確率変数(random variable)とは、偶然の試行の結果 $\omega$ ごとに実数 $X(\omega)$ を対応させる関数、すなわち確率空間の標本空間上の実数値関数であり、一般の確率空間ではすべての実数 $a$ について $\{X\leq a\}$ が事象になることを課す。値ごとの確率 $P(X=x)$ の対応を分布、$F_X(x)=P(X\leq x)$ を分布関数といい、期待値や分散は分布だけで決まる。分布関数は単調非減少かつ右連続で、$x\to-\infty$ で $0$、$x\to\infty$ で $1$ に近づき、この 3 条件を満たす関数はどれもある確率変数の分布関数である。一方、同じ分布をもつ確率変数が等しいとは限らず(公平な硬貨の表と裏の指示確率変数)、各確率変数の分布だけでは組の同時分布は決まらない。
区別のつくさいころ 2 個(赤と青)を振り、目の和を $S$ とする。起こりうる結果は目の組 $(i,j)$ の 36 通りで、どれも確率 $\frac1{36}$ で出るとする。$S$ は結果 $(i,j)$ に数 $i+j$ を対応させる関数であり、$2$ から $12$ までの値をとる。値ごとに結果を数えると、$S=2,3,\dots,12$ となる結果はそれぞれ $1,2,3,4,5,6,5,4,3,2,1$ 通りなので、たとえば $P(S=7)=\frac6{36}=\frac16$、$P(S\leq4)=\frac{1+2+3}{36}=\frac16$ である。この値と確率の表が $S$ の分布であり、$S$ の期待値は $\sum_ss\,P(S=s)=7$ になる。また、区間 $[0,1]$ から一様に点を選び、その点の座標を $X$ とすると、$0\leq x\leq1$ で $P(X\leq x)=x$ である。$x$ に $P(X\leq x)$ を対応させる関数を $X$ の分布関数という。
このように、偶然の試行の結果に応じて決まる数を確率変数(random variable)という。数学的には、確率変数は確率空間の標本空間 $\Omega$ の上の実数値の関数である。偶然に左右されるのは関数の引数(どの結果 $\omega$ が起こるか)のほうで、関数そのものは決まった写像である。「変数」という名前は、値が結果によって変わることを表している。
結果が有限個または可算個の場合(離散確率空間)は、期待値 の記事と同じく、空でない有限集合または可算集合 $\Omega$ と、$\sum_{\omega\in\Omega}p(\omega)=1$ を満たす関数 $p\colon\Omega\to[0,1]$ の組 $(\Omega,p)$ を考え、事象 $A\subset\Omega$ の確率を $P(A):=\sum_{\omega\in A}p(\omega)$ と定める。一般の確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ では、確率が定まるのはσ-代数 $\mathcal{F}$ に属する事象だけである。
離散確率空間 $(\Omega,p)$ は、すべての部分集合を事象とする確率空間 $(\Omega,2^\Omega,P)$ とみなせる(確率空間 の記事の命題「離散確率空間は確率空間である」)。このとき 2 の条件はどんな関数についても成り立つので、1 は 2 の特別な場合である。1 は 期待値 の記事の定義「確率変数と期待値」、KT17 §10.4(p. 218、有限の場合)、Sho08 §8.3(p. 221)の定義と同じであり、2 は 確率空間 の記事の注意「確率変数と分布」と同じ条件である。Dur19 §1.2(p. 10)は 2 の代わりに「すべての Borel集合 $B$ について $\{X\in B\}\in\mathcal{F}$」を課しているが、この 2 つの条件は同値である(同書 Theorem 1.3.1 と Example 1.3.2、p. 15)。本記事の証明は、離散の場合と、$\{X\leq a\}$ の形の事象だけを使う場合に限る。
2 つの確率変数は、同じ確率空間の上になくても分布や分布関数を比べられる。離散確率空間の上の確率変数 $X,Y$ が同じ分布をもつとは、値の集合 $V_X,V_Y$ の和集合のすべての元 $x$ で $P(X=x)=P(Y=x)$ が成り立つことをいう(一方の値の集合にない $x$ では確率を $0$ とみる)。
