ハワイの耳飾り(Hawaiian earring)とは、平面内で原点を共有しながら半径が0へ収束する可算個の円周の和集合である。コンパクトかつ局所弧状連結だが、原点のどの近傍も非自明な小円周を含むため半局所単連結でなく、通常の万有被覆をもたない。可算ウェッジとの位相の違いと、被覆空間論の仮定の必要性を示す標準的な反例である。
前提知識: 位相空間, 基本群, 被覆空間
ハワイの耳飾りは、平面内で原点を共有し、半径が $0$ に収束する可算個の円周の和集合である。見た目は可算個の円周のウェッジ和に似ているが、原点のどの近傍にも無限個の円周全体が入り込む。この集積が、局所弧状連結でありながら半局所単連結でないという特徴を生む。
$n\ge1$ に対し、中心 $(1/n,0)$、半径 $1/n$ の円周を
$$
C_n=\left\{(x,y)\in\mathbb R^2\mathrel{}\middle\vert\mathrel{}\left(x-\frac1n\right)^2+y^2=\frac1{n^2}\right\}
$$
とする。すべての $C_n$ は原点 $o=(0,0)$ を通り、$m\ne n$ なら $C_m\cap C_n=\{o\}$ である。
部分空間
$$
H=\bigcup_{n=1}^{\infty}C_n\subset\mathbb R^2
$$
に $\mathbb R^2$ からの相対位相を入れた空間をハワイの耳飾り(Hawaiian earring)という。共通点 $o$ を基点とする。
円周 $C_n$ の直径は $2/n$ である。したがって任意の $o$ の近傍は、十分大きいすべての $n$ について円周 $C_n$ 全体を含む。
$H$ はコンパクトな距離空間である。
$H\subset[0,2]\times[-1,1]$ だから有界である。$H$ が閉であることを示すため、$H$ 内の収束列 $(p_k)$ を取る。ある $C_n$ が $p_k$ を無限個含むなら、その部分列の極限は閉集合 $C_n$ に属する。そうでなければ、部分列を取り直して $p_k\in C_{n_k}$、$n_k\to\infty$ とできる。このとき $\lVert p_k\rVert\le2/n_k\to0$ なので極限は $o\in H$ である。従って $H$ は列閉であり、距離空間 $\mathbb R^2$ では閉集合である。Heine–Borelの定理より $H$ はコンパクトである。$\blacksquare$
$H$ は弧状連結かつ局所弧状連結である。従って $H$ は連結かつ局所連結である。
各 $C_n$ は弧状連結であり、すべてが $o$ を含む。任意の二点は、それぞれから $o$ への円弧をつなぐことで道で結べるから、$H$ は弧状連結である。
$p\ne o$ なら、$p$ はただ1つの $C_n$ に属する。$p$ の十分小さい平面開球と $H$ との交わりは $C_n$ 上の開弧となるので、$p$ は弧状連結な近傍基をもつ。
$o$ について、$\varepsilon>0$ とする。$H\cap B_\varepsilon(o)$ の $o$ を含む弧状連結成分を $U_\varepsilon$ とする。各 $C_n\cap B_\varepsilon(o)$ の $o$ を含む成分は円弧であり、十分大きい $n$ では $C_n$ 全体である。これらの円弧はすべて $o$ で交わるので、その和 $U_\varepsilon$ は弧状連結である。また
$$
H\cap B_{\varepsilon/2}(o)\subseteq U_\varepsilon\subseteq H\cap B_\varepsilon(o)
$$
である。左の包含は、$p\in H\cap B_{\varepsilon/2}(o)$ が属する円周上で $p$ から $o$ へ向かう短い方の円弧が $B_\varepsilon(o)$ 内に収まることから従う。さらに $U_\varepsilon$ は $H$ で開である。実際、$o$ では左の包含により $H\cap B_{\varepsilon/2}(o)$ を含む。$p\in U_\varepsilon\setminus\{o\}$ では、$p$ が属するただ1つの円周 $C_n$ 上の十分小さい開弧を取れば、それは $U_\varepsilon$ に含まれる。従って各点は $U_\varepsilon$ に含まれる $H$ の相対開近傍をもち、$U_\varepsilon$ は開である。ゆえに $(U_\varepsilon)$ は $o$ の弧状連結な開近傍基を与える。$\blacksquare$
