部屋複体

同義語:chamber complex

概要

部屋複体(chamber complex)とは、極大な単体(部屋)がすべて同じ有限の階数をもち、任意の単体がある部屋に含まれ、任意の 2 つの部屋が、隣り合う部屋どうしが共通の切子面(壁面)を共有する部屋の列(回廊)で結ばれる単体複体である。回廊の長さの最小値が部屋の間の距離を与え、どの壁面もちょうど 2 つの部屋に含まれるとき薄い、3 つ以上に含まれるとき厚いという。どの壁面も高々 2 つの部屋にしか含まれない部屋複体への、階数の等しい部屋複体からの非退化な射は、1 つの部屋の頂点の上の値で決まる(一意性補題)。Coxeter 複体は薄い部屋複体であり、Titsの建物は Coxeter 複体を貼り合わせた部屋複体である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単体複体, 半順序集合

部屋複体(chamber complex)は、同じ大きさの極大な単体(部屋)を、共通の切子面(壁面)を通って隣から隣へ渡り歩くことで、どの部屋からどの部屋へも行ける単体複体である。単体の境界、孤立点のない連結なグラフ、射影平面の点と直線の組(旗)のなす複体などがその例で、Coxeter複体 と Titsの建物 はどちらも部屋複体として定義される。どの壁面もちょうど 2 つの部屋に接するとき薄い、3 つ以上の部屋に接するとき厚いという。Coxeter 複体は薄く、建物では 1 つの壁面に 3 つ以上の部屋が接してよい。
部屋から部屋への道(回廊)の長さの最小値で部屋の間の距離が決まり、部屋複体の組合せ論は、この距離と壁面のまわりの部屋の数で語られる。この記事では、部屋複体とその射・閉包・リンクを定義し、階数の等しい部屋複体から薄い部屋複体への非退化な射は 1 つの部屋の頂点の上の値で決まるという一意性補題と、単体複体を半順序集合として特徴づける命題を証明する。単体のリンクは、壁面のまわりの部屋の数(薄さ・厚さ)を受け継ぐが、回廊でつながることは一般には受け継がない。

定義

単体複体は 単体複体 の定義「抽象単体複体」にしたがう。すなわち、頂点の集合 $\mathcal{V}$ の有限部分集合の族 $\Delta$ で、一点集合をすべて含み、元の部分集合をまた元としてもつものである。ただしこの記事では Coxeter複体 にならい、空集合も単体に数える($\Delta\ne\emptyset$ なら $\emptyset\in\Delta$)。空集合を数えることで、部屋が 1 点からなる場合にも、壁面(空集合)や隣接を同じ言葉で扱える。

面・階数・隣接

単体複体 $\Delta$ の単体 $A$ の部分集合を $A$ の面という。$A$ の元の個数を $A$ の階数、階数から $1$ を引いた数を $A$ の次元という(空集合は階数 $0$、次元 $-1$)。$A$ の面で、階数が $A$ より $1$ だけ小さいものを $A$ の切子面という。2 つの単体 $A_1\ne A_2$ は、$A_1\cap A_2$ が $A_1$ と $A_2$ の両方の切子面であるとき隣接するという。隣接する 2 つの単体の階数は等しい。$\Delta$ の部分集合で、元の部分集合をまた元としてもつものを $\Delta$ の部分複体という。

部屋複体

単体複体 $\Delta$ が次の 2 条件を満たすとき、$\Delta$ を部屋複体という。

  1. $\Delta$ の極大な単体(包含関係についての 極大元)はすべて有限の同じ階数 $r$ をもち、任意の単体はある極大な単体に含まれる。
  2. 任意の 2 つの極大な単体 $C,D$ に対し、極大な単体の有限列 $C=C_0,C_1,\dots,C_n=D$ で、各 $i$ について $C_i$ と $C_{i+1}$ が隣接するものがある。
    極大な単体を部屋、部屋の切子面を壁面、条件 2 の列を $C$ と $D$ を結ぶ回廊、$n$ をその長さという。$C$ と $D$ を結ぶ回廊の長さの最小値を $d(C,D)$ と書き、部屋 $C,D$ の距離という。長さが $d(C,D)$ の回廊を最短回廊という。$r$ を $\Delta$ の階数という。

