Archimedesの帽子箱定理(Archimedes' hat-box theorem)とは、半径 $r$ の球面を、軸に垂直で間隔 $h$ の 2 つの平行な平面(どちらも球面と交わるか接する)で切り取った球帯の面積が $2\pi rh$ であり、切る位置によらないという定理である。これは、同じ 2 つの平面で外接する円柱から切り取った帯の面積に等しい。球面の点を同じ高さのまま軸から遠ざかる向きに円柱へ移す写像は、緯度と経度で区切った球面の長方形を同じ面積の円柱の長方形に移す。系として、緯度 $\varphi_1$ から $\varphi_2$ までの帯は球面の $\frac{\sin\varphi_2-\sin\varphi_1}{2}$ を占め、半径 1 の球面上に一様にとった点の $z$ 座標は $[-1,1]$ で一様に分布する。正積円筒図法はこの写像を切り開いた地図である。
前提知識: 球の体積と表面積, 一般角と弧度法, 空間座標と球面の方程式
地球を半径 $R$ の球とみなし、北緯 $0^\circ$(赤道)から北緯 $30^\circ$ までの帯と、北緯 $30^\circ$ から北極までの部分を比べる。緯度の幅は $30^\circ$ と $60^\circ$ で、後者の方が 2 倍広い。面積はどうだろうか。
地球の中心を原点、北極の方向を $z$ 軸の正の向きにとる。北緯 $\varphi$ の緯線は平面 $z=R\sin\varphi$ の上にある。北緯 $0^\circ$ の平面は $z=0$、北緯 $30^\circ$ の平面は $z=R\sin30^\circ=\dfrac R2$ である。
(1) 北緯 $0^\circ$ から $30^\circ$ までの帯は、2 つの平面 $z=0$ と $z=\dfrac R2$ にはさまれている。この記事の主定理(thm-hbox-main)を先に使うと、面積は $2\pi R\times\dfrac R2=\pi R^2$ である。
(2) 北緯 $30^\circ$ から北極までの部分は、平面 $z=\dfrac R2$ と $z=R$ にはさまれ、間隔はやはり $\dfrac R2$ である。面積は同じく $\pi R^2$ である。
(3) 球の表面積は $4\pi R^2$ なので、どちらも地球の表面の $\dfrac14$ である。北半球の半分は、赤道から北緯 $30^\circ$ までの間にある。$R=6371\ \mathrm{km}$ とすると、$\pi R^2=1.275\ldots\times10^8\ \mathrm{km}^2$ である。
面積を決めたのは緯度の幅ではなく、2 つの平面の間隔だった。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 帯の面積 $=2\pi\times$ 半径 $\times$ 平面の間隔 | 帽子箱定理 | 面積要素が $r\,d\theta\,dz$ |
| 球面の点を水平に円柱へ移す | 面積を保つ写像 | Jacobi 行列式が $1$ の写像 |
| $z$ 座標を一様にとる乱数 | 球面上の一様な点 | 一様分布の像の分布 |
| 緯線の高さを $\sin\varphi$ にとる地図 | 正積円筒図法 | Lambert の正積円筒図法 |
以下、原点 $O$ を中心とする半径 $r$ の球面 $x^2+y^2+z^2=r^2$ を考え、$z$ 軸を「軸」とよぶ。
$-r\le c_1< c_2\le r$ とする。球面のうち $c_1\le z\le c_2$ を満たす部分を、2 つの平面 $z=c_1$、$z=c_2$ で切り取った 球帯 といい、$h=c_2-c_1$ をその 高さ という。球帯のうち、$c_2=r$ または $c_1=-r$ のもの(極を含むもの)を 球冠 という。
条件 $-r\le c_1< c_2\le r$ は、2 つの平面がどちらも球面と交わる(または接する)ことを表す。球帯は、半円 $\rho=\sqrt{r^2-z^2}$($c_1\le z\le c_2$。$\rho$ は軸からの距離)を軸のまわりに回した回転面である。その面積は、球の体積と表面積 の定義「回転面の面積」のとおり、半円の上の点を結ぶ折れ線を回した円錐台の側面積の和の、分割を細かくしたときの極限とする。
球帯の面積は、球の体積と表面積 で球の表面積を求めたのと同じ補題で求まる。記事の中で完結させるため、補題を再び述べ、証明を短く書く。
