結び目カンドル(knot quandle)とは、向き付けられた結び目の図式の弧を生成元とし、各交差で上の弧の右側の弧に上の弧を右から作用させると左側の弧になるという関係式を置いて定まるカンドルである。カンドルの 3 つの公理が 3 種の Reidemeister 移動の前後でそれぞれ表示を同型に保つので、図式によらない結び目の不変量になる。演算を共役と読み替えると Wirtinger 表示が得られて随伴群は結び目群と同型になり、また結び目カンドルはつねに連結である。Joyce と Matveev は、結び目カンドルが同型な折れ線の結び目どうしが向きを無視すれば同値であることを示したが、鏡像の向きを逆にした結び目とは結び目カンドルがつねに同型になる。
前提知識: カンドル, Wirtinger表示, 群の表示, 結び目
結び目カンドル(knot quandle)、または結び目の 基本カンドル(fundamental quandle)とは、向き付けられた結び目の図式の弧を生成元とし、各交差に「下の弧の一方が上の弧の右移動で他方に移る」という関係式を置いて定まるカンドルである。図式は Reidemeister 移動で取り替えられるが、カンドルの 3 つの公理がちょうどこれらの移動の前後で表示を同型に保つので、結び目カンドルは結び目の不変量になる。
結び目カンドルの関係式で演算 $x\ast y$ を共役 $y^{-1}xy$ と読み替えると、結び目群の Wirtinger 表示(Wirtinger表示)が得られる。すなわち結び目カンドルの随伴群は結び目群である。結び目カンドルは結び目群より多くの情報をもち、Joyce と Matveev は、結び目カンドルが同型な 2 つの結び目は向きを無視すれば同値であることを示した。
この記事では、カンドルの表示を準備したうえで図式のカンドルを定義し、Reidemeister 移動で不変であることを証明する。続いて、随伴群が結び目群であること、結び目カンドルが連結であること、鏡像に向きの反転を合わせた結び目が同型なカンドルをもつことを証明し、Joyce–Matveev の定理を述べる。
群の表示 と同じように、生成元と関係式でカンドルを定める。
集合 $S$ に対し、$S$ の元を含み、$t,u$ を含めば形式的な式 $(t\ast u)$ と $(t\ast^{-1}u)$ も含む最小の集合を $\mathcal{T}(S)$ と書き、その元を $S$ 上の 項 という。カンドル $X$ と写像 $f\colon S\to X$ に対し、項の $\ast$、$\ast^{-1}$ を $X$ の演算と逆演算で計算した値を $\tilde f(t)\in X$ と書く。項の対 $(t,u)$ を 関係式 といい $t=u$ と書く。すべての関係式 $t=u\in R$ で $\tilde f(t)=\tilde f(u)$ のとき、$f$ は $R$ を みたす という。
カンドル $P$ と $R$ をみたす写像 $\iota\colon S\to P$ の組が $\langle S\mid R\rangle$ の表すカンドル であるとは、任意のカンドル $X$ と $R$ をみたす写像 $f\colon S\to X$ に対し、準同型 $\varphi\colon P\to X$ で $\varphi\circ\iota=f$ となるものがただ 1 つ存在することをいう。
任意の $S$ と関係式の集合 $R$ について、$\langle S\mid R\rangle$ の表すカンドル $(P,\iota)$ が存在し、同型を除いて一意である。$P$ のすべての元は、ある項 $t$ により $\tilde\iota(t)$ と書ける。
要点:$\mathcal{T}(S)$ を、カンドルの公理と $R$ を含み演算と両立する最小の同値関係で割る。
$\sim$ を $\mathcal{T}(S)$ 上の同値関係で、(a) $t\sim t'$、$u\sim u'$ なら $t\ast^{\pm1}u\sim t'\ast^{\pm1}u'$、(b) すべての項 $t,u,v$ について $t\ast t\sim t$、$(t\ast u)\ast^{-1}u\sim t\sim(t\ast^{-1}u)\ast u$、$(t\ast u)\ast v\sim(t\ast v)\ast(u\ast v)$、(c) $R$ の関係式の両辺は $\sim$、をみたすもののうち最小のものとする(これらの条件をみたす同値関係の共通部分)。$P:=\mathcal{T}(S)/\!\sim$ には (a) により演算 $\ast$、$\ast^{-1}$ が定まる。(b) により冪等性と右自己分配律が成り立ち、$S_{[u]}$ は $[t]\mapsto[t\ast^{-1}u]$ を逆写像にもつので全単射である。よって $P$ はカンドルで、$\ast^{-1}$ はその逆演算である。$\iota(s):=[s]$ とおくと $\tilde\iota(t)=[t]$ であり、(c) により $\iota$ は $R$ をみたす。
