$ と書ける。多項式 $P=\sum_bc_by^b$($y^b=y_1^{b_1}\cdots y_n^{b_n}$)の各項について $|b|:=b_1+\dots+b_n$ とおく。
$n\ge2$ とし、整数係数の対称多項式 $g$ を $g=P(e_1,\dots,e_n)$ と書く。$g\ne0$ なら、$c_b\ne0$ である $b$ についての $|b|$ の最大値は、$g$ の $x_1$ についての次数 $\deg_{x_1}g$ に等しい。
$e'_0:=1$ とし、$e'_1,\dots,e'_{n-1}$ を $x_2,\dots,x_n$ の基本対称多項式、$e'_n:=0$ とする。$x_1$ を含む項と含まない項に分けると、$k=1,\dots,n$ について
$$
e_k=x_1e'_{k-1}+e'_k
$$
である。したがって $e^b=\prod_ke_k^{b_k}$ は $x_1$ について次数 $|b|$ 以下で、$x_1^{|b|}$ の係数は $\prod_k(e'_{k-1})^{b_k}=(e'_1)^{b_2}(e'_2)^{b_3}\cdots(e'_{n-1})^{b_n}$ である。$D$ を $c_b\ne0$ である $|b|$ の最大値とすると、$g$ の $x_1^D$ の係数は
$$
\sum_{|b|=D}c_b\,(e'_1)^{b_2}\cdots(e'_{n-1})^{b_n}
$$
である。$|b|=D$ のもとで $b_1=D-(b_2+\dots+b_n)$ なので、$b\mapsto(b_2,\dots,b_n)$ は単射であり、上の和の各項は相異なる単項式 $y_1^{b_2}\cdots y_{n-1}^{b_n}$ に $e'_1,\dots,e'_{n-1}$ を代入したものである。$x_2,\dots,x_n$ の基本対称多項式は代数的に独立である(対称多項式 の記事の定理「対称多項式の基本定理」の一意性を $n-1$ 変数に適用する)から、この和は $0$ でない。よって $\deg_{x_1}g=D$ である。
各 $n\ge1$ に対し、整数係数の多項式 $D_n\in\mathbb{Z}[A_0,A_1,\dots,A_n]$ で次を満たすものがある。任意の体 $K$ と $K$ 係数の $n$ 次多項式 $f=\sum_ka_kx^k$($a_n\ne0$)、$f$ を 1 次式の積に分解させる任意の拡大体 $L$ について
$$
\Delta(f)=D_n(a_0,a_1,\dots,a_n)
$$
が成り立つ。とくに $\Delta(f)\in K$ であり、$\Delta(f)$ は $L$ の選び方にも根の番号の付け方にもよらない。$D_n$ は $A_0,\dots,A_n$ について $2n-2$ 次の斉次多項式である。
$n=1$ では $D_1:=1$ とすればよい。$n\ge2$ とし、
$$
V_n:=\prod_{1\le i< j\le n}(x_i-x_j)^2\in\mathbb{Z}[x_1,\dots,x_n]
$$
とおく。変数の置換 $\sigma$ は因子の集合 $\{(x_i-x_j)^2: i< j\}$ をそれ自身に写す($(x_j-x_i)^2=(x_i-x_j)^2$ に注意)ので、$V_n$ は対称多項式である。$x_1$ を含む因子は $(x_1-x_j)^2$($j=2,\dots,n$)の $n-1$ 個なので、$\deg_{x_1}V_n=2n-2$ である。対称多項式の基本定理により $V_n=P_n(e_1,\dots,e_n)$、$P_n=\sum_bc_by^b\in\mathbb{Z}[y_1,\dots,y_n]$ と書け、lem-disc-degree によりすべての項で $|b|\le2n-2$ である。そこで
$$
D_n(A_0,\dots,A_n):=\sum_bc_b\,A_n^{2n-2-|b|}\prod_{k=1}^n\bigl((-1)^kA_{n-k}\bigr)^{b_k}
$$
と定めると、$A_n$ の指数は負にならないので $D_n\in\mathbb{Z}[A_0,\dots,A_n]$ であり、各項の次数は $(2n-2-|b|)+|b|=2n-2$ である。
