実数

同義語:real number

概要

実数(real number)とは、上限性質をもつ順序体の元である。実数体は順序体同型を除いて一意で、有理数のDedekind切断や有理Cauchy列の完備化として構成できる。上限と下限の対応、Archimedes性、整数部分の存在、有理数の稠密性を完全証明し、有理数体の不完備性や非Archimedes順序体との違いを説明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理数, 体, 全順序, 上限
実数は、四則演算と大小関係をもち、上に有界な集合に「最小の上界」が必ず存在する数体系である。有理数の間にある切れ目をすべて埋めたものと考えられ、解析学における極限・連続性・微積分の基礎を与える。

定義

順序体

体 $F$ と全順序 $\leq$ の組が 順序体であるとは、任意の $a,b,c\in F$ について
$$ a\leq b\Longrightarrow a+c\leq b+c, $$
および
$$ 0\leq a, 0\leq b\Longrightarrow 0\leq ab $$
が成り立つことをいう。

上限性質

順序体 $F$ が 上限性質をもつとは、空でない部分集合 $A\subseteq F$ が上に有界なら、最小上界 $\sup A\in F$ をもつことをいう。

実数体と実数

上限性質をもつ順序体を 実数体という。一つの実数体を $\mathbb R$ と書き、その元を 実数(real number)という。

実数体は同型を除いて一意である。より正確には、二つの実数体の間には順序と体構造を保つ同型がただ一つ存在する。この一意性により、Dedekind切断から作った実数とCauchy列の同値類から作った実数を、同じ $\mathbb R$ として扱える。存在構成と一意性の詳細は Rud76 第1章および付録を参照されたい。

上限と下限

上限性質は下限の存在も含んでいる。

上限性質と下限性質

上限性質をもつ順序体 $F$ では、空でない部分集合 $A\subseteq F$ が下に有界なら最大下界 $\inf A$ が存在し、
$$ \inf A=-\sup(-A) $$
である。ただし $-A=\{-a\mid a\in A\}$ とする。

$A$ が下に有界なら、ある $l\in F$ がすべての $a\in A$ に対して $l\leq a$ を満たす。従って $-a\leq-l$ なので $-A$ は上に有界である。$s=\sup(-A)$ と置く。
任意の $a\in A$ について $-a\leq s$ だから $-s\leq a$ であり、$-s$ は $A$ の下界である。$m$ が $A$ の任意の下界なら、$m\leq a$ から $-a\leq-m$ が従い、$-m$ は $-A$ の上界である。よって $s\leq-m$、従って $m\leq-s$ である。ゆえに $-s$ は最大下界である。$\blacksquare$

有理数の切れ目

有理数体 $\mathbb Q$ は順序体だが上限性質をもたない。実数体の中で
$$ A=\{q\in\mathbb Q\mid q\geq0, q^2<2\} $$
と置くと、$A$ は $\mathbb Q$ で上に有界だが、$\mathbb Q$ の中には上限をもたない。その切れ目を埋める実数が $\sqrt2$ である。

この例は「有理数が四則演算と順序をもつ」ことだけでは解析に不十分であることを示す。欠けているのは代数演算ではなく完備性である。

Archimedes性

自然数 $n$ は、単位元 $1$ を $n$ 回加えた実数として $\mathbb R$ に埋め込まれている。

Archimedes性

任意の実数 $x$ に対し、$x< n$ となる自然数 $n$ が存在する。

自然数全体が上に有界であると仮定し、$s=\sup\mathbb N$ と置く。$s-1$ は上界でないので、ある $n\in\mathbb N$ が
$$ s-1< n $$
を満たす。すると $s< n+1$ であるが、$n+1\in\mathbb N$ なので、これは $s$ が上界であることに反する。従って $\mathbb N$ は上に有界でない。任意の $x$ に対して $x< n$ となる $n$ が存在する。$\blacksquare$

小さい正数の存在

任意の $\varepsilon>0$ に対し、$0<1/n<\varepsilon$ となる自然数 $n$ が存在する。

Archimedes性を $1/\varepsilon$ に適用し、$1/\varepsilon< n$ となる自然数 $n$ を取る。正数の逆数を取れば $0<1/n<\varepsilon$ となる。$\blacksquare$

