Euler法(高校数学)

同義語:オイラー法(高校数学)Euler's method (high school mathematics)

概要

Euler法(Euler's method)とは、微分方程式 $y'=f(x,y)$、$y(x_0)=y_0$ の解を、刻み $h$ の漸化式 $y_{k+1}=y_k+h\,f(x_k,y_k)$($x_k=x_0+kh$)で近似する方法である。解のグラフを、各点で方程式が指定する傾きの線分をつないだ折れ線でなぞる。$y'=ky$、$y(0)=1$ に刻み $h=\frac xn$ で使うと値は $\left(1+\frac{kx}n\right)^n$ で、$n\to\infty$ で $e^{kx}$ に収束し、$k>0$、$x>0$ なら誤差は $0$ より大きく $\frac{k^2x^2}{2n}e^{kx}$ 以下で、刻みに比例する。$y'=g(x)$ では左端の長方形の区分求積と一致する。刻みが大きすぎると振動・発散し、解の発散や一意性の崩れは見落とす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: (1+1/n)^nの極限, 1の∞乗型の極限, 変数分離形の微分方程式, 台形公式とSimpsonの公式(高校数学)

高校での出発点:傾きに沿って少しずつ進む

微分方程式 $y'=y$、$y(0)=1$ の解は $y=e^x$ である(微分方程式としての指数関数・三角関数)。では、解の式を知らないとして、$x=1$ での値 $e=2.71828\ldots$ を、方程式だけから近似できるだろうか。
方程式 $y'=y$ は「点 $(x,y)$ を通る解のグラフの傾きは $y$ である」と言っている。そこで、今いる点での傾きのまま、短い距離 $h$ だけまっすぐ進む。着いた点でまた傾きを計算し、さらに $h$ だけ進む。これをくり返せば、解のグラフを折れ線でなぞれるはずである。

$y'=y$ を刻み $0.25$ でなぞる

$h=0.25$ とし、点 $(0,1)$ から始める。
1 歩目。$(0,1)$ での傾きは $y=1$ なので、$x$ が $0.25$ 進む間に $y$ は $0.25\times1=0.25$ 増える。$(0.25,\ 1.25)$ に着く。
2 歩目。$(0.25,\ 1.25)$ での傾きは $1.25$ なので、$y$ は $0.25\times1.25=0.3125$ 増えて $1.5625$ になる。
同じように続けると、$y$ は 1 歩ごとに $1+0.25=1.25$ 倍になる。

$x$$0$$0.25$$0.5$$0.75$$1$
折れ線の $y$$1$$1.25$$1.5625$$1.953125$$2.44140625$
$e^x$$1$$1.2840\ldots$$1.6487\ldots$$2.1170\ldots$$2.7182\ldots$

$x=1$ での値は $1.25^4=2.4414\ldots$ で、$e$ との差は $0.2769\ldots$ である。刻みを $h=0.1$ にすると $1.1^{10}=2.5937\ldots$(差 $0.1245\ldots$)、$h=0.05$ にすると $1.05^{20}=2.6532\ldots$(差 $0.0650\ldots$)である。

真の解 y = e^x と、刻み h = 0.5、0.25、0.1 の Euler 法の折れ線で、刻みが小さいほど折れ線が真の解に近づく 真の解 y = e^x と、刻み h = 0.5、0.25、0.1 の Euler 法の折れ線で、刻みが小さいほど折れ線が真の解に近づく
図 1 の折れ線は、どれも真の解より下にある。刻みを小さくすると真の解に近づき、ex-eum-start では刻みを半分にすると誤差もほぼ半分になっている。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. この方法を一般の微分方程式で式に書くとどうなるか。→ def-eum-euler
  2. 刻みを小さくすると本当に真の解に近づくか。誤差は刻み $h$ に比例するのか。→ thm-eum-main
  3. 刻みが大きすぎたり、解が途中で発散したりすると、何が起こるか。→ ex-eum-cx-stiff、ex-eum-cx-blowup
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    傾きのまま $h$ だけ進むEuler 法の漸化式1 段の陽的な解法
    複利 $\left(1+\dfrac xn\right)^n$$y'=y$ の Euler 法の値指数関数の近似
    左端の長方形の和$y'=f(x)$ の Euler 法Riemann 和
    誤差が刻みの半分で半分誤差の上界 $\dfrac{k^2x^2}{2n}e^{kx}$1 次の方法(大域誤差 $O(h)$)

