接線(tangent line)とは、曲線上の点で曲線に接する直線であり、媒介変数表示 $\gamma(t)$ の曲線では、速度ベクトル $\gamma'(t_0)$ が $0$ でない点で直線 $\gamma(t_0)+\mathbb{R}\gamma'(t_0)$ として定める。関数のグラフでは $y=f(a)+f'(a)(x-a)$ であり、方程式 $F(x,y)=0$ の曲線では、$\nabla F(p)\ne0$ の点 $p=(x_0,y_0)$ で $F_x(p)(x-x_0)+F_y(p)(y-y_0)=0$ である。$\nabla F(p)=0$ の点では接線が 2 本以上になることがあり、接するかどうかは共有点の個数では決まらない。
関数 $f$ が $a$ で微分可能なとき、グラフ $y=f(x)$ の点 $(a,f(a))$ での接線(tangent line)は直線 $y=f(a)+f'(a)(x-a)$ であり、これは「$a$ の近くで $f$ を最もよく近似する 1 次関数」として特徴づけられる(導関数 の記事の命題「1次関数による近似としての言い換え」)。しかし、円 $x^2+y^2=1$ の点 $(1,0)$ での接線 $x=1$ のように、関数のグラフとして書けない曲線の接線もある。また、「接線とは曲線と 1 点だけで交わる直線だ」という素朴な考えは、$y=\sin x$ の接線 $y=1$ が曲線と無限個の点で交わることからも分かるとおり、一般には正しくない。
この記事では、接線を媒介変数表示された曲線と方程式 $F(x,y)=0$ で与えられた曲線に広げ、次の 4 つを示す。
$\mathbb{R}^n$ の点 $p$ とベクトル $v\ne0$ について、$p+\mathbb{R}v:=\{p+sv\mid s\in\mathbb{R}\}$ を、$p$ を通り方向 $v$ の直線という。$u\cdot v$ は標準内積、$|v|=\sqrt{v\cdot v}$ は長さである。2 つの直線の方向 $u,v\ne0$ のなす角 $\theta\in[0,\frac\pi2]$ を
$$
\cos\theta=\frac{|u\cdot v|}{|u|\,|v|}
$$
で定める($u$ を $-u$ に替えても変わらないので、直線の向きによらない)。同じ点 $p$ を通る直線 $p+\mathbb{R}u_t$ が $p+\mathbb{R}v$ に近づくとは、なす角が $0$ に近づくこと、すなわち $\frac{|u_t\cdot v|}{|u_t||v|}\to1$ であることをいう。
$J\subset\mathbb{R}$ を開区間、$\gamma=(\gamma_1,\dots,\gamma_n)\colon J\to\mathbb{R}^n$ を写像、$t_0\in J$ とする。各成分 $\gamma_k$ が $t_0$ で微分可能なとき、$\gamma'(t_0):=(\gamma_1'(t_0),\dots,\gamma_n'(t_0))$ を $t_0$ での速度ベクトル(接ベクトル)という。$\gamma'(t_0)\ne0$ のとき $t_0$ は正則であるといい、直線
$$
\gamma(t_0)+\mathbb{R}\,\gamma'(t_0)
$$
を、曲線 $\gamma$ の $t_0$ における接線という。$n=2$ のとき、接点を通り接線に垂直な直線を法線という。
速度ベクトルを接ベクトルと呼ぶのは Leb2 p. 41 と同じである。関数 $f$ のグラフは $\gamma(t)=(t,f(t))$ と媒介変数表示でき、$\gamma'(a)=(1,f'(a))\ne0$ なので、接線は $(a,f(a))+\mathbb{R}(1,f'(a))$、すなわち $y=f(a)+f'(a)(x-a)$ であり、導関数 の記事の接線と一致する。
媒介変数を取り替えても接線は変わらない。$\varphi$ を開区間の間の微分可能な全単射で $\varphi(s_0)=t_0$、$\varphi'(s_0)\ne0$ とすると、連鎖律 により $(\gamma\circ\varphi)'(s_0)=\varphi'(s_0)\,\gamma'(t_0)$ であり、方向は $0$ でない定数倍しか変わらない。
