付値判定法(valuative criterion)とは、スキームの射 $f\colon X\to Y$ の分離性と固有性を、付値環 $R$ とその商体 $K$ について射 $\operatorname{Spec}K\to X$ を $\operatorname{Spec}R\to X$ へ延ばす持ち上げの個数で判定する方法である。$X$ が Noether スキームのとき、$f$ が分離的であることは持ち上げがつねに高々 1 つであることと同値であり、さらに $f$ が有限型なら、$f$ が固有であることは持ち上げがつねにただ 1 つ存在することと同値である。証明は、付値環からの射を点と局所環の支配で記述する補題と、準コンパクト射の像が閉であることを特殊化で判定する補題に基づく。
分離射は位相空間の Hausdorff 性に、固有射はコンパクト性にあたる性質である。点列の言葉でいえば、Hausdorff 性は「極限は高々 1 つ」、コンパクト性は「極限が存在する」ことに対応する。スキームでは点列の代わりに、付値環 $R$ のスペクトル $\operatorname{Spec}R$ を「曲線の芽」として使う。$\operatorname{Spec}R$ は生成点(芽の本体)と閉点(芽の極限)をもち($R$ が離散付値環ならこの 2 点だけからなる)、生成点での射が与えられたとき、それを閉点まで延ばせるかどうかで分離性と固有性を判定する。これが付値判定法(valuative criterion)である。
この記事では、$X$ が Noetherスキームの場合に、分離性と固有性の付値判定法を両方とも完全に証明する。2 つの判定法は「付値環からの射をどう記述するか」と「像が閉であることを特殊化で判定する」という同じ 2 つの補題の上に立つので、1 つの記事で扱う。
以下、$R$ を付値環、$K$ をその商体、$\mathfrak{m}_R$ を極大イデアルとし、$T=\operatorname{Spec}R$、$U=\operatorname{Spec}K$、$i\colon U\to T$ を包含 $R\subset K$ が定める射とする。$T$ の生成点 $(0)$ を $t_1$、閉点 $\mathfrak{m}_R$ を $t_0$ と書く。$i$ は $U$ のただ 1 つの点を $t_1$ に送る。
スキームの射 $f\colon X\to Y$ について、射 $u\colon U\to X$ と $s\colon T\to Y$ の組で $f\circ u=s\circ i$ をみたすものを、$f$ に対する付値環の図式という。
$$
\begin{array}{ccc}
U & \xrightarrow{\;u\;} & X\\
{\scriptstyle i}\downarrow & & \downarrow{\scriptstyle f}\\
T & \xrightarrow{\;s\;} & Y
\end{array}
$$
この図式の持ち上げとは、射 $t\colon T\to X$ で $t\circ i=u$ かつ $f\circ t=s$ をみたすものをいう。
体 $k$ 上のスキーム $X$ については、$Y=\operatorname{Spec}k$ ととる。このとき $s$ は $k$ を $R$ に入れる環準同型 $k\to R$ にあたり、持ち上げは $k$ 上の射 $T\to X$ で $U$ への制限が $u$ になるものである。
$f\colon X\to Y$ をスキームの射とし、$X$ を Noether スキームとする。$f$ が分離的であるための必要十分条件は、任意の付値環 $R$ と、$f$ に対する任意の付値環の図式について、持ち上げが高々 1 つであることである。
証明は、次の節の 2 つの補題を準備したあと、prf-valuative-criterion-separated で与える。必要性では対角線の像が閉であることを、十分性では像の閉性を特殊化で判定する補題を使う。
$f\colon X\to Y$ を有限型射とし、$X$ を Noether スキームとする。$f$ が固有であるための必要十分条件は、任意の付値環 $R$ と、$f$ に対する任意の付値環の図式について、持ち上げがただ 1 つ存在することである。
証明は prf-valuative-criterion-proper で与える。持ち上げの存在が普遍閉性に、一意性が分離性に対応する。
どちらの定理でも、$R$ は離散とは限らない任意の付値環を動く($R=K$ の場合も含む)。$X$ が Noether でない場合の形($f$ が準分離的な場合)は 分離射 の定理「分離性の付値判定法」と 固有射 の定理「固有性の付値判定法」に述べられている。