Euler 法の式

Euler 法

微分方程式 $y'=f(x,y)$ と初期条件 $y(x_0)=y_0$ が与えられたとする。刻み $h>0$ を決め、$x_k=x_0+kh$ として、漸化式
$$ y_{k+1}=y_k+h\,f(x_k,y_k)\qquad(k=0,1,2,\ldots) $$
で $y_1,y_2,\ldots$ を作る方法を Euler 法 という。$y_k$ を解の $x_k$ での値 $y(x_k)$ の近似値として使う。点 $(x_k,y_k)$ と $(x_{k+1},y_{k+1})$ を結ぶ線分の傾きは $f(x_k,y_k)$ で、これは方程式が点 $(x_k,y_k)$ に指定している傾きである。

ex-eum-start は $f(x,y)=y$、$x_0=0$、$y_0=1$、$h=0.25$ の場合である。漸化式は $y_{k+1}=y_k+hy_k=(1+h)y_k$ で、公比 $1+h$ の等比数列になる。
右辺に $y$ がない方程式では、Euler 法は区分求積そのものになる。

右辺に $y$ がないとき

$y'=g(x)$、$y(x_0)=y_0$ に刻み $h$ の Euler 法を使うと
$$ y_n=y_0+h\bigl(g(x_0)+g(x_1)+\cdots+g(x_{n-1})\bigr) $$
である。右辺の第 2 項は、$\displaystyle\int_{x_0}^{x_n}g(x)\,dx$ を $n$ 等分の左端の長方形で近似した和である。

漸化式を足し合わせる

漸化式は $y_{k+1}-y_k=hg(x_k)$ である。$k=0,1,\ldots,n-1$ について足すと、左辺は $(y_1-y_0)+(y_2-y_1)+\cdots+(y_n-y_{n-1})=y_n-y_0$ となり、右辺は $h\bigl(g(x_0)+\cdots+g(x_{n-1})\bigr)$ である。$\square$

真の解は $y(x_n)=y_0+\displaystyle\int_{x_0}^{x_n}g(x)\,dx$ なので、このときの Euler 法の誤差は、左端の長方形による区分求積の誤差と同じである。台形公式とSimpsonの公式(高校数学) の比較表のとおり、この誤差は、一般には $h$ に比例する程度にしか小さくならない(ex-eum-riemann)。

右辺に $y$ がない例
  1. $y'=x$、$y(0)=0$ を $h=0.25$ で $x=1$ まで進める。$y_4=0.25(0+0.25+0.5+0.75)=0.375$ で、真の解 $y=\dfrac{x^2}2$ の値 $0.5$ より $0.125$ 小さい。$h=0.125$ なら $y_8=0.125^2(0+1+\cdots+7)=\dfrac{28}{64}=0.4375$ で、差は $0.0625$ と半分になる。
  2. 一般に $y'=x$、$y(0)=0$ で $h=\dfrac1n$ とすると $y_n=\dfrac1{n^2}(0+1+\cdots+(n-1))=\dfrac{n-1}{2n}$ で、差は $\dfrac12-\dfrac{n-1}{2n}=\dfrac1{2n}=\dfrac h2$ である。誤差はちょうど $h$ に比例する。

主定理:$y'=ky$ の Euler 法と誤差

Euler 法の値は複利の式

$y'=ky$、$y(0)=1$($k$ は定数)の解は $y=e^{kx}$ である。$x$ を 1 つ決め、区間 $[0,x]$ を $n$ 等分する($h=\dfrac xn$)。漸化式は $y_{j+1}=y_j+h\cdot ky_j=(1+kh)y_j$ なので、$y_0=1$ から
$$ y_n=(1+kh)^n=\left(1+\frac{kx}n\right)^n $$
である。これは、年利 $kx$ を 1 年に $n$ 回に分けて付ける複利の倍率と同じ式である(1の∞乗型の極限 の節「連続複利」)。
誤差を評価するために、対数関数の不等式を 1 つ用意する。