用語には注意が要る。GrS06 Definition 1.2(p. 19)は、有限の標本空間の各結果に確率を割り当てる関数 $m$ を distribution function と呼んでいる。これは本記事の $p_X$ にあたる。同書は連続な場合の $P(X\leq x)$ を cumulative distribution function と呼び(Definition 2.2、p. 61)、「分布」という語がいくつもの意味で使われると注意している(p. 63)。本記事では $P(X\leq x)$ だけを分布関数と呼ぶ。
確率変数は「結果を数に翻訳する規則」である。さいころ 2 個の試行は 36 通りの結果をもつが、目の和だけに関心があれば、結果を $S$ で数に翻訳し、値 $2,\dots,12$ とその確率だけを見ればよい。この値と確率の対応が分布である。期待値・分散・「$S\geq10$ となる確率」など、$S$ についての確率的な問いの答えは、$S$ の分布だけで決まる(prop-rv-function)。
一方、分布は確率変数そのものではない。同じ分布をもつ異なる確率変数はいくらでもある(ex-rv-same-distribution)。2 つの確率変数の関係(和や独立性)を調べるには、それぞれの分布では足りず、組 $(X,Y)$ の同時分布が要る(ex-rv-joint-not-determined)。
分布関数 $F_X(x)=P(X\leq x)$ は、離散的な場合と連続的な場合を同じ形で扱う道具である。$x$ を左から右へ動かすと、$X$ が $x$ 以下になる確率が $0$ から $1$ まで増えていく。値 $x$ を確率 $q>0$ でとる点では高さ $q$ の跳びが生じ、1 点の確率が $0$ の区間ではなめらかに増える。
$\Omega=\{1,\dots,6\}^2$ に一様な確率を入れ、$S(i,j):=i+j$ とする。$S$ の分布は
$$
p_S(s)=\frac{6-|s-7|}{36}\qquad(s=2,3,\dots,12)
$$
である(Sho08 Example 8.16、p. 222 に同じ表がある)。分布関数 $F_S$ は $x<2$ で $0$、$x\geq12$ で $1$ であり、その間では整数の点でだけ増える階段状の関数で、たとえば $F_S(4)=\frac6{36}$、$F_S(6.5)=F_S(6)=\frac{15}{36}$、$F_S(7)=\frac{21}{36}$ である。点 $7$ での跳び $F_S(7)-F_S(6.5)=\frac6{36}$ は $P(S=7)$ に等しい(thm-rv-cdf の 4)。
事象 $A$ について、$\omega\in A$ なら $1$、そうでなければ $0$ をとる関数 $\mathbf{1}_A$(集合の指示関数)は確率変数である。一般の確率空間では、$\{\mathbf{1}_A\leq a\}$ は $a<0$ で $\emptyset$、$0\leq a<1$ で $\Omega\setminus A$、$a\geq1$ で $\Omega$ であり、どれも事象である。分布は $P(\mathbf{1}_A=1)=P(A)$、$P(\mathbf{1}_A=0)=1-P(A)$ である。
表の出る確率が $q$($0\leq q\leq1$)の硬貨を独立に $n$ 回投げる試行を $\{0,1\}^n$ 上の確率空間で表し($1$ が表)、$i$ 回目が表という事象の指示確率変数を $X_i$ とすると、表の回数 $X=X_1+\cdots+X_n$ も確率変数で、その分布は
$$
P(X=k)=\binom nkq^k(1-q)^{n-k}\qquad(k=0,1,\dots,n)
$$
である(独立性(確率論) の記事の例「独立な試行の繰り返し」)。この分布を二項分布という(Sho08 Example 8.18、pp. 222–223)。
$\Omega=[0,1]$ に Borel 集合全体とLebesgue測度を入れた確率空間(確率空間 の記事の例「区間 [0,1] 上の一様な確率」)で $U(\omega):=\omega$ とする。$\{U\leq a\}$ は $a<0$ で $\emptyset$、$0\leq a\leq1$ で区間 $[0,a]$、$a>1$ で $[0,1]$ なので $U$ は確率変数であり、分布関数は
$$
F_U(x)=\begin{cases}0&(x<0)\\x&(0\leq x\leq1)\\1&(x>1)\end{cases}
$$
である。$X:=U^2$ とすると、$0\leq a\leq1$ で $\{X\leq a\}=[0,\sqrt a]$ なので $F_X(a)=\sqrt a$ である(GrS06 Example 2.13、p. 62)。$U$ と $X$ はどちらも $[0,1]$ に値をとるが、$F_U(\frac14)=\frac14$、$F_X(\frac14)=\frac12$ で分布は異なり、$X$ は $0$ の近くの値をとりやすい。どちらの分布関数も連続で、すべての $x$ で $P(U=x)=P(X=x)=0$ である。
