Stirlingの公式

同義語:Stirling の公式Stirling's formulaStirlingの近似Stirling's approximation

概要

Stirlingの公式(Stirling's formula)とは、階乗の大きさを表す漸近式 $n!\sim\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$ である。記号 $\sim$ は両辺の比が $n\to\infty$ で $1$ に近づくことを意味し、差は $0$ に近づかない。たとえば $10!=3628800$ に対して右辺は $3598695.6\ldots$ で、比は $1.0083\ldots$ である。すべての $n\geq1$ で比は $e^{1/(12n+12)}$ と $e^{1/(12n)}$ の間にあり、初等的には $\log n!$ から主要部分を引いた数列の単調性と Wallis の積から証明できる。中央の二項係数の漸近式 $\binom{2n}{n}\sim4^n/\sqrt{\pi n}$ など、組合せ論や確率の評価に広く使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 階乗, 数列の極限, 対数関数, 平均値の定理, 部分積分

動機と具体例

階乗 $n!=1\cdot2\cdots n$ は急速に大きくなる。$10!=3628800$、$20!=2432902008176640000$ であり、$100!$ は 158 桁の数である。Stirling の公式(Stirling's formula)は、この大きさを簡単な式
$$ n!\sim\sqrt{2\pi n}\,\Bigl(\frac ne\Bigr)^n $$
で近似する($e=2.71828\ldots$ はNapier数)。たとえば $n=10$ では右辺は $3598695.6\ldots$ で、$10!$ との比は $1.0083\ldots$ である。誤差は 1% に満たない。$n$ を大きくすると比は $1$ に近づき、$n=100$ では $1.00083\ldots$ になる。

$n$$1$$2$$5$$10$$20$$100$
$n!/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)$$1.0844\ldots$$1.0422\ldots$$1.0167\ldots$$1.00836\ldots$$1.00417\ldots$$1.000833\ldots$

比は $1+\frac1{12n}$ に近く、$n=10$ では $1+\frac1{120}=1.00833\ldots$ とよく合う。一方で差 $n!-\sqrt{2\pi n}(n/e)^n$ は小さくならない。$n=10$ で約 $30104$、$n=20$ で約 $1.0\times10^{16}$ と、むしろ急速に大きくなる(ex-stirling-difference)。Stirling の公式が主張するのは差ではなく比の近さである。
公式の中に円周率 $\pi$ が現れるのは意外に見えるが、証明では $\pi$ を含む Wallis の積(lem-stirling-wallis)を通って入ってくる。組合せ論の Stirling数 は同じ人名をもつ別の概念である。
比が $1$ に近づくという意味を定義として述べておく。

漸近的に等しい数列

正の数の列 $(a_n)$、$(b_n)$ について、$\lim_{n\to\infty}a_n/b_n=1$ となるとき $a_n\sim b_n$ と書き、$a_n$ と $b_n$ は漸近的に等しいという。

$a_n\sim b_n$ は $a_n-b_n\to0$ を意味しない。たとえば $a_n=n^2+n$、$b_n=n^2$ なら $a_n/b_n\to1$ だが $a_n-b_n=n\to\infty$ である。

証明の準備

本記事では次の形で Stirling の公式を証明する。

すべての整数 $n\geq1$ について $\displaystyle e^{1/(12n+12)}<\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n}< e^{1/(12n)}$ であり、特に $n!\sim\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$ である(thm-stirling)。
証明は 2 段に分かれる。まず $n!/\bigl(\sqrt n\,(n/e)^n\bigr)$ がある正の定数 $K$ に収束することを、対数をとった数列の単調性で示す(prop-stirling-monotone)。次に、その定数が $K=\sqrt{2\pi}$ であることを Wallis の積で決める。以下 $\log$ は自然対数関数である。