$f\colon S\to X$ が $R$ をみたすとする。$\tilde f(t)=\tilde f(t')$ で定まる同値関係は、$\tilde f$ が演算を項の演算どおりに計算すること(逆演算は カンドル の補題「基本の恒等式」の 1 のとおり $X$ の逆演算)により (a)(b)(c) をみたすので、$\sim$ を含む。したがって $\varphi([t]):=\tilde f(t)$ は well-defined な準同型で $\varphi\circ\iota=f$ である。準同型は逆演算も保つ(同補題の 2)ので、$\varphi([t])$ は $\varphi\circ\iota$ だけで決まり、$\varphi$ は一意である。一意性は普遍性からの標準的な議論による(2 つの組の間の準同型の合成は、生成元の上で恒等なので恒等写像)。$\square$
要点:普遍性で両向きの準同型を作り、合成が生成元の上で恒等であることを確かめる。
1.普遍性により、$\iota(s)\mapsto\iota'(s)$ と $\iota'(s)\mapsto\iota(s)$ の準同型がある。合成は生成元の上で恒等なので、普遍性の一意性により恒等写像である。
2.左辺を $(P,\iota)$、右辺を $(P',\iota')$ とする。$\iota'$ を $y\mapsto\tilde\iota'(t)$ で $S\cup\{y\}$ へ延ばした写像を $g$ とする。$g$ は $y=t$ をみたし、$R$ の各関係式の両辺での $\tilde g$ の値は $R[y:=t]$ の対応する関係式の両辺での $\tilde\iota'$ の値に等しいので、$g$ は $R$ もみたす。よって準同型 $P\to P'$ が定まる。逆に $\iota|_S$ は、$P$ で $\iota(y)=\tilde\iota(t)$ なので $R[y:=t]$ をみたし、準同型 $P'\to P$ を定める。合成は生成元の上で恒等である($y$ については $y=t$ による)。$\square$
以下、Wirtinger表示 の定義「正則な射影と図式」「弧と交差の符号」に従う。$K\subset\mathbb{R}^3$ は向き付けられた折れ線の結び目で正則な射影をもち、$D$ はその図式、$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ は弧である。交差 $c$ では、上の線を含む弧が $\alpha_{i(c)}$、下の点で終わる弧が $\alpha_{j(c)}$、下の点から始まる弧が $\alpha_{k(c)}$ で、$\varepsilon_c=\pm1$ は交差の符号である。
図式 $D$ の カンドル を、弧 $\alpha_i$ に生成元 $x_i$ を対応させた表示
$$
Q(D):=\bigl\langle x_1,\dots,x_n\ \bigm|\ x_{k(c)}=x_{j(c)}\ast^{\varepsilon_c}x_{i(c)}\quad(c\text{ は交差})\bigr\rangle
$$
の表すカンドルと定める。
上の線の向きに沿って進むとき、交差の近くで下の線の 2 つの部分のうち右側にあるものを 右の弧、左側にあるものを 左の弧 とよぶ。
交差 $c$ の右の弧を $\alpha_R$、左の弧を $\alpha_L$ とすると、$c$ の関係式は $x_L=x_R\ast x_{i(c)}$ と同値である(lem-kq-tietze の 1 の意味で、どちらの形で置いても同じカンドルを表す)。とくに関係式は下の線の向きによらない。
Wirtinger表示 の定義「弧と交差の符号」の後の注意のとおり、$\varepsilon_c=1$ は下の線が上の線の右側から左側へくぐることを意味する。このとき下の点で終わる弧が右の弧、始まる弧が左の弧なので、関係式は $x_L=x_R\ast x_{i(c)}$ そのものである。$\varepsilon_c=-1$ なら下の線は左から右へくぐり、関係式は $x_R=x_L\ast^{-1}x_{i(c)}$ である。カンドル の補題「基本の恒等式」の 1 により、どのカンドルでもこれは $x_L=x_R\ast x_{i(c)}$ と同値である。$\square$
