代数関数(algebraic function)とは、$0$ でない多項式 $P(x,y)$ について $P(x,f(x))=0$ を満たす関数 $f$ のことであり、有理関数や根号で書ける関数を含むが、$e^x$ や $\log x$ は含まない。代数関数の全体は体をなし、各代数関数は多項式係数の線形微分方程式を満たし、冪級数ならその係数は多項式係数の漸化式を満たす。各点 $a$ のまわりで方程式の根は $(x-a)^{1/n}$ の収束する Laurent 級数(Puiseux 展開)で表され、ここから代数的な冪級数の収束半径は正であることが従う。曖昧でない文脈自由言語の母関数や Catalan 数の母関数として、数え上げにも現れる。
代数関数(algebraic function)とは、多項式の係数をもつ方程式 $P(x,y)=0$ を $y$ について解いて得られる関数のことである。$\sqrt{1-4x}$ や $(1-\sqrt{1-4x})/(2x)$ のように根号で書けるものはその例だが、5 次以上の方程式の根のように根号で書けないものも含む。有理関数より一段広いが、$e^x$ や $\log x$ のような超越関数は含まない。
代数関数を調べる中心の道具は、各点のまわりの Puiseux 展開(分数冪の級数展開)である。方程式の根は、例外的な有限個の点を除けば $x$ の正則関数として動き、例外点のまわりでも $(x-a)^{1/n}$ の Laurent 級数で表される。この記事では、代数関数の全体が体をなすこと、代数関数が線形微分方程式を満たすこと、Puiseux 展開の存在を証明して、そこから代数的な冪級数が正の収束半径をもつことを導き、$e^x$ と $\log x$ が代数関数でないことも示す。応用として、曖昧でない文脈自由文法の生成する言語の母関数が代数関数になる例(Dyck 言語と Catalan 数)を扱う。
以下、$k$ は $\mathbb{C}$ の部分体($\mathbb{Q}$、代数的数 の体 $\overline{\mathbb{Q}}$、$\mathbb{C}$ など)とし、$k[x,y]$ は 2 変数の多項式環、$k(x)$ は 有理関数体 とする。
$U\subset\mathbb{C}$ を連結な開集合とし、$f$ を $U$ 上の有理型関数とする。$0$ でない多項式 $P(x,y)\in k[x,y]$ で
$$
P\bigl(x,f(x)\bigr)=0\qquad(x\in U\ \text{で}\ f\ \text{の極でない点})
$$
を満たすものがあるとき、$f$ を $k$ 上の代数関数($k$ 上代数的な関数)という。$k=\mathbb{C}$ のときは単に代数関数という。代数関数でない有理型関数を 超越関数 という。
形式的冪級数 $f=\sum_{n\ge0}f_nx^n\in k[\![x]\!]$ について、$0$ でない $P(x,y)\in k[x,y]$ で $P(x,f)=0$($k[\![x]\!]$ の中の等式)となるものがあるとき、$f$ を $k$ 上代数的な冪級数 という。
$P$ は $y$ について 1 次以上である($y$ を含まない $P$ は $0$ でない多項式 $p(x)$ で、$p(x)$ は $U$ 上で恒等的に $0$ にはならない)。$P$ を $y$ の多項式として $P=\sum_{i=0}^da_i(x)y^i$($a_d\ne0$)と書く。
$f$ を $k$ 上の代数関数または代数的冪級数とする。$f$ を根にもつ $k(x)$ 係数の $y$ のモニック多項式のうち次数が最小のもの $F(y)$ がただ 1 つあり、$F$ は $k(x)[y]$ で既約である。$f$ を根にもつ $k(x)[y]$ の元は $F$ で割り切れる。
$f$ の極でない点での値をとる写像により、$k(x)[y]$ の元 $G$ に $G(f)$ を対応させると、環の準同型 $k(x)[y]\to\mathcal{M}$ が得られる。ここで $\mathcal{M}$ は $U$ 上の有理型関数の体($U$ は連結なので 一致の定理 により体になる)、または冪級数の場合は 形式的Laurent級数 の体 $k(\!(x)\!)$ である。核は $k(x)[y]$(単項イデアル整域)のイデアルで、仮定から $0$ でないので、モニックな $F$ で生成される。像は体の部分環なので整域であり、核は素イデアル、すなわち $F$ は既約である。$\square$
