局所コンパクト群のユニタリ表現(unitary representations of locally compact groups)とは、局所コンパクト群をHilbert空間上のユニタリ作用素として強連続に表す理論である。Haar測度と群環、表現の積分形、正定値関数からの巡回表現、既約性、コンパクト群に対するPeter--Weyl分解を結び、Fourier解析と作用素環論の共通基盤を与える。
前提知識: 位相群, 局所コンパクト空間, Hilbert空間, Radon測度
局所コンパクト群のユニタリ表現は、群の積と位相をHilbert空間上のユニタリ作用素として同時に表す。有限群の表現論とFourier解析を同じ枠内に置く理論であり、Haar測度を使うと群上の関数を作用素へ積分できる。正定値関数からは巡回表現を再構成でき、コンパクト群ではPeter--Weylの定理が有限群に似た離散的な分解を与える。
本記事では見取り図と基本的な接続を扱う。Haar測度の構成、抽象 $C^*$-環上のGNS構成、Banach環のスペクトル理論、可換群のPontryagin双対性は、それぞれ独立した理論であるため詳細を重複させない。
以下、$G$ は局所コンパクトHausdorff群とする。
$G$ 上の零でない正のRadon測度 $\mu$ が、任意のBorel集合 $E\subset G$ と $g\in G$ に対して
$$
\mu(gE)=\mu(E)
$$
を満たすとき、$\mu$ を左Haar測度という。
任意の局所コンパクトHausdorff群は左Haar測度をもつ。二つの左Haar測度 $\mu$、$\nu$ に対しては、ある定数 $c>0$ が存在して $\nu=c\mu$ となる。F16 Theorems 2.10 and 2.20。
非可換群では、二重積分中の $y^{-1}x$ と $x^{-1}y$ を対称性だけで交換できない。また右平行移動は左Haar測度を一般には保存しない。したがって一意性を示す際、左不変性だけで右平行移動の変数変換を行ってはいけない。本記事ではこの繊細な証明を再構成せず、上の出典へ委ねる。
左Haar測度 $\mu$ を固定する。各 $g\in G$ に対して一意な $\Delta(g)>0$ が存在し、
$$
\int_G f(xg)\,d\mu(x)
=\Delta(g)^{-1}\int_G f(x)\,d\mu(x)
$$
が $f\in C_c(G)$ について成り立つ。この規約で定まる連続準同型
$$
\Delta:G\longrightarrow\mathbb R_{>0}
$$
をモジュラー関数という。$\Delta\equiv1$ のとき $G$ をユニモジュラー群という。
コンパクト群、離散群、可換局所コンパクト群はユニモジュラーである。コンパクト群ではHaar測度を $\mu(G)=1$ と一意に正規化できる。離散群では数え上げ測度、$\mathbb R^n$ の加法群ではLebesgue測度がHaar測度である。
$f,h\in L^1(G,\mu)$ に対し
$$
(f*h)(x):=\int_G f(y)h(y^{-1}x)\,d\mu(y),
$$
$$
f^*(x):=\Delta(x^{-1})\overline{f(x^{-1})}
$$
と定める。この積と対合により $L^1(G)$ はBanach $*$-環になる。
$G$ が離散群なら $\delta_e$ が $L^1(G)$ の単位元である。非離散群では $L^1(G)$ は一般に単位元をもたず、近似単位元を使う。したがって、単位元の像を巡回ベクトルとする単位的GNS構成を、そのまま非離散群の $L^1(G)$ に適用してはならない。
複素Hilbert空間 $\mathcal H$ 上のユニタリ群を $\mathcal U(\mathcal H)$ とする。準同型
$$
\pi:G\longrightarrow\mathcal U(\mathcal H)
$$
が、すべての $\xi\in\mathcal H$ について写像 $g\mapsto\pi(g)\xi$ がノルム連続であるとき、$\pi$ を強連続ユニタリ表現という。
$\xi,\eta\in\mathcal H$ に対し
$$
\pi_{\xi,\eta}(g):=\langle\xi,\pi(g)\eta\rangle
$$
を $\pi$ の行列係数という。ここでは内積を第2変数について線形とする。$\operatorname{span}\{\pi(g)\xi:g\in G\}$ が稠密であるとき $\xi$ を巡回ベクトルという。$\{0\}$ と $\mathcal H$ 以外に閉不変部分空間をもたない表現を既約という。
ユニタリ表現 $\pi$ について、すべての $\xi\in\mathcal H$ に対する対角行列係数
$$
g\longmapsto\langle\xi,\pi(g)\xi\rangle
$$
が単位元 $e$ で連続なら、$\pi$ は強連続である。
$g\to e$ のとき、ユニタリ性から
$$
\begin{aligned}
\|\pi(g)\xi-\xi\|^2
&=\|\pi(g)\xi\|^2+\|\xi\|^2
-2\operatorname{Re}\langle\xi,\pi(g)\xi\rangle\\
&=2\|\xi\|^2
-2\operatorname{Re}\langle\xi,\pi(g)\xi\rangle
\longrightarrow0.