隣接する単体は階数が等しいので、回廊でつながった部屋の階数はすべて等しい。したがって条件 1 の「同じ階数」は条件 2 から従い、条件 1 で本質的なのは、極大な単体が有限集合で、どの単体もある極大な単体に含まれることである。回廊を逆にたどる・つなぐことにより、$d$ は部屋の集合の上の距離関数(値は $0$ 以上の整数)になる。

薄い部屋複体と厚い部屋複体

階数 $r\ge1$ の部屋複体 $\Delta$ の任意の壁面がちょうど 2 つの部屋に含まれるとき、$\Delta$ は薄いという。任意の壁面が 3 つ以上の部屋に含まれるとき、$\Delta$ は厚いという。

部屋複体の射

部屋複体 $\Delta$、$\Sigma$ の間の単体写像(単体複体 の定義「単体写像」。頂点の写像で、単体を単体に写すもの)$f\colon\Delta\to\Sigma$ が、$\Delta$ の任意の部屋を $\Sigma$ の部屋に写すとき、$f$ を部屋複体の射という。部屋複体の射 $f$ が非退化であるとは、隣接する任意の 2 つの部屋 $C,C'$ について $f(C)\ne f(C')$ となることをいう。頂点の全単射で、それ自身も逆写像も単体写像であるものを同型という。

同型は包含関係を両方向に保つので、部屋を部屋に、隣接する部屋を隣接する部屋に写す。とくに同型は非退化な部屋複体の射である。

閉包・星・リンク

単体複体 $\Delta$ の単体 $A$ について、$A$ の面の全体 $\overline{A}$ を $A$ の閉包という。$A$ を含む単体の面の全体を $A$ の星といい $\operatorname{st}_\Delta(A)$ と書く。$A$ と交わらず $A\cup B\in\Delta$ となる単体 $B$ の全体を $A$ のリンクといい $\operatorname{lk}_\Delta(A)$ と書く。

3 つとも $\Delta$ の部分複体である。たとえばリンクについては、$B\in\operatorname{lk}_\Delta(A)$、$B'\subset B$ なら $B'$ は $A$ と交わらず、$A\cup B'\subset A\cup B$ は単体である。

例

単体の境界

$n\ge1$ とし、$\{0,1,\dots,n\}$ の真部分集合の全体を $\partial\Delta^n$ と書く。これは単体複体で、極大な単体は $n$ 元集合($n+1$ 個)、壁面は $n-1$ 元集合である。$n-1$ 元集合 $P$ を含む $n$ 元集合は、$P$ に入っていない残りの 2 元のどちらかを $P$ に加えたものなので、ちょうど 2 つある。相異なる 2 つの $n$ 元集合は、共通部分が $n-1$ 元なので隣接する。よって $\partial\Delta^n$ は階数 $n$ の薄い部屋複体で、相異なる 2 部屋の距離はつねに $1$ である。その幾何学的実現は $(n-1)$ 次元球面と同相である(単体複体 の例「単体の面の全体と球面の三角形分割」)。$n=2$ では三角形の境界、つまり 3 頂点・3 辺の閉路である。

階数 2 の部屋複体とグラフ

階数 $2$ 以下の単体からなる単体複体は、単純な グラフ と同じものである(頂点は一点集合、辺は 2 元集合)。単体複体 $\Delta$ が階数 $2$ の部屋複体であることは、対応するグラフ $G$ が少なくとも 1 本の辺をもち、孤立点をもたず、連結であることと同値である。実際、条件 1 は「辺があり、どの頂点もある辺に含まれる」ことであり、2 本の辺が隣接するのは共通の頂点をもつときなので、条件 2 は「辺から辺へ共通の頂点を通って渡れる」こと、すなわち孤立点のない $G$ の連結性である。壁面は頂点で、頂点 $v$ を含む部屋の数は $v$ の次数である。したがって次が成り立つ。