対数の不等式

対数の2つの評価

$0< x<1$ のとき
$$ 2x+\frac{2x^3}{3}<\log\frac{1+x}{1-x}<2x+\frac{2x^3}{3(1-x^2)} $$
が成り立つ。

差を微分して符号を見る

$L(x):=\log\frac{1+x}{1-x}=\log(1+x)-\log(1-x)$ は $[0,1)$ 上で微分可能で、$L(0)=0$、$L'(x)=\frac1{1+x}+\frac1{1-x}=\frac{2}{1-x^2}$ である。
左側:$u(x):=L(x)-2x-\frac{2x^3}3$ とおくと $u(0)=0$ で、
$$ u'(x)=\frac2{1-x^2}-2-2x^2=\frac{2-2(1-x^2)-2x^2(1-x^2)}{1-x^2}=\frac{2x^4}{1-x^2}>0\quad(0< x<1) $$
である。
右側:$v(x):=2x+\frac{2x^3}{3(1-x^2)}-L(x)$ とおくと $v(0)=0$ である。$\frac{d}{dx}\frac{x^3}{1-x^2}=\frac{3x^2(1-x^2)+2x^4}{(1-x^2)^2}=\frac{3x^2-x^4}{(1-x^2)^2}$ なので
$$ v'(x)=2+\frac{2(3x^2-x^4)}{3(1-x^2)^2}-\frac2{1-x^2}=\frac{6(1-x^2)^2+2(3x^2-x^4)-6(1-x^2)}{3(1-x^2)^2}=\frac{4x^4}{3(1-x^2)^2}>0\quad(0< x<1) $$
である(分子を展開すると $6-12x^2+6x^4+6x^2-2x^4-6+6x^2=4x^4$)。
$u$ と $v$ は $[0,1)$ 上で連続、$(0,1)$ 上で導関数が正である。平均値の定理により、$0< x<1$ に対してある $c\in(0,x)$ で $u(x)=u(x)-u(0)=u'(c)\,x>0$ であり($v$ も同様に $v(x)=v'(c')\,x>0$)、$0< x<1$ で $u(x)>0$、$v(x)>0$ である。

単調な数列による定数の存在

$n\geq1$ に対し
$$ d_n:=\log n!-\Bigl(n+\frac12\Bigr)\log n+n $$
とおく。$e^{d_n}=\dfrac{n!}{\sqrt n\,(n/e)^n}$ である。たとえば $d_1=1$、$d_2=0.9602\ldots$、$d_{10}=0.9272\ldots$、$d_{100}=0.9197\ldots$ と減っていく。

対数の数列の単調性

すべての $n\geq1$ について
$$ \frac1{12}\Bigl(\frac1{n+1}-\frac1{n+2}\Bigr)< d_n-d_{n+1}<\frac1{12}\Bigl(\frac1n-\frac1{n+1}\Bigr) $$
が成り立つ。したがって $(d_n)$ は狭義単調減少で、ある実数 $C$ に収束し、すべての $n\geq1$ で
$$ \frac1{12(n+1)}< d_n-C<\frac1{12n} $$
である。