$F$ の次数を $f$ の 次数 という。$F$ の係数の分母を払った $P\in k[x,y]$ も $f$ の 最小多項式 とよぶ。
方程式 $P(x,y)=0$ は、一般には $x$ の各値に対して $y$ を $d$ 個定める。これらを 1 つの「多価関数」の 枝 とみなす見方が古典的であり、枝を貼り合わせたものが代数関数の Riemann面 である。この記事では主に、1 つの枝を領域上の有理型関数として扱う。$k$ 上の代数関数 $f$ について、体 $k(x)(f)\cong k(x)[y]/(F)$ は $k$ 上有限生成で超越次数 $1$ の拡大体、すなわち Tsenの定理 の定義「1 変数代数関数体」の意味の 1 変数代数関数体 である。代数関数体(体の側の言葉)については 関数体 の節「代数関数体」を参照。
$L$ を $\mathcal{M}(U)$ または $k(\!(x)\!)$ とし、$K:=k(x)\subset L$ とおく。$f,g\in L$ がそれぞれ次数 $m,n$ で $K$ 上代数的であるとし、最小多項式を $y^m+\sum_{i< m}p_iy^i$、$y^n+\sum_{j< n}q_jy^j$($p_i,q_j\in K$)とする。
$f^ig^j$($0\le i< m$、$0\le j< n$)で張られる $K$ 上の部分空間を $V\subset L$ とする。$f\cdot f^{m-1}g^j=f^mg^j=-\sum_{i< m}p_if^ig^j\in V$ なので $fV\subset V$ であり、同様に $gV\subset V$ である。よって $h=f+g$ または $h=fg$ について $hV\subset V$ で、$1\in V$ から $1,h,h^2,\dots$ はすべて $V$ に属する。$\dim_KV\le mn$ なので、$1,h,\dots,h^{mn}$ は $K$ 上 1 次従属であり、$0$ でない $c_0,\dots,c_{mn}\in K$ の組で $\sum_lc_lh^l=0$ となる。分母を払えば $h$ は代数的である。$-g$ は $-y$ を代入した多項式の根なので代数的である。
$f\ne0$ のとき、最小多項式の定数項 $p_0$ は $0$ でない($p_0=0$ なら最小多項式は $y$ で割り切れ、既約性から $y$ そのものになり $f=0$ となる)。$f^m+\dots+p_0=0$ を $f^m$ で割ると、$1/f$ は $p_0y^m+p_1y^{m-1}+\dots+1$ の根である。以上で 1 が示された。
2 は、$k[\![x]\!]\subset k(\!(x)\!)$ に同じ議論を当てればよい。$f(0)\ne0$ なら $1/f\in k[\![x]\!]$ である(形式的冪級数の積と逆数)。$\square$
$f$ を $k$ 上の次数 $d$ の代数関数(または代数的冪級数)とする。
1。 最小多項式 $P\in k[x,y]$ をとる。$P(x,f(x))=0$ を $x$ で微分すると、連鎖律 により$$P_x\bigl(x,f\bigr)+P_y\bigl(x,f\bigr)\,f'=0$$である($P_x,P_y$ は偏微分)。$P_y$ は $y$ について次数 $d-1$ で、$y^{d-1}$ の係数 $da_d\ne0$ をもつので $0$ でない。次数 $d$ 未満の $0$ でない多項式は $f$ を根にもたない(prop-alg-minimal)から $P_y(x,f)\ne0$ で、$f'=-P_x(x,f)/P_y(x,f)\in k(x)(f)$ である。
2。 $E:=k(x)(f)$ は $k(x)$ 上 $d$ 次元である。$E$ の元 $G(x,f)$($G\in k(x)[y]$)の導関数は $G_x(x,f)+G_y(x,f)f'$ で、1 によりまた $E$ に属する。よって $f,f',\dots,f^{(d)}$ はすべて $E$ に属し、$d+1$ 個なので $k(x)$ 上 1 次従属である。分母を払えば 2 の式を得る。