  • $\Delta$ が薄い ⇔ どの頂点の次数も $2$ ⇔ $G$ は長さ $3$ 以上の 閉路 か、両側に無限に続く道である。
  • $\Delta$ が厚い ⇔ どの頂点の次数も $3$ 以上である。たとえば 完全グラフ $K_4$ や、各頂点の次数が $3$ 以上で一定の無限の 木 である。
    各頂点の次数が $q+1$ の木は、剰余体の元の個数が $q$ の離散付値体の上の 2 次元ベクトル空間から作る建物として現れる(Titsの建物 の例「離散付値体上の2次元空間の木」)。
2 元体上の射影平面の旗の複体

2 元体 $\mathbb{F}_2$ 上の 射影平面 は 7 個の点と 7 本の直線からなり、どの直線もちょうど 3 点を通り、どの点もちょうど 3 本の直線の上にあり、相異なる 2 点を通る直線はただ 1 本である。点と直線をあわせた 14 個を頂点とし、空集合・一点集合と、点 $p$ とそれを通る直線 $\ell$ の組 $\{p,\ell\}$(旗)を単体とする単体複体 $\Delta$ を考える。対応するグラフでは各頂点の次数が $3$ で、相異なる 2 点は共通の直線を通じてつながり、どの直線も点を通るので連結である。よって ex-chc-graph により、$\Delta$ は 21 個の部屋(旗)をもつ階数 $2$ の厚い部屋複体である。
部屋の距離の最大値は $3$ である。旗 $\{p,\ell\}$、$\{q,m\}$ について、$p=q$ なら $\{p,\ell\},\{p,m\}$ が長さ $1$ 以下の回廊である。$p\ne q$ なら、$p,q$ を通る直線 $n$ をとると $\{p,\ell\},\{p,n\},\{q,n\},\{q,m\}$ から同じ部屋の繰り返しを除いたものが長さ $3$ 以下の回廊である。一方、$p\notin m$ かつ $q\notin\ell$ とすると、$p\ne q$、$\ell\ne m$ なので 2 つの旗は共通の頂点をもたず、隣接しない。両方に隣接する旗は、$p$ か $\ell$ を含み、かつ $q$ か $m$ を含むので、$\{p,m\}$ か $\{q,\ell\}$ に限られるが、どちらも旗でない。よって距離はちょうど $3$ である。このような組はある:$p\in\ell$ と $p$ を通らない直線 $m$ をとると、$m$ の 3 点のうち $\ell$ の上にあるのは高々 1 点なので、残りから $q$ を選べばよい。この複体は、3 次元 $\mathbb{F}_2$ ベクトル空間の 0 でも全体でもない部分空間の旗の複体であり、Titsの建物 の定理「ベクトル空間の建物」の $n=3$、$K=\mathbb{F}_2$ の場合の建物である。

Coxeter 複体と建物

階数有限の Coxeter 系 $(W,S)$ の Coxeter 複体 $\Sigma(W,S)$ は、階数 $\lvert S\rvert$ の薄い部屋複体であり、部屋は $W$ の元と 1 対 1 に対応し、部屋 $\{w\}$ と $\{ws\}$($s\in S$)が隣接し、部屋の距離は長さ関数で $d(\{w_1\},\{w_2\})=\ell(w_1^{-1}w_2)$ と表される(Coxeter複体 の定理「Coxeter複体は薄い部屋複体」)。二面体群 $\operatorname{Dih}_m$ の Coxeter 複体は $2m$ 頂点の閉路である。Titsの建物 は、Coxeter 複体と同型な部分複体(アパートメント)で覆われた部屋複体であり、ex-chc-fano の複体と ex-chc-graph の木はその例である。逆に、薄い部屋複体が Coxeter 複体と同型とは限らない。3 頂点の閉路は薄い部屋複体だが、階数 $2$ の Coxeter 複体の部屋の数は偶数か無限なので(Coxeter複体 の注意「反例:Coxeter複体でない部屋複体」の 2)、どの Coxeter 複体とも同型でない。

部屋複体でない単体複体
  1. 2 つの三角形 $\{a,b,c\}$、$\{c,d,e\}$ とその面からなる複体。極大な単体はこの 2 つで階数はそろうが、共通部分 $\{c\}$ はどちらの切子面でもないので隣接せず、条件 2 が成り立たない。幾何学的実現は連結なので、回廊でつながることは位相的な連結性より強い。
  2. 三角形 $\{a,b,c\}$ と辺 $\{c,d\}$ とその面からなる複体。極大な単体の階数が $3$ と $2$ でそろわない。
  3. 無限集合 $\mathcal{V}$ の有限部分集合の全体。極大な単体がなく、条件 1 が成り立たない。