公平な硬貨を 1 回投げる試行を $\Omega=\{\mathrm{H},\mathrm{T}\}$、$p(\mathrm{H})=p(\mathrm{T})=\frac12$ で表す。$X$ を表の指示確率変数($X(\mathrm{H})=1$、$X(\mathrm{T})=0$)、$Y$ を裏の指示確率変数($Y(\mathrm{H})=0$、$Y(\mathrm{T})=1$)とすると、どちらも値 $0,1$ を確率 $\frac12$ ずつとるので、$X$ と $Y$ は同じ分布をもつ。しかし、どの結果 $\omega$ でも $X(\omega)\ne Y(\omega)$ であり、$X+Y=1$ である。$X$ と $Y$ は「同じ分布をもつ」という性質を満たすが「関数として等しい」という性質を満たさず、「同じ分布 $\Rightarrow$ 等しい確率変数」という含意を破る。分布が決めるのは値ごとの確率だけで、どの結果にどの値を割り当てるかは決めない。
$\Omega=\{1,2,3\}$、$\mathcal{F}=\{\emptyset,\{1\},\{2,3\},\Omega\}$、$P(\{1\})=\frac12$、$P(\{2,3\})=\frac12$ とすると、$(\Omega,\mathcal{F},P)$ は確率空間である($\mathcal{F}$ は補集合と和集合で閉じている)。$X(1)=X(2)=0$、$X(3)=1$ とおくと $\{X\leq0\}=\{1,2\}\notin\mathcal{F}$ なので、$X$ は確率変数ではない。実際、「$X=0$ となる確率」はこの確率空間では定まらない。一方、$Y(1)=0$、$Y(2)=Y(3)=1$ は確率変数である。一般の確率空間では「実数値の関数である」という性質から「確率変数である」という性質は従わず、def-rv の 2 の条件は外せない。
ex-rv-same-distribution の $X$ の分布関数は、$x<0$ で $0$、$0\leq x<1$ で $\frac12$、$x\geq1$ で $1$ である。$x$ を左から $1$ に近づけると $F_X(x)=\frac12$ のままなので、左からの極限は $\frac12$ で、$F_X(1)=1$ と異なる。分布関数は右連続だが(thm-rv-cdf)、この $F_X$ は「左連続」という性質を満たさない。左からの極限 $\frac12$ は $P(X<1)$ に等しく、跳び $1-\frac12$ は $P(X=1)$ に等しい。分布関数が右連続になるのは、定義で「$\leq$」を使ったためである。
ex-rv-uniform の $U$ について $X:=\max\bigl(U,\frac12\bigr)$ とする($U<\frac12$ なら $\frac12$ に切り上げる)。$\{X\leq a\}$ は $a<\frac12$ で $\emptyset$、$\frac12\leq a\leq1$ で $[0,a]$、$a>1$ で $[0,1]$ なので、$X$ は確率変数であり、分布関数は
$$
F_X(x)=\begin{cases}0&(x<\frac12)\\x&(\frac12\leq x\leq1)\\1&(x>1)\end{cases}
$$
である。点 $\frac12$ で高さ $\frac12$ の跳びがあるので $P(X=\frac12)=\frac12$ であり、$x\ne\frac12$ では $\{X=x\}$ は空集合か 1 点集合 $\{x\}$ なので $P(X=x)=0$ である。したがって、どんな有限集合または可算集合 $V$ をとっても $\sum_{x\in V}P(X=x)\leq\frac12<1$ で、$X$ は離散型(def-rv-types)ではない。また $P(X=\frac12)>0$ なので、$X$ は密度をもたない(rem-rv-density)。$X$ は「確率変数である」という性質を満たすが、「離散型であるか密度をもつ」という性質を満たさない。確率変数の分布は、この 2 つの型に尽きるわけではない。
$X$ を確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ の上の確率変数とし、$a< b$ を実数とする。このとき $\{X< a\}$、$\{X>a\}$、$\{X=a\}$、$\{a< X\leq b\}$ はどれも事象($\mathcal{F}$ の元)である。