向き付けられた 2 つの図式 $D,D'$ について、平面の閉円板 $\Delta$ があり、$\Delta$ の外では $D$ と $D'$ が上下の情報と向きを含めて一致し、$\Delta$ の中が次のいずれかであるとき、$D'$ は $D$ から Reidemeister 移動 で得られるという。向きは任意である。
折れ線の結び目の同値としては、Reidemeister の 三角形の移動(1 辺を、ほかの辺に貫かれない三角形の残りの 2 辺に取り替える操作とその逆)の有限列で向きごと移り合うことを採る。
三角形の移動の有限列で移り合う向き付けられた折れ線の結び目の図式どうしは、平面イソトピーと Reidemeister 移動の有限列で移り合う。
図式 $D'$ が図式 $D$ から平面イソトピーまたは Reidemeister 移動で得られるなら、$Q(D)\cong Q(D')$ である。
平面イソトピーは弧・交差・上の弧・左右を保つので、表示は同じである。以下、Reidemeister 移動を扱う。項 $a$ と生成元 $o$ について、$a$ の弧が上の弧 $o$ の右側から左側へくぐると $a\ast o$ に、左側から右側へくぐると $a\ast^{-1}o$ に移る(lem-kq-sides)。$\Delta$ の外の弧の断片は $D$ と $D'$ で共通なので、$\Delta$ の中に収まらない弧は $\Delta$ の外の断片で $D,D'$ の弧と結び付き(I・II 型では $D'$ の 2 本が $D$ の 1 本にまとまる。下で扱う)、$\Delta$ の外の交差の関係式の集合 $R_{\mathrm{out}}$ は共通である。$\Delta$ の中だけにある弧を 内部の弧 とよぶ。内部の弧の生成元は $\Delta$ の中の交差の関係式にしか現れない。
I 型.$D'$ の交差 $c$ の下の点で線が 2 つの断片 $X,Y$ に分かれ、上の弧は $X$ か $Y$ を含む弧である。$c$ の関係式は、$\{X,Y\}$ の一方が他方を上の弧($X$ か $Y$)の $\ast^{\pm1}$ で移したもの、すなわち $U=V\ast^{\pm1}W$($\{U,V\}=\{X,Y\}$、$W\in\{U,V\}$)の形である。$W=V$ なら冪等性と カンドル の補題「基本の恒等式」の 1 により右辺は $V$ に等しく、$W=U$ なら両辺に $\ast^{\mp1}U$ を施すと同補題の 1 と冪等性により $U=V$ となる。よってどの場合も、関係式はどのカンドルでも $X=Y$ と同値である。lem-kq-tietze の 1 で関係式を $X=Y$ に替え、$X,Y$ が異なる生成元なら同 2 で $Y:=X$ と消去する(同じ生成元なら自明な関係式を除く)。得られるのは、$X$ と $Y$ の断片が 1 本の弧をなす $D$ の表示である。
II 型.上の線は 1 本の弧 $o$ に含まれる。下の線は $D'$ で断片 $A$、内部の弧 $M$、断片 $C$ に分かれ、$A$ と $C$ は上の線の同じ側 $\sigma$ に、$M$ は反対側にある。$e:=1$($\sigma$ が右)、$e:=-1$($\sigma$ が左)とおくと、関係式は $M=A\ast^{e}o$ と $C=M\ast^{-e}o$ である。$M$ を消去すると $C=(A\ast^{e}o)\ast^{-e}o$ となり、これはどのカンドルでも $C=A$ と同値である。I 型と同様に $C:=A$ と消去すれば、$A$ と $C$ の断片が 1 本の弧をなす $D$ の表示が得られる。
III 型.$T$ は 1 本の弧 $o$ に含まれる。$M$ は $T$ の下の点で、$T$ の右側の断片 $m_R$ と左側の断片 $m_L$ に分かれ、$D$ と $D'$ のどちらでも関係式 $m_L=m_R\ast o$ がある。$B$ の両端の断片を $A,C$ とする($D,D'$ で共通)。$B$ は $T$ と $M$ を 1 回ずつ横切るので、$A$ が $T$ の側 $\sigma$、$M$ の側 $\tau$ にあれば、$C$ はどちらについても反対側にある。$e:=\pm1$ を $\sigma$ が右か左かで、$f:=\pm1$ を $\tau$ が右か左かで定める。
III 型の計算で使ったのはちょうど右自己分配律(を逆演算に広げた形)であり、I 型では冪等性、II 型では右移動の全単射性を使った(カンドル の節「Reidemeister 移動と公理の対応」)。
向き付けられた折れ線の結び目 $K$ の正則な射影による図式 $D$ について、$Q(K):=Q(D)$ を $K$ の 結び目カンドル という。
thm-kq-reidemeister と thm-kq-invariance により、$Q(K)$ の同型類は図式の選び方によらず、向きを込めた $K$ の同値類だけで決まる。