軸を含む平面での断面の半円の上に、軸方向の座標が $z_1< z_2$ の 2 点 $P$、$Q$ をとる。弦 $PQ$ の長さを $\ell$、弦の中点と中心 $O$ の距離を $d$ とすると、弦 $PQ$ を軸のまわりに回してできる円錐台の側面積は
$$
2\pi d\,(z_2-z_1),\qquad d=\sqrt{r^2-\frac{\ell^2}{4}}
$$
である。
要点:三角形 $OPQ$ は二等辺三角形なので、弦の中点 $M$ について $OM\perp PQ$ である。これから、三平方の定理で $d^2+\frac{\ell^2}{4}=r^2$、相似な直角三角形の比で「弦の中点の軸からの距離 $\times\ell=d\times(z_2-z_1)$」が出る。円錐台の側面積は「弦の中点が回る円周 $\times\ell$」なので、$2\pi d\,(z_2-z_1)$ になる。
断面の平面に座標 $(z,\rho)$ をとり、$P(z_1,\rho_1)$、$Q(z_2,\rho_2)$、弦の中点を $M(Z,m)$($m=\frac{\rho_1+\rho_2}2\ge0$)とする。$\Delta z=z_2-z_1$、$\Delta\rho=\rho_2-\rho_1$ とおく。
$OP=OQ=r$ なので三角形 $OPQ$ は二等辺三角形で、$OM\perp PQ$ である。よって $Z\,\Delta z+m\,\Delta\rho=0$ であり、直角三角形 $OMP$ で三平方の定理から $d^2+\dfrac{\ell^2}4=r^2$ である。さらに$$m^2\ell^2=m^2\Delta z^2+(m\,\Delta\rho)^2=m^2\Delta z^2+Z^2\Delta z^2=d^2\,\Delta z^2$$で、どれも $0$ 以上なので $m\ell=d\,\Delta z$ である。円錐台の側面積は、底面の半径 $\rho_1$、$\rho_2$、母線の長さ $\ell$ から $\pi(\rho_1+\rho_2)\ell=2\pi m\ell$(球の体積と表面積 の補題「円錐台の側面積」)で、これは $2\pi d\,\Delta z$ に等しい。
半径 $r$ の球面を 2 つの平面 $z=c_1$、$z=c_2$($-r\le c_1< c_2\le r$)で切り取った球帯の面積は
$$
2\pi r\,h\qquad(h=c_2-c_1)
$$
である。特に、球帯の面積は高さ $h$ だけで決まり、切る位置 $c_1$ によらない。
方針:lem-hbox-chord で円錐台の側面積の和を $\sum2\pi d_k\Delta z_k$ と書き、$d_k$ を $r$ に近い数で上下から挟む。
$[c_1,c_2]$ の分割 $c_1=z_0< z_1<\cdots< z_n=c_2$ をとり、$\Delta z_k=z_k-z_{k-1}$、分割の幅($\Delta z_k$ の最大値)を $\lvert P\rvert$ とする。断面の半円の上の点 $P_k(z_k,\rho_k)$($\rho_k=\sqrt{r^2-z_k^2}$)を結ぶ弦 $P_{k-1}P_k$ の長さを $\ell_k$、弦の中点と $O$ の距離を $d_k$ とする。lem-hbox-chord により、円錐台の側面積の和は
$$
A(P)=\sum_{k=1}^n2\pi d_k\,\Delta z_k,\qquad d_k=\sqrt{r^2-\frac{\ell_k^2}4}
$$
である。
段 1(上から)。$d_k\le r$ なので $A(P)\le2\pi r\displaystyle\sum_{k=1}^n\Delta z_k=2\pi rh$ である。
段 2(弦の長さ)。$u,v\ge0$ なら $(u-v)^2\le\lvert u-v\rvert(u+v)=\lvert u^2-v^2\rvert$ なので、
$$
(\rho_k-\rho_{k-1})^2\le\lvert\rho_k^2-\rho_{k-1}^2\rvert=\lvert z_{k-1}^2-z_k^2\rvert=\Delta z_k\lvert z_k+z_{k-1}\rvert\le2r\,\Delta z_k
$$
である。よって $\ell_k^2=\Delta z_k^2+(\rho_k-\rho_{k-1})^2\le\lvert P\rvert^2+2r\lvert P\rvert$ である。