Archimedes性は、実数の中にすべての自然数より大きい元がなく、また $0<\varepsilon<1/n$ がすべての自然数 $n\geq1$ について成り立つような正無限小 $\varepsilon$ もないことを表す。一般の順序体にはこの性質がない場合がある。

整数部分と有理数の稠密性

整数部分

任意の $x\in\mathbb R$ に対し
$$ m\leq x< m+1 $$
を満たす整数 $m$ がただ一つ存在する。

Archimedes性により、$x< N$ および $-x< K$ を満たす自然数 $N,K$ が存在する。従って
$$ S=\{n\in\mathbb Z\mid n\leq x\} $$
は $-K\in S$ を含む空でない集合で、$N$ を上界にもつ。$s=\sup S$ と置く。$s-1$ は $S$ の上界でないので、ある $m\in S$ が $s-1< m$ を満たす。$m\leq x$ である。
もし $m+1\leq x$ なら $m+1\in S$ だが、$s< m+1$ となり $s$ が上界であることに反する。従って $x< m+1$ である。
別の整数 $m'$ も $m'\leq x< m'+1$ を満たすとする。$m< m'$ なら整数の離散性から $m+1\leq m'\leq x$ となり $x< m+1$ に反する。$m'< m$ の場合も同様に矛盾するので $m=m'$ である。$\blacksquare$

この整数 $m$ を $\lfloor x\rfloor$ と書き、$x$ の床という。

有理数の稠密性

実数 $x< y$ の間には有理数が存在する。すなわち、ある $q\in\mathbb Q$ が
$$ x< q< y $$
を満たす。

$y-x>0$ なので、Archimedes性により
$$ n(y-x)>1 $$
となる自然数 $n$ を取れる。$m=\lfloor nx\rfloor$ と置けば
$$ m\leq nx< m+1 $$
である。一方、$nx+1< ny$ だから $m+1\leq nx+1< ny$ である。従って
$$ x<\frac{m+1}{n}< y $$
となり、$(m+1)/n$ は有理数である。$\blacksquare$

有理数は実数全体の中で稠密だが、$\mathbb Q\ne\mathbb R$ である。したがって「どの二実数の間にも有理数がある」ことは、すべての実数が有理数だという意味ではない。

構成と完備性

実数を厳密に構成する標準的方法には次の二つがある。

  • Dedekind切断:有理数を下側と上側へ分ける切れ目を一つの実数とする。
  • Cauchy列による完備化:有理Cauchy列 $(a_n),(b_n)$ について、$a_n-b_n\to0$ のとき同値と定め、その同値類を実数とする。ここでの収束は有理数の距離だけで定義されるので、構成前の実数や実数極限を仮定しない。
    どちらの構成でも四則演算と順序を定め、上限性質を証明する必要がある。最終的に得られる順序体は一意性定理により同型になる。
    上限性質からは、単調収束定理、区間縮小法、Cauchy列の収束など、解析で用いる他の完備性原理が導かれる。逆向きは一般の順序体ではArchimedes性などの仮定を確認する必要があるが、実数の通常の公理系ではこれらを同値な完備性原理として扱える。従って実数の「隙間がない」という性質は、問題に応じて複数の形で現れる。

例と反例

有理数と無理数

$-3,0,2/5$ は有理数であり、従って実数である。$\sqrt2$ と $\pi$ は有理数でない実数、すなわち無理数である。実数は有理数と無理数にちょうど分かれる。

非Archimedes順序体

実係数有理関数体 $\mathbb R(t)$ に、$t$ をすべての実定数より大きい正元とする順序を入れることができる。この順序体では $t>n$ がすべての自然数 $n$ について成り立つためArchimedes的でなく、実数体ではない。順序体であることだけから実数の性質は従わない。

完備性と代数的閉性

$\mathbb R$ は順序について完備だが代数的閉体ではない。方程式 $x^2+1=0$ は実数解をもたない。順序の隙間を埋める完備性と、すべての多項式を分解する代数的閉性は別の性質である。

関連項目

参考文献

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