Joyce は、閉円板から $S^3$ への連続写像で $K$ に写る点が中心だけであるもの(投げ縄)のホモトピー類のうち、境界のループが $K$ と絡み数 $1$ で回るものの全体として、結び目カンドルを図式によらずに定義した(Joy79 §4.5、pp. 41–42)。図式から定まる $Q(D)$ がこれと同型であることも示されている(同 §4.8 Proposition、p. 45)。この記事では証明しない。この見方では、向きを保つ $S^3$ の同相写像で向きごと写り合う結び目のカンドルが同型であることが、定義から分かる。
カンドル の定義「随伴群」の $\operatorname{As}$ を表示に当てると、関係式の $\ast$ を共役に読み替えた群の表示が得られる。項 $t\in\mathcal{T}(S)$ に対し、$S$ 上の自由群の元 $\hat t$ を $\hat s:=s$、$\widehat{t\ast u}:=\hat u^{-1}\hat t\hat u$、$\widehat{t\ast^{-1}u}:=\hat u\hat t\hat u^{-1}$ で定め、関係式の集合 $R$ に対し $\hat R:=\{\hat t=\hat u\mid(t=u)\in R\}$ とおく。
$(P,\iota)$ を $\langle S\mid R\rangle$ の表すカンドルとすると、$\eta(\iota(s))\mapsto s$ が群の同型 $\operatorname{As}(P)\cong\langle S\mid\hat R\rangle$ を与える。
要点:共役カンドルでの項の値は $\hat t$ の値に等しいので、$R$ をみたすことと $\hat R$ をみたすことが一致し、2 つの普遍性から互いに逆な準同型が得られる。
$H:=\langle S\mid\hat R\rangle$ とする。どの群 $G$ と写像 $g\colon S\to G$ についても、$g$ を $\operatorname{Conj}(G)$ への写像とみたときの項の値 $\tilde g(t)$ は、自由群の準同型で $\hat t$ を写した値に等しい(項の作り方についての帰納法。$\operatorname{Conj}(G)$ の逆演算は $x\ast^{-1}y=yxy^{-1}$)。
$H$ の生成元への写像 $S\to\operatorname{Conj}(H)$ は、この観察により $R$ をみたすので、準同型 $\psi_0\colon P\to\operatorname{Conj}(H)$ を定め、カンドル の定理「随伴群の普遍性」により群の準同型 $\psi\colon\operatorname{As}(P)\to H$、$\eta(\iota(s))\mapsto s$ が得られる。逆に写像 $\eta\circ\iota\colon S\to\operatorname{Conj}(\operatorname{As}(P))$ の項 $t$ での値は、$\eta$ が準同型なので $\eta(\tilde\iota(t))$ であり、$R$ の両辺で一致する。観察により $\hat R$ の両辺の値も一致するので、群の表示 の命題「表示からの準同型」により群の準同型 $\varphi\colon H\to\operatorname{As}(P)$ が定まる。$\psi\circ\varphi$ は $H$ の生成元の上で恒等である。$\operatorname{As}(P)$ は $\eta(P)$ で生成され、lem-kq-presentation-exists により $P$ の元は $\tilde\iota(t)$ の形であり、$\eta(\tilde\iota(t))$ は観察により $\eta(\iota(s))$($s\in S$)の積で書けるので、$\operatorname{As}(P)$ は $\eta(\iota(S))$ で生成される。その上で $\varphi\circ\psi$ は恒等である。よって $\psi,\varphi$ は互いに逆である。$\square$
def-kq-diagram の状況で、$\eta(x_i)\mapsto x_i$ は群の同型 $\operatorname{As}(Q(D))\cong W(D)$ を与える。ここで $W(D)$ は Wirtinger表示 の定義「Wirtinger 表示」の群である。したがって
$$
\operatorname{As}(Q(K))\cong\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)
$$
であり、$\eta(x_i)$ は弧 $\alpha_i$ の右ねじのまわりのループの類に対応する。