段 3(下から)。$u=\dfrac{\lvert P\rvert^2+2r\lvert P\rvert}{4r^2}$ とおく。$u<1$ なら、段 2 から $d_k\ge\sqrt{r^2-r^2u}=r\sqrt{1-u}\ge r(1-u)$ なので、$A(P)\ge2\pi rh(1-u)$ である。$u\ge1$ なら $2\pi rh(1-u)\le0\le A(P)$ である。どちらの場合も、段 1 と合わせて
$$
0\le2\pi rh-A(P)\le2\pi rh\,u
$$
である。
段 4(極限)。$\lvert P\rvert\to0$ のとき $u\to0$ なので、$A(P)$ は分割の選び方によらず $2\pi rh$ に近づく。よって球帯の面積は $2\pi rh$ である。
$c_1=-r$、$c_2=r$ とすると $h=2r$ で、球の表面積 $4\pi r^2$ に戻る(球の体積と表面積)。両端が極でない球帯($-r< c_1< c_2< r$)なら、回転面の面積の積分の公式からも $2\pi\int_{c_1}^{c_2}r\,dz=2\pi rh$ が得られる(球の体積と表面積 の「球に当てはめる」)。
半径 $1$ の球面で、高さ $\dfrac12$ の 3 つの帯を比べる。
(1) $-\dfrac14\le z\le\dfrac14$(赤道をはさむ帯)、(2) $0\le z\le\dfrac12$、(3) $\dfrac12\le z\le1$(北極を含む球冠)。
thm-hbox-main により、面積はどれも $2\pi\times1\times\dfrac12=\pi$ である。分割を $n$ 等分にした円錐台の側面積の和を計算すると、(2) は $n=4$ で $3.1348\ldots$、$n=16$ で $3.1411\ldots$、(3) は $n=4$ で $3.1068\ldots$、$n=16$ で $3.1388\ldots$ で、どちらも下から $\pi=3.14159\ldots$ に近づく。
半径 1 の球面で赤道をはさむ高さ 0.4 の帯と、外接する円柱の同じ高さの帯
半径 1 の球面で北極を含む高さ 0.4 の球冠と、外接する円柱の同じ高さの帯
図 1 の帯は幅が狭く見えるが、赤道のまわりを長く一周する。図 2 の球冠は縦に長く見えるが、北極に近いほど周が短い。2 つの効果が打ち消し合って、面積は同じ $0.8\pi$ になる。
高さ $h$ の球冠の面積は $2\pi rh$ である。球冠の極を $A$、縁の円の上の点を $P$ とすると、$2\pi rh=\pi\cdot AP^2$、つまり球冠の面積は、半径 $AP$ の円の面積に等しい。
前半は thm-hbox-main で $c_2=r$、$c_1=r-h$ とした場合である。後半:$A=(0,0,r)$ とし、縁の円は平面 $z=r-h$ の上の半径 $\rho$ の円で、$\rho^2=r^2-(r-h)^2=2rh-h^2$ である。$P$ と $A$ の $z$ 座標の差は $h$、軸からの距離の差は $\rho$ なので、三平方の定理から
$$
AP^2=h^2+\rho^2=h^2+2rh-h^2=2rh
$$
である。よって $\pi\cdot AP^2=2\pi rh$ である。
(2) 地球($R=6371\ \mathrm{km}$)で北緯 $60^\circ$ より北の球冠:高さは $h=R-R\sin60^\circ=R\left(1-\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で、面積は $2\pi R^2\left(1-\dfrac{\sqrt3}2\right)=3.41\ldots\times10^7\ \mathrm{km}^2$ である。地球の表面積に対する割合は $\dfrac{2-\sqrt3}{4}=0.0669\ldots$、約 $6.7\%$ である。
半径 $r$ の球面に外接する円柱 $x^2+y^2=r^2$($-r\le z\le r$)を考える。帽子を収める円筒形の箱に、ちょうど収まる球のような配置である。高さ $h$ の円柱の帯は、切り開くと縦 $h$、横 $2\pi r$ の長方形なので、面積は $2\pi rh$ である。thm-hbox-main は、次のように言い換えられる。
球面を 2 つの平行な平面(軸に垂直)で切った帯の面積は、同じ 2 つの平面で外接する円柱から切り取った帯の面積に等しい。
この対応を、点ごとの写像で表す。