$L$ で $f=a_n\prod_i(x-\alpha_i)$ と分解すると、対称多項式 の記事の命題「根と係数の関係」により $\prod_i(x-\alpha_i)=\sum_k(-1)^ke_k(\alpha)x^{n-k}$ なので、係数を比べて $a_{n-k}=a_n(-1)^ke_k(\alpha)$、すなわち $e_k(\alpha)=(-1)^ka_{n-k}/a_n$ である。$V_n=P_n(e_1,\dots,e_n)$ は整数係数の多項式の恒等式なので、$L$ の元を代入しても成り立つ。よって
$$
\Delta(f)=a_n^{2n-2}V_n(\alpha)=a_n^{2n-2}\sum_bc_b\prod_k\Bigl(\frac{(-1)^ka_{n-k}}{a_n}\Bigr)^{b_k}=D_n(a_0,\dots,a_n)
$$
である。右辺は $K$ の元で、$L$ にも番号にもよらない。
したがって判別式は、係数に整数係数の多項式 $D_n$ を代入するだけで計算できる。$D_n$ の項の個数は $n$ とともに急速に増える(rem-disc-sources)。
$f=\sum_ka_kx^k$ の(形式的な)導関数を $f'=\sum_kka_kx^{k-1}$ と定める。積の微分法則 $(gh)'=g'h+gh'$ は、係数の体によらず成り立つ(両辺が $g,h$ について双線形なので、単項式どうしの積 $x^ix^j$ で確かめればよい)。
上の記号で
$$
\Delta(f)=(-1)^{n(n-1)/2}\,a_n^{\,n-2}\prod_{i=1}^nf'(\alpha_i)
$$
が成り立つ($n=1$ のときの $a_n^{-1}$ は $K$ での逆元)。
$f=a_n\prod_j(x-\alpha_j)$ に積の微分法則を繰り返し使うと $f'=a_n\sum_i\prod_{j\ne i}(x-\alpha_j)$ である。$x=\alpha_i$ を代入すると、$i$ 番目以外の項は因子 $x-\alpha_i$ を含むので $0$ になり、
$$
f'(\alpha_i)=a_n\prod_{j\ne i}(\alpha_i-\alpha_j)
$$
である。$i$ についての積をとると、$\prod_if'(\alpha_i)=a_n^n\prod_{i\ne j}(\alpha_i-\alpha_j)$ である。右辺の積では、$i< j$ の各組について $(\alpha_i-\alpha_j)(\alpha_j-\alpha_i)=-(\alpha_i-\alpha_j)^2$ が現れ、組は $n(n-1)/2$ 個あるので
$$
\prod_if'(\alpha_i)=a_n^n(-1)^{n(n-1)/2}\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)^2=(-1)^{n(n-1)/2}a_n^{\,n}a_n^{-(2n-2)}\Delta(f)
$$
となる。両辺に $(-1)^{n(n-1)/2}a_n^{\,n-2}$ を掛ければよい。
次の 3 条件は同値である。
$a_n\ne0$ で、$L$ は体なので積が $0$ になるのはある因子が $0$ のときに限る。よって 1 は「ある $i< j$ で $\alpha_i-\alpha_j=0$」、すなわち 2 と同値である。$L$ における $f$ の根は $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ だけなので、3 は「ある $i$ で $f'(\alpha_i)=0$」と同値であり、prop-disc-derivative と $a_n\ne0$ によりこれは 1 と同値である。
$f$ が重根をもたない($\Delta(f)\ne0$)ことを、$f$ が 分離的(分離拡大)であるという。判別式は分離性を係数だけで判定する。
prf-disc-coefficients の $P_n$ を使う。$V_n$ は $n(n-1)$ 次の斉次多項式なので、対称多項式 の記事の定理「対称多項式の基本定理」の後半により、$P_n$ は $y_k$ の重みを $k$ としたとき重み $n(n-1)$ の項だけからなる($P_n$ は一意なので、そこで存在が保証される重み付き斉次な表示と一致する)。