隣り合う差を対数の評価で挟む

$\log(n+1)!-\log n!=\log(n+1)$ を使って計算すると
$$ d_n-d_{n+1}=\Bigl(n+\frac12\Bigr)\log\frac{n+1}n-1 $$
である。$x:=\frac1{2n+1}$ とおくと $0< x<1$、$\frac{1+x}{1-x}=\frac{2n+2}{2n}=\frac{n+1}n$、$n+\frac12=\frac1{2x}$ なので、$d_n-d_{n+1}=\frac1{2x}L(x)-1$ である($L$ は prf-stirling-log-bounds の関数)。lem-stirling-log-bounds を $2x$ で割ると
$$ \frac{x^2}3< d_n-d_{n+1}<\frac{x^2}{3(1-x^2)} $$
を得る。$1-x^2=\frac{(2n+1)^2-1}{(2n+1)^2}=\frac{4n(n+1)}{(2n+1)^2}$ なので右辺は $\frac1{12n(n+1)}=\frac1{12}\bigl(\frac1n-\frac1{n+1}\bigr)$ である。左辺は $\frac1{3(2n+1)^2}$ で、$(2n+1)^2=4n^2+4n+1<4n^2+12n+8=4(n+1)(n+2)$ より $\frac1{12(n+1)(n+2)}=\frac1{12}\bigl(\frac1{n+1}-\frac1{n+2}\bigr)$ より大きい。
左の不等式から $d_n>d_{n+1}$ なので $(d_n)$ は狭義単調減少である。右の不等式から $d_n-\frac1{12n}< d_{n+1}-\frac1{12(n+1)}$ なので $\bigl(d_n-\frac1{12n}\bigr)$ は狭義単調増加で、$d_n>d_n-\frac1{12n}\geq d_1-\frac1{12}=\frac{11}{12}$ である。下に有界な単調減少列は収束する(上限と下限 の記事の定理「単調有界数列の収束」)ので、$C:=\lim d_n$ が存在する。
$m>n$ として $k=n,\dots,m-1$ について不等式を足し合わせると、和が隣り合う項の差の和になって
$$ \frac1{12}\Bigl(\frac1{n+1}-\frac1{m+1}\Bigr)< d_n-d_m<\frac1{12}\Bigl(\frac1n-\frac1m\Bigr) $$
となる。$m\to\infty$ とすると、すべての $n\geq1$ で $\frac1{12(n+1)}\leq d_n-C\leq\frac1{12n}$ を得る。等号が成り立たないことを見るために、$d_n-C=(d_n-d_{n+1})+(d_{n+1}-C)$ と分け、第 1 項に最初の真の不等式を、第 2 項にいま得た不等式を $n+1$ について使うと
$$ d_n-C>\frac1{12}\Bigl(\frac1{n+1}-\frac1{n+2}\Bigr)+\frac1{12(n+2)}=\frac1{12(n+1)},\qquad d_n-C<\frac1{12}\Bigl(\frac1n-\frac1{n+1}\Bigr)+\frac1{12(n+1)}=\frac1{12n} $$
となる。

実際に計算すると $C=0.9189385\ldots$ であり、これは $\log\sqrt{2\pi}=0.9189385\ldots$ に一致する。これを証明するのが次の節である。

Wallis の積

Wallisの積

$$ W_n:=\prod_{k=1}^{n}\frac{(2k)^2}{(2k-1)(2k+1)}=\frac21\cdot\frac23\cdot\frac43\cdot\frac45\cdots\frac{2n}{2n-1}\cdot\frac{2n}{2n+1} $$
とおくと $\lim_{n\to\infty}W_n=\dfrac\pi2$ である。また $W_n=\dfrac{(2^nn!)^4}{\bigl((2n)!\bigr)^2(2n+1)}$ である。

