冪級数(power series)とは、実数 $c$ と係数の列 $(a_n)$ から作った級数 $\sum_{n\geq0}a_n(x-c)^n$ のことであり、「次数が無限の多項式」として関数を表す。収束する点全体は $c$ を中心とする区間で、その半径が収束半径 $R$ である。$R>0$ のとき、$0<r<R$ なら $[c-r,c+r]$ 上で一様収束し、和は収束区間 $(c-R,c+R)$ 上で連続かつ何回でも微分でき、項ごとに微分・積分してよい。特に係数は $a_n=f^{(n)}(c)/n!$ と和 $f$ から決まる。指数関数・対数関数・三角関数などの基本的な関数は冪級数で表されるが、何回でも微分できる関数がすべて冪級数で表せるわけではない($e^{-1/x^2}$)。
$|x|<1$ のとき、等比級数 $1+x+x^2+x^3+\cdots$ は $\dfrac1{1-x}$ に収束する。たとえば $x=1/2$ なら $1+\frac12+\frac14+\cdots=2$ である。この等式の両辺を、多項式を微分するときと同じように項ごとに微分すると
$$
1+2x+3x^2+4x^3+\cdots=\frac1{(1-x)^2}\qquad(|x|<1)
$$
という等式が得られ、実際に正しい(ex-pser-geometric)。$x=1/2$ を代入すると $\sum_{n\geq1}n/2^{n-1}=4$ である。また $1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots$ はすべての実数 $x$ で収束し、$x=1$ では部分和が $1+1+\frac12+\frac16+\frac1{24}+\frac1{120}=2.71666\ldots$ と、ネイピア数 $e=2.71828\ldots$ に近づいていく。このように $x$ の冪を無限に足し合わせた式を冪級数という。冪級数は「次数が無限の多項式」であり、収束する範囲の内側では、多項式と同じように足し、掛け、項ごとに微分・積分してよい。本記事の主題はこのことの証明である。
以下、実数 $c$ と実数列 $(a_n)_{n\geq0}$ を固定する。$(x-c)^0:=1$ と約束する($x=c$ のときも $1$)。
実数 $c$ と実数の列 $(a_n)_{n\geq0}$ から作った、変数 $x$ についての級数
$$
\sum_{n=0}^{\infty}a_n(x-c)^n=a_0+a_1(x-c)+a_2(x-c)^2+\cdots
$$
を、$c$ を中心とし $a_n$ を係数とする冪級数(power series)という。この級数が収束する実数 $x$ 全体の集合を $D$ とし、$x\in D$ に和を対応させる関数
$$
f\colon D\to\mathbb{R},\qquad f(x):=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(x-c)^n
$$
を冪級数の和(和の関数)という。
中心 $x=c$ では $n\geq1$ の項がすべて $0$ なので、どの冪級数も収束し、和は $a_0$ である。したがって $D$ は空でない。係数が有限個を除いて $0$ の冪級数は多項式にほかならない。
係数・中心・変数を複素数にしたもの $\sum a_n(z-c)^n$ も冪級数といい、以下の結果のうち微分に関わらないもの(収束する範囲、一様収束、連続性、和と積)は、絶対値を複素数の絶対値に、区間を円板に読み替えてそのまま成り立つ(rem-pser-complex)。
冪級数という名前の近い概念との役割分担を述べておく。形式的冪級数は収束を問わず、係数の列そのものを代数的に扱うものであり、ここでは扱わない。収束する冪級数全体がなす環(収束冪級数環)は 収束冪級数 の主題である。冪級数が収束する範囲を 1 つの数で表す収束半径の存在と、係数から収束半径を求める公式(Cauchy–Hadamard の公式)は、収束半径 の記事で証明されている。本記事は、実変数の冪級数の和を関数として扱い、連続性・項別微分・項別積分・係数の一意性を示す。
冪級数の第 $n$ 項は $a_n(x-c)^n$ であり、中心からの距離 $|x-c|$ が小さいほど、次数の高い項は急速に小さくなる。十分中心に近いところでは、冪級数は等比級数 $\sum Mq^n$($0\leq q<1$)で上から押さえられ、「ほとんど有限和」のようにふるまう。有限和なら、足し算・掛け算・微分・積分を項ごとに行ってよいのは当然である。冪級数でもそれが許されるのは、この等比級数による押さえが中心からの距離だけで決まり、$x$ に一様に効くからである(thm-pser-uniform)。一方、収束する範囲の端では押さえが効かず、項ごとの操作で収束・発散が変わりうる(ex-pser-endpoint)。
以下の例では、後の thm-pser-differentiation(項別微分)と thm-pser-integration(項別積分)を使う。