$X(\omega)< a$ ならば、十分大きい整数 $n\geq1$ で $X(\omega)\leq a-\frac1n$ となる。逆に $X(\omega)\leq a-\frac1n$ なら $X(\omega)< a$ である。よって
$$
\{X< a\}=\bigcup_{n\geq1}\Bigl\{X\leq a-\frac1n\Bigr\}
$$
であり、右辺は $\mathcal{F}$ の元の可算和集合なので $\mathcal{F}$ に属する。$\{X>a\}=\Omega\setminus\{X\leq a\}$ は補集合なので $\mathcal{F}$ に属する。$\mathcal{F}$ は補集合と可算和集合で閉じているので、差 $A\setminus B=\Omega\setminus\bigl((\Omega\setminus A)\cup B\bigr)$ でも閉じており、$\{X=a\}=\{X\leq a\}\setminus\{X< a\}$、$\{a< X\leq b\}=\{X\leq b\}\setminus\{X\leq a\}$ も $\mathcal{F}$ に属する。
以下この節では、$(\Omega,p)$ を離散確率空間、$X$ をその上の確率変数とし、$V:=X(\Omega)$ とする。
すべての集合 $S\subset\mathbb{R}$ について
$$
P(X\in S)=\sum_{x\in S\cap V}p_X(x)
$$
である。特に $\sum_{x\in V}p_X(x)=1$ であり、$(V,p_X)$ は離散確率空間である。
事象 $\{X\in S\}$ は、互いに交わらない事象 $\{X=x\}$($x\in S\cap V$)の和集合である。$S\cap V$ は有限集合または可算集合なので、離散確率空間の確率の可算加法性(確率空間 の記事の命題「離散確率空間は確率空間である」)により $P(X\in S)=\sum_{x\in S\cap V}P(X=x)$ である。$S=\mathbb{R}$ とおくと $\{X\in\mathbb{R}\}=\Omega$ なので $\sum_{x\in V}p_X(x)=P(\Omega)=1$ である。$V$ は空でない有限集合または可算集合で $p_X(x)\in[0,1]$ なので、$(V,p_X)$ は離散確率空間の条件を満たす。
$(V,p_X)$ は、$X$ の値だけを記録した試行を表す確率空間である。ex-rv-dice-sum では $V=\{2,\dots,12\}$ で、$p_S$ は一様でない(確率空間 の記事の例「さいころ 2 個」)。Sho08 §8.3(pp. 221–222)は $p_X$ を $X$ の分布 $P_X$ と呼び、同じ確率を与える 2 つの確率変数の分布を「本質的に等しい」と述べている。
$g\colon V\to\mathbb{R}$ を関数とし、$Y:=g(X)$($\omega\mapsto g(X(\omega))$)とする。
1:離散確率空間の上の関数なので $Y$ は確率変数である。$\{Y=y\}=\{X\in S\}$($S:=\{x\in V\mid g(x)=y\}$)なので、prop-rv-discrete-distribution から従う。
2:$\Omega$ を互いに交わらない $\{X=x\}$($x\in V$)に分け、その上で $|g(X(\omega))|=|g(x)|$ であることを使うと
$$
\sum_{\omega\in\Omega}|g(X(\omega))|\,p(\omega)=\sum_{x\in V}|g(x)|\sum_{\omega\in\{X=x\}}p(\omega)=\sum_{x\in V}|g(x)|\,p_X(x)<\infty
$$
である。項が $0$ 以上の級数の和は、項のまとめ方や順序によらない(Sho08 付録 A6・A7、p. 564)ので、1 つ目の等号が成り立つ。よって $Y$ は有限な期待値をもつ(期待値 の記事の定義「確率変数と期待値」)。絶対収束する級数の和もまとめ方や順序によらない(同付録)ので、同じ計算を絶対値なしで行えば主張の等式を得る。$g\geq0$ の場合は、はじめの計算を絶対値なしで行えばよい。
$g(x)=x$ とすれば 期待値 の記事の命題「値ごとにまとめた期待値」になる。2 から、同じ分布をもつ確率変数は、期待値・分散・$E[X^k]$ などがすべて等しい。たとえば ex-rv-dice-sum の $S$ では、$g(s)=(s-7)^2$ として
$$
E[(S-7)^2]=\frac{2\,(25\cdot1+16\cdot2+9\cdot3+4\cdot4+1\cdot5)}{36}=\frac{210}{36}=\frac{35}6