3。 2 の式を $\sum_{i,j}c_{ij}x^if^{(j)}=0$(有限和)と書き、$x^n$ の係数を比べる。$x^if^{(j)}$ の $x^n$ の係数は $(n-i+1)(n-i+2)\cdots(n-i+j)\,f_{n-i+j}$ である($n\ge i$)。ずれ $j-i$ の値ごとにまとめると、$f_{n+e}$ の係数は多項式 $\sum_{j-i=e}c_{ij}(n-i+1)\cdots(n-i+j)$ になる。同じ $e$ の中では $j$ が異なれば次数が異なるので、$c_{ij}\ne0$ となる $(i,j)$ が 1 つでもある $e$ ではこの多項式は $0$ でない。$e$ の最大値を $e_1$、最小値を $e_0$ とし、$s:=e_1-e_0$、添字を $n\mapsto n-e_1$ とずらせば 3 の形になる($n_0$ は $i$ の最大値と $e_1$ から決まる)。$\square$
逆は成り立たない。$e^x$ は $f'=f$ を満たすが代数関数でない(prop-alg-transcendental)。代数関数がこの性質をもつことは Abel が知っていた(FS09 Note B.12、p. 749)。
$C(x)=\sum C_nx^n$ を ex-alg-examples の 3 とする。$xC^2-C+1=0$ を微分すると $C^2+2xCC'-C'=0$ で、$1-2xC=\sqrt{1-4x}$、$C^2=(C-1)/x$ を使って整理すると
$$
x(1-4x)C'+(1-2x)C-1=0
$$
を得る。$x^n$($n\ge1$)の係数を比べると $nC_n-4(n-1)C_{n-1}+C_n-2C_{n-1}=0$、すなわち
$$
(n+1)C_n=2(2n-1)C_{n-1}
$$
である。$C_0=1$ から帰納法で $C_n=\frac1{n+1}\binom{2n}n$ が従う(Catalan数 の定理「Catalan 数の閉じた式」と一致する)。
この節では $k=\mathbb{C}$ とし、$P=\sum_{i=0}^da_i(x)y^i\in\mathbb{C}[x,y]$($d\ge1$、$a_d\ne0$)が $\mathbb{C}(x)[y]$ で 平方因子をもたない(同じ既約因子を 2 回以上含まない)とする。既約な $P$ はこの条件を満たす。
$x_0\in\mathbb{C}$ で $a_d(x_0)\ne0$ とし、$M:=\max_{i< d}\lvert a_i(x_0)/a_d(x_0)\rvert$ とおく。$P(x_0,y)=0$ の根 $y$ はすべて $\lvert y\rvert\le1+M$ を満たす。
$\lvert y\rvert>1+M$ とすると、$\bigl\lvert\sum_{i< d}\frac{a_i(x_0)}{a_d(x_0)}y^i\bigr\rvert\le M\sum_{i< d}\lvert y\rvert^i=M\frac{\lvert y\rvert^d-1}{\lvert y\rvert-1}<\lvert y\rvert^d$ である($M/(\lvert y\rvert-1)<1$)。よって $y^d=-\sum_{i< d}\frac{a_i(x_0)}{a_d(x_0)}y^i$ は成り立たず、$y$ は根でない。$\square$
$a_d(x_0)\ne0$ とし、$y_0$ を $P(x_0,y)$ の単純根とする。このとき $\delta,\rho>0$ と、円板 $\lvert x-x_0\rvert<\delta$ 上の正則関数 $\varphi$ で $\varphi(x_0)=y_0$ となるものがあり、$\lvert x-x_0\rvert<\delta$ では $\varphi(x)$ が $P(x,y)$ の $\lvert y-y_0\rvert<\rho$ の中のただ 1 つの根で、しかも単純根である。
$y_0$ 以外の根が閉円板 $\lvert y-y_0\rvert\le\rho$ に入らないように $\rho>0$ をとり、円周 $\Gamma:\lvert y-y_0\rvert=\rho$ を正の向きに回る。$P(x_0,y)$ は $\Gamma$ の上で $0$ にならず、$\Gamma$ はコンパクトで $P$ は連続なので、$\delta>0$ を小さくとれば $\lvert x-x_0\rvert<\delta$、$y\in\Gamma$ で $P(x,y)\ne0$ である。偏角の原理 の定理「偏角の原理」により$$N(x):=\frac1{2\pi i}\oint_\Gamma\frac{P_y(x,y)}{P(x,y)}\,dy$$は $P(x,\cdot)$ の $\Gamma$ の内側の根の個数(重複度込み)である。$N$ は $x$ の連続関数で整数値なので、円板上で一定値 $N(x_0)=1$ をとる。その根を $\varphi(x)$ とすると、$yP_y/P$ の $\varphi(x)$ での留数は $\varphi(x)$ なので$$\varphi(x)=\frac1{2\pi i}\oint_\Gamma\frac{yP_y(x,y)}{P(x,y)}\,dy$$である。被積分関数は $x$ について正則で $(x,y)$ について連続なので、$\varphi$ は正則である(Cauchyの積分公式 の定理「Morera の定理」)。重複度が $N(x)=1$ なので単純根である。$\square$