1:$n=2$ で重み $2$ の単項式は $y_1^2$、$y_2$ なので $P_2=\lambda y_1^2+\mu y_2$($\lambda,\mu\in\mathbb{Z}$)と書ける。$(x_1,x_2)=(1,0)$ では $V_2=1$、$e_1=1$、$e_2=0$ なので $\lambda=1$ である。$(x_1,x_2)=(1,1)$ では $V_2=0$、$e_1=2$、$e_2=1$ なので $4+\mu=0$、$\mu=-4$ である。よって $V_2=e_1^2-4e_2$ であり、$e_1(\alpha)=-b/a$、$e_2(\alpha)=c/a$ を代入して $\Delta=a^2\bigl(b^2/a^2-4c/a\bigr)=b^2-4ac$ を得る。
2:$n=3$ で $e_1=0$ となる点では、$P_3$ のうち $y_1$ を含まない重み $6$ の項だけが残る。重み $2$ の $y_2$ と重み $3$ の $y_3$ でできる重み $6$ の単項式は $y_2^3$、$y_3^2$ だけなので、$e_1=0$ のとき $V_3=\lambda e_2^3+\mu e_3^2$ となる整数 $\lambda,\mu$ がある。$(x_1,x_2,x_3)=(1,-1,0)$ では $e_1=0$、$e_2=-1$、$e_3=0$、$V_3=(2\cdot1\cdot(-1))^2=4$ なので $\lambda=-4$ である。$(1,1,-2)$ では $e_1=0$、$e_2=-3$、$e_3=-2$、$V_3=0$ なので $-4\cdot(-27)+4\mu=0$、$\mu=-27$ である。$f=x^3+px+q$ の根では $e_1=0$、$e_2=p$、$e_3=-q$ なので $\Delta(f)=-4p^3-27q^2$ である。
3:両辺はどちらも $\mathbb{Z}[a,b,c,d]$ の元である(左辺は thm-disc-coefficients の $D_3$)。$a\ne0$ である有理数 $a,b,c,d$ について両辺が等しいことを示せば、$a\cdot(\text{左辺}-\text{右辺})$ は $\mathbb{Q}^4$ の全体で $0$ になる多項式なので $0$ であり(無限体上で値がすべて $0$ の多項式は $0$)、$\mathbb{Z}[a,b,c,d]$ は整域なので左辺と右辺は多項式として等しく、したがって任意の体で等しい。$a\ne0$ のとき、$f=ax^3+bx^2+cx+d$ について $\Delta(f)=a^4\Delta(f/a)$ であり、$x=y-b/(3a)$ と平行移動すると $f/a=y^3+py+q$、
$$
p=\frac{3ac-b^2}{3a^2},\qquad q=\frac{2b^3-9abc+27a^2d}{27a^3}
$$
となる。平行移動で判別式は変わらないので、2 により $\Delta(f)=a^4(-4p^3-27q^2)$ であり、これを展開すると右辺に一致する。
3 次式の公式 3 は、$b=0$、$a=1$ とおくと 2 に戻る。3 の証明の最後の展開は通分して整理するだけの計算である。
$K$ の標数が $2$ でないとし、$f=ax^2+bx+c\in K[x]$($a\ne0$)とする。$f$ が $K$ に根をもつ(したがって $K$ 係数の 1 次式の積に分解する)ことと、$b^2-4ac$ が $K$ のある元の 2 乗であることは同値である。
$4af(x)=(2ax+b)^2-(b^2-4ac)$ である。$x_0\in K$ が根なら $b^2-4ac=(2ax_0+b)^2$ は 2 乗である。逆に $b^2-4ac=d^2$($d\in K$)なら、$2a\ne0$ なので $x_0:=(-b+d)/(2a)\in K$ がとれ、$4af(x_0)=d^2-d^2=0$ となり $x_0$ は根である。根 $x_0$ があれば $f=(x-x_0)g$ と 1 次式 $g$ に割り切れる。