$\sum_{n\geq0}x^n$ は $|x|<1$ で $\frac1{1-x}$ に収束し(級数 の記事の定理「等比級数の和」)、$|x|\geq1$ では項が $0$ に近づかないので発散する。収束する集合は $D=(-1,1)$、和は $f(x)=\frac1{1-x}$ である。thm-pser-differentiation により、$|x|<1$ で
$$
\sum_{n\geq1}nx^{n-1}=f'(x)=\frac1{(1-x)^2}
$$
であり、両辺に $x$ を掛けると $\sum_{n\geq1}nx^n=\frac{x}{(1-x)^2}$ を得る。$x=\frac12$ では $\sum_{n\geq1}\frac n{2^n}=\frac{1/2}{1/4}=2$ である。同じ結果は、積の公式(prop-pser-algebra)で $\bigl(\sum x^n\bigr)^2$ を計算しても得られる。積の第 $n$ 項の係数は $\sum_{i=0}^{n}1\cdot1=n+1$ なので $\frac1{(1-x)^2}=\sum_{n\geq0}(n+1)x^n$ であり、添字をずらせば上の式と一致する。
$E(x):=\sum_{n\geq0}\dfrac{x^n}{n!}$ を考える。$x\ne0$ なら隣り合う項の絶対値の比は $\frac{|x|}{n+1}\to0$ なので、絶対収束 の記事の定理「比判定法(一般の項)」により、すべての実数 $x$ で絶対収束する。すなわち $D=\mathbb{R}$ である。thm-pser-differentiation により
$$
E'(x)=\sum_{n\geq1}\frac{nx^{n-1}}{n!}=\sum_{n\geq1}\frac{x^{n-1}}{(n-1)!}=E(x)
$$
であり、$E(0)=1$ である。この関数が指数関数であり、$E(1)=e$ である(指数関数・ネイピア数の記事)。$x=0.1$ では、はじめの 4 項の和 $1+0.1+0.005+0.000166\ldots=1.1051666\ldots$ と $E(0.1)=1.1051709\ldots$ の差は $4.3\times10^{-6}$ 未満である。
$|t|<1$ で $\frac1{1+t}=\sum_{n\geq0}(-1)^nt^n$ である(公比 $-t$ の等比級数)。$-1< x<1$ について、thm-pser-integration により $0$ から $x$ まで項別に積分すると
$$
\int_0^x\frac{dt}{1+t}=\sum_{n\geq0}\frac{(-1)^n}{n+1}x^{n+1}=x-\frac{x^2}2+\frac{x^3}3-\cdots
$$
である。$\frac{d}{dt}\log(1+t)=\frac1{1+t}$(対数関数 の記事の定理「対数関数の導関数」と連鎖律)なので、微分積分学の基本定理 により左辺は $\log(1+x)$ である。$x=\frac12$ では右辺の和は $\log\frac32=0.405465\ldots$ である。この冪級数は $x=1$ でも収束し(交代級数。級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」)、そこでの和が $\log2$ であることは、端点での連続性を述べる 収束半径 の記事の定理「Abelの連続性定理」から従う。項別積分の定理そのものは端点 $x=1$ について何も述べない。
$f(x):=\sum_{n\geq1}\dfrac{x^n}{n^2}$ は、$|x|\leq1$ で $\bigl|\frac{x^n}{n^2}\bigr|\leq\frac1{n^2}$ なので $[-1,1]$ の各点で絶対収束し、$|x|>1$ では項が $0$ に近づかないので発散する。収束する集合は $D=[-1,1]$ である。項別に微分した $\sum_{n\geq1}\frac{x^{n-1}}{n}$ は、$x=1$ で調和級数になって発散し、$x=-1$ では符号が交互に変わる級数 $\sum_{n\geq1}(-1)^{n-1}/n$ になり、Leibniz の判定法により収束する。収束する集合は $[-1,1)$ である。もう一度項別に微分した $\sum_{n\geq2}\frac{n-1}{n}x^{n-2}$ は、$x=\pm1$ で項の絶対値が $\frac{n-1}n\to1$ なので両端で発散し、収束する集合は $(-1,1)$ である。
収束半径はどれも $1$ で変わらない(thm-pser-differentiation)が、端点での収束は変わる。この例は「冪級数が点 $x_0$ で収束すれば、項別に微分した級数も $x_0$ で収束する」という含意を破る($x_0=1$)。端点での振る舞いが級数ごとに違うことは、収束半径 の記事の例「反例:境界での振る舞いは収束半径で決まらない」でも扱われている。