部屋複体の射と一意性補題

非退化な射と回廊

$\Delta,\Sigma$ を同じ階数 $r$ の部屋複体、$f\colon\Delta\to\Sigma$ を部屋複体の射とする。

  1. $f$ は各部屋 $C$ の頂点の集合を、部屋 $f(C)$ の頂点の集合の上へ全単射で写す。とくに $C$ の切子面を $f(C)$ の切子面に写す。
  2. $f$ が非退化なら、$f$ は隣接する部屋を隣接する部屋に写す。したがって長さ $n$ の回廊を長さ $n$ の回廊に写し、$d(f(C),f(D))\le d(C,D)$ である。

1:$f(C)$ は $r$ 個の頂点をもつ部屋で、$f$ は $C$ の $r$ 個の頂点を $f(C)$ の上へ写すので、全射であり、元の個数が等しいので全単射である。切子面 $C\setminus\{v\}$ の像は $f(C)\setminus\{f(v)\}$ で、$f(C)$ の切子面である。
2:$C,C'$ を隣接する部屋とし、$F:=C\cap C'$ とおく。1 により $f(F)$ は $f(C)$ と $f(C')$ の両方の切子面で、$f(C)\cap f(C')\supset f(F)$ である。非退化性により $f(C)\ne f(C')$ であり、どちらも $r$ 元集合なので、共通部分の元の個数は $r-1$ 以下である。よって $f(C)\cap f(C')=f(F)$ で、$f(C)$ と $f(C')$ は隣接する。回廊の各段にこれを使えば、後半の主張が従う。$\square$

一意性補題

$\Delta$ を部屋複体、$\Sigma$ を、どの壁面も高々 2 つの部屋にしか含まれない部屋複体(たとえば薄い部屋複体)とし、両者の階数は等しいとする。$f_1,f_2\colon\Delta\to\Sigma$ を非退化な部屋複体の射とし、$\Delta$ のある部屋 $C$ の各頂点で $f_1$ と $f_2$ の値が一致するとする。このとき $f_1=f_2$ である。

$\Delta$ の任意の頂点はある単体に含まれ、条件 1 によりある部屋に含まれる。よって、任意の部屋 $D$ の各頂点で $f_1=f_2$ であることを示せばよい。$C$ と $D$ を結ぶ回廊 $C=C_0,C_1,\dots,C_n=D$ をとり、$C_i$ の各頂点で $f_1=f_2$ であると仮定して、$C_{i+1}$ についても成り立つことを示す($i=0$ は仮定である)。
$F:=C_i\cap C_{i+1}$ は $C_i$ と $C_{i+1}$ の共通の切子面で、$C_{i+1}=F\cup\{v\}$($v\notin C_i$)と書ける。帰納法の仮定により $f_1(C_i)=f_2(C_i)=:E$、$f_1(F)=f_2(F)=:F'$ であり、lem-chc-gallery の 1 により $F'$ は部屋 $E$ の切子面、すなわち $\Sigma$ の壁面である。$j=1,2$ について、$f_j(C_{i+1})=F'\cup\{f_j(v)\}$ は $F'$ を含む部屋であり、非退化性により $E$ と異なる。$\Sigma$ で $F'$ を含む部屋は高々 2 つで、その 1 つは $E$ なので、$f_1(C_{i+1})=f_2(C_{i+1})$ である。lem-chc-gallery の 1 により $f_j(v)\notin F'$ なので、$f_1(v)=f_2(v)$ である。よって $C_{i+1}$ の各頂点で $f_1=f_2$ であり、帰納法により $D$ でも成り立つ。$\square$

Gar97 §3.2 の補題(p. 36)は、非退化の代わりに「$C$ から出る回廊を、同じ部屋が続かない回廊に写す」ことを射に課して、同じ主張を述べている。この補題は、建物の中で 2 つのアパートメントの間の同型が共通の 1 つの部屋で決まることの根拠になる(Titsの建物 の命題「共通の部屋をもつアパートメントの同型」)。

