Mathieu群(Mathieu group)とは、Golay 符号から作る Steiner 系 $S(5,8,24)$ と $S(5,6,12)$ の自己同型群 $M_{24}$、$M_{12}$ と、その点の固定部分群 $M_{23}$、$M_{22}$、$M_{11}$ の総称である。$M_{24}$ は 24 点に 5 重推移的、$M_{12}$ は 12 点に鋭く 5 重推移的に作用し、点を数えると $M_{12}$ の位数は $95040$ になり、3 点の固定部分群を $\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ と同定すると同じ数え上げで $M_{24}$ の位数は $244823040$ になる。5 つの Mathieu 群はすべて単純群で、有限単純群のどの無限系列にも属さない散在型単純群の最初の例である。
24 個の点の 5 元部分集合はどれもちょうど 1 つの「オクタッド」(8 元部分集合)に含まれる。この配置 $S(5,8,24)$ は拡大二元 Golay 符号の重み $8$ の符号語から作られ(Golay符号)、点の置換でオクタッドをオクタッドに移すものの全体は、位数 $244823040$ の群になる(この群が Mathieu 群 $M_{24}$ であることは HL13 p. 2、位数は ATLAS の $M_{24}$ の頁。この記事では 3 点の固定部分群の同定を引用して、点を数えてこの位数を導く)。この群は、どの相異なる 5 点の列も他のどの相異なる 5 点の列にも移せる(5 重推移的である)。4 重以上に推移的な有限の置換群で、対称群・交代群以外に知られているのは、この記事の $M_{24}$、$M_{23}$、$M_{12}$、$M_{11}$ だけである(HL13 p. 2)。12 点の $S(5,6,12)$ についても同じことが起こり、こちらは 5 点の列を移す置換がただ 1 つに決まる。
これらの群とその点の固定部分群を Mathieu 群 という。$M_{11},M_{12},M_{22},M_{23},M_{24}$ の 5 つがあり、どれも単純群で、有限単純群のどの無限系列にも属さない 散在型単純群 の最初の例である。
この記事では、Mathieu 群を Steiner系 の自己同型群として定義し、5 重推移性(引用する)から、点・ブロックを数えて位数を計算する(thm-mathieu-m12、thm-mathieu-m24。$M_{24}$ では 3 点の固定部分群が $\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ と同型であること(rem-mathieu-m21)も引用する)。あわせて、オクタッドを点ごとに固定する元が残りの 16 点に自由に作用すること(lem-mathieu-octad-free)と、オクタッドの固定部分群がオクタッドの上に交代群 $A_8$ 以上の群を引き起こすこと(cor-mathieu-octad)を証明する。
$(X,\mathcal B)$ を Steiner 系とする。$X$ の置換 $g$ で、$B\in\mathcal B$ ならば $g(B)\in\mathcal B$ となるものを 自己同型 という。自己同型の全体は合成について対称群 $\mathrm{Sym}(X)$ の部分群をなし、これを $\mathrm{Aut}(X,\mathcal B)$ と書く。
$\mathcal B$ は有限集合で $g$ は $X$ の部分集合の間の単射を引き起こすので、$g(\mathcal B)\subseteq\mathcal B$ なら $g(\mathcal B)=\mathcal B$ であり、$g^{-1}$ も自己同型である。
Steiner系 の節「Golay 符号から作る 2 つの系」の 2 つの系を次のように書く。
$M_{24}=\mathrm{Aut}(W_{24})$、$M_{12}=\mathrm{Aut}(W_{12})$ とおく。点 $\infty\in\Omega_{24}$ の固定部分群 $M_{23}=(M_{24})_\infty$、相異なる 2 点 $\infty,\infty'$ を固定する部分群 $M_{22}=(M_{24})_{\infty,\infty'}$、点 $\infty\in\Omega_{12}$ の固定部分群 $M_{11}=(M_{12})_\infty$ を合わせて Mathieu 群 という。
$M_{24}$ と $M_{12}$ は点の上に推移的に作用する(下の thm-mathieu-transitive)ので、固定する点を取り替えても固定部分群は共役になり、群は同型を除いて点の選び方によらない。また $S(5,8,24)$ と $S(5,6,12)$ は同型を除いてただ 1 つである(HL13 pp. 1–2。この記事では証明しない)ので、どの $S(5,8,24)$ の自己同型群も $M_{24}$ と同型である。