$\varphi(x):=e^{-1/x^2}$($x\ne0$)、$\varphi(0):=0$ とおく。Taylorの定理 の記事の命題「何回でも微分できて導関数がすべて0になる関数」により、$\varphi$ は $\mathbb{R}$ 上で何回でも微分でき、すべての $k$ で $\varphi^{(k)}(0)=0$ である。ある $r>0$ と冪級数 $\sum a_nx^n$ があって、$(-r,r)$ 上で $\varphi(x)=\sum a_nx^n$ となったとすると、cor-pser-coefficients により $a_n=\varphi^{(n)}(0)/n!=0$ なので $(-r,r)$ 上で $\varphi=0$ となる。しかし $x\ne0$ では $\varphi(x)>0$ なので矛盾である。
$\varphi$ は「何回でも微分できる」という性質を満たすが、「$0$ の近くで $0$ を中心とする冪級数の和に等しい」という性質を満たさない。したがって、何回でも微分できる関数が冪級数で表せるとは限らない。
一様収束についても注意がある。thm-pser-uniform は、収束区間 $(c-R,c+R)$ より少し内側の閉区間での一様収束を述べるが、収束区間全体での一様収束は一般に成り立たない。$\sum x^n$ は $(-1,1)$ 全体では一様収束しない(一様収束 の記事の例「反例:等比級数は開区間全体では一様収束しない」)。
ある $x_0\ne c$ について数列 $\bigl(a_n(x_0-c)^n\bigr)_{n\geq0}$ が有界、すなわちある $M\geq0$ があってすべての $n$ で $|a_n|\,|x_0-c|^n\leq M$ であるとする。このとき、$0\leq r<|x_0-c|$ を満たす任意の実数 $r$ について、$\sum_n|a_n|r^n$ は収束し、冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ は閉区間 $[c-r,c+r]$ の各点で絶対収束し、この閉区間上で一様収束する。
$q:=r/|x_0-c|$ とおくと $0\leq q<1$ である。$|x-c|\leq r$ なら
$$
|a_n(x-c)^n|\leq|a_n|r^n=|a_n|\,|x_0-c|^n\,q^n\leq Mq^n
$$
である。$\sum_nMq^n$ は公比 $q$ の等比級数なので収束する。級数 の記事の定理「比較判定法」により $\sum_n|a_n|r^n$ は収束する。また $M_n:=Mq^n$ は $x$ によらないので、一様収束 の記事の定理「Weierstrassの優級数判定法」により、冪級数は $[c-r,c+r]$ の各点で絶対収束し、$[c-r,c+r]$ 上で一様収束する。
冪級数が点 $x_0$ で収束すれば、項 $a_n(x_0-c)^n$ は $0$ に近づき(級数 の記事の命題「収束する級数の項は0に近づく」)、収束する数列は有界なので(数列の極限 の記事の命題「収束列の有界性」)、prop-pser-abel-lemma の仮定が満たされる。
1:$|x-c|< R$ とする。$R$ は上限なので、$|x-c|<|x_0-c|$ となる $x_0\in D$ がある。冪級数は $x_0$ で収束するので、上の注意により $(a_n(x_0-c)^n)$ は有界である。prop-pser-abel-lemma を $r:=|x-c|$ に使うと、冪級数は $x$ で絶対収束する。
2:$x\in D$ なら上限の定義により $|x-c|\leq R$ である。したがって $|x-c|>R$ なら $x\notin D$、すなわち冪級数は $x$ で発散する。
3:1 から $(c-R,c+R)\subset D$、2 から $D\subset[c-R,c+R]$ である。$R=\infty$ なら 1 により $D=\mathbb{R}$、$R=0$ なら 2 により $D=\{c\}$ である。$(c-R,c+R)$ と $[c-R,c+R]$ の間にある集合は、端点 $c\pm R$ を含むか含まないかの違いしかないので区間である。
最後の主張:収束半径 の記事は、実冪級数についても「$|x-c|< R$ で絶対収束し、$|x-c|>R$ で発散する」という 2 条件を満たす $R\in[0,\infty]$ を収束半径と定義し、同記事の定理「収束半径の存在と一意性」はそのような $R$ がただ 1 つであることを示している(一意性の証明は実数の点 $c+t$ だけを使う)。1・2 により上の $R$ はこの 2 条件を満たすので、収束半径に等しい。
