A¹ホモトピー論(A¹-homotopy theory)とは、Nisnevich降下とアフィン直線に沿うホモトピー不変性を組み合わせて、スキームのホモトピー論を構成する。A¹局所対象とA¹弱同値、アフィン空間とベクトル束の収縮、ホモトピー純粋性、K理論とベクトル束の代表可能性、不安定理論から安定理論への入口を、成立条件を区別して説明する。
前提知識: スキーム, Grothendieck位相, Nisnevich位相, 単体的集合, ホモトピー圏
A¹ホモトピー論は、代数多様体やスキームを、アフィン直線 $\mathbb A^1$ に沿う変形で調べるホモトピー論である。位相空間の区間 $[0,1]$ の役割を $\mathbb A^1$ が担うが、単に $X\times\mathbb A^1$ と $X$ を同一視するだけではない。代数幾何で局所的な情報を貼り合わせるため、Nisnevich位相に関する降下も同時に組み込む。
本記事では、基礎スキーム $S$ をNoetherかつ有限Krull次元とし、$\mathrm{Sm}/S$ を $S$ 上滑らかな有限型スキーム(滑らかな射、有限型)の圏の小さい骨格とする。対象のモデルには $\mathrm{Sm}/S$ 上の単体的Nisnevich層を用いる。この理論は初めから単体的対象で定式化されるため、別の「単体的集合版A¹ホモトピー論」を立てない。
Nisnevich局所fibrantな単体的層 $F$ が A¹局所であるとは、すべての $X\in\mathrm{Sm}/S$ について、射影 $X\times_S\mathbb A^1_S\to X$ が導く導来写像空間の射
$$
\mathbf R\!\operatorname{Map}(X,F)\longrightarrow
\mathbf R\!\operatorname{Map}(X\times_S\mathbb A^1_S,F)
$$
が弱同値になることをいう。
射 $f:F\to G$ が A¹弱同値であるとは、すべてのA¹局所対象 $Z$ に対して
$$
\mathbf R\!\operatorname{Map}(G,Z)\longrightarrow
\mathbf R\!\operatorname{Map}(F,Z)
$$
が弱同値になることをいう。Nisnevich局所弱同値と射影 $X\times_S\mathbb A^1_S\to X$ を逆にして得る不安定A¹ホモトピー圏を $\mathcal H(S)$ と書く。
Morel–Voevodskyの原論文はホモトピー圏の射集合を用いて局所対象を定義する。上の導来写像空間による記述は、同じ局所化を高次の写像情報まで保って表した現代的な形である。MV99 §2 Definition 3.1, Theorem 3.2。
構成は、$\mathrm{Sm}/S$ 上の単体的前層から出発して、次の順序で読める。
$$
\text{単体的前層}
\quad\xrightarrow{\text{Nisnevich局所化}}\quad
\text{局所ホモトピー論}
\quad\xrightarrow{\mathbb A^1\text{局所化}}\quad
\mathcal H(S).
$$
第1段階は、Nisnevich被覆で与えた局所データがホモトピー整合的に貼り合わさることを要求する。第2段階は、各 $X$ に対する射影 $X\times\mathbb A^1\to X$ を同値にする。A¹不変性とNisnevich降下は別の条件であり、一方の名称で他方まで済ませたことにはならない。
すべての $X\in\mathrm{Sm}/S$ について、射影
$$
p:X\times_S\mathbb A^1_S\longrightarrow X
$$
はA¹弱同値である。
A¹局所対象 $Z$ を任意に取る。A¹局所性の定義により、$p$ が誘導する
$$
\mathbf R\!\operatorname{Map}(X,Z)\longrightarrow
\mathbf R\!\operatorname{Map}(X\times_S\mathbb A^1_S,Z)
$$
は弱同値である。これは $p$ がすべてのA¹局所対象への導来写像空間で弱同値を誘導するということであり、A¹弱同値の定義そのものである。
$X,Y\in\mathrm{Sm}/S$ とし、$f_0,f_1:X\to Y$ を $S$ 上の射とする。$H\circ i_0=f_0$、$H\circ i_1=f_1$ を満たす射 $H:X\times_S\mathbb A^1_S\to Y$(A¹ホモトピー)が存在するならば、$f_0$ と $f_1$ は $\mathcal H(S)$ で等しい。ここで $i_0,i_1:X\to X\times_S\mathbb A^1_S$ は $t=0,1$ における切断である。
$p:X\times_S\mathbb A^1_S\to X$ を射影とすると $p\circ i_0=p\circ i_1=\operatorname{id}_X$ である。前の命題により $p$ はA¹弱同値なので、$\mathcal H(S)$ では同型であり、$i_0=p^{-1}=i_1$ が $\mathcal H(S)$ で成り立つ。従って $f_0=H\circ i_0=H\circ i_1=f_1$ が $\mathcal H(S)$ で成り立つ。なお $\mathcal H(S)$ で同型になる射がA¹弱同値であることは、モデル圏の左Bousfield局所化における弱同値がホモトピー圏で同型になる射と一致することによる。
$n\geq0$ とする。構造射
$$
q:\mathbb A^n_S\longrightarrow S
$$
はA¹弱同値である。従って $\mathbb A^n_S$ は $\mathcal H(S)$ で $S$ と同型である。