各 $n$ について写像 $r_n\colon H\to C_n$ を、$C_n$ 上では恒等写像、$H\setminus C_n$ 上では定値 $o$ として定める。
$r_n$ は連続である。従って包含 $i_n\colon C_n\hookrightarrow H$ は基本群の単射
$$
(i_n)_*\colon\pi_1(C_n,o)\longrightarrow\pi_1(H,o)
$$
を誘導する。
$C_n\setminus\{o\}$ 上で $r_n$ は恒等写像であり、$H\setminus C_n$ の各点の近くでは定値なので、$o$ 以外での連続性は明らかである。$C_n$ における $o$ の開近傍 $V$ を取る。補集合 $C_n\setminus V$ は $o$ を含まないコンパクト集合だから、$H$ の閉集合でもある。ゆえに
$$
r_n^{-1}(V)=H\setminus(C_n\setminus V)
$$
は $H$ で開であり、$o$ での連続性も従う。従って $r_n$ は連続である。
$r_n\circ i_n=\operatorname{id}_{C_n}$ なので、基本群では $(r_n)_*\circ(i_n)_*$ が恒等準同型になる。左逆をもつ準同型は単射だから $(i_n)_*$ は単射である。$\blacksquare$
特に、各 $C_n$ を1周するループは $H$ の中でも可縮でない。この事実により原点付近の小さなループを厳密に検出できる。
$H$ は原点 $o$ で半局所単連結でない。従って $H$ は局所単連結でもない。
$U$ を $H$ における $o$ の任意の近傍とする。ある $\varepsilon>0$ に対して $H\cap B_\varepsilon(o)\subseteq U$ である。$2/n<\varepsilon$ となる $n$ を取れば $C_n\subseteq B_\varepsilon(o)$ なので $C_n\subseteq U$ となる。
$C_n$ を1周する基点付きループを $\gamma_n$ とする。前補題より、$\gamma_n$ の類は $\pi_1(H,o)$ で非自明である。従って包含 $U\hookrightarrow H$ が誘導する準同型
$$
\pi_1(U,o)\longrightarrow\pi_1(H,o)
$$
の像は非自明である。これはどの近傍 $U$ についても成り立つので、$H$ は $o$ で半局所単連結でない。局所単連結なら十分小さい単連結近傍が存在し、半局所単連結になるはずだから、局所単連結でもない。$\blacksquare$
$H$ は連結かつ局所弧状連結だが、通常の意味での万有被覆をもたない。
連結かつ局所弧状連結な空間が万有被覆をもつなら半局所単連結である。前定理に反するので、$H$ は万有被覆をもたない。$\blacksquare$
この例は、被覆空間の分類定理に現れる半局所単連結性の仮定を単なる技術条件として省けないことを示す。
$H_N=\bigcup_{n=1}^{N}C_n$ は有限個の円周のブーケであり、有限CW複体である。$H_N$ は局所弧状連結かつ半局所単連結で、基本群は階数 $N$ の自由群である。有限段階では生じない集積現象が、無限和 $H$ で半局所単連結性を破る。
可算個の円周からなるCW複体としてのウェッジ和 $\bigvee_{n\ge1}S^1$ は、集合としては $H$ と同じ「円周を一点で束ねる」形をしている。しかしCW位相では各円周の開集合を独立に選べるのに対し、$H$ の相対位相では原点の近傍が十分小さい円周を丸ごと含む。この局所構造の違いにより両者は同相でない。
$H$ は「局所弧状連結なら半局所単連結である」という誤った含意を破る。また、コンパクト・連結・局所弧状連結という良い性質だけでは万有被覆の存在を保証できないことも示す。
ハワイの耳飾りの基本群は自由群より複雑で、無限個の小円周を順に通るループを含む。詳細な基本群の構造は本記事の範囲外とし、基本例と被覆理論上の役割については Hat02 を参照されたい。
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