以下、$R$ は冪級数の収束半径を表す。係数から $R$ を求めるには、収束半径 の記事の定理「Cauchy–Hadamardの公式」$1/R=\limsup_{n\to\infty}|a_n|^{1/n}$ などを使う。$R>0$ のとき、開区間 $(c-R,c+R)$($R=\infty$ なら $\mathbb{R}$)を収束区間という。3 により、冪級数が収束する集合は、収束区間に端点をいくつか加えたものであり、端点で収束するかどうかは級数ごとに違う(ex-pser-endpoint)。
冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ の収束半径を $R>0$ とする。$0< r< R$ を満たす任意の実数 $r$ について、$\sum_n|a_n|r^n$ は収束し、冪級数は $[c-r,c+r]$ 上で一様収束する。和 $f$ は収束区間 $(c-R,c+R)$ 上で連続である。
$r< r'< R$ となる実数 $r'$ をとり、$x_0:=c+r'$ とおく。thm-pser-domain の 1 により冪級数は $x_0$ で収束するので、$(a_n(x_0-c)^n)$ は有界である。$r< r'=|x_0-c|$ なので、prop-pser-abel-lemma により $\sum|a_n|r^n$ は収束し、冪級数は $[c-r,c+r]$ 上で一様収束する。
部分和 $s_k(x):=\sum_{n=0}^{k}a_n(x-c)^n$ は多項式なので連続である。一様収束 の記事の定理「連続関数の一様極限の連続性」により、$f$ を $[c-r,c+r]$ に制限した関数は連続である。$|x-c|< R$ となる $x$ をとり、$|x-c|< r< R$ となる $r$ を選ぶと、$x$ は $[c-r,c+r]$ の内点である。$\delta>0$ を $(x-\delta,x+\delta)\subset[c-r,c+r]$ となるようにとれば、$x$ の近くの点はすべてこの閉区間に入るので、制限した関数の $x$ での連続性から $f$ の $x$ での連続性が従う。
このように、収束区間に含まれる有界閉区間のそれぞれの上で一様収束することを広義一様収束という。収束区間全体で一様収束するとは限らないことは、ex-pser-flat の後の段落で述べた。
冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ の収束半径を $R>0$ とし、和を $f$ とする。収束区間の任意の点 $x$ について
$$
\int_c^xf(t)\,dt=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a_n}{n+1}(x-c)^{n+1}
$$
が成り立つ。右辺の冪級数(項別に積分した冪級数)の収束半径も $R$ である。
右辺の冪級数の収束半径が $R$ であることは、収束半径 の記事の命題「項別微分した級数の収束半径」による。
$x=c$ なら両辺とも $0$ である。$x\ne c$ とし、$r:=|x-c|$ とおくと $0< r< R$ であり、$c$ と $x$ を端点とする閉区間 $I$ は $[c-r,c+r]$ に含まれる。thm-pser-uniform により、部分和 $s_k$ は $I$ 上で $f$ に一様収束する。各 $s_k$ は多項式なので Riemann積分 可能であり、$\frac{d}{dt}\frac{(t-c)^{n+1}}{n+1}=(t-c)^n$ なので、微分積分学の基本定理 の記事の定理「原始関数による積分の計算」により
$$
\int_c^xs_k(t)\,dt=\sum_{n=0}^{k}\frac{a_n}{n+1}(x-c)^{n+1}
$$
である($x< c$ のときは $\int_c^x:=-\int_x^c$ と約束し、$I=[x,c]$ 上の等式の両辺の符号を変える)。一様収束 の記事の定理「一様収束と積分の交換」により、$f$ は $I$ 上で積分可能で、$\int_c^xs_k\to\int_c^xf$($k\to\infty$)である。したがって右辺の級数の部分和は $\int_c^xf$ に収束する。
冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ の収束半径を $R>0$ とし、和を $f$ とする。$f$ は収束区間 $(c-R,c+R)$ 上で微分可能であり、
$$
f'(x)=\sum_{n=1}^{\infty}na_n(x-c)^{n-1}
$$
が成り立つ。右辺の冪級数(項別に微分した冪級数)の収束半径も $R$ である。
右辺の冪級数の収束半径が $R$ であることは、収束半径 の記事の命題「項別微分した級数の収束半径」による。その和を $g$ とおく。
$|x-c|< R$ となる $x$ をとり、$|x-c|< r< R$ となる $r$ を選んで、有界な開区間 $J:=(c-r,c+r)$ を考える。部分和 $s_k(x)=\sum_{n=0}^{k}a_n(x-c)^n$ は微分可能で、$\frac{d}{dx}(x-c)^n=n(x-c)^{n-1}$(導関数 の記事の命題「整数の冪の導関数」と、$x-c$ との合成についての連鎖律による)から