零切断 $s:S\to\mathbb A^n_S$ に対して $q\circ s=\operatorname{id}_S$ である。他方、座標を $v=(x_1,\ldots,x_n)$、A¹の座標を $t$ と書けば
$$
H:\mathbb A^n_S\times_S\mathbb A^1_S\longrightarrow\mathbb A^n_S,
\qquad H(v,t)=tv
$$
は $t=1$ で恒等写像、$t=0$ で $s\circ q$ になるA¹ホモトピーである。従って $q$ と $s$ はA¹ホモトピー逆であり、cor-a1-homotopy-theory-homotopic-maps により $\mathcal H(S)$ で $s\circ q=\operatorname{id}$ となる。よって $q$ は $\mathcal H(S)$ で同型、すなわちA¹弱同値である。$n=0$ では $\mathbb A^0_S=S$ なので同じ主張は恒等写像になる。
同じ収縮は任意のベクトル束で大域的に働く。
$E\to X$ を $X\in\mathrm{Sm}/S$ 上のベクトル束とする。全空間から底空間への射影 $E\to X$ はA¹弱同値である。
零切断 $z:X\to E$ は射影 $r:E\to X$ の右逆である。ベクトル束のスカラー乗法から
$$
E\times_S\mathbb A^1_S\longrightarrow E,
\qquad (e,t)\longmapsto te
$$
が大域的に定まり、$\operatorname{id}_E$ と $z\circ r$ を結ぶ。この写像は局所自明化を選んで貼り合わせたものではなく、ベクトル束の構造そのものから定まる。$E$ は $X$ 上滑らかなので $E\in\mathrm{Sm}/S$ であり、cor-a1-homotopy-theory-homotopic-maps により $\mathcal H(S)$ で $z\circ r=\operatorname{id}_E$ となる。よって $r$ はA¹ホモトピー同値であり、$\mathcal H(S)$ で同型、すなわちA¹弱同値である。MV99 §3 Example 2.2。
ここで「ベクトル束の全空間が底空間と同値」という主張と、「ベクトル束の同型類が分類空間への写像で表される」という主張は別である。後者には追加の仮定が必要になる。
Nisnevich位相を使う効果は、閉部分とその開補集合を結ぶ貼り合わせに現れる。Morel–Voevodskyのgluing定理は、この正方形がA¹ホモトピー圏でhomotopy cocartesianになることを述べる。この結果はNisnevich位相の強さと、$S$ 上滑らかなスキームを扱うことを本質的に使う。Zariski位相や全有限型スキームへそのまま置き換えてよいとは限らない。MV99 §3 Theorem 2.21直前および同定理。
例えば $0\hookrightarrow\mathbb A^1$ に適用すると、法束は一次元自明束であり、商
$$
\mathbb A^1/(\mathbb A^1-\{0\})
$$
はTate球面の一つのモデルになる。これは通常の球面を代数幾何へ字面だけで移したものではなく、閉部分の近傍を法束へ置き換える純粋性から生じる。
A¹ホモトピー論は、代数的K理論やベクトル束の分類を写像類として表す。しかし、基礎の正則性、対象のaffine性、rankごとのBass–Quillen条件を省くと主張が変わる。
| 表されるもの | 基礎と対象 | 表示 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 代数的K群 | $S$ はregular、$X$ は $S$ 上smooth | $BGL_\infty\times\mathbb Z$ への基点付きA¹ホモトピー類 | MV99 §4 Theorem 3.13 |
| rank $r$ ベクトル束 | $X$ はsmooth affine、各座標環でrank $r$ のBass–Quillen予想が成立 | 無限Grassmann多様体 $\operatorname{Gr}_r$ へのA¹ホモトピー類 | AHW17 Theorem 5.2.3 |
第2行の条件は、$S$ が完全剰余体をもつDedekind環上ind-smoothなら全rankで満たされる。rank $1$ にはより広い成立範囲があるが、それを一般rankへ拡張しない。非regularな基礎では、同じK理論表現対象がA¹局所でなくなる場合があり、そこで表される理論をregularの場合と同一視できない。MV99 §4 Remark 3.15。
$\mathcal H(S)$ は空間に相当する不安定圏である。基点付き版を $\mathbb P^1$、または同値な適切なTate球面で安定化すると、モチーフ的スペクトルの安定圏 $\mathrm{SH}(S)$ へ進む。$\mathcal H(S)$ のA¹弱同値と $\mathrm{SH}(S)$ の安定同値は同じ概念ではない。Voe98 §5。
安定圏の全構成、六関手形式、各種実現関手は本記事の所有範囲外である。本記事が扱うのは、不安定圏を作る二つの局所化と、そこから純粋性・代表可能性へ進む入口までである。
Grothendieckはスキームに対するホモトピー型や、代数幾何の貼り合わせからホモトピー論を作る方向を繰り返し構想した。A¹ホモトピー論は、その問題圏の一部に対して強力な形式を与える。ただし、Grothendieckが述べたすべての「schematic homotopy」を完成した理論だとは断定しない。étale shape、遠アーベル幾何、モチーフ、導来幾何との比較は、それぞれ別の検証を要する。
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