$x_0,x_1\in X$ で $x_0$ が $x_1$ の特殊化($x_0\in\overline{\{x_1\}}$。生成点)のとき、$x_0$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}C$ をとると $x_1$ もそこに入り、$x_0,x_1$ は素イデアル $\mathfrak{p}_0\supset\mathfrak{p}_1$ にあたる。局所環 $\mathcal{O}_{X,x_0}=C_{\mathfrak{p}_0}$ から剰余体 $\kappa(x_1)=\operatorname{Frac}(C/\mathfrak{p}_1)$ への自然な準同型の像
$$
\mathcal{O}_{Z,x_0}=(C/\mathfrak{p}_1)_{\mathfrak{p}_0}\subset\kappa(x_1)\qquad(Z=\overline{\{x_1\}})
$$
は、商体が $\kappa(x_1)$ の局所整域で、極大イデアルは $\mathfrak{m}_{x_0}$ の像である。これは $Z$ に被約な閉部分スキームの構造を入れたときの $x_0$ での局所環であり、$\operatorname{Spec}C$ のとり方によらない。
$(A,\mathfrak{n})$ を局所環、$X$ をスキームとする。射 $g\colon\operatorname{Spec}A\to X$ と、点 $x\in X$ と局所準同型 $\varphi\colon\mathcal{O}_{X,x}\to A$ の組 $(x,\varphi)$ とは、$x=g(\mathfrak{n})$、$\varphi=g$ が閉点で誘導する準同型、によって 1 対 1 に対応する。
要点:$\operatorname{Spec}A$ の開集合で閉点を含むものは全体なので、$g$ は $x$ のアフィン近傍に値をとり、環準同型で書ける。
$A$ の素イデアルはすべて $\mathfrak{n}$ に含まれるから、$\operatorname{Spec}A$ の空でない閉集合はすべて閉点 $\mathfrak{n}$ を含み、閉点を含む開集合は全体である。$x=g(\mathfrak{n})$ のアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}C$ をとると $g^{-1}(V)$ は閉点を含む開集合なので全体であり、$g$ は $V$ に値をとる。スキーム の命題「アフィンスキームへの射と大域切断」により $g$ は環準同型 $\psi\colon C\to A$ と対応する。$x$ は素イデアル $\mathfrak{p}=\psi^{-1}(\mathfrak{n})$ にあたるので、$\psi$ は $C\setminus\mathfrak{p}$ を $A$ の単元に写し、局所準同型 $\varphi\colon C_{\mathfrak{p}}=\mathcal{O}_{X,x}\to A$ を一意に誘導する。逆に $(x,\varphi)$ が与えられれば、$\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}\to X$ が射を与え、閉点を $x$ に写す。2 つの対応は互いに逆であり、$\mathcal{O}_{X,x}$ は $V$ のとり方によらないので、対応も $V$ によらない。$\square$
$X$ をスキームとする。
要点:lem-valuative-criterion-local を $A=K$ と $A=R$ に当て、$R\to K$ が単射であることを使う。
1.$K$ は極大イデアル $0$ の局所環だから、局所準同型 $\mathcal{O}_{X,x_1}\to K$ は $\mathfrak{m}_{x_1}$ を $0$ に送る準同型、すなわち埋め込み $\kappa(x_1)\to K$ と同じものである。2.$t$ に lem-valuative-criterion-local で対応する局所準同型を $\varphi\colon\mathcal{O}_{X,x_0}\to R$($x_0=t(t_0)$)とする。$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x_0}$ の点は $x_0$ の一般化($x_0$ を閉包に含む点)と対応するから、生成点 $t_1$ の像 $x_1$ は $x_0$ の一般化で、素イデアル $\ker\varphi$ にあたる。アフィン近傍 $\operatorname{Spec}C$ で書けば $\ker\varphi=\mathfrak{p}_1C_{\mathfrak{p}_0}$ であり、$\varphi$ は単射 $\mathcal{O}_{Z,x_0}=C_{\mathfrak{p}_0}/\mathfrak{p}_1C_{\mathfrak{p}_0}\to R$ を誘導し、これが商体の埋め込み $\kappa(x_1)\to K$ に延びる。