球面の点 $(x,y,z)$ のうち、2 つの極 $(0,0,\pm r)$ 以外の点に対し、
$$
\Phi(x,y,z)=\left(\frac{rx}{\sqrt{x^2+y^2}},\ \frac{ry}{\sqrt{x^2+y^2}},\ z\right)
$$
と定める。$\Phi(x,y,z)$ は外接する円柱の上の点で、$(x,y,z)$ を同じ高さ $z$ のまま、軸から遠ざかる向きに水平に動かした点である。
緯度・経度で書くと分かりやすい。球面の点を $(r\cos\varphi\cos\theta,\ r\cos\varphi\sin\theta,\ r\sin\varphi)$(緯度 $\varphi$、経度 $\theta$)と表すと、$\sqrt{x^2+y^2}=r\cos\varphi$ なので
$$
\Phi:\ (r\cos\varphi\cos\theta,\ r\cos\varphi\sin\theta,\ r\sin\varphi)\ \longmapsto\ (r\cos\theta,\ r\sin\theta,\ r\sin\varphi)
$$
である。経度 $\theta$ と高さ $z=r\sin\varphi$ はそのままで、軸からの距離だけが $r\cos\varphi$ から $r$ に変わる。
球面の点を軸から遠ざかる向きに水平に動かして外接する円柱に移す様子を赤の線分で示し、橙の球帯が青の円柱の帯に移る
半径 $1$ の球面で考える。
(1) 赤道上の点 $(1,0,0)$ は円柱の上にあり、$\Phi(1,0,0)=(1,0,0)$ で動かない。
(2) 点 $\left(\dfrac12,\dfrac12,\dfrac{1}{\sqrt2}\right)$($\frac14+\frac14+\frac12=1$ なので球面上)は、$\sqrt{x^2+y^2}=\dfrac1{\sqrt2}$ なので $\Phi\left(\dfrac12,\dfrac12,\dfrac1{\sqrt2}\right)=\left(\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2}\right)$ である。緯度 $45^\circ$、経度 $45^\circ$ の点が、円柱の高さ $\dfrac{1}{\sqrt2}$、角 $45^\circ$ の点に移る。
帯全体の面積が等しいだけでなく、帯を経度で切った一部分でも面積が等しいことを示す。そのために、曲面の図形の面積について、次の性質を認める(球面三角形の面積 で認めた性質 (S2)〜(S4) と同じ種類のもので、(S1) の代わりに (i) を置く)。
球帯 $c_1\le z\le c_2$ のうち、経度が $\alpha\le\theta\le\alpha+\beta$($0<\beta\le2\pi$)の部分を、球面の長方形 とよぶ。円柱の上の $c_1\le z\le c_2$、$\alpha\le\theta\le\alpha+\beta$ の部分は、切り開くと縦 $h=c_2-c_1$、横 $r\beta$(半径 $r$、中心角 $\beta$ の弧の長さ)の長方形で、面積は $r\beta h$ である。$\Phi$ は球面の長方形を、この円柱の長方形に移す(球面の長方形が極を含むときは、極を除いた部分が、円柱の長方形から縁の弧を除いた部分に移る。点や弧の面積は $0$ なので、面積の比較には影響しない)。
球帯 $c_1\le z\le c_2$ の、経度が $\alpha\le\theta\le\alpha+\beta$($0<\beta\le2\pi$)の部分の面積は $r\beta h$ で、$\Phi$ による像(円柱の長方形)の面積に等しい。
要点:球帯を経度 $\dfrac{2\pi}{n}$ ごとに $n$ 等分すると、$n$ 個の部分は回転で移り合うので面積が等しく、どれも $\dfrac{2\pi rh}{n}$ である。経度の幅が $\dfrac{2\pi m}{n}$ ならその $m$ 個分で $r\cdot\dfrac{2\pi m}{n}\cdot h$ になり、一般の幅 $\beta$ は $\dfrac{2\pi m}{n}\le\beta\le\dfrac{2\pi(m+1)}{n}$ で挟んで $n\to\infty$ とする。
経度の幅が $\beta$ の球面の長方形の面積を $F(\beta)$ と書く。(ii) により、軸のまわりに回すと位置 $\alpha$ が変わるだけなので、面積は $\alpha$ によらず $\beta$ だけで決まる。