正弦の冪の積分を比べる

$I_n:=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx$($n\geq0$)とおく。$I_0=\frac\pi2$、$I_1=1$ である。$n\geq2$ のとき、$\sin^nx=\sin^{n-1}x\cdot\sin x$ として部分積分を使うと
$$ I_n=\Bigl[-\sin^{n-1}x\cos x\Bigr]_0^{\pi/2}+(n-1)\int_0^{\pi/2}\sin^{n-2}x\cos^2x\,dx=(n-1)(I_{n-2}-I_n) $$
($\cos^2x=1-\sin^2x$ を使った)なので、$I_n=\frac{n-1}nI_{n-2}$ である。これを繰り返すと
$$ I_{2n}=\frac{1\cdot3\cdots(2n-1)}{2\cdot4\cdots(2n)}\cdot\frac\pi2,\qquad I_{2n+1}=\frac{2\cdot4\cdots(2n)}{3\cdot5\cdots(2n+1)} $$
となり、$\dfrac{I_{2n}}{I_{2n+1}}=\dfrac\pi2\cdot\dfrac1{W_n}$ である($W_n$ の分子は $(2\cdot4\cdots2n)^2$、分母は $(1\cdot3\cdots(2n-1))\cdot(3\cdot5\cdots(2n+1))$)。
$0\leq x\leq\frac\pi2$ で $0\leq\sin x\leq1$ なので $\sin^{m+1}x\leq\sin^mx$ であり、$I_{2n+1}\leq I_{2n}\leq I_{2n-1}$ である。$I_{2n+1}>0$ で割ると
$$ 1\leq\frac{I_{2n}}{I_{2n+1}}\leq\frac{I_{2n-1}}{I_{2n+1}}=\frac{2n+1}{2n} $$
となり、はさみうちの原理により $I_{2n}/I_{2n+1}\to1$、すなわち $W_n\to\frac\pi2$ である。
最後の式は、$2\cdot4\cdots(2n)=2^nn!$、$1\cdot3\cdots(2n-1)=\frac{(2n)!}{2^nn!}$、$3\cdot5\cdots(2n+1)=\frac{(2n+1)!}{2^nn!}$ を $W_n$ に代入し、$(2n+1)!=(2n+1)\cdot(2n)!$ を使えば得られる。

収束は遅く、$W_1=1.333\ldots$、$W_{10}=1.5338\ldots$、$W_{100}=1.5668\ldots$ に対して $\pi/2=1.5707\ldots$ である。

定理

Stirlingの公式

すべての整数 $n\geq1$ について
$$ \exp\Bigl(\frac1{12n+12}\Bigr)<\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n}<\exp\Bigl(\frac1{12n}\Bigr) $$
が成り立つ。特に
$$ n!\sim\sqrt{2\pi n}\,\Bigl(\frac ne\Bigr)^n\qquad(n\to\infty) $$
である。

Wallis の積で定数を決める

prop-stirling-monotone の $d_n$ と極限 $C$ を使う。$n!=e^{d_n}\sqrt n\,(n/e)^n$、$(2n)!=e^{d_{2n}}\sqrt{2n}\,(2n/e)^{2n}$ を lem-stirling-wallis の $W_n$ の式に代入する。
$$ (2^nn!)^4=2^{4n}e^{4d_n}n^2\Bigl(\frac ne\Bigr)^{4n},\qquad\bigl((2n)!\bigr)^2=e^{2d_{2n}}\cdot2n\cdot2^{4n}\Bigl(\frac ne\Bigr)^{4n} $$
なので
$$ W_n=\frac{(2^nn!)^4}{\bigl((2n)!\bigr)^2(2n+1)}=e^{4d_n-2d_{2n}}\cdot\frac{n}{2(2n+1)} $$
である。$n\to\infty$ とすると $d_n\to C$、$d_{2n}\to C$、$\frac n{2(2n+1)}\to\frac14$ なので右辺は $e^{2C}/4$ に収束し、左辺は lem-stirling-wallis により $\pi/2$ に収束する。よって $e^{2C}=2\pi$、すなわち $e^C=\sqrt{2\pi}$ である。
prop-stirling-monotone の $\frac1{12(n+1)}< d_n-C<\frac1{12n}$ の各辺の指数関数をとると、$e^{d_n-C}=\dfrac{n!}{\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n}$ なので主張の不等式を得る。両側の $\exp$ は $n\to\infty$ で $1$ に収束するので、はさみうちの原理により比は $1$ に収束する。