$$
s_k'(x)=\sum_{n=1}^{k}na_n(x-c)^{n-1}
$$
は項別に微分した冪級数の部分和である。この冪級数の収束半径は $R>r$ なので、thm-pser-uniform により $(s_k')$ は $[c-r,c+r]\supset J$ 上で $g$ に一様収束する。また $s_k(c)=a_0$ なので、数列 $(s_k(c))$ は収束する。一様収束 の記事の定理「一様収束と微分の交換」により、$(s_k)$ は $J$ 上である関数に一様収束し、その関数は $J$ 上で微分可能で導関数は $g$ である。$(s_k)$ は $J$ の各点で $f$ に収束しているので、その関数は $f$ にほかならない。したがって $f'(x)=g(x)$ である。
この証明が使う「一様収束と微分の交換」は導関数の連続性を仮定しない形なので、項別微分した冪級数の和 $g$ が連続であること(thm-pser-uniform から従う)は、ここでは使っていない。
冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ の収束半径を $R>0$ とし、和を $f$ とする。$f$ は収束区間上で何回でも微分でき、$k\geq0$ について
$$
f^{(k)}(x)=\sum_{n=k}^{\infty}n(n-1)\cdots(n-k+1)\,a_n(x-c)^{n-k}
$$
が成り立つ。特に $a_k=\dfrac{f^{(k)}(c)}{k!}$ である。したがって、同じ中心 $c$ をもつ 2 つの冪級数の和が、ある $\varepsilon>0$ について $(c-\varepsilon,c+\varepsilon)$ 上で一致するならば($\varepsilon$ は 2 つの収束半径以下とする)、係数はすべて一致する。
$k$ についての帰納法で示す。$k=0$ は和の定義そのものである。$k$ で成り立つとすると、$f^{(k)}$ は収束半径 $R$ の冪級数 $\sum_{n\geq k}n(n-1)\cdots(n-k+1)a_n(x-c)^{n-k}$ の和である(収束半径は thm-pser-differentiation を $k$ 回使って $R$)。これに thm-pser-differentiation を使うと、$f^{(k)}$ は微分可能で、各項 $(x-c)^{n-k}$ を微分すると $(n-k)(x-c)^{n-k-1}$ になり $n=k$ の項は消えるので、$k+1$ の場合の式を得る。
$x=c$ を代入すると、$n>k$ の項は $(x-c)^{n-k}=0$ で消え、$n=k$ の項 $k!\,a_k$ だけが残るので $f^{(k)}(c)=k!\,a_k$ である。2 つの冪級数の和 $f,g$ が $(c-\varepsilon,c+\varepsilon)$ 上で一致すれば、各点での微分係数はその点の近くの値だけで決まるので $f^{(k)}(c)=g^{(k)}(c)$ であり、係数は一致する。
cor-pser-coefficients は、冪級数がその和の $c$ における Taylor 級数(Taylorの定理)にほかならないことを述べている。逆に、何回でも微分できる関数の Taylor 級数が元の関数を表すとは限らない(ex-pser-flat)。
係数の一意性は、中心に近づく点列の上での一致からも従う。
冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$ の収束半径を $R>0$ とし、和を $f$ とする。収束区間の点列 $(x_j)$ で、すべての $j$ で $x_j\ne c$、$x_j\to c$、$f(x_j)=0$ となるものがあれば、係数はすべて $0$ である。
$0$ でない係数があると仮定し、$a_m\ne0$ となる最小の $m$ をとる。収束区間の点 $x\ne c$ では、$n< m$ の係数は $0$ なので $\sum_{n\geq m}a_n(x-c)^n$ が $f(x)$ に収束し、これを $(x-c)^m$ で割った
$$
g(x):=\sum_{k=0}^{\infty}a_{k+m}(x-c)^k
$$
も収束して $f(x)=(x-c)^mg(x)$ を満たす。$x=c$ でも $g$ は収束するので、$g$ は収束区間 $(c-R,c+R)$ の全体で収束する冪級数の和であり、thm-pser-domain によりその収束半径は $R$ 以上である。thm-pser-uniform により $g$ は $(c-R,c+R)$ 上で連続で、$g(c)=a_m\ne0$ である。一方 $x_j\ne c$ なので $g(x_j)=f(x_j)/(x_j-c)^m=0$ であり、連続性から $g(c)=\lim_{j\to\infty}g(x_j)=0$ となって矛盾する。