対数関数を 2 次式ではさむ

$u\ge0$ なら
$$ u-\frac{u^2}2\le\log(1+u)\le u $$
である。$u>0$ なら右側の不等号は等号にならない。

差を微分する

段 1(右側)。$\psi(u)=u-\log(1+u)$ とおくと $\psi(0)=0$、$\psi'(u)=1-\dfrac1{1+u}=\dfrac u{1+u}$ である。$u>0$ で $\psi'(u)>0$ なので、$\psi$ は $u\ge0$ で増加し(平均値の定理)、$u>0$ なら $\psi(u)>\psi(0)=0$ である。
段 2(左側)。$\varphi(u)=\log(1+u)-u+\dfrac{u^2}2$ とおくと $\varphi(0)=0$ で
$$ \varphi'(u)=\frac1{1+u}-1+u=\frac{1-(1+u)+u(1+u)}{1+u}=\frac{u^2}{1+u} $$
である。$u\ge0$ で $\varphi'(u)\ge0$ なので $\varphi$ は増加し、$\varphi(u)\ge\varphi(0)=0$ である。$\square$

不等式を数で確かめる

$u=0.1$ では $u-\dfrac{u^2}2=0.095$、$\log1.1=0.09531\ldots$、$u=0.1$ で、$0.095\le0.09531\ldots\le0.1$ である。$u=1$ では $0.5\le\log2=0.6931\ldots\le1$ である。$u$ が小さいほど、3 つの値は近い。

定理と証明

$y'=ky$ に対する Euler 法の収束と誤差

$k$ を実数、$x>0$ とし、$y'=ky$、$y(0)=1$ に刻み $h=\dfrac xn$ の Euler 法を使って得た $x$ での値を $y_n$ とする。
(1) $y_n=\left(1+\dfrac{kx}n\right)^n$ であり、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}y_n=e^{kx}$ である。
(2) $k>0$、$x>0$ なら、すべての正の整数 $n$ で
$$ 0< e^{kx}-\left(1+\frac{kx}n\right)^n\le\frac{k^2x^2}{2n}\,e^{kx} $$
が成り立つ。

対数をとって 2 次式ではさむ
  1. $y_n$ の式は上で示した。極限は、1の∞乗型の極限 の定理「1 の $\infty$ 乗型の極限」の後半(すべての実数 $a$ で $\left(1+\dfrac an\right)^n\to e^a$)を $a=kx$ として使えばよい。
  2. の段 1(下からの評価)。$u=\dfrac{kx}n$ とおくと $u>0$ である。lem-eum-log の右側から $\log(1+u)< u$ で、両辺を $n$ 倍して指数関数に入れると($e^t$ は増加)
    $$ (1+u)^n=e^{n\log(1+u)}< e^{nu}=e^{kx} $$
    である。よって誤差は正である。
    段 2(上からの評価)。lem-eum-log の左側から $n\log(1+u)\ge nu-\dfrac{nu^2}2$ である。$nu=kx$、$nu^2=\dfrac{k^2x^2}n$ なので、$v=\dfrac{k^2x^2}{2n}$ とおくと
    $$ (1+u)^n=e^{n\log(1+u)}\ge e^{kx-v}=e^{kx}e^{-v} $$
    である。よって
    $$ e^{kx}-(1+u)^n\le e^{kx}-e^{kx}e^{-v}=e^{kx}\bigl(1-e^{-v}\bigr) $$
    となる。
    段 3($1-e^{-v}\le v$)。すべての実数 $t$ で $e^t\ge1+t$ である($y=e^t$ のグラフは $t=0$ での接線 $y=1+t$ より上にある。接線・法線と曲線の凹凸)。$t=-v$ とすると $e^{-v}\ge1-v$、つまり $1-e^{-v}\le v$ である。段 2 と合わせて
    $$ e^{kx}-(1+u)^n\le e^{kx}\cdot v=\frac{k^2x^2}{2n}\,e^{kx} $$
    を得る。$\square$
  1. の右辺は $\dfrac{k^2x^2}{2n}e^{kx}=\dfrac{k^2x}{2}e^{kx}\cdot h$ と書ける($h=\dfrac xn$)。$x$ を決めておけば、誤差の上界は刻み $h$ に比例する。刻みを半分にすると、上界も半分になる。
誤差と上界を比べる