$$
であり、これは $S$ の分散である(分散 の記事の例「一様な分布と指示確率変数」の $\frac{35}{12}$ の 2 倍。さいころ 2 個の目は独立なので分散が足し合わされる)。
$X$ を確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ の上の確率変数とし、$F:=F_X$ とする。
prop-rv-events により、以下に現れる集合はすべて事象である。確率の単調性($A\subset B$ なら $P(A)\leq P(B)$、$P(B\setminus A)=P(B)-P(A)$)と連続性は 確率空間 の記事の命題「確率の基本性質」の 4 と命題「確率の連続性」による。
1:$x\leq y$ なら $\{X\leq x\}\subset\{X\leq y\}$ なので、単調性により $F(x)\leq F(y)$ である。
片側極限の準備:$F$ は単調非減少で値は $[0,1]$ にあるので、片側極限はすべて存在し、単調な数列に沿った極限で計算できる。たとえば $x$ での右極限について、$L:=\inf_{y>x}F(y)$ とおくと、任意の $\varepsilon>0$ に対して $F(y_0)< L+\varepsilon$ となる $y_0>x$ があり、$x< y< y_0$ では $L\leq F(y)\leq F(y_0)< L+\varepsilon$ なので $\lim_{y\to x+0}F(y)=L$ であり、特に $L=\lim_{n\to\infty}F(x+\frac1n)$ である。左極限と $x\to\pm\infty$ の極限も同様で、それぞれ $F(x-\frac1n)$、$F(-n)$、$F(n)$ の極限に等しい。
2:$\{X\leq n\}$($n=1,2,\dots$)は増加列で、各 $\omega$ について $X(\omega)\leq n$ となる $n$ があるので和集合は $\Omega$ である。確率の連続性により $F(n)\to P(\Omega)=1$ である。$\{X\leq-n\}$ は減少列で共通部分は $\emptyset$ なので、$F(-n)\to0$ である。
3:$\{X\leq x+\frac1n\}$ は減少列で、共通部分は $\{X\leq x\}$ である(すべての $n$ で $X(\omega)\leq x+\frac1n$ なら $X(\omega)\leq x$)。よって $F(x+\frac1n)\to F(x)$ である。
4:$\{X\leq x-\frac1n\}$ は増加列で、和集合は $\{X< x\}$ である(prf-rv-events)。よって $F(x-\frac1n)\to P(X< x)$ である。$\{X< x\}\subset\{X\leq x\}$ で差は $\{X=x\}$ なので、$P(X=x)=F(x)-P(X< x)=F(x)-F(x-0)$ である。
5:$\{X\leq a\}\subset\{X\leq b\}$ で差は $\{a< X\leq b\}$ なので、単調性の後半による。
この定理は Dur19 Theorem 1.2.1(pp. 10–11)にある。3 と 4 から、$F$ が点 $x$ で連続であることと $P(X=x)=0$ であることは同値である。
$X$ を離散確率空間の上の確率変数とし、$V:=X(\Omega)$ とする。
1 は prop-rv-discrete-distribution を $S=(-\infty,x]$ に使ったもの、2 は thm-rv-cdf の 4 である。3:同じ分布をもつなら、1 の右辺の和は $V_X\cup V_Y$ の上の同じ確率の和なので $F_X=F_Y$ である(値の集合にない点の確率は $0$)。逆に $F_X=F_Y$ なら、2 によりすべての $x$ で $P(X=x)=P(Y=x)$ である。
したがって、離散的な場合には分布と分布関数は同じ情報をもつ。一般の確率空間でも、分布関数が等しい 2 つの確率変数は、すべての Borel 集合 $B$ について $P(X\in B)=P(Y\in B)$ を満たす(rem-rv-general)。
thm-rv-cdf の 1〜3 は、分布関数を特徴づける。
関数 $F\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ がある確率変数の分布関数であるための必要十分条件は、$F$ が単調非減少で、$\lim_{x\to-\infty}F(x)=0$、$\lim_{x\to\infty}F(x)=1$ を満たし、右連続であることである。