$\varphi$ が局所的なので、この埋め込みのもとで $R$ は $\mathcal{O}_{Z,x_0}$ を支配する。$t\circ i$ は合成 $\mathcal{O}_{X,x_0}\to R\to K$ に対応し、これは $\mathcal{O}_{X,x_0}\to\kappa(x_1)\to K$ に等しいから、1 の組 $(x_1,\kappa(x_1)\to K)$ が対応する。逆に組が与えられれば、$\mathcal{O}_{X,x_0}\to\mathcal{O}_{Z,x_0}\subset R$ は局所準同型で、lem-valuative-criterion-local により $t$ を定める。$R\to K$ が単射なので $\varphi$ は埋め込み $\kappa(x_1)\to K$ から決まり、2 つの対応は互いに逆である。$\square$
位相空間の部分集合 $S$ が特殊化で閉じるとは、$y_1\in S$ と $y_0\in\overline{\{y_1\}}$ から $y_0\in S$ が従うことをいう。閉集合は特殊化で閉じる。
$f\colon X\to Y$ を準コンパクトな射、$W\subset X$ を閉集合とする。$f(W)$ が閉集合であるための必要十分条件は、$f(W)$ が特殊化で閉じることである。
必要性は上で述べた。十分性を示す。$y\in\overline{f(W)}$ をとり、$y$ のアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}C$ をとる。$f$ が準コンパクトなので $f^{-1}(V)$ は有限個のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}D_1,\dots,\operatorname{Spec}D_r$ で覆われ、$W\cap\operatorname{Spec}D_j=V(I_j)$ と書ける。$V$ は $y$ の開近傍だから $y$ は $f(W)\cap V$ の $V$ での閉包に入り、$f(W)\cap V$ は $\operatorname{Spec}(D_j/I_j)$ の像の有限個の和なので、ある $j$ について $y$ は $\operatorname{Spec}E\to\operatorname{Spec}C$($E=D_j/I_j$)の像の閉包に入る。$\theta\colon C\to E$ をこの射の準同型、$J=\ker\theta$ とする。
像は $V(J)$ に含まれる。逆に $c\in C$ が像のすべての点の素イデアルに入るなら、$\theta(c)$ は $E$ のすべての素イデアルに入るので冪零であり、$c^n\in J$ となる。よって像の閉包は $V(J)$ で、$y$ は $J\subset\mathfrak{p}$ をみたす素イデアル $\mathfrak{p}$ にあたる。$J\subset\mathfrak{p}'\subset\mathfrak{p}$ をみたす素イデアルのうち極小なもの $\mathfrak{p}'$ をとる(素イデアルの減少鎖の共通部分は素イデアルなので、Zornの補題により存在する)。$S=C\setminus\mathfrak{p}'$ とおく。局所化は完全なので $(C/J)_{\mathfrak{p}'}\to S^{-1}E$ は単射であり、$(C/J)_{\mathfrak{p}'}\ne0$ だから $S^{-1}E\ne0$ である。$S^{-1}E$ の素イデアルの $E$ への引き戻しを $\mathfrak{q}$ とすると、$\theta^{-1}(\mathfrak{q})$ は $J$ を含み $S$ と交わらないので $J\subset\theta^{-1}(\mathfrak{q})\subset\mathfrak{p}'$ であり、極小性から $\theta^{-1}(\mathfrak{q})=\mathfrak{p}'$ である。よって $\mathfrak{p}'$ にあたる点 $y'$ は $f(W)$ に入り、$y$ は $y'$ の特殊化である。$f(W)$ は特殊化で閉じるので $y\in f(W)$ となり、$f(W)$ は閉である。$\square$
分離性は対角射 $\Delta\colon X\to X\times_YX$ の像が閉であることと同値である(分離射 の命題「対角射はつねにはめ込みである」により、像が閉なはめ込みは閉埋め込みである)。2 つの射影を $p_1,p_2\colon X\times_YX\to X$ と書く。
