対数凹性(log-concavity)とは、実数の列 $a_0,\dots,a_d$ がすべての $i$ で $a_i^2\ge a_{i-1}a_{i+1}$ をみたす性質のことで、多項式では係数の列について考える。内部に零をもたない非負の対数凹列は単峰であり、二項係数が典型的な例である。対数凹性は和では保たれないが、畳み込み(多項式の積)では保たれる。実根だけをもつ次数 $d$ の多項式の係数は、$a_k/\binom dk$ が対数凹になるという Newton の不等式をみたす。逆に、単峰でも対数凹とは限らず、係数が対数凹でも実根だけをもつとは限らない。マトロイドの特性多項式や混合体積の列など、組合せ論と幾何に多くの例がある。
対数凹性(log-concavity)とは、実数の列 $a_0,a_1,\dots,a_d$ が、すべての $1\le i\le d-1$ について
$$
a_i^2\ge a_{i-1}a_{i+1}
$$
をみたす性質のことである。このとき列は 対数凹(log-concave)であるという。多項式 $\sum_ia_ix^i$ については係数の列の性質として考える。正の列では、$\log a_i$ が $i$ の凹関数である(折れ線が上に凸になる)ことと同値であり、名前はこれに由来する。
対数凹性は、単峰性(ある番号まで増え、その後は減る)を導く扱いやすい十分条件であり、組合せ論・代数・幾何・確率に数多く現れる。二項係数 $\binom nk$ が典型的な例で、実根だけをもつ多項式の係数はつねに(Newton の不等式の意味で)対数凹である。一方、対数凹性は和では保たれず、畳み込み(多項式の積)では保たれる。
この記事では、(1) 正の対数凹列が単峰であること、(2) 内部に零をもたない非負の対数凹列の畳み込みが対数凹であること、(3) 実根だけをもつ多項式の係数が Newton の不等式をみたすこと、を完全に証明する。マトロイドから来る列の対数凹性は Heron–Rota–Welsh予想 で扱う。
実数の有限列 $a=(a_0,\dots,a_d)$ について次のように定める。
超対数凹なら対数凹である。実際、$a_i^2/\binom di^2\ge a_{i-1}a_{i+1}/\bigl(\binom d{i-1}\binom d{i+1}\bigr)$ から
$$
a_i^2\ge a_{i-1}a_{i+1}\cdot\frac{\binom di^2}{\binom d{i-1}\binom d{i+1}}=a_{i-1}a_{i+1}\Bigl(1+\frac1i\Bigr)\Bigl(1+\frac1{d-i}\Bigr)\ge a_{i-1}a_{i+1}
$$
である(最後は $a_{i-1}a_{i+1}\ge0$ による)。
$a=(a_0,\dots,a_d)$ を内部に零をもたない非負の対数凹列とする。
3 の比の単調性.$a$ の項がすべて正なら、$a_i^2\ge a_{i-1}a_{i+1}$ を $a_{i-1}a_i$ で割って $a_i/a_{i-1}\ge a_{i+1}/a_i$ を得る。
1.$a_{x-1}a_{y+1}=0$ なら左辺は $\ge0$ なので成り立つ。そうでなければ $a_{x-1}\neq0$、$a_{y+1}\neq0$ で、内部に零をもたないので $a_{x-1},a_x,\dots,a_{y+1}$ はすべて正である。この範囲に 3 の比の単調性を当てると $a_x/a_{x-1}\ge a_{y+1}/a_y$ であり、分母を払えば $a_xa_y\ge a_{x-1}a_{y+1}$ である。
2.$a$ がすべて $0$ なら単峰である。そうでなければ、$0$ でない項は連続した番号 $s\le i\le t$ に並び、それ以外は $0$ である。$s\le i\le t$ では項は正で、比 $a_{i+1}/a_i$($s\le i< t$)は単調に減少する。$m$ を、比が $1$ 以上である最後の $i$ の次の番号(比がすべて $1$ 未満なら $m=s$)とすると、$a_s\le\dots\le a_m\ge\dots\ge a_t$ であり、その外側は $0$ なので $a$ は単峰である。3 の単峰性は 2 の特別な場合である。$\square$