平方因子をもたないことから、$P$ と $P_y$ は $\mathbb{C}(x)[y]$ で互いに素であり(標数 $0$)、$A,B\in\mathbb{C}[x,y]$ と $0$ でない $h\in\mathbb{C}[x]$ で $AP+BP_y=h(x)$ となるものがある($\mathbb{C}(x)[y]$ での Bézout の等式の分母を払う)。$\Sigma:=\{x\mid a_d(x)h(x)=0\}$ は有限集合で、$x_0\notin\Sigma$ なら $P(x_0,y)$ は相異なる $d$ 個の単純根をもつ。$\Sigma$ の点を $P$ の 例外点 とよぶ。
$a\in\mathbb{C}$ とし、$r>0$ を、$0<\lvert x-a\rvert< r$ に例外点がないようにとる。このとき正の整数 $n_1,\dots,n_m$($n_1+\dots+n_m=d$)と、Laurent 級数
$$
g_i(t)=\sum_{l\ge l_i}c_{i,l}\,t^l\qquad(l_i\in\mathbb{Z},\ 1\le i\le m)
$$
で $0<\lvert t\rvert< r^{1/n_i}$ において収束し $P(a+t^{n_i},g_i(t))=0$ を満たすものがあって、次が成り立つ。$0<\lvert x-a\rvert< r$ の各 $x$ と、$\tau_i^{n_i}=x-a$ を満たす各 $\tau_i$ について、$P(x,y)$ の $d$ 個の根は
$$
g_i\bigl(\zeta_i^{\,j}\tau_i\bigr)\qquad(1\le i\le m,\ 0\le j< n_i,\ \zeta_i=e^{2\pi\sqrt{-1}/n_i})
$$
で尽くされ、これら $d$ 個の値は互いに相異なる。さらに $a_d(a)\ne0$ ならば、すべての $i$ で $l_i\ge0$ にとれる。
$g_i(\tau_i)$ を $x$ で書けば $\sum_lc_{i,l}(x-a)^{l/n_i}$ で、これが Puiseux 展開 である。$n_i$ をこの枝の 分岐の型 という。$n_i=1$ の枝は $a$ のまわりで $x$ の Laurent 級数で書ける。
段 1(半平面上の根)。 $H:=\{s\in\mathbb{C}\mid\operatorname{Re}s<\log r\}$ とし、$Q(s,y):=P(a+e^s,y)$ とおく。$s\mapsto a+e^s$ は $H$ を穴あき円板 $0<\lvert x-a\rvert< r$ の上へ写し、各 $s$ で $Q(s,\cdot)$ は相異なる $d$ 個の単純根をもつ。lem-alg-simple-root を $x_0=a+e^{s_0}$ の各根に当て、$e^s$ と合成すると、各 $s_0\in H$ のまわりの円板 $D$ と、$D$ 上の正則関数 $\varphi_1,\dots,\varphi_d$ で、各 $s\in D$ で $\varphi_1(s),\dots,\varphi_d(s)$ が $Q(s,\cdot)$ の相異なる $d$ 個の根になるものがとれる。
$D$ の連結な開部分集合 $W$ 上の連続関数 $g$ が各点で $Q(s,\cdot)$ の根ならば、$g$ はある 1 つの $\varphi_j$ に $W$ 上で等しい。実際、$W_j:=\{s\in W\mid g(s)=\varphi_j(s)\}$ は閉集合で、根が相異なるので互いに交わらず、合わせて $W$ を覆う。連結な空間は交わらない有限個の閉集合の和に分けられないので、ある $W_j$ が $W$ に一致する。