薄い部屋複体の自己同型

$\Sigma$ を薄い部屋複体、$C$ をその部屋とする。$\Sigma$ の自己同型で $C$ の各頂点を固定するものは恒等写像だけである。とくに $\Sigma$ が有限で、部屋が $N$ 個、階数が $r$ なら、$\Sigma$ の自己同型群の位数は $N\cdot r!$ 以下である。

自己同型は非退化な部屋複体の射なので、$f_1$ をその自己同型、$f_2$ を恒等写像として thm-chc-uniqueness を使えば前半が従う。後半:前半により、自己同型 $g$ は $C$ の頂点の上の値で決まる。lem-chc-gallery の 1 により、それは $C$ の頂点の集合から部屋 $g(C)$ の頂点の集合への全単射であり、$g(C)$ の選び方は $N$ 通り、全単射は $r!$ 通りである。$\square$

$m\ge3$ 頂点の閉路($N=m$、$r=2$)では上限 $2m$ は正 $m$ 角形の対称性のなす 二面体群 の位数に等しく、$\partial\Delta^n$($N=n+1$、$r=n$)では上限 $(n+1)!$ は頂点の置換のなす 対称群 $S_{n+1}$ の位数に等しい。どちらも上限に達している。

半順序集合としての単体複体

単体複体は包含関係によって半順序集合になる。逆に、どのような半順序集合が単体複体から来るかを次の命題が述べる。Coxeter複体 は剰余類の半順序集合として定義され、この命題によって単体複体とみなされる。

半順序集合による単体複体の特徴づけ
  1. 単体複体 $\Delta$ は包含関係により 半順序集合 になり、任意の 2 つの単体 $A,B$ は 最大下界 $A\cap B$ をもち、各単体 $A$ の下方区間 $\Delta_{\le A}=\{B\in\Delta\mid B\subset A\}$ は $A$ の部分集合全体 $(\mathcal{P}(A),\subset)$ に等しい。
  2. 逆に、半順序集合 $(P,\le)$ が次の 2 条件を満たすとする。
    • (a) 任意の $A,B\in P$ は最大下界 $A\wedge B$ をもつ。
    • (b) 任意の $A\in P$ に対し、ある整数 $r\ge0$ があって、下方区間 $P_{\le A}$ は $(\mathcal{P}(\{1,\dots,r\}),\subset)$ と 順序同型 である。
      $(b)$ の $r$ が $1$ である元を原子とし、$V(A):=\{v\in P\mid v\text{ は原子},\ v\le A\}$ とおく。このとき $\Delta(P):=\{V(A)\mid A\in P\}$ は原子全体を頂点の集合とする単体複体であり、$A\mapsto V(A)$ は $P$ から $(\Delta(P),\subset)$ への順序同型である。

1 は定義から明らかである($A\cap B$ は $A$ の面なので単体であり、$A$ の面はすべて単体である)。
2 を示す。(b) により各 $P_{\le A}$ は最小元 $m_A$ をもつ。$A,B\in P$ について、$m_{A\wedge B}\in P_{\le A}$ から $m_A\le m_{A\wedge B}\le A\wedge B$、よって $m_A\in P_{\le A\wedge B}$ で $m_{A\wedge B}\le m_A$ となり、$m_A=m_{A\wedge B}=m_B$ である。したがって $P$ は最小元をもつ。$P_{\le A}\cong\mathcal{P}(\{1,\dots,r\})$ のもとで原子は一点集合に対応するので、$V(A)$ は $r$ 元集合である。$\mathcal{P}(\{1,\dots,r\})$ の元はその下にある一点集合で決まるので、$B\le A$ となる $B$ は $V(B)\subset V(A)$ で決まり、$V(A)$ の任意の部分集合 $T$ に対し $V(B)=T$ となる $B\le A$ がある。
$A\le B\iff V(A)\subset V(B)$ を示す。$\Rightarrow$ は明らかである。$V(A)\subset V(B)$ とし、$C:=A\wedge B$ とおく。原子 $v$ が $v\le A$ かつ $v\le B$ なら $v\le C$ なので、$V(C)=V(A)\cap V(B)=V(A)$ である。$C$ と $A$ はともに $P_{\le A}$ の元で $V(C)=V(A)$ なので、上の一意性から $C=A$、すなわち $A\le B$ である。とくに $A\mapsto V(A)$ は単射で、順序を両方向に保つ。
$\Delta(P)$ が単体複体であること:原子 $v$ について $V(v)=\{v\}$ なので一点集合はすべて入る。$T\subset V(A)$ なら $V(B)=T$ となる $B\le A$ があるので $T\in\Delta(P)$ である。$\square$