逆は成り立たない。例えば $(1,1,2)$ は単峰だが $1^2< 1\cdot2$ なので対数凹でない。対数凹性は単峰性より強く、しかも「隣り合う 3 項の不等式」という局所的な条件なので、確かめやすく、帰納法に乗りやすい。
2 つの列の 畳み込み $c=a*b$ を $c_k=\sum_ia_ib_{k-i}$ で定める。多項式でいえば、係数の列の畳み込みは積 $\bigl(\sum a_ix^i\bigr)\bigl(\sum b_jx^j\bigr)$ の係数の列である(畳み込み)。
$a,b$ が内部に零をもたない非負の対数凹列ならば、畳み込み $c=a*b$ も内部に零をもたない非負の対数凹列である。
段 1(Toeplitz 行列による言い換え).整数で番号づけた行列 $T(a):=(a_{j-i})_{i,j\in\mathbb Z}$ を考える(範囲外の番号では $a_n=0$)。$T(a)$ のすべての $2\times2$ 小行列式が非負であることを、$T(a)$ が TP2 であるという。$a$ が内部に零をもたない非負の対数凹列なら $T(a)$ は TP2 であることを示す。行 $i< k$、列 $j< l$ の小行列式は、$u:=j-k$、$s:=k-i>0$、$t:=l-j>0$ とおくと
$$
a_{j-i}a_{l-k}-a_{l-i}a_{j-k}=a_{u+s}a_{u+t}-a_{u+s+t}\,a_u
$$
である。対称性から $s\le t$ としてよい。prop-lc-unimodal の 1 を $x=u+s-m$、$y=u+t+m$($0\le m\le s-1$、$x\le y$)に順に当てると
$$
a_{u+s}a_{u+t}\ge a_{u+s-1}a_{u+t+1}\ge\dots\ge a_ua_{u+s+t}
$$
となり、小行列式は非負である。逆に $T(c)$ が TP2 なら、$s=t=1$ の小行列式から $c$ は対数凹である。
段 2(積の小行列式).$T(c)=T(a)T(b)$ である($(T(a)T(b))_{ij}=\sum_pa_{p-i}b_{j-p}=c_{j-i}$。列は有限なので和は有限和)。一般に、行列 $A,B$ の積 $C=AB$ の行 $i< k$、列 $j< l$ の小行列式は
$$
C_{ij}C_{kl}-C_{il}C_{kj}=\sum_{p< q}\bigl(A_{ip}A_{kq}-A_{iq}A_{kp}\bigr)\bigl(B_{pj}B_{ql}-B_{pl}B_{qj}\bigr)
$$
をみたす(Cauchy–Binet の公式の $2\times2$ の場合。左辺を $\sum_{p,q}A_{ip}A_{kq}(B_{pj}B_{ql}-B_{pl}B_{qj})$ と展開し、$p=q$ の項が消えることと、$p$ と $q$ を入れ替えた項を組にすることで右辺になる)。$T(a)$、$T(b)$ が TP2 なら右辺の各項は非負なので、$T(c)$ は TP2 であり、段 1 により $c$ は対数凹である。
段 3(内部の零).$a$ の $0$ でない項の番号が区間 $[s,t]$、$b$ のそれが $[s',t']$ なら、$c_k$ は非負の項の和で、$s+s'\le k\le t+t'$ のとき $i=\min(t,k-s')$ の項 $a_ib_{k-i}$ が正なので $c_k>0$、それ以外では $c_k=0$ である。よって $c$ は内部に零をもたない。$\square$
$(1,1)$ は対数凹なので、thm-lc-convolution を繰り返し当てると $(1+x)^n$ の係数 $\binom nk$ が対数凹であることが再び分かる。また $(1,3,1)*(1,1)=(1,4,4,1)$ であり、$16\ge4$ で対数凹である。