関係式 $x_{k(c)}=x_{j(c)}\ast^{\varepsilon_c}x_{i(c)}$ の読み替えは、$\varepsilon_c=1$ なら $x_{k(c)}=x_{i(c)}^{-1}x_{j(c)}x_{i(c)}$、$\varepsilon_c=-1$ なら $x_{k(c)}=x_{i(c)}x_{j(c)}x_{i(c)}^{-1}$ であり、どちらも $W(D)$ の関係式 $x_{k(c)}=x_{i(c)}^{-\varepsilon_c}x_{j(c)}x_{i(c)}^{\varepsilon_c}$ と同じである。よって lem-kq-as-presentation により $\operatorname{As}(Q(D))\cong W(D)$ である。後半は Wirtinger表示 の定理「Wirtinger 表示の定理」による。$\square$
結び目カンドルは結び目群より多くの情報をもち、結び目群が同型でも結び目カンドルで区別できる合成結び目がある(Kam02 p. 109。この記事では証明しない)。Joyce は、結び目群 $G$、その周辺部分群 $P$(結び目の管状近傍の境界のトーラスの基本群の像)、メリディアン $m\in P$ の組から結び目カンドルが復元できることを示している(Joy79 §4.9 Corollary 1、p. 47)。この記事では証明しない。
カンドル $X$ の部分集合 $S$ について、$X$ のどの元も $S$ の元から $\ast$ と $\ast^{-1}$ を有限回施して得られるとする。このとき $X$ の各元は、ある $s\in S$ と、$S_t$($t\in S$)が生成する $\operatorname{Inn}(X)$ の部分群 $H$ の元 $g$ により $s\cdot g$ と書ける。
$Y:=\{s\cdot g\mid s\in S,\ g\in H\}$ は $S$ を含む。$u=s\cdot g$、$v=t\cdot h$($s,t\in S$、$g,h\in H$)とする。$h$ は自己同型なので、カンドル の命題「内部自己同型群の性質」の 1 により $S_v=S_{t\cdot h}=h^{-1}S_th\in H$ であり、$u\ast^{\pm1}v=s\cdot(gS_v^{\pm1})\in Y$ である。よって $Y$ は $\ast$ と $\ast^{-1}$ で閉じており、仮定により $Y=X$ である。$\square$
結び目カンドル $Q(D)$ は連結である。したがって、任意のカンドル $X$ への準同型 $Q(D)\to X$ の像は、$X$ の 1 つの軌道に含まれる。
関係式 $x_{k(c)}=x_{j(c)}\cdot S_{x_{i(c)}}^{\varepsilon_c}$ により、交差の下の点の前後の弧の生成元は同じ軌道にある。$K$ を向きに沿って 1 周すると、各交差の下の点で $\alpha_{j(c)}$ から $\alpha_{k(c)}$ へ移り、$K$ は連結なのですべての弧を通る。よって $x_1,\dots,x_n$ は 1 つの軌道 $O$ に含まれる。lem-kq-presentation-exists により $Q(D)$ の元は生成元から $\ast^{\pm1}$ で得られるので、lem-kq-generated により各元は $x_i\cdot g$ の形で $O$ に属する。後半は カンドル の命題「内部自己同型群の性質」の 3 による。$\square$
各成分に向きを付けた折れ線の絡み目の図式でも、弧と交差から同じ表示 $Q(D)$ が定まり(下の点をもたない成分は 1 本の弧とする)、thm-kq-invariance の証明は成分の個数を使わないのでそのまま成り立つ。thm-kq-as-knot-group も Wirtinger表示 の注意「絡み目と $S^3$」により成り立つ。一方 prop-kq-connected は $K$ の連結性を使っており、成分が $\mu$ 個なら軌道は高々 $\mu$ 個である。
向き付けられた結び目 $K$ の向きを逆にしたものを $-K$、鏡映 $r(x,y,z):=(-x,y,z)$ による像を $K^*:=r(K)$(向きは $r$ で写したもの)と書く。
$K$ が正則な射影をもつなら $-K^*$ も正則な射影をもち、$Q(-K^*)\cong Q(K)$ である。