必要性は thm-rv-cdf の 1〜3 である。十分性を示す。$\Omega:=(0,1)$ とし、$\mathcal{F}$ を $(0,1)$ の Borel 集合全体、$P$ を区間 $(c,d]\subset(0,1)$ に長さ $d-c$ を割り当てる確率測度(Lebesgue測度の制限)とする。このような確率測度の存在は測度論の定理である(Dur19 Theorem 1.1.4、p. 3。確率空間 の記事の例「区間 [0,1] 上の一様な確率」と同じもの)。
$\omega\in(0,1)$ を固定し、$A_\omega:=\{x\in\mathbb{R}\mid F(x)\geq\omega\}$ とおく。$F(x)\to1>\omega$($x\to\infty$)なので $A_\omega$ は空でない。$F(x)\to0<\omega$($x\to-\infty$)なので、ある $x_1$ で $F(x_1)<\omega$ となり、単調性により $x\leq x_1$ では $F(x)<\omega$、すなわち $A_\omega\subset(x_1,\infty)$ で $A_\omega$ は下に有界である。$c:=\inf A_\omega$ とおく。単調性により、$x\in A_\omega$ かつ $y>x$ なら $y\in A_\omega$ である。各 $n\geq1$ について $c+\frac1n$ より小さい $A_\omega$ の元があるので $c+\frac1n\in A_\omega$、すなわち $F(c+\frac1n)\geq\omega$ であり、右連続性により $F(c)=\lim_nF(c+\frac1n)\geq\omega$、つまり $c\in A_\omega$ である。よって $A_\omega=[c,\infty)$ であり、
$$
X(\omega):=\min\{x\in\mathbb{R}\mid F(x)\geq\omega\}
$$
が定まる。$A_\omega=[X(\omega),\infty)$ なので、実数 $a$ について
$$
X(\omega)\leq a\iff a\in A_\omega\iff F(a)\geq\omega
$$
である。したがって $\{X\leq a\}=\{\omega\in(0,1)\mid\omega\leq F(a)\}$ であり、これは $F(a)=0$ なら $\emptyset$、$0< F(a)<1$ なら区間 $(0,F(a)]$、$F(a)=1$ なら $(0,1)$ である。どの場合も事象で、その確率は $F(a)$ である。よって $X$ は確率変数で、$F_X=F$ である。
Dur19 Theorem 1.2.2(p. 11)は $X(\omega)=\sup\{y\mid F(y)<\omega\}$ という同じ考え方の構成で証明し、この構成が計算機で一様な乱数から与えられた分布の乱数を作る方法になることを注意している。たとえば公平な硬貨の表の指示確率変数の分布関数(ex-rv-not-left-continuous)では、$\omega\leq\frac12$ で $X(\omega)=0$、$\omega>\frac12$ で $X(\omega)=1$ となる。$F(x)=1-e^{-x}$($x\geq0$)、$F(x)=0$($x<0$)では $X(\omega)=-\log(1-\omega)$ となる。
$X$ を確率空間の上の確率変数とする。
離散確率空間の上の確率変数は、prop-rv-discrete-distribution により $V=X(\Omega)$ について離散型である。密度 $f$ をもつとき、$a< b$ について $P(a< X\leq b)=\int_a^bf(t)\,dt$ であり(thm-rv-cdf の 5)、確率は密度のグラフの下の面積で与えられる。ex-rv-uniform の $U$ は、$[0,1]$ で $1$、それ以外で $0$ となる関数を密度にもち、$X=U^2$ は $0< x\leq1$ で $\frac1{2\sqrt x}$、それ以外で $0$ となる関数を密度にもつ($\int_0^a\frac{dt}{2\sqrt t}=\sqrt a$)。$f(x)$ は確率ではなく、$1$ を超えることもある(GrS06 p. 60 の注意)。