必要性。 $f$ が分離的で、$t,t'$ が同じ図式 $(u,s)$ の持ち上げであるとする。$f\circ t=s=f\circ t'$ なので射 $h=(t,t')\colon T\to X\times_YX$ が定まり、$h\circ i=(u,u)=\Delta\circ u$ だから $h(t_1)\in\Delta(X)$ である。$\Delta(X)$ は閉で $t_0\in\overline{\{t_1\}}$ だから $h(t_0)\in\Delta(X)$、すなわち $h(t_0)=\Delta(x)$ と書け、$t(t_0)=p_1(h(t_0))=x=p_2(h(t_0))=t'(t_0)$ となる。$t(t_1)=t'(t_1)$ と埋め込み $\kappa(t(t_1))\to K$ はどちらも $u$ から決まるので、lem-valuative-criterion-points の 2 により $t=t'$ である。
十分性。 持ち上げがつねに高々 1 つであるとする。$X$ は Noether なのでその開集合はすべて準コンパクトであり、$\Delta$ は準コンパクトである。lem-valuative-criterion-specialization($W=X$)により、$\Delta(X)$ が特殊化で閉じることを示せばよい。$\xi_1=\Delta(x_1)$ とし、$\xi_0\in\overline{\{\xi_1\}}$ とする。$K=\kappa(\xi_1)$、$Z=\overline{\{\xi_1\}}$ とおくと、$\mathcal{O}_{Z,\xi_0}$ は $K$ の局所部分環なので、それを支配する $K$ の付値環 $R$ が存在する(付値環 の定理「支配付値環の存在」)。lem-valuative-criterion-points の 2 により、射 $h\colon T\to X\times_YX$ で $h(t_0)=\xi_0$ をみたし、$h\circ i$ が組 $(\xi_1,\mathrm{id}_K)$ に対応するものがある。
$t=p_1\circ h$、$t'=p_2\circ h$ とおくと $f\circ t=f\circ t'$ である。$U$ への制限が一致することを確かめる。$p_1\circ\Delta=\mathrm{id}_X$ より、剰余体の準同型の合成 $\kappa(x_1)\xrightarrow{p_1}\kappa(\xi_1)\xrightarrow{\Delta}\kappa(x_1)$ は恒等写像で、体の準同型 $\kappa(\xi_1)\to\kappa(x_1)$ は単射かつ全射、すなわち同型である。$p_2$ についても同じなので、$p_1$ と $p_2$ が誘導する $\kappa(x_1)\to\kappa(\xi_1)$ はともにこの同型の逆写像に等しい。したがって $t\circ i$ と $t'\circ i$ はどちらも組 $(x_1,\ \kappa(x_1)\cong\kappa(\xi_1)=K)$ に対応し、lem-valuative-criterion-points の 1 により等しい。これを $u$ とし $s=f\circ t$ とおくと、$t,t'$ は図式 $(u,s)$ の持ち上げなので、仮定から $t=t'$ である。すると $h=(t,t)=\Delta\circ t$ となり、$\xi_0=h(t_0)=\Delta(t(t_0))\in\Delta(X)$ である。$\square$
最後の段では、点として $p_1(\xi_0)=p_2(\xi_0)$ が分かるだけでは足りない。$X\times_YX$ の点 $\xi$ は、$p_1(\xi)=p_2(\xi)$ でも $\Delta(X)$ に入るとは限らない($Y=\operatorname{Spec}\mathbb{R}$、$X=\operatorname{Spec}\mathbb{C}$ なら $X\times_YX=\operatorname{Spec}(\mathbb{C}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C})$ は 2 点からなり、対角線の像はその一方だけである)。持ち上げが「射として」一意であることを使うのはこのためである。
必要性。 $f$ を固有とし、図式 $(u,s)$ をとる。持ち上げの一意性は thm-valuative-criterion-separated による。存在を示す。底変換 $X_T=X\times_YT$ と射影 $f'\colon X_T\to T$、$q\colon X_T\to X$ を考え、$u$ と $i$ から定まる射を $u'=(u,i)\colon U\to X_T$ とする。$\xi_1=u'(t_1)$、$Z=\overline{\{\xi_1\}}$ とおく。$f$ は普遍閉なので $f'(Z)$ は閉であり、$f'(\xi_1)=t_1$ は $T$ の生成点だから $f'(Z)=T$ である。そこで $\xi_0\in Z$ を $f'(\xi_0)=t_0$ ととる。