段 1。正の整数 $n$ について、球帯を経度 $\dfrac{2\pi}n$ ごとの $n$ 個の球面の長方形に分ける。$n$ 個は互いに回転で移り合い、境界は経線の弧だけを共有する。(i)(ii)(iii) から $nF\left(\dfrac{2\pi}n\right)=2\pi rh$、つまり $F\left(\dfrac{2\pi}n\right)=\dfrac{2\pi rh}{n}$ である。
段 2。$1\le m\le n$ のとき、経度の幅 $\dfrac{2\pi m}n$ の長方形は、幅 $\dfrac{2\pi}n$ の長方形 $m$ 個に分かれるので、(iii) から $F\left(\dfrac{2\pi m}{n}\right)=\dfrac{2\pi rhm}{n}=r\cdot\dfrac{2\pi m}n\cdot h$ である。
段 3。一般の $\beta$ について、$\dfrac{2\pi m}n\le\beta\le\dfrac{2\pi(m+1)}n$ となる $m$($0\le m\le n-1$)をとる($\beta=2\pi$ なら段 1 で $n=1$。$m=0$ のときの左端は $0$ と読み、(iv) の「面積は $0$ 以上」を使う)。(iv) から$$r\cdot\frac{2\pi m}n\cdot h\le F(\beta)\le r\cdot\frac{2\pi(m+1)}n\cdot h$$である。左端と右端の差は $\dfrac{2\pi rh}{n}$ で、$\beta$ を含む範囲なので $r\beta h$ もこの間にある。よって $\lvert F(\beta)-r\beta h\rvert\le\dfrac{2\pi rh}n$ で、$n$ はいくらでも大きくとれるので $F(\beta)=r\beta h$ である。
円柱への水平な射影 $\Phi$ は、球面の長方形を、同じ高さの範囲と同じ経度の範囲をもつ円柱の長方形に移し、面積を変えない。
thm-hbox-map は prop-hbox-rect の言い換えである。球面の上の図形を、小さな球面の長方形をたくさん集めたもので内側と外側から近似すると、一般の図形についても $\Phi$ は面積を保つことが分かる。ただし、そのためには曲面の図形の面積を積分で定義する必要があり、この記事では証明しない(大学での見方は下の「大学数学で見る」)。
$\Phi$ は面積を保つが、形は保たない。緯度 $\varphi$ の点のまわりでは、$\Phi$ は緯線の方向(横)に $\dfrac{1}{\cos\varphi}$ 倍に伸ばし、経線の方向(縦)に $\cos\varphi$ 倍に縮める。伸びと縮みが打ち消し合って面積が保たれる。横に伸ばす倍率は、緯線の周 $2\pi r\cos\varphi$ が円柱の周 $2\pi r$ に移ることから分かる。
球面から円柱や平面へ移す方法はほかにもある。図 4 は、軸を含む平面での断面で、同じ点 $P$ を 3 通りに移した様子である。
軸を含む平面での断面で、緯度 55 度の点 P を水平に円柱へ、中心 O から円柱へ、赤道面へ垂直に下ろして、それぞれ移した点を示す
| 移し方 | 緯度 $\varphi$ の点の行き先 | 北緯 $0^\circ$〜$30^\circ$ の帯の像の面積($r=1$) | 面積を保つか |
|---|---|---|---|
| 水平に円柱へ($\Phi$) | 円柱の高さ $\sin\varphi$ | $\pi=3.14\ldots$ | 保つ |
| 中心 $O$ から円柱へ | 円柱の高さ $\tan\varphi$ | $2\pi\tan30^\circ=3.62\ldots$ | 保たない |
| 赤道面へ正射影 | 平面の半径 $\cos\varphi$ の円の上 | $\dfrac\pi4=0.78\ldots$ | 保たない |
帯の本当の面積は、thm-hbox-main から $2\pi\times1\times\dfrac12=\pi$ である。
半径 $1$ の球面の点を、中心 $O$ からの半直線が円柱と交わる点に移す。緯度 $\varphi$ の点 $(\cos\varphi\cos\theta,\cos\varphi\sin\theta,\sin\varphi)$ は、半直線を $\dfrac{1}{\cos\varphi}$ 倍に延ばした点 $(\cos\theta,\sin\theta,\tan\varphi)$ に移る。