開区間 $J$ 上の $\gamma\colon J\to\mathbb{R}^n$ が $t_0\in J$ で微分可能で、$\gamma'(t_0)\ne0$ とする。このとき、ある $\delta>0$ について、$0<|t-t_0|<\delta$ ならば $\gamma(t)\ne\gamma(t_0)$ であり、$\gamma(t_0)$ と $\gamma(t)$ を通る割線 $\gamma(t_0)+\mathbb{R}\bigl(\gamma(t)-\gamma(t_0)\bigr)$ は、$t\to t_0$ のとき $t_0$ における接線に近づく。
$v:=\gamma'(t_0)$、$t\ne t_0$ について $q(t):=\frac{\gamma(t)-\gamma(t_0)}{t-t_0}$ とおく。各成分の差分商が収束するので $q(t)\to v$ である。$|v|>0$ なので、$\delta>0$ を、$0<|t-t_0|<\delta$ ならば $|q(t)-v|<\frac{|v|}2$ となるようにとる。このとき三角不等式により $|q(t)|>\frac{|v|}2>0$ なので、$\gamma(t)-\gamma(t_0)=(t-t_0)q(t)\ne0$ である。割線の方向 $\gamma(t)-\gamma(t_0)$ は $q(t)$ の $0$ でない定数倍なので、なす角は $q(t)$ と $v$ で計算してよい。内積と長さは連続なので
$$
\frac{|q(t)\cdot v|}{|q(t)|\,|v|}\longrightarrow\frac{|v\cdot v|}{|v|\,|v|}=1\qquad(t\to t_0)
$$
であり、割線は接線に近づく。
仮定 $\gamma'(t_0)\ne0$ は、割線の極限を「$t_0$ の接線」と一致させるために使った。$\gamma'(t_0)=0$ のときは、割線は近づくことも近づかないこともある。
$\gamma$ が $t_0$ で微分可能でない場合も、割線は近づかないことがある。$\gamma(t)=(t,|t|)$($y=|x|$ のグラフ)の $t_0=0$ では、$t>0$ の割線は $y=x$、$t<0$ の割線は $y=-x$ であり、左右で別の直線になる。
円 $x^2+y^2=1$ のように、曲線が方程式 $F(x,y)=0$ で与えられることが多い。以下、$U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級(偏導関数 $F_x=\frac{\partial F}{\partial x}$、$F_y=\frac{\partial F}{\partial y}$ が存在して連続)とし、$\nabla F:=(F_x,F_y)$ を勾配とする(偏微分 の記事の定義「方向微分と勾配」)。$C^1$ 級の関数は全微分可能である(偏微分 の記事の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)。
$C:=\{q\in U\mid F(q)=0\}$、$p=(x_0,y_0)\in C$ とし、$\nabla F(p)\ne(0,0)$ とする。
1:$F_y(p)\ne0$ の場合を示す($F_x(p)\ne0$ の場合は $x$ と $y$ の役割を入れ替えればよい)。陰関数定理 の記事の定理「陰関数定理」($n=m=1$、$k=1$)により、$x_0$ を含む開集合 $W\subset\mathbb{R}$、$y_0$ を含む開集合 $V'\subset\mathbb{R}$($W\times V'\subset U$)と $C^1$ 級の $\varphi\colon W\to V'$ で、$(x,y)\in W\times V'$ について $F(x,y)=0$ と $y=\varphi(x)$ が同値になるものがある。$x_0$ を含み $W$ に含まれる開区間 $W_0$ をとり、$V:=W_0\times V'$、$J:=\{t\mid x_0+t\in W_0\}$、$\gamma(t):=(x_0+t,\varphi(x_0+t))$ とおけば、$\gamma(0)=p$、$\gamma'(t)=(1,\varphi'(x_0+t))\ne0$、$C\cap V=\gamma(J)$ である。
2:$g(s):=F(\beta(s))$ は恒等的に $0$ である。$F$ は $p$ で全微分可能で $\beta$ は $s_0$ で微分可能なので、連鎖律 の記事の系「成分による表示と曲線に沿った微分」により
$$