$r':=(x,y)\mapsto(-x,y)$ とすると $\pi\circ r=r'\circ\pi$ であり、$r$ は高さ $z$ を変えないので、$-K^*$ の図式 $D^*$ は $D$ を $r'$ で写し、上下の情報をそのまま、向きを逆にしたものである。弧も交差も $r'$ で 1 対 1 に対応する。$r'$ は平面の向きを逆にするので、上の弧の向き $a$ に対する左側は、$r'$ で写すと向き $r'(a)$ に対する右側になり、さらに向きを逆にした $-r'(a)$ に対しては左側になる。すなわち $D$ の交差の左の弧は $D^*$ の対応する交差でも左の弧である。lem-kq-sides により、$Q(D)$ と $Q(D^*)$ は対応する生成元について同じ関係式 $x_L=x_R\ast x_o$ をもち、同じ表示である。$\square$
向き付けられた折れ線の結び目 $K,K'\subset\mathbb{R}^3$ について、$Q(K)\cong Q(K')$ ならば、$\mathbb{R}^3$ の同相写像 $h$ で $h(K)=K'$ となるものが存在する。ここで $h$ は $\mathbb{R}^3$ の向きも結び目の向きも保つとは限らない。
prop-kq-mirror により $K$ と $-K^*$ のカンドルは同型なので、結び目カンドルだけから決まる不変量は $K$ と $-K^*$ を区別できない。たとえば三葉結び目とその鏡像は同型な結び目カンドルをもつ(Kam02 p. 109)。領域にも色を塗る影の彩色と 3 次のコサイクルから作る不変量は、この 2 つを区別する(Kam02 Theorem 6.1、p. 114。この記事では証明しない。カンドルコホモロジー)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 成分が 1 つであること | Hopf 絡み目の 2 交差の図式 | 連結であること(prop-kq-connected)。カンドルは 2 元の自明カンドル $T_2$ |
| 交差の上下の情報 | 同じ図式の一方の交差の上下を入れ替えた図式 | 射影の像が同じなら同じカンドルになること。カンドルは 2 元で生成される自由なカンドルで無限集合 |
| 冪等性(カンドルの表示をラックの表示に替える) | 交差のない円と、I 型移動で 1 交差にした図式 | I 型移動での不変性(thm-kq-invariance)。前者のラックは無限集合、後者は 1 点 |
1 行目:2 つの成分はそれぞれ相手の下を 1 回くぐるので弧は $a,b$ の 2 本で、交差では下の弧の前後が同じ弧である。関係式は $b=b\ast^{\pm1}a$、$a=a\ast^{\pm1}b$ で、カンドル の補題「基本の恒等式」の 1 により $b\ast a=b$、$a\ast b=a$ と同値である。2 元の自明カンドル $T_2=\{a,b\}$ と恒等写像はこれをみたし、$R$ をみたす任意の $f\colon\{a,b\}\to X$ について $T_2\to X$ は準同型になる($f(a)\ast f(b)=f(a)$ など)。よって $Q(D)\cong T_2$ で、軌道は 2 つある。
2 行目:入れ替えると一方の成分が 2 回とも上を通り、弧は $a$ と $b_1,b_2$ になる。2 つの交差の関係式は $b_2=b_1\ast^{\varepsilon}a$ と $b_1=b_2\ast^{-\varepsilon}a$ で、後者は前者から従う(Wirtinger表示 の節「条件を外した反例」の 2 行目と同じ符号の計算)。$b_2$ を消去すると $\langle a,b_1\mid\ \rangle$ になる。$a\mapsto a$、$b_1\mapsto b$ で $\operatorname{Conj}(F)$($F$ は $a,b$ の生成する自由群)への準同型を作ると、$b_1\ast a\ast a\cdots$ の像 $a^{-n}ba^{n}$($n\ge0$)は互いに異なるので、このカンドルは無限集合である。
3 行目:冪等性を除いた公理(ラック)で表示を考える(lem-kq-presentation-exists の証明から (b) の $t\ast t\sim t$ を除くと、ラックの表示も同じように存在する)。交差のない図式は $\langle x\mid\ \rangle$ で、$x\mapsto0$ により $\mathbb{Z}$($u\ast v:=u+1$)への準同型があり、$x\ast x$、$(x\ast x)\ast x,\dots$ の像は $1,2,\dots$ なので無限集合である。1 交差の図式は弧が 1 本で関係式 $x=x\ast^{\pm1}x$ をもつ。lem-kq-generated の証明は冪等性を使わないので各元は $x\cdot S_x^{k}$ の形であり、$S_x$ が $x$ を動かさないので 1 点である。
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