\end{aligned}
$$
従って軌道写像は $e$ で連続である。任意の $g_0\in G$ に対して
$$
\|\pi(g)\xi-\pi(g_0)\xi\|
=\|\pi(g_0^{-1}g)\xi-\xi\|
$$
なので $g_0$ でも連続である。
左Haar測度に関する $L^2(G)$ 上で
$$
(\lambda(g)\xi)(x):=\xi(g^{-1}x)
$$
と定めると、$\lambda$ は強連続ユニタリ表現になる。これを左正則表現という。
左不変性と変数変換 $y=g^{-1}x$ により
$$
\|\lambda(g)\xi\|_2^2
=\int_G|\xi(g^{-1}x)|^2\,d\mu(x)
=\int_G|\xi(y)|^2\,d\mu(y)
$$
である。また $\lambda(g)\lambda(h)=\lambda(gh)$、$\lambda(g)^{-1}=\lambda(g^{-1})$ なので各 $\lambda(g)$ はユニタリである。
$\xi\in C_c(G)$ なら、$g\to e$ のとき $\xi(g^{-1}x)\to\xi(x)$ が各点で成り立つ。$e$ の相対コンパクトな近傍内で $g$ を動かせば、差の台は一つのコンパクト集合に含まれ、被積分関数は $4\|\xi\|_\infty^2$ で抑えられる。優収束定理から $\|\lambda(g)\xi-\xi\|_2\to0$ である。$C_c(G)$ は $L^2(G)$ で稠密であり、$\lambda(g)$ の作用素ノルムは常に $1$ なので、近似により任意の $\xi\in L^2(G)$ について同じ結論が従う。
$\pi$ を強連続ユニタリ表現とする。$f\in L^1(G)$ に対し
$$
\pi(f)\xi:=\int_G f(g)\pi(g)\xi\,d\mu(g)
$$
と定める。右辺はHilbert空間値のBochner積分である。これを $\pi$ の積分形という。
任意の $f\in L^1(G)$ に対して
$$
\|\pi(f)\|\leq\|f\|_{L^1(G)}.
$$
さらに $\pi(f*h)=\pi(f)\pi(h)$、$\pi(f^*)=\pi(f)^*$ が成り立つ。従って積分形は $L^1(G)$ の有界 $*$-表現である。
$\|\pi(g)\xi\|=\|\xi\|$ なので、Bochner積分の三角不等式から
$$
\|\pi(f)\xi\|
\leq\int_G|f(g)|\|\pi(g)\xi\|\,d\mu(g)
=\|f\|_1\|\xi\|
$$
を得る。ゆえに作用素ノルムの評価が従う。積の等式はFubiniの定理と
$$
\pi(g)\pi(h)=\pi(gh)
$$
を用い、変数 $x=gh$ を入れれば得られる。随伴の等式は
$$
\langle\pi(g^{-1})\xi,\eta\rangle
=\langle\xi,\pi(g)\eta\rangle
$$
と反転写像におけるHaar測度の変換公式を用いる。この変換公式に現れるモジュラー関数が、$f^*(x)=\Delta(x^{-1})\overline{f(x^{-1})}$ という定義に正確に対応する。
強連続ユニタリ表現の積分形は $L^1(G)$ の非退化な有界 $*$-表現である。逆に、$L^1(G)$ の非退化な有界 $*$-表現からは一意な強連続ユニタリ表現が復元される。この二つの操作はユニタリ同値を保ち、互いに逆である。F16 Chapter 3。
非退化性は $\overline{\pi(L^1(G))\mathcal H}=\mathcal H$ を意味する。一つのベクトルの軌道が稠密になる巡回性より弱い。特に、非単位的な $L^1(G)$ の表現について近似単位元の極限が自動的に一つの巡回ベクトルを与えるとは限らない。
関数 $\varphi:G\to\mathbb C$ が正定値であるとは、任意の $m\geq1$、$g_1,\ldots,g_m\in G$、$c_1,\ldots,c_m\in\mathbb C$ に対して
$$
\sum_{i,j=1}^m\overline{c_i}c_j
\varphi(g_i^{-1}g_j)\geq0
$$
となることをいう。
正定値関数 $\varphi$ は
$$
\varphi(e)\geq0,\qquad
\varphi(g^{-1})=\overline{\varphi(g)},\qquad
|\varphi(g)|\leq\varphi(e)
$$