群 $G$ が有限集合 $X$ に作用するとき、$x\in X$ の固定部分群を $G_x$、点ごとに固定する部分群を $G_{x_1,\dots,x_m}$ と書く。$1\le k\le\lvert X\rvert$ について、相異なる $k$ 点の列の全体に $G$ が推移的に作用するとき $k$ 重推移的 といい、さらにその作用で列を固定する元が単位元だけのとき 鋭く $k$ 重推移的 という。
$G$ が $X$ に $k$ 重推移的($k\ge1$)に作用するとき、$x\in X$ について $\lvert G\rvert=\lvert X\rvert\cdot\lvert G_x\rvert$ であり、$k\ge2$ なら $G_x$ は $X\setminus\{x\}$ に $(k-1)$ 重推移的に作用する。鋭く $k$ 重推移的なら、$\lvert G\rvert=\lvert X\rvert(\lvert X\rvert-1)\cdots(\lvert X\rvert-k+1)$ で、$k\ge2$ なら $G_x$ は鋭く $(k-1)$ 重推移的である。
$G$ は $X$ に推移的なので、群の作用 の定理「軌道・安定化群定理」により $\lvert G\rvert=\lvert X\rvert\cdot\lvert G_x\rvert$ である。$X\setminus\{x\}$ の相異なる $k-1$ 点の列 $(a_i)$、$(b_i)$ について、$G$ の $k$ 重推移性から $g(x)=x$、$g(a_i)=b_i$ となる $g$ があり、$g\in G_x$ である。鋭いときは、相異なる $k$ 点の列の全体($\lvert X\rvert(\lvert X\rvert-1)\cdots(\lvert X\rvert-k+1)$ 個)に $G$ が正則に作用するので、軌道・安定化群定理から位数が従い、$G_x$ で $(x,a_1,\dots,a_{k-1})$ を固定する元は単位元だけである。$\square$
$(X,\mathcal B)$ を $S(t,k,v)$($t\ge2$)、$G$ を $\mathrm{Aut}(X,\mathcal B)$ の部分群とする。
1:$g\in G_p$ と $p\in B\in\mathcal B$ について $g(B)$ はブロックで $p=g(p)\in g(B)$ だから、$g(B\setminus\{p\})=g(B)\setminus\{p\}\in\mathcal B_p$ である。$g$ は $p$ を固定するので $X\setminus\{p\}$ の置換を引き起こし、制限は準同型で、制限が恒等写像なら $g$ は $X$ の上でも恒等写像である。
2:ブロック $B,B'$ をとり、それぞれから相異なる $t$ 点の列 $(a_i)$、$(b_i)$ を選ぶ。$t$ 重推移性から $g(a_i)=b_i$ となる $g\in G$ があり、$g(B)$ は $\{b_1,\dots,b_t\}$ を含むブロックだから、定義によりそれは $B'$ である。位数の式は軌道・安定化群定理による。$\square$
1:thm-mathieu-transitive の 2 と lem-mathieu-stabilizer の鋭い場合による。
2:lem-mathieu-stabilizer により $M_{11}=(M_{12})_\infty$ は残りの 11 点に鋭く 4 重推移的で、位数は $95040/12=7920$ である。導来系への作用は lem-mathieu-derived の 1 による。
3:$M_{12}$ は 5 重推移的なので、lem-mathieu-derived の 2 により $\mathcal H$ に推移的で、$\lvert(M_{12})_H\rvert=95040/132=720$ である。$g\in(M_{12})_H$ を $H$ に制限すると準同型 $(M_{12})_H\to\mathrm{Sym}(H)$ が得られる。その核の元は $H$ の 6 点、とくに 5 点を固定するので、鋭い 5 重推移性により単位元である。よってこの準同型は単射で、両辺の位数がともに $720=6!$ なので同型である。$\square$
3 から、ヘキサッドの 6 点をどのように並べ替えても、それを引き起こす $M_{12}$ の元がただ 1 つあることが分かる。
$W_{24}$ の 3 点 $a,b,c$ を固定し、$M_{21}=(M_{24})_{a,b,c}$ とおく。Steiner系 の命題「1 点で切った系」を 3 回使うと、残りの 21 点と、$a,b,c$ を含む 21 個のオクタッドから $a,b,c$ を除いた 5 元集合とは $S(2,5,21)$ をなす。Steiner系 の節「定義」で見たとおり、この系では異なる 2 つのブロックがちょうど 1 点で交わり、位数 $4$ の射影平面と同じ数の点・直線をもつ。lem-mathieu-derived の 1 を 3 回使うと、$M_{21}$ はこの $S(2,5,21)$ に自己同型として忠実に作用する。
$M_{21}$ が射影特殊線形群 $\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ と同型であるとする(下の注意)。このとき
$$