証明の筋は次のとおりである。$\log n!$ から主要な部分 $(n+\frac12)\log n-n$ を引いた残り $d_n$ は、隣り合う項の差が $\frac1{12n^2}$ 程度しかなく、収束する。その極限は $\log n!$ の大きさだけからは決まらないが、階乗の比で書ける別の量(Wallis の積)の極限 $\pi/2$ と比べると決まる。
上界 $e^{1/(12n)}$ は精密で、$n=10$ では比 $1.0083653\ldots$ に対して $e^{1/120}=1.0083681\ldots$ である。下界は Robbins による $e^{1/(12n+1)}$ まで改良できる(rem-stirling-robbins)。上界の形 $1< n!/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)< e^{1/(12n)}$ は Conr §4 の Example 4.2 でも使われている。

対数の形

すべての整数 $n\geq1$ について
$$ \log n!=n\log n-n+\frac12\log(2\pi n)+\frac{\theta_n}{12n},\qquad\frac n{n+1}<\theta_n<1 $$
となる実数 $\theta_n$ がある。

定理の対数をとる

thm-stirling の不等式の各辺の対数をとると $\frac1{12(n+1)}<\log n!-n\log n+n-\frac12\log(2\pi n)<\frac1{12n}$ となる。中辺を $\frac{\theta_n}{12n}$ とおけばよい。

$\log n!$ の主要項は $n\log n-n$ であり、$\frac12\log(2\pi n)$ はその次の項にあたる。階乗 の記事の命題「対数の積分表示」は、より粗い評価 $e(n/e)^n< n!< en(n/e)^n$($n\geq2$)を積分から導いている。$\log n!=n\log n-n+\frac12\log n+O(1)$ という弱い形は Sho08 の Exercise 5.15(p. 114)で Stirling の近似の弱い形として扱われている。Mos11 第 3 章(p. 20)は、素数の個数の評価には Stirling の公式ほどの精度は要らないとして、より簡単な $n^ne^{-n}< n!< n^n$(Lemma 1)を使っている。

例と反例

100の階乗の桁数

$\log_{10}100!$ を cor-stirling-log で計算する。$S:=\log_{10}\bigl(\sqrt{200\pi}\,(100/e)^{100}\bigr)=157.96964\ldots$ であり、誤差 $\log_{10}100!-S$ は $0$ より大きく $\frac1{1200\log10}=0.00036\ldots$ より小さい。したがって $157<\log_{10}100!<158$ であり、$100!$ は $158$ 桁である(直接計算しても $158$ 桁、$\log_{10}100!=157.97000\ldots$)。同じ議論は Conr Example 4.2 にある。

反例:差は0に近づかない

$A_n:=\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$ とおくと $n!/A_n\to1$ であるが、差 $n!-A_n$ は $0$ に近づかず、$+\infty$ に発散する。実際、thm-stirling と $e^t>1+t$($t>0$)から
$$ n!-A_n=A_n\Bigl(\frac{n!}{A_n}-1\Bigr)>A_n\bigl(e^{1/(12n+12)}-1\bigr)>\frac{A_n}{12(n+1)} $$
であり、$n\geq6$ では $n/e>2$ より $A_n>2^n$ なので、右辺は $2^n/(12(n+1))\to\infty$ より大きい。数値では $n=10$ で差は $30104.38\ldots$、$n=20$ で $1.01\ldots\times10^{16}$ である。「漸近的に等しい $\Rightarrow$ 差が $0$ に近づく」という含意は、Stirling の公式では成り立たない。近似の良さは差ではなく比(相対誤差)で測られている。

公平な硬貨を投げたときの表の回数

公平な硬貨を $2n$ 回投げてちょうど $n$ 回表が出る確率は $\binom{2n}n/4^n$ である。下の cor-stirling-central-binomial により、これは $1/\sqrt{\pi n}$ と漸近的に等しい。$n=50$(100 回投げる)では正確な値 $0.079589\ldots$ に対して $1/\sqrt{50\pi}=0.079788\ldots$ である。表と裏がちょうど半々になる確率は、最も起こりやすい結果であるにもかかわらず 8% ほどしかなく、$n$ を大きくすると $1/\sqrt n$ の速さで $0$ に近づく。