$f\in\mathbb{R}[x]$ を $n$ 次の実数係数多項式とし、$f$ は重根をもたないとする。$f$ の実数でない複素数の根は互いに共役な組をなす(代数学の基本定理 の記事の系「実係数多項式の分解」)。その組の個数を $s$ とすると
$$
\Delta(f)\ \text{の符号}=(-1)^s
$$
である。すなわち $\Delta(f)>0$ であることと $s$ が偶数であることは同値である。
根を $\mathbb{C}$ でとり、$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ は相異なるとする。$\Delta(f)=a_n^{2n-2}\prod_{\{\gamma,\delta\}}(\gamma-\delta)^2$ と書ける。ここで積は相異なる 2 根の組 $\{\gamma,\delta\}$(順序を考えない)全体にわたり、$(\gamma-\delta)^2=(\delta-\gamma)^2$ なので各因子は組だけで決まる。$a_n$ は $0$ でない実数なので $a_n^{2n-2}>0$ である。
$f$ の係数は実数なので、$f(\bar\gamma)=\overline{f(\gamma)}$ により複素共役は根の集合をそれ自身に写し、したがって 2 根の組の集合もそれ自身に写す。組 $\{\gamma,\delta\}$ を次の 3 種類に分ける。
$f$ を実数係数の多項式とする。
$\Delta(f)\ne0$ なら重根はなく(prop-disc-multiple-root)、実数解の個数を $r$ とすると $r+2s=n$ である。$n=2$ なら $s\in\{0,1\}$、$n=3$ なら $s\in\{0,1\}$ であり、thm-disc-real-sign により $\Delta>0$ は $s=0$、$\Delta<0$ は $s=1$ にあたる。
$\Delta(f)=0$ なら重根 $\beta$ がある。$\beta$ が実数でなければ $\bar\beta$ も同じ重複度の根であり($f=\bar f$ を分解の一意性で比べる)、根は重複を込めて $4$ 個以上になって次数に反する。よって重根 $\beta$ は実数である。$n=2$ なら根は $\beta,\beta$ で終わる。$n=3$ なら残りの根 $\gamma$ は、虚数なら $\bar\gamma\ne\gamma$ も根になり根が $4$ 個以上になるので、実数である。
たとえば $x^3-3x+1$($\Delta=81$)は 3 つの実数解を、$x^3-2$($\Delta=-108$)は 1 つの実数解を、$x^3+3x+1$($\Delta=-135$)は 1 つの実数解をもつ。4 次以上では $r+2s=n$ を満たす $s$ が 3 通り以上あり、符号だけでは決まらない(ex-disc-quartic)。
$K$ 係数の多項式 $f=a\prod_{i=1}^n(x-\alpha_i)$($n\ge1$)と $g=b\prod_{j=1}^m(x-\beta_j)$($m\ge0$、$ab\ne0$)について、
$$
\operatorname{Res}(f,g):=a^mb^n\prod_{i,j}(\alpha_i-\beta_j)=a^m\prod_{i=1}^ng(\alpha_i)
$$
を $f$ と $g$ の終結式という(2 つ目の等号は $g(\alpha_i)=b\prod_j(\alpha_i-\beta_j)$ による。$m=0$ なら $g=b$ で $\operatorname{Res}(f,g)=b^n$)。
$f'$ の次数が $n-1$ である(たとえば $K$ の標数が $0$)とき、
$$
\Delta(f)=(-1)^{n(n-1)/2}\,a_n^{-1}\operatorname{Res}(f,f')
$$
である。