この対応のもとで、単体 $A$ の階数は (b) の $r$、部屋は $P$ の極大元、$A$ の切子面は $A$ のすぐ下の元($B< A$ で、間に他の元がないもの)である。Gar97 §3.1 の命題(p. 34)は、空でない単体だけを考えた同じ内容の特徴づけである。

リンクと星

リンクの部屋と壁面

$\Delta$ を階数 $r$ の部屋複体、$A$ を階数 $k\le r-1$ の単体とする。

  1. $B\mapsto A\cup B$ は、$\operatorname{lk}_\Delta(A)$ から $A$ を含む単体の全体への、包含関係についての順序同型である。
  2. $\operatorname{lk}_\Delta(A)$ の極大な単体は、$A$ を含む部屋 $C$ による $C\setminus A$ の形のものであり、どれも階数 $r-k$ である。$\operatorname{lk}_\Delta(A)$ の任意の単体はそのどれかに含まれる。
  3. $\operatorname{lk}_\Delta(A)$ の極大な単体の切子面 $P$ について、$P$ を含む $\operatorname{lk}_\Delta(A)$ の極大な単体の個数は、$\Delta$ の壁面 $A\cup P$ を含む部屋の個数に等しい。とくに $\Delta$ が薄い(厚い)なら、$P$ はちょうど 2 つ(3 つ以上)の極大な単体に含まれる。
  4. $A$ を含む部屋 $C,D$ について、$C\setminus A$ と $D\setminus A$ が隣接することと、$C$ と $D$ が隣接することは同値である。

1:$B\in\operatorname{lk}_\Delta(A)$ なら $A\cup B$ は $A$ を含む単体である。逆に $A$ を含む単体 $B'$ について、$B'\setminus A$ は単体で $A$ と交わらず、$A\cup(B'\setminus A)=B'$ なので、$B'\mapsto B'\setminus A$ が逆写像である。$A$ と交わらない集合の間では $B_1\subset B_2\iff A\cup B_1\subset A\cup B_2$ である。
2:$B\in\operatorname{lk}_\Delta(A)$ について、$A\cup B$ はある部屋 $C$ に含まれ、$B\subset C\setminus A\in\operatorname{lk}_\Delta(A)$ である。$C\setminus A\subset B''\in\operatorname{lk}_\Delta(A)$ なら $C\subset A\cup B''$ で、$C$ の極大性から $A\cup B''=C$、すなわち $B''=C\setminus A$ なので、$C\setminus A$ は極大である。極大な $B$ は、それを含む $C\setminus A$ に等しい。階数は $r-k$ である。
3:$P=(C\setminus A)\setminus\{v\}$ とすると、1・2 により、$P$ を含む極大な単体は、$A\cup P=C\setminus\{v\}$ を含む部屋 $D$ による $D\setminus A$ と 1 対 1 に対応する。$v\notin A$ なので $C\setminus\{v\}$ は $A$ を含む壁面である。
4:$C\ne D$ と $C\setminus A\ne D\setminus A$ は同値で、$(C\setminus A)\cap(D\setminus A)=(C\cap D)\setminus A$ である。$A\subset C\cap D$ なので、$C\cap D$ の階数が $r-1$ であることと、$(C\cap D)\setminus A$ の階数が $r-k-1$ であることは同値である。$\square$