段 2(一価な枝)。 基点 $s_0\in H$ をとる。$H$ の中の $s_0$ から出る道 $\gamma$ に沿って、$s_0$ の近くの根 $\varphi$ は根のまま解析接続できる。実際、解析接続 の補題「有限個の円板による言い換え」の形で、$\gamma$ を段 1 の円板 $D_1,\dots,D_N$ で順に覆い(分点はコンパクト性で選ぶ)、$D_{k-1}\cap D_k$(凸なので連結)の上で段 1 の主張を使えば、$D_{k-1}$ 上の根は $D_k$ 上のある $\varphi_j$ につながる。$H$ は凸なので単連結であり、解析接続 の系「単連結な領域への延長」により、$\varphi$ は $H$ 上の正則関数 $\eta$ に延びる。$Q(s,\eta(s))$ は $H$ 上正則で $s_0$ の近くで $0$ なので、一致の定理 により $H$ 全体で $0$ である。$s_0$ での $d$ 個の根から、こうして $H$ 上の正則な根 $\eta_1,\dots,\eta_d$ を得る。どの $s$ でも $\eta_1(s),\dots,\eta_d(s)$ は相異なる。$\eta_i(s_1)=\eta_j(s_1)$ なら、$s_1$ のまわりの円板で段 1 の主張により $\eta_i$ と $\eta_j$ は同じ $\varphi_k$ に等しく、一致の定理で $\eta_i=\eta_j$ となって $s_0$ での相異に反するからである。よって各 $s\in H$ で $\{\eta_j(s)\}$ は $Q(s,\cdot)$ の根の全体である。
段 3(1 周したときの置換)。 $H$ は $s\mapsto s+2\pi\sqrt{-1}$ で保たれ、$e^{s+2\pi\sqrt{-1}}=e^s$ なので、$s\mapsto\eta_j(s+2\pi\sqrt{-1})$ も $H$ 上の連続な根である。段 1 と同じ連結性の議論を $H$ 全体で行うと、ただ 1 つの $\sigma(j)$ で $\eta_j(s+2\pi\sqrt{-1})=\eta_{\sigma(j)}(s)$($s\in H$)となる。$\sigma$ は単射なので $\{1,\dots,d\}$ の置換であり、帰納法で $\eta_j(s+2\pi\sqrt{-1}\,l)=\eta_{\sigma^l(j)}(s)$ である。
段 4(Laurent 級数)。 $\sigma$ の巡回置換への分解の 1 つの巡回を $(j,\sigma(j),\dots,\sigma^{n-1}(j))$ とすると $\eta_j(s+2\pi\sqrt{-1}\,n)=\eta_j(s)$ である。$0<\lvert t\rvert< r^{1/n}$ について、$e^w=t$、$\operatorname{Re}w<(\log r)/n$ となる $w$ をとり $g(t):=\eta_j(nw)$ とおく。$w$ の取り方は $2\pi\sqrt{-1}$ の整数倍だけ違うが、周期性により $g(t)$ は $w$ によらない。$w$ は $t$ の局所的な対数の分枝にとれるので $g$ は正則で、$a+t^n=a+e^{nw}$ から $P(a+t^n,g(t))=0$ である。
各 $a_i/a_d$ は有理関数なので、$C\ge0$、整数 $M'\ge0$ と $0< r'\le r$ があって $0<\lvert x-a\rvert< r'$ で $\lvert a_i(x)/a_d(x)\rvert\le C\lvert x-a\rvert^{-M'}$ である($a_d(a)\ne0$ なら $M'=0$)。lem-alg-root-bound により $0<\lvert t\rvert< r'^{1/n}$ で $\lvert g(t)\rvert\le1+C\lvert t\rvert^{-nM'}$ なので、$t^{nM'}g(t)$ は $t=0$ の近くで有界である。Riemannの拡張定理 の定理「Riemann の拡張定理」により $t^{nM'}g(t)$ は $\lvert t\rvert< r^{1/n}$ 上の正則関数に延び、その Taylor 展開を $t^{nM'}$ で割れば、$g$ の Laurent展開 は $t^{-nM'}$ より低い冪を含まない。$M'=0$ なら負の冪はない。