$n\ge2$ とする。$f'$ の次数は $m=n-1$ なので、終結式の 2 つ目の表示から $\operatorname{Res}(f,f')=a_n^{n-1}\prod_if'(\alpha_i)$ である。prop-disc-derivative に代入すると $\Delta(f)=(-1)^{n(n-1)/2}a_n^{n-2}a_n^{-(n-1)}\operatorname{Res}(f,f')$ となる。$n=1$ なら $f'=a_1$ は $0$ 次で $\operatorname{Res}(f,f')=a_1$、右辺は $a_1^{-1}a_1=1=\Delta(f)$ である。
たとえば $f=x^2+bx+c$ なら $f'=2x+b$ で、根 $\alpha_1,\alpha_2$ について $f'(\alpha_1)f'(\alpha_2)=4\alpha_1\alpha_2+2b(\alpha_1+\alpha_2)+b^2=4c-2b^2+b^2=4c-b^2$ なので、$\Delta=(-1)^1\cdot(4c-b^2)=b^2-4c$ となり thm-disc-low-degree の 1 と一致する。
$f$ を $K$ 上の重根をもたない $n$ 次多項式とし、$\delta:=\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)$ とおく($\Delta(f)=a_n^{2n-2}\delta^2$)。根の置換 $\sigma$ に対し、$\delta$ の各因子を $\sigma$ で動かすと、$\sigma$ の置換の符号を $\operatorname{sgn}\sigma$ として $\sigma(\delta)=\operatorname{sgn}(\sigma)\,\delta$ となる。このことから、$K$ の標数が $2$ でないとき、$f$ のGalois群(根の置換の群とみる)が交代群 $A_n$ に含まれることと、$\Delta(f)$ が $K$ の元の 2 乗であることが同値になる。証明にはGalois理論の基本定理を使う(MilFT Corollary 4.2)。たとえば既約な 3 次式 $x^3-3x+1$ は $\Delta=81=9^2$ なので Galois 群は $A_3$ であり、$x^3+3x+1$ は $\Delta=-135$ が 2 乗でないので Galois 群は 3 次対称群 $S_3$ である(MilFT Example 4.7)。
「判別式」の名で呼ばれるものには次もある。
MilFT は第 4 章の冒頭(pp. 47–48)でモニック多項式の判別式を $D(f)=\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ と定義し、$D(f)\ne0$ と $f$ が重根をもたないことの同値、Proposition 4.1・Corollary 4.2(判別式は $F$ の元で、標数が $2$ でなければ Galois 群が $A_n$ に含まれることと $D(f)$ が 2 乗であることが同値)、$D(X^2+bX+c)=b^2-4c$ と $D(X^3+bX+c)=-4b^3-27c^2$、一般の 3 次式の判別式の式を述べている。Remark 4.3(p. 48)は実係数の場合の符号が $(-1)^s$ であることを述べ、Example 4.7(p. 49)は $x^3-3x+1$ と $x^3+3x+1$ を扱う。第 4 章の付録(pp. 58–59)は終結式を $\operatorname{Res}(f,g)=a^mb^n\prod(\alpha_i-\beta_j)$ と定義し(Proposition 4.35)、モニックな $f$ について $D(f)=(-1)^{n(n-1)/2}\operatorname{Res}(f,f')$(Proposition 4.36)と、$X^5+aX^4+bX^3+cX^2+dX+e$ の判別式が 59 項であることを述べている(p. 48)。同書の判別式はモニック多項式に限っており、本記事の $a_n^{2n-2}$ を付けた定義は、$f/a_n$ の判別式に $a_n^{2n-2}$ を掛けたものにあたる。本記事の thm-disc-coefficients・prop-disc-derivative・thm-disc-real-sign の証明は記事内で完結させた。
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