剰余体について、合成 $K=\kappa(t_1)\xrightarrow{f'}\kappa(\xi_1)\xrightarrow{u'}K$ は $f'\circ u'=i$ が誘導する恒等写像なので、$\kappa(\xi_1)\to K$ は同型である。これで $\kappa(\xi_1)=K$ と同一視すると、$f'$ が誘導する局所準同型 $R=\mathcal{O}_{T,t_0}\to\mathcal{O}_{X_T,\xi_0}\to\mathcal{O}_{Z,\xi_0}\subset K$ は包含 $R\subset K$ に等しい。よって $R\subset\mathcal{O}_{Z,\xi_0}$ で、$\mathcal{O}_{Z,\xi_0}$ は $R$ を支配する。付値環は支配について極大である。実際、$b\in\mathcal{O}_{Z,\xi_0}\setminus R$ があれば $b^{-1}\in\mathfrak{m}_R\subset\mathfrak{m}_{Z,\xi_0}$ となり、$1=bb^{-1}$ が極大イデアルに入って矛盾する。ゆえに $\mathcal{O}_{Z,\xi_0}=R$ であり、lem-valuative-criterion-points の 2 から射 $t'\colon T\to X_T$ で $t'(t_0)=\xi_0$、$t'\circ i=u'$ をみたすものが得られる。
$f'\circ t'=\mathrm{id}_T$ を確かめる。どちらも閉点を $t_0$ に送り、誘導する局所準同型 $R\to R$ は $K$ への合成がともに包含なので恒等写像である。lem-valuative-criterion-local により $f'\circ t'=\mathrm{id}_T$ である。そこで $t=q\circ t'$ とおくと、$f\circ t=s\circ f'\circ t'=s$、$t\circ i=q\circ u'=u$ であり、$t$ は持ち上げである。
十分性。 持ち上げがつねにただ 1 つ存在するとする。$f$ は有限型で、thm-valuative-criterion-separated により分離的である。普遍閉を示す。任意の射 $Y'\to Y$ による底変換を $f'\colon X'=X\times_YY'\to Y'$、射影を $q\colon X'\to X$ とし、閉集合 $W\subset X'$ をとる。$f'$ は有限型なので準コンパクトであり、lem-valuative-criterion-specialization により $f'(W)$ が特殊化で閉じることを示せばよい($X'$ は Noether でなくてよい)。
$z_1\in W$、$y_1=f'(z_1)$、$y_0\in\overline{\{y_1\}}$ とする。$K=\kappa(z_1)$ とおき、$\kappa(y_1)\subset K$ とみる。$\mathcal{O}_{\overline{\{y_1\}},y_0}\subset\kappa(y_1)$ は $K$ の局所部分環なので、それを支配する $K$ の付値環 $R$ がある。lem-valuative-criterion-points により、組 $(z_1,\mathrm{id}_K)$ に対応する $u'\colon U\to X'$ と、組 $(y_0,y_1,\kappa(y_1)\subset K)$ に対応する $s'\colon T\to Y'$ があり、$f'\circ u'$ と $s'\circ i$ はともに組 $(y_1,\kappa(y_1)\subset K)$ に対応するので等しい。$X$ と $Y$ へ送った図式 $(q\circ u',\ Y'\to Y\text{ と }s'\text{ の合成})$ は $f$ に対する付値環の図式であり、仮定から持ち上げ $t\colon T\to X$ がある。ファイバー積の普遍性により $t'=(t,s')\colon T\to X'$ が定まり、$f'\circ t'=s'$ で、$t'\circ i=(q\circ u',s'\circ i)=u'$ である。とくに $t'(t_1)=z_1$ で、$t'(t_0)\in\overline{\{z_1\}}\subset W$、$f'(t'(t_0))=s'(t_0)=y_0$ となる。よって $y_0\in f'(W)$ である。$\square$
