特性関数(集合)(characteristic function, indicator function)とは、集合 $X$ の部分集合 $A$ に対し、$A$ の元で $1$、それ以外で $0$ をとる関数 $\chi_A\colon X\to\{0,1\}$ であり、指示関数ともいう。$A\mapsto\chi_A$ は冪集合 $\mathcal{P}(X)$ と $\{0,1\}^X$ の全単射で、共通部分は積 $\chi_A\chi_B$、補集合は $1-\chi_A$、包含は大小、有限集合の元の個数は和 $\sum_x\chi_A(x)$、測度は積分 $\int\chi_A\,d\mu=\mu(A)$ に対応する。包除原理は関数の恒等式になり、確率は期待値 $P(A)=E[1_A]$ で表される。確率分布の Fourier 変換を指す確率論の特性関数とは別の概念である。
本記事は、集合の部分集合に対して定まる特性関数(指示関数)を扱う。確率論で確率変数 $Z$ に対して $t\mapsto E[e^{itZ}]$ で定める特性関数(特性関数(確率論))は別の概念である。
値の集合 $\{0,1\}$ は、用途に応じて整数全体 $\mathbb{Z}$、実数全体 $\mathbb{R}$、2 元体 $\mathbb{F}_2$(有限体)の部分集合とみなす。以下、とくに断らなければ $\chi_A$ は実数値関数とみなし、関数の和・積・大小は各点ごとにとる。
$\chi_A$ は $A$ だけでなく、全体の集合 $X$ にもよる。$A\subset X\subset Y$ のとき、$A$ を $Y$ の部分集合とみた特性関数は、$X$ の部分集合とみた $\chi_A$ を $X$ の外で $0$ として $Y$ 全体に延ばしたものである。
部分集合 $A$ と特性関数 $\chi_A$ は互いに他を決める。逆向きには、写像 $u\colon X\to\{0,1\}$ に対して $A:=u^{-1}(1)=\{x\in X\mid u(x)=1\}$ とおくと $u=\chi_A$ である。したがって $A\mapsto\chi_A$ は、冪集合 $\mathcal{P}(X)$ から $X$ から $\{0,1\}$ への写像全体の集合 $\{0,1\}^X$ への全単射であり、逆写像は $u\mapsto u^{-1}(1)$ である(冪集合 の記事の命題「部分集合と特性写像」)。冪集合を $2^X$ と書くのはこの対応による。$X$ が $n$ 元の有限集合なら $|\mathcal{P}(X)|=2^n$ であり、無限集合 $X$ についても $|\mathcal{P}(X)|=2^{|X|}$ が成り立つ(基数 の記事の定義「基数の算術」)。
部分集合を 1 つ指定することは、$X$ の各元について「入る」か「入らない」かを答えることである。特性関数はその答えを $1$ と $0$ で記録した表である。$X=\{1,2,\dots,n\}$ なら、部分集合は長さ $n$ の $0$ と $1$ の列(2 進列)にほかならない。この記録法の利点は、集合の演算が数の演算に変わることにある。共通部分は積に、補集合は $1$ から引くことに、包含は大小に、元の個数は和に、測度は積分になる。集合について考えるときに代数や解析の道具が使えるのはこのためである。
$X=\{1,2,3\}$、$A=\{1,3\}$ なら $(\chi_A(1),\chi_A(2),\chi_A(3))=(1,0,1)$ である。$X$ の $8$ 個の部分集合は $000,001,\dots,111$ の $8$ 個の 2 進列に対応する。空集合の特性関数は恒等的に $0$ の関数、全体 $X$ の特性関数は恒等的に $1$ の関数である。
$\mathbb{R}$ 上の Heaviside の階段関数 $H$($x\ge0$ で $1$、$x<0$ で $0$)は $H=\chi_{[0,\infty)}$ である。Dirichlet 関数
$$
D(x):=\begin{cases}1 & (x\in\mathbb{Q}),\\ 0 & (x\notin\mathbb{Q})\end{cases}
$$
は有理数全体の特性関数 $\chi_{\mathbb{Q}}$ である。$H$ は $0$ 以外の点で連続、$D$ はどの点でも連続でない(ex-charfn-continuity)。