段 5(根の数え上げ)。 巡回ごとに代表 $j_i$ と長さ $n_i$ をとり、段 4 の $g$ を $g_i$ とする。$0<\lvert x-a\rvert< r$ なら $x-a=e^s$($s\in H$)と書け、根は $\eta_{\sigma^l(j_i)}(s)=\eta_{j_i}(s+2\pi\sqrt{-1}\,l)=g_i\bigl(e^{(s+2\pi\sqrt{-1}\,l)/n_i}\bigr)=g_i(\zeta_i^{\,l}e^{s/n_i})$($0\le l< n_i$)である。$\tau_i=e^{s/n_i}$ は $x-a$ の $n_i$ 乗根の 1 つで、ほかの選び方は $\tau_i$ に $\zeta_i$ の冪を掛けるだけなので $j$ の番号が入れ替わるだけである。巡回の長さの和は $d$ である。$\square$
証明の考え方は、例外点のまわりを 1 周すると根が入れ替わること(モノドロミー)を追い、同じ根に戻るまでの周回数 $n$ で $x=a+t^n$ と置き換えて一価にすることである。この論法は FS09 の Theorem VII.7(p. 498)とその直前の議論にある。$x=\infty$ での展開は、$x=1/u$ と置き換えて $u=0$ での展開に帰着させる。Newton は Newton 多角形を使って展開の係数を順に求める方法を与えた(FS09 §VII.7.1)。
$P=y^3-3y-2x$ とする。$P_y=3(y^2-1)$ なので、根が重なるのは $y=\pm1$、すなわち $x=\mp1$ のときである。$a=-1$ では $P(-1,y)=(y-1)^2(y+2)$ である。$y=1+u$、$x=-1+v$ とおくと $3u^2+u^3=2v$ となり、$\tau^2=x+1$、$c:=\sqrt{2/3}$ として
$$
y=1+c\tau-\frac{c^2}6\tau^2+O(\tau^3)
$$
が分岐の型 $2$ の枝である($\tau\mapsto-\tau$ でもう 1 つの根になる)。$y=-2+w$ とおくと $9w-6w^2+w^3=2v$ で、$y=-2+\frac29(x+1)+O((x+1)^2)$ が分岐の型 $1$ の枝である。$n_1+n_2=2+1=3$ である。
$P=y^2-x^2(1+x)$ では $x=0$ で 2 つの根が $0$ に重なるが、根は $y=\pm x\sqrt{1+x}$($\lvert x\rvert<1$、$\sqrt{1+x}$ は $\sqrt1=1$ の枝)で、どちらも $x=0$ で正則である。分岐の型は $1,1$ である。例外点は分岐の候補にすぎない。一方 $y^2-x^3$ では $y=\pm x^{3/2}$ で、分岐の型は $2$ である。
$f\in\mathbb{C}[\![x]\!]$ が代数的ならば、$f$ の収束半径は正である。とくに $f$ は $0$ の近くの正則関数として代数関数である。
$P(x,f)=0$ とし、$P$ を $\mathbb{C}[x,y]$ の既約因子に分解する。$\mathbb{C}[\![x]\!]$ は整域なので、ある既約因子 $P_1$ について $P_1(x,f)=0$ であり、$P_1$ は $y$ を含む($y$ を含まない $0$ でない多項式は $\mathbb{C}[\![x]\!]$ で $0$ でない)。$P_1$ は $\mathbb{C}(x)[y]$ でも既約(Gauss の補題。多項式環 の定理「Gauss の補題(内容の乗法性)」から従う)なので、$P_1$ に thm-alg-puiseux を $a=0$ で当てる。$N$ を $n_1,\dots,n_m$ の最小公倍数とし、$G_{i,j}(t):=g_i\bigl(\zeta_i^{\,j}t^{N/n_i}\bigr)$ とおく。これは $0<\lvert t\rvert<\rho$($\rho>0$ は小さくとる)で収束する Laurent 級数であり、$P_1(t^N,G_{i,j}(t))=0$ が関数として、したがって Laurent 級数として(展開の一意性)成り立つ。$d$ 個の $G_{i,j}$ は値が相異なるので Laurent 級数としても相異なる。
体 $\mathbb{C}(\!(t)\!)$ の上で、$y$ の $d$ 次多項式 $P_1(t^N,y)$ の根は高々 $d$ 個なので、$G_{i,j}$ が根の全体である。$f(t^N)\in\mathbb{C}[\![t]\!]$ も根なので、ある $G_{i,j}$ に等しい。よって $\sum_nf_nt^{Nn}$ は $0<\lvert t\rvert<\rho$ で収束し、$\sum_nf_nx^n$ は $\lvert x\rvert<\rho^N$ で収束する。$\square$