$k=1$、$x=1$ とする。真の値は $e=2.718281\ldots$、上界は $\dfrac{e}{2n}$ である。

$n$$h$$y_n=\left(1+\frac1n\right)^n$誤差 $e-y_n$上界 $\dfrac e{2n}$$n\times$ 誤差
$4$$0.25$$2.441406$$0.2769$$0.3398$$1.108$
$10$$0.1$$2.593742$$0.1245$$0.1359$$1.245$
$20$$0.05$$2.653298$$0.0650$$0.0680$$1.300$
$100$$0.01$$2.704814$$0.01347$$0.01359$$1.347$
$1000$$0.001$$2.716924$$0.001358$$0.001359$$1.358$

どの行でも誤差は上界以下である。$n\times$ 誤差は $\dfrac e2=1.3591\ldots$ に近づいていくように見え(数値計算)、上界 $\dfrac e{2n}$ は $n$ が大きいとほとんど等号になる。$k=\dfrac12,1,2$、$x=\dfrac12,1,3$、$n=1,2,5,50,500$ のすべての組でも、(2) の不等式が成り立つことを数値で確かめた。

なぜ誤差は $h$ に比例するのか

1 歩ごとの誤差を見ると、理由が分かる。真の解 $e^{kx}$ は、$x$ が $h$ 進むごとにちょうど $e^{kh}$ 倍になる。Euler 法は $1+kh$ 倍する。1 歩での倍率の違いは
$$ e^{kh}-(1+kh)=\frac{(kh)^2}{2}+\frac{(kh)^3}{6}+\cdots $$
で、$h^2$ に比例する大きさである(関数の近似とテイラー展開)。区間 $[0,x]$ を進むには $n=\dfrac xh$ 歩かかるので、$h^2$ 程度の誤差が $\dfrac xh$ 回積み重なって、全体では $h^2\times\dfrac xh=xh$ 程度になる。1 歩の誤差(局所誤差)が $h^2$ の程度で、最後の誤差(大域誤差)が $h$ の程度になることは、$f$ が十分なめらかなら一般の $y'=f(x,y)$ でも成り立つ(この記事では証明しない)。

1 歩の誤差

$k=1$、$h=0.1$ では、$e^{0.1}-1.1=0.0051709\ldots$ で、$\dfrac{h^2}2=0.005$ に近い。10 歩で $x=1$ に着くので、誤差は大まかに $10\times0.005\times e$ 程度、つまり $0.1$ 程度と見積もられ、ex-eum-check の $0.1245$ と桁が合う。

解の式を使わずに近似する:ロジスティック方程式

Euler 法は、解の式が分からない方程式にも、そのまま使えるところに意味がある。ここでは、解の式が分かっている方程式で試して、近似の様子を確かめる。

ロジスティック方程式

$y'=y(1-y)$、$y(0)=0.1$ の解は $y=\dfrac1{1+9e^{-x}}$ である(指数モデルとロジスティックモデル)。Euler 法の漸化式は
$$ y_{k+1}=y_k+h\,y_k(1-y_k) $$
である。$h=0.5$ では $y_1=0.1+0.5\times0.1\times0.9=0.145$、$y_2=0.145+0.5\times0.145\times0.855=0.2069\ldots$ と進む。$x=2$ での値を刻みを変えて比べると次のようになる(真の値 $0.450853\ldots$)。

$h$$0.5$$0.25$$0.1$$0.05$
$x=2$ での近似値$0.391811$$0.420233$$0.438414$$0.444609$
誤差$0.0590$$0.0306$$0.0124$$0.00624$

ここでも、刻みを半分にすると誤差はほぼ半分になる。

ロジスティック方程式の真の解の S 字の曲線と、刻み 0.5 の Euler 法の点で、点は少し遅れて曲線を追い、どちらも 1 に近づく ロジスティック方程式の真の解の S 字の曲線と、刻み 0.5 の Euler 法の点で、点は少し遅れて曲線を追い、どちらも 1 に近づく
ex-eum-logistic の漸化式は、指数モデルとロジスティックモデル の節「離散版:ロジスティック漸化式」の $b_{n+1}=b_n+rb_n(1-b_n)$ で $r=h$ としたものである。同じ記事の命題「$0< r\le1$ なら単調に $1$ に近づく」により、刻みが $0< h\le1$ なら Euler 法の値も単調に増えて $1$ に近づく。$h=1.5$ では $1$ の上下を交互にとりながら $1$ に近づき、$h=2.5$ では $1$ に近づかず、$0.54$ から $1.22$ くらいの間を行き来し続ける(数値計算)。刻みが大きいと、近似が真の解とは違う動きを始める。次の節の反例は、この現象を最も簡単な方程式で見たものである。

