有限アーベル群の基本定理

同義語:有限アーベル群の構造定理fundamental theorem of finite abelian groups

概要

有限アーベル群の基本定理(fundamental theorem of finite abelian groups)とは、任意の有限アーベル群を有限個の巡回群の直積として分類する定理である。不変因子形では因子の位数を整除関係に沿って並べ、素因子形では素数冪の因子を多重集合として記録する。両形式には存在定理と一意性定理があり、互いに変換できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, アーベル群, 巡回群, 整数

有限アーベル群は、有限群 の中でも 同型 を完全に記述できる特別な範囲である。分類には、因子を整除関係に沿って並べる不変因子形と、素数 冪ごとに分ける素因子形(elementary divisor form。単因子形とも)がある。二つは同じ情報を異なる形に並べたものである。

記法と準備

加法記法を用い、位数 $n$ の巡回群を $C_n$ と書く。有限個のアーベル群については 直積 と 直和 は自然に同型だが、本記事では有限直積の記号 $\times$ を用いる。$pG=\{px\mid x\in G\}$ とし、$p^jG$ も同様に定める。

有限指数部分格子の Smith 標準形

$L$ を $\mathbb Z^m$ の 指数 が有限な 部分群 とする。このとき、$\mathbb Z^m$ の 基底 $e_1,\ldots,e_m$ と正整数 $d_1,\ldots,d_m$ で
$$ d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_m, \qquad L=\langle d_1e_1,\ldots,d_me_m\rangle $$
を満たすものが存在する。

整数行列の基本変形

$L$ の指数を $N$ とし、$M=N!$ と置く。有限群 $\mathbb Z^m/L$ の各元の位数は高々 $N$ なので $M$ がその全てを消し、$M\mathbb Z^m\subset L$ である。したがって $L$ は、$Me_1,\ldots,Me_m$ と、有限集合 $L\cap\{0,\ldots,M-1\}^m$ で生成される。その生成元を列に並べた整数行列を考える。
行または列の交換、符号変更、ある行または列への別の行または列の整数倍の加算は、それぞれ $\mathbb Z^m$ の基底または $L$ の生成系を変えるだけである。非零成分の絶対値が最小のものを左上へ移し、Euclid の互除法に対応する基本変形で、その成分を同じ行と列の全成分の約数にする。もし残りの小行列にそれで割り切れない成分があれば、その成分を左上の行へ加えてもう一度互除法を行うと、左上に真に小さい正の剰余が現れる。この降下は正整数について有限回で止まるから、左上成分は行列の全成分を割り切る。左上以外の同じ行と列を0にし、残りの小行列へ同じ操作を繰り返すと、正の対角成分 $d_1,\ldots,d_m$ で $d_i\mid d_{i+1}$ を満たす対角行列を得る。有限指数だから0の対角成分はない。変形はすべて可逆な整数基本変形なので、得られた基底と生成系が主張の等式を与える。この有限アルゴリズムは 選択公理 を使わない。$\square$

不変因子形

不変因子分解の存在

$G$ を有限アーベル群とする。$G$ が自明群でなければ、整数 $r\geq1$ と
$$ k_1\geq k_2\geq\cdots\geq k_r\geq2, \qquad k_{i+1}\mid k_i $$
を満たす整数列が存在し、
$$ G\cong C_{k_1}\times\cdots\times C_{k_r} $$
となる。自明群には $r=0$ の空積を対応させる。

生成元と関係格子からの構成

$G$ は有限なので、有限個の元 $g_1,\ldots,g_m$ で生成される。写像
$$ \pi:\mathbb Z^m\longrightarrow G, \qquad (a_1,\ldots,a_m)\longmapsto a_1g_1+\cdots+a_mg_m $$
は 全射 な 準同型 である。$L=\ker\pi$($\pi$ の 核)と置く。各 $g_i$ の位数の積を $N$ とすれば $N\mathbb Z^m\subset L$ なので、$L$ は有限指数である。
lem-b246-smith により、ある基底について $L=\langle d_1e_1,\ldots,d_me_m\rangle$、$d_1\mid\cdots\mid d_m$ と書ける。剰余類を座標ごとに取る写像から
$$ G\cong\mathbb Z^m/L\cong C_{d_1}\times\cdots\times C_{d_m} $$
を得る。$d_i=1$ の因子を除き、残りを逆順に $k_1,\ldots,k_r$ とすれば、$k_{i+1}\mid k_i$ である。自明群では全因子が1となり空積を得る。この構成では有限集合 $G$ 自身を生成系に選んでもよく、選択公理を使わない。$\square$