帰結

中央の二項係数

$$ \binom{2n}n\sim\frac{4^n}{\sqrt{\pi n}}\qquad(n\to\infty) $$
である。

3つの階乗にStirlingの公式を使う

prf-stirling と同じ記号で $\binom{2n}n=\frac{(2n)!}{(n!)^2}$ に $n!=e^{d_n}\sqrt n(n/e)^n$、$(2n)!=e^{d_{2n}}\sqrt{2n}(2n/e)^{2n}$ を代入すると
$$ \binom{2n}n=e^{d_{2n}-2d_n}\cdot\frac{\sqrt{2n}\,2^{2n}(n/e)^{2n}}{n\,(n/e)^{2n}}=e^{d_{2n}-2d_n}\cdot\frac{\sqrt2\cdot4^n}{\sqrt n} $$
である。$e^{d_{2n}-2d_n}\to e^{-C}=1/\sqrt{2\pi}$ なので、$\binom{2n}n\Big/\dfrac{4^n}{\sqrt{\pi n}}=e^{d_{2n}-2d_n}\sqrt{2\pi}\to1$ である。

$n=10$ では $\binom{20}{10}=184756$、$4^{10}/\sqrt{10\pi}=187078.9\ldots$ で、比は $0.9875\ldots$ である。Mos11 第 3 章(p. 21)は、素数の個数の評価に使う粗い不等式 $\binom{2n}n<4^n$ を述べたあと、Stirling の公式からこの漸近式が得られることを注意している。Bog の Problem 46(p. 19)は、$2n$ 元集合の部分集合のうち $n$ 元のものの割合がおよそ $1/\sqrt{\pi n}$ であることを Stirling の公式から導く問題である。組合せ論では Catalan数 $\frac1{n+1}\binom{2n}n\sim\frac{4^n}{n^{3/2}\sqrt\pi}$ や Ramsey 数の評価(KT17 §11.3、p. 231)にも同じ使い方が現れる。

補足

Robbinsの評価と高次の補正

下界は $e^{1/(12n+1)}< n!/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)$ まで改良できる(Robbins の評価、Rob55)。本記事の prop-stirling-monotone では $d_n-d_{n+1}$ の下界を $\frac1{3(2n+1)^2}$ で止めたが、lem-stirling-log-bounds の左側を $\log\frac{1+x}{1-x}$ の冪級数展開のより多くの項で置き換えると改良できる。さらに比 $n!/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)$ は $1+\frac1{12n}+\frac1{288n^2}-\cdots$ という $1/n$ の冪の漸近展開をもつ(階乗 の記事の注意「高次の補正」)。

$\Gamma$ 関数への拡張

Γ関数は $\Gamma(n+1)=n!$ を満たし、実数 $x\to\infty$ についても $\Gamma(x+1)\sim\sqrt{2\pi x}\,(x/e)^x$ が成り立つ(Γ関数 の記事の定理「Stirling の漸近公式」とその出典)。Conr §3 は、$n!=\int_0^\infty x^ne^{-x}\,dx$ に変数変換 $x=n+\sqrt n\,t$ を施し、正規分布の密度 $e^{-t^2/2}$ の積分 $\sqrt{2\pi}$ から定数を得る別の証明を与えている。この証明では $\sqrt{2\pi}$ は Wallis の積ではなく Gauss 積分から入る。

名前と歴史

Conr §5 によれば、この近似は 1720 年代の de Moivre と Stirling のやりとりから生まれた。de Moivre は二項分布の正規近似の研究で $\binom{2n}n/4^n$ の近似を定数を除いて得ており、Stirling は著書 Methodus Differentialis(1730)で $\log n!$ の近似式の定数が $\log\sqrt{2\pi}$ であることを(証明なしに)示した。de Moivre は Wallis の積を用いて $\binom{2n}n/4^n\sim1/\sqrt{\pi n}$ を証明した。

関連項目

参考文献

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