$F(x)=\sum_{n\ge0}n!\,x^n$ は $x\ne0$ で発散するので、cor-alg-convergent により代数的な冪級数でない。一方、係数を比べると $x^2F'+(x-1)F+1=0$ が成り立つ($x^m$ の係数は $(m-1)(m-1)!+(m-1)!-m!=0$)。線形微分方程式を満たすことは、代数的であることを導かない。
ある関数が代数関数でないことを示すには、最小多項式があると仮定して、微分して次数の低い関係式を作るのが基本である。
1。 $f=e^x$ が代数的だとし、$\mathbb{C}(x)$ 上の最小多項式を $y^d+\sum_{i< d}b_iy^i$ とする。$f'=f$ から $(f^i)'=if^i$ なので、$f^d+\sum_ib_if^i=0$ を微分すると $df^d+\sum_{i< d}(b_i'+ib_i)f^i=0$ である。これから元の式の $d$ 倍を引くと$$\sum_{i< d}\bigl(b_i'-(d-i)b_i\bigr)f^i=0$$で、次数 $d$ 未満なので係数はすべて $0$ である(prop-alg-minimal)。$b_i\ne0$ とすると $b_i'/b_i=d-i$ は $0$ でない定数だが、有理関数 $R=c\prod_\alpha(x-\alpha)^{m_\alpha}$ について $R'/R=\sum_\alpha m_\alpha/(x-\alpha)$ は $x\to\infty$ で $0$ に近づくので矛盾する。よって $b_i=0$($i< d$)で、$f^d=0$ となり $f=e^x\ne0$ に反する。
2。 $f=\operatorname{Log}x$ が代数的だとし、最小多項式を $y^d+\sum_{i< d}b_iy^i$ とする。$f'=1/x$ を使って $f^d+\sum_ib_if^i=0$ を微分すると$$\Bigl(\frac dx+b_{d-1}'\Bigr)f^{d-1}+\sum_{i< d-1}\Bigl(b_i'+\frac{(i+1)b_{i+1}}x\Bigr)f^i=0$$で、次数 $d$ 未満なので係数は $0$ であり、とくに $b_{d-1}'=-d/x$ である。しかし有理関数を 部分分数分解 して微分すると、$1/(x-\alpha)$ の 1 乗の項は現れない($(x-\alpha)^{-m}$ の導関数は $(x-\alpha)^{-m-1}$ の定数倍、多項式の導関数は多項式)。よって $-d/x$ は有理関数の導関数でなく、矛盾する。$\square$
Puiseux 展開からも 2 が分かる。代数関数の枝は例外点のまわりを有限回まわると元に戻る(thm-alg-puiseux の段 3 の置換の位数)が、$\operatorname{Log}x$ は原点のまわりを 1 周するたびに $2\pi\sqrt{-1}$ ずつ増え(解析接続 の例「対数を原点のまわりに 1 周接続する」)、何周しても元に戻らない。
同じ論法で、$\log(1+x)=\sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}x^n/n$ や $e^x=\sum x^n/n!$ は収束半径が正の冪級数であるにもかかわらず、代数的な冪級数でないことが分かる。代数的な冪級数であるかを調べる手がかりをまとめると次のとおりである。
| 性質 | 代数的な冪級数で | 根拠 | 逆は |
|---|---|---|---|
| 収束半径が正 | つねに成り立つ | cor-alg-convergent | 成り立たない($e^x$) |
| 多項式係数の線形微分方程式を満たす | つねに成り立つ | thm-alg-dfinite | 成り立たない($e^x$、$\sum n!x^n$) |
| 係数が多項式係数の漸化式を満たす | つねに成り立つ | thm-alg-dfinite の 3 | 成り立たない($1/n!$) |
| 各点のまわりの枝が有限回の周回で戻る | つねに成り立つ | thm-alg-puiseux | — |
形式言語 の言語 $L$ について、長さ $n$ の語の個数を $\ell_n$ として $L(z)=\sum_n\ell_nz^n$ を $L$ の 母関数 という。曖昧でない文脈自由文法(文脈自由言語)では、構文木と語が 1 対 1 に対応するので、文法の規則がそのまま母関数の多項式の連立方程式になり、消去によって各母関数は代数関数になる(Chomsky–Schützenberger の定理。FS09 Proposition I.7(p. 80)と Note I.54(pp. 82–83)。消去の部分はこの記事では証明しない)。最も簡単な場合を示す。