$A,B\subset X$ について、$\chi_A+\chi_B$ が特性関数であることと $A\cap B=\emptyset$ であることは同値であり、このとき $\chi_A+\chi_B=\chi_{A\cup B}$ である。実際、$x\in A\cap B$ なら $(\chi_A+\chi_B)(x)=2$ で値が $\{0,1\}$ に入らず、$A\cap B=\emptyset$ なら各点で $\chi_A,\chi_B$ の少なくとも一方が $0$ なので和は $\chi_{A\cup B}$ に等しい。たとえば $\chi_A+\chi_A=2\chi_A$ は $A\neq\emptyset$ なら特性関数でない。この例は「特性関数の和は特性関数である」という含意を破る。特性関数全体は和について閉じておらず、閉じているのは積(prop-charfn-operations の 1)と、値を $\mathbb{F}_2$ で考えたときの和(同 4)である。
$X$ を集合、$A,B\subset X$ とする。
1〜4 は各点 $x\in X$ で確かめればよい。$a:=\chi_A(x)$、$b:=\chi_B(x)$ はそれぞれ $0$ か $1$ であり、4 通りの組 $(a,b)$ について
$$
ab=\min\{a,b\},\qquad a+b-ab=\max\{a,b\},\qquad a+b-2ab=|a-b|
$$
が成り立つ($(a,b)=(1,1)$ のとき順に $1,1,0$、$(1,0)$ と $(0,1)$ のとき $0,1,1$、$(0,0)$ のとき $0,0,0$)。一方 $x\in A\cap B$ は $a=b=1$、$x\in A\cup B$ は $a=1$ または $b=1$、$x\in A\triangle B$ は $a\neq b$ と同値なので、1・2・4 の等式を得る。$\mathbb{F}_2$ では $2=0$ なので 4 の最後の式になる。3 は $x\in X\setminus A$ と $1-a=1$ の同値から従い、$A\setminus B=A\cap(X\setminus B)$ に 1 を使えば後半を得る。
5:$A\subset B$ なら、$\chi_A(x)=1$ のとき $x\in A\subset B$ で $\chi_B(x)=1$ なので $\chi_A\le\chi_B$ である。逆に $\chi_A\le\chi_B$ なら、$x\in A$ について $1=\chi_A(x)\le\chi_B(x)$ から $x\in B$ である。等号の同値は包含を 2 方向に使えばよい。
6:$x\in\bigcap_iA_i$ はすべての $i$ で $\chi_{A_i}(x)=1$、すなわち $\inf_i\chi_{A_i}(x)=1$ と同値である(値は $0$ か $1$ なので下限は最小値であり、$I\neq\emptyset$ なので $\{0,1\}$ の空でない部分集合の下限をとっている)。和集合も同様に上限で表される。
7:$y\in f^{-1}(A)$ と $f(y)\in A$、すなわち $\chi_A(f(y))=1$ は同値である。
8:$(x,y)\in A\times C$ は $x\in A$ かつ $y\in C$ と同値であり、1 と同じく積で表される。$\square$
prop-charfn-operations の 6 で $I=\emptyset$ とすると、$X$ の部分集合族としての空な共通部分は $X$、空な和集合は $\emptyset$ と約束するのが普通であり、これは $\{0,1\}$ での空集合の下限 $1$、上限 $0$ と一致する。
1 と 4 により、$A\mapsto\chi_A$ は、共通部分を積、対称差を和とする環 $\mathcal{P}(X)$ から、$\mathbb{F}_2$ 値の関数の環 $\mathbb{F}_2^X$ への環の同型である(Boole環 の記事の例「冪集合環」)。また 5 により、$\mathcal{P}(X)$ の包含による順序は、関数の各点ごとの大小による順序と一致する。
$X$ が有限集合なら、$A\subset X$ の元の個数は特性関数の和で書ける。
$$
|A|=\sum_{x\in X}\chi_A(x).