(1) 北緯 $0^\circ$〜$30^\circ$ の帯の像は、円柱の $0\le z\le\tan30^\circ=\dfrac1{\sqrt3}$ の帯で、面積は $2\pi\cdot\dfrac{1}{\sqrt3}=3.627\ldots$ である。帯の面積 $\pi=3.141\ldots$ より大きい。
(2) 北緯 $60^\circ$ より北の球冠(面積 $2\pi\left(1-\frac{\sqrt3}2\right)=0.841\ldots$)の像は、円柱の $z\ge\tan60^\circ=\sqrt3$ の部分で、$\varphi\to90^\circ$ で $\tan\varphi\to\infty$ なので、外接する円柱からはみ出し、どこまでも伸びる。
半径 $1$ の北半球の点 $(x,y,z)$ を、赤道面の点 $(x,y,0)$ に移す(真下へ垂直に下ろす)。
(1) 北緯 $0^\circ$〜$30^\circ$ の帯は、半径 $\cos30^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ と $1$ の円にはさまれた円環に移り、その面積は $\pi\left(1-\frac34\right)=\dfrac\pi4=0.785\ldots$ である。帯の面積 $\pi$ の $\dfrac14$ しかない。
(2) 北緯 $60^\circ$ より北の球冠は、半径 $\cos60^\circ=\dfrac12$ の円板に移り、面積は $\dfrac\pi4=0.785\ldots$ である。球冠の面積 $0.841\ldots$ に近いが、等しくない。
正射影は、極の近くではほぼ面積を保つが、赤道に近いほど帯が立って見えるので面積を大きく縮める(正射影と面積 の「面積は $\cos$ 倍になる」と同じ現象)。
球面の上で、緯度 $\varphi_1$ から $\varphi_2$ まで($-90^\circ\le\varphi_1<\varphi_2\le90^\circ$、南緯は負の緯度で表す)の帯の面積は $2\pi r^2(\sin\varphi_2-\sin\varphi_1)$ で、球面全体に対する割合は
$$
\frac{\sin\varphi_2-\sin\varphi_1}{2}
$$
である。
緯度 $\varphi$ の緯線は平面 $z=r\sin\varphi$ の上にあるので、この帯は平面 $z=r\sin\varphi_1$ と $z=r\sin\varphi_2$ で切り取った球帯で、高さは $h=r(\sin\varphi_2-\sin\varphi_1)$ である。thm-hbox-main から面積は $2\pi r\cdot r(\sin\varphi_2-\sin\varphi_1)$ で、$4\pi r^2$ で割ると割合が得られる。
地球を球とみなす。
(1) 北緯 $0^\circ$〜$30^\circ$:$\dfrac{\frac12-0}2=\dfrac14$。北緯 $30^\circ$〜$60^\circ$:$\dfrac{\frac{\sqrt3}2-\frac12}{2}=\dfrac{\sqrt3-1}4=0.183\ldots$。北緯 $60^\circ$〜$90^\circ$:$\dfrac{1-\frac{\sqrt3}2}2=\dfrac{2-\sqrt3}4=0.0669\ldots$。緯度の幅は同じ $30^\circ$ でも、割合はおよそ $25\%$、$18\%$、$7\%$ と減っていく。
(2) 北回帰線と南回帰線(緯度 $\pm23.44^\circ$)の間:$\dfrac{\sin23.44^\circ-\sin(-23.44^\circ)}{2}=\sin23.44^\circ=0.3977\ldots$ で、地球の表面の約 $40\%$ である。
北緯を 10 度ごとに区切った帯が地球の表面積に占める割合の棒グラフで、赤道側の 8.68 パーセントから北極側の 0.76 パーセントまで減る
図 5 のとおり、同じ $10^\circ$ の幅でも、北緯 $80^\circ$〜$90^\circ$ の帯は赤道側の帯の約 $\dfrac{1}{11}$ しかない。割合は $\dfrac{\sin\varphi_2-\sin\varphi_1}{2}$ で、$\sin$ の増え方が $90^\circ$ に近いほど緩やかになるからである。