一方、和は対数凹性を保たない。$(4,1,0)$ と $(0,1,4)$ はどちらも対数凹だが、和 $(4,2,4)$ は $2^2< 4\cdot4$ である。組合せ論に現れる数は削除・縮約のような漸化式で「和」として計算されることが多いため、この性質が対数凹性の証明を難しくする(Huh18 §2.4、p. 8)。
$q$ を次数 $m$ の実係数多項式で、実根だけをもつとする。
1.$q$ の相異なる根を $r_1< \dots< r_s$、重複度を $m_1,\dots,m_s$ とすると $\sum_im_i=m$ である。$q=(x-r_i)^{m_i}h$ と書けば $q'=(x-r_i)^{m_i-1}\bigl(m_ih+(x-r_i)h'\bigr)$ なので、$r_i$ は $q'$ の重複度 $m_i-1$ 以上の根である。また Rolleの定理 により、各区間 $(r_i,r_{i+1})$ に $q'$ の根 $\xi_i$ があり、これは $r_1,\dots,r_s$ と異なる。こうして $q'$ の実根を重複度込みで $\sum_i(m_i-1)+(s-1)=m-1$ 個見つけた。$q'$ は次数 $m-1$ で、代数学の基本定理 により根は重複度込みでちょうど $m-1$ 個なので、根はすべて実数である。
2.$q(x)=c\,x^t\prod_{i=1}^{m-t}(x-\rho_i)$($c\neq0$、$\rho_i$ は $0$ でない実数)と書くと
$$
x^mq(1/x)=c\prod_{i=1}^{m-t}(1-\rho_ix)=c\prod_i(-\rho_i)\cdot\prod_i\bigl(x-\rho_i^{-1}\bigr)
$$
であり、根 $\rho_i^{-1}$ はすべて実数である。$\square$
$p(x)=\sum_{k=0}^da_kx^k$ を実係数の次数 $d$ の多項式で、実根だけをもつとする。$b_k:=a_k/\binom dk$ とおくと、$1\le k\le d-1$ について
$$
b_k^2\ge b_{k-1}b_{k+1}
$$
が成り立つ。特に $a_{k-1}a_{k+1}\ge0$ のとき $a_k^2\ge\bigl(1+\frac1k\bigr)\bigl(1+\frac1{d-k}\bigr)a_{k-1}a_{k+1}$ である。
段 1(係数の計算).$f(x)=\sum_{i=0}^mc_i\binom mix^i$ の $j$ 階導関数($j\le m$)は
$$
f^{(j)}(x)=\frac{m!}{(m-j)!}\sum_{i=0}^{m-j}c_{i+j}\binom{m-j}ix^i
$$
である。実際、$x^{i+j}$ の項は $j$ 回微分すると $\frac{(i+j)!}{i!}x^i$ になり、$\binom m{i+j}\frac{(i+j)!}{i!}=\frac{m!}{(m-j)!}\binom{m-j}i$ である。
段 2(2 次式への帰着).$p=\sum_jb_j\binom djx^j$ に段 1 を $j=k-1$ で当てると、$m:=d-k+1\ge2$ として
$$
q(x):=p^{(k-1)}(x)=\frac{d!}{m!}\sum_{i=0}^mb_{i+k-1}\binom mix^i
$$
である。次に $\tilde q(x):=x^mq(1/x)=\frac{d!}{m!}\sum_{l=0}^mb_{m-l+k-1}\binom mlx^l$ とおき、段 1 を $j=m-2$ で当てると
$$
Q(x):=\tilde q^{(m-2)}(x)=\frac{d!}{2}\bigl(b_{k+1}+2b_kx+b_{k-1}x^2\bigr)
$$
となる($l=m-2,m-1,m$ の係数 $b_{k+1},b_k,b_{k-1}$ が残る)。