例と反例

thm-eum-main は、$y'=ky$ で $n\to\infty$($h\to0$)とする場合の主張である。実際の計算では $h$ を 1 つ決めて使うので、次のような失敗がありうる。

外す条件反例成り立たなくなること
刻みが十分小さい($y'=ky$、$k<0$ で $\lvert1+kh\rvert<1$)$y'=-10y$、$h=0.25$近似値が真の解のように $0$ に近づく
解が考える区間全体で有限$y'=y^2$、$y(0)=1$刻みを小さくすると $x=1$ での近似値が収束する
解がただ 1 つ$y'=2\sqrt{y}$、$y(0)=0$Euler 法がすべての解をとらえる
反例:刻みが大きすぎて振動する

$y'=-10y$、$y(0)=1$ の解は $y=e^{-10x}$ で、すぐに $0$ に近づく。Euler 法の漸化式は $y_{k+1}=(1-10h)y_k$ なので、$y_k=(1-10h)^k$ である。

  • $h=0.25$ では $1-10h=-1.5$ で、$1,\ -1.5,\ 2.25,\ -3.375,\ 5.0625,\ \ldots$ と符号を変えながら大きくなる。真の解は $x=1$ で $e^{-10}=0.0000454\ldots$ なのに、近似値は $5.0625$ である。
  • $h=0.05$ では $1-10h=0.5$ で、$1,\ 0.5,\ 0.25,\ \ldots$ と $0$ に近づく。
    一般に $y_k=(1+kh)^k$ が $0$ に近づくのは $\lvert1+kh\rvert<1$ のとき、$k<0$ なら $0< h<\dfrac2{\lvert k\rvert}$ のときに限る(二項間漸化式 の数列の極限)。$k=-10$ では $h<0.2$ が必要である。$h=0.15$ では $1-10h=-0.5$ で、符号を変えながら $0$ に近づく。
y′ = −10y の真の解は 0 に近づくが、刻み 0.25 の Euler 法は符号を変えながら大きくなり、刻み 0.05 では 0 に近づく y′ = −10y の真の解は 0 に近づくが、刻み 0.25 の Euler 法は符号を変えながら大きくなり、刻み 0.05 では 0 に近づく
y′ = y² の真の解は x = 1 で発散するが、刻み 0.1 の Euler 法は x = 1 で約 6.1 の有限の値を返し、その先も進んでしまう y′ = y² の真の解は x = 1 で発散するが、刻み 0.1 の Euler 法は x = 1 で約 6.1 の有限の値を返し、その先も進んでしまう
反例:解が途中で発散する

$y'=y^2$、$y(0)=1$ の解は $y=\dfrac1{1-x}$ で、$x\to1-0$ で限りなく大きくなる(変数分離形の微分方程式 の例「反例:解が有限の $x$ で発散する」)。Euler 法の漸化式は $y_{k+1}=y_k+hy_k^2$ で、$h=0.1$ では
$$ y_1=1.1,\quad y_2=1.221,\quad y_3=1.3700\ldots,\quad\ldots,\quad y_{10}=6.1288\ldots $$
となる。$x=1$ で真の解は存在しないのに、Euler 法は $6.13$ という有限の値を返し、そのまま $x=1.1$ で $9.89$、$x=1.2$ で $19.66$ と先へ進んでしまう。刻みを小さくすると $x=1$ での値は $h=0.01$ で $30.39\ldots$、$h=0.001$ で $193.1\ldots$ と大きくなり、収束しない(数値計算)。近似値だけを見ていると、解が発散していることを見落とす。