3 により、$\Delta$ が薄い(厚い)とき、$\operatorname{lk}_\Delta(A)$ が部屋複体ならそれも薄い(厚い)。$\operatorname{lk}_\Delta(A)$ が部屋複体であるための条件は回廊でつながることだけで、4 により、それは「$A$ を含む任意の 2 部屋が、$A$ を含む部屋だけからなる回廊で結ばれる」ことと同値である。この条件は自動的には成り立たない(ex-chc-link-fails)。Coxeter 複体では単体 $wW_I$ のリンクは Coxeter 系 $(W_I,I)$ の Coxeter 複体と同型であり、厚い建物では単体のリンクはまた厚い建物になる(Gar97 §4.4 の 2 つの命題、p. 57。この記事では証明しない)。星 $\operatorname{st}_\Delta(A)$ の部屋は $A$ を含む部屋で、1 により $\operatorname{st}_\Delta(A)$ の単体の配置は $\operatorname{lk}_\Delta(A)$ で読み取れる。

リンクが部屋複体にならない例

4 つの三角形 $T_1=\{a,b,c\}$、$T_2=\{b,c,d\}$、$T_3=\{c,d,e\}$、$T_4=\{d,e,a\}$ とその面からなる単体複体 $\Delta$ を考える。$T_1,T_2$ は $\{b,c\}$、$T_2,T_3$ は $\{c,d\}$、$T_3,T_4$ は $\{d,e\}$ を共有して隣接するので、$\Delta$ は階数 $3$ の部屋複体である(帯の両端を頂点 $a$ で貼り合わせた形)。頂点 $a$ を含む単体は $T_1,T_4$ とその面だけなので、$\operatorname{lk}_\Delta(\{a\})$ は 2 本の辺 $\{b,c\}$、$\{d,e\}$ とその面からなる。この 2 辺は共通の頂点をもたず隣接しないので、リンクは部屋複体でない。$a$ を含む部屋 $T_1$ と $T_4$ は $\Delta$ では回廊で結ばれるが、その回廊は $a$ を含まない $T_2,T_3$ を通る。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
一意性補題の「$\Sigma$ のどの壁面も高々 2 つの部屋に含まれる」$\Delta=\Sigma$ を完全グラフ $K_4$ の複体とし、$f_1=\mathrm{id}$、$f_2$ を 2 頂点の入れ替え$f_1=f_2$
一意性補題の「非退化」$\Delta=\Sigma$ を 4 頂点の閉路とし、$f_1=\mathrm{id}$、$f_2$ を折り畳み$f_1=f_2$
「$\Delta$ は Coxeter 複体か建物」(一般の部屋複体にする)ex-chc-link-fails の頂点 $a$ のリンク単体のリンクは部屋複体
表の反例の確かめ

各行で、外した条件のほかは成り立ち、右の結論が成り立たないことを確かめる。

各行の確かめを開く

1 行目:$K_4$ の頂点を $a,b,c,d$ とし、$f_2$ を $c$ と $d$ を入れ替える写像とする。$f_2$ は同型なので非退化な部屋複体の射で、部屋 $\{a,b\}$ の各頂点で $f_1$ と一致するが、$f_1\ne f_2$ である。$K_4$ では各壁面(頂点)が 3 つの部屋(辺)に含まれる。

2 行目:閉路の頂点を $a,b,c,d$(辺 $ab,bc,cd,da$)とし、$f_2(a)=a$、$f_2(b)=b$、$f_2(c)=a$、$f_2(d)=b$ とする。各辺の像は辺 $\{a,b\}$ なので $f_2$ は部屋複体の射で、部屋 $\{a,b\}$ の頂点で $f_1=\mathrm{id}$ と一致するが、$f_1\ne f_2$ である。隣接する部屋 $\{a,b\},\{b,c\}$ の像がともに $\{a,b\}$ なので $f_2$ は非退化でない。$\Sigma$ は薄い。

3 行目:ex-chc-link-fails のとおり。$\Delta$ は部屋複体で、リンクの極大な単体の階数はそろい、どの単体もある極大な単体に含まれる(prop-chc-link の 2)が、回廊でつながらない。Coxeter 複体は薄く、建物の壁面は(それを含むアパートメントが薄いので)2 つ以上の部屋に含まれる。$\Delta$ の壁面 $\{a,b\}$ は $T_1$ だけに含まれるので、$\Delta$ は Coxeter 複体でも建物でもない。

関連項目

参考文献

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