0=g'(s_0)=F_x(p)\,\beta_1'(s_0)+F_y(p)\,\beta_2'(s_0)=\nabla F(p)\cdot\beta'(s_0)
$$
である。
3:$\beta'(s_0)\ne0$ とする。$\mathbb{R}^2$ で $0$ でないベクトル $\nabla F(p)$ に直交するベクトルの全体は直線 $\mathbb{R}\,(-F_y(p),F_x(p))$ なので、2 により $\beta'(s_0)$ はその $0$ でない定数倍であり、接線 $p+\mathbb{R}\beta'(s_0)$ は $\{q\mid\nabla F(p)\cdot(q-p)=0\}$ に等しい。1 の $\gamma$ がそのような曲線の例である。法線の方向は接線の方向 $(-F_y(p),F_x(p))$ に垂直なので $\nabla F(p)$ である。
代数曲線($F$ が多項式)の場合、この式は代数幾何学での接線の定義そのものである(Ful08 §3.1、p. 31 は、$F_X(P)$ または $F_Y(P)$ が $0$ でない点 $P=(a,b)$ を単純点とよび、そこでの接線を $F_X(P)(X-a)+F_Y(P)(Y-b)=0$ と定める)。
$\nabla F(p)=0$ となる点では、定理の結論は崩れうる。
グラフとして書けない接線は、媒介変数表示でも扱える。$y=x^{1/3}$ のグラフは原点で微分可能でない(差分商 $x^{-2/3}$ が限りなく大きくなる)が、$\gamma(t)=(t^3,t)$ と表示すれば $\gamma'(0)=(0,1)\ne0$ であり、接線は $y$ 軸 $x=0$ である。$F(x,y)=x-y^3$ とみても $\nabla F(0,0)=(1,0)$ から同じ接線が得られる。
thm-tangent-line-secant では割線の一端を接点に固定した。両端をともに接点に近づけると、事情が変わる。
$I$ を開区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を $I$ 上で微分可能な関数、$a\in I$ とする。次は同値である。
1⇒2:$\varepsilon>0$ に対し、$|\xi-a|<\delta$ ならば $|f'(\xi)-f'(a)|<\varepsilon$ となる $\delta>0$ をとる($(a-\delta,a+\delta)\subset I$ としてよい)。$x,y\in(a-\delta,a+\delta)$、$x< y$ とすると、平均値の定理 により $\frac{f(x)-f(y)}{x-y}=\frac{f(y)-f(x)}{y-x}=f'(\xi)$ となる $\xi\in(x,y)$ があり、$|\xi-a|<\delta$ なので傾きと $f'(a)$ の差は $\varepsilon$ より小さい。
2⇒1:$\varepsilon>0$ に対し 2 の $\delta$ をとり、$x\in(a-\delta,a+\delta)\cap I$ を固定する。$y\in(a-\delta,a+\delta)\cap I$、$y\ne x$ について $\left|\frac{f(y)-f(x)}{y-x}-f'(a)\right|<\varepsilon$ であり、$y\to x$ とすると左辺の差分商は $f'(x)$ に収束するので $|f'(x)-f'(a)|\le\varepsilon$ である。よって $f'$ は $a$ で連続である。
$f$ が $C^1$ 級なら、どの点でも 2 点を動かした割線は接線に近づく。$f'$ が連続でないと、そうならない。
$f(x)=x^2\sin\frac1x$($x\ne0$)、$f(0)=0$ は $\mathbb{R}$ 上で微分可能で $f'(0)=0$ だが、$f'$ は $0$ で連続でない(導関数 の記事の例「反例:導関数が連続でない微分可能な関数」)。正の整数 $k$ と $A:=2k\pi$ について $x_k:=\frac1{A+\pi/2}$、$y_k:=\frac1{A-\pi/2}$ とおくと、$\sin\frac1{x_k}=1$、$\sin\frac1{y_k}=-1$ なので
$$
\frac{f(x_k)-f(y_k)}{x_k-y_k}=-\frac{x_k^2+y_k^2}{y_k-x_k}=-\frac{2A^2+\pi^2/2}{\pi\,(A^2-\pi^2/4)}\longrightarrow-\frac2\pi\qquad(k\to\infty)