不変因子分解の一意性

上の条件を満たす非自明な不変因子列 $(k_1,\ldots,k_r)$ は、群 $G$ の同型類から一意に定まる。

$p$ 倍写像の商からの復元

各素数 $p$ と $j\geq1$ に対し、
$$ b_{p,j}(G)=\dim_{\mathbb F_p}\bigl(p^{j-1}G/p^jG\bigr) $$
と置く。この商は $p$ 倍すると0になる有限アーベル群なので、自然に $\mathbb F_p$ 上の ベクトル空間 であり、その 次元 は $G$ の同型類だけで決まる。
$G\cong\prod_{i=1}^r C_{k_i}$ なら、巡回因子 $C_{k_i}$ がこの次元へ1を寄与するのは $p^j\mid k_i$ のときに限り、それ以外は0を寄与する。したがって
$$ b_{p,j}(G)=\#\{i\mid v_p(k_i)\geq j\}. $$
右辺の全ての値から、各 $p$ について非増加列
$(v_p(k_1),\ldots,v_p(k_r))$ が復元できる。さらに $k_r\geq2$ と整除条件により、ある素数 $p$ が全 $k_i$ を割るので、$r=\max_p b_{p,1}(G)$ も復元できる。よって各 $i$ について $k_i=\prod_p p^{v_p(k_i)}$ が一意に復元される。$\square$

素因子形

素因子分解の存在

$G$ を有限アーベル群とする。このとき、素数冪 $q_1,\ldots,q_s$ が存在して
$$ G\cong C_{q_1}\times\cdots\times C_{q_s} $$
となる。自明群では $s=0$ とする。

不変因子の素数冪への分解

不変因子形の各 $k_i$ を $k_i=\prod_p p^{a_{p,i}}$ と 素因数分解 する。互いに素 な正整数 $u,v$ に対し、
$$ C_{uv}\longrightarrow C_u\times C_v, \qquad [x]_{uv}\longmapsto([x]_u,[x]_v) $$
は準同型である。像が0なら $u\mid x$ かつ $v\mid x$ であり、互いに素なので $uv\mid x$、従って 単射 である。両辺の位数が $uv$ だから全射でもある。この同型を有限回適用すると
$$ C_{k_i}\cong\prod_{p\mid k_i}C_{p^{a_{p,i}}} $$
を得る。全ての $i$ について並べれば主張の素因子形となる。有限回の素因数分解と写像の検査だけなので選択公理を使わない。$\square$

素因子分解の一意性

素因子形に現れる素数冪の多重集合 $\{q_1,\ldots,q_s\}$ は、並べる順序を除いて $G$ の同型類から一意に定まる。

各素数の指数多重集合の復元

素数 $p$ に属する因子を $C_{p^{a_1}},\ldots,C_{p^{a_t}}$ とする。prf-finite-abelian-invariant-uniqueness と同じ不変量 $b_{p,j}(G)$ は、$a_l\geq j$ を満たす $l$ の個数である。従って、指数がちょうど $j$ である因子の個数は
$$ b_{p,j}(G)-b_{p,j+1}(G) $$
で復元できる。これを全ての $p,j$ について行えば素数冪の多重集合が一意に決まる。異なる素数に属する因子の間には大小順や整除順を課していない。$\square$

二つの形の対応

不変因子形と素因子形の相互変換

不変因子形を素因数分解すると素因子形を得る。逆に、素因子形で各素数 $p$ の指数を非増加順に並べ、短い列の末尾を0で補って列の長さを揃え、同じ位置の素数冪を掛けると不変因子形を得る。この二操作は互いに逆である。