段 3(判別式).$Q=0$ なら $b_{k-1}=b_k=b_{k+1}=0$ で主張は成り立つ。$Q\neq0$ とする。このとき途中の多項式 $p,p',\dots,q,\tilde q,\dots,Q$ はどれも $0$ でない。$0$ でない多項式の導関数が $0$ でなければ、その多項式は次数 $1$ 以上なので、lem-lc-rolle の 1 により導関数は実根だけをもつ。反転には同補題の 2 を当てる。したがって $Q$ は実根だけをもつ。$b_{k-1}=0$ なら主張は $b_k^2\ge0$ で明らかである。$b_{k-1}\neq0$ なら $Q$ は実根だけをもつ 2 次式なので、判別式について $4b_k^2-4b_{k-1}b_{k+1}\ge0$ である。
最後の主張は、定義の直後の計算と同じく $\binom dk^2/\bigl(\binom d{k-1}\binom d{k+1}\bigr)=(1+\frac1k)(1+\frac1{d-k})$ による。$\square$
$p(x)=\sum_{k=0}^da_kx^k$ が非負の係数をもち、実根だけをもつならば、係数の列は超対数凹で、内部に零をもたず、したがって対数凹かつ単峰である。
超対数凹であることは thm-lc-newton そのものである。$x>0$ で $p(x)>0$ なので、根はすべて $0$ 以下であり、$p(x)=a_d\prod_i(x+s_i)$($s_i\ge0$、$a_d>0$)と書ける。各因子 $x+s_i$ の係数の列 $(s_i,1)$ は内部に零をもたない非負の対数凹列なので、thm-lc-convolution により積の係数も内部に零をもたない。単峰性は prop-lc-unimodal による。$\square$
Newton の不等式の逆は成り立たない。$1+x+x^2$ の係数 $(1,1,1)$ は対数凹だが、根は虚数である。実際 $b=(1,\frac12,1)$ で $b_1^2=\frac14< 1=b_0b_2$ なので、thm-lc-newton の対偶からも実根だけをもたないことが分かる。
対数凹性が証明された代表的な列を挙げる。いずれもこの記事では証明しない。
| 外す条件・替える条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 対数凹性を単峰性に弱める | $(1,1,2)$ | 単峰だが対数凹でない |
| 内部に零をもたない | $(1,0,0,1)$ | 対数凹だが単峰でない(prop-lc-unimodal) |
| 非負性 | $(1,-1,1)$ | 対数凹だが単峰でない |
| 畳み込みを和に替える | $(4,1,0)+(0,1,4)=(4,2,4)$ | 和は対数凹でない |
| 畳み込みの仮定の「内部に零をもたない」 | $(1,0,0,1)*(1,1)=(1,1,0,1,1)$ | 畳み込みが対数凹でない(thm-lc-convolution) |
| 実根性 | $1+x+x^2$ | 係数は対数凹だが超対数凹でなく、実根をもたない(thm-lc-newton の逆の不成立) |
各行の列が表の性質をもつことを確かめる。
1 行目:$1\le1\le2$ で単峰、$a_1^2=1< 2=a_0a_2$。
2 行目:$a_1^2=0\ge0=a_0a_2$、$a_2^2=0\ge0=a_1a_3$ で対数凹。$1>0< 1$ と下がって上がるので単峰でない。内部の零が prop-lc-unimodal の 1 の証明(比の単調性)を壊している。
3 行目:$(-1)^2=1\ge1\cdot1$ で対数凹。$1>-1< 1$ で単峰でない。
4 行目:$(4,1,0)$ は $1\ge0$、$(0,1,4)$ は $1\ge0$ で対数凹。和は $4< 16$。
5 行目:$(1,0,0,1)$ は 2 行目の列、$(1,1)$ は対数凹。畳み込みは $(1,1,0,1,1)$ で、$a_2^2=0< 1=a_1a_3$。$T((1,0,0,1))$ の小行列式 $a_1a_2-a_3a_0=-1$ が負で、TP2 でない。
6 行目:$1\ge1$ で対数凹。$b=(1,\frac12,1)$ で超対数凹でなく、判別式 $1-4< 0$ で根は虚数である。
注意を 2 つ挙げる。
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