を満たす。特に $\varphi(e)=0$ なら $\varphi=0$ である。
$m=1$、$g_1=e$ とすれば $\varphi(e)\geq0$ である。$m=2$、$g_1=e$、$g_2=g$ とすると、行列
$$
\begin{pmatrix}
\varphi(e)&\varphi(g)\\
\varphi(g^{-1})&\varphi(e)
\end{pmatrix}
$$
が半正定値である。半正定値行列はHermite行列なので $\varphi(g^{-1})=\overline{\varphi(g)}$ であり、その行列式が非負であることから
$$
\varphi(e)^2-|\varphi(g)|^2\geq0
$$
を得る。これが残りの主張を与える。
ユニタリ表現 $\pi$ とベクトル $\xi$ から
$$
\varphi_\xi(g):=\langle\xi,\pi(g)\xi\rangle
$$
とおくと、$\varphi_\xi$ は連続な正定値関数である。逆も成り立つ。
連続な正定値関数 $\varphi:G\to\mathbb C$ に対して、強連続ユニタリ表現 $(\pi_\varphi,\mathcal H_\varphi)$ と巡回ベクトル $\xi_\varphi$ が存在し、
$$
\varphi(g)=\langle\xi_\varphi,\pi_\varphi(g)\xi_\varphi\rangle
$$
を満たす。この三つ組は、この等式を満たし巡回であるという条件のもとでユニタリ同値を除いて一意である。F16 §3.3。
群に対する直接の構成では、有限形式和の空間 $\mathbb C[G]$ に
$$
\left\langle\sum_i c_i[g_i],\sum_j d_j[h_j]\right\rangle_\varphi
=\sum_{i,j}\overline{c_i}d_j\varphi(g_i^{-1}h_j)
$$
という半内積を入れ、零空間で割って完備化する。左平行移動が表現を与え、$[e]$ が巡回ベクトルになる。連続性は $\varphi$ の連続性から従う。抽象 $C^*$-環上で零空間が左イデアルになることや状態から巡回表現を得る一般論は GNS構成 が所有する。
表現 $\pi:G\to\mathcal U(\mathcal H_\pi)$、$\rho:G\to\mathcal U(\mathcal H_\rho)$ に対し、有界作用素 $T:\mathcal H_\pi\to\mathcal H_\rho$ が
$$
T\pi(g)=\rho(g)T\qquad(g\in G)
$$
を満たすとき、$T$ を絡作用素という。
$\pi$、$\rho$ を既約ユニタリ表現とする。零でない絡作用素 $T:\mathcal H_\pi\to\mathcal H_\rho$ が存在すれば、$\pi$ と $\rho$ はユニタリ同値である。特に $\pi=\rho$ の場合、$\pi(G)$ と可換する有界作用素はスカラー作用素だけである。F16 Proposition 3.5。
自己共役な可換作用素にSchurの補題を適用する証明では、スペクトル射影は一般に作用素の連続関数ではなくBorel関数計算によって得られる。射影が表現と可換することは、可換するユニタリがスペクトル測度全体と可換するというスペクトル定理の一意性から示す必要がある。本記事ではこの作用素論を省略し、出典へ委ねる。
$G$ がコンパクト群のとき、以下では $\mu(G)=1$ と正規化したHaar測度を使う。
コンパクト群 $G$ について次が成り立つ。
円周群 $\mathbb T$ の既約ユニタリ表現は
$$
\chi_m(z)=z^m\qquad(m\in\mathbb Z)
$$
という1次元表現で尽くされる。Peter--Weyl分解は
$$
L^2(\mathbb T)
=\widehat{\bigoplus}_{m\in\mathbb Z}\mathbb C\chi_m
$$
となり、通常のFourier級数展開を与える。
$G=\mathbb R$ では指標 $x\mapsto e^{itx}$ が $t\in\mathbb R$ によって連続的に動く。左正則表現のFourier分解は離散直和ではなく直積分になる。従って、Peter--Weyl定理の「既約表現のHilbert直和」という結論を非コンパクト群へそのまま拡張することはできない。
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