$$
個数を和で表しておくと、和の順序の入れ替えで数え上げの等式が得られる。たとえば $X=\{1,\dots,n\}$ の部分集合の元の個数の総和は
$$
\sum_{A\subset X}|A|=\sum_{A\subset X}\sum_{x\in X}\chi_A(x)=\sum_{x\in X}\bigl|\{A\subset X\mid x\in A\}\bigr|=n\,2^{n-1}
$$
である。$x$ を含む部分集合は、$x$ 以外の $n-1$ 個の元のそれぞれを入れるか入れないかで決まるので $2^{n-1}$ 個あるからである。
$n\ge1$ とし、$A_1,\dots,A_n\subset X$ とする。空でない $I\subset\{1,\dots,n\}$ について $A_I:=\bigcap_{i\in I}A_i$ とおく。このとき各点で
$$
1-\chi_{A_1\cup\cdots\cup A_n}=\prod_{i=1}^n\bigl(1-\chi_{A_i}\bigr),\qquad
\chi_{A_1\cup\cdots\cup A_n}=\sum_{\emptyset\neq I\subset\{1,\dots,n\}}(-1)^{|I|+1}\chi_{A_I}
$$
が成り立つ。
de Morganの法則により $X\setminus(A_1\cup\cdots\cup A_n)=\bigcap_{i=1}^n(X\setminus A_i)$ である。prop-charfn-operations の 3 と 1 を繰り返し使うと、左辺の特性関数は $1-\chi_{A_1\cup\cdots\cup A_n}$、右辺の特性関数は $\prod_i(1-\chi_{A_i})$ であり、1 つ目の等式を得る。実数値関数の積は可換で分配法則を満たすので、右辺を展開すると
$$
\prod_{i=1}^n\bigl(1-\chi_{A_i}\bigr)=\sum_{I\subset\{1,\dots,n\}}(-1)^{|I|}\prod_{i\in I}\chi_{A_i}
=1+\sum_{\emptyset\neq I}(-1)^{|I|}\chi_{A_I}
$$
となる($I=\emptyset$ の項は空積 $1$。$\prod_{i\in I}\chi_{A_i}=\chi_{A_I}$ は prop-charfn-operations の 1 を繰り返し使う)。これを 1 つ目の等式に代入して整理すれば 2 つ目の等式を得る。$\square$
$X$ が有限なら、2 つ目の等式を $x\in X$ について足し合わせて
$$
|A_1\cup\cdots\cup A_n|=\sum_{\emptyset\neq I}(-1)^{|I|+1}|A_I|
$$
を得る。これは包含と除去の原理であり(数え上げ組合せ論 の記事の定理「包除の等式」)、特性関数を使うと集合の等式を関数の恒等式に持ち上げたうえで数えることになる。同じ等式を測度 $\mu$ で積分すれば、$A_1,\dots,A_n$ が可測で $\mu(X)<\infty$ のときの測度の包除の公式が得られる。
1:$\partial A$ は、$X$ から $A$ の内部 $\operatorname{int}A$ と $X\setminus A$ の内部を除いた集合である。$x\in\operatorname{int}A$ なら、$x$ の近傍 $\operatorname{int}A$ の上で $\chi_A$ は定数 $1$ なので $\chi_A$ は $x$ で連続である。$x\in\operatorname{int}(X\setminus A)$ なら同様に近傍の上で定数 $0$ である。逆に $x\in\partial A$ とすると、$x$ のどの近傍 $U$ も $A$ と $X\setminus A$ の両方と交わるので、$U$ の中に $\chi_A$ の値が $0$ の点と $1$ の点がある。とくに $|\chi_A(y)-\chi_A(x)|=1$ となる $y\in U$ がある。$\varepsilon=1/2$ に対して「$y\in U$ なら $|\chi_A(y)-\chi_A(x)|<\varepsilon$」となる近傍 $U$ がないので、$\chi_A$ は $x$ で連続でない。
2:1 により、$\chi_A$ が連続であることは $\partial A=\emptyset$ と同値である。$\partial A=\overline{A}\setminus\operatorname{int}A$($\overline{A}$ は閉包)なので、これは $\overline{A}=\operatorname{int}A$ と同値であり、$\operatorname{int}A\subset A\subset\overline{A}$ から $A=\operatorname{int}A=\overline{A}$、すなわち $A$ が開集合かつ閉集合であることと同値である。$\square$
連結空間の定義は「開集合かつ閉集合である部分集合が $\emptyset$ と $X$ だけ」なので、2 により、$X$ が連結であることと、連続な特性関数が定数関数 $0$ と $1$ だけであることは同値である。
$\mathbb{R}$ の通常の位相で考える。
集合の列 $(A_n)_{n\ge1}$($A_n\subset X$)の上極限と下極限を
$$
\limsup_{n\to\infty}A_n:=\bigcap_{m\ge1}\bigcup_{n\ge m}A_n,\qquad