\lvert M_{22}\rvert=443520,\qquad\lvert M_{23}\rvert=10200960,\qquad\lvert M_{24}\rvert=244823040=2^{10}\cdot3^3\cdot5\cdot7\cdot11\cdot23
$$
であり、$M_{23}$ は 23 点に 4 重推移的、$M_{22}$ は 22 点に 3 重推移的に作用する。さらに、相異なる 5 点を固定する部分群の位数は $48$、オクタッドの固定部分群の位数は $322560$ である。
古典群 の命題「有限体上の射影特殊線形群の位数」で $n=3$、$q=4$ とすると
$$
\lvert\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)\rvert=\frac{1}{\gcd(3,3)}\,4^{3}\,(4^2-1)(4^3-1)=\frac{64\cdot15\cdot63}{3}=20160
$$
である。$M_{24}$ は 5 重推移的(thm-mathieu-transitive の 1)なので、lem-mathieu-stabilizer を 3 回使うと、$M_{23}$ は 23 点に 4 重推移的、$M_{22}$ は 22 点に 3 重推移的、$M_{21}$ は 21 点に 2 重推移的で、
$$
\lvert M_{22}\rvert=22\cdot20160=443520,\quad\lvert M_{23}\rvert=23\cdot443520=10200960,\quad\lvert M_{24}\rvert=24\cdot10200960=244823040
$$
である。$5$ 重推移性と軌道・安定化群定理から、5 点を固定する部分群の位数は $244823040/(24\cdot23\cdot22\cdot21\cdot20)=48$ である。lem-mathieu-derived の 2($t=5$)により $M_{24}$ は 759 個のオクタッドに推移的なので、オクタッドの固定部分群の位数は $244823040/759=322560$ である。$\square$
$M_{21}\cong\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ はこの記事では証明しない。$\mathrm{Aut}(W_{24})$ が Mathieu 群 $M_{24}$ であること(HL13 p. 2)のもとで、次のように読める。ATLAS の極大部分群の表では、$M_{24}$ の指数 $24$ の極大部分群が $M_{23}$、$M_{23}$ の指数 $23$ の極大部分群が $M_{22}$、$M_{22}$ の指数 $22$ の極大部分群が $L_3(4)=\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ で、どれもその指数の極大部分群はこれだけである。2 重推移的な作用の点の固定部分群は極大部分群なので(古典群 の補題「2 重推移的な作用の固定部分群は極大」)、これらが順に 1 点の固定部分群にあたる(散在型単純群 の節「Mathieu 群」と同じ読み方)。
$B$ をオクタッドとし、$B$ の 8 点をすべて固定する部分群を $K=(M_{24})_{(B)}$ と書く。
$g\in K$ が $B$ の外の 1 点 $x$ を固定するなら、$g$ は単位元である。したがって $K$ は $B$ の外の 16 点に自由に作用し、$\lvert K\rvert$ は $16$ の約数である。
要点は、$x$ を通る「$B$ と 4 点で交わるオクタッド」の $B$ の外の部分が $g$ で保たれ、それらの共通部分で $B$ の外の各点が切り出せることである。
使う事実:相異なる 2 つのオクタッドの共有点は $0,2,4$ 個(Steiner系 の例「交わりの大きさ」)、相異なる $i$ 点を含むオクタッドは $\lambda_2=77$、$\lambda_3=21$、$\lambda_4=5$、$\lambda_5=1$ 個(Steiner系 の節「パラメータの表」)。
$B$ の 4 元部分集合 $Q$ について、$Q\cup\{x\}$ を含むオクタッド $O_Q$ はただ 1 つである。$O_Q\ne B$ は $B$ と $4$ 点以上を共有するので、共有点はちょうど $Q$ であり、$T_Q:=O_Q\setminus B$ は $x$ を含む 4 元集合である。$g$ は $Q\cup\{x\}$ を点ごとに固定するので $g(O_Q)$ は $Q\cup\{x\}$ を含むオクタッド、すなわち $O_Q$ であり、$g(T_Q)=T_Q$ である。