$X$ が密度 $f$ をもてば、すべての $x$ と $h>0$ について $0\leq P(X=x)\leq P(x-h< X\leq x)=\int_{x-h}^xf(t)\,dt$ であり、右辺は $h\to0$ で $0$ に近づく(Dur19 p. 12 に同じ計算がある)。よって $P(X=x)=0$ であり、thm-rv-cdf の 4 により $F_X$ は連続である。$\sum_{x\in V}P(X=x)=0$ なので、密度をもつ確率変数は離散型でない。ex-rv-mixed の $X$ は $P(X=\frac12)=\frac12$ なので密度をもたない。$F_X$ が連続でも密度をもたない確率変数もある(Cantor集合の上の一様な分布。Dur19 Example 1.2.7、p. 13)。
2 つ以上の確率変数の関係は、組の分布で表す。以下、$X,Y$ を同じ離散確率空間の上の確率変数とし、値の集合を $V_X,V_Y$ とする。
$(x,y)\in V_X\times V_Y$ に $p_{X,Y}(x,y):=P(X=x,\ Y=y)$ を対応させる関数を $X$ と $Y$ の同時分布という。ここで $P(X=x,\ Y=y)$ は事象 $\{X=x\}\cap\{Y=y\}$ の確率である。同時分布に対して、$X$ と $Y$ それぞれの分布 $p_X$、$p_Y$ を周辺分布という。
1:$\{X=x\}$ は、互いに交わらない有限個または可算個の事象 $\{X=x\}\cap\{Y=y\}$($y\in V_Y$)の和集合なので、可算加法性による。2:$\{X+Y=s\}$ は、互いに交わらない事象 $\{X=x\}\cap\{Y=s-x\}$($x\in V_X$、$s-x\in V_Y$)の和集合なので、同じく可算加法性による。3:$X,Y$ が独立であるとは $p_{X,Y}(x,y)=p_X(x)\,p_Y(y)$ がすべての $x\in V_X$、$y\in V_Y$ で成り立つことなので(独立性(確率論) の記事の命題「同時分布による判定」)、2 に代入すればよい。
3 の右辺を $p_X$ と $p_Y$ の畳み込みという。ex-rv-dice-sum で赤の目を $X$、青の目を $Y$ とすると、$X,Y$ は独立で、どちらも $\{1,\dots,6\}$ 上の一様な分布をもつ。$P(S=s)$ は $1\leq x\leq6$ かつ $1\leq s-x\leq6$ となる $x$ の個数 $6-|s-7|$ に $\frac1{36}$ を掛けたものであり、ex-rv-dice-sum の表と一致する。
公平な硬貨を 2 回投げる試行を $\{0,1\}^2$ 上の一様な確率で表し($1$ が表)、$X_1,X_2$ をそれぞれ 1 回目・2 回目の表の指示確率変数とする。組 $(X_1,X_2)$ と組 $(X_1,X_1)$ を比べると、どちらも各成分は値 $0,1$ を確率 $\frac12$ ずつとり、周辺分布は同じである。しかし
$$
P(X_1=1,\ X_2=1)=\frac14,\qquad P(X_1=1,\ X_1=1)=\frac12
$$
で同時分布は異なり、和の分布も、$X_1+X_2$ は $0,1,2$ を確率 $\frac14,\frac12,\frac14$ でとるのに対し、$X_1+X_1=2X_1$ は $0,2$ を確率 $\frac12$ ずつとる。この 2 つの組は「周辺分布が同じ」という性質を満たすが「同時分布が同じ」という性質を満たさず、「各成分の分布から組の分布(和の分布)が決まる」という含意を破る。周辺分布から同時分布が決まるのは、独立性のような追加の仮定があるときである(prop-rv-marginal の 3)。
一般の確率空間の上の確率変数 $X$ について、Borel 集合 $B\subset\mathbb{R}$ に $P_X(B):=P(X\in B)$ を割り当てると、$\mathbb{R}$ の上の確率測度が得られ、これを $X$ の分布という(確率空間 の記事の注意「確率変数と分布」、Dur19 §1.2、p. 10)。すべての Borel 集合 $B$ で $P(X\in B)=P(Y\in B)$ となることは $F_X=F_Y$ と同値であり(同書 pp. 11–12。区間 $(a,b]$ の確率から測度が一意に決まるという同書 Theorem 1.1.4 による)、この意味で分布関数は分布を決める。離散的な場合のこの事実は cor-rv-discrete-cdf で証明した。期待値は一般にはLebesgue積分 $E[X]=\int_\Omega X\,dP$ として定義され、$\mathbb{R}$ の上の分布 $P_X$ についての積分として計算できる(同書 Theorem 1.6.9、p. 32。prop-rv-function の 2 はその離散の場合にあたる)。本記事ではこれらの一般論を証明していない。
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