被覆次数(degree)とは、コンパクトかつ連結なRiemann面の間の非定数正則写像に対し、臨界値でない点の逆像の個数として定まる正の整数である。臨界値の上では各逆像点を局所次数で重みづけると、その和が被覆次数に一致する。双正則写像の次数は1、Riemann球面上の冪写像 $z\mapsto z^n$ の次数は $n$、複素トーラスの $n$ 倍写像の次数は $n^2$ であり、合成に対して次数は乗法的である。
$X,Y$ をコンパクトかつ連結な リーマン面、$f\colon X\to Y$ を定数でない正則写像とする。$f$ の臨界点全体を $C_f\subset X$、臨界値(分岐値)全体を $B_f:=f(C_f)\subset Y$ とし、$R_f:=f^{-1}(B_f)$ とおく。このとき
$$
f|_{X\setminus R_f}\colon X\setminus R_f\longrightarrow Y\setminus B_f
$$
は有限枚の被覆写像になる。$y\in Y\setminus B_f$ に対する逆像の濃度 $\#f^{-1}(y)$ は $y$ によらない。この一定値を $f$ の被覆次数(degree)といい、$\deg(f)$ と書く。Mir95 第II章を参照。
$C_f$ は臨界点そのものの集合だが、$R_f$ は臨界値の上にあるファイバー全体であり、臨界点でない点を含むことがある。この二つを区別する。
被覆次数は、一般の被覆写像の枚数を、分岐を許す正則写像へ拡張した量である。臨界値の上では異なる逆像点が合流して見かけの点数が減るが、各点を局所次数で重みづければ同じ次数が回復する。
$x\in X$ と $y=f(x)$ をとる。$x,y$ をそれぞれ原点に移す局所座標を適切に選ぶと、$f$ は
$$
w=z^{e_x(f)}
$$
の形に書ける。正の整数 $e_x(f)$ を $x$ における局所次数という。$e_x(f)>1$ であることと $x$ が臨界点であることは同値である。Mir95 第II章を参照。
$f\colon X\to Y$ が双正則なら、各 $y\in Y$ の逆像は1点であり、$\deg(f)=1$ である。恒等写像はその特別な場合である。
$\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ 上の $f(z)=z^n$($n\geq2$、$f(\infty)=\infty$)は次数 $n$ をもつ。$y\notin\{0,\infty\}$ なら $z^n=y$ は相異なる $n$ 個の解をもつ。$0$ と $\infty$ の逆像はそれぞれ1点だが、そこでの局所次数は $n$ である。
格子 $\Lambda\subset\mathbb{C}$ と整数 $n\geq2$ に対し、複素トーラス $X=\mathbb{C}/\Lambda$ 上の写像
$$
[z]\longmapsto[nz]
$$
は分岐をもたず、次数は $n^2$ である。実際、その核は $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^2$ と同型であり、各ファイバーは核の平行移動である。これは「次数が2以上なら分岐する」という含意を破る反例である。
定数写像 $f(x)=y_0$ では、$f^{-1}(y_0)=X$ である一方、$y\neq y_0$ では $f^{-1}(y)=\emptyset$ である。したがって一般の点の逆像を一定の有限個数として数えられない。これは「任意の正則写像に被覆次数が定まる」という主張の反例であり、定義で非定数性を仮定する理由である。
$y\in Y\setminus B_f$ に対する $\#f^{-1}(y)$ は有限で、$y$ によらない。
非定数正則写像の臨界点は孤立しているので、コンパクトな $X$ 上では有限個しかない。したがって $B_f$ も有限集合であり、連結な曲面 $Y$ から有限個の点を除いた $Y\setminus B_f$ は連結である。また非定数正則写像は開写像である一方、コンパクトな $X$ の像 $f(X)$ はHausdorff空間 $Y$ の閉集合である。よって $f(X)$ は連結な $Y$ の空でない開かつ閉な部分集合であり、$f$ は全射である。
$f$ はコンパクト空間からHausdorff空間への連続写像なので固有である。また $X\setminus R_f$ 上では局所双正則である。よって上の制限写像は固有な局所同相、したがって有限枚の被覆写像である。被覆写像のファイバーの濃度は底空間上で局所一定であり、底空間 $Y\setminus B_f$ が連結なので一定である。
任意の $y\in Y$ について
$$
\deg(f)=\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)
$$
が成り立つ。
$f^{-1}(y)=\{x_1,\ldots,x_r\}$ とし、$e_j=e_{x_j}(f)$ とおく。各 $x_j$ の互いに交わらない座標近傍 $U_j$ と、$y$ の十分小さい円板近傍 $D$ を選ぶと、$f^{-1}(D)$ は $U_1,\ldots,U_r$ の非交和になり、$U_j$ 上の写像は局所座標で $w=z^{e_j}$ と書ける。
$D$ 内の臨界値でない点 $y'$ をとる。方程式 $z^{e_j}=w(y')$ は $U_j$ 内に相異なる $e_j$ 個の解をもつから、
$$
\#f^{-1}(y')=\sum_{j=1}^r e_j
$$
である。左辺は被覆次数に等しいので、主張を得る。Mir95 第II章の局所正規形による標準的議論である。
コンパクトかつ連結なRiemann面の間の非定数正則写像 $f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ に対し、
$$
\deg(g\circ f)=\deg(g)\deg(f)
$$
である。
$B_f\subset Y$、$B_g\subset Z$ をそれぞれ $f,g$ の臨界値集合とする。有限集合 $B_g\cup g(B_f)$ に属さない点 $z\in Z$ をとる。すると $g^{-1}(z)$ は $\deg(g)$ 個の点からなり、その各点 $y$ は $f$ の臨界値でないので $f^{-1}(y)$ は $\deg(f)$ 個の点からなる。これらのファイバーは互いに交わらないから、
$$
\#(g\circ f)^{-1}(z)=\sum_{y\in g^{-1}(z)}\#f^{-1}(y)
=\deg(g)\deg(f).
$$
左辺は $g\circ f$ の被覆次数である。
被覆次数と局所次数は、分岐の総量と種数を結ぶ Riemann–Hurwitzの公式 の基礎になる。
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