反例:解が 1 つに決まらない

$y'=2\sqrt y$($y\ge0$)、$y(0)=0$ は、$y=0$ も $y=x^2$ も解である($x\ge0$ で $(x^2)'=2x=2\sqrt{x^2}$)。Euler 法は $y_1=0+h\cdot2\sqrt0=0$ で、以後ずっと $y_k=0$ となり、解 $y=0$ だけをなぞる。刻みをどれだけ小さくしても、解 $y=x^2$ は現れない。解が 1 つに決まらないことを、Euler 法の計算からは知ることができない。同じ現象は 変数分離形の微分方程式 の例「反例:解が 1 つに決まらない」でも見られる。

大学数学で見る:誤差の次数と改良

thm-eum-main で見たように、Euler 法の誤差は $h$ に比例する。誤差が $h^p$ に比例する方法を $p$ 次の方法 といい、Euler 法は 1 次の方法である。台形公式とSimpsonの公式(高校数学) で長方形を台形に替えると誤差が $h^2$ に比例したのと同じ考えで、微分方程式でも精度を上げられる。

改良 Euler 法と Runge–Kutta 法(紹介)

改良 Euler 法(Heun の方法)は、Euler 法で 1 歩先の点を仮に求め、今の点と仮の点での傾きの平均で進む。
$$ y_{k+1}=y_k+\frac h2\Bigl(f(x_k,y_k)+f\bigl(x_{k+1},\,y_k+hf(x_k,y_k)\bigr)\Bigr) $$
$y'=f(x)$ なら、これは台形公式そのものである。$y'=y$ では 1 歩で $1+h+\dfrac{h^2}2$ 倍になり、$h=0.1$ で $x=1$ の値は $2.714080\ldots$(誤差 $0.0042$)、$h=0.05$ で誤差 $0.0011$ と、刻みを半分にすると誤差は約 $\dfrac14$ になる(2 次の方法)。

Runge–Kutta 法と、Euler 法から解の存在を示す考えを開く

1 歩の中で 4 か所の傾きを使う(古典的な)Runge–Kutta 法は、$y'=y$ では 1 歩で $1+h+\dfrac{h^2}2+\dfrac{h^3}6+\dfrac{h^4}{24}$ 倍になり、$e^h$ の Taylor 展開と 4 次の項まで一致する。$h=0.1$ で $x=1$ の値は $2.7182797\ldots$ で、誤差は $2.1\times10^{-6}$ である(4 次の方法)。

Euler 法は近似の計算法であるだけでなく、解の存在の証明にも使われる。$f$ が連続なだけで $y'=f(x,y)$、$y(x_0)=y_0$ の解が(短い区間で)存在すること(Peano の存在定理)は、Euler 法の折れ線の列から収束する部分列を取り出して示せる。その証明は Leb26b の Exercise 11.6.11 に演習として組み立てられている。この記事では証明しない。解がただ 1 つであるための条件は 変数分離形の微分方程式 の注意「Picard–Lindelöf の定理(証明しない)」で紹介されている。

ex-eum-cx-stiff のように、解はすぐに落ち着くのに、Euler 法では刻みをとても小さくしないと振動してしまう方程式を 硬い(stiff)方程式という。硬い方程式には、$y_{k+1}=y_k+hf(x_{k+1},y_{k+1})$ のように行き先の点の傾きを使う方法(後退 Euler 法)が向いている。$y'=-10y$ では $y_{k+1}=\dfrac{y_k}{1+10h}$ となり、どんな $h>0$ でも $0$ に近づく。

さらに先へ

  • $e^x=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac xn\right)^n$ と複利の関係は Leb26a の Exercise 5.4.5 にも注として述べられている。この記事の thm-eum-main は、これを「Euler 法の収束」として読み直し、誤差の上界を加えたものである。
  • 連立の微分方程式(たとえばばねの運動 $x''=-x$ を $x'=v$、$v'=-x$ と書いたもの)にも、Euler 法はそのまま使える。
  • 誤差の考え方全般は 誤差(数値解析)、微分方程式の初期値問題の一般論は 常微分方程式 で扱う。
  • 右辺に「外からの項」がある $y'+p(x)y=q(x)$ の形の方程式を、式で解く方法は次の記事 1階線形微分方程式と積分因子(高校数学) で扱う。Euler 法で近似した値と比べることができる。

関連項目

参考文献

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