球面の上に「どこも同じ確からしさで」点をとりたい。これを次のように定める。
半径 $1$ の球面の上に点 $X$ をとる方法が 一様 であるとは、球面の上のどの図形 $D$ についても、$X$ が $D$ に入る確率が $\dfrac{(D\text{ の面積})}{4\pi}$ に等しいことをいう。
(2) $X$ の $z$ 座標は $Z$、経度は $\Theta$ である。$Z$ と $\Theta$ は独立なので、確率は$$P(c_1\le Z\le c_2)\times P(\alpha\le\Theta\le\alpha+\beta)=\frac{c_2-c_1}{2}\times\frac{\beta}{2\pi}=\frac{\beta\,(c_2-c_1)}{4\pi}$$である($\alpha+\beta>2\pi$ のときは経度を $2\pi$ を法として考える)。prop-hbox-rect($r=1$)から、球面の長方形の面積は $\beta(c_2-c_1)$ なので、確率は面積を $4\pi$ で割ったものに等しい。
prop-hbox-uniform (2) は、コンピュータで球面上の一様な点を作る方法として使われている(Wei26b)。球面の長方形で成り立てば、それを集めて近似できる図形でも成り立つ(証明はしない)。乱数の使い方は 乱数とシミュレーション で扱う。
緯度 $\Psi$ を $[-90^\circ,90^\circ]$ で一様に、経度を $[0,2\pi)$ で一様にとって点を作る。
$\lvert\Psi\rvert\ge60^\circ$(北緯 $60^\circ$ より北か、南緯 $60^\circ$ より南)となる確率は、$180^\circ$ のうち $60^\circ$ 分なので $\dfrac13=0.333\ldots$ である。ところがこの 2 つの球冠の面積の割合は、ex-hbox-latitude から $2\times\dfrac{2-\sqrt3}{4}=\dfrac{2-\sqrt3}{2}=0.1339\ldots$ である。確率が面積の割合より大きいので、この方法は一様でなく、極の近くに点が集まる。
乱数で確かめると(seed 2026、20 万点)、緯度を一様にとった方法では $\lvert\Psi\rvert\ge60^\circ$ となった割合が $0.3329$、prop-hbox-uniform (2) の方法では $\lvert z\rvert\ge\dfrac{\sqrt3}{2}$ となった割合が $0.1342$ だった。図 6・図 7 は、それぞれの方法でとった 1500 点のうち、手前の半分を表示したものである。
z 座標を一様に、経度を一様にとった 1500 点で、球面の上に偏りなく散らばる
緯度を一様に、経度を一様にとった 1500 点で、北極と南極の近くに点が集まる
帽子箱定理と同じことは、平面の円周では成り立たない。半径 $1$ の円周の上に一様に(弧の長さに比例する確率で)点をとると、$x$ 座標が $\dfrac12$ 以上になるのは、角が $-60^\circ$ から $60^\circ$ までの弧、つまり円周の $\dfrac{120^\circ}{360^\circ}=\dfrac13$ の上にある点である。$x$ 座標が $[-1,1]$ で一様なら確率は $\dfrac{1-\frac12}{2}=\dfrac14$ になるはずなので、$x$ 座標は一様に分布しない($\pm1$ の近くに集まる)。
円周では、端に近いほど弧が縦に立って、同じ幅の $x$ に長い弧が対応する効果だけがあり、球面のように「周が短くなる」効果で打ち消されない。
$\Phi$ で円柱に移した図を、円柱の母線に沿って切り開くと、平面の地図ができる。経度 $\theta$、緯度 $\varphi$ の点は、地図の上の点 $(r\theta,\ r\sin\varphi)$ に移る。これを 正積円筒図法(Lambert の正積円筒図法)という。thm-hbox-map により、球面の長方形は、地図の上で同じ面積の長方形に移る。
正積円筒図法の経緯線で、緯線の高さが sin φ に比例し、極に近いほど緯線の間隔が狭い
中心から円柱へ移した経緯線で、緯線の高さが tan φ に比例し、極に近いほど緯線の間隔が広がる