2 つの冪級数の差に prop-pser-identity を使えば(差は prop-pser-algebra により冪級数である)、同じ中心をもつ 2 つの冪級数の和が中心に近づく点列の上で一致するだけで、係数はすべて一致する。$x_j\ne c$ の条件は外せない。すべての $j$ で $x_j=c$ とすると、たとえば $f(x)=x$($c=0$)は $f(x_j)=0$ を満たすが係数は $0$ でない。
同じ中心 $c$ をもつ冪級数 $\sum a_n(x-c)^n$、$\sum b_n(x-c)^n$ の収束半径がともに $\rho>0$ 以上であるとし、和を $f,g$ とする。$\alpha$ を実数とし、$d_n:=\sum_{i=0}^{n}a_ib_{n-i}$ とおく。$|x-c|<\rho$ ならば
$$
f(x)+g(x)=\sum_{n=0}^{\infty}(a_n+b_n)(x-c)^n,\qquad\alpha f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\alpha a_n(x-c)^n,\qquad f(x)g(x)=\sum_{n=0}^{\infty}d_n(x-c)^n
$$
が成り立ち、右辺の 3 つの冪級数の収束半径はどれも $\rho$ 以上である。
$|x-c|<\rho$ とする。和と定数倍の式は、級数 の記事の命題「級数の線形性」による。積について、thm-pser-domain の 1 により $\sum a_i(x-c)^i$ と $\sum b_j(x-c)^j$ はともに絶対収束する。絶対収束 の記事の系「Cauchy積の和」を $A_i:=a_i(x-c)^i$、$B_j:=b_j(x-c)^j$ に使うと、$\sum_{i=0}^{n}A_iB_{n-i}=d_n(x-c)^n$ なので、$\sum_nd_n(x-c)^n$ は収束して和は $f(x)g(x)$ である。3 つの冪級数はどれも $|x-c|<\rho$ のすべての点で収束するので、thm-pser-domain により収束半径は $\rho$ 以上である。
収束半径が真に大きくなることもある。$\sum x^n$ と $\sum(-x^n)$ の和は係数がすべて $0$ の冪級数である(収束半径 の記事の例「反例:和の収束半径は大きくなりうる」)。積の公式は、指数関数の指数法則 $e^xe^y=e^{x+y}$ の級数による証明にも使われる(絶対収束 の記事の例「指数法則」)。
係数・中心・変数が複素数の冪級数 $\sum a_n(z-c)^n$ についても、prop-pser-abel-lemma・thm-pser-domain の 1・2・thm-pser-uniform・prop-pser-identity・prop-pser-algebra は、区間 $[c-r,c+r]$ を閉円板 $\{z\mid|z-c|\leq r\}$ に、収束区間を収束円板 $\{z\mid|z-c|< R\}$ に読み替えて、同じ証明で成り立つ。ただし収束する集合は円板と、境界の円周の一部の和集合であり、区間とは限らない。微分については、上の証明が使う平均値の定理が複素数値の関数では成り立たないので、別の証明が必要である。結論は同じで、和は収束円板上の正則関数であり、導関数は項別微分で与えられる(正則関数 の記事の定理「冪級数の正則性」)。実数の係数の冪級数の収束半径は、同じ係数を複素数の冪級数とみたときの収束半径に等しく、実数直線の上では見えない複素数の点で決まることがある(収束半径 の記事の注意「実関数としては滑らかでも収束半径は有限でありうる」)。
冪級数の定義と収束する範囲は Leb §2.6.5(pp. 106–110)にあり、収束半径の存在(Proposition 2.6.10、pp. 107–108)は $n$ 乗根による判定で示されている。和・定数倍・積は Proposition 2.6.12(p. 108、証明の概略は p. 109)である。一様収束と和の連続性は Proposition 6.2.11(p. 240)、項別積分は Corollary 6.2.12(p. 241)、項別微分は Corollary 6.2.13(p. 242、導関数の連続性を仮定する形の交換定理を使う証明)、指数関数の冪級数による定義は Example 6.2.14(p. 242)、$\sum nx^n=x/(1-x)^2$ は Example 6.2.15(p. 242)にある。prop-pser-abel-lemma による収束する範囲の証明と prop-pser-identity は、本記事で証明を与えた。
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