\liminf_{n\to\infty}A_n:=\bigcup_{m\ge1}\bigcap_{n\ge m}A_n
$$
で定める。$\limsup A_n$ は無限個の $n$ について $A_n$ に属する点の全体、$\liminf A_n$ はある番号から先のすべての $n$ について $A_n$ に属する点の全体である。
各点 $x\in X$ で
$$
\chi_{\limsup A_n}(x)=\limsup_{n\to\infty}\chi_{A_n}(x),\qquad
\chi_{\liminf A_n}(x)=\liminf_{n\to\infty}\chi_{A_n}(x)
$$
が成り立つ(右辺は実数列の上極限と下極限)。とくに $\limsup A_n=\liminf A_n=A$ となることと、$\chi_{A_n}$ が $\chi_A$ に各点収束することは同値である。
$x$ を固定すると $(\chi_{A_n}(x))_n$ は $0$ と $1$ だけからなる数列である。このような数列の上極限は、$1$ が無限回現れるとき $1$、そうでないとき(ある番号から先はすべて $0$ のとき)$0$ である。$1$ が無限回現れることは $x$ が無限個の $n$ について $A_n$ に属すること、すなわち $x\in\limsup A_n$ と同値なので、1 つ目の等式を得る。下極限は、ある番号から先がすべて $1$ のとき $1$、そうでないとき $0$ であり、同様に 2 つ目の等式を得る。$0$ と $1$ からなる数列が収束することは、ある番号から先が定数になることと同値であり、それは上極限と下極限が一致することと同値である。$\square$
$\mathbb{R}$ の部分集合 $U$ の逆像 $\chi_A^{-1}(U)$ は、$U$ が $0,1$ をどう含むかに応じて $\emptyset$、$A$、$X\setminus A$、$X$ のどれかである。$A\in\mathcal{M}$ なら、σ-代数 $\mathcal{M}$ は $\emptyset,X$ を含み補集合で閉じているので、これらはすべて $\mathcal{M}$ に属し、$\chi_A$ は可測である。逆に $\chi_A$ が可測なら、Borel集合 $\{1\}$ の逆像 $A=\chi_A^{-1}(\{1\})$ は $\mathcal{M}$ に属する。$\square$
測度空間(測度) $(X,\mathcal{M},\mu)$ と $A\in\mathcal{M}$ について
$$
\int_X\chi_A\,d\mu=\mu(A)
$$
であり、これは Lebesgue積分の定義の出発点である。$c_1,\dots,c_k\in\mathbb{R}$、$A_1,\dots,A_k\in\mathcal{M}$ による有限の線形結合 $\sum_jc_j\chi_{A_j}$ を単関数といい、非負の可測関数 $f$ の積分は、$0\le\phi\le f$ を満たす単関数 $\phi$ の積分の上限として定義される(Fol99 §2.1–2.3)。確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ では、事象 $A$ の特性関数 $1_A$ は「$A$ が起これば $1$、起こらなければ $0$」という確率変数であり、その期待値は $E[1_A]=P(A)$ である。事象の個数を数える確率変数 $1_{A_1}+\cdots+1_{A_n}$ の期待値は、期待値の線形性により $P(A_1)+\cdots+P(A_n)$ となる。これは $A_i$ が独立でなくても成り立つ。
$[0,1]$ 上の Dirichlet 関数 $D=\chi_{\mathbb{Q}\cap[0,1]}$ はRiemann積分可能でない。$[0,1]$ のどの分割についても、各小区間は長さが正なので有理数と無理数をともに含み(無理数 の記事の命題「有理数と無理数の稠密性」)、各小区間での $D$ の上限は $1$、下限は $0$ である。したがって上 Darboux 和はつねに $1$、下 Darboux 和はつねに $0$ であり、両者の差は分割を細かくしても $0$ に近づかない。Riemann 積分可能性はこの差がいくらでも小さくできることと同値である(Rud76 Chapter 6)。この例は「$[0,1]$ 上の有界関数は Riemann 積分可能である」という含意を破る。
一方、$\mathbb{Q}\cap[0,1]$ は可算集合なので Lebesgue測度は $0$ であり、$D$ は Lebesgue 積分可能で $\int_{[0,1]}D\,d\lambda=0$ である(Fol99 §1.5、§2.3)。
「特性関数」という名前は、確率論では確率分布の Fourier変換 $\varphi_Z(t)=E[e^{itZ}]$($Z$ は確率変数)を指す(特性関数(確率論))。部分集合の特性関数と混同しないために、確率論の文脈では部分集合の特性関数を「指示関数」と呼ぶことが多い。凸解析では、$A$ の上で $0$、$A$ の外で $+\infty$ をとる関数 $\delta_A$ を $A$ の指示関数(indicator function)と呼ぶ流儀があり、これは本記事の $\chi_A$ とは値が異なる。$\delta_A$ を加えることは、最小化問題に「$A$ の中で」という制約を課すことにあたる。
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