$\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ は、持ち上げを座標で作ることで固有と分かる。$\operatorname{Spec}K$ の点の同次座標 $(a_0:\dots:a_n)$ を、付値 $v(a_j)$ が最小の $a_j$ で割れば、すべての座標が $R$ に入り、$\operatorname{Spec}R$ への延長が得られる。証明は 固有射 の定理「射影射の固有性」にあり、これは上の thm-valuative-criterion-proper の典型的な使い方である。
条件を 1 つずつ外すと、次のように持ち上げの一意性・存在、または結論が崩れる。$k$ は体とする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 分離的 | 原点を 2 重にした射影直線 $X\to\operatorname{Spec}k$ | 持ち上げの一意性:持ち上げが 2 つある |
| 普遍閉 | $\mathbb{A}^1_k\to\operatorname{Spec}k$ | 持ち上げの存在:持ち上げがない |
| 有限型 | $\operatorname{Spec}\overline{\mathbb{Q}}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Q}$ | 持ち上げはつねにただ 1 つあるが、固有でない |
1 行目:$\mathbb{P}^1_k$ の 2 つのコピーを開集合 $\mathbb{P}^1_k\setminus\{0\}$ に沿って貼り合わせた $X$ は、有限型かつ普遍閉で分離的でない(固有射 の例「反例:原点を 2 重にした射影直線」)。$R=k[x]_{(x)}$、$K=k(x)$ とし、$u$ を $K$ の点($x$ を座標とする生成点)とすると、閉点を原点 $0_1$ に送る持ち上げと $0_2$ に送る持ち上げがある。
2 行目:$R=k[y]_{(y)}$、$K=k(y)$、$x=y^{-1}$ とし、$u\colon\operatorname{Spec}K\to\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ を包含 $k[x]\subset K$ で定める。持ち上げは $k$ 準同型 $k[x]\to R$ で $K$ への合成が包含になるもの、すなわち包含 $k[x]\subset R$ であるが、$x=y^{-1}\notin R$ なので存在しない。
3 行目:$X=\operatorname{Spec}\overline{\mathbb{Q}}$ は体のスペクトルなので Noether であり、アフィンなので分離的である。$\overline{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}$ 上無限次の代数拡大で、有限生成 $\mathbb{Q}$ 代数でない(有限生成 $\mathbb{Q}$ 代数である体は $\mathbb{Q}$ 上有限次である。Hilbertの零点定理)から、$X\to\operatorname{Spec}\mathbb{Q}$ は有限型でなく、固有でない。一方、図式は体の準同型 $\overline{\mathbb{Q}}\to K$ と $\mathbb{Q}\subset R$ からなり、$\overline{\mathbb{Q}}$ の像は $\mathbb{Q}$ 上整なので、整閉な $R$(付値環 の命題「付値環は整閉」)に含まれる。よって持ち上げ $\overline{\mathbb{Q}}\to R$ が存在し、$R\to K$ が単射なのでただ 1 つである。
$X$ と $Y$ が Noether スキームで $f$ が有限型なら、2 つの判定法で $R$ を離散付値環に限ってよい(Har77 II 演習 4.11 (b)、p. 108。この記事では証明しない)。その準備として同じ演習の (a) は、Noether 局所整域 $(\mathcal{O},\mathfrak{m})$ と、その商体 $F$ の有限生成拡大体 $L$ に対し、$\mathcal{O}$ を支配する $L$ の離散付値環が存在すると述べる。ただし $\mathcal{O}$ が体のときは、この主張は成り立たないことがある。たとえば $\mathcal{O}=L=F$ なら、$F$ を含む $F$ の付値環は $F$ 自身だけで、離散付値環(体でない)にはならない。$\mathcal{O}$ が体でないという条件を加えて使う。
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