素数ごとの指数列の整列

不変因子 $k_{i+1}\mid k_i$ は、全ての素数 $p$ について $v_p(k_{i+1})\leq v_p(k_i)$ と同値である。従って素因数分解で得る各 $p$ の指数列は非増加である。
逆に、素因子形の各 $p$ に属する指数を $a_{p,1}\geq\cdots\geq a_{p,r_p}\geq1$ と並べる。$r=\max_p r_p$ とし、$i>r_p$ では $a_{p,i}=0$ と置いて
$$ k_i=\prod_p p^{a_{p,i}} $$
とすれば、各素数の指数が非増加なので $k_{i+1}\mid k_i$ となる。素因数分解の一意性により、二操作の前後で全ての $p$ 進指数が一致するから、互いに逆である。$\square$

二つの標準形の区別

2つの標準形は同じ並べ方ではない。不変因子形と素因子形を同じ並べ方だと考えるのではなく、素数ごとの指数列を組み替えて移り合う二つの標準形として区別する。

二つの標準形

$$ C_{12}\times C_{18} \cong C_4\times C_3\times C_2\times C_9 \cong C_{36}\times C_6. $$
中央は素因子形で、素数冪の多重集合は $\{4,2,9,3\}$ である。右端は $6\mid36$ を満たす不変因子形である。

条件を外したときの反例

有限性だけでは結論は成り立たない。位数6の非可換群 $S_3$(3次の対称群)は有限だが、アーベルな巡回群の直積にはなれない。これは「有限群なら巡回群の有限直積に分解する」という含意を破り、破れている仮定はアーベル性である。
また、整除条件を外すと直積表示は一意でない。互いに素な2と3について $C_6\cong C_2\times C_3$ だからである。さらに $C_1$ を因子として許すと任意個付け足せるため、本記事では非自明な不変因子を $k_i\geq2$ に限定した。

位数を固定した同型類の個数

$n=\prod_{p}p^{a_p}$ を正整数 $n$ の素因数分解とする。位数 $n$ の有限アーベル群の同型類の個数は
$$ \prod_{p\mid n}P(a_p) $$
である。ここで $P(a)$ は正整数 $a$ の 分割数 である。

指数の分割との対応

各素数 $p$ について、素因子形に現れる $p$ 冪因子の指数の多重集合は、総和が $a_p$ である正整数の分割と一致する。素因子形の一意性により異なる分割は異なる同型類を与え、存在により全ての分割が群を与える。異なる素数については独立に選べるので積の公式を得る。$\square$

位数8と位数12のアーベル群

位数 $8=2^3$ のアーベル群は、同型を除いて
$$ C_8,\qquad C_4\times C_2,\qquad C_2\times C_2\times C_2 $$
の3つである。これらは $3$ の分割 $3$、$2+1$、$1+1+1$ に対応し、個数は $P(3)=3$ と一致する。
位数 $12=2^2\cdot3$ のアーベル群は、同型を除いて
$$ C_{12},\qquad C_6\times C_2 $$
の2つである。素因子形で書けば $C_4\times C_3$ と $C_2\times C_2\times C_3$ であり、$2$ の分割 $2$、$1+1$ と $1$ の分割 $1$ の組に対応する。個数は $P(2)P(1)=2\cdot1=2$ と一致する。不変因子形 $C_6\times C_2$ は $2\mid6$ を満たし、$C_4\times C_3$ を不変因子形に直すと $C_{12}$ になる。

有限生成アーベル群への一般化

本定理は有限生成アーベル群へ一般化される。有限生成アーベル群 $G$ は、ある整数 $s\geq0$ と有限アーベル群 $T$ を用いて $G\cong\mathbb{Z}^s\times T$ と書け、$s$ と $T$ の同型類は $G$ から一意に定まる。すなわち、有限の場合の標準形に自由部分 $\mathbb{Z}^s$ が加わる。$T$ には本記事の不変因子形と素因子形がそのまま適用できる。この一般化の定式化は DF04 にあり、証明は 有限生成アーベル群の基本定理 の記事に譲る。

不変因子形と素因子形の標準的な定式化は DF04 と Lan02 を参照した。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する