$$
である($y_k-x_k=\frac{\pi}{A^2-\pi^2/4}$、$x_k^2+y_k^2=\frac{2A^2+\pi^2/2}{(A^2-\pi^2/4)^2}$)。$x_k,y_k\to0$ なのに傾きは $f'(0)=0$ に近づかない。$k=1000$ で傾きは $-0.63661\ldots$ である。原点の近くの弦は、原点での接線 $y=0$ とは違う方向を向いたものがいくらでも短く現れる。
$I$ を開区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を $I$ 上で微分可能とし、$a\in I$ で $f'$ が微分可能で $f''(a)>0$ とする。このとき $\delta>0$ があって、$0<|x-a|<\delta$ ならば
$$
f(x)>f(a)+f'(a)(x-a)
$$
である。$f''(a)<0$ なら不等号が逆になる。
$g(x):=f(x)-f(a)-f'(a)(x-a)$ とおくと、$g(a)=0$、$g'(x)=f'(x)-f'(a)$ である。$\frac{g'(x)}{x-a}=\frac{f'(x)-f'(a)}{x-a}\to f''(a)>0$ なので、$\delta>0$($(a-\delta,a+\delta)\subset I$)を、$0<|x-a|<\delta$ ならば $\frac{g'(x)}{x-a}>0$ となるようにとる。つまり $a< x< a+\delta$ で $g'(x)>0$、$a-\delta< x< a$ で $g'(x)<0$ である。$a< x< a+\delta$ なら、平均値の定理 により $g(x)=g(x)-g(a)=g'(\xi)(x-a)$ となる $\xi\in(a,x)$ があり、$g'(\xi)>0$ なので $g(x)>0$ である。$a-\delta< x< a$ なら、$g(a)-g(x)=g'(\xi)(a-x)$ となる $\xi\in(x,a)$ があり、$g'(\xi)<0$ なので $g(x)>0$ である。$f''(a)<0$ の場合は $-f$ に当てればよい。
$f''(a)=0$ のときは何も言えない。$x^3$、$x^4$、$-x^4$ はいずれも $f'(0)=f''(0)=0$ で、原点での接線は $y=0$ だが、$x^3$ のグラフは原点で接線を横切り($x<0$ で下、$x>0$ で上)、$x^4$ は上に、$-x^4$ は下にある。開区間上で微分可能な関数について、グラフがどの点での接線よりも下に来ないことは、関数が凸であることと同値である(凸関数 の記事の節「導関数による判定」)。
円や放物線では、接線は曲線とちょうど 1 点で交わる。たとえば $y=x^2$ と点 $(a,a^2)$ での接線 $y=2ax-a^2$ の差は $(x-a)^2\ge0$ で、等号は $x=a$ のときだけである。しかし一般には、共有点の個数で接線を定めることはできない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\gamma'(t_0)\ne0$ | $t^2\bigl(\cos\frac1t,\sin\frac1t\bigr)$ の $t=0$ | 割線が 1 本の直線に近づくこと |
| $\gamma$ が $t_0$ で微分可能 | $(t,\lvert t\rvert)$ の $t=0$ | 左右の割線が同じ直線に近づくこと |
| $\nabla F(p)\ne0$ | $y^2=x^2(x+1)$ の原点 | 接線がただ 1 本であること |
| $\nabla F(p)\ne0$ | $x^2+y^2=0$ | $C$ が $p$ の近くで曲線であること |
| $f'$ が $a$ で連続 | $x^2\sin\frac1x$ の $a=0$ | 2 点を動かした割線が接線に近づくこと |
| $f''(a)\ne0$ | $x^3$ の $a=0$ | グラフが接線の片側にあること |
それぞれの確認は ex-tangent-line-singular-parameter、ex-tangent-line-node、ex-tangent-line-two-point と、各定理のあとの段落で行った。
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