文字 $a,b$ の語で、$a$ と $b$ の個数が等しく、どの先頭部分でも $a$ の個数が $b$ の個数以上であるものの全体を $\mathcal{D}$ とする(文脈自由言語 の例「Dyck 言語」。$S\to aSbS\mid\varepsilon$ で生成される)。空でない $w\in\mathcal{D}$ は、先頭部分で初めて $a$ と $b$ の個数が等しくなる位置で切ると、$w=aubv$($u,v\in\mathcal{D}$)とただ 1 通りに書ける(Catalan数 の命題「最初の復帰による漸化式」と同じ分解)。逆に $u,v\in\mathcal{D}$ なら $aubv\in\mathcal{D}$ である。長さを数えると
$$
D(z)=1+z^2D(z)^2
$$
で、$D(z)=C(z^2)$ である($C$ は ex-alg-examples の 3。$xC^2-C+1=0$ の冪級数の根は、$C(0)=1$ から係数が順に決まるのでただ 1 つ)。長さ $2n$ の Dyck 語の個数は $C_n=\frac1{n+1}\binom{2n}n$ である(ex-alg-catalan)。
この例で、根号を使った閉じた式が分かる前に、方程式 $xC^2-C+1=0$ だけから漸化式を求められた(ex-alg-catalan)ことに注意する。また $P=xy^2-y+1$ では $-4xP+(2xy-1)P_y=1-4x$ なので $h=1-4x$ ととれ、$C(x)$ の例外点は $x=0$ と、2 つの根が重なる $x=\frac14$ である。$x=\frac14$ では $C=2-2\sqrt{1-4x}+O(1-4x)$ と分岐の型 $2$ の Puiseux 展開をもち、収束半径は $\frac14$ である。冪級数の収束半径は最も近い特異点までの距離で決まるので、代数関数の母関数では、例外点の位置と Puiseux 展開の形が係数の増え方を支配する。これを系統的に扱うのが FS09 第 VII 章の特異点解析である。
周期(代数多様体) の実周期は、有理数係数の有理関数を有理数係数の多項式の不等式で定まる領域で積分した値(積分が絶対収束するもの)であり、周期は実部と虚部がともに実周期である複素数である。そこでは被積分関数に $\overline{\mathbb{Q}}$ 上の代数関数を許しても周期の集合が変わらないことが注意されている。たとえば $\overline{\mathbb{Q}}$ 上の代数関数 $\sqrt{1-x^2}$ について $\int_{-1}^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac\pi2$ であり、$\pi$ は有理関数の積分としても $\int\!\!\int_{x^2+y^2\le1}dx\,dy$ と書ける周期である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-alg-puiseux の、展開の冪に分数を許すこと | $y^2-x$ の根、$a=0$ | $x$ の整数冪の Laurent 級数では根を表せない |
| thm-alg-puiseux の、$P$ が平方因子をもたないこと | $(y^2-x)^2$、$a=0$ | $P(x,\cdot)$($d=4$)の相異なる根は 2 個しかなく、根を $d$ 個の相異なる値で尽くせない |
| thm-alg-puiseux の後半の $a_d(a)\ne0$ | $xy-1$、$a=0$ | 根 $1/x$ は負の冪を含む |
| thm-alg-puiseux の、$P$ が多項式であること | $e^y-x=0$、$a=0$ | 根 $\operatorname{Log}x+2\pi\sqrt{-1}k$ は無限個あり、どれも Puiseux 展開をもたない |
| cor-alg-convergent の、$f$ を根にもつのが多項式 $P$ であること | $\sum n!x^n$(線形微分方程式の解) | 収束半径が $0$ |
| thm-alg-field の、$f,g$ がともに代数的であること | $f=x$、$g=e^x-x$ | $f+g=e^x$ は代数的でない |
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する