$B$ の外の点 $y\ne x$ をとる。$x,y$ を含むオクタッドで $B$ と $i$ 点を共有するものの個数を $a_i$($i=0,2,4$)とし、組(オクタッド、$B$ の点)や(オクタッド、$B$ の 2 点)を数えると $a_0+a_2+a_4=77,\quad 2a_2+4a_4=8\cdot21,\quad a_2+6a_4=\binom82\cdot5$ となり、$a_4=14$ である。$B$ と 4 点を共有するオクタッド $O$ は $O=O_{O\cap B}$ なので、$y\in T_Q$ となる $Q$ はちょうど 14 個ある。同様に $B$ の外の相異なる 3 点 $x,y,z$ を含むオクタッドで $B$ と $i$ 点を共有するものの個数 $b_i$ は $b_0+b_2+b_4=21,\quad 2b_2+4b_4=8\cdot5,\quad b_2+6b_4=\binom82\cdot1$ をみたし、$b_4=2$ である。よって $y\in T_Q$ となる 14 個の $Q$ のうち、$z\in T_Q$ となるのは 2 個だけで、14 個の $T_Q$ の共通部分は $\{x,y\}$ である。$g$ は各 $T_Q$ を保つので $\{x,y\}$ を保ち、$g(x)=x$ から $g(y)=y$ となる。$y$ は任意なので $g$ は単位元である。
後半:$K$ の $B$ の外の点の固定部分群は単位元だけなので、軌道・安定化群定理により $B$ の外の 16 点の各軌道の大きさは $\lvert K\rvert$ に等しく、$\lvert K\rvert$ は $16$ を割り切る。$\square$
thm-mathieu-m24 の仮定のもとで、オクタッドの固定部分群 $(M_{24})_B$ を $B$ に制限して得られる $\mathrm{Sym}(B)\cong S_8$ の部分群 $I$ は交代群 $A_8$ を含み、$\lvert K\rvert\ge8$ である。とくに $K$ は単位元だけからなる群ではない。
制限の準同型 $(M_{24})_B\to\mathrm{Sym}(B)$ の核は $K$ なので $\lvert I\rvert=322560/\lvert K\rvert\ge322560/16=20160$ である。$\lvert S_8\rvert=40320$ なので $I$ の指数は $1$ か $2$ であり、交代群 の命題「対称群の指数 2 の部分群」により $I\supseteq A_8$ である。$\lvert I\rvert\le40320$ から $\lvert K\rvert\ge322560/40320=8$ である。$\square$
実際には $I=A_8$、$\lvert K\rvert=16$ で、$(M_{24})_B$ は $2^4{:}A_8$ と書かれる群になる(ATLAS の $M_{24}$ の極大部分群の表。この記事では証明しない)。
thm-mathieu-transitive、thm-mathieu-m12、thm-mathieu-m24 から、5 つの Mathieu 群はすべて単純群であることが、散在型単純群 の判定法で導かれる。$M_{11}$ は 11 点に鋭く 4 重推移的なので、同じ記事の定理「11 点に鋭く 4 重推移的な群は単純」により単純である。$M_{12}$ は 12 点に 2 重推移的で点の固定部分群 $M_{11}$ が単純、$12$ は素数の冪でないので、定理「2 重推移的な群の単純性の判定」により単純である。$M_{22}$ は 22 点に 2 重推移的で、点の固定部分群 $M_{21}\cong\mathrm{PSL}_3(\mathbb F_4)$ が単純(古典群 の定理「射影特殊線形群の単純性」)、$22$ は素数の冪でないので同じ判定法が使え、$M_{23}$ は命題「素数次の推移的な群」($\lvert M_{23}\rvert>23\cdot22$)、$M_{24}$ は再び判定法による。これは 散在型単純群 の系「Mathieu 群の単純性」の議論と同じである。
さらに、5 つの Mathieu 群は素数位数の巡回群・交代群・Lie 型の単純群のどれとも同型でなく、散在型単純群である(散在型単純群 の節「定義」と「26 個の群」。有限単純群の分類によるもので、この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| lem-mathieu-derived の 2 の $t$ 重推移性($t=2$ で 1 重推移に弱める) | $\mathbb F_3^2$ の 9 個の平行移動 $x\mapsto x+u$ がなす群が、9 点と 12 本の直線の $S(2,3,9)$ に作用 | ブロックへの推移性:平行移動は直線の方向を変えないので、方向の違う直線に移らない |
| thm-mathieu-m12 の 3 の核の議論で、固定する点を 5 点から 4 点に減らす | $M_{12}$ で 4 点を点ごとに固定する部分群 | 単位元だけであること:4 重推移性から位数は $95040/(12\cdot11\cdot10\cdot9)=8$ |
| lem-mathieu-octad-free の「$B$ の外の点 $x$ を固定する」 | $K$ の単位元でない元 | 単位元であること:cor-mathieu-octad により $\lvert K\rvert\ge8$ |
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