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 2 つの平面が球面と交わる($-r\le c_1< c_2\le r$) | 半径 $1$、平面 $z=0$ と $z=2$ | 面積 $=2\pi\times$ 半径 $\times$ 平面の間隔 |
| 水平に移す | 中心から円柱へ移す | 面積を保つ |
| 水平に移す | 赤道面へ正射影する | 面積を保つ |
| $z$ 座標を一様にとる | 緯度を一様にとる | 球面上に一様な点になる |
| 3 次元の空間の球面 | 平面の円周の $x$ 座標 | 座標が一様に分布する |
2 行目は ex-hbox-central、3 行目は ex-hbox-orth、4 行目は ex-hbox-latitude-uniform、5 行目は rem-hbox-circle で確かめた。1 行目を次で確かめる。
半径 $1$ の球面を、平面 $z=0$ と $z=2$ ではさむ。平面の間隔は $2$ なので、「$2\pi\times$ 半径 $\times$ 間隔」は $2\pi\times1\times2=4\pi$ で、球面全体の面積になってしまう。しかし 2 つの平面の間にある球面の部分は $0\le z\le1$ の北半球で、面積は $2\pi$ である。平面 $z=2$ は球面と交わらないので、thm-hbox-main の条件 $c_2\le r$ を満たさない。正しくは、球面が実際にある範囲 $0\le z\le1$ の高さ $1$ を使って $2\pi\times1\times1=2\pi$ とする。
帽子箱定理は、大学では「面積要素」の計算で一行で示される。
球面を経度 $\theta$ と高さ $z$ で $\boldsymbol p(\theta,z)=\left(\sqrt{r^2-z^2}\cos\theta,\ \sqrt{r^2-z^2}\sin\theta,\ z\right)$ と表す($-r< z< r$)。曲面の面積は、偏微分 $\boldsymbol p_\theta$、$\boldsymbol p_z$ の外積の長さ $\lvert\boldsymbol p_\theta\times\boldsymbol p_z\rvert$ を積分して得られる(曲面積)。$\rho=\sqrt{r^2-z^2}$ とおくと、$\boldsymbol p_\theta=(-\rho\sin\theta,\ \rho\cos\theta,\ 0)$、$\boldsymbol p_z=\left(-\dfrac z\rho\cos\theta,\ -\dfrac z\rho\sin\theta,\ 1\right)$ で、$\boldsymbol p_\theta\times\boldsymbol p_z=(\rho\cos\theta,\ \rho\sin\theta,\ z)$ となり、その長さは $\sqrt{\rho^2+z^2}=r$ である。
一方、円柱を $\boldsymbol q(\theta,z)=(r\cos\theta,\ r\sin\theta,\ z)$ と表すと、$\lvert\boldsymbol q_\theta\times\boldsymbol q_z\rvert=r$ である。2 つの面積要素がどちらも $r\,d\theta\,dz$ で等しいことが、$\Phi$($\boldsymbol p(\theta,z)\mapsto\boldsymbol q(\theta,z)$)が面積を保つことの意味である。$\rho$ が小さくなる極の近くで、$\boldsymbol p_\theta$ が短くなる分を $\boldsymbol p_z$ が長くなる分がちょうど補っている。
平面の図形どうしの写像では、面積を保つことは Jacobi 行列式の絶対値が $1$ であることと同じである(Jacobi行列、重積分の変数変換)。正積円筒図法の地図 $(\theta,\varphi)\mapsto(r\theta,\ r\sin\varphi)$ の Jacobi 行列式は $r\cdot r\cos\varphi=r^2\cos\varphi$ で、これは緯度・経度で表した球面の面積要素 $r^2\cos\varphi\,d\theta\,d\varphi$ の係数と一致する。この記事の prop-hbox-rect の証明は、面積要素の積分を使わずに、回転の対称性と thm-hbox-main だけで同じ結論の一部を出したものである。
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